メインの方とは全く関係ないのでご注意を
もう一回だけ!
デコピンしてやろうか非常に迷う。彼女の成績の為を思うのならそうするのが一番だ。でも彼女は女優だ。顔も一つの商売道具なだけに、おでこに何かするというのは少し気がひけた。
「…………スー…スー…」
いつものように一花のマンツーマン指導。借金までして勉強を教えてやっているのに、この女優ときたら静かな寝息を立てて寝ていらっしゃる。
「……………おい、起きろ」
「スー……スー………」
呼びかけても起きる気配が微塵もない。
……もう我慢の限界だ。叩き起こそう。暴力を振るうのは良く無い?『暴力から希望は生まれない、絶望が一時的に紛れるだけだ』なんてどっかの偉い教育者が言っていた?
知るか。
全部が全部そうとも言い切れないだろう。時として、それは使えばお互いのためになる場合だって存在する。今なんてまさにそうだろう。
パチン
「痛っ!?」
「おはよう」
力を込めた後に解放、勢いがついた中指は軽快な音をたてて一花のおでこに直撃する。
「うぅ…フータロー君に暴力ふるわれたぁ……キズモノにされちゃったぁ……」
「変な言い方はやめろ。それとデコピンなだけマシと思え。」
「え、マシって……フータロー君、私に何する気なの……?」
「何もしねぇよ。……次ふざけたこと抜かしたら宿題倍にするからな」
「そ、それだけは許して……」
「ならしっかりやれ」
「は〜い」
一花は思わず気の抜けてしまいそうな返事をする。こんな調子では本当に卒業は危うい、そこんとこをこいつは分かっているのかといつも不安になる。もう少しやる気を出してくれれば俺の心労も幾分マシになるのだろうが、残念ながら無いものねだりに終わる。
「はぁ……。おまえ、理解力はそこそこあるのに集中力が無いよな……」
「お仕事で疲れてるからモチベーション上がんないよ……」
「卒業がかかってんだぞ。もっとやる気出せ」
「あーあ、ある日突然頭が良くなったりしないかな〜」
「もうダメ人間思考のそれだな」
俺が発破を掛けても、はたして効果があるかなんて、考えるまでもなく殆ど意味を成さない。そもそも、それでやる気が出るぐらいなら初めから出しているという話だ。
「………ご褒美があったらもっと頑張れるんだけどなぁ」
「我儘な奴だな……こっちは借金までしてるってのに……」
「別に勉強辞めたって良いんだよ?」
「それで脅すのは卑怯ってもんだ」
「あはは、冗談だよ。でも、ご褒美あった方が少なくともデコピンよりはやる気が出ると思わない?」
「後で日の出祭で貰った景品のお菓子やるからやる気出せ」
「五月ちゃんじゃないんだからさ」
「地味に酷いなお前……。何なら良いんだよ」
「物じゃなくて、して欲しいというか……」
「……? 何をして欲しいんだ?」
やる気を出して貰えるならこの際何でもいい、内容によってはやらんこともないぞと内心で思いひとまず聞いてみる。
「そこはフータロー君が考えようよ」
「お前が言えば済む話だろ」
「まあまあ、そう言わずに、当ててみてよ」
「………デコピン」
「罰ゲームじゃなくてさ……」
「………頭を撫でる」
「もう一声」
「………肩揉み」
「ああ、遠のいちゃった」
「マジかよ。………分からん、お手上げだ」
頭を撫でるに関してはかつて一花からの教えで、肩もみに関しては実際に俺がされた事なのだが、これ以外で何かはもう思いつかない。
「じゃあヒント、私とフータロー君はやったことがあります」
「……………」
「ヒント2、愛情表現で良く使われます」
「……………」
「ヒント3、口」
「もうほとんど答え言ってるなそれ」
「言ってみてよ」
「言わん」
何ともハードルの高いご褒美なことで。そんな要求をするなんて、俺の聞き間違えでないなら一花の頭がおかしくなったぐらいしか理由は思いつかない。
「………お前、よっぽど疲れてんだな。気づいてやれなくてすまなかった。ほら、休んで良いぞ」
「ちょ、違うから!疲れてるとかじゃなくて!」
「なんだよ」
「……その…この前、………したでしょ?」
「……っ、お、おう……」
予想しなかった一花の言葉に思わず口に手を当てながら顔をそらしてしまう。具体名詞は聞こえなかったが、何をしたかなんて言わずもがな。
あの時のことはよく覚えている。といってもまだ数日しか経っていないので当たり前なのだが。それでも突然の一花の接吻はそれを差し引いても衝撃的すぎたので、この先一生忘れるはずが無いとさえ思うほどだ。
「それからね……たまに思うんだ。またしたいなって」
「なんで」
「なんでだろうね」
「それを聞いているんだが………」
「自分でもよく分かんないや。でも、そうだなー……よくよく考えてみたら、気持ちよかったからかな?」
「ブっ!」
オブラートなんてクソ食らえとでも言わんばかりのど直球に思わず吹いてしまう。ここでの気持ちいいは卑猥な意味にしか聞こえないのがなんとも。
ちらっと彼女の方を見ると、一花は少し微笑みながら俺を見てくるが、あの時のことを思い出しているからなのか心なしか顔が紅潮している。その表情につられて俺の顔も若干熱を帯びるのを感じてしまう。
「お前なぁ……」
「あ、そういえば、フータロー君の方こそどうだったの?まだ返答を聞いてなかったけど。私とのキス、嬉しかった?」
「…………」
と、そんなことをニヤニヤしながら質問してくる。
正直なところ、突然の出来事でパニックになっていたので、キスの感触なんてものは殆ど感じ取ることができなかった。いや、思い出せるには思い出せるのだが、「何か触れたな」程度しか感じなかったので、一花みたいに「気持ちよかった」などの感想は無いに等しい。
それなのに嬉しいかどうかなんて分かるはずもない。「何?」と聞かれても、この感情に名前をつけることは俺にとって難題だった。嫌ではないことは確かなのだが……羞恥、驚嘆、背徳感、優越感、……国語辞典に載っているような単語を思い浮かべてみるも、そのどれもが当てはめるには単純すぎる気がするのも確かで。
で、そんな様子だから結局こう答えるしかない。
「……別に、なんも」
「え〜、何それ。私とキスしたのに何もないの?」
「無いったら無い。というか無理矢理やってきたくせに感想も何もあるか」
全く思うところがないわけではないのだが、その事実を言うのは少し躊躇われたので、咄嗟に嘘をついてしまう。
「むぅ……じゃあ、もう一回してみる?」
「するわけないだろ……」
「おでこでもいいよ?さっきフータロー君にデコピンされたところが痛むからさ」
「そんなんで治ってたまるか。というか早く勉強に戻れ。時間が無くなっちまう」
「…………女の子同士でもさ、少し気持ちいいって感じちゃうけど、フータロー君とした時はその比じゃなかったな」
「だぁーっ!もう静かにしてろ!小っ恥ずかしくて聞いてられるか!」
無理矢理中断して一花を勉強に戻らせようとするが、彼女もなかなかしつこいもので。くすくす笑って俺の反応を完全に楽しんでやがるから非常に腹が立つ。
「……なんかやる気出ないな〜」
「おい」
「キスしてくれないとこのまま寝ちゃう気がするな〜」
「おい」
「逆に、キスしてくれたら宿題も二倍の量を出来るぐらいやる気出すのにな〜」
「………」
「お願い!一回だけだから!」
二倍の量なんて口で言うのは易しくしても、実際に達成するのは至難だ。なぜなら、授業を受けていない一花に課している課題は割と多めにしてある。仕事をしながらそれだけの量をこなすなんて到底出来るとは思えない。
だからこそ、これはチャンスなのかもしれない。
「……仕方ねぇ。分かった、それならこうしよう。もし二倍の量の宿題をこなせたならお前の頼みを聞いてやる。その代わり達成出来なかった二度とわがまま言わないで勉強に集中するって誓え」
「言ったね?その言葉、忘れないでね?」
「ああ」
達成出来なかったとしても、一花がそれでやる気になってくれるだけこっちは儲けもの。はっきり言ってしまえば、一花が達成出来るとは到底思えなかったので、ローリスクハイリターンの賭けであることは確かだ。
しかしながら、あくまで低いだけで0ではないということをこの時の俺は考えていなかった。
その怠慢が災いして、次の家庭教師の日から沼にはまっていく引き金を引いてしまったことをこの時の俺はまだ知らない。
☆
「嘘……だろ……?!」
「嘘じゃないよ」
俺の目にはきっちりと最後の問題まで終わらせてあるノートが映っていて、そしてノートの後ろには得意げな顔で俺を見る一花がいた。
それにしてもおかしい。絶対におかしい。いくら二年生の学年末テストで、姉妹の中で一番の成績をとってしまうほどのこいつでも、あの量を終わらせる程の容量と根気は流石の一花にも無かったはず。なのにだ、今目の前にあるのは、しっかりと全問自分なりに頑張って解いてある宿題のノート。ズルをしてないか内容をチェックするが、正答率も真面目にやった事を示唆する数字だ。つまりこの勝負は俺の負けということになり、その対価に俺は………。
「なんで終わらせることが出来たんだ……?!」
「久しぶりに本気だしてやったから疲れちゃったよ」
「なんでそれを日頃からやらないんだよ……」
「ふふん、いざという時の為にやる気をとっておいているのだよ」
「得意げに言うんじゃねーよ」
「まぁまぁ、宿題もちゃんと終わらせたし、フータロー君としては嬉しいでしょ?あと約束、守ってね?」
「……どうしてもしないと駄目か?」
「当たり前でしょ」
「……それ以外で代用するというのは」
「それでもいいよ。寧ろ私としてはその方が良いんだけど」
「やっぱりやめとく」
何とは言わないが、何でもするなんて言ったらキス以上のとんでもないことを要求されそうな気がしたので急いで却下する。流石にこればっかりは自意識過剰君なんかではないはずだ。
「ぐっ………!」
「……そんなに私とするのは嫌なの?」
「そうじゃなくてだな」
「ならそんなに悩まないでよ」
「いや、でもな………キスなんてそんな軽々しくやっていいものなのか…?」
「キスフレンドなんてのもあるぐらいだし普通じゃないかな」
キスフレンドなんて初めて耳にする単語だが、意味はある程度類推できた。キスだけの関係、ということでほぼ間違いないのだろう。
「……お前はそんな関係良いのかよ。」
「昨日言ったじゃん。フータロー君とのキスは気持ちよかったからもう一回したいって」
「…………」
「それに、約束は約束だよ。あ、勿論ちゃんと口にしてね」
そう言って一花は自分の唇を人差し指でトントンと軽く叩く。
「…………」
こっちから提案しておいて、今更無しにするなんて都合が良すぎると自分でも思う。それに、こいつの能力を甘くみていた俺が全面的に悪いわけで。
本来ならそんな理不尽を無理矢理まかり通すの方が倫理的には正しいのだろうが、俺自身もさっき言ったようにする事自体は嫌ではない。むしろ若干の好奇心まである。どちらかの正しさを捨てなければいけないなら、どうせなら俺にも利のある方を選んだ方がいいに決まってる。
「…………はぁ、分かったよ。やればいいんだろ。」
「ふふっ、やった」
「……じっとしてろよ」
約束は約束。腹をくくるしかない。それに、どうせ何回か経験してるんだし、今更一回くらいどうということはないだろう。
と舐めてかかってはいけなかった。自分からしに行くキスというのは初めての経験なので、これがまた難しかった。手はどこに置けばいいのだろう、どれくらいの力を込めればいいのだろうなど、頭の中であれこれ考えながら、最終的に一花の肩を持つことで落ち着く。
触れてみて改めて感じる、女の子特有の柔らかな体躯。いつもより近いおかげで整った顔は細部までよく見えて、そのせいで少し胸が五月蝿くなってくる。
「……い、いくぞ」
「…………うん」
目を閉じて、少し顔を斜め上に向けた一花は軽く返事をする。それを見て、俺は一回唾を飲み込み、ゆっくりと顔を一花に近づける。
ぴとっと少し触れ合いう。その感触だけで背中がゾクッとするが、更に踏み込もうと徐々に力を込めて触れ合う面積を広げていく。
「んっ………」
変な言い方になるが、こうして腰を落ち着けてキスをしてみると次から次へと感想が湧いて出てくる。
真っ先に思い浮かぶのは、単純に柔らかい感触。触覚に思考がいくので、徐々に他の情報が頭に入ってこなくなる。緊張と心臓が五月蝿いせいで呼吸も殆どしていない。ただ一花の唇の感覚と何かの感情だけが純粋にそこにあって、何というか、それだけに集中すると形容しがたい気持ち良さがあった。なるほど、これは一花がもう一度したくなるわけだと納得してしまう。
今まで知らなかったことが次々と脳にぶち込まれていく感覚は感動すら覚えてしまうほどだ。正確には初めてではなくて、他の姉妹ともしたのだが……まぁ、突然のことで余裕が無かったから実質初めて感じることだろう。
あんまり長くやるのもどうかと思うので、とりあえずひと通り終わったであろうタイミングで唇を離す。
「あっ……」
一花が少し名残惜しそうな声を出すも、これ以上は俺が耐えられそうにないので我慢してもらうほかない。
「フータロー君、緊張しすぎ」
「うっせ、お前と違ってこっちは慣れてねんだよ」
「あはは。まぁ、徐々に慣れていこうよ」
「もう二度とすることは無いと思え」
「ちぇ〜、残念」
「ともかく……これで満足か?」
「……うん、満足」
その日、瑞々しくて綺麗な唇の感触と、花が咲いたような彼女の笑顔を思い出しては悶々としてしまい、なかなか眠れない夜を過ごすことになる。
事故のようなものとは言え、不純にも一花以外の姉妹ともしたことがあるのでキスは初めてじゃない。名前の響きは少しお洒落なのだろうが、その実ただの粘膜接触で、それだけのことなのに、なぜあの感覚と一花の顔が頭から離れてくれないのか。勉強をする時、分からないことがあるとイライラしてしまうのと同じで、なんで、なんでを子供のように繰り返しても分かることは無かった。
☆
キスなんてやってみれば大したことではないのに、以前の俺は少し神聖視していたのかもしれない。
だが、未知なるものに対して畏怖の念にも似た感情を抱くのは、人として当然の反応と言っていいだろう。それに対して躊躇なく知ろうとする人間は勇気があるのか好奇心が強いのか……少なくとも俺はそのどちらでもないから自ら進んで知ろうとはしなかった。
「ねぇ、今日もお願いできないかな……?」
「おまえなぁ……」
「もう何回かしてるんだし、今更一回ぐらい増えても大差ないでしょ?」
「……そう言ってもう何回目だよ」
それでも偶然にも一回知ってしまうと、案外出来てしまうものだと分かったりする。おそらく一花は、女の子相手とはいえドラマの撮影でその経験があったからこそ俺の襟首を掴んで接吻なんて真似ができたのだろう。
そしてそれと同様に、こんな俺でも一回や二回経験してしまえば、未知では無くなった快感に対してハードルが下がるのは当たり前で。
日の出祭期間の公園でのあれは、もしかしたらただの偶然かも知れない。彼女だって魔がさす時ぐらいあるだろう。一回しただけではまだ確信が持てない。でも、二度目があった。それも、俺から彼女にするという形で。その事実を生んでしまったあの時が、歯止めが効かなくなった決定的な時なのだろう。
「!」
「……これでいいか?」
そして今日も、彼女の要求を拒む事なく応えてしまう。二度としないと豪語してたくせにこの樣だ。
「……うん、これでお仕事の疲れも吹き飛ぶよ♪」
「なら今日の勉強ぐらいはやる気出せよ」
「え〜、それはどうしよっなか〜」
「……二度としねぇ」
「ねぇ、嘘!嘘だから!」
「はぁ……頼むぜ、ほんとに」
「でもさ、ちゃんと勉強も頑張れるように、もう一回して欲しいな」
「さっきのは何だったんだよ……」
「あれはお仕事お疲れ様の分だから。ね!お願い!あともう一回だけ!」
「…………」
顔の前で両手を合わせてお願いしてくる一花。
そこまでしてキスなんてしたいものなのか。少し不思議に思うが、それでも一花にキスを求められるのは……言ってはなんだが、悪い気はしない。
「………あと一回だけな」
今更興味がない振りをしても手遅れというか、意味がないというか……。枯れたふりをするのも面倒だと感じるぐらい完璧に毒されてしまった俺は再び一花に口づけをする。
「ん………」
一花の背中を抱き寄せ、唇をいつものように当ててやる。いつも通りにしてやれば満足するしてすぐ終わると、そう思っていたのに。
ペロッ
「……!!」
突然、唇に何かぬめっとしたものが当たる。その感覚に驚いて俺は思わず一花の唇から離れてしまった。
「あ……もう、今いいところだったのに」
「おま、今舌を………!」
「フータロー君はやってみたくないの?」
「……何をだよ」
「舌、入れてみようよ」
「……!」
そう言って一花は軽く舌なめずりをする。
やっぱり人間というのは未知のものに対して恐怖を感じる。現に、唇に少し舌が触れただけでこんな反応をしているし。一花からは普段では感じないような何か淫靡な雰囲気を醸し出していて、これ以上はまずいと脳が警笛を鳴らしていた。
「怖いの?」
と、人様の思考を読み取ったかのような彼女のセリフ。
「……別に」
「ならやろうよ」
「わざわざやる必要もないだろ…」
「でもやってみたいと思わない?」
「……………」
興味が無いわけではない。寧ろやってみたい気持ちがある。
続きがしたい。初めてキスをした時のような、今まで知らなかった快感を知った時の、新鮮な感覚をもう一度味わってみたい。
不思議とそんな思いが次々と湧いて出てきてしまう俺は本当にどうしてしまったのだろうか。
「一回だけやってみようよ」
そこに一花の駄目押しの一言が加われば。
「そればっかだな…。分かったよ、一回だけな」
一花の頼みという名分で俺自身の欲望を隠しながらの承諾。それを聞き、にししと笑って「やった」と一花。なんだか少し情けなくなってくるけどそこには触れないでおく。
「いくよ?」
「お、おう……」
少しの間お互いに見つめあい、その後タイミングを合わせて顔を近づけていく。
「ん……」
ここまではいつもと変わらない、何回もやってきた触れるだけのやつだ。
しばらくして、一花の唇が少し開かれたので、それに合わせて俺も少し口を開いてみる。間もなく一花の舌が少し侵入するが、そこは拒まずに受け入れる。
最初は少しの異物感があったが、それもすぐに慣れてしまった。いや、寧ろこれは……。
味覚を感じ取る器官でお互いのそれを味わう奇天烈な行為は不思議と気持ちが良かった。
ホムンクルスだか脳の中の小人だかで、脳の感覚情報は手と口に比重が置かれてるとかなんとかあった気がする。だから頭の中がこのおかしくも甘美な感覚で埋め尽くされるわけで、人はキスなんて物をするのだろう。
なんて、別の事を無理にでも考えてなければすぐにでも余裕が無くなりそうで少し怖い。
ここで少し息が苦しくなったのか一花が口から離れていく。もう少しで感想というか、不思議なその感覚の仕組みを体系的にまとめることができそうだったが、これからという時に離れてしまったせいでまとまりかけてたそれが霧散してしまう。
「………あはは、これ凄いね」
「……っ」
短い時間なのにこうも息が上がってしまうほどに呼吸を忘れるということは、彼女もそれなりに緊張しているようだ。
一花の荒い呼吸音が鮮明に聞こえてきて、見たら顔は先程よりも色っぽさが濃くなっていて。言ってはなんだがもう発情しきっているような表情だった。
「もっと…しよ?」
あの感覚をもっと味わいたい。そう考えていたのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。それが分かればこちらから拒む理由なんて無いので、俺と一花は再び唾液交換に興じる。
「ちゅ…ちゅる………」
今更ながら、今までやってきたキスというものがいかに幼稚でしょぼいものだったか思い知らされた。
お互いの唾液が溜まって奏でられる水音でより一層興奮するし、舌触りは少しざらついているのに全く不快にならず、寧ろ一体感があって非常に心地いい。お互いがお互いの唇を隙間なく塞いだ後に舌を挿入すれば、息苦しいくてクラクラするが、それがまた何故か快感へと昇華される。
初めてのディープキスで上手くいったのは日頃の軽いキスで少し慣れていたのもあるが、一花のリードが大きかった。そのせいで、必然的に主導権は彼女の方にあるし、俺は一花にされるがまま舌で遊ばれるのみ。息継ぎで少しの間離れても間髪入れずにまたぴっちりと密着され、それに対して抵抗出来るはずもなく、ただただ大人しく送られてくる液体と快楽を一心に受け止めるほかなかった。
「ぷはっ……フータロー君の…美味しい♪」
「………っ。味なんてないだろ……」
「無味の美味しさってやつ?」
「なんだよそれ」
「もっと欲しい……」
「あざといな」
「いいでしょ、これぐらいの方が」
「……………」
「んっ…………」
無味なはずなのに、脳が勝手に作り出している感覚なのか妙に甘ったるく感じるのは事実。たかが消化液なんて頭で分かっていてもだ。
そんな調子でキスを続けて何分……何十分……とうとう1時間以上過ぎた辺りでようやく二人の世界から現実に戻ってくる。
しまった、これは余りにも時間を使いすぎてしまった。
「はぁ、はぁ……」
「フーっ、フーっ……」
慌てて口を離し、息を整えるためにしばし無言の時間が続くが、一花の荒い息遣いがやけに色っぽく感じてしまう。が、そんな思いを必死に振り切って一花に話しかけようとするも、一花に先を越されてしまった。
「もう終わり?」
正直なところ、こっちとしてもまだ終わらせたくはなかったが、俺がここにいる理由をこいつは忘れてはいないだろうか。
「……これ以上はもう勉強時間が無くなっちまう」
「……今日ぐらいはサボっても」
「駄目に決まってんだろ。というかどうするんだ、このままだと計画通りに終わらなくなっちまうぞ」
女優業で忙しい一花の為に、少ない勉強時間でも効率的に出来るよう計画を練ってあるのだが、少ない勉強時間だからこそ一時間の重みというのは大きい。しかし、時間が時間だ。今日はもう取り戻せそうにも無い…と思いきや、ひとつだけ解決策が思い浮かぶ。
「……仕方ねぇ。今日は泊まり込みで勉強会だな」
「えぇ?!」
「なんか文句あんのかよ」
「今日はもう勘弁してしてよ〜。こんな遅い時間だよ?」
「誰のせいだと思ってやがる。お前がキ……をあんなに長く続けるからいけないんだろうが」
「フータロー君も抵抗しなかったじゃん」
「やかましい。とにかくしてやったんだからやる気出せよ。約束はきっちり守ってもらう」
「ひゃ〜………。あれ、フータロー君泊まり込みで私に何する気なの?」
「勉強させるだけだからな?」
「約束は守ってもらう……これは……」
「お前わざと言ってるだろ」
でも、一花の言っていることも一理ある。いや、変な意味の方じゃなくて、女の子一人の部屋に男がいきなり泊まると言いだすなど、正直言って自分でもどうかと思う。通報されてもおかしくはない。
しかしだ、このままだと本当に成績が下がるのは必至なので、この際背に腹は変えられない。卒業できなければ意味がないのだ。
この時はその行動が最善だと思っていたのだが……
☆
スパルタ勉強会もようやく終了し、俺は風呂などの諸々を済ませてホテル備え付けのパジャマに着替えて脱衣所から出る。
「残り湯は楽しめた?」
「なんで残り湯かは触れないでおくが風呂は気持ちよかったぞ」
「そっか、楽しんでもらえて何よりだよ」
「楽しんではないからな?……とりあえず俺はもう寝る。ソファー借りるぞ。」
「え、それは悪いよ。泊まる事になったのは私のせいなんだし」
「だからって俺がベッド使う訳にもいかんだろ」
「ダブルベッドだし二人で使っても大丈夫でしょ」
「そこじゃねーよ……」
別に危惧しているのはそこではなくて、一緒に寝ること自体が問題だと言っているのだが。
そもそもなんで一緒に寝たがるのだろう。
「キスした仲なんだから大丈夫だって」
「何が大丈夫なんだ何が」
「つべこべ言わずに、ほら、一緒に寝よ?」
そう言って一花はベットに座り、その隣を手でポンポンと叩いて隣に来るように促す。
ベッドの大きさ自体は二人が寝ても普通に余裕がある。スパルタ勉強会で教える側の俺もそこそこ疲れているし、ソファーは小さくて足がはみ出そうなので俺としても心地のいいベッドで寝たいのはやまやまなのだが……
「……そういえば、お前って寝てる時に脱ぐ癖あったよな…」
「……フータロー君になら私は見られても平気だよ?」
一瞬動揺しかけるもポーカーフェイスを保つ。以前はこういった揶揄いは冷めたように受け流せていたのに、どうしてしまったのだろうか。
「………ソファーで寝る」
「行かせないよ」
行こうとしたところを腕をぐいっと掴まれて笑顔で阻止される。
「既に何回か私の裸見たことあるんだから大丈夫でしょ」
「わざわざ危険を冒す必要もないだろ」
「あれ、もしかして、耐えられる自信がないの?フータロー君はオオカミさんなんだ」
「なんだよオオカミって。勝手に人をケダモノ扱いするな」
「違うの?」
「当たり前だ」
「なら良いじゃん。せっかくの機会だし」
「良くねぇ。お前の裸なんて見たくもないだけだ勘違いすんな」
「キスはするのに裸は駄目なんだ」
「それはお前の頼みだからな」
「満更でもなかったくせに」
「話題をすり替えるな、とにかく俺はソファーで寝る」
「………………」
「………………いい加減離せ」
「………どうしても嫌?」
「おい待て、泣き落としは卑怯だぞ。やめろ、うるうるさせた目で俺を見るな」
「……前まで妹達と同じ部屋で寝てたからかな、ふとした時に一人だと寂しいって感じちゃうんだよね…そのせいでよく眠れないんだ」
「子供か……」
「子供でもいいからさ、だから、今日ぐらいは、お願いしたいかなって……」
「………っ」
「一回だけ………だめ?」
「〜〜〜〜っ、だぁーもう降参だ!分かったから泣くのをやめろ!」
「わーいフータロー君やっさしい♪」
「この野郎、やっぱり演技だったのかよ」
「何のことかな?」
「女優風情が……」
涙は女の武器とはよく言ったものだ。演技かそうでないかなんて見分けがつかない以上、冷たく見放すなんて選択肢は流石の俺でも選べるわけがない。去年の林間学校でも俺の不用意な言葉でこいつのことを泣かせてしまった前科があったからか、なんだかんだで一花に押し切られてしまうところ、俺もまだまだ徹しきれてないというか。
俺は大人しく彼女の隣で寝ることになってしまった。
「……掛け布団も一緒かよ」
「あったかいなぁ、お姉さん嬉しいよ」
「お姉さんというより妹だけどな」
「わーいお兄ちゃーん」
「犯罪臭凄いからやめてくれ……」
こいつ、とうとう開き直りやがった。
「………まぁいい、さっさと寝るぞ」
「………明日お仕事無いし夜更かししてもーー」
「駄目に決まってんだろ。それより明日仕事ないなら朝早く起きて勉強な」
「え、嘘でしょそれ」
「子供は寝る時間だぞ。おやすみ」
「ちょっと!」
ごろんと体を1/4回転させ、一花の反対側を向く。後ろでギャーギャー喚いているお子様女優を無視し、俺は心地よい眠気に身を任せる。ベッドの気持ち良さも相まって、すぐに意識を手放せそうだ。
☆
日頃から頻繁に寝落ちしてしまう俺でも、ベッドに入った瞬間すぐに眠れるわけでもないので、しばらく目を閉じてその時を待っていた。
「ねぇ、フータロー君…」
「……ん?なんだ?」
「少し、お話しない?」
「……少しだけな」
そこに一花が俺に話しかける。寝ているふりをしても良かったのだが、ベッドの心地よさと同調して今ならなんでも許せるぐらい優しい気分になっていたので、そこは応じてやる。いや、それ以前にいつも一花の頼みを聞いてやってるわけだしあまり関係ない気もするが………。
いつか厳しくしてやろうと密かに誓ったところで俺は体を半回転させて一花の方に向き合う。
「いつも勉強見てくれてありがとね。これでもフータロー君には感謝してるんだ」
「急にどうした、気持ち悪いぞ……」
「ちょ、そこは素直に受け取ってよ!」
「はいはい。で、本当にどうしたんだよ」
「深い意味はないよ。ただ、フータロー君にはいつも迷惑かけちゃってるから、こんな時ぐらいはお礼の一つも言っておいた方が良いのかなって」
「………もしかしてそれ言うためにわざわざ一緒に寝ようって言ってきたのか?」
「あ、バレちゃった?」
「バレちゃったって……というか、それ言うだけならわざわざこんなことしなくていいだろ」
「………まぁ、それだけじゃないんだけどね」
「ん? すまん、聞こえなかった」
「ううん、何でもない。とにかくありがとって言っただけ」
「……別に。俺が好きでやってるんだし気にすんな。それに、お前に無茶なお願いしちまったのはこっちなんだから、それぐらいやるのは当然だろ」
「それもそうだね。フータロー君が言い出さなきゃ私はお仕事に専念出来てたのにね」
「おい、そこは否定するところだろ」
「それ自分で言っちゃう…?まぁでも、フータロー君が一緒に卒業したいって言ってくれた時は、凄く嬉しかったよ」
………照れ臭いことをまぁ、よく平然と言えるものだ。お陰で体がムズムズしてしまう。
でも、彼女が退学届を出した時、そこにわざわざこっちから首をつっこんで、走ってバイト増やして借金までして、それらの過程は決して楽なものではなかったけど、その一言でほんの少しだが報われた気がした。
まぁ、本当に報われる時は彼女が無事に試験をパス出来た時なのだが。それを考えると、これからが本当に大変だ。
「……フータロー君て私の事、好きなの?」
「これまた唐突だな……」
「だって、普通ここまでやる人居ないよ。借金してまで卒業させようだなんて……フータロー君が私の事を好きって勘違いしても仕方ないぐらいだよ」
「そりゃ普通じゃないって自分でも思うけどさ……前にも言っただろ、俺はお前らが好きだって」
「でも、その好きって要は良き友人としてって事だよね」
「まぁ……それ以外無いだろ……」
「……本当に?」
「ほんとも本当だ」
そこで会話が途切れ、しばしの間沈黙が続く。その間に一花の質問の意図を汲み取ろうと頑張ってみるが、辿り着いた答えはあるにはあるが、確証が持てない。なんせ、俺は自意識過剰君だから「卒業したいのは妹達とじゃないけどね」なんていう言葉を聞いた時、「それって俺もか?」と続けそうになって結果違ったという出来事もあったほどで。
あれこれ考えている最中に、何やらゴソゴソと何かが動いている音が聞こえてきた。この部屋には俺と一花の二人だけだということを考えると必然的に彼女が動いているのは分かるが、一体何を考えてそうしているのかわからない。
「………近くね?」
「………」
ただでさえ同じベッドで寝るという異常事態なのにわざわざ近づいてくるなんてどうにかしてしまったのではないだろうか。そのことに対して一応言及してみるものの、彼女はそのことに触れず話を続ける。
「……ねぇ、フータロー君。一緒に卒業したいって言ってくれたの、私は本当にうれしかったんだよ?」
……ただ感謝の気持ちを述べている、それだけなのに何故か嫌な汗を少しかいてしまう。何か大切な事が変わってしまうようなそんな予感さえする。言いしれようもない圧力に抗えず、俺はただ黙って一花の言葉を聞くことしかできなかった。
「それこそ、君が妹達より私を大切に思ってくれてるのかな、なんて期待しちゃったり」
「……期待しちゃうよ。だって、あんなに迷惑ばっかりかけてきたのに、それでも借金までして勉強を教えてくれるんだよ?」
「私はそう思っていても……フータロー君は私のこと、ただの友達としか見てないの……?」
分からない、本当に分からない。こいつの行動は分からないことが多すぎる。誰が一番好きか俺に聞くときも、自分だけは選択肢から外すし。それは俺のことを何とも思ってないからかと思いきや、そのくせすぐにキスしたがるし………。なんで少し辛そうにしているのか、なんで俺に近づいてきているのか、考えるべきことが多すぎて脳みその回転は完全に間に合っていない。
それでも足りない頭を必死に動かして、重い口を開いてこう言う。
「……俺にとって、お前ら五人全員が好きで、大切なのは確かだ。でも、そこに差があるかって言われたら………多分、無い……」
「……キスまでしたのに、フータロー君は私の事、本当に友達としか思ってないんだ」
「キスフレンドもキスを除けば友達の範疇だろ」
「それでも普通は少しは意識しちゃうものなのに……なんか悔しいよ。私に魅力がないみたいで」
「………」
つまりは、こいつは好き嫌いじゃなくて女のプライドが許さないから、こういう事をしているのか。なんだそれは。
「別に、俺なんかにどう思われようが気にすんなよ」
「それが出来ればこんなこと言ってないよ」
「いや……こればっかりはキスする相手が悪かったというしか……」
「つまり私は他の人とキスすれば良かったってこと?」
「そうは言ってないだろ。……まぁでも、他の奴なら、そういうのはあるんじゃねーの、多分……」
「………じゃあ、仮に私が他の人として、フータロー君はそれでいいの?」
「………………」
話が飛躍し過ぎている気もするが、答えないわけにはいかないのだろう。でもすぐには答えられなかった。
「フータロー君はさ…」
「………?」
「私とキスしても……本当に嬉しくなかったの…?」
「………」
そういった異性としての意識が完全にゼロというわけではない。現に、今なんて二人で寝てるこの状況に脳みそは思考力を失いかけてるし。今に限らず、キスするときだって、少なからず一花の言う「意識」はしている。
その問いに対して素直に答えるべきなのだろうか。ここでの俺の言う答えは、つまりはこいつとの今後の関係を決定づけるものであるに違いない。それだけは直感で分かった。
それを踏まえて取るべき行動……黙るか、嘘をつくか……それとも本音を話すか。どれが正解なんて分からなかった。
「…………この前はなんとも思ってないって言ったな。でもあれは嘘だ」
「え……」
「…………多分だが、嬉しかった。純粋ではないけど、それだけは確かだ。なんでかは分からないけど、当時はそう感じたんだと今にして思う。」
「…………っ」
「さっきお前、他の奴としてもいいのかって聞いたな。そんなの嫌に決まってんだろ。お前がドラマの撮影でしたって聞いた時、知らない奴と一花が………なんて想像するだけで何故か嫌な気分にもなった。多分それは嫉妬ってやつなんだと思う。………だけど、それならお前のことを好きなのかって聞かれたら……それはよく分からない」
何を話しているんだ俺は。嘘をつく選択もあったはずなのに、気がついたら本音が出てしまっていて、ついでに言えば、なんで俺が一花のことを好きかどうかなんて余計なことも喋ってしまっているのだろうか。
どれもこれもベッドと一花が作り出したおかしな雰囲気のせいだ。
「……本当にキモいな、俺。」
「……本当だね。本当にキモいね。ただの友達なのに、なんで嫉妬なんてするかな。」
聞かれたから素直に答えてやったのに、痛いところを容赦なく。でも、事実なので反論なんてこれっぽっちも出来ないのだが。
辛辣な言葉とは裏腹に、一花の顔は何故か少し笑っていて。その表情のまま俺にこう言う。
「私が他の男の人とキスするの、そんなに嫌なんだ」
「………まぁ」
ああ言ってしまった手前、今更否定しても男のツンデレなんて余計に気持ち悪くなってしまうだけだったので、渋々返事をする。
一花の言葉に対して肯定してしまったが最後、また何かきついこと言われるかな、そう思っていたのに。
「……キモいのは私も同じなんだけどね」
でも、返ってきた台詞は全く予想してなかったものだった。
「……私もフータロー君以外の人に何かされるのは嫌だよ」
「……それ、どーいう意味だよ?」
「分かりやすく言うと、フータロー君にだけなら、何されても嬉しいよってこと。キスでも、それ以上のことだって」
「………友達なのにか」
「友達なのにね。そのくせ、異性として見て欲しいなんて我儘言っちゃう私も大概キモいよね……」
本人は分かりやすく言ったつもりなのだろうが、肝心の俺は意味を理解できていなかった。
………そろそろ状況を整理した方がよさそうだ。今日も家庭教師していて、キスして、それからベッドに入って、何されても嬉しいって告げられて………というか、「何されても」とはどういう意味だ。「それ以上」とはなんだ。広辞苑には何て書いてある。
あべこべな思考をしていると、突然一花の手が俺の頰に触れ、そのせいで自分の世界から一瞬で現実に引き戻されてしまう。
状況が整理出来ないまま彼女の顔が近くなる。
勘が告げている。日頃のキスでフラストレーションが限界近い今、ここでしてしまったらもう後戻りは不可能だと。
それが分かっていても、金縛りにあったかのように体は動いてくれない。
「ん……」
とうとう彼女の唇が触れてしまう。何回もしてきた、触れる程度の稚拙なキスのはずなのに。ちくしょう、なんでだ、このキスだけは、多分一生忘れないと言っても良いほど気持ちよかった。
「……っ」
性的な事に殆ど興味がなかったはずが、一花と何回もキスを交わす内に、どうやら潜在的にあった俺の中の獣が目を覚ましてしまっていたらしい。そして、今のキスで完全に箍が外れてしまった。
ドス黒い何かが奥底から湧き上がってくる。
「………私ね、フータロー君のことがーー」
「一花!」
今まで抑えていたものが溢れ出てしまった。一花のことを強烈に欲しいと思ってしまった。
彼女が何か大切なことを言う前に俺は
「! ……いいよ、フータロー君になら……」
気がついたら、彼女をその腕で抱きしめていた。
☆
「あっ……んんっ…」
そこから何をしたのかはっきりと覚えていない。記憶が曖昧なことから本能だけで動いたのだろう。彼女の体を抱き締めながら、ただひたすらキスをしていた。確証は持てないが、多分そうしていたと思う。
そこまでぼんやりと思い出したところで、はっと我にかえると、俺の手はやたらと熱のこもった何かに触れていた。やっとのことで状況を全て飲み込んで、彼女の秘部に触れているのだと分かって、分かった上で、俺は酷く理性的に一花の蜜壺をほぐしていった。
「フ……タロー……くんっ……」
彼女の秘部から発せられる卑猥な水音と、我慢したような甘い声で俺の名前を呼ぶ彼女の表情は余りにも毒だった。切なそうな表情が「口元が寂しい」と訴えかけているような気がして、たまらず彼女の唇を塞いでやる。
「ちゅ…ちゅる…んっ……ちゅ…」
一花の切なさを埋める為に彼女の口の中を自分の唾液と舌で満たしてやると、与えられたものを一花は素直に享受していく。それでも手を休める事はなく、彼女から先程教えてもらった弱点を押し上げ、刺激を一定にして丁寧に丁寧に攻めていく。
「結構濡れてるな………」
「うん……勉強…っしてる時から…んっ…ずっと期待してた……」
どうやら勉強会の前の舌を入れる濃厚なキスでスイッチは入ってしまっていたらしい。勉強会の間、やけに一花がもじもじしていたのはそういう事だったのかと今になって納得した。
「…………本当に凄いな…」
我慢していた分、一花のそこは一言で言うと大洪水だった。彼女の秘部から手を離し、目の前に手を持ってくると、そこには大量の愛液が重力に引っ張られて糸を引きながら手に付いていた。
「そ、そんなのわざわざ見ないでよ…!」
自分の分泌液を見て恥ずかしくなったのか、一花は顔を真っ赤にして抗議する。
「もっと恥ずかしい部分を見られているのに今更だろ」
「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいよ……。それに私だけ見せるなんて不公平だからフータロー君も脱いで……?」
膨張しているところが今にも弾けてしまいそうだったので、一花に言われるがままに俺も服を脱ぐ。ブツは痛いほどにそそり立っていて、服が邪魔なせいで解放しきれていなかった硬さが、たった今狭い空間から解き放たれたことでより一層血流が増してしまう。
「そ、そんなのが入っちゃうんだ……」
「……いきなり入れるのか…?」
「……それは流石に怖いかな」
一回でも経験していればスムーズに行くのだろうが、あいにく童貞と処女の組み合わせなのがなんとも。でも、そういった知識が皆無な俺よりも、一花の方がメディアに多く触れている分の利があったようだ。
「じゃあ、とりあえず失礼して……」
「?!」
そう言って一花は俺に跨る。
次の瞬間、俺のものが暖かくねっとりとしたものに包まれる。
視界には一花のお尻しか見えておらず、何が起きたか分からなかった為、突如として現れた快楽信号を処理できずに脳は戸惑うばかりだ。だが、彼女の体が一定のリズムで動く様子とじゅぽじゅぽと聞こえてくる淫靡な音で、一花が俺のものを口で愛撫するために動いているのだとようやく理解できた。
「んっ…じゅる…っ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
歯を食いしばって必死に声を出さないようにする。
この快感を全て処理しきるには俺の頭ではどうやら容量不足だったらしく、すでに何も考えられなくなっていた。
だが、こっちもやられっぱなしでは無い。一花の攻撃の手を少しでも緩めさせるため、本能的に目の前にある一花の秘部に手を伸ばす。
「っ、この…!」
「んっ!?」
一瞬、一花の体がビクッとするが、口淫をやめる気配は全くない。もっと攻めてやろうと思い、ずらしていただけのショーツを脱がしてやると、篭っていたいた熱やら匂いが鼻腔をくすぐる。
もうここまで来たらこっちも自由にやらせてもらわないと、そんな思いで彼女の割れ目を少し広げてみる。部屋の明かりは弱いオレンジライトしかないせいで細部まではよく見えないが、それでも初めて間近で見るそれに、自分のブツを挿入する時の事を考えると酷く興奮してしまう。
「ひゃあ!?」
衝動的に彼女の蜜壺に口を近づける。
突然の事に驚いてしまったのか、一花は咥えていたものを口から離してしまう。
「そ、そんなところ…あっ…舐めないでぇ……!」
「先にやってきたのはお前だろ。仕返しだ」
「〜〜〜〜〜っ!もうどうなっても知らないから………!」
その言葉は行為が恥ずかしいのか行為自体が好きじゃないのか。前者なら今更恥ずかしがられてももう手遅れだと思う。キスにしろ、口淫にしろ……散々恥ずかしいことを自分からしておいて。その上、俺のものを咥えるときにわざわざお尻を俺の顔に向けるあたり、一花は痴女か何かであると俺の中でもう結論付いてしまっていた。
そんなわけでたとえ後者であっても知るかと、構わず彼女の花弁を舌で愛撫してみると、一花の体から面白いほど反応が返ってくる。
それに対抗するように一花も俺の物を舐めてくる。おおよそ十八年生きてきて初めて知る劇物のような快楽に、すぐに射精感が押し寄せてきてしまっていた。
「おい、出るから口を離してくれ…!」
「じゅるっ、ちゅ、ぢゅぽっ」
一花の吸い付きでどうやら全く聞き入れてくれないことだけはわかった。さっきの「どうなっても知らない」との発言を思い出して、早々にこれを阻止するのを諦めることにした。
一方が気持ちよくしようとすればそれに応えるようにもう一方も気持ちよくしてくる。無限と高まっていく快感を前に我慢できるはずも無いので、これ以上の口淫をやめさせようと一花の秘部に指を挿入して押し上げてやる。だが、口淫を止めさせるにはむしろ逆効果で、一花は余裕がなくなったのか舐め方が早く雑になってしまうも、その雑さがむしろ快感となって襲いかかってくる。
「ヤバッ…………!」
俺の声が聞こえてないのか、それとも無視しているのか一花は構わず咥え続ける。
既に限界が来てしまい、射精する勢いが強すぎて腰を引いてしまうほどに、容赦なく精液を彼女の口に注ぎ込んでしまった。
「んっ、むぐっ、ちゅっ……」
それでも彼女は執拗に吸ってくる。出した後にこれをやられてしまっては堪らない。情けない声を少しでも抑える為に思いっきり歯を食いしばるも、それでも喉が震えてしまう。
「ん……ごくっ…」
「おい……」
「ご馳走さま……♪」
「腹壊しても知らねーぞ……」
「こんなに美味しいのに壊すわけないよ」
「美味しいわけねーだろ、味覚細胞死んだか?」
「でもちょっと興奮しない?」
主導権を奪った一花はさっきとはうって変わって余裕の表情。チロっと舌舐めずりをする彼女は流石というべきか、かつて彼女の演技力に助けられた事を思い出す。あの不味いアップルパイをあれだけ美味しそうに食べられるほどだ、俺の出したものを微塵もまずいと感じさせないその表情を見て、耐えられるはずもなかった。
「さっきよりガチガチに硬いから、興奮したみたいだね」
「……この淫乱女優が」
今度はこっちの番とばかりに彼女の上に覆いかぶさり、一花の秘部に再び指を挿入する。
精液がまだ口の中に残っているとか、そんなのは御構い無しに彼女の口にキスをする。これ以上好き勝手されてはたまらないので、何も言えないように言葉攻めを封殺しておき、その上で今度はこちらが好き勝手するという算段。が、これを看破されてしまう。口付けに関しては流石というべきか、一花の方が経験した回数が多いからか、彼女の舌技で逆襲されてしまった。
「ふふっ、フータロー君もまだまだだね」
「………バカのくせにこういうのは覚えが早いんだよな」
「敗者に口無しだよ」
挑発には成功したけれど、そのせいでまた口を塞がれては蹂躙されてしまう。一花は俺の首に腕を回し、絶対に離れられないようにしてから、どっちが上かを教え込むように、じっくり、ねっとりと舌を絡ませて、歯茎をなぞり、そして角度を変えてはそれの繰り返し。息が苦しくて頭がクラクラする。
「ぷはっ……。どう?」
「……………っ」
「フータロー君ばっかりはずるいから、そろそろ私も気持ちよくして欲しいかな」
「…………………………………足開け」
再び俺が一花の上に覆いかぶさり、そして一花の秘部に自分の切っ先を当てがう。そこで重大な忘れ物に気がつく。
「……ここ、何か無いのか」
「……? 何かって…?」
「いや、避妊具とか…」
「……別にしなくて良いんじゃない?」
「何も良くないだろ」
「でも今から買いに行くの?」
「………必要なら行くしかないだろ」
「中に出さなければ平気だよ。多分……」
「多分て……駄目だろ、それは……」
「フータロー君が中途半端に弄るからもう我慢できない……」
「そこは耐えてくれよ……」
「……フータロー君は我慢出来るの?」
「……無理だな」
意見が合ってしまったらもうやる事をやるしか無い。
愛液と唾液でぐちゃぐちゃになったそこに、一度出したとは思えないほど硬くなった陰茎を当てがう。腰に力を込めて、ゆっくりと挿入していく。彼女の中を押し広げていく感覚は俺を更に狂わせにかかってくるが、そこは辛うじて良心が力を制御する。
「あっ…入ってくる…!」
「……痛くないか。」
「うん、大丈夫……。初めては痛いって聞くけど……意外と……痛くないんだね……これ……」
「…………」
女の子の初めては痛いなんてよく聞くが、そこは個人差があるのだろうか。俺自身こういったことは初めてだし何より性別も違うから確かめようがないが。
痛くないに越したことはないのだが、それでも念のためゆっくりと挿れていく。
「フータロー君も初めてだよね……?フータロー君の……初めて貰えて……嬉しい」
「それ普通男の台詞じゃないか……?」
「じゃあ、フータロー君に初めてあげられて嬉しい……」
「……そりゃ良かったな」
「照れてる」
「うるせぇ」
「フータロー君は……私の初めて貰えて……嬉しい……?」
その質問は死んでも答えたく無いので、無視して一花の中に挿入することだけに集中する。
効果音で表せば"つぷんっ"といった具合に最後、彼女の中に俺の全てが飲み込まれる。
「んっ…これで…全部入ったの……?」
「あ、ああ…キツく…ないか?」
「……フータロー君がそんな気遣いするなんて意外だね」
「俺をなんだと思ってやがる」
「いきなり抱きしめてきて襲っちゃうオオカミさん?」
「いや、ほんと……すまん」
「冗談だって。でも、フータロー君のことだから"俺には良く分からん"とか言って乱暴にするイメージあったからさ」
「流石の俺でもそこまではしねーよ……。それより大丈夫なのか?」
「ちょっとだけ………キツイかも……。」
「……………一旦抜くか?」
「フータロー君の大きさに……ひろがってる感じするから……多分平気……」
その発言はつまり、彼女のそれが俺の色に染まっている事を示唆していて、なんてそんなとこまで想像してしまう。
「…………っ、 一花……!」
「あっ……………!」
そこまで言われて我慢できるはずもなく、腰が半自動的に動いてしまった。一花の膣壁を擦る快感は凄まじく、一度動いてしまえばもう止まることは出来なかった。
「すまん………!」
「いいよ……好きに…動いて……!」
一花はそう言うが、ここで好きに動いてしまえば後悔することになるかもしれない。一花を思うがままにめちゃくちゃにしてやりたい衝動を必死に抑えつけて、一度につき何秒もかけてゆっくりと動く。
「これぐらいで……大丈夫か?」
「あっ……きもち、い………」
普段はあれだけ俺をからかってくるくせに意外とドジで、それでも手玉を取ってしまう彼女が、今こうして余裕を失くして乱れている。そうしてやったのは自分だという事実が、より一層興奮を掻き立て、その勢いのまま徐々にピストンの速度が上がっていってしまう。パンパンと肌を打ち付け合う乾いた音と、荒い息遣いに時折漏れる甘い喘ぎが部屋を隅々まで満たす。
「一花…、声……エロすぎるから……もう少し抑えてくれ……」
「あっ……むり……だよ…こんな…されたら…」
「我慢してくれ……」
「なら……フータロー君こそ……あっ……速度……抑えてよ……んっ…」
「それこそ無理だ……」
「………なら、塞げばいいよ…」
「………?」
「キス……して……?」
それなら幾分声はマシになるのだろうか。断る理由もなく、そのまま彼女の口を塞いでやる。口に性器に、一体となる感覚が気持ちよ過ぎていっそこのままずっと一つになっていたいとさえ思う。
でもそんな時間も長くは続かない。快感が蓄積していけば、結局はお互いに我慢の限界が来てしまい、二人とも絶頂に達してしまう。彼女の膣内が俺を飲み込もうと必死にうねり、それに耐えられる筈もなく、出してしまう寸前に慌てて彼女の中から陰茎を引っ張り出す。
何処に射精するか考える余裕がなかったのは言うまでもない。その結果、一花の花弁に白濁液をかけてしまった。
「………………中に出されちゃったみたい…」
「中に出してねーから安心しろ………」
日頃から運動不足なのに、急に運動したせいで疲労感が一気に押し寄せてきてしまい、それだけ言って、一花の隣に仰向けに倒れこむようにして寝そべる。
「少し休ませてくれ……」
「………………」
もうこのまま寝てしまっても良いかな、なんて最低なことを考えていると、一花が突然俺の上に跨ってきた。
「……………おい、何してんだよ」
「え?フータロー君はお疲れみたいだし、私が動いてあげようと思って」
「………頼むから休ませてくれよ」
「あと一回だけだから、ね?」
俺がもう動けないことをいいことに、俺の気力とは正反対にまだ固いままのブツを、一花は自分の割れ目に当てがい、そのまま体重を利用して飲み込んでしまった。
「おまっ……!」
「あっ、やっぱりこれ……すご……!」
体重がかかってる分さっきよりも深く入っているわけで、一花はそれがお気に召したようだ。
「フータロー君……これ、気持ちいい……?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
答えたく無い。というか声を抑えるのに必死で答えられなかった。それぐらい彼女の腰使いは巧みすぎた。初めての性行為だが、それでも一花の動き方はあまり見ることは無いだろうということだけは分かった。
「こんなのどこで知ったんだよ……!」
「内緒………あっ……!」
ずっしりと重量感のある果実を揺らしながら、必死に快楽と戦う一花の表情はあまりにも扇情的すぎた。そのせいで、一花にされるがままされていようと思っていた体も、今では嘘みたいに彼女の奥を突き上げたいという衝動に駆られていた。
「ほんと好き勝手しやがって……!」
上半身を持ち上げて、一花の体を抱き寄せて強引に座位の体勢をとる。そてしそのまま欲望の赴くままに腰を動かし、一花の膣内に包まれる快楽を貪る。
「そ、それはフータロー君も同じでしょ……!」
「最初に咥えて来ただろ……」
「それより前に、んっ……フータローくん……襲って……あっ……来たよね……!」
「さらにその前にキスしてきたのはどっちだよ……!」
みっともない責任の押し付けあいだが、精神的優位を得るためにはこうでもしないとやっていけない。言ってしまえば開き直りだが、この際なんでも良い。最低と言われればそれまでだが。
好き勝手に一花の体を味わっている俺に対して、一花も座位になったことで必然的に彼女の豊満な果実が俺の顔の近くになるわけで、それを見て何もせずに居られるわけがなく、ピンク色の先端に堪らず吸い付いてしまう。
「やっぱり……大きい方が好きなの……?」
「なんでそんな事聞くんだよ……」
「いや、だって……そんな必死に吸い付くのが……可愛くて……」
「恥ずかしいから言うな……」
「やっぱり好きなんだ」
「………よくわからん」
「見るのは私のが………初めてだから……?」
「………………」
もうこれ以上会話を続けても羞恥心が煽られるだけなので、腰の動きに意識を集中させ、もう話さないという意志を込めて一花の奥を突く。
それからはもうただひたすらお互いに体を味わい尽くした。腕で力強く抱き寄せて、全身で相手の温もりを感じられることに少し幸せを感じて、時折口が寂しくなればまたキスで埋めて………。
一つに溶け合う気持ちいい時間が無限に続けば良いのになんて思っても、いずれ終わりは来てしまうわけで。
「あっ、あっ、フータロー……くん……!きちゃう……!」
「俺も……出そう………そろそろ……脚を離してくれ……!」
「だめ……っ!中に、出してもいい………いいから……抜かないで……!」
「おい……!」
引抜こうにも、彼女は脚で俺の腰をぎゅっと掴んで離さず、腰の動きを止めても、一花が自分で動いてしまう始末。
しかもトチ狂ってしまったのか、一花は俺の首に腕を巻いてキスをしてくる。
ここまでされて思考がとっ散らかってしまい、さっきから陰部は一花の中に射精する準備を進めているのに、快楽で脳が溶かされてしまったのか抵抗できない。もう中に出してしまえばなんて危険な思考さえしてしまっていて、快楽に身を任せる選択を受け入れた体はもう手遅れという他なかった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
絶頂に達した一花の膣内は一滴も残さぬよううねり続け、それに応えるように俺のものは何回も脈打って精を与え続けた。
全て出し終えても、その体勢で挿入したまま二人で抱き合い、ひたすらに濃厚なキスを交わす。
彼女が満足出来たタイミングでようやく陰茎を引き抜くと、一花の中を塞いでいたものが無くなったせいで、蜜壺から精液が伝ってベッドのシーツに染みを作った。それを見て一花は力なく笑って言う。
「…………あはは、やっちゃった……ごめんね」
「………お前が謝る事じゃないだろ……」
それだけ言って、二人してベッドに倒れこむように寝そべる。
「すまん……寝る」
「私も……」
床に落ちた羽毛布団を引っ張り上げ、一花と俺の体にそれを掛ける。
流石にもう一ミリも動けそうにない。体力無しの俺がここまで持ったことの方が奇跡というもの。そのせいで暴力的なまでの睡魔が襲いかかっていてた。
これからどうしようとか、面倒なことは全て起きた後の俺に任せてしまおう。
「おやすみ、フータロー君」
突然、一花に頬をキスされてしまう。一瞬それにときめいてしまうが、もう意識を保つので精一杯だった俺は気絶するようにそれを手放しながら、せめて挨拶だけでも返そうと言う。
「ああ、おやすみ……い……ち………」
その夜はなんだかとてもいい夢を見たような気がする。
☆
一花は仕事が休みだと言っていたが、俺の場合、通常通り学校があった。が、朝起きてみると既に十時過ぎ。寝坊も寝坊、大寝坊だ。
本来なら慌てて準備して学校へ向かうのだろうが、どうにもそんな気分にはなれなかった。自棄とか、そんなのではなくて、なんだか少し心が晴れているからこそまだここにいたかったというか。
隣でまだ寝ている一花を見て起こそうかと思ったが、気持ちよさそうに寝ている顔を見るとそれは躊躇われた。勉強は今度やらせればいいか。数時間前まであんなことをしていたんだし。
それでも、起こしてしまう危険性があるにも拘らず、一花の綺麗な寝顔についつい見惚れてしまい、彼女に触れてみたくて髪をそっと触ってみたりする。
「…………はぁ、やっぱそういうことだよなぁ…」
他の姉妹とも違う、一花とキスをした時だけに感じていたもの。彼女とそれをする時、いつも感じていた正体不明の何かが分からなくて、そんな自分に苛立って。
結局、修学旅行が終わってからずっと考え続けていた問題の答えは酷く単純なものだった。それなのに、こんな状況になるまで自分の気持ちにすら気付かないとは、相変わらず鈍すぎて救いようがない。
一花が寝ている今なら、呟いてみてもいいだろうか。そう思い。
「俺は、一花の事がーーー」
それでも、もう一つの思いがそれを阻んだ。
続く
なんで一花の話が多いかというと推しだからです