※この作品はR-18です。

蟲の王   作:ふくふくろう

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ゴールデンウイーク8

 

 

 

「絶対に許さない。必ず、この手で殺す……」

 

 そんな小さな声は、僕が滞在中に寝室として使う離れの縁側から聞こえた。

 夜明けにはまだ早い。

 

 月の光を生まれたままの姿で受けているリコは北を、実家のある方角を睨んでいる。

 その小柄ではあるけれど見事な裸身と決意の表情を映す、この離れを囲むように配置した蟲の視界を瞼から消して寝返りを打つ。

 

 初体験で中出しされて中イキお漏らしイキまでしても、浪姫ちゃんの成長を心から喜んでも、お姉さんとバカ話をしても、お詫びの変態性癖フルコースセックスをしていても、心のどこかには実の兄をこの手で殺すと決めたほどの怒りがリコの心の奥底で脈動していたんだろう。

 

(浪姫ちゃんもいるし、好きにさせたげるか)

(ならオレかセイがお守りをするぜ、とーちゃん)

(雄二さんとリコ。2人にどっちかが常に付いて歩くのか。お願いしてもいいかな)

(任せてなのっ♪)

(だな)

(ありがと)

 

 そんな通話魔法でのやり取りが済んでしばらくして、リコは和室に戻ってきた。

 見事な足音の消し方、それに重心のかけ方であまり布団を揺らさず、僕の隣にまた横になる。

 その小さな裸身を優しく抱き締めた。

 

「主様、起きていたんですか」

「夜明けまで1時間。あと30分くらい、こうしてようか」

「……ありがとうございます」

「僕のセリフだね」

 

 それから1時間後、僕は明け始めた空の下で借り物の400㏄のオフロード・バイクに跨った。

 ヘルメットには桃さんが改造して送ってきたという無線機が仕込まれていて、常時この本陣とも呼べる家にいる雄二さんと話せるらしい。

 

「六道、出ます」

「どうかお気をつけて、六道様」

「もちろんですよ。じゃあ、あとは予定通りに」

「はい」

 

 エンジンをかけ、ギアをローに。

 慣れない、しかも借り物のバイクなので、慎重にクラッチを繋いで走り出す。

 

 オフロードバイクは初めて乗ったけど、この感じなら大丈夫。

 集落を出て、林道を北に向かう。

 

 まず叩くのは数人の人喰いがいつも交代で道を見張っているという、次の集落の入り口にある火の見櫓。

 田舎の方だとよく消防団の車庫なんかの敷地に立っている、鉄製の見張り台のような、塔のようなあれだ。

 

 なのでその1キロ手前まで進み、バイクを停めた。

 

 視界に表示されているウィンドウでは1人の女が櫓の上に、2人が下の軽トラの荷台に寄りかかっている姿が見えている。

 もちろん、僕の使役力を分け与えられた蟲の視界だ。

 

 その様子を見ながら道のすぐ脇だというのに山深い森に分け入り、木々を蹴って火の見櫓を目指す。

 

「うわっ」

「どうしました、六道様?」

「あ、いえ。フウカの視界が表示されたウィンドウに、ちょっと凄い光景が映ってたんで」

「とおっしゃいますと?」

「浪姫ちゃんが敵の能力者に巻きついて動きを封じて、その頭を丸齧り。それを見て、よく噛んで食うんだぞって言ってフウカが笑ってます。雄二さんに付いてる集落を出てすぐの道を張ってた人喰いですね」

「……私のような小心者なら卒倒する光景です」

「またまた。それにしても、リコはいい腕をしてますねえ。金剛杵の仕込み短剣で1人の首を斬り飛ばしましたよ」

「六道様の世話係をするためにと、武芸にも身を入れていたようですから」

 

 刃渡りの短い、それも反りのないアジア風の両刃の剣でそれをするんだから、剣術も結構な腕前だ。

 これなら間違いなく学年1位の朱音ちゃんより強い。

 

 リコと浪姫ちゃんとフウカ。

 それぞれが1人ずつ殺って、見張り役の掃除は完了。

 リコは素早く敵の見張りが乗って来ていた乗用車の運転席に乗り込むと見事なハンドル捌きで車を道の端に寄せ、自らが率いる部隊が乗っている大型ワゴン車に戻る。

 

「こんな腕をしてるのに、なんで世話係なんかになりたいんだか。お、こちらも目標視認。掃除を開始します」

「ご武運を」

 

 フウカの視界を見ながら、雄二さんと話しながらも足は動かしている。

 そのおかげで見えた地上の2人に向かって加速。

 

 瞬時に距離が詰まって女達のやけに濃いメイクまで見えているけれど、2人は僕に気づく様子はない。

 

 これ幸いと、音もなく足元の影から飛び出した鬼斬りの太刀の柄を握って鯉口を切り、茂みから飛び出した勢いで2つの首を、一太刀で飛ばす。

 するとそのせいで噴き上がった鮮血は地に落ちて小雨のような音を立てる事もなく、空中で消えた。それだけでなく、2つの首と死体も。

 

(いただきなのっ♪)

 

 セイの声。

 本陣である豪農の家の一室で雄二さんと一緒にいるセイが、1秒とかからず影の中に移動して鬼斬りを僕に渡し、影の中から魔法で死体や血を収納。

 

 こんな離れ業が可能だから僕達は八十八家の目を気にしたり、本社の監察部が東京に来ているとなると僕達絡みかと疑ってしまう。

 

(ありがとね、セイ。八十八家の目が気になるけど、偶然こんなのを見かけた子供なんかのトラウマになっても困るからさ)

(わかってるのっ♪ さっきフウカの影から出て、あっちのエサも取ってあるのっ♪)

(エサって……)

 

 僕、セイとフウカ、その母親であるサラさんとアヤカさん。

 セイとフウカは、その5人の影が入り口になっている世界にいつでも移動できる。

 だから自分の影さえあれば、いつでも父親と母親と姉妹の影に移動が可能だ。

 

 けれどその反則級の移動能力は、金将級は確実だというリコの子供、浪姫ちゃんでも持っていないらしい。

 ただ元から住んでたリコの左目と、僕の影の世界に入れるだけ。

 

(それだけでもスゴイのっ♪)

(だねえ)

 

 火の見櫓のハシゴを上がり切って、咥えタバコで左右の道を見張っている女の人の後ろに立つ。

 その僕好みの大きなお尻に目をやらないようにして、背後から心臓をめがけて鬼斬りを突き立てた。

 

「ううっ……」

 

 鬼斬りを抜くと同時にそんな小さな声が上がって、女は即死。

 すぐにまた死体が消える。

 

「こちら六道。直近の見張りを排除。この集落はどうします?」

 

 ヘルメットの無線で雄二さんに聞く。

 火の見櫓の上にライダースジャケットと黒いヘルメット姿の男が立っていると目立って仕方ないだろうけど、死体を収納してくれたセイが、ついでのように僕の姿を魔法で消したから平気だ。

 

「お疲れ様です。その集落は非道な行いをしておりませんので、すぐに電話をして状況を伝えます。その上でどちらに付くかを問えば、答えはわかり切っておりましょう」

「さすが」

「いえいえ。ですが、次の集落は……」

 

 昨日の昼前から見張っていた集落。

 そこは雄二さんとリコを担ぐ勢力との戦いのための前線基地のような場所で、そこには10人ほどの人喰いが滞在していた。

 

 だからこそ、状況は悲惨。

 

 人喰いに脅されて、その非道を止められない人間はまだいい。

 でも止めるどころか積極的に手を貸したり、おこぼれを美味しくいただいているような連中は、後で棗さんがウソを見抜いて僕が斬る事に決まっている。

 

「任せてくれていいですよ。人喰いだけじゃなく、僕達が見張り出してから人喰いと一緒になって異性を犯してたような連中も僕が始末します。見てる限りなにもしてない連中は、カイが入ったスマホかパソコンで棗さんに映像を送って、『人喰いと一緒に非道な事はしてません』とでも宣言させればいいかと。虚偽反応が出たヤツは、僕が斬りますから」

「……ありがたい話ですが、リコが自分で斬ると言い張る未来が見えるようで」

 

 なるほど。

 リコに首切り役人のような真似をさせるのは嫌だけど、本人がそうしたいと言ったらその方がいいかもしれない。

 さっきの見事な手際を見るに今日までの小競り合いで何人か斬っているようだし、たとえ相手がザコでも、成駒の足しにはなるだろう。

 

「雄二さんとリコが後悔しないなら、その方がいいかもですね」

「やはり、そう思われますか」

「ええ。成駒は早いうちから狙うべきだし、そのためにはそういうのも必要でしょう」

 

 人を殺す覚悟を決めているのなら、とまでは言わず火の見櫓から跳び下りる。

 まずはバイクを取りに戻らないと。

 

「……では、本人が望めばそのように」

「了解です。じゃあ僕はバイクまで走って、次の集落を目指します」

「はい。お手数をおかけしますが、徐々に味方を増やしながら戦線を進めたいところですので。それを終えたら、今日はお戻りください。リコの隊も婆様の隊も、それぞれの集落に攻めかかろうとしています」

 

 きっと雄二さんは現当主である実の父親に隠居を迫るその時、ほぼすべての一族が自分に付いているという状況に持って行きたいんだろう。

 たしかにその方が当主も隠居を決意しやすいだろうし。

 

「了解。じゃあ、次が終わったら連絡しますね」

「くれぐれもお気をつけて」

 

 ええと返して走る速度を上げ、バイクに取り付いてエンジンをかける。

 素直に動き出してくれたバイクを1時間ほど走らせると、目的地である集落の、そこに繋がる道でバイクを止められた。

 ヘルメットを取って、バイクのハンドルに引っかけておく。

 

「おいおい、なんで道を塞いで突っ立ってんだよ? あんたら、警察には見えねえけど?」

 

 道を塞ぐように立っている男女は6人。

 それぞれの体から心気が漏れ出しているので、全員オーソドックスな能力者のはず。

 

 いかにもバイク好きな若者を演じて僕がそう声をかけると、その6人はニヤニヤ笑って目配せを始めた。

 

「あー、妙なセンスの兄ちゃん。ここは私有地でね。公道じゃないんだ」

「そうそう。ついでに言うと、兄さんの立ってるそこも。うちの私道なんだよねえ」

「へえ。だから?」

「ちょーっと通行料でも払ってもらおうか」

 

 山賊か!

 

「まったく、メットなんか取るから。ま、このメンツならブスもババアもいないから、普通に愉しんでってくれよ。美少年さん」

「どういう意味だよ、イケメンの兄さん?」

 

 苦笑を隠さない6人の中で唯一の男。

 その男が次の言葉を口にするより先に女達が我先にとパンティーを脱ぐ。

 スカートではなくジーンズの女2人は、そのズボンまで脱いで早朝の太陽に尻を晒している。

 

「おいおい。時代錯誤の山賊ごっこの次は、集団痴女ごっこかよ?」

「ごっこじゃないんだよねえ。俺は手伝わないから、頑張って満足させるといい」

「へえ。それはそれは。だがよ」

「ん?」

 

 抱きに来たんじゃねえ、斬りに来たんだ。

 

 そう口に出す前に、影から鬼斬りが飛び出す。

 ご親切にも鯉口を切ってある状態で。

 柄を掴んで抜きながら前へ。

 

 正面の女の体が両断されたのを見て5人が動きを止めてくれたので、2人、3人と斬って棄てる。

 

 そこまでしてようやく、僕の顔面に向かって【炎弾】が放たれた。

 鬼斬りを上げる。

 惚れ惚れするような光を纏う剣身に炎の塊が着弾。

 それだけで【炎弾】は掻き消され、少しだけ焦げ臭いニオイが僕の鼻に届く。

 

「甘い術だねえ、イケメンの兄さん?」

「バ、バカな。俺の【炎弾】を斬った、だと……」

「何者だ、テメエッ!?」

「正義の味方、だねえ」

 

 女の子がチンピラ言葉を吐きながら、泡立ったツバまで飛ばしますか。

 いくら美人でも、こんな人とセックスをしたいとは思わない。

 まあここで能力者がどうとか八十八家がどうとか言わないだけ、あの炭焼き小屋で斬った連中よりマシなのかな。

 

 

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