さてさて、まどいちゃんを捕まえたことで事件も解決──といきたいところだけど、そうは問屋がおろしちゃくれない。WWWの新しい本拠地は先ほど彼女が教えてくれた……となれば、『まどいちゃんが拘束された事実』をあちらが掴む前に、制圧作戦を実行する必要がある。また逃げられちゃたまんないからね。
まどいちゃん自身は協力する姿勢を見せているが、どこにスパイが入り込んでいるかわからない現状、早急に手を打つ必要がある。そのために色々と準備はしていたんだけど、予想以上に急転直下で少しばかり準備不足だ。とはいえ、人生において万全で挑める機会など意外と少ないものである。手持ちのカードで勝負するしかないだろう。
班長に連絡し、精鋭部隊を緊急召集……数時間後には作戦を開始する流れかな。前回の失敗の原因は、ワイリーお爺ちゃんもろともWWWを壊滅させようと欲張ったせいだ。しかし現状であれば、おそらく末端は散りかけている上──幹部も日暮さん、まどいちゃん、ヒノケンさんが消えて半壊状態だ。同じ轍を踏む愚を犯すよりは、多少の取りこぼしは覚悟で電撃戦を決行するだろう。
まったく、やいとちゃんの誕生日前だってのに
──お、オフィシャル本部からメール……作戦決行は三時間後か。現地集合? 無茶苦茶言いやがる。うーむ……まあオフィシャルって、その性質上ほとんど個人プレイだからなぁ。軍隊や警官と違ってチームプレイのチの字もないし、そもそもそんな訓練もない。むしろ着いた順に突撃していった方がいいまであるな。
しかしここまできたら、熱斗くんへの協力要請も厳しいか。いきなり『WWWぶっ潰しに行くから一緒に行こうぜ!』とか言い出す友人とか、友達やめるわ。正直、彼がいると
「待てコラー!」
「…」
…ん? あ、やっと炎山くんがきた──と思ったら熱斗くんがその後ろを追っかけるようにくっついてきた。なんだなんだ、いつのまに知り合ったんだ君達。やはり運命は彼らを結びつけているのだろうか? …とか言ったらホモホモしくてちょっとアレだけども。
「お疲れ様っす、炎山先輩。ところで熱斗……いつから男のケツを追いかける趣味を?」
「ちげーよ! …っていうか宙、コイツと知り合いなのか?」
「そりゃあオフィシャルの先輩だし……そもそも炎山先輩とブルースって割と有名だぜ。知らない? 『エースネットバトラー炎山』って」
「あ、なんか聞いたことあるかも──ってお前、そんなに有名ならなんであんなことしたんだよ!」
「ふん……俺は職務を全うしたまでだ。あまりしつこいと、お前も逮捕するぞ」
「あんなことって……まさか炎山先輩、やっぱりゆりこさんにエッチな尋問を? ──痛いっ!」
「お前も名誉毀損で逮捕してやろうか?」
「ごふっ……つ、ついに手を出すまでに気安くなってくれたっすね…」
「そらー!?」
いった……なんで小学生の腹パンがこんなに強いんだ。二階から落ちたときの三倍くらい痛い。その場でうずくまってしまうレベルだ。心配してくれる熱斗くんの優しさが身に沁みるぜ、まったく。
「ところで熱斗、『あんなこと』ってなに?」
「あ……そうだ! コイツ、まりこ先生のお姉さんにひどいことして…!」
「少し強めに問いただしただけだ。そもそも犯罪者に情けなど不要……今まで苦しめてきた被害者に謝罪もせず、のうのうと塾講師などしている時点で反省しているとは思えんな。もし俺の尋問で苦しんだというなら、それが罰だろう」
「こ、こんにゃろ…!」
「まあまあ、どっちも落ち着いて。炎山先輩……正論ってのは振りかざすものじゃなく、
「…」
「熱斗も。改心したとしても、やってきた事実は変えられない。もし君のパパが拷問を受けて廃人になったとして、次の日に犯人が『後悔している、反省するからどうか許してくれ』なんて言ってきたらどう思う? 加害者側と被害者側には、大きくて深い溝があるんだ。ゆりこさんの件は、炎山先輩もやりすぎたかもしれないけど、いわれのない理不尽とまでは言えないって……理解してほしい」
「誰だお前」
「その言い方はひどくない?」
「だって宙が真面目に話してるから…」
できればゆりこさんのところへ慰めックスでもしに行きたいところだが、あんまり時間もないし仕方ない。炎山くんもメールは見ただろうし、さっさと本拠地へ急ごう……ん? なにやら少し考え込んでいる。ちょっと言い過ぎただろうか? 班長とかが言うならともかく、後輩である僕には過ぎた言葉だったかもしれん。
「あー……すいません、ちょっと生意気だったっす。でも炎山先輩は、相手が誰であれ──
「…ふん。いつもそのくらい真面目に話せばいいものを……さっさと行くぞ」
「あいさー」
「ちょ、ちょっと待てよ! どこ行くんだ?」
「WWWを潰しにだけど」
「そ、そっか……ん? いやいやいや!」
「熱斗……流石にその歳でイヤイヤ期に突入するのはヤバイぜ」
「ちがうって! そうじゃなくて、おま、そんなちょっとコンビニ行ってくるみたいに…」
「光。一般人を相手にしている暇などないぞ……急げ」
「ムカッ! さっきからなんだよお前! ちょっと有名だからって偉そうに…!」
「事実を口にしただけだ。関係のないお前には──」
「まーまーまー。さっきからいちゃつき過ぎですってお二人さん。あと炎山先輩、彼がさっき言ってた『協力を仰ぎたい人』なんで……あながち無関係ってわけでもないっす」
「なに?」
「…? 協力ってなんだ?」
どうしようかな? 今の熱斗くんは、ゲームと違ってWWWとの関わり合いが薄い。精々がヒノケンさんと日暮さんの件だけだし──ん? いや、割と関わってるなおい。むしろ件数で言えば僕と同じくらいに関わってる。それに、根本は常に光一族の因縁が絡むのだから……うん、今の状況をちゃちゃっと説明し、選択を委ねよう。
「…君も来るかい? 熱斗」
「く、くるかいって言われても…」
「ネットバトルの腕を別にしても、今回の件は君と因縁がある」
「…因縁?」
「敵の親玉は君の一族を……君のお爺ちゃんを憎んでる。逆恨みも
「ど、どういうことだよ!」
「君が生まれるよりずっと昔──二人の科学者がいた」
『光 正』と『ワイリー』。お互いに認め合う研究者だったけれど、政府が日本の行く末を託したのは──光博士の推し進める研究だった。予算と人材の関係上、ITとロボット工学、どちらか一つに絞らざるを得なかったのだ。そしてその決断は正しく、クリームランドなどに次いでインターネット技術を発展させていった日本は、先進国の中でも頭一つ抜けた影響力を持つことになった。
もちろんワイリーさんにも相応のポストを用意したそうだけど、彼はそれを蹴ったらしい。まあ事実上ライバルの下につく形になるんだから、プライドが高そうなワイリーお爺ちゃんには耐えられなかったのだろう。
その恨みは鎮まることなく、沸々と滾る憎しみを糧に、『光博士が形作った世界』を破壊するために力を蓄えていたのだ。そしていま、明確な災害となって世界を襲いかけている。
「お爺ちゃんとWWWにそんな関係が…」
「どうする? 一緒に来るなら、オフィシャルパス渡しとくけど」
真面目な顔でうつむく熱斗くん。炎山くんが何も言わないのがちょっと意外だけど……もしかして彼ら、ネットバトルしたんだろうか。僕のところにくるのが遅かったのは、戦闘中で発信を確認できなかったからなのかも。となれば、戦闘に関しては足手まといにならないと確信しているのだろう。
「…頼む!」
「了解。光博士……君のパパには僕からメールしとくから、今は集中しときなよ」
よしよし、これで戦力アップだ。アクアデータもエレキデータも厳重に管理してあるとはいえ、何があるかわからないからね。掛け金がかからないなら、保険というのはあるだけかけとくもんだ。まあ正しくいうなら熱斗くんの危険がチップみたいなものだけど……さっき言った通り無関係じゃないし、蚊帳の外におくのもアレだしね。どっちにしろ決断したのは熱斗くんだ。僕がそれに口を出すのは、おこがましいことこの上ない。問題があるとすれば──お子ちゃま三人で並んで行くのがWWWってところくらいだろう。
「子供三人揃ってなにしよう──WWWの本拠地に行きますの、っと。ちょっと笑えるっすねー」
「ふっ…」
「あれ、いま炎山先輩……笑いました? 笑ったっすよね」
「…気のせいだ」
「いや、笑ってたぜ。意地っ張りなやつだなー、炎山って」
「…お前に名前で呼ばれる筋合いはない」
「あ、先輩先輩。どっちも『光』なんで……下の名前で呼ばないと現場で混乱しますよ。お願いしますね?」
「…っ」
「俺は熱斗な!」
「僕は宙で」
「…」
黙り込んじゃった。ふふふ、いったいいつになったら名前を呼んでくれるのかと思っていたが、意外と早くなりそうだ。そう考えると、気の重い任務にも張り合いが出てくるぜ──さ、頑張るとしましょうか。
■
炎山くんの自家用ヘリは、中々に居心地がいい。技術が発展しているだけあって、揺れがほとんどないのだ。まあ空飛ぶリニアが実用化してるような世界だし、当たり前といえば当たり前か。しかし個人でヘリ所有とは、さすが世界有数の財閥のお坊ちゃまである。やいとちゃんとこも負けてはいないんだろうけど、やはりPET関連の技術が高いと強いね。
さて、時間も空いたことだし、今日の朝に貰った『ナビカスタマイザー』でも弄ってみるか。ほんとは今日の夜あたりにでも試すつもりだったんだけど、WWWの幹部やらドリームウイルスやらを相手にする可能性があるんなら、今やっておく価値はある……凶と出る可能性も否めないけど。
「宙、それなんだ?」
「これ? これは『ナビカスタマイザー』って言ってね……ナビの性能を自分用にカスタマイズしやすくなるソフトウェアだよ」
「へぇー……オフィシャルってそんなのも使うんだな」
「や、これは僕しか使ってないよ。それに製品化前のプロトタイプってだけの話だから──数ヶ月以内には市販されるだろうし。熱斗のパパが開発したものだから、熱斗はもう少し早く貰えるかもね」
「ふーん…? なんで宙だけ使ってるんだ?」
「僕とマインのことでちょっとね……熱斗のパパに色々相談に乗ってもらっててさ。あの人が一番そういうのに詳しいだろうと思って、ちょこちょこ会いに行ってたんだよ。このナビカスも、それの一環」
「相談?」
「そそ。ほら、僕とマインって見た目も性格もそっくりだろ? 悪いことじゃあないけど、良いことばかりでもないのさ。このナビカスがあれば『明確な違い』が出るんじゃないか──って熱斗のパパがね。DNA構造……あー……根本的な部分は変化しないから、意味がない可能性もあるけどさ。それに成功したらしたで戦力ダウンするから、ちょっと微妙な感じ」
「…? よくわかんないけど、市販されるってことはロックマンにも使えるのか?」
「もちろん。むしろどんなPETにも必須と言えるレベルの技術革新だよ、これ。数年内にはほぼ全ての個人に普及するだろうね。さすが光博士って感じ」
「へえぇ…! やっぱりパパってスゲー!」
ピクリと炎山くんの眉が動く。親子仲が良好な光家と違い、彼の家庭環境はちょっとばかし複雑だからだろう。とはいっても、炎山くんは父親を尊敬しているし、炎山パパも彼を愛しているのは確かである。要はどっちも感情を表に出さないタイプだから、和気あいあいの家庭にはならないってだけの話だ。
「炎山はまだ貰ってないのか?」
「…俺には必要ない」
「ほんと素直じゃねーの! さっき宙も必須って言ってたじゃん!」
「あ、炎山先輩に必要ないのは事実だよ」
「へっ?」
「『ナビカスタマイザー』ってのは、つまり“簡易プログラミングソフト”だからさ。熱斗ごときでも理解できるように言うなら──」
「言い方!」
「つまり馬鹿でも理解できるように言うなら──」
「ひどくなってんじゃねーか!」
「まあ熱斗の好きなゲームで例えるなら……ナビカスってのは『RPGツクール』なわけ。実際にゲームは作れるけど、それは決まりきった枠組みの中での話だろ? 一から十まで自分の理想を詰め込めるわけじゃないんだよ。あくまで、専門的な技術を素人が簡略化して扱えるようにしただけ」
「…? なんでそれが炎山に必要ないって話になるんだ?」
「炎山先輩はブルースを一から自分で組むような天才だしね。本職顔負け……というより、玄人はだしってレベルかな。プログラムを自分でしっかり組める人だと、むしろナビカスは足かせになるんだよ」
「へー……炎山ってスゲーやつなんだな…」
「僕の先輩だからね」
「一気にスゴくなくなった気がする…」
「さっきからひどくない?」
最近、ちょっと僕の扱いがぞんざいだよね熱斗くん。ツッコミも前ほど激しくなくなってきたし、美人は三日で飽きる現象だろうか。いいさいいさ、なくなって初めて気がつけばいいのさ、僕の大切さに。いやまあ死ぬ気はないけども。
「…うん。バグもないし、これでいっか。どう? マイン」
『システムオールグリーンだぜー』
「オーケーオーケー、では見せてもらおうか……ユーモアセンスの力とやらを」
『うむ、任せ給え』
「なにいってんだ? お前ら」
「いやさ、ナビカスプログラムに『ユーモアセンス』っていう面白いのがあってね。組み込めばナビが面白い話をし始めるってやつなんだけど……ただでさえセンスMAXなマインに使えば、世界を笑いの渦に巻き込むだろうと思ってさ」
「いやな予感しかしねぇ…」
なにを言うんだ熱斗くん。僕たちなら、たとえ『今から面白いジョークを言うよ』なんていうハードル爆上げな前振りすら、凌駕して見せるとも。行こうぜ僕、どんな冷めた空気も破裂させるような──炎山くんでも爆笑してしまうようなユーモアを見せつけてやろう。
『…っ! 宙! インビジブルを使って! 速く!』
「オッケー! スロットイン──送ったぜマイン。でも急にどうしたって言うんだい?」
『僕にインビジブルを使ったことによって……新しいチップが手に入ったんだ!』
「わお、そりゃ凄い! いったいどんなチップ?」
『“ステルスマイン”……なんちゃって!』
「ひゅー!」
『いぇーい!』
「…」
「…」
『あいうえお作文行きまーす! お題はやいとちゃん!』
「オッケー。じゃあやいとちゃんの“や”!」
『やっぱり可愛い!』
「やいとちゃんの“い”!」
『イケてるあの娘は!』
「やいとちゃんの“と”!」
『トロピカル!』
「オチは?」
『なし!』
「ひゅー!」
『いぇーい!』
「…」
「…」
『喉が
「その心は?」
『い たいよぉぉぉぉー!!』
「やっふぅ!」
『ふー!』
「…」
「…」
『ものまねいきまーす!』
「よっしゃこ──」
「…宙」
「──はい、炎山先輩……あれ、いま宙って…」
「少し黙れ」
「…スイマセン」
『…ゴメンナサイ』
うん……ちょっと大人しくしとこう。とりあえずパーフェクトフルシンクロには影響がなかったようなので、ただの強化パーツとしての意味合いしかなかったな。まあ熱斗くんのパパは優秀な科学者だし、いつか僕とマインの諸々を解決してくれると信じよう。一人で抱え込むなんて柄じゃないし、困ったことがあれば誰かに泣きつくのが僕流なのだ。
■
放棄されたWWWの本拠地は、設備もセキュリティも大した造りだったけど──移転先の方はというと、もはや哀愁を誘う程に寂れていた。おそらくドリームウイルスを完成させるために必要な機器のみを運び込んだのだろう。廃墟と言うに相応しい白い館が、山の中腹に鎮座していた。
「なあ、なんか発射台みたいなのが見えるけど……アレなんだ?」
「発射台で間違いないよ。内部の機械にドリームウイルスを仕込んで、シャーロが保有する人工衛星へ物理的にハッキングするつもりだろうね」
「えっと……つまり?」
インターネットは全て繋がっている──それは事実だが、だからといって一つのエリアからドリームウイルスを侵食させていく方法では、征服も支配もできやしない。“ドリームウイルス”とは最強クラスのウイルスではあるが、別に倒せないってことはないんだよね。僕でも炎山くんでも熱斗くんでも、普通にデリートはできる。実際ゲームでも倒されてたわけだし。
ならなにが問題かって、その名の通り“ウイルス”という点だ。つまり──増殖するんだよ、あれ。そのへんのメットールと同じような頻度でドリームウイルスが出てくるようになれば、電脳世界はおしまいだ。
とはいえそれを一つのエリアから増殖させていくなら、おそらくオフィシャルのデリート速度の方が上回る……結果として完全に消滅させることができるだろう。しかし人工衛星内部でウイルスを増殖させ、世界中へ同時に送り込まれたら、もはや事態の収拾はつかない。
ドリームウイルスの容量は非常に膨大だ。普通ならデータを他所へ送り込むことすら困難である。しかしシャーロの人工衛星、あるいは宇宙局……そしてアメロッパ“ANSA”のアンテナであれば、その常識外の通信量を利用して世界中にドリームウイルスを送り込める。
その中でもっとも物理的なセキュリティが薄い人工衛星を狙ったのだろう。あのミサイル発射装置は、衛星を経由してドリームウイルスを世界中に撒き散らすためのものなのだ。
──というようなことを熱斗くんにわかりやすく説明してさしあげた。
「ええと……つまり、俺達はアレを発射させないようにすればいいんだよな?」
「ううん。そもそもドリームウイルスはまだ完成してないから、今回は犯人たちの確保が目的だよ。もちろん僕たちは体格的に不利だから、電子制御されてるセキュリティやら、それを管理防衛してるヒールナビやらを制圧してくって訳」
「そ、そっか…」
「というかドリームウイルスが完成してたら、流石にもっと緊迫してるよ。一刻の猶予もないだろうし」
「理解できたなら、さっさと配置につけ。そろそろ勘付かれていてもおかしくはない」
「お、おう!」
熱斗くん……炎山くんの居丈高な命令にも突っかかる様子はない。緊張してるのかな? たぶんWWWへ突撃すること自体にじゃなくて、物々しい周りの雰囲気に気圧されているのだろう。集団の足並みを乱すことへの恐怖とは、人間としての本能に近いらしいし。
僕? 僕は逆だ。他人に合わせるのは得意だが、単純に突入作戦そのものへの忌避感が強い。『オラーッ!』てPET持って突っ込んだら、銃を構えられてたとか洒落になんないし。絵面だけ見たらちょっとしたギャグだが、実際にそうなったら恐ろしすぎる。まあ今の時代の重火器って全て電子制御だから──先に電脳戦で勝っとけば使用不能にできるらしいけどさ。だからこそリアルの腕っぷしよりネットバトルの強さが重宝されているのだろう。
「──総員、突入」
班長が発した抑揚のない声を合図に、廃墟の入り口へと向かう。ボロっちい見た目だけど、よくよく見れば電子制御された堅固な扉だ。炎山くんが管理システムへと侵入し、鮮やかなハッキング手口で鍵を解除する。
──いやほんと、この世界って強くさえあれば他人のプライバシー覗き放題だよな……空き巣もし放題だぜ。とはいっても、そんな技術をもった人間なら、空き巣なんてするまでもなく稼げるだろうけど。
「五班に分かれて散開──っ!?」
『フハハハハ!! よく来たな、オフィシャルの犬ども!!』
おっ……館外部に取り付けられたモニターにワイリーさんが写り込んでいる。まさに悪の科学者といった感じで、行動そのものも悪の様式美が感じられる。モニター越しの宣戦布告とかって、かっこいいよね実際。
「──隊長。ここのモニターだけではなく、全国で同時放送されています」
「なに? この期に及んで……何が目的だ」
『我々WWWは、本日を持って電脳世界の終焉を宣言する!! シャーロの人工衛星をハッキングしたのち──終末戦争が始まるのじゃ! デリィィィィト!! …ゲホッ、ゴホッ!』
「あらら、血圧高そうなのに興奮するから…」
『やかましい!!』
ぼそっと呟いただけなのに、よく聞こえたなワイリーお爺ちゃん。集音器の性能どうなってんだろ。もしかしてラブホの屋上に取り付ければ、全室の状況を把握できるんじゃなかろうか。しかしゲームでもそうだったけど、全世界に向けて宣戦布告とか、むしろ総力をあげて潰されるとか思わないんだろうか。
『フハハハハ! 全世界の人間に! オフィシャルの無能を見せつけてやろうではないか!』
「ふん……ドリームウイルスも完成していないのにか? 負け犬の遠吠えにしてはよく通るが──無様を晒したくなければ、さっさと投降しろ。随分と人の気配が薄いが……どうせ部下にも見限られたんだろう?」
「見限られたじゃと? 逆じゃ! ──無能な部下などWWWにはいらん! 始めから──ククッ、始めから有能な人間を雇えばよかったのじゃ! …データさえ手に入れば、資金が底をつこうが問題はないからのう!」
「なに?」
…なんか時間稼ぎされてる気がするんだけど、やはり話を聞くのもお約束ってやつなのだろうか? アクアデータはまあ、囮用にセキュリティも薄くしてあるからワンチャンあるかもだけど──エレキデータに関してはまず無理だろう。ワイリーお爺ちゃん、精一杯虚勢を張ってるだけ説。
『のう──“ダーク・雅”』
『契約は果たした……これ以上は私の関知するところではない。上手く逃げ延びるんだなワイリー』
『カッ……逃げる必要などないわ!』
「…! ダーク・雅だと!?」
「だ、誰だよ…?」
「凄腕の暗殺者だよ。なるほど……依頼料は高くつくけど、腕は確かだ」
「い、言ってる場合か!? これでデータ揃っちゃったんじゃ…!」
「いや、奪われたのはアクアデータだけのようだ……問題はない。エレキデータは──宙」
「問題ナッシングっす。ウラインターネット最深部に、ウイルスしこたま仕込んでセキュリティ強化しといたんで。仮に奪われるにしても、ワイリーお爺ちゃん確保するほうが絶対速いっす」
さっさと踏み込んで終わらせよう。ワイリーお爺ちゃんの言葉が本当なら、もう配下もほとんど居ないってことになる。少なくとも金目的の人間は消えて、ワイリーお爺ちゃんに心酔してるやつだけが残ってるのみだろう。
動画配信データを辿っても、大元は間違いなくここ……ダミーの拠点というわけではないようだ。ドリームウイルスを作製する機器が容易に動かせない以上、たとえワイリーさんを逃したとしてもWWWは終わりだ。新たに何かするにしても、年単位の時間が必要だろう。
班をわけて館へ侵入し、ワイリーお爺ちゃんの確保を目指す。誘った手前、目を離したくはないので、僕は熱斗くんと一緒だ。WWW謹製の防衛プログラムをバンバン突破していく様は、やはり天才を感じさせる。
「ふむ……流石は祐一郎殿の息子だ。素晴らしいバスティング技術…!」
「パパを知ってるの?」
「オフィシャルは祐一郎さんと話す機会が多いからね」
『俺は俺だ! 父親は関係ない!』 …などというキャラとは真逆で、熱斗くんは至極嬉しそうだ。ファザコンの気があるな……ま、ゲームでも重度のファザコンだったし、今更か。父親が偉大だと、息子は素直に尊敬しやすくなるもんだ。
──しかしもうちょっと緊張感を持ったほうがいいのではないだろうか? 僕以外のメンバーと親しくなるのは喜ばしいことだが、ここは敵地だというのに。
…いや、正直に言おうじゃないか。ちょっと嫉妬。ちょっとだけ嫉妬。別々の友達同士が仲良くなりだしたら、妙な気分になるあの感じだ。おいおい、熱斗くん? ほら、もう少し、こう、なんてーの? 僕を頼ってくれてもいいんだぜ。知らない大人たちの中で、唯一頼れる友人が僕だろう? くっ……ちくしょう、もう知らんぞ。後ろで拗ねとこう、そうしよう。気付いてくれるまで拗ねとこう、そうしよう。
「…ん? なあ宙、どうし──っ!?」
「なっ、しま──っ!?」
ボッ……ボッシュート! いきなり床に穴が空いて、皆が落ちていく──ぬぐぅぅぅ!! 古典的すぎるだろちくしょう。後ろに控えていて良かったのか悪かったのか。落ちていく同僚五人は無理だったが、ギリギリ熱斗くんの手は掴めた……けど、キツイ…! 小学生の片腕で小学生を支えるのは無理がある。
「くっ…!」
「ダメだ宙! このままじゃお前まで落ちる!」
「わかった! さよなら熱斗、君のことは忘れない!」
「も、もうちょっと頑張ってくれよ!」
「そうは言っても…!」
「む、無理そうか?」
「う、ぐぐ……さっき僕をほって楽しそうにしてた…」
「いま言う!?」
「ぬ、ぐ…! でぇぇい!」
ふぅ……火事場の馬鹿力ってのは本当にあるんだな。あと物理法則が違っていてよかったよかった。掴むところがないのに、ほぼ同じ体重の僕が熱斗くんを引っ張りあげるって、元の世界の物理に喧嘩売ってるぜ。
──お、通信が入ってる。
『すまん! そちらは無事か?』
「はい、班長。そちらはなんで無事なんですか?」
『その聞き方はひどいな! ──まあ三階程度の高さから落ちたくらいだ。皆、特に問題はない』
「問題がないのが問題な気が……いえ、では先に進みますね。何かあれば通信お願いします」
『ああ、できるだけ早く合流したい』
やっぱ銃弾とかも平気な気がしてきたぜ。しかし一気に戦力減かぁ……電脳戦はともかく、フィジカルが必要な事態になったら不安だな。しかし合流できる保証もない以上、前に進むしかないだろう。
まったく、なんでエグゼの世界はボッシュートが好きなんだ? シリーズ伝統とすら言えるな。そういやジゴク島やらオラン島やらでも、やいとちゃんがボッシュートされてたっけ。その未来がくるかは知らんが、その時は颯爽と駆けつけて助けたいものだ。
「…この先、ちょっと怪しい感じだよな」
「だね。ワイリーお爺ちゃんの性格から考えても、
「よ……よし!」
「ちょっと待った」
「な、なんだ?」
「ここから先は電波が強くてセーブできないけど、大丈夫?」
「なに言ってんの!?」
いやほら、エグゼの伝統だから……一応言っておいた方がいいかなって。ま、現実にセーブ機能なんてつけば、つまんなくなることこの上ないか。失敗のない人生なんて、ぞっとしないぜ。
そんなことを思いながら、重厚な鉄の扉を開き外へ出る。遠目からも見えていた発射場がそこにあり、ドリームウイルスを完成させるためと思しき機械も繋がれている。焦った顔のワイリーお爺ちゃんもいるし、やはり先程の会話は虚勢だったことがうかがえる。
オフィシャルの失態を全世界に放映とか言ってたが、自分が追い詰められる動画を配信してる自覚はあるのだろうか? いまだにカメラは回っているようだし、ここはキリッとした顔をしておこう。上手くやれば『キャー! 抱いてー!』とかいう女子が寄ってくるかもしれん。
「ワ──」
「ワイリー!」
「ぬぅっ…! やってきおったか…!」
「もう逃──」
「もう逃げ場はないぞ! ネットワーク支配計画なんて諦めるんだ!」
「ぬぅぅぅ!!」
「オ──」
「オフィシャルも集まってきてる。観念しろい!」
「──熱斗!」
「うわっ!? な、なんだよ宙」
「僕にも喋らせてくれ」
「えぇ…?」
この主人公体質め。しかしこの世界においては、『お約束』というのが案外とバカにできない。例えばワイリーお爺ちゃんだけど、彼は発射装置の近く──二階の大上段から僕たちを見下ろしている。馬鹿と煙とラスボスは高いところが好き……というお約束を忠実に再現しているのだろう。
「くるなぁぁーー!! 一歩でも動けばこの自爆装置のスイッチを押すぞ!」
「げっ…! 嘘だろ!?」
そういえばゲームでも爆発オチだったっけ。まあでも爆心地にいたワイリーさんがピンピンしてたんだから、きっと大丈夫だろう。たぶんワンピースの世界の爆弾なみに低威力と推察される──されるが、だからといって自分の体で試したいかと言えば、圧倒的に否である。
「熱斗、刺激しちゃダメだ」
「あ、ああ……でもどうするんだ? これじゃ一歩も動けないぜ」
「大丈夫。オフィシャルでは犯罪者に対する交渉術も教えられるから」
「不安すぎる…!」
「くるなぁぁぁーー!!」
「まずは落ち着かせよう。ワイリーお爺ちゃんだって、できれば自爆なんてしたくない筈だ。まずはこっちの話に耳を傾けさせるんだ」
更年期障害か痴呆老人かといった具合のワイリーお爺ちゃん。もはやこちらの言葉など耳に入っていないだろう。そんな状態の人間を落ち着かせるにはどうするか? …オフィシャルで学んだネゴシェイト技術がいま光る。
「ワイリーお爺ちゃん! 僕です! ──あなたの嫡子であるリーガルの隠し子……宙です!」
「なっ──なんじゃと!? 本当か!?」
「嘘です!」
「クソガキがぁぁ!!」
「ブチ切れさせてんじゃねーか!」
「まあ一応、こっちの話に興味を示したということで…」
全方位バーサク状態から、一点集中バーサクへと移行したのだ。ワーストからバッドくらいになったと考えるべきだろう。まずは話を聞いてもらわねばどうしようもないのだから、僕へ関心を抱いた時点で交渉としては充分。
「──こんなことをしてなんになるんですか? あなたの求めた世界は、こんなやり方で目指すものではなかったでしょう」
「知った口を利きおって…! 貴様にワシの何がわかると言うんじゃ!」
「人々の幸せを願ってロボット工学を学んだんでしょう? あなたが唯一認めた人間……光博士としのぎを削りあい、お互いを高めあった。その時のことを思いだしてください」
「…っ! 貴様、なぜそれを…!」
「確かにあなたは研究者として負けたのかもしれない。けれど、今のあなたはそれ以上に惨めだ。敗北者として身を退くでもなく、諦めずに立ち上がるでもなく──ただただ勝者への復讐に身を染めて! あげく、死んだ男が遺したものにまで唾を吐く…! これが滑稽じゃなかったらなんなんだ!」
「き、貴様…!」
「宙…」
「熱斗……ちょっとカメラ写り確認してきてもらっていい? いますごくキマッた気がする」
「ちょっと感動した俺が馬鹿だった…!」
ちょっとじゃなくて存分に感動すればいいものを。まあでも、これで僕がある程度『事情を知っている』ことは、ワイリーお爺ちゃんに理解してもらえただろう。後は実際にネゴシェイトだ……冗談ではなく、法律がガバガバなこの世界だからこそ──司法取引のラインがゆるゆるなこの世界だからこそ、説得は割としやすいのだ。
「故人である光正博士に“勝った”と言いたいなら、あなたが目指したロボット工学を発展させることこそが、
「ふん…! この国がそれを阻んだんじゃ!」
「それは何十年も前の話……日本の行く末が不安定だった時の、苦渋の選択によるものでしょう? 今の日本は、押しも押されぬ富裕国です。ドクターワイリー、あなたほどの科学者であれば国から予算を分捕って、一大分野を築くことだってできる筈だ」
「ぬっ…!」
「民間にもあなたを迎えたい人は絶対にいるでしょう。たとえばジョーモン電気の代表のお孫さん──彼は独学でロボット工学を推し進めようとしています。趣味の範疇なせいか、孫馬鹿な代表もそれほど援助はしていませんが……第一人者であるあなたが協力するとなれば、積極的な支援も約束してくれるでしょう。オフィシャルのように半官半民の経営であれば、技術も浸透しやすくなる……あなたが望んだ『ロボットと人間が共存する世界』も、いつの日か形になるかもしれない」
死刑だの無期懲役だのがないのなら、目指すべきは『更生』である。いまは復讐に身を染めたワイリーお爺ちゃんだけれど、かつては人々の幸せを心から願ったような人物だ。実際に自分の理想が形になる可能性があるなら、戻ってきてくれると信じたい。
「破壊や支配を目指す限り、あなたが光博士の上に立つことなどありえません。偉大な研究を冒涜した者、
「…」
「…復讐はオナニーと同じです。スッキリするけど、何も生まない。終わった後には虚脱感だけが残る」
「おぉい!?」
「条件は提示しました。WWWは構成員も高度な技術を持った人間が多い……まるごと法人として転換するなら、オフィシャルはそれを支援し、恩赦を出すと約束します。ドクターワイリー──これが光博士へ一矢報いる、最後のチャンスです。ご決断を」
「…!」
うーん……理のある説得より、感情を剥き出しにした説得の方が、あるいは有効なのかもしれないけれど──ピンク色に汚れきった僕の心じゃ、これが限界だ。それに、半生近くを復讐の準備に費やしたワイリーお爺ちゃんだ。この説得を受け入れるということは、何十年もの時間を無意味にしたと認めることになる。
たとえ正しい道でも、効率がいいとわかっていても、受け入れられないことはある。理不尽や不条理を飲み込んででも、感情を優先させる……それが人間ってやつだ。超絶かわいい子といざセックスしようとしたら、まさかの男の娘だった──その先にある葛藤こそが、人間を人間たらしめているのだ。答えに正解はなく、しかし選択したという事実が重要なのである。
「…振りかぶった拳の落とし所は、歳を重ねるほど難しい……僕はそう思います」
「ぬぅ…」
「だから──彼をここに連れてきたんです」
「へっ? 俺?」
「彼は『光 熱斗』! 光正博士の孫です! 親の報いを子に受けさせる法はありませんが──彼にはそれを受け止める気高い“覚悟”がある!」
(ちょっと待てぇぇーー!! もしかしてそのために誘ったの!?)
(大丈夫だって、熱斗。いい大人がこの状況で子供を殴るもんか。パフォーマンス、パフォーマンス)
(ク、クズゥ…)
(ク、クズはちょっとヘコむんだけど……わかったよ、僕も覚悟きめるよ)
「僕は『光 宙』です。認知はされていませんが、光一族の血は継いでいます。もちろん、熱斗兄さんで気が済まなければ──僕でもいい!」
(さり気なく俺の後にしてるー!?)
(痛いのはイヤなんだ)
(俺だってヤだよ! っていうか光一族の血を継いでるって大嘘じゃんか!)
(あのね、人類って極論で言えば全員血が繋がってるから。嘘は言ってないよ)
(ヒデぇ…)
友人にディスられまくって悲しい限りだ。僕は結果を考えた上で合理的に行動してるというのに……まあいいか。ワイリーお爺ちゃんは──俯いたまま考え込んでいる。薄っぺらい僕の言葉でも、多少は響いてくれたのなら助かるんだけど。
そもそも彼が本気で世界をどうにかしようと言うなら、こんな回りくどいことをせずに『ココロネットワーク』を利用した世界征服の方が手っ取り早いのだ。それをしないってことは、研究者としての矜持が残っている証だろう。
ココロネットワークが何かって? 要はあれだ、人類補完計画とか思考エレベーターとかそっち系のやつだ。人はみんな繋がっている──を物理的にやっちゃうやつだね。棒と穴で繋がるんなら僕も応援するんだけどさ。
「…ふん。気に食わんな、小僧」
「よく言われます」
「よく言われるんだ…」
「…今回は引いてやろう。じゃが貴様の思う通りになるほど、世の中は甘くないぞ。ワシはワシのやり方で世界を変える」
「法を犯さない限りでしたら、どうぞ存分に」
「カッ…! 最後まで憎たらしいガキじゃ!」
ん? なんか見逃す流れになってない? 僕の言い分が通らないなら、普通に逮捕案件なんだけど……え? ここで手錠出したら空気読めない感じなのかな。どうしよう。それともやっぱり科学者らしく、緊急脱出装置とかあるんだろうか。
『──ふん……老いぼれめ。所詮は貴様もそんなものか』
「…! 遅いお出ましじゃの」
『底意地の悪いセキュリティだったからな。製作者の性根が透けて見える』
「ご苦労……じゃが、ワシは降りる。後は好きにせい」
『言われなくとも、俺は誰の力も借りるつもりはない』
わー、フォルテさんだー。その手に持つものはもしや
かー。
…ヤバイヤバイヤバイ。これホントにヤバいやつなんですけど。嘘だろ? 『もし奪われても』だのなんだのとは言ってたけど、正直絶対大丈夫だと思ってたんですけど。『アレ』はほんとにまずい。洒落になってない。
──んっ? フォルテに気を取られていたら、ワイリーお爺ちゃんが消えた……全国放送状態でとんだ大失態じゃないか。オフィシャルの無能を晒すってアレ、成功させられてるんですけど。いや、とにかく今はフォルテだ。
たぶんワイリーお爺ちゃんは、ドリームウイルスを餌に彼を釣ったんだろう。フォルテが持つ『ゲットアビリティプログラム』は、ありとあらゆる能力を奪うことができる。ドリームウイルスが持つ“ドリームオーラ”を使えるようになれば、まさに鬼に金棒だ。
「──宙!」
「炎山先輩! …一人だけっすか?」
「落とし穴のせいで散り散りになった──状況は?」
「とりあえずあのナビを倒さないと、かなりまずいことになるっす。いやもう、ぶっちゃけフォルテさん倒したらミッションクリアっす……第一目標には逃げられたっすけど」
「…最大の目的は終末戦争の回避だ。問題はない」
「大問題が残ってますけどねー……めちゃんこ強いっすよ、あのナビ」
「何度も言わせるな。問題はない──この三人ならな」
「おお、ついに炎山先輩がデレたっす。なら期待に答えなきゃっすね……熱斗、準備は?」
「いつでもいけるぜ!」
「二度と戦いたくなかったんだけどなぁ……マイン.EXE トランスミッション──」
「オフィシャルが弱音を吐くな。ブルース.EXE トランスミッション──」
「画面越しでもスゲー威圧感だな…! ロックマン.EXE トランスミッション──」
『あいさー』
『…デリートする』
『行くよ! 熱斗くん!』
■
…くそ、予想以上の強さだ。三人がかりでもこれって、ほんとに強いな。攻撃を受けないようにしているとはいえ、割と攻撃は当ててると思うんだけど……やはり最強の名に相応しい。僕とは相性が悪い相手だ。僕が短期決戦を望むのは、極度の集中状態を長時間持続させることが難しいからだ。
別に弱点うんぬんではなく、人間として当たり前の話である。自分のペースでやれるならば、集中力を数時間以上保つことも不可能ではないが──瞬間的な判断を何度も繰り返す状態というのは、そうそう長続きするものではない。
現に熱斗くんや炎山くんのオペレーションも徐々に精度が落ちてきている。逆にフォルテはというと、彼は自律型ナビ故にそんなものは関係ない。というか、オペレーター側も多少不利になる程度でしかないのだ──普通は。
僕の場合、集中が切れて攻撃をくらうと、たぶん痛みで立ち止まったりうずくまったりするから──そのまま畳み込まれてゲームオーバーになりかねない。ああ恐ろしや。しかし、ここは多少の無理は承知でいくところだ。
だって──ぜんぶ僕の責任だから。
「宙、さっきからちょっと無茶しすぎだ!」
「…うん。そうだね」
「…? 宙、その腕の痣──いつ…?」
「さっき転んだ時にね。それより熱斗、今はバトルに集中してほしい」
「う、うん…」
『マイン……君はやっぱり、僕たちと同じ──』
『ロック! 前! ──喋ってる暇はないぜ!』
『…っ!』
データ、データ、データ。フォルテが持っているデータはなんとしても奪い返さなければならない。それが僕の贖罪だ。まさか奪われると思っていなかった……そんな軽率な考えで
「…な、なあ! 頭から血が──どうしたんだよ宙!」
「さっき転んだから、さ」
「嘘つけよ!」
「熱斗。集中」
「──後でちゃんと話してもらうからな!」
…速度は僕の方が速いんだ。倒せなくとも、隙を見て取り返すことくらいならできる。即席のコンビネーションは段々とリズムがあってきて、フォルテの呼吸もなんとなく感じられる。ブルースの剣が空を切り──空いた空間にロックがバスターを打つ。フォルテが片手を掲げ──ここだ!
『──ふん。見え見えだ』
『え…』
『マイン! う、うあ…っ!?』
『くっ…!』
──っ!? くそ、データに意識が行き過ぎてたか…!? まずい、追撃が──あれ、こない? なんで……ってヤバイ! エレキデータをセットしに──!? どうにか止めなきゃ…! いよいよ本格的にまずい。片手間で波状攻撃ってどういうバスターだよちくしょう。
「宙! 今は耐えろって──完成しただけならまだどうにかなるんだろ!?」
「…ダメだよ。セットされたら終わりなんだ」
「なんでだよ!?」
「うあっ!」
「宙! ──なんでそこまで無茶すんだよ!」
「あ──ごめん……熱斗……ほんとにごめん」
「謝ることじゃねーよ! それにまだ諦めちゃ──」
「
「そ、そら…?」
「もう……無理、か。本当に──熱斗……どうか許してほしい」
フォルテがエレキデータをセットした──そして
いや、奪われたとしても、本来であればそこまで被害は出ない筈だったんだ。ちょっとしたお茶目で仕込んだだけだった。まさかだろ? まさかこんな絶賛全国生中継でそれが開かれるなんて、夢にも思わなかったんだ。だから死に物狂いで奪い返そうとして──結局力不足だった。
──本当にごめん、熱斗。
『…っ!? なんだこれは…! 動画データ…?』
「ごめん……熱斗。まさかこんなことになるなんて…」
「さ、さっきからなんで俺に謝るんだよ……って、え──!?」
フォルテが開いた動画が全国のテレビに映り込む。そしてそこには──
『俺は桜井メイルを愛しています』
「ホギャァァーーーー!?」
『俺は桜井メイルを愛しています』
『俺は桜井メイルを愛しています』
「やめろぉぉーー!!」
『俺は桜井メイルを愛しています』
悪魔的リピート…っ! 百二十分耐久…! 告白動画…っ! 誰も手にすることはないとたかをくくっていたからこそ──ちょっとしたイタズラ心でやってしまった、僕の罪。全国……いや、下手をすると全世界のお茶の間に、熱斗くんによる愛の告白が写り込んでしまった。マジメンゴ。
あっ、フォルテさんが呆れて帰ってしまった。よかったよかった、これで世界の平和は守られた。ちょっとした犠牲はあったが、終末戦争は回避されたんだ。僕も割と怪我しちゃったけど、必要以上に痛がることで許していただくという作戦も上手くいったようだ……いったよね?
「ごめん熱斗……僕も命をかけて頑張ったんだけど──ぐふぅっ!?」
「そらぁぁぁーー!!」
「ちょ、ま、ほら、怪我人だぜ? 腕折れてるかも──あでででっ!? ごめんって! ほんとごめん!」
「ちくしょーー!! どんな顔で帰ればいいんだよ!」
「炎山先輩! 黙って見てないで助けてほしいっす!」
「自業自得だ」
いででっ! 僕より先に映像を止めた方がいいんじゃない? え? もうお前なんか友達じゃない? ご、ごめんって……なんでもするからそれだけは…! あーもう、踏んだり蹴ったりだぜ。ついでに踏んだり蹴られたりだよ。一件は落着したけど、万事は解決しなかったなぁ……熱斗くん、ほんとにごめんね?
■
帰りのヘリの中で何度も平謝りして、ようやく許してもらえた。まあ小学生の男子にとっては相当なダメージだったか。でもこれを機会に付き合っちゃえばよくない? メイルちゃんはどう見ても熱斗くんにホの字だし、熱斗くんだって満更でもなさそうだし。
「はぁ……メイルにどう説明するかな…」
『熱斗くん! メールがきてるよ!』
「ん? ああ……ってなんでマインが俺に言うんだよ?」
『ユーゲットメイル! なんちゃって!』
「ひゅー!」
『やっはー!』
「なあ炎山……殴ったら傷害になるのか? これ」
「…情状酌量の余地はある」
なんだかちょっと仲良くなったお二人さん。これも僕の人徳がなせる業だろう。うんうんと頷いていると、窓の下の景色に見覚えのある建物がチラホラと映りだす。なんだかもう懐かしいような気さえする、我が愛しの秋原町だ。なにげに命の危険があったりなかったりで、やいとちゃんを抱きしめたい気分だ。
「あれ? 熱斗の家の前……何人か集まってるね」
「え? ──げっ、メイルもいる…! そ、そら! 説明たのむ!」
「まかせてよ!」
「──や、やっぱり自分で説明する…」
「そう? ならいいけど……じゃ、凱旋といこうか」
「穴があったら入りたい…」
ヘリが公園に着地した──絶対に無許可だがいいのだろうか? 熱斗くんの家とは目と鼻の先だから、すぐに人が寄ってきた。やいとちゃん、デカオくん、メイルちゃん……それにクラスメイトが何人か。なんとなくメイルちゃんの瞳が熱っぽいのは、気のせいじゃないだろう。寄ってきたやいとちゃんを抱っこして抱きしめつつ、事の成り行きを見守る。
「あ、あのね……熱斗……その」
「ち、違うんだって! あれはちょっとした間違いで…!」
「ま、間違い?」
「そうそう! だいたいありえねーだろ? あんなの……ひぇっ!?」
「ううぅ…! 間違いで……ありえない…?」
「ちょ、ちょっ…!?」
「──熱斗のバカァァーー!!」
「だあぁぁぁっ!?」
おーおー、可愛い痴話喧嘩だ。ローラースケートに追いつきかねないメイルちゃんの健脚ぶりを褒めるべきか、それとも女心の欠片も理解していない熱斗くんを笑うべきか。好きな人には好きって言えばいいのにね。
「あーあ。私もあんな愛の告白受けてみたいわねー」
「僕は常日頃から言ってるだろ? 愛してるぜ、やいとちゃん」
「なんか安っぽいのよね…」
「えぇー……あの動画みたいな方がいいってこと?」
「そうそう。あんな熱烈な告白、女の子ならみんな憧れるわよ」
「ふーん……ほうほう、あれが熱烈な告白だと」
「…?」
「よし、後で面白い動画を見せてあげよう」
「嫌な予感しかしないわね…」
熱斗くんの家の方へと向かった二人を追いかける。まあここは僕が謝って真相を話すべきだろう。メイルちゃんにこっそり『脈アリだぜ』とでも言っておけば、そこまで怒りはしない筈。家の周りをグルグル追いかけっこしている二人に声をかけ──ようとしたら、家から誰か出てきた。
…っ!? 修羅の雰囲気をまとう熱斗ママに……ひっかき傷だらけの熱斗パパ。なんだ? 家庭円満の見本みたいな光家で、なにが起きたというんだろう。
「…そ、宙くん!」
「あ、ど、どうも祐一郎さん。どうされたんですか?」
「君が宙くんね?」
「は、はい…」
「ごめんなさいね、祐一郎さんが無責任なせいで認知もされてないなんて……親御さんもいないって聞いたわ。あなたがよければ、家で暮らしましょう? 熱斗も兄弟が増えて嬉しいでしょうし…」
「へ? …あっ」
…そういえばワイリーお爺ちゃんの説得の時、絶賛生中継だったな。『熱斗兄さん』の方は訂正した覚えがない。なるほどぉ……やっべ。いま訂正したら僕も引っかかれそうじゃない? 打ち身、切り傷、打撲で割と重傷だぜ? 僕。うーむ…
「た、助けて、そら…!」
「熱斗ーー!!」
「祐一郎さん? いったいいつ仕込んだのか、そろそろ吐いていただけるかしら?」
「ち、違うんだ…! 宙くん、君からも──」
「そらー!!」
「あー、えー、うー……あっ! 犬小屋の電脳からウイルス反応が!」
てんやわんやだな、まったく。とりあえず怪我が治るまでは誤魔化すとしよう。まあ……家族がいないってのは寂しいし、少しくらい居候してみたい気分ではあるけどね。逃げ回っている熱斗くんの手を取り、二人してPETを掲げる。
「オフィシャルとしてウイルスは見逃せないぜ!」
「──お、俺も! まだオフィシャルパス持ってるから!」
「じゃあいこっか、“熱斗兄さん“」
「火に油!!」
「ふふっ……プラグイン! マイン.EXE──」
「…あーもうヤケだ! プラグイン! ロックマン.EXE──」
──トランスミッション!
一応完結です。続くかどうかはアンケートの結果で決めようかと思います。
一応完結はしましたが、続くとすればどこまで読みたいですか?
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プライド王女は? あくしろよ 2
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ケロさんのインタビュー()まだ? 3
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アイリスちゃんは出さなきゃでしょ? 6