5話
WWW幹部『色綾まどい』の経過報告。当初より協力的な姿勢を見せ、その情報からWWW摘発へと至り、オフィシャルへの貢献が見られる。勾留中の態度にも反省が見られ、審問にも問題はない。三級以上のオフィシャル、観察官、ネットポリス資格を持つものにより、三ヶ月以下の保護観察が適当と思われる──か。
A級政治犯を相手にして、実刑無しってどうなの? いやまあ、反省してるなら問題ないとみなすこの世界は良いもんだと思うけどさ。保護観察という名の社会復帰支援にしても、そこまで厳格な規定がないのもすごい。
──とまあ、そんなわけで大したお咎めもなく釈放されたまどいちゃん。ゲームとは違い、水道局や交通事故誘発などの大きな事件を起こしていなかったのも影響はあったのだろう。経過報告には逐一目を通していたため、保護観察官として名乗り出ることに成功した。
前の世界よりも『支援』の意味合いが濃いせいか、観察官としての資格はかなり広義に渡る。オフィシャルに勤めている僕にはもちろん資格はあるし、逮捕に関わった人間だったからか、特になにか言われることもなかった。
良い人が多いせいなのかは知らんが、刑事やネットポリス、オフィシャルなどの『直接逮捕に関わった』人間が、犯人の面倒を見るのはままあることらしい。実際にゲームでも『彼らが罪を償ったら私が面倒を見ようと思う』──なんて言ってた人がいたようないなかったような。
という訳で、前に言った通り花束を持ってまどいちゃんを出迎えたんだが──重大な問題が解決していなかったことに、僕は戦慄を覚えた。きっと頭を冷やせばわかってくれると思っていたのに、とんだ大誤算だぜ。
「だからさぁ、大人の感性はお子ちゃまのあんたにゃ理解できないって言ってんのよ。わかる?」
「あのね、まどいちゃん。僕は君への投資を『無くなってもいいお金』だとは思ってるけど──ドブに捨てたいわけじゃないんだよ」
「そこまで言う!?」
「逆に聞くけど、まどいちゃんって今まで『お洒落~!』とか言われたことある? あ、店員は除いてね」
「…」
「お世辞と打算が飛び交うガールズトークですら、そう言われたことないってなると……もうお察しだよね」
「くっ…」
「まだカラードマンの方がセンス良いんじゃない?」
「はぁ!? そんなわけないじゃん!」
『えへっ! 宙はわかってる~。いくら僕が言っても、まどいったら聞かないんだもん』
「あんたは黙ってなさい!」
「まあ本気でやりたいってんなら、約束も約束だし止めはしないけど……多少の世論調査はしてから頼むよ? 自分のコーディネートがどれだけ受け入れられるか──インターネットで聞くなりなんなりしてさ。ちゃんと慰めてあげるから」
「なんで受け入れられない前提なのよ!」
だってほんとにダサいんだもん……他の人たちに対しては特になにも思わないんだから、僕の感性がおかしい訳でもないだろうし。だいたい、いい年してツインテールってどうなのさ。髪の色がピンクだからギリギリ似合ってなくもないが、基本的には地雷だと認識した方がいいぞ。
「さて、と……じゃあこの先どうする? 一応、行政支援として無利子で五十万ゼニーまでは貸与できるけど──僕の家に転がり込むんなら、その必要もないだろうし。来るんなら歓迎するぜ」
「あんたの家ねぇ……そりゃありがたいけど──」
「うん?」
「一回ヤったからって、調子に乗って彼氏ヅラすんじゃないよ?」
「アハハ。僕、彼女いるからそれはないよ」
「…あ、あんたねぇ……ったく。その年から女泣かせてちゃ、ロクな男になんないよ」
苦笑いをしつつ、まどいちゃんを家に迎える。純愛を貫き通せればとは思うんだけど、そうするには、世の中に誘惑というものが多すぎる。今だってそうだ。玄関で靴を脱ごうとしている彼女のお尻が動くたびに、エロいことを考えてしまう。いったい神様ってやつは、どうして男の性欲をこうも強くしてしまったのだろうか。
「──ぐべっ!?」
「なに当然みたいに触ってんのさ!」
「いや、神様について考えてたらつい…」
「神様とあたしのお尻になんの関係があんのよ」
「ヒップとゴッドって似てない?」
「『ッ』しか合ってないじゃん」
僕の家は──まあ家というかマンションだけど──秋原町の中心からは少し離れた場所にある。やはり駅チカだと相場も高くなるし、広い間取りに意義も感じない。重要なのはセキュリティと防音設備、後は虫が出ないかどうかくらいだろう。これだけ科学が発展した世界だというのに、相変わらずあの黒い虫は人類圏にはびこっているようだ。
大した量もないまどいちゃんの荷物を運び込み、茶の間で一息つく。畳とちゃぶ台が僕のベストプレイスだ。その点で、デカオくんとは非常に趣味が合う。やっぱり日本人なんだから、和のテイストがベストだよね。和のテイストがベストって言葉はぜんぜん和じゃないけども。
「ま、しばらくはゆっくりしてなよ。人生にはゴロゴロもダラダラも必要だしね」
「ホゴカンが言うことじゃないわね…」
「人それぞれじゃない? なにかしてないと不安ならなにかすればいいし、なにもしたくないならしたくないでいいし」
「至れり尽くせりねぇ……なに企んでるんだか」
「別になにもないって。あわよくばセックスさせてもらえないかくらい?」
「それを企んでるっていうんだけど?」
「子供の純粋な気持ちってやつさ」
「汚れた子供もいたもんね…」
呆れたようにため息をつくまどいちゃん。しかし茶柱の立った湯呑を見て、ふいに笑う姿は中々に可愛らしい。釈放後すぐということもあり化粧っ気の欠片もないけれど、どう考えてもすっぴんの方が美しい。いや、たぶん普通の化粧を施せばそれが一番可愛いんだろうけど──彼女のダサさは化粧にも表れているのだ。なぜわざわざあんなケバい顔にするのか理解不能である。
「はー……ほんとどうしようかな…」
「ブティック云々は置いといて、まどいちゃんもWWW幹部だったんだから……ネットバトルの腕はそこそこあるでしょ? そっち生かしてもいいんじゃない?」
「…」
…ん? なにか変なことを言っただろうか。ちょっとばかし怒っているような雰囲気を感じる。畳の上でだらけていた上体を起こし、アウトローな空気を醸し出しながら、ちゃぶ台に肘をついてこちらを睨んできた。
「オフィシャル入りたての甘ちゃんに『そこそこ』扱いされるなんてねぇ……舐めるんじゃないよ。逮捕されはしたけど、ネットバトルで負けたわけじゃないんだからね」
「ああ、そりゃ失礼。まあでも、そんなに言うなら──ヤるかい?」
「…ハッ! 上等じゃん!」
「んじゃ、負けた方はなんでも言うこと聞くってことで」
「ふん、好きにしな。エースネットバトラーならいざ知らず、アンタみたいなガキに負けるあたしじゃないよ!」
──十二秒後。
「…え? なに? 何が起きたの?」
「フラグを立てた君に、フラグ回収が起きたの」
「カ、カラードマン…」
『まどい~……もう無理ー…』
『いい戦いだったね、カラードマン』
『どこが~!?』
『僕相手に十秒以上持つのは強者の証さ』
「無理しなくちゃいけない状況ならともかく、ヨーイドンで始まる模擬戦なら世界最強の自信があるぜ、僕は」
「う、うぅ…!」
「約束は覚えてるよね?」
「ぐっ……あーあ──……ハイハイ、好きに命令しなよ。ナニするかなんてわかりきってるけどさ」
ぐでっと畳の上に寝転がり、ジーパンのベルトを緩めるまどいちゃん。それはとてもなげやりで、実につまらなさそうだ。そんな女性を相手にチンポが反応するかといえば──まあするんだけども、しかしお人形さん相手に腰を振るのは悲しいものだ。
心底くだらないと言った様子のまどいちゃんに近付き、両手を取る。小学生の僕と変わらない大きさの掌をしっかりと握り、真っ直ぐに彼女の瞳を貫いた。
「じゃ、宙って呼んでくれる?」
「──は、はぁ?」
「僕を騙そうとした時からこっち、『あんた』か『ガキ』としか呼んでくれてないだろ? だから……宙って呼んでよ」
「な……に、言ってんだか。それよりさっさとズボン下ろせば──」
「なんでも聞くって約束だよね?」
「…! ぅ……そ、宙。これでいいんだろ?」
「もっかい」
「さっき言ったじゃん!」
「命令が一回とは言ってないし」
「ぐっ…! ふん……宙、宙、そら!」
「もっと優しく」
「…宙」
「もっかい」
「そ・ら!」
「あと一回」
「そら」
「ドレミファ?」
「ソラ……おらぁっ!」
「──痛いっ! なにも殴らなくても…」
「大人をからかうとそうなるんだよ!」
えー、でも殴るほどのことだったかなぁ。頬がじんじん痛い……うん、絶対やりすぎだと思う。ここはジトッと恨めしそうにまどいちゃんを見続けるとしよう。赤くなった頬をさすりながら、悲しそうに切なそうに彼女を見続ける。さながらDVに耐える薄幸の乙女といった心持ちだ。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…や、やりすぎたよ。ゴメン」
「ちょっとからかったくらいで手を出すのはどうなの?」
「うぐ……だからゴメンって」
「傷付いたなぁ……痛いなぁ…」
「ど、どうしろってのよ」
「セックス!」
「死ね!!」
「ぐふぅっ!」
炎山くんといい熱斗くんといいまどいちゃんといい……僕のお腹はそんなに殴りやすいのだろうか? 子供に戻ったことで、確かにすべすべつやつやではあるけどさ。まったく、普通の保護観察官ならムショへ逆戻りさせるとこだぜ……まあ普通の保護観察官はケツを触ったりしないけど。
「ふぅ……ま、とりあえず一人立ちできるまでは面倒見てあげるからさ、ゆっくりしていきなよ。週に一回の社会奉仕活動はキッチリしてもらうけどね」
「はぁ……めんどいわねぇ」
「代わりに僕へのご奉仕活動でもいいけど?」
「ハイハイ」
む……もう軽くあしらわれるようになってしまったか。やはり僕の相方は、どこまでもツッコミ続けてくれる熱斗くんしかいないようだ。ま、何はともあれ共同生活はスタートしたんだし……セックスできるできないは別にして、彩りのある生活にはなるだろう。手を伸ばせば、すぐそこにおっぱいとケツがある生活とは素晴らしいものだ。
「じゃ、これからよろしくね。まどいちゃん」
「ふん……ま、家賃代わりにちょっとぐらいのスケベは我慢してやるよ」
お、やったぜ。やはりネットバトルの腕を見せたのは正解だったようだ。動物ほど単純ではないにしろ、人間も本能には忠実だ。『どちらが強いか』は意外と重要である。言質もとれたことだし、先程から勃ちっぱなしの息子をズボンから引っ張り出してみる。
「あ、あんたねぇ…」
呆れたように肩をすくめるまどいちゃんの、その口元にチンポを近付ける。彼女は一つため息をつくと、唇を舌でチロリと舐め、肉棒を口内へ迎え入れた。ちゃぶ台へと腰をおろし、まどいちゃんがフェラしやすいように位置を調整する。
「ん──は、ぁ……じゅるっ、じゅぶっ──ん、ぐっ…! はぷ、ん、く…」
やいとちゃんにも仕込み中ではあるが、やはり幼女と比べてまどいちゃんには一日の長がある。どこで学んだかは知らないけれど、亀頭、カリ首、裏スジと、なまめかしく動く舌が非常に心地いい。前と比べて少しばかり小さくなってしまった僕の肉棒だが、根本まで咥え込まれる快感を味わえるとなると、悪いことばかりではなかったようだ。
腰に両腕を回し、喉でしごいてくれるなんて、何気に愛情を感じるぜ。柔らかい桃色の髪を優しく撫でると、なんとなく舌の動きにも力が入ったような気がする。
──そのまま十数分、静かな部屋に淫らな水音だけが響き続けた。ぴちゃぴちゃと肉棒に舌を這わし続けるまどいちゃんの表情は、完全に雌の顔へと変貌している。少しだけ乱暴に頭を掴み、無理やり前後させてみる。
まるでオナホール代わりだというのに、彼女はされるがままだ。唾液がちゃぶ台に小さな水たまりを作っているけれど、気にせず彼女の口に腰を打ち付ける。
「んぶっ、んっ、ん゛っ──けほっ、んっ──!? んぐっ、じゅぶっ……んぅっ…!」
ピストンの動きに合わせるように、唇が、舌が、負けじと絡みつく。口の端が唾液とカウパーで泡立ち、そのまま喉へつたい──彼女のシャツへ染みをつくる。これはいけないと、肉棒を咥えさせたまま、まどいちゃんを床へ横倒しにする。
あぐらをかいた僕の股ぐらに、彼女の顔を埋めさせる。とてつもない征服感を覚えつつも、距離的に届くようになったまどいちゃんの胸をはだけさせ、柔らかな感触を左手で味わった。固くなった先端を指先で転がし続けていると、舌の動きが徐々に緩慢になり──その代わりとでも言うように、彼女がもどかしそうに内股を擦り始めた。
緩めていたジーパンは既にずれ落ち、白い下着には濃い染みができていた。随分と薄い材質なのか、濡れて透けた先にはハッキリと筋が浮かんでいる。桃色の薄い陰毛と、その下にある淫靡な穴が肉棒を誘っていた。
そんな艶めかしい光景が興奮を加速させたのか、搾り取るような彼女の唇の動きに合わせて、喉奥へと精液を吐き出す。射精感を焦らしていたせいか、驚くほどの量が彼女の口内を満たし──喉の蠕動が肉棒を刺激する。
ビクリ、ビクリと何度か震えた肉棒は、ようやく吐精を止め……物欲しそうな唇と舌が、最後の一滴まで吸い尽くしたところで固さを失った。
唾液に塗れたチンポをずるりと引き抜き、頬を紅潮させて息を荒げるまどいちゃんを優しく抱きしめた。まるで褒められた犬のように嬉しそうな彼女の頬に、いやらしく舌を這わせ、へたりこんでいる彼女の下半身に、無遠慮に手を突っ込んだ。
「ひっ、んっ──んぅっ!」
まるで熟れた果実のように柔らかなそこは、指二本をすんなりと飲み込んだ。けれど、引き抜く際にはこれでもかと指を締め付けてくる。前回は時間制限もあったせいか、じっくりと味わう暇がなかったが──やはりとんでもない名器だ。
「まどいちゃん」
「は、ん…」
従順になった彼女を床に組み伏せ、下品に足を広げさせた後に、再度固くなった肉棒を膣口にあてがう。カリを数回ほど擦りつけ、切なそうにするまどいちゃんを少しだけ焦らした後──思い切り奥まで貫いた。
「い゛っ──んきゅぅぅっ!」
「あー……ほんっと名器だよ、まどいちゃん。それに感度も抜群だし……挿れただけでイクなんて、漫画の世界だけだと思ってたぜ」
「あ゛、ひっ、いぎっ──んぅっ…! あ、ま、まって、イッてるっ、か、ぁっ──」
小刻みにひくつく膣で、何度も何度もチンポをしごく。そのたびに体を反らせ、跳ねるまどいちゃん。ここまで感じてもらえると、男冥利に尽きるってもんだ。女の子の喘ぎなんてものは、基本的に演技だと思っていたけど──この世界ではどうも違うらしい。
最後に思い切り腰を打ち付け、膣奥へと精液を流し込む。もっと欲しいとでも言うように、両脚で僕の腰にしがみつくまどいちゃん。応えるようにぐいぐいと腰を押し付け、深く繋がる。数分ほどその体勢を維持し続けていると、ようやく脚の力も緩んできた。
頃合いを見計らってチンポを抜き、脱力した彼女を布団へ運ぶ。左腕を彼女の枕にして、僕も横に寝転んだ。右手で胸を揉みながら寝られる、素晴らしいポジショニングである。
「気持ちよかった? まどいちゃん」
「う……ん…」
「これからもセックスしたいよね?」
「う、ん…」
「僕がしたい時はいつでもケツを出せよ」
「う……──オラァ!!」
「痛いっ!」
くっ、ピロートークの時ならイけると思ったが──やはり一筋縄にはいかないようだ。ん? いや、ちょ、待ってまどいちゃん、そこには黄金の玉が入ってるから──い゛っ…!?
■
WWWの野望を挫いて迎えた、学期の終了……ありとあらゆる小学生が待望していた、夏休みの始まりである。ちなみに僕はと言えば、もちろん仕事に夏休みなどない。まあ個人的な裁量が大部分を占めるから、フレックスタイム制に近い感じだけどさ。
仕事の特性上、就業時とプライベートがかなりごっちゃになっているのだ。ホワイトとも言えるし、ブラックとも言えるだろう。炎山くんみたいな自分に厳しいタイプだと、超絶的なブラック具合である。
さて、大して覚えていない『ゲーム』のシナリオであるが──大筋はなんとなく覚えている。WWWに代わって『ゴスペル』だかなんだかが台頭し、世界を混乱に陥れる……みたいな感じだった筈だけど、いまだにその名は響いていない。
響いていないっていうか、聞いたこともない。WWWに変わる悪の組織を標榜していたような気がするけど、結局ウラで手を引いていたのはワイリーお爺ちゃんだった筈。となると、ゴスペルなる組織が生まれていないのは、彼が改心したってことだろう。
──と言いたいところではあるけど、そんな簡単にいくわけないよね。大した時間も経っていないというのに、WWWは既に復活し、世界を股にかけて暗躍しているのだ。推測ではあるが、ゲームにおいては『傷を癒やすため』に裏でこそこそしていたのではないかと思われる。
本来であれば爆発オチで退場していた筈のワイリーお爺ちゃん。流石に体力的にしんどかったため、裏で人を操っていたのだろう。もちろん今回はピンピンしているから、普通にWWWを名乗っている──といったところだろうか。
ただ、目的は変わっていないものと思われる。最近各地で『バグの欠片交換屋』なるものが出現しているあたり、最終的に目指すものは『人造フォルテ』……あるいは『人造電脳獣』とかじゃなかろうか。バグの欠片を大量に集め、それらを造る……とは言うけど、そもそも人の手で造られたものなんだから、最初から製作者に聞けばいいと思うんだけどな。コサックさんとか普通に連絡とれるだろ。
まあそのへんの込み入った事情は知らないから、なんとも言えないけどね。最初に作られたフォルテさんではなく、殺意の波動に目覚めたフォルテさんが欲しいのかもしれないし。なんにしても、やはりWWWのネームバリューはでかい。犯罪者のステータスみたいなところもあるから、きっと新しい構成員もガシガシ増えていくことだろう。非常に面倒だ。
「ふん、ふん、ふん…」
「鼻歌をやめろ。今は任務中だ」
「いやいや、任務中だからこそっすよ。キャンプ客を装って、怪しまれずに調査するんでしょう? そんな仏頂面してたら逆に怪しまれるっす」
「む…」
「お、あっちにお弁当売ってますよ。キャンプ場で食べましょう」
さて、夏休み真っ盛りの今、炎山くんと奥デン谷へ来ているのは──もちろん遊びではない。つい先日、日課の掲示板巡りをしていたところ、このキャンプ場にあるダムを破壊するという犯行予告が書き込まれたのだ。
前の世界だと一発逮捕だが、なぜかそのへんは緩いのがこの世界だ。どうやらWWWとは特に関係ないみたいだけど、どっちにしてもここのダムが決壊すると、下流にある街が結構な被害を受ける。それを僕たちが止めに来たって訳だ。ちなみに炎山くんは爆発物処理もできるらしい。ほんとに小学生? もしや僕みたいに人生やり直してるんじゃなかろうか。
まあそれはともかく、あからさまに『オフィシャルでござい』って感じだと犯人も警戒するかもしれないから、小学生二人でキャンプを楽しみにきたって設定だ。秋原町はそこまで都会じゃないけど、それでも自然は少ない。こんな自然いっぱいのキャンプ場は、見ているだけで心が洗われちゃうぜ。
心が洗われるついでに、お弁当を売ってる娘が可愛いので声をかけてみよう。自然食が売りのお弁当らしいが……自然じゃない食品ってなんなんだろう。まあ深く突っ込むのも野暮だし、彩り豊かで美味しそうなお弁当を前にすれば些末なことだ。すいませーん、二つくださいなっと。
「ありがとうございます。お二つですね」
「おねえさん可愛いね。どこで修行したの?」
「それはどうも──って、しゅ、修行?」
「いや、額当てつけてるから。甲賀忍者とかそっちの方ですか?」
「ち、違います!」
「え? じゃあなぜそんなものを…」
「…こ、これはその……私のナビであるウッドマンをモチーフにした……その…」
独特なファッションという自覚はあるのか、うつむいて頬を染める緑髪の売り子ちゃん。というか可愛い緑髪って貴重だよね。某コードギアスのヒロインさんくらいのものだろう。しかしウッドマンのオペレーターということは……えーっと……ニャロメさん、だったかな。ゲームにも出ていたような気はするが、あんまり覚えていない。むしろオフィシャルの資料に乗っていた印象の方が強いな。
「ところでニャロメちゃん」
「サロマです!」
「そう、僕もそれが言いたかったんだよ。たしか君って、割と規模の大きい『自然保護団体』の代表さんだったよね? もしかしてメンバーさんも他に来てたりする?」
「いえ、今日は私一人ですが…」
「んー……そっか。お弁当は何時くらいから販売を?」
「昼前からです。現地調達しようと、何も持ってきていない方もいらっしゃるので、そういった人向けに……あの、それがどうかしたんですか?」
「ああ、自己紹介が遅れました。オフィシャルネットバトラーの光宙と──」
「伊集院炎山だ」
「実は少し物騒な犯行予告があってさ……ずっとこの入り口付近で販売してたんなら、怪しい人とか見かけなかった?」
「あ、この前テレビに出てた……うーん……特に怪しい人はいなかったように思いますけど」
「そっかぁ。じゃあ彼氏はいるの?」
「いえ、いませんが……えっ?」
「よかったら連絡先交か──ぐふぅっ!」
「さっさと行くぞ」
「う、うっす…」
最近、炎山くんの遠慮がなくなってきたように思う。いい傾向だけど、腹筋が鍛えられるペースより細胞が死滅するペースの方が速いんじゃないかと戦々恐々である。泣く泣くサロマちゃんと離れて任務に当たる──といったところで、なにやら引き止められた。
「あの、少し物騒なことって…?」
「あー……内密にしてほしいんだけど、なんか『ダムを破壊する』なんて犯行予告があってさ。みすみす成功させるつもりはないけど、不安なら避難しといた方がいいぜ」
「…! なんてことを…! …でしたら、私にもお手伝いさせてもらえませんか? 自然を破壊しようとする行為は見過ごせません」
「え? んー……炎山先輩?」
「自然保護団体の代表『サロマ』……確かネットエージェントの一人だったか。いいだろう、同行を許可する」
「ありがとうございます!」
「めっちゃ偉そう…」
というかお弁当ほっぽって大丈夫? え? 自動引き落とし状態で置いておく? うーん……田舎によくある無人販売所みたいなもんか。優しい世界ならではの無茶っぷりだが、少なくともこの辺じゃ問題ないらしい……外国へ行くと多少は犯罪率も上がるみたいだけどね。
「サロマちゃん、先に言っとくけど──あんまり怪しい行動は取らないようにね。あくまで僕らは三人でピクニックにきた子供たち……って体で頼むよ」
「ええ、わかりました」
「一応、設定も詰めとこっか。君は木の葉の里の抜け忍『サロマ』。忍びとしての生き方に疑問を持った君は里を抜け、この奥デン谷へと足を踏み入れ──」
「忍者から離れてもらえませんか!?」
「だって服装も忍者っぽいし…」
「こ、これは天然素材だけで作られた──全て土へと還る自然に優しい服なんです」
またもや頬を染めてうつむくサロマちゃん。可愛い。なんで炎山くんはまったく興味なさげなのだろうか。ホモなの? 健全な男子であれば、すぐさまルパンダイブで飛び込むレベルの可愛さなのに。
さて──無人販売所の準備も終え、いよいよキャンプ場へと足を踏み入れようとしたその時、すぐ近くにバスが停車した。あれに犯人が乗っていないとも限らないし、一応下車する人間を確認しよう。ファミリー、カップル、ファミリー、ぼっち、熱斗くん、デカオくん、やいとちゃん、メイルちゃん……ん? ちょっと待て。なぜ彼らがここにいるんだ。え? 僕誘われてないよ? ハブられたの?
「熱斗…」
「あれ、宙? なんでここに──」
「そっか……友達だと思ってたのは僕だけだったんだ。みんなでキャンプに行くってのに、まさか誘われもしないなんて──こんなに酷い裏切りはないよ」
「予定聞いたら断ったのお前だろ!?」
「あれ? そうだっけ」
「『悪いけど炎山先輩とピクニック行くから。羨ましい? 羨ましい?』とか言ってただろーが!」
「ああ、そういえば……だから対抗してキャンプを? なんて大人げないんだ熱斗…」
「お前が言う!?」
みんなでワチャワチャしていると、炎山くんがスタスタと先を歩き始めた。うーん、まったく無愛想なお人だぜ。仕方なしに、サロマちゃんを引っ張ってついていく。何やら熱斗くんと面識があったようで、ちょっと楽しそうにしていたが──メイルちゃんの
「ちょ、一緒に行かないのか?」
「あはは、ピクニックってのは冗談だしね。ほんとは仕事さ」
「こんなとこに…?」
「うん。もしかしたらダムが破壊されるかもしれないから、気をつけてね」
「どうやって!?」
「大丈夫、死ぬ時はみんな一緒さ」
「こえーよ! ちょ、ちょちょ……俺も手伝うって!」
「いやいや、そりゃ悪いって。気にせず楽しんでおいでよ」
「この状況で楽しめるやついる!?」
うむ……ロシアンルーレット並にスリリングなキャンプになるだろう。なんせバーベキュー設備は川べりにあるし、いつ川が氾濫するかドキドキの野外料理である。これでまだ楽しめるというなら、もはや強メンタルを通り越してサイコパスだ。
「そういう事情なら仕方ねえ! このデカオ様が力を貸してやるよ!」
「ね、熱斗が手伝うんなら……私も!」
「せっかく遊びにきたってのに、迷惑な爆弾魔もいたもんねぇ……このやいとちゃんが懲らしめてあげるわ!」
「──ということになりましたんで。炎山先輩」
「…」
「足手まといとか言っちゃダメっすよ? 明らかにメリットの方が大きいですし」
子どもたちがダム施設で隠れんぼをしている──なんて、カモフラージュには最適だろう。そもそも人手が圧倒的に足りていないのだから、猫の手だろうが小学生の手だろうが借りたい状況だ。クソ広いダムとキャンプ場に派遣されたのが、僕たち二人だけってのがまずおかしいし。
加えて、彼らは熱斗くんを抜きにしても、ちょっと小学生としておかしい集団だしね。末はウラランカーなガキ大将に、『ロールは戦闘タイプのナビじゃない』とか言いながら全日本準優勝しちゃう系女の子や、ガチで飛び級とかやっちゃう天才幼女とか。そのへんの大人より、よほど頼りになること請け合いである。
「三組くらいにわけた方がいいかな? 僕と炎山先輩と熱斗はわけるとして……じゃあ、やいとちゃんとサロマちゃんとメイルちゃんは僕と一緒に──」
「おぉい!?」
「──おっと。熱斗はメイルちゃんと一緒に行きたいよねー。こりゃ失礼」
「ぐっ…! わ、わざと誘導したな…!」
「僕はやいとちゃんと一緒に行くから、デカオとサロマちゃんは炎山先輩の方へお願いできる?」
「おう!」
「ええ、わかりました」
「最優先は爆発物の発見、次に犯人の確保。爆弾は見つけ次第、炎山先輩に連絡をお願いします。犯人を特定できたとしても、炎山先輩チームは引き続き爆弾の捜索を。連絡はこまめに頼むぜ」
「了解! …なんか宙の方が先輩みたいだな」
「炎山先輩は無駄口が嫌いで、僕はお喋りが好きなのさ。適材適所ってやつだよ……じゃ、作戦開始といこうか」
どこに爆弾を設置すれば効率よくダムを破壊できるか──ある程度の見当はついている。炎山くんチームにはその辺りを重点的に捜索してもらい、僕や熱斗はそれ以外の可能性を考慮して他を当たる。犯人に関しては……もしここに来ているとするならば、ダム施設かそれより上にいる可能性が高いと思われる。まさか自分まで水に沈みたいわけでもあるまいし、妥当な推測だろう。まあ現地にきてない可能性の方が高そうだけど。
──ま、気楽にいくとしよう。図らずもやいとちゃんとデートという形になったことだし、嬉しい限りだ。ラブロマンスには、大爆発を伴う一大スペクタクルが付き物である。劇場版ばりの壮大なドラマを期待しよう。もうドキドキで心臓が飛び出ちゃうくらいのやつをね。
「じゃ、僕らも出発しよっか」
「ええ。ところでちょっと聞きたいことがあるんだケド」
「なんだい?」
「最近あなたの家に女が転がり込んで来たそうね」
…うん。心臓がドキドキして、飛び出しそうだ。