「あれっ。なんで棗かーちゃんいんのっ?」
「わぁい、棗ママなの~っ♪」
「おはようございます、桃さん。それに棗さん」
青梅街道をジリジリと進みながら妖異を狩る依頼を一通り終え、ひさしぶりとなる事務所への出勤。
そしたらそこには桃さんだけじゃなく、棗さんまで。
なんでだろ?
「例の依頼、お疲れさま。しっかりゴールデンウイークに間に合わせてくれたわね、ヒロキくん」
「あ、はい。そういえば、明日っから連休でしたね」
「ええ。だから、ちょうどいいかと思って」
「はあ」
なんだなんだ。
ちょっと怖いんですけど。
「さあ桃。もう、覚悟を決めなさい」
「……ん。でも」
桃さんはいつもの無表情。
けれど迷っているとか、困っているとか、ハッキリは断言できないけれど、そういった色が表情から窺える。
「でもじゃないでしょ」
「……ヒロキ」
「はい。なんでしょう」
これは、例のあれかな。
だとしたら答えは決まってる。
桃さんは僕の、保護者で後見人で雇い主で先生で家族。
その桃さんが困っているならいくらでも手を貸すし、セイとフウカはそのために昨日までほぼ毎日、あんなに頑張って妖異を狩っていた。
どんな困り事だろうと、僕達が力になれるならなんだってする。
「……その、頼みがある」
「なんでも言ってください。絶対に断らないし、力を尽くしますから」
言いながら頷く。
「ん。じゃあ、孕ませて」
「…………は?」
なにそれ?
「それから、依頼を受けてほしい」
「えっと。依頼はもちろんいいんですけど、孕ませてってのは?」
「必須だと判断した。道具のように思ってると言われても仕方ない状況だけど、そうじゃない。子供はちゃんと愛せる。だからお願い」
真剣な眼差し。
桃さんのこんな表情は、初めて見た。
だから冗談を言ってるんじゃないのはわかるけど、どうして話が孕ませるとかになるのかがわからない。
「いやそうじゃなくって。説明を」
「ん。じゃあ、説明する」
「お願いします」
「繋がりがあれば今より向こうが見える、はず。だから使役蟲を産みたいけど、それだけじゃない。以上」
「……すいません。まったく意味がわかりません」
「でしょうね。だから私が説明するわ。こっちに来てこのモニターを見なさい、ヒロキくん」
「はあ。じゃあ飲み物だけでも。桃さんはポカリでいいですよね。棗さんはどうします?」
「缶コーヒーでいいわ」
「オレはコーラ!」
「セイはオレンジジュースの気分なのっ♪」
「はいはい。いただきますして、ちゃんとソファーで飲んでね」
出勤するとまず桃さんとセイとフウカに飲み物を出して、それから掃除をするのが日課になっている。
今日は掃除をしてる場合じゃなさそうなのでセイとフウカにジュースを渡し、ポカリと缶コーヒー2本を持って桃さんのデスクの前に立った。
「どうぞ、桃さん。棗さんも」
「ん」
「ありがとう。それじゃ、この地図を見て」
「……四国、ですね」
「ええ。次は映像。桃、まずはリコちゃんを」
「ん」
モニターの画面が切り替わる。
大写しになったのは、桃さんによく似た女の子。
僕と同じ年頃で、左目を黒い眼帯で覆い隠している。
「美人な子ですね」
「ん。自慢の妹」
「やっぱり桃さんの妹さんですか。似てますもんね」
「ん。次は2番目の兄」
「普通に美形だ。やっぱり、みなさん能力者なんですか?」
「ん。この兄と妹が、戦ってる」
「相手は妖異ですか?」
「違う。『人喰い』のクズと」
それは……
能力者はフウカがよく遊んでいるゲームのように1刻みとかでレベルアップはしないけれど、何年も何十年もかけてたくさんの妖異を狩ると、クラスチェンジのようなものをする。
僕達が日常的に使う言葉で言うと、『成駒』ってやつだ。
そしてその成駒は、妖異を狩らなくとも達成可能。
妖異の代わりに能力者を狩ればいい。
まっとうな能力者達はそんな手段で成駒しようとする者を、人喰いと呼んで忌み嫌う。
「完全に僕の出番ですね。任せてください」
『悪堕ち』、人喰いと似て非なる、すこぶる凶悪な犯罪に走った能力者を僕が初めて殺したのは12の冬だった。
あれからもほぼ1年ごとに人は斬っている。
相手が人喰いなら、僕が始末するのが一番いいだろう。
「けれど、話がちょっと複雑なのよ」
「というと?」
棗さんが話し出すと、桃さんがギリィッという音が出たほど強く歯を食いしばる。
あの桃さんがここまで怒るなんてと思ったけれど、棗さんの話が終わる前にそれを納得できた。
いくらなんでも、あまりに酷い。
そうとしか言えない内容だったから。
「お恥ずかしい。でも、この通りだから手を貸してほしい。お願いします、ヒロキ」
桃さんが椅子を回転させ、僕に深々と頭を下げる。
「他人行儀な。もちろん行かせていただきます」
「ん。ありがとう」
「なら、私と桃の立てた計画を説明するわね」
「お願いします」
桃さんのお兄さんと妹さん。
その2人が戦っている相手は、同じく桃さんのお兄さんである長兄。
しかもその3人は3人だけで戦っているのではなく、四国八十八家の1つである一族が2つの勢力に分かれて戦っているそうだ。
現当主であるお父さんは、事態を静観。
桃さんの読みによるとこの先も介入しては来ないらしい。
「それは、やっぱり……」
「ん。どちらが生き残っても、主要メンバーは成駒してる可能性が高いから。だからこの際、クソオヤジも始末して次兄が家を継ぐのがいい。妹、リコも家を継ぐ気はないから」
「桃の、これからあなたの子供を産む女の親と兄を斬れる? ヒロキくん」
「たとえ桃さんに嫌われても、それが必要なら迷わず。でも、どうして桃さんが使役蟲を産む必要があるんですか?」
「だって、母親は子供の視界を共有できるじゃないの」
「…………はい?」
全力で首を動かしてソファーの方を向く。
「にひ。やあっと気づいたか、とーちゃん」
「さすがに遅すぎなのっ♪」
「なんで僕にそれを教えないかなあ……」
2人が生まれて約6年、その視界が見れるのは僕だけだと思い込んでたんですけど。
「それにセイとフウカ、うちのマモリもそうだけれど、使役蟲は母親の能力や特性を引き継ぐようにして生まれるでしょう?」
「ですね」
「だから桃の子供は、情報系の能力を持ってる可能性が高いわ。事が済んだら私の能力でウソを見抜いて人喰いを処断できるけれど、戦の最中にそれをするのはムリでしょう」
たしかに。
だから桃さんが産む子供の能力に期待して、上手くすれば戦いながら人喰いの被害を少しでも減らそうって感じか。
「人喰いと強姦魔は殺したい。男女を問わず。それは、妹がやる」
「するなら僕が斬りますって。あんなかわいい子が人殺しなんて、絶対にしない方がいいです」
「とは言っても、ヒロキくんは明日から始まるゴールデンウイークが終わったら東京に帰ってもらうわ。だから急いで桃に子供を産ませて、その能力を確認しておかないと。それからヒロキくんに四国に飛んでもらって、まずは相手方の誰を殺していいのかを精査ね」
「なるほど」
小柄で若々しく、知らない人なら中学生と間違えそうな桃さん。
いつも分厚くて大きなメガネをかけていて、いつ見てもせっかくの絹糸みたいな黒髪はボサボサだし、着替えはするのに同じ色とデザインのジャージしか着ないから目立たないけど、桃さんの顔はめっちゃくちゃかわいらしい。
こっちに来てから若い子も悪くないと思い始めた僕は、最近じゃこの事務所で時間を潰しながら、桃さんとセックスするならこうするのになあ、なんて妄想をよくしていた。
いくら能力者でも女子中学生に手を出すのは気が引けるけど、桃さんなら問題ないし。
「うふふ。すっかりその気になったみたいね」
「本音を言うと、桃さんとはずうっとしたかったんで」
「ですってよ、桃。教えた通りになさい」
これは。
桃さんは棗さんが調教したとか言ってたから、そういう感じでおねだりさせられるんだろうか。
わくわく。
「……5日」
「はい?」
「だから5日。このパンツ穿きっぱなし」
「うおおっ!?」
そんな事があるの!?
「うふふ。ヒロキくんなら絶対に喜ぶと思ってそうさせたのよ」
「棗さんは女神様です!」
「でしょう。だからほら、まずはそのニオイを嗅ぎまくりなさい。その様子は最後まで、このパソコンと繋いだ桃の能力で録画するから」
「おおっ。一粒で何度も美味しい、ってやつですね」
「そうなるわね。ほら、立ちなさい。桃」
「はぁ。せめて最初くらいは普通がよかった」
桃さんが立ち上がりながら言う。
けれどその頬は赤く、メガネの向こうの瞳は潤んでいて、興奮度は80と行為前にしてはかなりの数値。
それにフェロモンの濃さも半端じゃない。
「ウソおっしゃい。桃の妄想通りの初体験じゃない」
「どういう意味です?」
「この子ったら9歳のヒロキくんを見て、15歳になるまで待ってから美味しくいただくって宣言したのよ。男子高校生になったヒロキくんとするのが一番興奮するから、楽しみは取っておくって。だから桃は先に東京に来てたの」
「そういえばあの頃、僕が修行を始めた頃は桃さんって棗さんと一緒に本社で働いてたんでしたね」
「ええ。それで、どうするの? 急がないと淫乱女が初セックス期待して垂れ流すマン汁で、せっかくの5日穿きショーツのニオイが台無しになるわよ?」
「すぐにお脱がせしますっ」
僕達のように前衛も張れる、風邪すら引かない能力者ならまずあり得ない、5日も穿きっぱなしのパンティー。
その汚れとニオイを淫液で上書きするなんて、神様が許しても僕が許さない。
「ムードなんて気にしなくっていいわよ。この子はヒロキくんに犯されたくって、今まで体を許してなかったんだから」
「マジでっ!?」
「ええ。そうよね、桃?」
そっぽを向いている桃さんが小さく、でもたしかに首を縦に振る。
「じゃあそういう感じで!」
「うふふ。楽しみねえ」
「かーちゃん達も、飲みながら見てんだろうなあ」
「ティファニーねえさまのために、録画とライブを同時にするのっ!」
「それはいいわね。桃、和歌山に映像をライブで繋ぎなさい。このモニターにも、桃がヒロキくんに犯されるところをちゃんと表示するのよ?」
「はぁ。それはいいけど、きゃあっ!」