夢を見る。
ああ、またあの夢だ。
不思議な夢。
金髪の女の人。
姿形は、私によく似ている。
その人は、とっても大切な目的があって、ずっとずっと、戦っている。
でも、悲しくなんかない。
誇りだから。
ブリテンは、私の……
目を覚ますと、ギルガメッシュの腕の中にいた。
時計を確認して一瞬ひやりとしたが、そうだ、今日は日曜日だった。
ベッドから這い出ようとして何も身に付けていないことに気付き、あわてて布団に戻る。
「……む、う」
布団を引っ張られて、彼も目を覚ましたようだ。
まずい。こんな格好なのに。
ギルは寝起きが悪い。完全に覚醒しきる前に、この場から退散したい。
裸のまま、私はお風呂場まで走った。
シャワーを浴びながら何気なく正面の鏡に目をやると、見たくもない自分の姿が映し出される。それは罪の証だ。
赤い小さな痣が、胸元と、脇腹に。
探せばもしかしたら、背中や見えづらい部分にもあるのかもしれない。……探す気は起きないけど。
ギルガメッシュはいつも通りだった。
私の温かい日常はそのまま。
ただ、そこに付け足されたものが、不自然に影を落としていた。
彼が私に触れる時間。
それだけが、新しく付与された、異物だった。
髪を拭きながらリビングに行くと、彼もすでに起きていて、コーヒーを注いでくれた。
「アルトリア、おはよう」
「おはようございます……服を着たらどうですか」
ギルは、下は履いているが、上は何も着ていない。寒い時期以外は家中をこんな格好でうろうろしているが、正直どうかと思う。
「……お前こそ、休日だというのにそんなにしっかり着替えなくても良いのではないか?」
「いいえ、休日だからといってだらだらしていては駄目です」
「そうか……立派だな」
適当に相槌を打つと、彼はコーヒーを啜った。
朝ごはんの支度をしないと。ギルは朝食を食べないから、私の分だけで良い。
「休日か。この前行けなかった水族館に連れて行ってやろうか」
雑誌に目を落としてコーヒーを飲みながら、彼は何食わぬ様子で呟いた。
「行きます! 私、すぐに用意します! 十分で支度します!」
「そうか。我は十分では無理だ」
昨日しなかったから今日は掃除をしようと思っていたけど、そんなのはいつでも良い。
二階に駆け上がって、バッグやカメラを引っ張り出した。
日曜日の水族館は、とても賑わっていた。
家族連れや恋人同士が、幻想的な水中世界や、面白いカタチの生き物を楽しんでいる。かくいう私たちも、その中の一組だ。
「しかし、わざわざ着替えてくるとはな」
「水族館に行くのなら、それ相応の格好がありますから」
青いワンピースにカーディガンを羽織って、これならば水族館にぴったりだ。
「我と出掛けるために着飾って来るなど、愛いではないか」
家を出るときからなぜか機嫌が良かったけど、私の服装をそういう風に解釈してたからなんだろうか。別にギルのために着替えたわけじゃないのに。
「ふむ。お前は普段あまり女らしい装いをせぬからな。雰囲気が異なって良い。中々似合っているぞ」
ギルは目を細めて、私の服装を褒めた。
「そうですか」
「髪を下ろしているのも、愛いな。お前の金髪は美しい」
なんだろう。顔が熱い。
頬が赤くなっているかもしれない。館内の証明が暗くて助かった。
……もしかしたら、悪くないのかもしれない。
私と彼が、恋人同士みたいな関係になっても。
一通り見回って、イルカやアシカのショーを観覧し終わると、出口付近には様々なおみやげ品が売られていた。
クッキーや文房具も可愛いけれど、目を引くのは何といっても、大きなぬいぐるみ達だ。
ぬいぐるみなどを欲しがるような年齢ではない。そう思っていたけれど、うずたかく積まれたイルカやカメの可愛らしさに、胸が高鳴る。
「欲しいものがあるのならば買ってやるぞ」
ギルは笑ってそう言った。
なんでも買い与えてしまうのは子供の教育には良くないと思うけれど、と、子供の立場でいらぬ心配をしてしまう。今は置き場所や必要性を考えるようになったからそうはならないけれど、もっと幼い頃は、私の回りにはおもちゃが溢れていた。
ぬいぐるみも……。
愛くるしいその姿が思い出される。でも……何だかそれは、自分の中にしっくり来ない、妙な記憶だった。
「私は、ライオンのぬいぐるみを持っていましたっけ?」
「何だ急に? たくさんあったからな、その様なものもあったかもしれん」
そうだ……私はライオンのぬいぐるみを大切にしていて……?
いや、そんなものはなかった?
「獅子のぬいぐるみが良いのなら、ここにはないな。ありそうな所へ行ってみるか」
「はい……」
私たちはおもちゃ屋さんへと場所を移すことにした。
「アルトリア……? 体調が優れぬのか?」
そうかもしれない。だって、何だか今日の私はおかしい。
エレベーターの中に設置された鏡を見て、そして、固まった。
この小さな女の子は誰だろう。
「トリア?」
思わず自分の顔を、手で触って確かめた。
「ギル……。私はこんな顔をしていましたか?」
彼が心配そうな顔で覗き込む。
違和感。
彼も、こんな顔をするのか。
彼?
彼とは?
わからない。誰だ。私は。そして彼は。
ぐわんと響くように目眩がして、私はその場に倒れ込んだ。
「おい!」
吸い込まれるように夢の中に落ちて行く。
見たくないのに。
私はあの人は嫌いだ。
あの、女の人は……見たくない。
荒涼とした丘の上、折り重なった兵士たちの変わり果てた姿。
膝を付いて、私は涙を流した。
私が追い求める聖杯。
何度やり直しても辿り着くことが出来ない。
あれさえ手に入れば、ブリテンを滅びの運命から救うことができるのに。
この光景をもう、見なくて済むのに。
今度こそ聖杯を手にするのだ。
並み居る英雄達に勝利し、掴み取る。
その前に立ちはだかる強敵。
英雄王。
鋭い眼光が、こちらを射貫く。
その顔は。
「―ルトリア、アルトリア!」
ひどく、汗をかいていた。
あれは。
「気が付いたか。ひどくうなされていたが……大丈夫か?」
こちらを心配そうに覗き込む、その面差しは。
「……えいゆうおう」
彼は目を見開いた。私は……何と言ったのだろう。
「セイバー……?」
がつんと後頭部を殴られたような衝撃だった。
セイバー。そうだ。私は。
脅威から距離を取ろうと、後ろに飛び退く。
そのまま壁に当たってバランスを崩し、ベッドから転げ落ちた。
この身体は上手く動かない。認識している自分の身体よりも一回りは小さい。
そして、弱い。
「アルトリア」
「寄るな!」
叫ぶ私の手に、剣はなかった。
当たり前だ。
私は、私は子供で、人よりも少し運動神経は良いけれど普通の子供で、生まれたときから日本で暮らしている。そしてこの、目の前の男は、
「つ……うっ」
記憶を手繰ろうとすると、全身がそれに反発した。
「……ギル、頭が、痛くて……っ」
白いツルツルとした床。
ここは、病院のようだ。私はあのエレベーターで意識を失って、救急車で運ばれたのだろう。
私がベッドから落ちた物音で、看護師さんが駆けつけて来た。
それをまだはっきりとはしない頭で、眺めていた。
トリアは貧血による失神という見立てであったが、簡単な検査をしてから病院を出た。この後も経過観察に来いという。
原因など、こちらにはわかっているが。
いきなり訳のわからないことを言って気を失ったときにはわからなかったが、意識を取り戻してすぐに口走った言葉。
英雄王、と。
家に帰って彼女を落ち着かせると、ハーブティーを差し出した。
椅子の上で足を丸めたまま、少女はそれを受け取る。
自分のカップにも同じ物を注いで、その対面へ腰掛けた。
「少しは落ち着いたか?」
「はい……」
アルトリアが、前世の記憶を持つということ。
それは喜ばしいことのはずだ。彼女がよりセイバーに近づくということなのだから。だが、諸手を挙げて歓迎しようという気が、どういうわけか起きなかった。
思い出せば彼女は我に、どのような態度を取るか。
今までと同じように慕ってくることはもう、ないだろう。
そう考えて、自分の思考に唖然とした。
何を恐れているのだ。
アルトリアは、何の変哲もない飲料の水面を見つめ続けている。
我と目を合わせないのは、そこまで彼女が、思い出しているからなのだろうか。しかしそれならば、もっと激しい拒絶の意を示すのではないか。
……聞けば良いだけの話だ。お前はどこまで思い出しているのか、と。
何故それだけの言葉が出て来ない。
黙りこくった彼女と一緒になって黄みがかった水面に目を落として、しばらく沈黙を続けた。そして静寂を破ったのは、我が意図した言葉ではなかった。
「……嫌な夢のことなど、忘れてしまえ」
彼女はこくりと頷いた。
その日から私は、今までと同じようには物事が見られなくなった。
夢の中だけでなく、白昼にも光景が重なる。色々な時代の街並みや文化、言語。彼女が経験してきた物事。栄光、心安らぐ風景。血生臭い場面や耐え難い屈辱。
ソファーでテレビを見ていて、異国の街並みが映る。
「……ミュンヘン歌劇場の側だ……」
呟いた私に、彼がキッチンから声をかけた。
「知っているのか?」
「ええと、はい。少しだけ……」
「……それは、夢で見たことの一つなのか?」
彼がそれに言及したことに、私は動揺した。
「本で読んだことがあるだけです」
咄嗟にそう言って誤魔化した。彼にあの夢の内容について話すだけの覚悟が、私の中にはまだなかった。
「そうか」
彼はそれ以上何も聞いてはこなかった。
番組のBGMに、ジャズが流れている。
……あの時代は行動しづらかったな。人種闘争が激しかった。
新たな記憶を呼び覚まされながら、ギルに変に思われないように、彼と目を合わさないよう努めた。
何もかもがきっかけとなって、私の記憶は補填されていった。中でも日本で起こったことは、より身近な風景であるために特に思い出されやすい。実際の私の記憶と混同することもある。
「アルトリア、獅子のぬいぐるみを欲しがっていただろう? ほら」
ある日彼が私に差し出したのは、びっくりする位たくさんのぬいぐるみだった。
いつも彼は限度を知らない。
ライオンの……ぬいぐるみ。あのとき私にそれをくれた男性は、彼ではなかった。
映像が重なる。
夢の中のギルは、こんなに笑わない。彼の瞳の色はもっと恐ろしい。
傷つけられた記憶。
それも、サーヴァントとして敵を討とうというのではなく、いたぶることに愉悦を見いだす、彼の残忍な性質。
それは私の知らない彼の姿だった。
可愛らしいぬいぐるみ達が思い出させたそれによって、私は、ろくにお礼も言えずに目を逸らしてしまった。
アルトリアの態度が変わった。
いや。態度、という言葉には語弊がある。
我に対してだけではなく、彼女はそれまでと様子が違った。
ふさぎ込んで、外出を避ける。これまで好きだったはずのテレビ番組や雑誌も見ない。活発だった性格はなりを潜めて、口数も少なくなった。
思い切って、夢についてのことなのかと聞いてみたが、彼女は話したがらなかった。
正直、どうしてやればよいかわからない。
責務が終わってから、少し足を伸ばしておもちゃの類を取り扱っている店に赴いた。あのとき彼女は、獅子のぬいぐるみを所望していた。
それ自体は見つかったが、種類も多い。取りあえず、獅子を模ったものであろう品は全て購入して、我を送迎する車に積み込む。それを3度もやったので、運転手は後部座席を見て唖然としていた。
気に入るものがあり、少しは鬱々とした気分が晴れれば良いのだが……。
しかし、彼女は大量のぬいぐるみを一瞥しただけで、それ以上の反応はなかった。
「アルトリア……お前の好きな料理でも食べに行くか?」
毛布にくるまったまま、首を横に振る。
「何か、我にしてほしいことはあるか?」
同じ返答。
隣に座って頭を撫でようとすると、その手を振り払われた。
無意識的な行動だったのだろう。彼女自身もはっとして顔を上げる。
記憶が混乱しているのならば仕様がないと思ったが、目を合わせた彼女は、思いの外落ち着いていた。
「なぜ私に優しくするのですか」
なぜ、とは。そんなのは当然のことだ。
「お前は我の妻となる女だ」
「私は……セイバーじゃないのに」
そう呟いた彼女に、絶句した。
だが、無理からぬことだ。自分の前世を否定したがっても。セイバーの生まれ変わりでなければ、彼女は普通の人生を送れたのだから。
上手い言葉が見つからず、我は無言のまま部屋を後にした。
深夜。いつもならばもうとっくに就寝している時間になっても、私はベッドに入らなかった。本を読んだり音楽を聴いて時間を潰し、朝を待つ。
記憶は終わりに近づいている。
彼女の人生はもうすぐ終焉を迎える。
見てはいけないもののように思った。私にとって良くない情報が、そこにはある。
彼が彼女を殺したのではないかと、私は考えていた。意に沿わない彼女を殺めて、その生まれ変わりである私を手に入れたのではないかと。
寝てしまったら、続きを見てしまう。
この先ずっと寝ないでいられるわけはないんだから、そんなのは無駄なことだとわかっている。でも、いやだ。
睡魔と戦って、時折リビングへ降りてコーヒーを飲む。
「アルトリア……? まだ起きているのか」
何度も階段を上り下りしたから、彼が目を覚ましてしまったようだ。
「……眠くならないので」
「そうか……」
招き入れられて、彼の部屋でコーヒーを啜る。こんな風に彼と顔をつきあわせているのは、今の私には、苦痛なのだけど。
その感情が、私には上手く把握しきれていなかった。
彼が敵だったから、残虐な行動をする一面を見てしまったから、こんなにひどい気分なんだろうか。
「眠くなってきたか?」
何も話さない私をそう解釈して、ギルは言った。
「いえ。ギルが眠かったら、寝てしまって良いですよ」
「我は問題ないが」
向かいに座る彼が、腕を伸ばした。
「顔色が悪いな」
私の頬を撫でる。
その、体温。
それは、引き金となった。
洪水。記憶の奔流。抗うこともできずに私の意識は飲み込まれて行く。
見たくない見たくない見たくない。
重なる。
剣が肉に刺さる感触が、掌に伝わる。それ自体はもう私を驚かせはしない。何度も追体験した、慣れ親しんだ感触だった。ただ、その、相手は。
ギルガメッシュは唇の端から血を流して、でも、微笑んでいた。
彼は女性の頬を撫でた。
それは、私の知っている彼と同じ、優しい面差しをしていた。
消えて行く。
その最期まで、彼は、その女性を……愛していた。
彼女の戦いは、それが最後だった。
結末を見届けて、意識が現実へ戻る。
……私は、私がここいにる理由を理解した。
ひどい。
やっとわかった。
私を苦しめているものが何なのか、はっきりしてしまった。
頬を撫でた途端に硬直して、その様子は明らかに異常だった。
少女は、虚空を見つめたまま反応を返さない。
その視線がやがて像を結んだとき、彼女の瞳はなんとも悲痛な色を宿していた。
「……ギル」
声は震えていた。
「何を見た……?」
「全て、を」
息を飲んだ。彼女の持っている記憶がどの程度なのか、今の今まで何の見当も付いていなかった。
「ひどいことを……。ギルガメッシュ……あなたは」
彼女は椅子から立ち上がった。非難する声。
「どこまで私を弄べば気が済むのか!」
「トリア……?」
突然の激昂に、戸惑う。
錯乱したと取っても良いような、唐突な怒りだった。
彼女が見たのが、よほど凄惨な場面だったのか。
しかし、当然の結果だ。彼女が記憶の断片を拾い始めたときから、結末は決まっていた。彼女の価値判断は我を受け入れない。全てを知ってしまえば、前世と同じように相容れぬ立場を取るだろう。
記憶が全て戻った今、我を慕ってきはしない。
もう二度と。
天の鎖が四方から彼女に襲いかかり、その小さな身体を羽交い締めにした。
「ひっ……!」
宝具など、彼女は見たこともない。前世の記憶があるのだから存在は知っているだろうが、その身に受けることになるとは思ってもみなかっただろう。
怯えた顔で、こちらを見やる。
右手を僅かに動かして鎖を操作し、引き寄せる。
「今更お前を手放す気などない」
シーツの上に小さな身体が投げ出された。起き上がる前に、押さえつけて組み敷く。
簡単だ。
抵抗する力はあまりにも弱く、障害ですらない。
彼女が我に対して抱いていたであろう親愛や、信頼。それらが永久に失われたとしても、それが何だというのだろう。嫌がられようと、関係ない。
服を強引に引き剥がす。少女は恐怖に声も出せず、震えていた。
彼女は今や騎士でもサーヴァントでもない、ただの子供だ。力を振るわれることに対して、何の守りもない。
身体をまさぐると、すぐに頬に朱色が射す。我の指の感触を、この身体はすでに覚えていた。怯えながらも確かな反応を返す少女に、言いようもなく支配欲を満たされる。
下腹部を滑って指先が下着の中に差し入れられると、彼女は唇を噛んで涙を流した。
屈辱を、感じているのだろう。
彼女の意思など、どこにも介在しない。我の意向だけだ。我がこのように行動すれば、己の身体を御することさえ出来ない。
指先が触れたそこは、すでに温かく蜜を潤ませている。
「うう……」
そのまま肉の割れ目をなぞると、小さく声をあげた。
アルトリアは、激しい抵抗を見せない。鎖で拘束されているからではない。いつもそうだ。そうやって事が過ぎるのを待つ。
そして、なかったことにするのだ。
華奢で白い内ももに、唇を這わす。
「アルトリア……。お前の返答をまだ聞いていないが、もう待たぬ」
複雑な形をした秘肉をこねまわしていた2本の指を、その中心に埋めた。
「あっ、ぁあっ」
「なかったことにはもう、出来ぬようにしてやる」
身体に刻み込んで、拒絶する権利さえ、奪ってしまえばいい。
その言葉の意味を理解したのだろう。少女の四肢が抵抗を見せて、鎖がぶつかり合い、金属音を立てた。
「や、やだ、やぁ……っ」
恐怖する表情。それでいて、内側から与えられる刺激に甘い吐息を漏らす。
掻き回してやれば、内壁が蠢いて指に絡みつく。柔らかく作り替えられたそこは、受け入れられるように変化していた。
ずるりと指を引き抜く。
その意図を汲んで、少女が息を飲んだ。
緊張からか嗚咽混じりの浅い呼吸をして、我の動向にじっと視線を注いでいる。
見せつけるようにして、それを押し当てた。
「……っ、だめ、できない……っ」
構わずに体重をかけると、強い抵抗と共に先端がめり込む。
「やあ! 痛、ギル、やめ、てっ」
暴れるのを押さえつけて、挿入を助けるように足を大きく開かせた。
空間などなかったはずの場所をこじ開けて、最奥までを満たす。限界まで薄く引き伸ばされた粘膜が悲鳴を上げた。
少し待てば、馴染んでくる。痛みも引くはずだ。
しかし、彼女がすすり泣く声がやまない。
「まだ、痛むか?」
頬を伝う涙を拭ってやろうと手を伸ばすと、びくりと身体を震わせた。
「いや……、いや……、ひどいこと、しないで……っ」
彼女にとっては痛みそれ自体よりも、我から痛みを受けたという、その仕打ちの方が苦痛なのだ。
「お前が望むのならば、優しくしてやる……」
額が触れあう位まで顔を寄せて、囁いた。
確かめるように腰を揺らす。様子を窺いながら少しずつ。
「……っあ」
顔を逸らしながら漏らした声は、動揺と快感のそれだった。
「だからもう、二度と拒むな……」
角度を時折変えて、悦いところを探し当てるように中を擦り上げる。少女は狭い内部を余すところなく探られて、膝をがくがくと震わせた。
「ひゃ、ああ、あっ」
ぎりぎりまで引き抜いて、また、ゆっくりと奥まで。
「あ、あ、だめ、これ、だめ、も、抜いて、あうっ」
長い間慣らされてきた身体は何とも素直に我を受け入れて、ぐちぐちといやらしく鳴く。赤く色付いた粘液がシーツを汚して、その光景に昂ぶるのが抑えられなかった。
「アルトリア、アルトリア、ああ、ずっとこうしたかった……!」
最早歯止めが効かなくなって、奥まで突き上げる。
「きゃ、うあ! ひっ、いっ!」
一気に激しくなった動きに、歯の根がかみ合わない。
我の下で小さくなって身を震わせている、愛らしい、白い身体。
結合部から響く粘つくような水音が一層大きくなって、彼女の快感を伝えていた。
「……っ、出すぞ。奥で、受け止めろ」
か細い腰を掴んでぐっと押し込むと、熱いものを注ぎ込んだ。
「あっ……、ああ、あ……っ」
少女が中を満たされて、その感触に声を上げる。
それは、燻っていた我の支配欲求を甘く満たした。
シャワーを浴びる。
足を伝う、赤と白の液体。
私が愛された結果ではない。
彼が褒めてくれた、長い髪。
彼の意見を聞いたら、長い方が良いと言うから。
でもそれもきっと、あの女がそうだったからだ。
鏡に映る自分の容姿が許せない。
夢の中のセイバーと同じ、金髪碧眼。
年の頃は、彼女の方が少し上かもしれない。
顔立ちもよく似ていた。顔つきが、と言った方が近いか。
それを見て、ぷつりと糸が切れた。
「アルトリア……?」
ギルは私の姿に驚愕した。
ずぶ濡れのまま適当な服を着て、右手にはハサミを持ったまま。
ぐしゃぐしゃに切られた短い髪。
憎い。
この男が憎い。
セイバーという女が憎い。
「私は……セイバーではない」
あの女の記憶を私は持っている。
でも、それは本を読むように、映画を見るように。
私自身のものではない。
「あなたの愛している女性ではない!」
代替品でしかないこの身が、一番憎い
愛され続けているのだったら、その形が変わっても良い。そう思っていたのに。違った。
最初から私は、愛されてなんていなかった。
私を通して彼が見ていたのは別の人で、彼の中に、私は居なかった。
家を出て走った。
目的地があるわけじゃない。ここではない何処かに行きたい。ずっとずっと走り続けていると息が切れて、身体が疲弊して、肉体的な苦痛が精神的な苦痛を和らげた。
アルトリアが出て行った、その場で、我は立ち尽くしていた。リビングに降りると、床に散らばった、無残な金色。
我は、大きな思い違いをしていたのではないか。
彼女が拒絶したものは何だったのか。
それは、過去に見た我ではなく、定められてしまったこの境遇でもなく。
その苦悩が何だったのか、我は今になって初めて、気が付いた。
適当に走ったものだから、ここがどこかもよくわからない。
それでも、走り疲れて立ち止まっていた公園に、彼は追いついて来た。昔からそうだ。私の居場所をいつも簡単に見つけ出してしまう。
幼い頃から魔法のようだと思っていたけれど、その感想はどうやら間違いではなかったようだ。今なら理解できる。きっと、そういう宝具を持っているんだろう。
後ろを向いたまま、問いかける。
「私が、あの人の魂を持っているからでしょう……?」
「……そうだ。お前がセイバーの生まれ変わりだから、側に置いた」
わかっていても、彼の口から聞くそれは、耐え難いものだった。
堰を切ったように涙が溢れて、視界を塗りつぶす。怒りと憎しみによって誤魔化されていた感情が姿を見せた。
押しつぶされそうな失望。
私が生きてきた年月。
すべてが価値を失ってしまった。
虚ろになってしまった身体を、彼が後ろから抱きしめた。これ以上まだ、私に彼女の変わりをさせたいのだろうか。
振り解くだけの意思も力も持てないまま、私は為されるがままになっていた。
「……だが、我がよく知るアルトリアという娘は、最早お前のことだ。セイバーであった頃の歳月より遙かに永く、共にあった」
何もかも遮断しようとしていた意識が、わずかにその意味を拾った。
…………私の、こと?
「今、我が愛しているのは、他ならぬお前だ、アルトリア」
放心していた私の心にその言葉が届くまで、少し時間がかかった。
「ほん……とうに?」
振り返って、彼の顔を見上げた。
私が今どんな顔をしているのかわからないけれど、きっと同じような顔をしている。彼は、私の見たことのない、泣きそうな顔をしていた。
「本当だ。このような嘘を吐くほど、我は無粋ではない」
小さな子供のように声を上げて、私は泣いた。
何が何だかもう、よくわからない。
「ぎ、う、好き、です、私も」
「知っている」
再び抱き寄せられて、私は彼の腕の中に収まった。
「そんなのは、お前がもっと、ずっと小さいときから知っていることだ」
翌日、髪を切りに行った。
美容師さんは私の頭を見てぎょっとしたが、事情を説明したら笑っていた。
「失恋したかと思って、やってしまったのです。私の早とちりでしたが」
ベリーショートになってしまったけど、これはこれで可愛い気がする。たぶん。
家に帰ると、彼はまじまじと私を見た。
「ふむ。その髪型も中々愛い」
「そうですか」
結局どんな髪型にしたところで、そう言うんだろう。
「だが、それだと少々厄介なところもあるな」
「……?」
彼は自分の首元を指さした。
一拍おいてその意味に気が付いて、思わず首すじを押さえる。
「どどどどうしてくれるのですか! 学校! とか行くのに! いや、さっきの美容室も……!?」
顔が真っ赤になった。
「さて、どうしてくれると言われても。お前が後先考えずに切ってしまったものだからなあ……」
「宝具で直しなさい今すぐです!!!」
赤い石の指輪はまだ私の指には大きい。
それはチェーンを通されて、私の胸元で輝いていた。