※この作品はR-18です。

ロリコンがロックマンエグゼの世界で生存を誓う話   作:ラゼ

9 / 11
とんでもなくエロいので、ズボンを脱いでから読むことをオススメします。


9話

 誰も彼も夢見に沈む、静寂の夜。冷えた空気が満ちた廊下を、そろそろと歩く。ぼんやりと光る非常灯、そして自販機から聞こえる無機質な低音が、ホラーチックな雰囲気を緩やかにしてくれていた。廊下の先には、この旅館の名物でもある天然温泉がある。

 

 そして──隠された“ウラインターネットサーバー”も、そこにある。

 

「むむむ……ゲームじゃさらっと開いてたのに……結構厳重だぜ」

『面倒くさいセキュリティだね……よっ、と、ほっ──よし、抜けた』

「ちょっとワクワクするよね、こういうの」

『うん……というか、先に温泉入ったほうがいいんじゃない?』

「ん? …それもそっか。んじゃちょっと失礼して…」

 

 たま子さんとの事後だけに、乾いてはいるものの色々と付着している。仮にも裏の王の領域へと侵入しようというのだから、確かにこれはいただけない。シャワーで体を軽く流し、温泉に浸かりながら体をほぐす。たま子さんは割と受け身型だったから、こっちが体を動かす体位が多かったのだ。

 

 暗闇の中、PETの光だけを頼りに温泉に浸かるのは、なんとも奇妙な感覚だ。子供の頃、電気をつけずにお風呂に入ったことがあるが──なんかテンション上がるよね。

 

 あまりゆっくりしていると睡眠時間がゴリゴリと削られていくので、体の芯まであたたまる前に温泉から上がる。備え付けのバスタオルで体を拭き、自販機のフルーツ牛乳を一気飲みし、先程の岩戸へと向かう。岩の隙間にするりと体を通し、エレベーターへ足を踏み入れ、そのまま地下へ進むと──そこには巨大なサーバーが鎮座していた。

 

 ここから直接アクセスできるエリアこそ、ウラインターネットの更に深部『シークレットエリア』である。もちろんインターネットからも入れないことはないが、非常に面倒なのだ。プラグアウトもできなくなる関係上、直接プラグインした方がなにかと楽だ。そしてこのシークレットエリアの最奥に控えるナビこそが、かつてフォルテさんをも下した、最強と名高い自律ナビ──セレナード様。通称『S』である。聖母のような存在の癖に『S』なのだ。

 

「さて、と……今回は『条件』の確認にきただけだから、無茶はしないようにね」

『あいさー』

 

 そのセレナード様に会いに行くための条件なのだが、これがまた色々とメタいのである。いわゆるゲームのトロフィー的なものをいくつも達成していなければならないのだが、まさか現実になってまでそれが反映されているとも思えない。故に、今日はその確認に訪れたというわけだ。

 

 どこまで準拠しているのか──そしてセレナード様への道程に立ち塞がる『二体のナビ』は、存在するのか。おそるおそる進んで行くものの、やはりウイルスの危険度は、他のエリアと比べ物にならないほど高い。ちょいちょいとウイルスをあしらいながら歩いていると、なにやら空間が軋み……暗闇と共に黒紫のナビが現れた。カッコいい。

 

『コシュー……コシュー……九千五百八十二体目…』

『──っ! 宙!』

「うん。出たね……ダース・ベイダー卿だ」

『なんでやねん。ダークマンだよ、ダークマン』

『コシュー……俺の名を知ってなおここに来るとは……死ににきたか…?』

『まさか。ところで“九千五百八十二体目”ってのは?』

『ここを通ろうとした愚か者の数だ……そしてその数は、ここでデリートされていった数と同様…』

『どういうこと?』

『コシュー……わからんか? 俺が“ここ”で番をしているということだ』

『つまり、どういうこと?』

『どれだけ察しが悪いんだお前は! ここを通ろうとした者は全て俺がデリートしたということだ!』

『ふっ……戦いはもう始まってるってのに、敵の言葉で心を乱すとはね。そんなんだからセレナード様に返り討ちされるんだよ』

『…っ! 貴様…!』

 

 九千五百八十二体とか笑うわ。秘匿された場所じゃないの? その辺の弱小ブログのアクセスカウンターより多いじゃないか。まあ裏の王を目指す者たちが辿り着く場所と考えれば、そんなもんなのかな。ダークマンさんも大変だぜ……というか、セレナード様に『再戦を望むなら一万体デリートするまで防衛よろしく』って言われて、律儀にこなすダークマンさん可愛い。

 

「油断しないようにね、マイン」

『わかってるって……流石にここまで来ると、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)ってわけにはいかないしね』

「バトルオペレーションセット!」

『イン!』

『愚か者どもめ…!』

 

 さて……むぅ……うおっと! どこからでも唐突に現れるダークホールが、ことのほか厄介だ。どこのスキマ妖怪だお前は。そのせいで、常に三百六十度警戒してなけりゃならない。しかし周囲ばかりを警戒していると、ダークマンから発射される謎ビームにやられかねない。

 

 一度当たれば継続してダメージを食らう恐ろしいビーム……僕の天敵と言っても過言ではない。できれば強いチップでさっさと勝負を決めたいところだ。マインが速度で翻弄してる間にアドを繰り返し、プログラムアドバンスを狙う。いま使用しているチップフォルダは、『シークレットエリア』に出現するウイルスの特性に合わせ、一撃に特化したチップやPAを多く入れているのだ。

 

「きたぜマイン」

『オッケー!』

 

 “ロックマン”“ロールV3”“ナビスカウト”──現実となったこの世界では、チップの種類も大幅に増えている。特にナビチップは、専用にカスタマイズされたナビの分だけチップの種類があるのだ。もちろんロックマンのナビチップだって存在するし、マインも例外ではない。

 

『“ロックンロール”!』

『ぬっ──ぐぅおぉぉ!』

 

 駄洒落のようなプログラムアドバンスではあるが、その攻撃力は冗談の範疇(はんちゅう)に収まらない。やはり愛の力は偉大ということなのだろう。ちなみにPAについてだが、これは開発者が意図的にプログラムしたものではなく、あくまでも偶然の産物である。カードゲームに例えるなら、開発者が意図してないシナジーを、無数のプレイヤーが数を頼りに追い求めるようなものだ。そしてこのPAに限って言えば、ロックとロールちゃんのコンボは絶対にあると思ったから、残り一つを総当りして発見したものである。

 

『コシュー……馬鹿な…!』

「コーホー……当然の結果だぜ」

『ホアー……君は一人、僕らは二人。戦いは数だぜ、ダークマン』

『俺を馬鹿にしているのか! 貴様らぁ!』

「はい」

『うん』

『こっ、ここっ、かっ…!』

「まあまあ、落ち着いて」

『短気は損気だぜ』

「君が何故セレナード様にも、そして僕らにも負けるのか……教えてあげようか?」

『なに…!』

「ずばり、君が悪者だからだよ」

『コシュー……なんだと…?』

『正義と悪。最終的に後者が勝ったままなんてことは、そうそうないのさ。世の中、正義の反対はまた違う正義だのなんだのとグダグダ言ってるけど、勧善懲悪(かんぜんちょうあく)ってのはそんな哲学的なもんじゃないんだよね。いいかい? 正義ってのは──』

『…正義……』

『正義ってのは──そう、僕が決めるものだ! ダークマン! お前は悪だ!』

『ふざけるなクソがぁ!』

「まあそこは冗談だけど、正義と悪と強さのくだりは真剣だぜ。本当の強さが知りたいなら──ダークマン。一万回くらい、誰かを助けてあげなよ。そうすれば、きっと僕の言ってる意味もわかるさ」

『…』

『わかるぜー』

『…本当だな?』

「もちろん。あ、その間に悪事を働いたら意味ないぜ?」

『…コシュー……ならば一万人を助けた後……再戦だ…』

「オーケー。楽しみに待ってるよ」

『頑張ってねー』

 

 空間の歪みと共に消えていったダークマン……いや、その技術どうなってんの? 今度戦う時があれば、教えてもらうとしよう。しかし上手く言いくるめられてよかったぜ。

 

『しっかしさ、名前の割に素直だよねダークマン』

「まあセレナード様の条件も受け入れてたわけだし、勝者の言葉には従うべきって感じなんじゃないの?」

『かな? でも一万人救うとか、面倒すぎて僕なら絶対断るぜ』

「適当に言っただけだけど、意外と有効かもよ。善行とか人からの感謝って、意外と気持ちいいもんだしね」

『セックスにも繋がるし?』

「イエス」

 

 ウイルスを蹴散らしながら先へ進むと、今度は新たなセキュリティシステムが立ちはだかった。かなり複雑なプログラムで構成されているようで、上の岩戸のように力技では如何ともし難い。時間をかければなんとかならないこともないが──

 

「マイン!」

『うん──っとと、ウイルスの対処しながらじゃ厳しいね…』

「うーん……“裏ランキング十位の証を示せ”か。この分じゃたぶん…」

『九位から二位までのセキュリティもありそうだね。どうする?』

「いったん退こうか。無理して通るより、ランキングに挑戦する方が安全だろうし」

『オッケー』

 

 予想通りと言うべきか、メタなセキュリティは無かった──が、やはりセレナード様へ拝謁するには正攻法でいくしかないようだ。ウラインターネットかぁ……懐かしいと言うほど懐かしくはないけど、なんとなく古巣へ戻るような感慨深さを感じるな。うん、ついでにお金稼ぎでもするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ウラインターネットへ接続するにはどこからが手っ取り早いか──それはなんと言っても『科学省』。ともすれば敵対勢力とすら言えそうな両者は、実は出どころが同じである。インターネット黎明期(れいめいき)の科学省が、リスク管理のために作り上げたエリアこそがウラインターネットなのだ。

 

 その特性上、悪人が多く集まるようになったのは予想外だったようだが……それが予想外だったのが予想外すぎるぜ。要はIPアドレスの開示やらなんやらも受け付けない場所であり、ダークウェブを閲覧するにあたって玉ねぎを使っているようなものだ。

 

 まあそんなわけで、科学省に用意されているオフィシャル専用のアクセスポイントへ向かっているのだ。ウラインターネットへの接続に際し、いちいち申請しなければならないという手間はあるが、やはりセキュリティが段違いというメリットが大きい。

 

 インターネットからPETへのハッキングというのも、この世界だとなくはないし、気を付けるに越したことはないだろう……特権というものは、使ってなんぼである。

 

 メトロに乗ってサクッと移動し、駅を出た──ところで、DNNの撮影現場に出くわした。ちょうど終了したところのようで、機材の撤去が始まっている。

 

 さすが近未来と言うべきか、機材の進歩が(いちじる)しく、リポーターとカメラマンの二人だけで撮影が成り立つらしい。ちなみにリポーターは今も昔も変わらず、容姿が重要視されているようだ。

 

 そしてもう一つ重要なのが──そう、ネットバトルの腕前である。顔出しの多い芸能系など、要は人気商売の類の職業は、ネットバトルの腕が立つと人気が出やすい。

 

 リポーター兼ニュースキャスターとして、飛ぶ鳥を落とす勢いの『緑川ケロ』さん。彼女の致命的欠点──『喋りが下手』という、なぜキャスターをやっているのか解らないレベルの欠点さえも、ネットバトルの腕が高ければ容認されてしまうのだ。

 

 とはいえ、やっぱり容姿も大いに関係しているのだろう。カエルを意識した意匠(いしょう)を好む彼女だが、その奇抜さは可愛らしさと絶妙に同居している。看板番組『ケロの突撃! レポート』では、その快活な雰囲気が可愛さとマッチして人気を博しているのだ。

 

「じゃ、今日は直帰させてもらいまーす」

「はーい! お疲れ様ですケロさん」

 

 撤去作業も終わり、車が走り去り……普段着になったケロさんが一人残される。帽子のあとが残っていて、少し髪がペタンとしている。普段ならファンが殺到しそうなものだが、撤去作業中にほとんど人波が引いていたこともあり、通りは閑散としていた。加えて、特徴的な帽子を脱いだせいで気付く人間も少ないのだろう。

 

 さかなクンさんが帽子を脱いだら、たぶんほとんどの人は気付かない……人間の認識なんてそんなもんである。普段が奇抜であればあるほど、認識の齟齬(そご)は大きいだろう。僕も別段、声をかけるでもなく横を通り過ぎ──ようとしたところで、彼女から声をかけられた。

 

「…あっ! アナタ、もしかしてオフィシャルネットバトラーの…」

「いえ、人違いです」

「あれっ、そ、そう? ごめんなさい……って絶対に合ってるでしょ!」

「ちっ」

「舌打ちされた!」

「いえいえ、そんなまさか。それでは失礼します」

「まだ何も話してないんだけど!?」

「すいません。マスゴ、マスコミの関係者の方とはあまり不用意に話すなと言われてまして…」

「マスゴミっ!?」

「ああ、そんなに自分を貶さないでください。誰もマスゴミなんて思ってませんよ」

「さっきのは!?」

 

 うーん、可愛い女性ではあるのだが……彼女に近付くのはリスクが高い。身の回りを詮索された結果、『最年少オフィシャルネットバトラー! 夜のお相手は複数?』なんてすっぱ抜かれたらたまったもんじゃないし。ちょっとイタズラしようものなら『オフィシャルの実態! ~権力の暴走~』などと書かれるかもしれないし。

 

 文化が発達すればするほど、ペンは剣よりも強くなるのだ。その上、彼女は数多いキャスターの中でもトップクラスに行動派である。静止を振り切ってでもスクープを優先するような気性も合わせ持っている。そして僕はと言うと、出自から女性関係までネタだらけの人間だ。ダムの一件のような緊急事態であればともかく、平時であればお近付きにはなりたくない。

 

「この前のダムの騒動……少年のおかげで社長賞とれちゃったのよー! アリガトね!」

「ああ、それはよかった。では失礼します」

「なんでこんなに嫌われてるの!?」

「いえいえ、それどころか大ファンですよ。では失礼します」

「ええぇー…」

 

 君子危うきに近寄らずだ。正直な気持ちで言えば、彼女に『本番入りまーす(意味深)』とか言いたいところだが、ここはぐっと我慢である。背中にビシビシと視線を感じながら歩きだすと、前方から同僚がやってきた。あちらも僕に気付いたようで、片手を上げながらフランクな笑顔で話しかけてくる。

 

「おう、お疲れさん。さっきの申請、通しといたからもうプラグインしても問題ないぞ……しかしウラインターネットなんかに何しに行くんだ?」

「ありがとうございます。まあちょっとした帰省みたいなものというか、なんというか…」

「帰省ってお前な……ま、オフィシャルに入る前から入り浸っていたんだ。いまさら心配はいらんだろうが、気を付けるようにな」

 

 情報部局長の彼は、フォルテさんとの戦いを見て僕をスカウトしたあの人である。戸籍の取得や住居の用意、その他諸々の面倒を見てくれた恩人でもあり、僕にとっては足を向けて寝られないお人なのだ。僕の頭をポンポンと撫で、去っていく局長。パパみを感じるぜ。

 

「──ウラインターネット!」

「うわっ!? まだいたんだ…」

「ほらほら、そんな嫌そうな顔しないで。ねね、いまからウラインターネットに行くんでしょ?」

「ええ、まあ。仕事の一環ですけどね」

「お願い! 同行させて!」

「では失礼します」

「遂に無視!」

「…同行させてトードマンがデリートなんてことになったら、責任問題ですから」

「責任は自分でとるわ」

「『客観的に見て』誰の責任かって話ですよ。ケロさんの熱狂的なファンが『ケロさんを悲しませたな!』とか難癖つけてくる可能性だってあるでしょう? 有名税があるべきとは言いませんが、影響力の高い人は自身の行動を俯瞰(ふかん)して見るべきだとは思いますよ」

「そんなこといわずに~」

 

 軽っ! 僕もたいがい軽い人間だとは自認してはいるが、それにつけても彼女の軽さはパない。僕が珍しく真面目な顔で諭しているというのに、いいじゃんいいじゃんって感じでお願いしてくる。これがマスゴミってやつか。

 

「だからダメなもんはダメですって」

「迷惑はかけないから!」

「もうこの時点で迷惑なんですけど」

「一生のおねがい!」

「小学生か! ──むっ…!」

 

 僕の両手を握りしめ、懇願(こんがん)してくるケロさん。無意識っぽいが、胸に手が埋まりそうだ。ピクリと反応してしまったのが悪かったのか、それを見た彼女はしたり顔で、今度はわざとらしく腕を絡めてきた。成人男性にこのようなことはまずしないだろうが、おマセな男子小学生程度なら話は別ってことなのだろう。

 

「ね? おねがい~」

「いやぁ……でもなぁ…」

 

 けしからん、実にけしからん。なんともけしからんおっぱいだ。カップはCあるかどうかといったところだが、柔らかさがケロいぜ。まさかとは思うが、スポブラなのか? 考えるより先に行動する彼女なら、動きやすさを優先してそっちを着けるのもあり得るな。

 

 ああ気持ちいい──っとと、だからといって彼女をウラインターネットへ同行させるのは、危険が危ない。名残惜しいが丁重にお断りしよう……と思ったんだけど、そう言えばゲームでも似たような状況になっていなかっただろうか?

 

 うーん……『ケチ!』などと捨て台詞を吐いてふくれっ面で帰ったあと、自分一人でアクセスする姿が目に浮かぶ。ゲームシナリオ進行上、無理やりクソムーブをさせられたような感じだったが、いま面と向かって話していると『やらかしそう』な雰囲気はある。おっぱい気持ちいい。

 

「うーん…」

「…ダメ?」

「…じゃあ……正式な依頼ということであれば」

「どういうこと?」

「『ウラインターネットの危険度を周知させ、喚起するためのレポート』……そういうていでなら、こちらも上に申請できますし。正式な契約なら、責任の所在も確かになる」

「じゃあそれで行きましょ! しゅっぱーつ!」

「いや、DNNに許可とかいるでしょ…」

「雇用形態は業務委託だから、ポシャっちゃっても自己責任って感じ?」

「あれ、ケロさんって局アナでしょ?」

「売れっ子になってきたからフリーに転身したの!」

「意外と抜け目ない…」

 

 グイグイと手を引っ張られ、科学省へと向かう。現場判断が多く、個人の裁量が大きいオフィシャルならではの申請スピードで、ケロさんの同行が認められた。AI管理が大部分を占めるだけに、昔の『お役所仕事』なんてものは無いに等しいのだ。

 

「じゃあ依頼料は百万ゼニーってことで…」

「ひゃくっ!?」

「もしくはほっぺにチュー」

「落差がスゴイ…」

 

 これぞ『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』……本命の要求を通すために、あえて最初の要求を過大なものにするテクニックである。百万ゼニーに比べて、ほっぺにチューのなんと易しいことか。だがしかし──冷静に考えてみれば、売れっ子キャスターのキスなどいくら積んでも難しいものだ。この世界、枕営業なんてものもなさそうだし……となれば余計に貴重な機会だろう。

 

「最年少オフィシャルネットバトラーは、結構エッチな男の子……と」

「やっぱ取材は無しの方向で」

「ウソウソ! 冗談よ!」

「じゃあ報酬に添い寝をプラスということで…」

「ええぇ…」

「美人のお姉さんに甘えたい年頃なんです」

「うーん……でもウラインターネットの裏側を見れるなら……子供相手だし、いいかな……ぶつぶつ…」

 

 お悩みケロさん。というかウラインターネットの裏側って、それもう表じゃね? …たっぷり数秒ほど悩んだあと、仕方なさそうに了承してくれた。思い切りのいい女性である。

 

 契約が完了した後、オフィシャル用の接続端末がある個室へと彼女を案内する。しかしこうなるとわかってたんなら、もっと部屋をシャレオッティにしていたものを。

 

「じゃ、なるべくマインから離れないようにねトードマン」

『了解だケロ!』

「ケロさんもなるべく僕に密着しといてください」

「りょうかい! …ん? おかしくない?」

「──マイン.EXE トランスミッション!」

「ごまかすなー!」

『よろしくねー、トードマン』

『ケロッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全体的に薄暗く、怪しい雰囲気が漂う『ウラインターネット』。いつ来ても陰気な場所だが、しかし僕にとっては糊口をしのいだ大切なエリアだった。オフィシャルナビになって色々わかったことがあるんだけど、僕が拾っていたマネーデータなどは、無から生まれたものではなかったらしい。

 

 ウイルスに奪われたり、ナビのデリート時に飛び散ったマネーデータが、流れ流れてミステリーデータになっているのだ。つまり僕が貯めたお金は、誰かしらの犠牲によって成り立っていたらしい。まあ返す手段など存在する筈もないし、そもそも違法行為というわけでもないため、両手を合わせて感謝しておくことにしよう。

 

「いやぁ、トードマンがいると楽だねぇ」

「サポートはおまかせケロ!」

 

 トードマンを守りながら進むのは面倒だ──などと考えていた、さっきまでの僕を叱りたい気分である。危ない時は自分で作り出した水パネルに隠れてくれるし、要所要所で『ショッキングメロディー』の麻痺攻撃によってウイルスを足止めしてくれる。オペレーターであるケロさんとのコンビネーションもバッチリだし、局アナNo.1ネットバトラーの腕前は伊達じゃないようだ……あ、今はフリーだっけ。

 

 しかしトードマン……どの角度から見てもかわいいナビである。もちろん性的な意味ではなく、マスコット的な意味だけど。無印ロックマンのゲテモノっぽい見た目から、よくぞここまでブラッシュアップできたものだ。

 

「ケロッ……誰かいるケロ」

「あんまり目を合わせないようにね。触れるものみな傷付けたい年頃ばっかだから、ここ。絡まれるのも鬱陶しい──」

「へへへ、どうしたチビちゃんたちよう……子供型ナビに、お供のヌイグルミナビってか? ここがウラインターネットだってわかってんのかぁ…?」

「こっから先を通りたきゃ、通行料置いてきな!」

「おおっと、引き返すんならオレらが護衛してやるよ。料金は十万ゼニーだ!」

 

 なんてわかりやすい悪役なんだ……とはいえ、ウラインターネットでは珍しくもない。もう少し奥まで行けばガチ勢が多くなるため、意外と治安は悪くないのだが──こんな入口付近だと、チンピラみたいなのがよく出る。『ウラインターネットの住人』というのをステータスかなにかと勘違いし、自らも新参でありながら特別な存在であると勘違いしがちな、いわば半可通とも言える者たちである。どの板でも猛虎弁を使っているような、痛々しい奴らと考えればわかりやすいだろう。

 

「ケロ…」

「下がってて、トードマン。君らも、悪いことは言わないから──」

「…ん?」

「待てよ、黒髪の子供型ナビ…?」

「こいつ、もしかして──」

「…え、なに?」

「──『M』だぁぁぁ!! 逃げろぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁ!!」

「は? ちょっ、まっ…」

 

 『M』? なんだよ『M』って。僕はどっちかと言うとSだし……『マイン』の『M』って言いたいんだろうか。しかしウラインターネットに常駐していた頃は、そもそもマインとすら名乗っていなかった。オフィシャルナビと気付いたから逃げた、というのも違うと思う。ああいうのは大体『オフィシャルがナンボのもんじゃい!』って絡んでくるし。

 

「うーん…?」

「すごいケロ! 一目散に逃げてったケロ!」

「うん……そう……だね…? なんかよくわかんないけど」

 

 僕またなんかやっちゃいました? いや、ネタじゃなくマジで。うーん……うん。こういう時は、ウラスクエアの掲示板に限る。色々と危険な場所だけに、ヤバい情報は割と共有されてるのがウラインターネットというものだ。もし欲しい情報がなくとも、それと似通った……しかし間違ったネタを喜々として書き込めばいい。その書き込みをバカにしつつ、正しい情報をひけらかしてくれる人物が現れるのが裏クオリティである。

 

『ゴクッ……ここが裏のスクエアです。いま、わたくし緑川ケロとトードマンが闇に包まれたベールを剥がさんと…』

『カメラ回ってないですよ?』

『あっ、そうだった』

『ほら、危険だから離れないで』

『うん……って危ないのはトードマンたちでしょ!』

「マインのオペレーターは、ちょっと変わってるケロね」

「──いまのは聞き捨てならないぜ、トードマン」

「ケロッ!? で、でも…」

「『ちょっと』じゃない。だいぶ変わってるんだ」

「そこケロッ!?」

 

 ジロジロ見てくる住人共を無視し、トードマンと連れ立って掲示板へと向かう。無数に乱立するスレッドから、警戒度の高い情報を共有する板を覗く。最新情報は……ふむふむ……表の住人に絡む裏の住人が、ここ最近よく狩られているとな。黒と紫が基調で、マントの色がたまに変化する……あ、ダークマンか。なんとも行動の早いナビである。

 

 ふんふん……ははぁ……ほむほむ……闇のチップが出回り始めている、と。オフィシャルとしても早めに動いたほうがよさそうだ……あとは……ん? …これは…?

 

 

────────────────────────────────────────────────────

 

 

 3: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:24:41.83 ID:EQUhjinKi

 

 マネーデータ全部持っていかれた……なんだよあの子供型ナビ…

 

 

 

 6: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:26:18.66 ID:OJNjin

 

 最近流れてきたガキだろ? ミステリーデータ見つけたら、目の色変えて飛びつきやがるんだが……それがまた速えのなんのって

 

 

 

 12: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:29:55.81 ID:PAlLcuk

 

 噂によると新型のマネーデータ回収ウイルスらしいぜ

 

 

 

 

 18: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:35:40.43 ID:EQUhjinKi

 

 どこの噂だよ

 

 

 

 

 22: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:41:55.83 ID:OhjJha

 

 ガキだからっつって絡んだ奴が片っ端から返り討ちに合ってるらしいな

 

 

 

 

 31: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:51:39.33 ID:HIUHguhkIG

 

 俺もやられた……『悪人から巻き上げるのはセーフ。圧倒的セーフ』とか訳わかんねえこと言いやがって…! 

 

 

 

 37: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:55:49.12 ID:hkhHKnhNLk

 

 まあ実際オレらがオフィシャルに訴えても笑われるだけだしな

 

 

────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 …うむ。悪人に人権はないって、リナ・インバースさんも言ってたからセーフだ。しかし割と最初から噂になってたのは気付かなかったな……他の板にも……ううむ、これは…

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────

 

 

 238: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 01:59:49.11 ID:geyKOunkKO

 

 また『M』が出たぜ……今月の被害者、何人目だ?

 

 

 

 

 242: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:03:16.12 ID:KodGhHI

 

 『M』ってなんですか?

 

 

 

 247: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:11:55.11 ID:hghGHggG

 

 わかんねえなら半年ROMっとけひよっこ

 

 

 

 252: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:15:31.33 ID:BHGHBcrt

 

 『亡者』だよ……金の亡者。悪いことは言わねえから、会ったらなりふり構わず逃げな。ケツの毛まで毟られるぜ…

 

 

────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 なんて失礼なんだこいつら……僕はあくまでも、正当防衛の名のもとに返り討ちにしていただけである。ポケットでモンスターなゲームのトレーナーだって、勝負のあとは巻き上げタイムに入るじゃないか。それと一緒だ。あの頃は生活がかかってたのもあって、ちょっとだけ殺伐としていたかもしれないが、亡者とまで言われるのは心外だよね。

 

「そういえば、マインたちはウラインターネットになにしにきたんだケロ?」

「ん? ああ、そういえば言ってなかったっけ。色々あって『ウラランカー』の称号が必要になってさ、ちょっと取りに来たんだ」

「ウラランカー?」

「うーん……裏の十傑みたいな感じって言えばわかりやすいかな?」

「ケロッ……そんな『ちょっと取りにくる』ようなものじゃないと思うケロ…」

「ま、仰々しいのは名前だけさ。ガチの実力者は一位の『ウラの王』と、二位のナビくらい──」

『へっ、そいつは聞き捨てならねえな!』

「──誰だ!」

 

 後ろから聞こえてきたオペレーターの声に振り向けば──そこには頭の上にチョロチョロと火を灯す、ロウソクのようなナビが腕を組んで立っていた。




ほら、ズボン履けよ。








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