光陰矢の如しとは言うが、それにつけても夏休みというものは、気を抜くと一瞬で過ぎ去っていく。熱斗くんの『市民ネットバトラー』ライセンス試験に付き合ったり、メイルちゃんの恋愛相談に乗ったり、デカオくんの武者修行に同行したりと、中々に密度の濃い休暇だった。
ちなみに熱斗くんのライセンス試験の結果はというと、当然のごとく『SSSライセンス』を取得していた。このレベルまでくると、オフィシャル国家試験における一次、二次、三次、実技を全て免除される。残りは一般常識とSPIのみだが、もちろんこちらも当然のごとく落ちていた。ドヤ顔で『これで宙に並んだな!』などと言い始めたところでオチは読めていたが、そのフラグの回収っぷりは実に見事であった。
そんなこんなで久しぶりの夏休みは終わりを告げ、新しい学期が始まった。昔は憂鬱な足取りで初日を迎えたものだが、今はそうでもない。大人になるとわかる、学生生活の有難みってやつだろう。まりこ先生にも頻繁に会えるようになるし、むしろ良いこと尽くめと言ってもいい。
「はーい、みんな久しぶりね。ちゃんと勉強はしてた?」
「最初にそこ聞いちゃうんだ…」
「元気なのは顔を見ればわかるでしょ? ──じゃあ最初に答えてくれた熱斗くんから、宿題提出してもらおうかしら」
「えーっ!?」
「どっちにしても提出するんだから、そんな驚かなくても……まさか熱斗、やってないの?」
「い、いや……ちょっとだけな。ちょっとだけ、あともう少し、半分くらい残ってるだけだから…」
『だから早くやっておこうって言ったのに…』とロックマンの声がPETから響き、教室に笑い声が響く……まりこ先生以外の、という注釈はつくけど。夏休み明け早々に居残りが決定した熱斗くんの、その悲鳴をよそに授業が始まった。
エグゼ伝統と言うべきか、最初はやはり『ウイルスバスティング』の基礎の基礎のそのまた基礎編である。算数で言えば『1+1』から初めているような違和感を覚えるが、しかし文句は出ない。謎である。
ちなみに熱斗くんのチップフォルダを確認したところ、初期フォルダに戻っているようなことはなかった。世界を救った人間のフォルダが『キャノン』だの『コピーダメージ』だのじゃ、意味不明だもんな……いやまあ、コピダメは初心者から上級者まで使える優秀なチップだけどさ。
「さ、じゃあ授業を始めましょうか──宙くん、お願いね」
「…ん?」
「先生が教えるより、その道のプロが教えた方が良いでしょ?」
「いやいやいや。『スポーツが上手い』と、『スポーツを教えるのが上手い』は違うんですけど」
「え~……でもぉ、宙くんにウイルスバスティングの授業なんて……お猿さんに木登りを教えるようなものよぉ~」
「うわぁ、その年でぶりっ子は流石に──」
「何か言った?」
「──喜んでやらせていただきます」
「うふふ、ありがと」
ぶりっ子というか、ちょっと甘える感じのお願いだったが……あんまり露骨だと、
まあこの世界なら大丈夫な気がしないでもないが、あんまりゆるゆるなのもアレだしね。それにまりこ先生の言葉も間違いではない。誰が好き好んで、イチローに野球の講釈を垂れたいかって話だ。気乗りはしないが、電子黒板の前に立ち、皆を正面に見据える。うーん…
「えー……では、ゴホン、あー…」
「ぷっ…! 宙のやつ、ガラにもなく緊張してやんの」
「笑っちゃダメだよ熱斗……ふふっ」
「あら、意外とカワイイとこあるじゃない?」
「おい宙! このデカオ様がいつでも代わってやるからな!」
好き勝手言ってくれちゃってぇ。だいたい『授業』なんてものは、事前にある程度まで計画しておくものなのだ。いきなりお願いされて出来るなら、誰も苦労はしない。まりこ先生だってそれくらいはわかるだろうに、一昨日の変態プレイが余程お気に召さなかったのだろうか。これは意趣返しなのか?
「あー、えっと……そうだね……何から始めようか…」
「ぷっ、くくっ…」
「ではまず、みにゃ、皆さんには──」
「噛んでるぞー」
「──皆さんには……これから殺し合いをしてもらいまぁす♡」
「なんで!?」
「っと、失礼。緊張のあまり訳のわからないことを…」
「限度あるだろ!」
おっと、つい『教壇に立ったら言ってみたいセリフ』第三位が出てしまった。この世界、エロは割と豊富だけどグロはほとんど存在しないんだよね。だからデスゲームものの作品もほとんどない。需要もなければ、書こうと思う人もいないんだろう。
「えー、ではまず各々に武器を支給しますので…」
「続いてんじゃねーか!」
「おっとと……でも、僕だって複数に指導なんてしたことないからさ。できれば熱斗も手伝ってくれるかい? 『SSSライセンス』は伊達じゃないんだから」
僕の言葉に、デカオくんたち以外のクラスメイトがザワリと声を上げた。この夏休み、割と大々的に告知された『市民ネットバトラー』制度だ。誰でも受けられる試験だけに、学校の生徒たちも受けた子は多いだろう。
B級を超えれば一人前といったこの制度において、SSSライセンスとは狭き門どころの話じゃない。持っているだけで称賛の対象になるのは確実だろう。とは言っても、権力的には単なる市民ネットバトラーの域を出ないけどね。いわば実力の証明書的なライセンスだ。
「スゲーな熱斗! 僕も挑戦したんだけど初っ端でダメだったんだぜ!」
「わあ、やっぱり光くんって凄いんだ…!」
「いや……へへ、まあそれほどでも」
「いよっ! 大統領!」
「ハハ、やめろって……まあ確かに、オレ以外で突破できるやつなんて早々いないだろうけどさ!」
「すごいぜ天狗野郎!」
「へへっ、照れるじゃんか──って、けなしてんじゃねーか!」
「はぁ……『実るほど頭を垂れる稲穂かな』って言うだろ? 自信を持つのはいいことだけど、増長するのはよくないよ」
「な、なんだよ! 宙だって『流石!』って言ってただろ!」
「…君のために言ってるんだよ。おだてられて調子に乗った人間の末路なんて、ロクなもんじゃないからね。具体的に言うなら──そう。ヒノケンにおだてられて調子に乗って協力して、騙されたあげく科学省を火の海にして、お父さんにも大怪我負わせて、大泣きで後悔したくないんなら増長するのはやめるんだ」
「具体的すぎない!?」
よし、これで熱斗くんもヒノケンに騙されたりすることはないだろう。折を見てさり気なく忠告しておこうと思っていたが、バッチリ自然に言えた。失敗は人を成長させるというが、あんなレベルの失敗はトラウマものである。物的人的被害もバカにならないし、そもそもオフィシャルとして未然に防ぐのが当然だ。
これで『熱斗くんが原作通りに成長できない』などと言うアホがいるのなら、そいつはどこまで行っても人をキャラとしてしか見れない可哀想な人間だと思う。たとえ僕の主観でこの世界がゲームだったとしても、いま目の前にいる人たちは現実でしかありえない。
予測される状況を利用することはあっても、接する人たちがお人形だなどと、どうして思えるだろうか。『運命はこうあるべきだ』とか『この人はこうあるべきだ』とか、傲慢この上ない。
僕の行動が誰かの運命に影響するとしても、それは元の世界、今の世界にかかわらず同じことだ。つまり何が言いたいかって、僕が誰とセックスしようが問題ないよねって話である。ないよね?
「さて、じゃあ熱斗の自惚れも収まったところで──」
「言い方!」
「付け上がったガキを諌めたところで──」
「ひどくなってんじゃねーか!」
「──教える人数を、半分に分けようか。僕は女子の方を教えるから、熱斗は男子を担当してくれるかい?」
「おかしくない!?」
「そう? じゃあ熱斗が女子の方、頼むよ」
「へっ…?」
「僕はどっちでもいいからね。はーい、みんなー……熱斗は女子の方がいいらしいから、そっちに集まってくれる?」
「やだー、光くんのエッチ!」
「熱斗って結構スケベなんだなー」
「いっ…!? お、おまっ──まさかこれを狙って…!」
「熱斗の上がった株を下げるのも、また友人の務めなり」
「ただの嫉妬!」
「女子の黄色い声を浴びるのは、僕だけでいいのさ」
「本音出た!」
いや、ちゃんと熱斗くんのことも想って言ってるけどね。WWWの活動も活発化してきたし、ワイリーお爺ちゃんとの因縁も考えれば、熱斗くんが騒動に巻き込まれることは充分に考えられる。騒動があれば自分から突っ込んでいくタイプだから、そもそも危険から遠ざけようとしても無駄だろう。僕にできることと言えば、さっきのように心構えを説いておくくらいのものだ。
さて、そんなこんなで授業はつつがなく終了し、ついでに今日の授業も全て終了した。夏休み明け初日ということで、本日は三時限目で終わりなのだ。小学校特有の謎時間『帰りの会』的なものも、ささっと終わりそうだ。
「──それで、こんど科学省のウイルス研究室を見学させてもらえることになりました! 貴重な機会なんだから、しっかり学びましょうね」
「まりこせんせー!」
「はい、どうしました? 熱斗くん」
「校外学習って『よかよか村』じゃなかったの? オレ、ウイルスより温泉の方がいいなー」
「ふふっ、心配しなくても両方やるわよ。科学省の方は、新設された研究室ってことでわざわざ校長先生が予定を組んでくれたの」
「ほっ……よかったー」
「そういうわけだから、しばらく校外学習が多くなります。みんな秋原小学校の生徒であるという自覚をもって、行動するように!」
「はーい!」
よかよか村の校外学習……そういえばそんなシナリオがあったような、なかったような。温泉って確か、ウラインターネットのサーバーがある温泉旅館に泊まるんだっけ? うーん……ふむ……はっ! もしや、みんな浴衣姿になるのでは? 古き良き日本の衣装…! 胸元ガバガバ、生足ポロリの最高コスチューム…! なんて素晴らしい校外学習なんだ。
「まりこせんせー!」
「はい、どうしました? 宙くん」
「温泉は混浴ということでよろしいでしょうか」
「よろしくありません!」
「──って、熱斗が聞いてほしそうにしてました」
「してねーよ!」
「まりこせんせー!」
「………はい、宙くん」
「寝るところは男女一緒ということでよろしいでしょうか」
「まったくもってよろしくありません」
「──ってメイルちゃんが聞きたそうにしてます」
「しっ、してないよ!」
照れるな照れるな。しかし動物園に温泉旅館とは、実に楽しみだ。そういえばメタルマンのオペレーターもあの辺にいたような気がする。確か名前は……たま……たま……タマ姉? いや、ゲームが違うな。ナビの名前は覚えていても、オペレーターの名前は覚えてないって人は結構いるだろう。僕もその口だ。
──なにはともあれ、やいとちゃんとしっぽり温泉旅館……もちろん先生も引率で着いてくるわけだ。今から楽しみでしょうがないぜ。
■
ゼニー、ゼニー、ゼニー……金がないのは首がないのと同じなの──っと。まどいちゃんへの投資然り、しゅーねーちゃんを養うための生活費然り、何かと物入りで困りものである。流石にオフィシャルの給金だけでは賄いきれないし、まとまったお金がある内に増やしておいた方がいいだろう。
元の世界だろうが今の世界だろうが、『お金』というものは──持っていれば持っているほど増やしやすい。金持ちが金を持ち、貧乏人が貧しいのはそういうわけだ。無一文から百万円稼ぐのは難しいが、一億円持っている状態で百万円を稼ぐのはそう難しい話ではない。
というわけで、財テクを図って色々とお金を動かしているわけだが……そのへんの相談も込みで、やいとちゃんとお電話している昼下がり。敏腕女社長になるべく色々と学んでいる彼女の助言なら、きっと有用だろう。
『…でさぁ、最近株価下がってるけど大丈夫なのかい?』
『別に私が経営に参加してるワケじゃないんだから、言われたって困るわよ』
『うーん……そりゃそっか』
『ま、原因はわかってるんだけどね。ただ、わかってるからってすぐに手を打てるかって言うと…』
『ふぅん…? ちなみにその原因ってのは?』
『“ガウスコンツェルン”。最近PET事業にまで参入してきて、鬱陶しいったらないわよ……ってお母様が言ってたわ』
『へぇ……なんか聞いたことあるような…』
『新進気鋭の財閥だもの。ま、所詮は一代で成り上がった野蛮人……っていうのが、今までのガウスコンツェルンの評価。
『けど?』
『“エレキテル家”って知ってる?』
『エレキ……あー……なんかそっちも聞いたことあるような……なんだっけ』
『世界有数の名家よ。現当主は、今じゃ数少ない“伯爵”の地位を
『ふむふむ……そのエレキテル家がどうしたって?』
『──マグネッツ家が財閥の中でどうしても下に見られるのはね、格式のせいなのよ。一代で全てを築き上げた手腕はすごいけど……今の財閥の多くは、戦後から続く旧家がほとんど。“ニホンを支え続けてきた”っていう自尊心が強いの。とかく家柄にこだわるのよね』
『ふーん…? …ああ、なるほど。その足りない家柄を補うために──マグネッツ家がエレキテル家を取り込んだのかな?』
『ええそうよ。最近、行方をくらましてたエレキ伯爵が帰ってきたらしくてね……そのあとすぐ、エレキテル家のご子息と、マグネッツ家の一人娘“テスラ・マグネッツ”が婚約したの。それで名実ともに一大財閥ってわけ』
『その勢いのままに事業拡大してるってわけか……むむ……頑張ってよね、やいとちゃん。僕、“綾小路PET研究開発”と“伊集院PETカンパニー”に貯金ぶっこんでるんだから』
『あ、あなたねぇ…』
『ま、もうすぐナビカスタマイザー発売だし、一気に株価も上がるだろうけどね。ガウスコンツェルンがPET事業に食い込んできたの、最近だろ? ナビカスの利権関係には一手遅いもんな。裕一郎さんが
『…インサイダーでしょっぴかれても知らないわよ?』
『別に内部情報を得てるわけじゃないし。ナビカスが爆発的に普及するっていう、確信の元での行動さ』
エレキ伯爵にガウス・マグネッツ……あれ? どっちも敵だったような。いやまあ、WWW関連もゴスペル関連も変わってきてるし、彼らが犯罪者ではなくなっているというのなら喜ぶべきことだけども。しかし、だからといってその二人が交わるのは謎である。実は裏設定で繋がりとかあったんだろうか。
『そういやさ、N1グランプリの話は聞いてる?』
『ええ、DNNが主催するネットバトル大会でしょ? うちもスポンサーとして参入しようって話はあったんだけど…』
『伊集院PETカンパニーが先に入っちゃったもんね。流石にライバル企業同士が一緒にスポンサーってわけにはいかないか』
『それで、そのN1グランプリがどうかした?』
『うん、やいとちゃんはどうするのかなって思ってさ』
『あら、もちろん出場するに決まってるでしょ? このやいとちゃんの実力を世界に見せつけてあげるんだから!』
『そっかぁ……うーん、僕はどうしよっかな…』
『…出ないの? むしろ待ちきれなくてウズウズしてるのかと思ってたケド』
『賞金が出るならねー、全力でいくんだけどさ。得られるのが栄誉だけって、ちょっとどうなの? 炎山先輩せこくない?』
『ハイハイ……でも、そうね──そういうことなら…』
『ん?』
『あなたが優勝したら……~~……してあげるわよ』
『さ、マイン。ロックマンとブルースの対策を始めようか』
よーし、俄然やる気が出てきたぜ。グランプリの優勝ごときで、ちょいちょい断られてる『プレイ』をさせていただけるというのなら、これはもう本気でヤるしかないだろう。いやまあ、熱斗くんと炎山先輩を前にして『ごとき』とはとても言えたものじゃないけど、それでも頑張らざるを得ない。
──温泉旅館にグランプリ、その他諸々……楽しいイベントが目白押しで、楽しみに事欠かないぜ、まったく。
■
やってきました『よかよか村』。駅を出たところから既に、動物園の独特な匂いが漂っている。完全には舗装されていない、土がむき出しの道……その端には、屋台などが所狭しと並んでいる。ゲームでは簡略化されていたが、実際にきてみると『ザ・観光地』って感じの賑わいだ。
冷めると異様に不味いベビーカステラや、見た目と実際の味が
秋原小は一クラスたった十人だし、引率もそこまで苦労はしないかもだけど、これが三十人とかだと面倒なんてもんじゃないだろう。せめて僕だけは迷惑をかけないようにしようと、そっとお尻を撫でてあげた。そしてゲンコツを落とされた。
そういえば動物園でも一騒動あったような気がするんだけど、今のところは何もない。別にあってほしいわけじゃないんだけど、ないならないで気になるよね。WWWがいったい何を企んでいるのか、さっぱり見当もつかないぜ。
一通り見終わって、いよいよ向かうは温泉旅館『うらかわ』。褐色ロリことセレナード様の住み家にして、親族経営かつ精鋭揃いの不思議旅館である。ネットの紹介ページには、女将さんとその妹であるたま子さんのバトル動画がアップされていたが──かなりの腕前だった。
なぜ旅館の紹介にネットバトルなのか意味不明だが、N1グランプリといいトーナメントといい、バトルとは関係ないのに宣伝しにくる人も多いため、そういうものだと納得しておこう。というか広告費ゼロで宣伝しようとする人、多すぎだよね。
大部屋に案内され、荷物を置くと──晴れて自由行動である。とはいえ、動物園でハシャいでいたせいか、みんなお疲れのようだ。畳の上でぐでっとしている。まあ食事の時間になればまた騒がしくなるだろう。
「宙、どこ行くんだ?」
「ちょっとお土産屋さん見てくる」
「帰りでよくない?」
「僕はお土産を旅館で食べるのが好きなんだ」
「それもう土産じゃないだろ…」
人気の少ない、少し冷えた廊下を歩く……旅館特有のこの雰囲気、良いよね。いの一番に浴衣に着替えたが、やはりこれを着ると妙に落ち着くものだ。日本人の遺伝子にでも刻まれているのだろうか。
入り口を出てみると、もう日が暮れかけていた。横にある土産屋も店仕舞のようで、店の前に並べている商品を片付け始めている。店員さんはスレンダーな美女で、
勝ち気な美女……というよりは、肝っ玉姉ちゃんって感じだろうか。オネショタ漫画なんかだと、最初は彼女優位で進んで、しかし最後には『嘘っ、こんな子供にイかされ──』とか言ってそうなタイプだ。
「儲かりまっかー」
「…ん? ああ、宿泊学習の子か。なにか欲しいもんでもあるのかい?」
「んー、お姉さんが欲しいかな」
「ぷっ、あっははは! なんだい、最近の子供はませてるねえ」
「もう店仕舞?」
「ああ……って言っても、きっちり決めてるわけじゃないからね。客がいるんなら営業時間さ! 何か買ってくれるのかい?」
「うん。一番美味しそうなのは……っと……んー…」
「親御さんへのお土産なら、この辺がおすすめだよ」
「ううん。今日のデザートに、僕が食べる用」
「そ、そう……変わってるね」
『お土産』には美味しそうなのを選ぶものだが、自分の口に入るかと言えばそうでもない。せっかく観光地の特色あふれるご当地グルメなんだから、自分でも食べてみたいじゃないか。幸い、今日は一人じゃなくてクラスのみんなもいるのだ。
十何個入りで一セットのお菓子を買っても、消費しきれる。僕の株も上がり、かつ色んな味を楽しめる良い機会だ。四箱ほど選んで購入するとしよう……ん? なにやらたま子さんがPETを懐から取り出し始めた。
「…あんた、腕に覚えはあるかい?」
「…? まあ、そこそこには」
「よーし! ならネットバトルだ! あんたが勝てば代金はタダ! ただしアタイが勝ったら、倍の八箱買ってもらうよ!」
「むちゃくちゃ言いよる…」
「おや、怖気づいたのかい?」
こんな人だったのかこの人。というか成人過ぎてアタイはないだろう、アタイは。どこぞの氷妖精の印象が強いせいで、なんとなくアホっぽく見えてしまう。しかし自分の強さに自信があるのなら、割とアコギな商売ではなかろうか。
「んー……バトルするのはいいけど、条件は変えてほしいな」
「もうちょっと緩いほうがいいかい?」
「ううん。僕が負けたら三十箱買うことにするよ」
「へぇ…! よっぽど自信があるみたいだねえ。なら、アタイが負けたらどうしてほしいんだい?」
「おっぱい揉みたい!」
うおっ、目の前でずっこけられた。吉本新喜劇のファンなのだろうか? 呆れた表情で汗を垂らすたま子さん……口元の泣きぼくろが物凄く色っぽい上に、ポニテというのもポイントが高い。チョーカーを付けたうなじが艶めかしく、つい喉を鳴らしてしまった。
「あ、あんたねえ…」
「おっと、怖気づいちゃったかな?」
「…はっ、上等! 男が一度口にしたんだ! 約束は守ってもらうよ!」
「もちろんさ──行くぜマイン!」
『あいさー』
「やっちまいな! メタルマン!」
『ああ!』
メタルマン……その名の通り、鋼の攻撃力と防御力を持つ優秀なナビだ。その鉄拳にはブレイク性能があり──当たるとめっちゃ痛そう。半端なく痛そう。一撃で戦局を覆されかねない怖さがあるし、さっさとケリをつけるとしよう。
『ぬぅ…!』
「メタルマン!」
『さらばだメタルマン……お前もまた
『待て、死んではいないぞ』
「けど決着はついたね」
「くっ…! …はぁ……すごいねアンタ! アタイとメタルマンがこんなにあっさりヤラれるなんて初めてだよ! ──そういえば名前はなんて言うんだい?」
「僕は『光 宙』。こっちは『マイン』」
「アタイは白泉たま子。この旅館の女将の妹さ」
「うん」
「いやぁ、しかし強いね……ほんとに強い…」
「うん」
「…あ、買うのは四箱でいいんだよね?」
「うん」
「袋は一つでいい?」
「うん」
「…」
「…」
「…ほんとに揉むのかい?」
「うん」
「くぅっ…!」
「一度口にした約束はー?」
「わ、わかってるさ! この白泉たま子! 約束を破った試しはないよ!」
やったぜ。今回に限っては、下心があってきたわけじゃないんだけど──自分から飛び込んできたんなら、それはもう自己責任だ。途中だった片付けを手伝い、シャッターを下ろせば……店内には僕と彼女の二人きり。
店の中でのエロという珍しいシチュエーションも加わって、期待もテンションもアゲアゲだ。店内と住居はそのまま繋がっているようで、そこの出入り口は腰を下ろすのに丁度いい高さだ。座り込んだたま子さんの隣に寄り添い、腰に手を添える。
「うぅ……近頃の子供って……子供って…!」
「近頃もなにもないさ。いつの時代も、男はガキの頃からおっぱいおっぱい言ってるでしょ?」
「そう言われるとそうかも…」
「これに懲りたら、不用意な約束なんてするもんじゃないぜ」
「はぁ……肝に銘じとくよ」
ほんのり赤く染まった肌が、これまた綺麗だ。白いタンクトップを首元まで捲り上げると、張りのある双丘がぷるんと揺れた。かなり控えめな胸だが、細身の体と相まって芸術品のように美しい。触るまでもなくツンと上向いた乳首は、緊張のせいだろうか。サイズこそ、子供の手のひらに収まるくらいの慎ましさだが──しっとりと指に吸い付いてくる肌がなんとも心地よい。
「わー、やわらかーい」
「ふっ、んんっ…」
あまりこういうことには慣れていないようで、くすぐったそうに身を捩るたま子さん。しかし乳首を人差し指で軽く弄ると、艶のある声が漏れる。ここまでは、あくまでも『小学生の悪ふざけ』っぽい雰囲気を全面に押し出してきたわけだが──シンとした密室で荒い吐息だけが響くこの状況は、濡れ場以外のなにものでもないだろう。
揉んでいる内にたま子さんがしなだれかかってきて、今は男女逆の膝枕状態だが……流石にそんな体勢でこられると、勃起した剛直は隠しきれない。
少し呆けながら揉まれ続けているたま子さんだが、その顔の横には、浴衣からはみ出した白いテントが張っている。ちなみに僕はボクサーパンツ派である。
程なくしてその存在に気付いた彼女は、一瞬ぎょっとした後、恥ずかしそうにこちらを見てきた。そんな顔をされると、余計に興奮が滾るというものだ。更に一回り大きくなった肉棒を見て、たま子さんはゴクリと喉を鳴らした。震えた唇から零れる溜息は、まるで何かを期待しているかのようだ。
ますます桜色に染まる肌は、彼女の興奮を表しているのか──既に隠さなくなった喘ぎ声は、僕の我慢を容易に打ち砕いた。苦しげに圧迫されていた肉棒を、外気に晒す。熱を持った剛直がぶるりと頬に叩きつけられ、たま子さんは発情したかのようにちろりと舌を出した。
そのまま僕の股座に顔を埋め、亀頭を口に含むと──そのまま一気に喉奥へ導き、肉棒の全てが彼女の口内に収まった。先端を喉でキュンキュンと締め付けられ、竿の部分は舌で絡め取られる。前後の動きがなくとも、これほど気持ちよくなれるのかと驚かされたところで、一度目の射精を迎えた。
こくりこくりと喉が動き、肉棒を口に含んだまま飲精するたま子さん。しかし我が息子は大きさも硬さも一向に衰えず──彼女は困惑したようにこちらへ目を向ける。その口の端は精液とよだれで泡立ち、泣きぼくろがどうしようもなく色気を醸し出している。
名残惜しくも、そのイヤらしい穴から肉棒を引き抜く。口の周りを舌で舐め取り、上気した顔でこちらを見つめるたま子さん。緑色のスキニーには黒い染みが広がっており、彼女が何を期待しているのかなど一目で理解できた。
膝立ちになり軽く体を押すと、彼女はなんの抵抗もなく床へ背中を預けた。ぴっちりとしたスキニーに手を潜り込ませ、熱くなった割れ目に指を挿し込もうとしたその時──
「たま子ー? 集計終わはった?」
「──っ!」
女将さんらしき声が扉の向こうから響き、二人揃ってギクリと硬直した。ドアノブの回る音が妙に大きく聞こえる。乱れた着衣を慌てて正し、頷きあいながらPETを持って向かい合う。扉から直接見える場所だったら危なかっただろう。通路から顔を覗かせた女将さんは、僕たちがネットバトルに熱中していたのだと解したようで、呆れた表情で肩をすくめた。
「…仕事もそっちのけで何してはるの? ──あんさんも、もうすぐご飯の時間どすえ。はよう部屋にお帰りやす」
「う、うん、ごめん…」
「はーい、ごめんなさーい」
おっと、ついつい時間を忘れてしまっていた。京都弁の女将さんに促され、腰を引きながら情けなく退散する。傍らを通り過ぎる際、少し目を細められた……バレてるかな? 服はともかく、匂いは充満してただろうし。
中途半端な情事でモヤモヤしながら部屋へと向かう──その途中。交換したばかりの連絡先から、メールが届いた。たった二文字『夜に』とだけ書かれていたが、その意味は小学生でも理解できるだろう。
──夜の宿泊学習も、これまた楽しそうで何よりである。
勃起もんやろなぁ…
『義理』という言葉を見て、最初に思い浮かべたものは?
-
姉
-
妹
-
母
-
チョコ
-
キルバーン