※この作品はR-18です。

魔法先生ネギま!? 現れた誰も知らない大魔王   作:上平 英

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第15話 最終決戦が終わっても問題は残る

 前回でタカミチに六式を教える事になったことは、ダイオラマ魔法球を使用して急ピッチで基礎を叩き込み、タカミチにしか読めない秘伝書を渡して指導を終えた。

 

 ……うん、自分でも無茶な突貫工事だと反省してるよ。

 

 後半に行くまえの中盤辺りからタカミチの目が死んでたし、六式を使用したときのポーズを取りながらのイメージトレーニングなんて始めは恥ずかしがっていたのに、いまでは真面目に、全身全霊で取り込んでて、基礎訓練を積んで秘伝書と共に卒業を言い渡したその日には一日中号泣して喜んでいたからね。

 

 まあ、そのおかげで『完全なる世界』を打ち倒す前に終わらせることができたんだからよしとしよう。

 

 それで、『闇の迷宮』から脱出し、『完全なる世界』が諸悪の根源であると暴いてから現状がどうなっているかだけど……。

 

 様々な国の組織に忍び込ませたり、起こした会社を大企業にまで成長させて大勢の中小企業を傘下に置いたりしている使い魔たちを使ってアリカやテオの発言を支持させ、地を固めながら敵側にいる相手を様々な方法で説得し、裏では復興の準備もしながら、この約半年間で、世界の敵となっている『完全なる世界』の勢力を減らし、『完全なる世界』の本拠地がアリカの国であるウェスペルタティア王国の王都オスティア空中王宮最深部『墓守の宮殿』であることをつきとめ、最終戦争を迎えようとしているところだ。

 

 そしていま、最終戦争を迎えるにあたって、アリカが最後の行動をしているところだ。

 

 その最後の行動というのは……、先王であるアリカの父から王位を奪い、アリカが女王になることだ。

 

 世界をまとめるためにも、『完全なる世界』の傀儡となっている先王を排除し、ウェスペルタティア王国を統べる女王として指揮を執るためにも必要なこと。

 

 王宮に入るまでは『紅き翼』に協力してもらったが、ここからはアリカの仕事と断り、1人で……いや、俺を首に巻いた状態で玉座の間へと続く回廊を歩いていた。

 

 アリカは何も言わない。

 

 俺も、何も言わない。

 

 ゆっくりと回廊を歩き、玉座の間へと到達する。

 

 大きな門を俺が念動力で開き、アリカはなかへと足を進める。

 

「…………」

 

 玉座には先王であるアリカの父が静かに座っていた。

 

 アリカは玉座を見上げる。

 

「父上……」

 

「…………王の椅子を奪いに来たか」

 

「……はい」

 

 先王の問いにアリカはうなずく。

 

 ここに来るまでにあたってアリカはすでに覚悟を決めていた。

 

 それに覚悟が決まっていなかったとしても、『黄昏の巫女』であるアスナを『完全なる世界』に奪われていて、魔法世界を無に戻す術式の準備を相手がはじめているので、迷っている時間などはなかった。

 

 アリカは金色の剣を取り出し、改めて先王に向き直る。

 

「その席を私に譲ってもらいます」

 

「…………」

 

 先王は無言で目を瞑る。そしてゆっくりと開いて独り言のようにつぶやく。

 

「人の生も、この世界も、すべては儚い泡沫の夢に過ぎぬ」

 

 全てを悟ったようなつぶやき、アリカにその剣をもってこの身を貫けと言わんばかりに椅子から動かず、生を諦めたような顔だ。

 

 その何もかも諦めたようすにアリカはぎりっと歯を鳴らし、負の感情を沸き立たせる。

 

 感情のままに怒鳴ろうと、勢いのまま先王と兆弾しようとするが……。

 

 アリカはすべてを飲み込んで、ゆっくりとうなずいた。

 

「あなたが知っている通り、私もこの世界の真実について知っています」

 

「…………」

 

 少しだけ眉をピクリと反応させた先王にアリカは続けて言う。

 

「私は、例えこの世界がすべて幻であったとしても守りたいのです」

 

「……だが、この世界はもはや数十年の――」

 

「それについても知っています」

 

「…………」

 

「『完全なる世界』と造物主が、本当は魔法世界に住む住民を救おうとしていることも理解した上での行動です」

 

 アリカは剣先を下ろし、胸に手を当てて訴える。

 

「ですが私は、『完全なる世界』と造物主が行なう救いとは別の救いを……、魔法世界を崩壊の危機から救う手段を探したいのです! ――そのためにはいま、アスナの魔力完全無効化能力を使って世界を無に戻そうとする『完全なる世界』と造物主の計画を絶対に停めなければいけない! 世界をまとめるためにあなたを王の座から下ろし、私が王にならないといけないのです!」

 

「…………そうか……」

 

 アリカの言葉に小さく先王はつぶやいた。

 

 先王が何を感じて思ったのかはわからない。

 

 アリカの言葉を聞いて改心する……、などという幻想は抱いていない。

 

 それよりもいまは、アリカが王になるために先王である父を排除しなければいけないのだ。

 

 先王もそれを理解しているのか、殺されるつもりのようだ。

 

 アリカは剣を持ったまま玉座へと進み、剣を掲げて――。

 

 バシッ!

 

「――っ!?」

 

 剣ではなく、ビンタを放った。

 

「…………」

 

 ビンタを放ったアリカに先王は始めてはっきりとした驚きの表情を浮かべた。

 

 アリカは驚きの表情を浮かべている先王を改めて正面から見て、言う。

 

「現ウェスペルタティア国王、あなたを拘束し、私がこの国の女王になります」

 

「……殺さないのか?」

 

 先王は意外そうにつぶやく。

 

 先王が言った通り、この場で先王を殺すほうが後々、遺恨を残さない意味でも、国を統治する上でも正しい事だが、アリカは殺さないことを選択した。

 

 アリカは先王を見下ろし、うなずく。

 

「はい。あなたには私が失敗してしまったときの保険になってもらいます。――アルヴィン」

 

 アリカに声をかけられた俺は先王を拘束するロープを出現させて縛り上げ、玉座から下ろす。

 

 そしてアリカは玉座に座り、ウェスペルタティア王国の空に映像を映し出し、先王を排して自分が女王になったことを告げた。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 アリカが女王になった日の翌日、『紅き翼』の戦闘員、ナギ、ラカン、詠春、アルビオ、ゼクトを含めたアリアドネー、連合、帝国の混成部隊で『完全なる世界』の本拠地である『墓守の宮殿』に攻め込んだ。

 

 作戦はアリアドネー、連合、帝国の混成部隊で周りを抑え、本願の『墓守の宮殿』に『紅き翼』を投下し、おそらく出てくるだろう『完全なる世界』の幹部達を倒させ、世界を無に返す術式の柱にされている『黄昏の巫女』アスナを救出し、その術式を破壊もしくは発動できなくして『完全なる世界』の野望を打ち砕くというものだ。

 

 まったく俺の活躍どころなんてないんだが、意外と今回動くことになっていて、しかも重要な役回りになっている。

 

 その重要な役回りというのは、『黄昏の巫女』アスナ姫の救出。

 

 ……いや、ね。

 

 ものすごく重要というか、作戦の目的とも言っても過言ではないアスナ姫の救出をすることになってしまったんだよ……。

 

 俺にアスナ姫の救出を対価と引き換えにやってくれって提案してきたのはテオ。

 

 俺はもちろん造物主と先に結んだ契約で、表だって邪魔しないという契約を結んでるからって断わったんだけど……。

 

 テオは自信満々な顔で、

 

「別にアスナを助けるのに表立ってやる必要はなかろう? 術式を停めよと言っているわけでもないんじゃし、偽者と本物を掏りかえてくればいいんじゃ」

 

 と、胸を張って言ってね……。

 

「まあ、それなら……」

 

 って感じでうなずいたんだよね。

 

 いや、対価として「妾を主専用の性奴隷にしていいのじゃ」と言われたからじゃないよ!?

 

 いくら浣腸で綺麗にしたピンク色のお尻の穴をクパクパさせながら差し出されてお願いされたからって、元大魔王の俺が……、はい。うん、あっさり契約してしまいました……。

 

 し、仕方ないじゃないか!

 

 ロリな褐色角っ姫とエッチ中にそんなお願いされたら、断われないって! お願い聞いてあげたくなるじゃん!

 

 だ、大魔王時代前からずっとそういうお願いに弱い俺だし!

 

 大魔王らしくスケベな俺だから、そういうお願いを聞いてあげたくなっちゃうんだよ!

 

 そして、俺は契約に従い、『紅き翼』と『完全なる世界』の連中が戦闘している間に『墓守の宮殿』に忍び込んでアスナと偽者だと比較的分かりやすいだろう木人ちゃん4型ロリっ子バージョンと入れ替え、影を通してエヴァとニィの下にアスナを転移させた。ちなみに木人ちゃん4型にはアスナと同じ服を着せてデコレート済み。

 

 アスナを救出してからはアリアドネー、連合、帝国の混成部隊が周りを抑えてる間に『紅き翼』が『完全なる世界』の幹部たちを倒すところをアリカの首で観戦するだけだったんだが、途中で問題が発生した。

 

 まず戦闘に不参加だと思われていた造物主が急遽戦闘に参加し、『完全なる世界』の幹部達をそれぞれ打ち倒した『紅き翼』の面々を不意打ちして戦闘不能にしたんだ。

 

 いや~、アリカが乗っている戦艦から見ていたけど見事な一撃だったね。

 

 最後の幹部を倒して油断したところにズトンッ!

 

 幹部に止めを刺そうとしていたリーダーのナギを幹部ごと攻撃して倒し、突然の攻撃に驚いている『紅き翼』の面々も攻撃して大ダメージを与えて、絶体絶命だったね。

 

 ナギはもちろん大ダメージを受けていて、筋肉ダルマのラカンなんて両手吹っ飛んでるし、詠春もナギを庇って深手負ってるし、アルビオとゼクトも大ダメージ負って、もうダメだって思ってアリカが俺に頼ろうとしてきたぐらい大ピンチになったんだ。

 

 まあ、その絶対絶命の大ピンチもどこかの主人公っぽいナギがアルビオに残りの魔力で傷の応急処置をさせて、師匠であるゼクトをつれて造物主に挑み、なんと打ち倒しちゃったんだよね……。

 

 いや、マジで赤毛の鳥頭が人間なのか疑うよ。

 

 実体を持って制限のない侯爵ぐらいの力でもあるんじゃね?

 

 普通、『完全なる世界』の幹部と激戦を繰り広げたあとに不意打ちで大ダメージ負ってるのに、幹部よりもずっと強いだろう造物主を2人がかりだとしても、ゼクトという犠牲がでたからって倒せないって……。

 

 造物主に最後の一撃くらわせるときに、「人間なめんじゃね~!」とか叫んでいたけど、20年も生きてないのに世界最強なおまえは絶対人間の枠超えてるよ……。

 

 まあ、でも造物主を含む『完全なる世界』を全部打ち倒したんだけど、結局アスナの完全魔法無効化能力を利用した魔法世界を無に戻す術式が発動し始め、最終的に、魔法世界を無に返す光球を消耗が少ない、準備が遅れてまだ前線に来ていなかった後続部隊を使って魔法世界の皆で協力して光球を押さえ込み、封印という形で処理し、『完全なる世界』との戦争が終わった。

 

 魔法世界は長く続いた大戦の終戦と、すべての原因とされた『完全なる世界』の所業を暴き、打ち倒したとして『紅き翼』を魔法世界の英雄とし、ひとつの時代の終わりを迎える。

 

 ――だが、『完全なる世界』を打ち倒してもまだまだ大きな問題は残ったままであることも事実。

 

 数十年後になるだろう魔法世界の崩壊はもちろん、今すぐに起きる問題もまだごく少数の者しか知りえない……。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

『完全なる世界』を打ち倒し、魔法世界を救った英雄として『紅き翼』の面々が王都オスティアの広場、大戦の終わりに沸く住民達の前で表彰されてから数時間後……。

 

 アリカは王都オスティアの一角にある庭園で、終戦に沸く住民の声を聞きながら黄昏ていた。

 

 アリカは俺の頭を撫でながらつぶやく。

 

「結局、この国は滅んでしまうのだな……」

 

「……術式が発動してしまったからな」

 

『完全なる世界』と造物主を打ち倒したのはいいが、最終目的であった魔法世界を無に返す術式が発動してしまったため、その後に術式ごと封印して処理して魔法世界を全体を消滅から救ったのだが、その余波というか、残り香が原因でウェスペルタティア王国の領土である浮き島から魔力が失われ、あと十数時間もしないうちに崩落するという状況に陥っていたのだ。

 

 現在は混乱を防ぐために一部の人間を動かして住民の避難誘導などを行なっているが、島が崩落してしまえば少なからず犠牲者はでてしまうだろう。

 

 それに土地がなくなれば助かっても国の機能は失われ、国は滅び、何十万人という難民がでてしまうのだ。

 

「だが、アリカもそれは覚悟の上だったんだろう?」

 

「…………」

 

 アリカは無言でうなずいた。

 

 アリカは最終決戦の最中、『完全なる世界』と造物主が仕掛けた術式を一度でも発動させてしまえば、その後すぐに封印処理できたとしても数十時間後に、その余波などで術式を行なっている場所からすぐ近くに存在するウェスペルタティア王国の浮き島が魔力を失って崩落すると、アスナを偽者とすり替えに行った俺の影のなかから隠れて覗いていたエヴァからの報告でわかっていたんだ。

 

 ……わかっていたんだが、術式は発動してしまい、封印するしかできなかったんだ。

 

 最悪、魔法世界を救えても国が滅んでしまうということはすでに承知していたのだ。

 

「アルヴィン……」

 

 アリカはか細い声で、小さく震えながら俺の名を呼んだ。

 

「……妾のすべてを捧げたとしてもこの国は救えないのだろう?」

 

 すがるように、涙を数滴溢しながら、アリカは俺に訊ねた。

 

 俺はアリカの問いにうなずく。

 

「ああ。……この国を崩落から救い、100万の住民を救うなど、現状の対価では不可能だ」

 

「そう……か……」

 

 アリカも最初から分かっているのだ。人ひとりのすべてと、100万の民の価値が吊り合わないことも、国を崩落から救うのがどれだけ人の粋からかけ離れた所業なのか。

 

 どうやっても国が滅んでしまうことを分かっているのだ。

 

 もはやアリカに出来ることは崩落から国民を逃がすことしかできないのだが……。

 

「…………ひとつだけ……、ひとつだけ方法がある……」

 

「……アルヴィン?」

 

「アルヴィンボールだ」

 

「――っ」

 

「はじめてあったときに説明しただろう?」

 

「7つ集めて願いを言えば、対価なしで大魔王であるアルヴィンが願いを叶えてくれるというあのボールか?」

 

「そうだ。あのボールを7つ集めて願えば国も民も救うことができる」

 

「じゃ、じゃが、そのボールは旧世界と魔法世界の両方に散らばっておるのじゃろう? いまから集めたとしても時間が……」

 

 俺はアリカの首から正面にまわる。

 

「俺は魔族だ。――対価を支払い、契約を結べば誰であろうと助け、願いを叶え、救う」

 

「……アルヴィン」

 

 うう……、そんな子犬のような瞳で見つめるな!

 

「さ、最近丁度……、その、エヴァやニィ以外でも直属の眷属が欲しかったところだし、この世界で連れ添う者もエヴァ以外にも欲しかったところだから……、と、特別に、今回だけ特別に、おまえの死後を対価にアルヴィンボールの在り処というか……、その辺に出してやっても……、いい」

 

「アルヴィンっ!」

 

「こ、コラ! いきなり抱きつくな! こ、これはちゃんとした悪魔の契約なんだからな! 国や民を救えたとしても死後おまえはずっと俺のモノになるんだからな! そのへんを――」

 

「よい! それで国や民を救えるのであれば、妾は喜んでこの身をそなたに捧げる!」

 

「くっ、普通はもっとこう、深刻そうに嫌がるとかだな……」

 

「死後を捧げる相手がそなたであればこそじゃ」

 

「ぐぬっ……」

 

 そこまで言われたら怒るに怒れないし、脅して怖がらせたりできない……。

 

 それよりも、あと数時間もしたら崩落が始まるからなぁ。

 

 俺は雰囲気を変えてアリカを見つめる。

 

「アリカ、俺と契約を結ぶか? 死後の魂を売り渡してアルヴィンボールの在り処を聞き出すか?」

 

「うむ、契約しよう。妾の死後をすべてそなたに捧げる」

 

「…………。……わかった。契約は成立した。――これからお前の魂に契約完了の楔を打つ」

 

 コクリとアリカがうなずいたのを確認して、アリカの魂に楔を打つ。

 

 これで今後アリカが死ねば、その魂は輪廻転生の輪に入ることなく、俺の下へやってくるようになった。

 

「これで契約成立だ。――アルヴィンボールは~……、おっ、丁度この庭園に散らばってるようだ。丁度いいし、集めてやろう」

 

「ふふっ、それは助かるのじゃ」

 

 ええいっ、ニヤニヤするな!

 

「ほら、アルヴィンボールだ。前に渡したヤツも含めて集めてやったぞ」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「あ、ああ……、助かったのじゃ。…………え~と、アルヴィン?」

 

「なんだ?」

 

「なぜ数珠繋ぎになっておるのじゃ?」

 

「そのほうが持ちやすいからだろう」

 

「…………そ、そうじゃな」

 

「まあ、願いごとを叶えさえすれば役目を終えて数珠からボールに戻るから安心しろ」

 

「……そうか、ありがとう、アルヴィン」

 

「ふんっ、礼など言わなくていい。これは契約なのだからな!」

 

「ふふっ、そうじゃったな」

 

 微笑むアリカに注意として言っておく。

 

「使うのは崩落が始まってからにしろよ?」

 

「……なぜじゃ?」

 

 アリカは若干不満そうに首をかしげた。こいつ、やっぱり分かってなかったか……。

 

「崩落前に発動させれば、最初から崩落することが分かっていたみたいじゃないか? そうなれば『完全なる世界』との最終戦争でもいい目を見ようとしていた  M  M  (メガロメセンブリア)に付け入る隙ができるだろう? ――例えば、女王アリカは分かっていて国を危険にさらした! とか指摘してさ」

 

「ふむ……」

 

「それに切羽詰ったところの神頼み的な大魔王頼みで、自分を対価にギリギリで国を救ったと見せといたほうがいいと思う。アルヴィンボールの存在を知っていたのも、偶然黒龍を見て、幼少のときに王宮でボールを7つ集めれば願いを叶えてくれる黒い龍が出てくる話を読んだことがあり、女王になって王宮の宝物庫に入ったときにその話通りに7つのボールを発見した。『完全なる世界』との最終決戦では不確定要素が多くて使わなかったが、王国から魔力が消失するという事態が起きたために、一か八かで使用した。――ってしたほうが、絶大な力を秘めていたアルヴィンボールを持っていたことへの言及は少なくなるだろうし、使用後は空に散るように飛び散れば、アルヴィンボールを狙う者もアリカに近づかないだろうからな」

 

「そ、そうか……。主の言う通りにしたほうがよさそうじゃのう」

 

「まあ、崩壊が始まったときに島の上に浮いてる岩が落ちたりして犠牲者がでるのを心配してるんだろうが、それも大丈夫だ」

 

「そうなのか?」

 

「まあな。まっ、口で説明するのは面倒でかなりの大作戦になるだろうから、直接頭に情報を入れるぞ?」

 

「う、うむ。頼むのじゃ」

 

 自分の額をアリカの額にくっつけて作戦内容を送り込む。

 

「…………これが、作戦か……。ふむ、魔法世界を救う実験でもあるのか……。じゃが、ここまでの所業、大魔王といってもいささか難しいのではないか?」

 

「あ~、それに関しては大丈夫だ。元々一般的に見たら全然吊り合わない契約だし、これなら俺のほうがただ力を消費するだけなんだけど、アルヴィンボールは元々俺の余分魔力を固めて作り出した物だからな。今回使用するだろう魔力は全部ボールで補っておつりが帰ってくるレベルだから問題なしだ」

 

 実際にボール1つで1番大きな王都オスティアがある島ぐらい浮かせる魔力が入ってるからな。

 

「崩落の際に起こると予想される地震や落石とか、そういうものはエヴァとニィ、それに茶々ゼロが対処してくれる。浮かせるために使わないおつり魔力も使用してオスティア一帯に治癒魔法陣を展開させ続けて住民を守るし、こちらの準備は万全だ」

 

「……わ、妾は先ほどまでいろいろと悩んでおったのじゃが……? 主らはすべての事態を予想しておったのか……」

 

 突然頭を抱えだしたアリカ。

 

 だけど――。

 

「アリカが俺に助けを求めなかったら、こちらからは何もしないつもりだった」

 

「む?」

 

「俺は魔族で元大魔王だからな。求められてもいないのに救うこと、助けることなんて滅多にやらない。アリカは俺に助けを求めたから俺は動いたんだ」

 

「…………ふふっ、助けを求める、か。そなたに出会う前の妾であれば絶対にやらなかったことじゃな」

 

「ああ、そういえばあの頃は終始クールぶっていたなぁ。まあ、すぐに露出&フェラチオ体験して写真撮影とかを経験してで表情の起伏がでてきたんだよな」

 

「ううっ、それだけ経験すれば誰だっていつも通りではおれんわっ。あの頃の妾は大戦や国内部の政治的な争いでいろいろと――」

 

「あー、はいはい。それはあとでたっぷり訊くから、まずは国を救う相談でもしましょうか?」

 

「ぬ、主が始めた話じゃろうに……」

 

 アリカはふぬぬっと唸りながらジト目で睨んでくる。

 

 こういう歳相応の表情も魅力的だよな。

 

 俺はいつものようにアリカの首に巻きつき、谷間に頭を乗せる。

 

 おお、ゆっくりだけどまだまだ胸は成長してるみたいだね。

 

 アリカは数珠繋ぎになっているアルヴィンボールをエヴァ特製の『何でも入るよ、倉庫1個分を収容できるのに体積、重さは変わらない道具袋』に入れて、庭園の外へと足を向けた。

 

 ――っと、あれ? 庭園から入ってきてるのって……。

 

「よぉ、姫さん」

 

「ナギ」

 

『紅き翼』のリーダーである赤毛の鳥頭青年のナギだった。

 

 相変わらずの魔法使いの白いローブの下は上下黒の服で靴まで黒の黒づくしという、美的感覚がいいのか悪いのか、それともイケメンだからこそ似合っているのかといろいろ悩むファッションで登場した。

 

 ナギはゆっくりと歩いてきながらつぶやく。

 

「姫子ちゃんも無事に助け出せたみたいだし、終わったな、全部。」

 

「…………」

 

 その言葉にアリカは答えない。

 

 ナギや『紅き翼』の面々や、魔法世界のほとんどの者が『完全なる世界』を打ち倒してすべてが終わったように思っているだろうが、本当は何も終わってないからだ。ナギの言う姫子ちゃん……『黄昏の巫女』アスナを救いだしても、まだ彼女は長年飼い殺しにされていた所為で感情をもたない人形のようで、人間らしさを取り戻すためには永い時間がかかる。それにまだ完全に滅んでいない造物主と『完全なる世界』がアスナの完全魔力無効化能力を求めて付け狙うだろうし、まだまだ問題は山積みなのだ。

 

「どうしたよ。世界は平和になったってのに何かあったか? いつもの仏頂面が余計ヒドイ事になってんぞ、能面王女」

 

『確かに、さっきのかわいらしいジト目のほうがいい表情だったな。――やっぱりアリカは俺やエヴァに弄られたり、虐められたりして怒ったり、いじけてる表情のほうがかわいいよな』

 

 うんうんと念話でつぶやきながらうなずく。

 

『ちょっと黙っておるのじゃ、アルヴィン!』

 

『はいはい、わかったよ』

 

「本当にどうかしたか?」

 

「いや……」

 

 ナギの問いにアリカは目を逸らした。

 

 ナギはそんなアリカの様子に何か言いたげであったが、息を吐いて雰囲気を変えて、背を向けた。

 

 そして「やれやれだぜ」とつぶやき始める。

 

「ま……、なんだな。アンタの騎士役はこれで終わりだな。あんたに預けた俺の杖と翼、そろそろ返してもらうか。――堅苦しいのはキライでね」

 

 そういや、『闇の迷宮』に『紅き翼』がやってきたときに大戦が終わるまで力を貸すっていう契約というか約束を皆のまえでやったっけ。

 

『ん~、でも「完全なる世界」と造物主を倒した「紅き翼」の力は手元においときたいよなぁ』

 

『…………。……ふむ、そうじゃな。最終決戦の際にアルヴィンと通して見た状況からして造物主が死ねば、その近くにある死体や体に乗り移ることのできる不死者のような存在のようじゃからな。――ゼクトの体を奪った造物主が存在しておるのならまた「完全なる世界」が再生される可能性が高いからのう』

 

『造物主と「完全なる世界」を倒すことのできる「紅き翼」をいつでも動かせるようにしといたほうが安心なんだけど、「紅き翼」って元々大戦が終わるまでの契約で協力関係になった傭兵集団だからなぁ。大戦が終わってるいまでは――』

 

『いち傭兵集団に戻るか。まあ、そっちのほうが気楽でよいじゃろうな』

 

 アリカは小さく息を吐いて背中を向けているナギに声をかける。

 

「ナギ」

 

「ん?」

 

 アリカの呼びかけにナギは顔だけ振り返らせる。

 

 アリカは胸に手を置き、目を瞑って笑顔を浮べた。

 

「いままで、本当にありがとう。そなたたちのおかげで大戦を終わらせ、『完全なる世界』を倒すことができたのじゃ。魔法世界の住民を代表して礼を言う」

 

 素直なアリカのお礼……、だったのだけど……。

 

 バザッっと一瞬で移動し、アリカの腰を抱くように腕を回したナギが真剣な顔を近づけてきた。

 

「どうしたんだよ、姫さん。何があった?」

 

 真剣な表情のまま訊ねてくるナギ。

 

『……一応何かあったのは事実なんだけど、素直に礼を言ったら真剣に心配してくるって普段どういう風に思われてるんだ? いや、……能面王女だったな』

 

「…………」

 

 無言のままのアリカにナギは続けて言う。

 

「ちゃんと話せよ。おまえが素直に礼を言うなんて普通じゃねぇよ。本当に何があったんだ?」

 

「…………」

 

 ガッ!

 

 アリカは無言のまま、そのままの体勢でナギの顔面にヒザ蹴りを打ち込んだ。

 

「――っ!?」

 

 ヒザ蹴りをくらって驚いているナギに、アリカは続けて魔力を込めたビンタを放つ!

 

 ゴギンッ!

 

「もぎゃんっ!」

 

 王家の魔力が篭った女王ビンタがナギに命中し、その体を吹き飛ばす!

 

 ナギの体はそのまま空中で何度も回転してから地面へと墜落する!

 

 ヒザ蹴りから女王ビンタという突然だが、見事な2連コンボだった。まあ、ナギがアリカに無礼な態度をとって吹っ飛ばされるっていういつも通りの光景だな。

 

 ナギは地面から這い上がり、頭にできたタンコブを擦りながら言う。

 

「いきなりなにすんだよ。俺は姫さんの事を心配してやってんじゃねぇかよ」

 

 そうつぶやくナギにアリカは背を向ける。

 

「ふん。別に妾はどうもしておらんわ。それと、妾は今やこの国の女王となった。二度と姫と呼ぶことは許さぬ。もはや主らなどが気安く話しかけられる相手ではないのじゃ」

 

 突き放すようにナギに告げる。

 

 ナギを始めとする『紅き翼』と決別すると態度で示すように。

 

「ではな」

 

 アリカは振り返らずに別れを告げる。

 

 ナギは別れを告げるアリカに慌てたようすで声をかける。

 

「オイッ、姫さん!」

 

「姫ではないと言っておるじゃろうが、鳥頭め」

 

 ナギに背中を向けたままアリカは歩き始める。

 

「くっ……」

 

 ナギはアリカに声をかけようとしているが、もごもごと何を言っていいのか悩んでいて声をかけるにかけれないようだ。

 

 アリカがどんどんナギから離れて行く。

 

 ナギは離れて行くアリカにヤケクソ気味に叫ぶ。

 

「アリカ! 俺の翼はまだあんたに預けたままだ! まだ返してもらってねえ!」

 

 さっきアリカがお礼と一緒に杖も翼も返したような気がするけど……?

 

「だっ、だから! アリカが望むなら! その翼で俺がどこへだって連れていってやる!」

 

 真っ赤になって叫んだナギ。ああ、こいつアリカに惚れてたのか。

 

 まっ、いつもアリカにちょっかいかけるから、予想はしてたけどな。

 

 それにしても、魔法世界にやってきた理由が強いヤツと闘いたいからっていうバトルマニアが恋とはねぇ。

 

 で……、俺も気になってるアリカの返答は……。

 

「妾の行き先はすでに決まっておる。――そなたの翼はそなたのものじゃ」

 

「――っ」 

 

 と、拒絶だった。

 

 ナギはショックを受けたように、次の言葉を出せずに固まったままだ。

 

 アリカはナギを置き去りにしたまま庭園から立ち去った。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 アリカが庭園から出てすぐ、『紅き翼』のメンバーであるガトウと、途中で新たに『紅き翼』に加わったタカミチと同い年ぐらいのクルトが現れた。

 

 この2人は元々『紅き翼』の頭脳担当で最終戦の際には艦隊の指揮や連携、交渉などであまり消耗しておらず、水面下で動かしやすい、動ける2人だったので、ウェスペルタティア王国から魔力が消失して島が崩落するという事情をすでに話し、秘密裏に国民を避難させるように動かしていた。

 

 2人はアリカの前で片膝をついたまま、顔だけ上げてガトウが言う。

 

「時間です。まもなく崩落の第一段階が始まります」

 

「進捗状況は?」

 

「術式封印直後から全艦艇、全力であたっており、……現在37%。――陛下のお考えどおり式典と少子この離宮等に全市民を誘導しております。情報統制により混乱もこれまでの所ありませんが――、崩落が始まればその限りでは……。全市民の救出は困難を極めるかと……!」

 

「……ッ」

 

 アルヴィンボールで国と民が救えるといっても、何が起こるか分からないんだ。順調にいってない避難誘導の進行状況にアリカは歯噛みした。

 

 アリカはうなずき、身を翻す。

 

「――わかった。妾も直接指揮にあたる!」

 

『アリカ』

 

『信頼しておるぞ、アルヴィン』

 

『ああ、まかせておけ』

 

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