※この作品はR-18です。

蟲の王   作:ふくふくろう

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能磨学園21

 

 

 放課後。

 僕はかなり驚き、そして少し感動しながらハンドルを握っている。

 

「すごっ。都心方面とは反対側に車を走らせると、こんなに緑があるのか」

「だなあ。まったく東京っぽくなくって笑えるぜ」

「ととさまー。次の沢井駅をすぎたら、クルマ停めてほしいのっ」

「りょーかい。僕の感じでは尾行はなさそうだけど、警戒したい相手が相手だからなあ。徒歩で山に分け入る?」

「かんけーないのっ」

「んだんだ。逆に見てもらって、とーちゃんの実力にビビってくれた方が楽だって」

「とは言ってもねえ」

「お、造り酒屋っぽいのがあるぞ。今日は休みみてーだから、ちょっと駐車場を借りようぜ」

「はいよ」

 

 もし誰かに咎められたら「すいませんカーナビを確認したくてお借りしました」とでも言えばいいかと、駐車場にハンドルを切った。

 

 正面にはそう高くも深くもないけれど、春らしい緑の山々。

 こんなに山の近くに来たのはホムラさんとアヤメさんに出会ったあの依頼以来なので、ちょっと心が浮き立つ。

 

「……依頼以来って、あはは」

「おもしろくねーから。いいから早く使役力を降らせろって、とーちゃん」

「はーい」

 

 エンジンは切らず、窓も開けない。

 けれど僕がイメージすると、窓の外は一瞬で大雪が降り出してすぐの景色に変わった。

 

「あいかわらずキレーなのっ♪」

「そしてあいかわらず、とんでもねーよなあ」

「はいはい。それより、ホントに2人だけでやる気?」

「とーぜんだ。とーちゃんは手ぇ出すんじゃねーぞ」

「任せてなのっ♪」

「りょーかい。じゃ、準備ができたら言って。ゆっくり走りながら、コンビニでも探すから」

「はぁい」

 

 すぐにセイの準備は終わり、僕は青梅街道にクルマを戻す。

 けれどすぐに見つかると思っていたコンビニがなかなかなくて、使役力を分け与えた蟲達よりだいぶ先行する形になってしまった。

 

 少し進めばコンビニがある。

 そう思ってしまった僕は、自分が思っている以上に東京という街に馴染んでしまっているのかもしれない。

 

 蟲は青梅街道の左に伸びる多摩川のだいぶ向こう、右はさっきから見えている山中までを索敵している。

 まだ蟲達との接続が切れてしまうほど離れてはないけれど、しばらくここで車を停めておくしかないだろう。

 

「飲み物を買ってくるよ。なにがいいの?」

「コーラとサイダー!」

「どっちかにしなさい。それ飲んだら、牛乳。それもなくなったらお茶」

「えーっ。ほんじゃ、コーラで」

「セイはイチゴミルク、なかったらコーヒー牛乳がいいのっ!」

「りょーかい」

 

 3人分の夜までの飲み物と、お手伝いを本当に頑張るつもりらしい2人へのご褒美、ドーナツ2個を買って車に戻る。

 ドーナツにはしゃぐ声を聞きながら、スマホを出してこの辺りの地図を表示させた。

 

 新宿や渋谷より、だいぶ見やすい。

 これならなんとかなるかと、車を長時間停車させておけそうな駐車場を探す。

 現在地は、古里駅前という交差点。

 となると……

 

「ととさま、いたのっ」

「見つけるの早くないっ!?」

 

 というか早すぎ。

 

「うっは、でっけえネズミ。食ったら脂がのってそうだな」

「しかも鼠型か。セイ、棗さんに連絡を。僕は車をどうするか考えとく。ちょっと目論見が甘かったかも」

「はぁい」

 

 索敵開始から1時間と経たず最初の妖異を発見。

 もしここから先もこのペースで妖異を見つけられるようなら、この依頼は僕が思っていたよりずっと忙しく、ずっとずっと大変なものだという事になる。

 正直、ナメてた。

 

「ええっと。写真を見るのは、こうだっけ? ……お、出た出た。古里駅、すっごいちっちゃいけど駐車スペースはある」

「ととさま。ネズミの妖異は流行り病の元だから、駆除しといてって棗ママが言ってるのっ」

「わかった。場所は?」

「必要ねえって、とーちゃん」

「なにがさ?」

「場所をとーちゃんが聞く必要なんてねーって事。小物は、オレとセイが飛んでって斬るんだよ」

「マジで?」

 

 そんな楽をしていいの、僕?

 

「いーんだよ。だからドーナツもう1コずつ買っといて。んじゃ、行ってくらあ」

「また心を読んで、って。充分に気をつけるんだよ?」

 

 運転席の窓を少しだけ開ける。

 するとその隙間から、妖精とは違う羽を生やして体を小さくしたフウカが飛び出していく。

 

「ととさま、セイはストロベリーの。フウカはチョコのドーナツがいいのっ♪」

「買ってくるとは言ってないんだけど、まあここまでお手伝いを頑張られるとなあ」

「このお仕事は、ううん。これの次からも、ほんっきで頑張るのっ!」

「そっかそっか。じゃあ、ドーナツを買ってくるね。姿はちゃんと消しとくんだよ?」

「はぁい♪」

 

 やっぱりセイとフウカも、桃さんが心配なんだろうか。

 そして自分になにかできる事があるなら、僕と同じで少しでも手伝いたいんだろうか。

 

 うちの子達はみんな優しいから、きっとそうだ。

 気分がいいから夕方にでもにちょっとだけあげようとドーナツ以外にもお徳用のチョコを持ってレジに出すと、「甘いもの、お好きなんですね」と店員さんに微笑みながら言われてしまう。

 ドーナツを2個も追加するだけじゃなく、でっかい袋に入ったチョコも買ってるんだもんなあ。

 こんな昼間っから、ノーネクタイだけど黒いスーツを着た若い男が。

 

 笑顔で僕の手を握るようにして釣銭を渡し、店を出る背中にありがとうございましたと言ってくれた店員さんはなかなかの美人。

 パートさんというのか歳は40をいくつか過ぎているだろうけど、体形は崩れていなかった。

 しかも最後のオナニーが昨日の夜で、最後にしたセックスはなんと5年も前。

 淫乱度は20と低いけれど、声をかけてみればナンパ成功となる確率は高いんじゃないだろうか。

 

 そしたらちょっと強引にしながら、「いけないわ」とか言わせて。

 でもココはそう言ってませんよ? って熟女らしい豊かな丘を撫で上げちゃったりして。

 くーっ、いいねえ。

 

「……ダメダメ。2人があんなに頑張ってお手伝いしてるんだから」

 

 そんな独り言を漏らしながら運転席に戻る。

 

「ととさま」

「ん?」

「次が見つかったから、セイも行ってくるのっ♪」

「……また?」

「うんっ。今度は多摩川の向こうの山なのっ」

「多いなあ。じゃあ、車は駅前に移動させとくよ。フウカも聞いてるよね?」

(おうっ。こっちはもう片付くし、すぐに帰っから大丈夫だ)

「はい。じゃあ、セイも気をつけてね」

「はぁい♪」

 

 短時間でも1人になるなんてどれくらいぶりだろうと考えながら車を動かし、5台も入ったらいっぱいになる駅の駐車スペースでスマホを持ち上げた。

 

 苦労して電話をしたのは、初めてかけるさんのスマホ。

 

「あ、もしもし。僕、ヒロキですけど」

 

 ええ。珍しいわね。

 

「今って平気ですか?」

 

 大丈夫よ。

 奥多摩の妖異の多さに驚いたってところかしら?

 

「そうなんです。これ、瘴気の元を絶たなきゃダメなレベルですよ。だから、それも僕がと思って」

 

 わかってるわ。

 でも、それはできないの。

 

「なぜです?」

 

 そういう約束なのよ。

 契約、と言った方がいいかしらね。

 

「意味がわかんないんですけど」

 

 まあ、ヒロキくんが気づいたら話すつもりだったからいいわ。

 でもこれはもし外に漏らしたら、本社が監察部に命じて刺客を送り込むほどの機密事項よ。

 それでも聞きたい?

 

「……え、ええ。じゃないとこっちも動きを決められませんし、今も単独行動させてるセイとフウカが心配ですから」

 

 でしょうね。

 けど、その心配はいらないわ。

 

「どうしてです?」

 

 奥多摩の少し手前に、とある鬼が住んでるの。

 この春からね。

 

「はあっ!?」

 

 そしてその鬼の名は、隠形鬼。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それって、まさか……」

 

 ええ。

 ヒロキくんが優秀な生徒で助かるわ。

 千方の四鬼、その一鬼である隠形鬼よ。

 

「あんな昔に術者が死んでも、まだ。……と、討伐とかはっ!?」

 

 飛車角にヒロキくんまで揃えば可能かもしれないけれど、できないのよ。

 

「なぜです?」

 

 前回、6つ同時に開いた門。

 そのうちの1つを30年以上、たった4鬼で守り抜いたのが千方の四鬼なのよ。

 

「まさか、それを頼んだから本社は主のいない鬼を自由にさせてるんですか?」

 

 そうなるわね。

 

「うっはー……」

 

 だから向こうが約束を守っている限り、こちらからは手を出せない。

 それどころかこうやって、あまりにも強大な四鬼から漏れ出す瘴気で妖異化した獣なんかを定期的に討伐しているの。

 

「なにしてくれてんの、大昔の人達……」

 

 まああのレベルの鬼の瘴気になると本人達がそうしようと思わなければ人間には害がないし、それで日本、延いては世界が救われたんだから仕方ないのよ。

 だからヒロキくんは安心して、セイとフウカを今のうちに鍛えておきなさい。

 今の奥多摩じゃ、ヒロキくん本人が必要になるほどの妖異はいないでしょうし。

 

「はぁ。わかりましたけど、すんごい話ですねえ」

 

 同感よ。

 まあ、ヒロキくんならいつか出会えるんじゃないかしら。

 伝説の四鬼にも。

 

「怖いから会いたくないです。……はー、驚いた。忙しいのにすみません。時間を取らせて」

 

 いいのよ。

 では、またね。

 

「はい。失礼します」

 

 つい先日、というか昨日の夜に監察部の話を聞いている時、真っ先に名前が出てきた藤原千方。

 その鬼使いを伝説たらしめた千方の四鬼が、こんな近くに、それも東京都内に引っ越してきたなんて。

 

「え、鬼も引っ越しするの?」

 

 なんのために?

 

「てかなに、東京に住みたいって隠形鬼が言ったの? んで妖異が出るから間引きよろしくー、って? そもそもなんで奥州とかじゃなく東京? ミーハーなの、隠形鬼って?」

 

 訳がわからない。

 

「……はぁ。考えても仕方ないか、千方だけに」

「0点だ、とーちゃん」

「おかえり、フウカ」

「景気の悪い顔してんなあ」

「そうもなるよ。しばらく、タバコが手放せそうにない」

「ふうん」

(ととさまー)

(はいはい。大丈夫、セイ?)

(妖異はもう余裕で倒したのっ。でもなんかうじゃうじゃいるから、クルマを夜まで停めとける場所に移動してほしいのっ)

(それがいいな。そしたらオレとセイで狩りまくっからさ)

(りょーかい。じゃあ移動しとくけど、くれぐれもムチャはしない事。そしてヤバそうならすぐ僕を呼ぶ、いいね?)

(はいよー)

(はぁい)

 

 

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