徒エロ183集 作:唯一無二がまたやっている
「惚れ薬、です?」
「ええ。そのようですね。なんでも、中国から来た仙人の方からの贈り物だそうです」
胡散臭い……いや、多分本物だろう。例の仙人に覚えがある。
「それで、なんでそれを私に、です?そんなのどっかに保管しときゃいい、です。面倒臭そうな案件、です」
「そうなのですが……少々面倒な事になりまして」
お偉方に効能を試せと言われましてね、と続ける信親《のぶちか》に私は大きく溜息を吐く。なんでこんな事に巻き込まれてるんだ、面倒臭い。
(とっとと帰ってぬいぐるみに囲まれたい)
「そう、じゃあ頑張ってね、です」
「そう言えば貴女に貸しがひとつありましたね」
その瞬間ピタッ、と身体が硬直し、全く動けなくなった。貸しは踏み倒す気満々だったので硬直は精神的なものではない。原因は目の前のクソ男だ。
「占いだけが取り柄のか弱い乙女に何すんの、です。早くこれ解け、です」
おそらく周りの空間を一時的に固定したのだろう。封印術の一つでこのようなものがあったはずだ。
「貴女は最近ずっと奔放に動き回りすぎなんですよ。そろそろ落ち着きと言うものを持っていただきたい。その為の弱みです」
「げ、外道……」
「貴女がもう少し大人しくしていれば私も怪我をする事はありませんでしたしこのような事をする必要も無かったのですがね」
そう言いながら信親は私の口を無理やり開けさせて、どきつい色をした液体を一滴垂らした。慌てて目を瞑る。
「……イチゴ味、です?」
「目を瞑らないでいただけますか?他人を見ていただかないと何も始まらないのですが」
そうは言っても嫌なものは嫌なんですけど。
「おっと、です」
いつのまにか術式が解かれていて私はバランスを崩してたたらを踏んだ。まあいいや、家に帰って閉じこもっておこう。
「っと、じゃあ私は帰る、です」
「その状態で帰って万が一面倒な奴に絡まれたらどうするのですか?」
「信親お前ホンッッット性格悪いよね、です
」
仕方無しにソファに座る。一瞬だけ目を開けて、ソファの位置を確認し───。
「んぅっ!?」
もしかして、今ちょっと視界に信親が入った?心臓がバクバクして身体中が寒い。ゾクゾクとした悪寒が胸の奥を中心に広がっていく。怖い、何これ、惚れ薬って嘘じゃないの?毒……?
「大丈夫ですか?」
「ひぃあっ……!?」
信親の声が聞こえただけで身体が蕩け落ちてしまいそうな法悦を感じてしまう。こんなの、ただの媚薬じゃないか……!
「の、のぶ……ちか……」
(これ、を……治して……苦しい……)
「こ、こわ……い……た、たすけ……て」
(ち、違う……!い、いや……違わない、けど……違うの……!)
「おなか、切ないよぅ……」
ソファに倒れ込み、身体を搔き抱いて悶える。信親の事が頭から離れない。これが、好きって事……?
「やだぁ……のぶちかぁ……しゅき、らいしゅきなの……」
言の葉に愛を乗せる。その瞬間、昔遊んでいた記憶、いつからか封印していた記憶が蘇ってきた。
(私の初恋の人……。忘れたふりして……思い出したくなくて……)
「星見森さん……?」
信親の少し低い声が聞こえる。それだけで胸に幸せが広がる。いつしか目は開いていた。けど、涙で潤んだ状態では上手く信親の顔を見る事ができなかった。
でも、そんなの知らない。信親の方に両手を広げ、締まらない表情で告げる。
「のぶちか、ぎゅーして。前みたいに、私とあそんで」
「っ、そう昔の事を引き合いに出されると辛いものがありますね」
そう、昔は信親とも仲が良くて、陰陽師なんて知らなくて。ただの友達で、大好きな片想いの相手で。それを悟られたくなくて蓋をして。でも、いつまでも一緒だと思ってた。
そうしたら、私の家族が引っ越して。ひとりぼっちになって。お父さんもお母さんも嫌いになって。一人で飛び出して。
高校生になって、信親も変わってて。信親なんて大嫌いで、でも大好きで。そんな自分が嫌で。わざと信親の時だけ冷たくなって。
「う、ふええぇぇん……」
「星見森さん!?」
「のぶちかぁ……もう行っちゃやぁ……わたしいい子にするから、冷たくしないからぁ……ずっと一緒がいいの……」
そう言った途端、身体が急速に冷えていく。熱く煮えたぎる様な感情の荒れもどんどんと引いていく。代わりに顔を出したのは羞恥心。薬の効果が切れたようだ。
「…………忘れて」
「そうは言われましても、愛の告白を受けたばかりでしてね。そうそう忘れるわけには「忘れて!!!」」
ダッシュで生徒会室のドアを開けて逃げる。もうこれからどうやって信親の顔を見れば良いんだよぉ……。
〜〜〜
「逃げた……しくったなぁ、ドアも封じとけば良かった」
「よう大将、小雪ちゃん手篭めにしようとして失敗でもしたか?」
しばらくして副生徒会長の友人《ともひと》がニヤニヤしながら入ってきた。
「そんなんじゃねぇよ……」
「おいおい、俺はこの国の情報担当だぜ?土御門の跡取り息子と星見森の嬢ちゃんをくっつける為に二家が関わってるってのはもうこっちじゃ周知の事実だ。早いとこ告っちまえば良いのによ。大体こんなご時世いつおっちんでもおかしくねぇってのに悠長な事やってんな?」
「チッ……わぁってるよ……」
確かにそうだ。俺は土御門家の跡取りとして同世代で最も力のある小雪を嫁《か》さなければいけない。
(……そうだな、取り敢えず何はともあれ謝っておくか。話はそれからだ)
〜〜〜
「信親……のぶちか……のぶちかぁ……っ」
一人暮らしのマンション兼事務室。そのベッドの上で私は一人で自分を慰めていた。無理やり思い出させられた恋慕を、焦がれるようなこの気持ちを少しでも慰めたくて。けれど、達すれば達する程信親に対する想いは膨らんでいく。
「んっ、んんぅ……!……っ、はぁ、はぁ……」
自分の愛液でベトベトになった右手を乱雑にティッシュで拭きながら目を瞑る。もう何もかも忘れて眠ってしまいたい。けど、そんな事したって何の解決にもならない。
「信親のばか……切ないじゃん」
布団を抱きしめて顔を埋める。恋慕の情は大きく、熱く膨らんで頭の中を駆け巡っていく。
これは一時の気の迷いだ。目を瞑って眠ってしまえば、明日になればまたいつもの私に戻れる。だから、今はもう眠ってしまおう。
無理矢理に意識を落としていく。溢れそうな箱に蓋をして。中身を見ないようにして。
静かな寝息が部屋に響くまでにそう時間はかからなかった。
〜〜〜
「……学校休も」
寝て起きても気が晴れない。大体全部あいつのせいだ。胸に渦巻く寂しさなんて知らない。あいつに会えないのが嫌だなんて思ってない。