よいお年を。
あけましておめでとうございます。
──後ろを振り向いたそこには、頭の炎を勢いよく揺らめかせるファイアマンがいた。エグゼシリーズを通してよく出てくる『ヒノケン』さんのナビであり、ヒートマンになったりファイアマンに戻ったりと忙しい存在だ。オペレーターであるヒノケンさんの方も、敵だったり味方だったりと忙しい御方である。一つ確かなことがあるとすれば、物理的にも精神的にも熱い二人だということくらいだろうか。
「──ファイトマン!」
「ファイアマンだ!」
「おっと、ごめんごめん。それにしても、小学生にやられて豚箱に突っ込まれてた負け犬がどうしてここに?」
『喧嘩売ってんのかテメェ!』
『マイン! いくらなんでも失礼だぜ。すいません、ヒノケンさん……ところで、子供型ナビにやられてデリートされた雑魚がどうしてここに?』
「き、貴様…!」
「そりゃ言い過ぎだよ宙。ごめんねファイアマン、オペレーターに代わって謝るよ」
『うんうん、僕もマインの代わりに謝ったから…』
「これで両成敗だね! じゃあ改めて、どうしたんだいファイぅぉわぁっ!? 危なっ!」
『へっ! 光熱斗と同じで、いけ好かねえガキだぜ…!』
『いきなり攻撃はひどくない? 度が過ぎると牢屋に逆戻りだぜ』
『ケッ、好きにしやがれってんだ。テメェらのせいでこっちは路頭に迷ってんだよ』
「…ん? どうせまたWWWに身を寄せてると思ってたけど……違うのかい?」
「新しいWWWは毛色が違うんだよ…! ワイリー様と袂を分かったヒノケン様が、どれだけ辛酸を嘗めたか……貴様にわかるか?」
「自業自得でしょ。安易に犯罪に走るから身を崩すんだよ。行く宛がないならないで、ミステリーデータ漁るとか悪人から巻き上げるとかすればいいのに」
『へっ! そこまで惨めになれるかよ!』
『えっ』
「えっ」
…もしかして、僕らがやってた行為って結構アレなのだろうか。ルンペンさんとか、そっち系の素行だったんだとしたら……うーん……いや、身寄りのない子供だったからセーフ。セーフ以外のなにものでもない。大人が空き缶拾いをやっていたら世間の目は厳しいだろうが、子供がやっていれば大抵は同情の方が強くなる筈。
「…そっか……惨めだったのか…」
『惨め…』
「…」
『…』
『い、いや……惨めは言いすぎたかもしれねぇな……つーかどんな生活してたんだお前…』
やさお~。こういうところが憎めないんだよね、ヒノケンさんって。しかし『新生WWWは毛色が違う』……か。戦力という点において、ファイアマンは文句なしの破壊力を秘めている。それを受け入れなかったという事実は、何を示しているんだろう。
──そう言えば、新しくWWWに下ったと推測される人材は、研究畑の人間が多かったっけ…? 戦力よりも頭脳を集めているのか……まだ何とも言えないが、上には報告しておくとしよう。戦術レベルならともかく、戦略レベルともなればナビ一体の働きではそうそう覆せない。詰みになってから後悔しても遅いしね。
「…あ、ファイアマンの持ってるそれってもしかして…」
「ふん、やっと気付きやがったか。そうさ──今はオレがウラランク四位だ」
「ありがとうございます!」
「なんの礼だ!」
「五十万ゼニーでどう?」
「お前ほんとにオフィシャルナビか!?」
『どうせさぁ、ウラランカーになればドクターワイリーが見直してくれるかも……なんて、そんな感じでしょ? 無駄無駄、無理無理無理のカタツムリだよ。だったら僕に売ったほうが、まだマシってもんさ』
『んだとぉ…!』
「ファイアマンの強さはオフィシャルも認めるところだぜ。それが必要ないってんなら、欲しがってるのは戦力じゃなくて頭脳ってことでしょ? ならヒノケンさんがすべきは、強さの誇示じゃなくて勉強だよ」
『っ……確かに……そうかもしれねぇがよ…』
『ドクターワイリー程の研究者が求めるレベルだし、最低でも助教くらいの教養は必須だろうけど……ヒノケンさん、最終学歴は?』
『おいおい、なめてんじゃねぇよ。これでも大卒だぜ』
『ランクは?』
『…』
『…』
『…五十万ゼニー』
『…売った』
『えっ?』て表情のファイアマンからウラランクの証をいただき、代わりに五十万ゼニーを渡す。WWWから見捨てられ辛酸を嘗めたと言うからには、碌な生活を送っていないのだろう。ミステリーデータ漁りをしたくないというなら、稼ぐ手段は限られる。前の世界ほど前科者に厳しいという訳ではないが──脛に傷を持ってるだけならともかく、ガラの悪いオッサンを雇いたい人はいないだろう。きっとカネコマ状態だろうな、というのは容易に推測できた。
『職にあぶれてるんなら、丁度いいとこ紹介できるけど……どう?』
『へっ、このヒノケン様に向かってまともな職に就けってか──オレにもプライドってもんがあるんだよ。弱え奴の下につく気はねぇ』
『ああ、そりゃ丁度いいね。上司はまどいちゃんだし……少なくとも、同格の幹部だったんでしょ?』
『なに…?』
驚いているヒノケンさんに、宙がまどいちゃんとのアレコレを話し、ブティックの従業員が足りていないことを伝える。前WWW壊滅はアイツのせいかと憤りつつも、ヒノケンさんはその話に興味を持ったようだ。幹部の中でも、捻くれ具合には定評のあったまどいちゃん。そんな彼女が更生し、あまつさえブティックの経営などに手を伸ばそうというのだ。気になるのも当然だろう。
『ま、オーナーは僕だから──実質的には僕の部下になるのかな。“弱え奴”かどうか……試してみるかい?』
『はっ、ははっ…! ──そいつぁ……熱い誘い文句じゃねえか!』
ヒノケンさんの笑い声が響き、ファイアマンも臨戦態勢に入る。宙の魂胆は、まどいちゃんにやった事の焼き直し……要は実力と言う名の上下関係をはっきりさせておくつもりだろう。どのみち戦うんだったら、五十万ゼニー払う必要なかった気がするけど。まあ成り行きだったし、仕方ないか。
「──いくぜ、ファイアマン」
「おうよ! 燃えるぜぇぇぇ!!」
威勢のいい掛け声と共に、噴出した炎が一直線に向かってきた。速度は大したことない……が、見た目以上に効果範囲が広い。炎に直接当たらずとも、近付くだけでダメージが入りそうだ。なにより、ゲームと違って一方向に垂れ流しなんてことはあり得ない。
こちらが大きく動こうとも、ファイアマンにとっては腕の角度を少し傾ければ追尾できるのだ。厄介なことこの上ないぜ……とはいえ、弱点がないと言うわけでもない。通常のバスターと違い、炎は発射してから到達するまでタイムラグが大きいのだ。
「よっ──っとととっ…!」
「チッ、ちょこまかと…!」
「──よし、とつげきー!」
『あいさー』
「…なっ!?」
苛立ったファイアマンが横薙ぎに炎を払った──その瞬間、僕は彼めがけて突進する。大ダメージ必至の無謀な行動に、驚愕をあらわにするヒノケンさんとファイアマン。しかし炎に巻き込まれる直前、インビジブルが発動して攻撃をすり抜ける。そのままフミコミザンで切り払いながらファイアマンの横を駆け抜け──返す刀でフミコミクロスをぶち当て、バトルは終了した。
僕のバトルに瞬殺が多いのは、こういった『セオリーではありえない行動』が多いからこそである。“パーフェクトフルシンクロ”は、オペレーターにナビの行動を瞬時に把握させ、意志疎通の必要すらなくなるほどの完璧な連携を約束してくれるが──逆もまた然りなのだ。オペレーターが次にどのチップを使えるか、どのタイミングで使うかは僕の方でも把握できる。完全なる同調がもたらすタイムラグのない状況判断は、僕たち以外の人には無謀としか映らないのである。
『僕の勝ち……ってことでいいかな?』
『…ちっ! ──まぁ仕方ねぇ……約束は約束だからな。飽きるまでは付き合ってやるよ』
『いやぁ、助かるよ。じゃあオーナーとしての業務命令……一刻も早く、まどいちゃんの仕事を邪魔してくれ』
『退職願いは人事宛てでいいか?』
『──つい先日、僕は倉庫で恐ろしいものを見たんだ…』
『お、おう…』
『大量に仕入れられた、水玉模様の赤いオーバーオール…! サーカスか、それともクリスマス商戦用にデパートから大量注文でも入ったのかって僕は聞いたんだ』
『あ、ああ…』
『そしたら“次の流行はあたしが作るのさ”なんて言うんだよ。信じられるかい? 赤の! 水玉の! オーバーオール! プライド王女がそれ着て来日しても、絶対に流行らないよ』
『だろうな…』
『半年持つかも怪しいぜ、あの店……ってわけで、君にはまどいちゃんの壊滅的なセンスをどうにかしてほしいんだよね』
『無茶言うなよ』
『ファイアマンもヒートマンもヒノケンさんがデザインしたんでしょ? そのセンスでなんとかしてくださいおねがいします』
『悲壮感こもってんな……つーかなんでヒートマンのこと知ってんだお前』
『オフィシャルなので』
『答えになってねーよ……ま、ガキでもオーナーはオーナーか。頼まれてやるよ』
『よろしくー。あ、給料は応相談で』
ヒノケンさんと宙が話している間、ナビ同士でも交流を深めた。ファイアマンも一応ヒールナビではあるが、性質で言えば陽キャのヤンキー的な位置付けだ。一度仲良くなってしまえば、気のいい兄貴分的な側面が強い。トードマンはもろに可愛い後輩系だし、割と相性は良いんじゃなかろうか。
「そんじゃなんだ、お前……『S』に会いたいってだけでウラランク上げてってんのか?」
「うん。これも愛のなせるわざってやつだね」
「会ったこともない愛ってなにケロ?」
「そりゃぁ……ミーハー根性ってやつだね、うん」
「どのへんが愛なんだオイ」
「アイドルに『好き好き、大好き!』とか言ってる人とかいるでしょ? そんな感じの愛さ」
「熱さの欠片もねぇな…」
「実際の人となりも知らないのに、本気で愛せるとかありえないでしょ。最初は好奇心、次があったらフレンドシップ、行くところまでいきゃ愛情さ」
「意外とドライだケロ…」
「トードマンってさ、美少女カスタマイズとかないの?」
「冗談でもやめてほしいケロ!」
そんな感じでお喋りに興じていると、ようやく雇用条件などの詳細が纏まったようで、オペレーターズからお声がかかった。ヒノケンさんとファイアマンいわく、ウラランキング三位の座についているのは『コピーマン』だそうだが……その居場所はまだ掴めていないらしい。
『奴は必勝を確信するまで姿を現さねえらしくてな。掲示板やらなんやらで、オレ達がアイツを狙ってるってのは知ってるだろうが…』
「──ああ……よーく知ってるぜ。元WWW幹部の『ヒノケン』と、そのナビ『ファイアマン』」
『むっ…!?』
最近は話の腰を折って登場するのが流行っているのだろうか? いくら裏とはいえ、スクエアでの戦闘はご法度だというのに、僕らへ向かって歩いてくるナビたちはやる気満々だ。それすなわち、横暴がまかり通るほどの強さと地位を兼ね備えているということだ。
『あれは……なんか見たことあるな……えーっと…』
「あ、もしかしてダイブマンじゃない?」
「ほう、よく知ってるじゃねえか坊主。その通り、
「ウッス!」
「へへ、久しぶりだなファイアマンよぉ…!」
「テメェのせいでウラランカー落ちしちまった恨み、晴らさせてもらうぜぇ!」
ダイブマン……と思いきや、ダイブマンの性能をコピーしたコピーマンのようだ。その周りにはヒールナビが三人、僕たちを逃がさないように広がっている。セリフからして、元ウラランカーなのだろう。彼らのような存在を見ていつも思うんだけど、量産型ナビでありながらランカーに至るのって地味に凄いよね。僕やロックがνガンダムだとすれば、彼らはジム……いや、ジムは言い過ぎか。そう、ジェガンくらいの性能なのだ。
「あぁん? …ああ、どこかで見たと思ったら四、五、六位の雑魚どもか──おおっと、“元”をつけ忘れちまった」
「おいおい、ファイアマンよ。ずいぶん余裕じゃねえか……逃げられるとでも思ってんのか?」
「逃げるもなにも、オレはもうランカーじゃねえからな。現ウラランカー四位は……コイツさ」
「なにっ!?」
「へへ、こちらが最強のナビと名高いトードマン様よぉ…! 先生! やっちまってくだせぇ!」
「ケロッ!?」
「ほう……まさか人気アナウンサーの持ちナビがウラランカーとはな。ファイアマンには相性で勝ったのかもしれんが──地力でオレに勝てると思うなよ!」
「ケローーーッ!?」
「…ランカーじゃなくなったってんなら丁度いいぜ! コピーマン様に譲る必要もねえ──行くぞオラァァ!!」
「ケッ! 燃えカスが徒党を組んだところで、火種にもなんねえよ!」
「トードマン様! 周りの雑魚は僕たちに任せてください!」
「おかしいケロ! 違うケロ! ──来ないでほしいケローー!」
四対三ではあるが、こちらには雑魚殲滅に定評のあるファイアマンがいる。大火力の火炎放射が火を吹き、前方の敵全てをまとめて薙ぎ払う。そして呆気なくやられるヒールナビたち……お礼参りと言うなら、対策とかしてくればいいのに。まあそれはともかく、炎に紛れて地面に潜り込んだコピーマンがちらりと見えた。いつのまにかフィールドは水にまみれ、水面下には
「がんばれ、トードマンさま…!」
「いい性格してやがんな、お前…」
「見てないで助けてほしいケロー!」
「だってさ、ファイアマン」
「ったく、しょうがねぇな……おいコピーマン! 弱点をついた程度でオレに勝とうなんて──百年速えんだよ! “フレイムサークル”!」
──おぉう。そこかしこから炎の柱が立ち昇り、凄まじい熱気が周囲を覆い尽くす。蛇のようにうねり、水面に突撃していく炎……一見すると無駄な行為のようにも見えるが、その効果はすぐに表れた。爆発的に水蒸気が広がり、水面がぐらぐらと煮立ち始めたのだ。
「熱いケロー!」
「ぐぁっ熱っちゃちゃっ!!」
「──隙あり! “アクレツザン”」
「ぐぁっ…!? ──ぐぅぉおお!!」
熱に耐えきれず飛び出してきたコピーマンを、フミコミザンとパラディンソード、フミコミクロスの連撃PAで滅多斬りに刻みつける。そしてデリート寸前のところで攻撃を止め、そのまま剣を突きつけた。
「トードマン様の恐ろしさが理解できたか? ならばウラランク三位の証を寄越してもらおうか……それと二位のナビの居場所を吐け!」
「いい加減にするケロー!」
「アバババッ!」
『アバババッ!』
シ、シビれたぁ……ショッキングメロディーってこんなに痺れるのか。現実世界の宙も連動してビクンビクン跳ねたようで、ケロさんが慌てふためいている。そしてそのまま彼女の胸元に倒れ込んだ手際は、見事の一言に尽きる。僕も真似したいところだが、悲しいことに女性型ナビが近くにいない。ちくしょう。
「はぁ……はぁ……くそ、このオレとしたことが…」
「後生大事にウラランクなんて守ってるから、こすっからいやり方でしか勝てなくなるのさ。猿真似を完璧にしたって、オリジナルは超えられないぜ」
「くっ…」
悔しげに呻くコピーマンから三位の証を頂戴し、ついでに二位の居場所も聞き出す。ナビの特徴を聞く限り、おそらくは『ミストマン』で間違いないだろう。ウラランクとは基本的に変動が激しいものだが、一位と二位だけはここ十年──というか、ランキングができた当初から不動らしい。気を引き締めてかからないと、デリートされる危険性すらある……あるが、セレナード様に会えるのならそのくらいの危険は仕方ない。可愛い褐色っ娘は貴重なのだ。そしてそれが電脳世界ともなれば、もはや絶滅危惧種である。
『光しょうねーん! 死んじゃダメー!』
『うう……悪いんだけど、
『びょ、病院じゃなくていいの?』
『ちょっと横になれば大丈夫…』
『わかったわ! トードマン、タクシー会社にアクセスして!』
「了解だケロ!」
…ううむ、転んでもただで起きないのは流石だ。年上のお姉さんに看病してもらえるとか最高のシチュエーションじゃんね。あわよくばエッチな展開になれば万々歳といったところだろうが……まぁ僕の性格を考えるに、ケロさん相手だともう少し慎重に進めるかな。存在そのものが拡散する波動のような女性だし、気を付けるに越したことはないだろう。さて、今日はもうウラインターネットに用はないし、プラグアウトするか。
■
僕の家には、基本的に無駄なものがない。装飾品に凝るタチでもないし、必要最低限のものしか置いていない。まどいちゃんも服にはこだわってるけど、部屋の内装とかには割と無頓着である。そんな僕の家だが……一点だけ異彩を放っているものがある。茶の間に掛けられた、高価そうな掛け軸がそれだ。実際に割とお高い一品なのだが、もちろん僕の趣味というわけではない。
デンサンシティのとある骨董品屋で、勧められるままに購入した掛け軸なのだ。いやまあ、とあるも何もみゆきちゃんの骨董品屋なんだけどさ。友達がいない彼女の寂しさを紛らわせるために、ちょくちょくと遊びに行ってたんだけど──あまりにも客がこないから、心配した結果がこれだよ。
店も品物も祖父から受け継いだものらしく、相続税以外は特にかかっていないが……それにしたって、実質的な収入が『占い』の料金だけってのは酷い。古物商許可は流石に取ってるようだけど、そもそも目利きの経験を積んでいるわけでもなく、仕入れのルートや人脈を受け継いだわけでもない。ぶっちゃけると完全に道楽である。
しかし道楽が許されるほどにお金持ちなのかと言えば、それもまた否である。遺産を食いつぶしつつ細々と経営している状態であり、いつの日か破綻してしまうのは間違いないだろう。まあネットバトルの腕もあるし、魂が見えるとかいう異能もあるから食いっぱぐれることはないにしても──友人として心配するのは当然だ。
「だからね、みゆきちゃん。もう少しコミュニケーション能力ってのを鍛えるべきだと思うんだよ。その喋り方がキャラ作りってのは知ってるけど、キャラ作ってない状態でもキャラ作ってんじゃないかってくらいクールだぜ──こう、なんというか……コミュ障っぽいとことか」
「キャラなんて……作ってない……コミュ障でもない…」
「ならもうちょっと人間関係広くしようぜー。骨董品店なんてさ、人脈の必要レベル激高だと思うよ? 常連さんとか作らなきゃいけないタイプの業種だろうし…」
「問題ない…」
「そもそも僕以外に友達いるの?」
「…」
スカルマンにPETの電話履歴とメールボックスを見せてもらうと、予想通りのお察し具合であった。というか業者とのやりとりがまったくないんだが、本当に経営者なのだろうか。いやまあ、どちらかと言うと占いが本業みたいなとこあるけどさ。
占い師として、店にいる間はミステリアスなキャラを貫き通すのが彼女流らしい。とはいえ、元の性格も大して変わらないと最近わかってきた。セリフの間に『…』を入れるか入れないかくらいの違いである。人付き合いは苦手で、少なくとも自分から友人を作るような行動には出ない。
「好きなことだけして生きてくのって、割と難しいよ? 働かなくても生きてけるくらいお金があるならともかくさ。結局先に苦労するか後で苦労するかの違いかもしんないけど……おんなじくらいの苦労でもさ、若い時の方が楽に感じるもんだぜ」
「…小学生のセリフじゃない」
「みゆきちゃんは魂が見えるんだろ? ──
「見える」
「見えるんかい」
おかしい。大人っぽさに定評のある僕が、小学生の魂と変わりないなんて……はっ! もしかしてこの世界に転移した際の変化は、若返りなどではなく──実は魂の形に則した姿を得たとかだったのだろうか。うーん……いや、きっと脳年齢が若いってことだろう。そうに違いない。人は幼児期がもっとも頭が良いらしいし、そのあたりの関係で小学生となったに決まってる。そうだそうだ……そうだといってよバーニィ。
「ま、後になって後悔だけはしないようにね。たまには商売っ気くらい出して、どっかに売り込みなんかするのもいいんじゃない?」
「わかった……こちら、空気清浄機能付き曜変天目茶碗となっております……お値段二百万ゼニー…」
「この前に掛け軸買ったばかりでしょ。というか……空気清浄機能を付けた茶碗に突っ込めばいいのか、曜変天目に突っ込めばいいのか、値段に突っ込めばいいのか…」
「今なら私の胸も触れる…」
「買った」
出会った時のやり取りから、僕とみゆきちゃんの間でよく冗談に使われる『胸を触る』云々。実際に触ったことはまだないが、そろそろ次のステージに移行する時がきたんじゃないだろうか。下品に言うなら、色々お触りできるくらいには気の置けない仲になったんじゃないだろうか。
ちなみに掛け軸を買った時は、膝枕のオプションが付いていた。そしてその日以降、特に理由がなくとも膝枕くらいはしてくれるようになった。ということは、この茶碗を買うことでいつでもおっぱいを触れるようになる可能性が無きにしもあらず。
「…っ」
おそらくは冗談のつもりだったのだろうが、自分のPETに二百万ゼニーという大金が送金されるのを見たみゆきちゃんは、ギクリと身を揺らして固まった。お金で体を売るような彼女ではないので、これは単なるきっかけ作りである。みゆきちゃんはクールビューティーであるものの、懐に入ると脇が甘いところがあるのだ。お着替えシーンとか普通に見せてくれる……まあ小学生の視線なんて気にしないって部分もあるだろうけど。
「支払い完了っと。じゃあ商品の方を…」
「…まいどあり」
「いや、そっちじゃなくておっぱいの方を…」
「………本当に触るの…?」
「──もちろん
わきわきさせていた手を止め、冗談交じりに肩をすくめる。そしてそのままみゆきちゃんの膝を貸してもらい、柔らかな感触を楽しみながらテレビ番組に目を向けた。二百万ゼニーという大金は、よく解らない茶碗に変わるだけの結果となった……なんてことは、勿論ない。
番組の合間合間にちらちらみゆきちゃんをうかがうと、なんだかソワソワしている様子が見て取れる。僕に胸を揉んでもらいたい──ってのとは少し違う。『あんなものに二百万ゼニーを払わせた』という一種の後ろめたさが、彼女を動揺させているのだろう。元から値段が二百万ゼニーだったのは確かだが、こんなもの誰が買うんだという考えは彼女も持っていたに違いない。
冗談だったとはいえ、胸を揉ませるというオプションを言い出したのはみゆきちゃん自身である。善人であればあるほど、多くを貰いすぎることに罪悪感を覚えるのは当然だろう。このムーブメントこそ『
しかし『金を払ったんだから揉ませるべき』と強硬に動けば、下卑た欲望は隠しきれず、僕への不信も形になってしまうだろう。今までエロムーブをかまさなかった訳ではないが、それは『子供のスケベ心』という、一種微笑ましいもの程度に抑えていた。だがここで無理に押すと、それはリアルな性欲を感じる──ともすれば嫌悪感を助長させる結果となってしまう。
しかしこのやり方なら、失敗したところで信用は失わない……お金は失うけど。女の子にエロいことをしたいのならば、北風よりも太陽にならねば成功しないのだ。おっぱい揉みたい。
「…」
「おっ、デンシレンジャーにホワイトが……新キャラだぜ、みゆきちゃん」
大好きなデンシレンジャーの新展開にも大した興味を見せず、なにやら考え込んでいるみゆきちゃん。『おっぱい揉む?』とか言い出してくれるのかな。そこで更に一歩退いてみるか、踏み込んでみるか──雰囲気の読み方が試されるな。
「…眠い」
「…えっ?」
「眠いから……寝る…」
予想外すぎて返答に困るんですけど。もう寝るから帰れということなのだろうか。もしや邪心を隠しきれていなかったのか……ううむ、しまった。それはつまり、今までコツコツ築いてきた親愛も半壊したということになる。エロ抜きにしても、みゆきちゃんは大切な友達だ。仕方ない、エッチな関係は諦めて友達付き合いしていくことにしよう。
「すごく眠いから……絶対に一時間は起きない…」
「…ん?」
「…」
それ以上言葉にすることなく、みゆきちゃんは座布団を枕にして仰向けになった。色気のない灰色のスウェットが少し捲れて、腹部があらわになっている。電灯の光を遮るように、片腕で両目に蓋をしてしまったが──頬も耳も真っ赤になっている様子が見える。
ふむふむ、なるほど……え? 可愛すぎて頭おかしくなりそうなんですけど。おっぱいだけで済ませられる気がしない。しかしやりすぎて嫌われるのも避けたい。生殺しというのはこのことだろう。とりあえず右手をそろそろと動かし、みゆきちゃんのお腹に触れる。
「…っ、ん…」
少しだけビクリと震えたが、気にせずに撫で回す。しっとりと指に吸いつく肌は、若い女性特有のきめ細やかさを感じさせる。お腹を触ったという、たったそれだけのことなのに──どこか熱さを感じさせる吐息を零し、何かに耐えているみゆきちゃん。耳たぶまで真っ赤になっていて、心臓の鼓動がこちらまで聞こえてきそうだ。
外出時以外ノーブラということはリサーチ済みなので──見りゃわかるけど──ホックを外す手間もない。いよいよスウェットの中へ手を潜りこませると、思わずといった風にみゆきちゃんの腕が僕の手を掴む。
「…っ」
しかし先ほど自分で言った言葉を思い出したのか、掴む力はすぐに弱々しくなった。僕はその手を掴み返すと、恋人繋ぎにして掌の感触を味わう。子供の僕と大して変わらない大きさで、指の細さはそれ以下だ。
安心させるように、強弱をつけて握り続ける。しばらくそうしていると、みゆきちゃんの緊張がほぐれていく様子が見て取れた。体もすっかり弛緩しきっちゃって、警戒心のない小動物を前にした心境である。両目は未だに腕で塞がれたままだが、逆にそれがエロい。素人投稿モノによくある、手のひらで目だけ隠してる系のエロさだ。
さて、みゆきちゃんの緊張も緩んだところで続きといこう。スウェットに手をかけ、少しづつ上に捲りあげていく。またぞろ彼女の体が少し固くなったものの、先程とは雲泥の差だ。問題ないと判断し、続行する。
仰向けの状態では、背面が非常に捲りにくいが──僕が四苦八苦していることに気付いたのか、少しだけ体を浮かしたみゆきちゃん。ぐっすり寝ている筈なのに、まったく献身的なことだ。
そうして露出した彼女の胸は、仰向けだというのに崩れておらず、張りのある形を保っている。普通はシリコンでも入れなきゃこんな状態で美乳は保てないだろうが……さすが創作を元にした世界。男の理想を壊さないぜ。
「ひぅ、んっ…」
小ぶりのお椀のようなみゆきちゃんの胸を、手で覆うように触れていく。女性の胸とはそもそも性感帯ではないが、開発して後天的に興奮を得ることはできる。とはいえ今までセックスしてきた娘たちの反応を考えると、この世界の女性の胸は性感帯としか思えない。
それを示すかのように、みゆきちゃんの興奮も徐々に高まっている。固くなった乳首をキュッとつまむと、声にならない声が喉にくぐもった。快感に耐えるように口元が引き結ばれているが、その様子がなんとも可愛らしい。
昂ぶりが最高潮に達したのか、ふにゅふにゅと胸を触るだけで、身を捩らせるまでに感覚が鋭くなっているようだ。内股を太ももで擦る姿が、実に淫靡である。
そんな状態をしばらく続けた後、僕は唐突に乳首を抓り上げた。緩い刺激に慣れきっていたみゆきちゃんの体が、ビクンと跳ねる。それと同時、達した様子もうかがえた。乳首だけでイクなんて、栗田さんだけだと思ってたぜ。
「…っ……ぅ、んっ…」
息を荒げるみゆきちゃん……スウェットと同じ色をしたズボンには、黒い染みができている。雌のフェロモン臭とでも言えばいいのか、男を興奮させる香りが部屋に広がる。さっきから勃起しっぱなしだった肉棒が、更に硬さを増していくのがわかった。
ここまでいけば大丈夫だろうと、みゆきちゃんの上体を抱き起こす。口の端から零れた唾液を舌で掬い取り、そのまま唇を重ねて舌を絡ませる。くちゅくちゅとイヤらしい水音が部屋に響き、僕たちはお互いの口内を
そのまま腕をみゆきちゃんの下半身に伸ばすと──ようやく目を開いた彼女が、その腕をガシリと掴んだ。
「…みゆきちゃん?」
「…一時間、経った」
「えっ」
えっ。
「…今日はおしまい」
「そ、そんな殺生な…」
箪笥からゴソゴソと着替えを引きずり出し、ふすまを開けて部屋を出ていくみゆきちゃん。ギンギンになった僕の息子は、いったいどうすればいいのかと途方に暮れていると──ふすまがほんの少しだけ開き、みゆきちゃんの瞳が覗いた。
「…次は……三百万ゼニーの壺を仕入れておく…」
「お高すぎるんですけど!」
「
「予約します!」
そっとふすまが閉じられる。よくは見えなかったけど、頬と耳はさっきよりもずっと赤かったように感じた。ううん、手玉に取ったようで手玉に取られた感。しかしみゆきちゃんの体を好きにできるのなら、
次の話はどれがいいですか?
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