ヘラス帝国の第3皇女と平和のための秘密会談中に、『完全なる世界』の構成員らしき者たちに捕まって数日。
俺たちは暇を持て余していた。
いや、俺たちはでは語弊があるな。正確にはテオドラが、暇を持て余していた。
元々テオドラは10歳ぐらいの幼い皇女で、度々王宮を抜け出すほどのおてんば姫だったから、数日間何もない部屋に閉じ込められて様々な不安などと共に
「ううぅ、暇じゃぁぁ~、暇なのじゃぁぁぁ~」
そうつぶやきながら長椅子を転げるテオドラ。
その様子を視界の端で眺めながらアリカもため息を吐いた。
『ここに押し込められて数日が経つが、食事ぐらいしか楽しみがないからのぅ。窓の外から差し込む光で大体の時間はわかっても、窓の位置が高すぎて外の景色までは見れぬからな……』
『そうだな。それに俺たちは別で色々な楽しみがあるけど、あいつはないからなぁ』
『…………』
あれ? 同意しないの?
『……一応言っておくが、あれが楽しみと思っておるのは主だけじゃからな? そこを間違えるでない』
『え~、アリカも結構楽しんでたじゃん。――近くで寝てるテオドラに気づかれないように、服の隙間に入っての愛撫。トイレでのフェラチオ&アナルセックス。ここ数日お風呂に入ってないのにオマンコとか胸が綺麗なのは俺の努力があってこそだろぉ』
『その分下着などがぐしょぐしょになったじゃろう! それに万が一にでもテオドラにバレたらどうするつもりなのじゃ! 妾が使い魔でオナニーしたり、人に変身させて奉仕させるようなスケベ姫と認識されてしまうではないか!』
おおぅ、オナニーとか奉仕とかスケベ姫とか最初のアリカじゃ想像できない発言が飛び出してる!
『まあまあ、落ち着こうよ、アリカ』
『まったく、誰の所為で興奮しておると思うのじゃ!』
『ゴメンゴメン』
ぷりぷりと怒るアリカの頭を尻尾で撫でて落ち着かせる。少々弄りすぎたな。
場を切り替えようとしてあることを思い出す。
「あ、そういえば」
「なんじゃ? もう念話では話さぬのか?」
「…………。……まあ、いいんじゃない? テオドラが暇で死にそうだしさ」
「……喋った? ――っ!? なななななっ、黒龍がしゃべっとるぅぅぅぅっ!?」
テオドラのそんな声が部屋に木霊する。さっきまで暇そうにしてたのがウソみたいだ。
「ぬ、主は喋ることができたのか!?」
「喋れないって言ったっけ?」
テオドラが詰め寄って訊ねてきたが、俺はさも当然のように受け流す。
テオドラはその言葉を聞いて「ぐぬぬ……」と納得できないと言った視線を向けてきた。
「それよりもアルヴィン、何か思い出したか?」
「そ、それよりも!? 喋れる事を秘密にされていた妾を無視するのか!?」
ガーンっとショックを受けた様子のテオドラ。この子、本当におもしろい。
「テオドラ」
「…………なんじゃ、黒龍?」
――ガンバレ。……って言ったら泣くな。もしかしたら号泣するかもしれない。
なので、申し訳なさそうな表情を浮かべてテオドラに謝罪する。
「喋れることを黙っていたことについて素直に謝るが、これには様々な理由があったのだ」
「り、理由?」
「ああ、実をいうと俺はいろいろとわけありの龍でな。だから周りに俺の正体が露見しないように、今まで喋ることを自粛していたのだ。――だが、テオドラがあまりに暇そうにしていたから、話し相手にでもなれればと思って喋ることにしたんだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ」
「そ、それは……、その……、ありがとう……、なのじゃ」
テオドラは少しだけ顔を赤くしてもじもじとうれしそうにつぶやいた。
『まったく、よくいくつもウソを並べられるのぅ』
『何を言ってるんだ、アリカ。テオドラが暇そうにしていたから話し相手になってやろうと思ったのも本当だぞ』
『そうなのか?』
『何だその疑うような視線は? 俺は女にやさしい悪魔として、魔界でもこの世界でもすごく有名なんだぞ』
『…………そう考えれば納得か』
アリカの念話での会話を切って改めて言う。
「話を元に戻すとな。思い出したんだ。もうすぐ旧世界にある自宅で、世界樹の大発光が起こることをな」
「――っ!?」
「世界樹とな?」
「ああ、世界樹だ。樹齢は大体数千年とまだ若いのだが、見る分にはなかなか壮観でな。特に今年の、22年周期で起こる大発光はすごく綺麗なんだ。それに毎年その時期に近くの学園都市で祭りも開かれるし、なかなか楽しいぞ」
「祭りかぁ~、妾も行って見たいのじゃぁ……」
テオドラが妄想を膨らませながらつぶやく一方、アリカはこめかみを指でマッサージしていた。
「あ、アルヴィン……、それは本物の世界樹なのか?」
信じられないといった風のアリカに俺はうなずく。
「もちろん、本物だよ。かれこれもう数百年の付き合いになるかなぁ」
「…………」
「主はそんなに生きておったのか!?」
驚くテオドラに体をふわふわと揺らしながら笑む。
「アハハハ、この姿じゃ誤解されるだろうけど、この姿は仮の姿だからね」
「ほう、仮の姿か。真の姿になればヘラス帝国の古龍龍樹よりも大きかったりするのか?」
「ハハハハ、それは秘密だ」
「うぅ~、残念じゃのぅ……。ん? さっきからどうしたのじゃ、アリカ」
「…………」
テオドラが訊ねたが返事がない。思考が停止してるようだ。
「お~い、アリカ~」
「――っ。はっ!? な、なんじゃ?」
ぺしぺしとアリカの頭を尻尾で軽く叩いてやっと反応を見せた。
「どうしたんだ、アリカ」
「いや、なんでもないのじゃ。……改めて主のすごさがわかっただけで……」
ん~、ならまあいいや。いつものことだし。
それよりも重要なことがあるんだよね。
テオドラには聞かされないと念話で会話する。
『落ち着いて聞いてほしいんだけど……、実を言うとその世界樹が魔法世界を救う手段だったりするんだよね』
『なんじゃと!? それはどういうことじゃ!?』
『アリカ、無理だと思うけど落ち着いて、ね?』
『…………すまぬ。……それで、どうして世界樹が魔法世界を救う手段になると思うのじゃ?』
『それは、まあ、詳しい説明はあとでするよ。確定したわけじゃないしね。とりあえず……』
『とりあえず?』
『旧世界に行かないといけない。それも世界樹が大発光する前に。毎年発光はするけど、大発光は22年周期だからな。今年を逃すと22年後になるし、魔法世界の寿命もわからないんだから早い内に確かめたほうがいいと思う』
『……アルヴィン、主だけ――』
『俺だけってのは無理……、というかヤダ。大戦が終わるまで一緒にいるって契約だからな』
『じゃが……』
アリカはそうつぶやきながらテオドラへと視線を移した。
そう、この牢屋を脱出できても亜人であるテオドラは旧世界には行けないのだ。必然的にテオドラをどこかへ放っていくことになってしまう。そうなるのなら2人で牢屋にいたほうがいいのじゃないかと、先ほどアリカは俺だけに行くよう提案したのだ。
だがそれもダメだとなると、テオドラは1人になってしまう。アリカはそれを心配してるのだが……。
『テオドラも連れて行けばいいだろ?』
『――っ!? できるのか!?』
驚きの声をあげるアリカにうなずき、念話をやめてテオドラに声をかける。
「テオドラ」
「ん? どうかしたのか?」
「これから旧世界に行って大発光を見に行かないか?」
「――っ!? じゃ、じゃが、妾は亜人じゃから旧世界には行けぬのではないか? それにこの牢獄から脱出せねば……」
「ああ、牢屋から出るだけなら簡単だぞ。ていうか最初からできた」
「なっ!? ならなぜ主はやらんのじゃぁぁぁっ! もう何日も牢獄で生活しておるのじゃぞぉぉぉっ!」
涙を浮べて怒鳴るテオドラにわかるよう丁寧に説明する。
「いろいろとあってな。ここから下手に逃げ出せなかったんだよ。――いや、実を言うといまも脱げ出さないほうがいいんだ」
「むぅ? 何かまた理由でもあるのか?」
「ああ。その理由を簡単に説明すると、俺たちには誰一人として味方がいないからだ。たとえいまこの迷宮を脱出して自国に戻ったとしても、味方がいないのでは謀殺されるのがオチだろうから、俺たとの味方になるであろう者たちが救助しに来るのを待っていたんだよ」
「…………なんとなく納得したのじゃが、それだと妾たちがここを脱出して旧世界に行くのは止めたほうがいいのではないか?」
テオドラの疑問は最もだ。もちろんその打開策も用意している。
「ああ、そうだ。――だから脱出したと思われないように変わり身を置いていくんだよ」
「変わり身か?」
「そう。精巧作った変わり身で、旧世界に行ってる間に誰かが救助に来たときに知らせる役割をもったな」
「それならば……、あ、じゃが、妾は……」
「大丈夫、テオドラも旧世界に行ける」
「そ、そうなのか?」
「うん、簡易契約で俺の眷属にすればな」
「簡易契約……?」
テオドラは聞き覚えのない言葉に首をかしげ、アリカも気になったのか念話で訊いてきた。
『どういうことなのじゃ? 魔法世界の亜人や人間は原則旧世界では活動できなかったのではないのか?』
『ああ。魔法世界の大半の住人は魔法世界の魔力で元々構成されてるから、旧世界にいけなかったり、行動に大きな制限がかかるんだけど、俺の眷属にしてしまえば問題ないんだ』
『…………つまり魔力の供給のようなものなのか?』
『うん。まっ、正確にいうと一時的に魔法世界との関係を切るってことになるんだけどな。――ちなみにアリカは旧世界人の血が流れてるから問題なく行けるから』
『……そうなのか』
アリカとの念話を切って変わり身を制作しようとしていると、テオドラが頬を赤に染めてこちらをチラチラと見つめていることに気づいた。
「……し、仕方がないのじゃ。こ、これはカウントしないのじゃ……」
恥ずかしいといった様子で、もじもじしながらテオドラは俺に向って両手を伸ばしてきた。
両の頬を手で挟まれ固定される。
「……テ、オ?」
俺の疑問の声も聞えない。テオドラは顔を近づけて……。
――ちゅ。
……キスされた……?
「――っ!? テオドラ!?」
アリカがいち早く驚きの声をあげるが、テオドラは唇を合わせ続ける。
閉じていた目を開けて「なんで?」と言いたげな表情を浮かべ、ぐいぐいと唇を押し付けてきたり、さらには恐る恐る舌まで差し込んできた。
「ん……、じゅちゅ……、ふぅ……、はじゅっ……」
大胆に口を開け、唾液を送り込んだり、啜ったり、舌を絡めてみたりとテオドラは試していく。
「ぬ、主らは何をやっておるのじゃぁぁぁっ!」
俺もテオドラの突然のディープキスに答えるように舌を動かし始めたところで、アリカが怒鳴り声をあげた。
そこでやっと、テオドラが崩れ落ちるように唇を離す。
テオドラは赤く、唇を指で撫でながら蕩けた表情のまま疑問を口にする。
「はぁはぁ……、なぜじゃ……? なぜ仮契約ができぬのだ?」
「「…………」」
テオドラのそのつぶやきに俺とアリカは何も言えなくなる。ていうか仮契約しようとしてたのかよ。……こいつも第1皇女や第2皇女みたいな淫乱かと思っちゃったじゃないか。
半ば呆れたままテオドラに説明する。
「テオドラ、俺のは仮契約じゃくて独自の契約だからキスする必要はないんだぞ?」
「――なっ!? そう、じゃったのか……?」
「ああ。ただ単位体のどこかに触れて印を刻めばいいだけだからな」
「……うう、じゃったら妾のファーストキスは……」
「ハハハハ、まあ、そう落ち込むな。俺は将来美女になるだろうおまえのはじめてをもらえてうれしかったからさ」
「――っ、そ、そうか……。ふふっ、そう言われると悪い気はせんな」
「…………」
赤い顔でテオドラはハニカムが、逆にアリカの機嫌が悪くなったようだ……。
無表情、無言、視線のコンボで威圧される。
なので、いまはアリカを無視して素早くテオドラの鎖骨辺りに手を当てて印を刻んだ。
10cmほどの小さなモノで、方翼が天使の翼、もう方翼が悪魔の翼でそのつなぎ目、中央に小さなハートが刻まれた紋章だ。ちなみに魔界での俺のマークを少しかわいくしたものである。
しっかりと刻まれたことを確認してうなずく。
「これが契約の証だ。これでテオドラも旧世界に長期滞在できるぞ。まあ、角などはかくさないといけないけどな」
「わかったのじゃ」
うなずき、紋章を擦るテオドラ。あれ? アリカが羨ましそうにしてる?
「アリカもつけるか?」
「――っ。わ、妾には必要のないものなのじゃろう」
「そうだけど……」
念話に切り替えて言う。
『大戦が終わるまで傍にいるって契約した証として、つけたほうがいいんじゃないか?』
『そ、それは……、そう、じゃのう……』
『じゃあ、アリカは旧世界に付いてからつけような』
『なんじゃ? いまつけぬのか?』
『アリカの場合、大戦が終わるまでつけとくことになるんだから、テオドラみたいに見える場所にはつけれないだろ? だから夜、ね』
『へ、変なところにつけるではないぞ?』
『…………』
よし!
「じゃあ、テオドラ、アリカ。変わり身置いて旧世界に行こう!」
「旧世界に行けるのじゃ~! 久々の外なのじゃ~!」
『アルヴィン! 本当に変なところにつけるのはなしじゃからな!』
こうして騒がしい2人を連れて俺は旧世界へ行くことになった。
あ、そういえばニィにも言わないと……。
『ほ、ほほう、これが大人のおもちゃというものか』
『はい、ニィさま。これを使いながらまた新たなお姿を撮るのもいいと思います』
『だが、処女は両方とも……』
『ご心配ありません。ディルドーは入れなくても持つだけで十分魅力的ですし、ピンクローターという処女を傷つけずに楽しめるポピュラーなものもありますので』
『そ、そうなのか? それなら試しに使いながら撮影して見てもいいか』
『はい。そういう知識もインプットされているので、お任せください』
…………まだ放置でいいかなぁ。ていうかホムンクルスメイドにそんな知識入れたっけ?