ガトウとクルトからの報告を訊いたアリカはMMの国際戦略艦に乗り、魔力消失現象が始まって崩落し始めたウェスペルタティア王国から民を避難させる指揮を行なっていた。
「空中王都の崩落拡大中!」
「本艦の周囲にも強力な魔力衰退現象!」
「即席の対抗呪文塗装装甲がいつまで持つか――」
「泣き言はいらぬ! あと数時間持てば充分じゃ! 最も的確に市民を救えるよう最大効率で舟を回せ! ただし! 捨てて良い命はない! 1人も救いもらすな! これは厳命じゃ!」
アリカは大声で指示を出し、弱気になる救出部隊や船員達を叱咤激励する。
そんななかにまた問題が飛び込んできた。
「貧民島の避難作業が難航しています! このままでは!」
「理由は!?」
「街の構造が複雑な上……、不法移民が多く全住民の把握が……」
「……ッ」
アリカは歯噛みし、念話で俺に声をかける。
『アルヴィン! もう良いじゃろう!? このままでは死者が……!』
『ああ、仕込みももう終わらせた。こちらの作戦はいつでの開始できるぞ。あと、一時的に世界と切り離して魔力衰退現象でも動けるようにしたエヴァとニィのおかげで死者のほうは現在はかろうじで出ていない』
『そうか! ならばすぐに始めるぞ!』
『ああ!』
アリカは道具袋から数珠繋ぎになっている7つのアルヴィンボールを取り出し、艦の床に置く。
「アリカさま、それは!?」
突然の行動に驚くクルトにアリカは簡潔に説明する。
「ウェスペルタティア王国の廃れた御伽噺に出てくる伝説級の
「アルヴィンボール!? アルヴィンとはその黒龍の名前だったはず……」
「そうじゃ! この黒龍を従え、1から7までの番号が書かれたアルヴィンボールをすべて集めて願いを言えば、黒龍は真の姿を表し、何でも1つだけ願いを叶えてくれるという魔法具なのじゃ! ――元々廃れた御伽噺のなかの伝説の魔法具で発動するかすら不明じゃったから『完全なる世界』との最終戦争では使えなかったが、もはやこれに頼るほかない!」
「そ、そんな魔法具が!? でっ、ですが、そのような魔法具が発動したとしても何か代償を支払わなければいけないんじゃ……」
「…………」
アリカは時間が勿体無いとクルトの会話を打ち切って儀式を始めようとするが……。
「――っ! 代償があるのですね!?」
……なにやら勘違い……、とも言えない、何とも微妙な流れになってきたぞ?
アリカも早く儀式を始めたいからって、
「元々世界中に散らばるアルヴィンボールを集めることがこの魔法具の1番の代償になっておる! あとは魔法具を発動させて願い叶えてもらう者を捧げればよいだけじゃ!」
「――っ! アリカさま、それではあなたが……!」
「黙っておれ、クルト! 儀式の邪魔じゃ!」
「くっ……」
儀式を行なうために集中するアリカに歯噛みするクルト。絶対変な流れになってるってアリカさぁぁんっ!
『ゴルァアーッ! こんのバカ姫!』
――っと、ここでナギが艦のモニターの1つに映った。
『やい、アリカ、てめぇっ! どういうこったコレは!?』
モニター越しに怒鳴ってくるナギにアリカは冷静に告げる。
「見ての通りだ。世界を救う代償に自らの国を滅ぼした。案ずるな。妾もいずれ遠からぬうちに地獄へ堕ちる」
『……ッ。何で話さなかった、この
「話しても無駄であろう。戦いしか能のない主が一人で何の役に立つ」
『くそッ……、いまからそっちに向う! 待っとけ、てめぇ!』
「ここにそなたの力は必要ない! 妾を助ける暇があるのなら避難民の頭上に落下する浮遊岩の破壊を要請する! まだ崩落のはじめていない地区を頼む!」
『む……』
「ただし、この魔力消失現象の中では主も満足に飛べまい。主ら『紅き翼』が逃亡生活中に使用していたボロ舟にも対抗呪文処理を施してある! それを……」
『もう乗ってるよ!』
「ならば良い。では救出活動に全力を尽くしたあと、そなたたちはそのままここを去れ。2度戻るな、最後の命令じゃ」
『何!? そりゃどーゆー……』
「ナギ!」
ここでクルトが口を挟む!
「アリカさまはアルヴィンボールという伝説級の魔法具を使用し、自分を犠牲とした儀式を始めて国と民を救うつもりです!」
『自分を犠牲にだと!? おい、それは本当のことなのかよ!?』
「クルト、余計なことを……」
「ですが……!」
『おい、姫さん!』
「うるさい! これはもう決めたことじゃ! ――それよりも切るぞ、この通信の間にも民が死んでいく」
『オイッ、待て!』
「――っ。へ、陛下しばしお待ちを! アルビレオ・イマ! 聞いていますか!? クルトです!」
クルトの呼びかけにナギの隣からアルビレオが顔を出す。
『ハイ、何です? クルトくん』
「先ほどアリカさまがおっしゃった通り、二度と戻らないほう賢明かと思います! もし戻れば……、あなた方はメガロメセンブリアに拘束される可能性が高い! いまは身を隠してください! 時が経てば事態は好転する筈です!」
『好転するって姫さんは……!』
「とにかくコレが終わったら逃げてください! いいですね!?」
『わかりました。ナギのコトはお任せを』
『どけコラ、アル! てめーらはなせ!』
騒ぐナギをラカンと詠春が取り押さえる。
改めて儀式を始めようとするアリカにアルビレオが声をかける。
『陛下、1つお訊ねしてもよろしいでしょうか?』
「なんじゃ? 時間が勿体無いので早く言え」
『そのアルヴィンボールという魔法具の代償はすぐに命を奪うものなのでしょうか?』
「……伝承には書かれてない。発動させてアルヴィンに訊ねんとわからぬ。おそらく願いを叶えるためにすぐには死ぬということはなかろう」
『そうですか……。ではナギをこちらで抑えておきますので、通信を続けて儀式を見させていただいてもよろしいでしょうか?』
「……勝手にせよ」
『おい、はなせ! ラカンっ! 詠春っ!』
『ナギ! いまは黙ってください! 現状ではあの魔法具に頼るしかないのです!』
『だが……!』
『それよりもアリカ様とあの首にいるアルヴィンという黒龍が交わすであろう契約内容を訊くのです! もしかしたら陛下が払う代償をどうにかする手立てになるかもしれないのですから!』
『――っ! くっ……』
モニターの後ろでラカンと詠春に捕まってるナギが、俺に向って「アリカの命なんて要求しやがったらぶっ殺す!」と言わんばかりに殺気を飛ばしてくる。
ていうか、アルビレオ~。アリカが払うことになる代償はあとでどうにかすればいいって、契約破る気満々の発言が契約する側に聞かれてるぞ?
――っと、アリカはそんなやり取りなんか無視して大声を出すために肺いっぱいに息を吸い込んだ。
そして皆が見守る中、アリカは叫ぶ。
「いでよ! アルヴィン!」
「…………」
『『『『………………』』』』
おいおいクルトもナギたちも、何黙ってんだよ? もっと仰々しい儀式期待してたのか? ある世界ではこの方法が龍を呼び出す呪文として一番有名なんだぞ。
まあ、時間もないので7つの玉を共鳴させるように光らせる。
光り始めたところでやっと全員驚いた様子を見せ始めた。
アルヴィンボールは黒い光を点滅させながら次第にその光を大きくしていき浮き上がる。
浮き始めたアルヴィンボールがアリカの腰の位置まで浮上してきたところで俺はアリカの首から離れ、7つのアルヴィンボールに囲まれるように真ん中に入り、体を黒く光らせる。
そして光らせたまま、威厳のある仰々しい口調でアリカに訊ねる。
「仮の姿である黒龍を手なずけ、アルヴィンボールを七つ集めし者よ。――貴様は我に何を望む?」
アリカは息を飲んで答える。
「ウェスペルタティア王国を崩落の危機から救ってくれ……。妾はどうなってもよい! じゃから国と民を……!」
「…………その代償に貴様は死後のすべてを我に捧げるか?」
「捧げるのじゃ! じゃから国を……、民を救ってくだ、さい……!」
『姫さん……』
「アリカさま……」
代償に二つ返事でうなずいて頭を下げるアリカに、ナギとクルトが声をもらす。
俺は顔の高さをアリカと合わせてうなずく。
「心得た。ではウェスペルタティア王国を危機から救おう」
そう言ってから俺はアルヴィンボールと一緒に全身から黒い光りを出してアリカたちの前から消える。
そして、これからが魔法世界を救う実験も含めたウェスペルタティア王国の救済の始まりだ。
◆
アリカさまが突然言い出した、ウェスペルタティア王国を崩落の危機から救うかもしてない方法としてアルヴィンボールという魔法具を発動させた。
その魔法具は何でも数字の入ったアルヴィンボールを7つ集めれば、アルヴィンというアリカさまのペットだと思っていた黒龍が真の姿を現して願いを叶えてくれるというものだった。
アリカさまも『完全なる世界』との最終決戦で使わなかった不安要素がある魔法具のようだが、本当に発動してしまった……。
いくら国を救う手段といっても、アリカ様を犠牲にする魔法具なんて心の中では絶対に発動してほしくなかった……。
魔法具が発動し、黒く輝くアルヴィンボールにアリカ様の首から黒龍が移動し、願いを叶える代わりに、アリカ様のその死後を渡せと要求してきた。
死後の魂を求める契約……。
おそらく黒龍は魔族に近い存在なのだろう。
魔族に捧げたアリカ様の死後の魂がどうなるか……。それは僕には想像できないし、想像したくもない。
くっ……、そもそも僕がアリカ様の代わりに死後を捧げればよかったんだ!
僕が、僕が……。
……アリカ様は魔族に死後の魂を捧げる契約をしたというのに安心したような顔だった……。
自分の身で国が助かればと思っているんだろう。
本当に高貴で、高潔で立派な女王様だ。
「アリカさま……」
「……クルト、とりあえずコレで何とかなりそうじゃ」
「ですが、陛下の死後が……!」
「妾の死後などどうでもよいことじゃ。元々、妾は地獄へ堕ちるつもりじゃったからな」
「――っ」
僕がアリカさまの言葉に絶句するのとほぼ同時に、モニターに映っていたナギが声を上げた。
両腕をそれぞれラカンさんと詠春さんに捕まっているのに、無理やり前に出てきた。
『オイ、姫さん! てめぇが言った行き先っていうのは地獄のことだっていうのかよ!?』
「む……、まあ、その通りじゃ」
やはり最初からアリカ様は地獄に堕ちる覚悟で!
クソッ! 僕は……、どうして僕は何もできないんだ!? 『紅き翼』の一員になって詠春さんから剣を教えてもらったというのに、何故、僕は何もできないんだ!?
自分の無力に歯噛みしていると、島の崩落の音とは違う轟音が遥か下……、地面のほうから轟き始めた!
船員の1人が声を上げる。
「下方からきょ、巨大な物体が急接近中! 」
その言葉が艦のブリッジに響いた次の瞬間、艦のすぐ前を巨大な物体が横切った!
アリカさまがつかさず指示を送る。
「全艦隊と救助を行なっている部隊に告げる! 現在民の救助の途中である部隊と艦は衝撃に備えてすぐに何かに掴まれ! 救助が終わり崩落が続いている地域の近くにいる艦は直ちに崩落している場所から離れよ!」
「りょ、了解しました!」
アリカさまの言葉を無線を使用して広めていく。
いったい何が起こったんだと僕が外を見ると……。
「こ、これは巨大な……、木、なのか?」
見たこともないものすごく巨大な木が雲を突き破って地面のほうから生えていて、崩落していく王都オスティアを木の中心で受け止め、四方に伸びた数百……、いや千はあるかもしれない枝が周りの島々をすべて受け止め、これまた規格外に巨大なツルが絡みついて割れかけていた土地を繋げたり、崩落してくる小型の浮遊岩を葉や枝で蹴散らした。
『これは……、すごいですね』
アルビレオさんがいつのも余裕顔ではなく、大きく目を開いて驚きの声をもらしていた。
いや、本当は皆もアルビレオさんみたいに驚きの声をもらしたかったんだろうけど、あまりのことで言葉が出ないんだ。
さらに皆を驚かせるように、空を覆うほどの魔法陣が出現する!
『あれは……、治癒魔法陣!? 感じる魔力といいあの魔法陣が発動し続ければ、最悪死者はでないかもしれません』
「ほ、本当ですか!? アルビレオさん!」
犠牲者が出なくなるのかもしてないのか!?
『ええ。あの魔法陣が発動している間は即死などでない限り死ぬことはないでしょうし、展開されている規模と範囲から死傷を負って手遅れだった者も助かるはずです。……黒龍は陛下の願い通りに国と民のすべてを救おうとしているのかもしれません』
「そ、そんなことがあの黒龍にできたのですか!?」
大樹を生やして国を受け止め、空を覆うほどの治癒魔法陣を展開するなんて、ま、まるで神のようじゃないか!?
そ、そういえば、詠春さんがあの黒龍は旧世界の一部ではかなり有名な神だと教えてもらったような記憶が……。
た、タカミチも何らかの対価を払って六式などという格闘技術を教えてもらったことがあるそうだし、僕も意地を張らないで対価を支払って願いを……、だ、だけど、アリカさまのペットだからといつも胸の谷間で気持ちよさそうに寝てるヤツを見ると……。
「陛下! あの大樹が生えてきてから魔力衰退現象が弱くなってきています!」
「おそらく大樹には自己で魔力を生み出す能力が備わっていると思われます!」
「うむ、それならば最初の予想と違って長い間魔法が使えなくなることはないようじゃな」
――っと、いけない! まだ終わりじゃなかったんだ!
大樹はドンドン成長しながら島々を絡め取り、完全に崩落が収まってきた。
それを見計らってアリカ様が指示をだす。
「全艦隊に告げる! 大樹が崩落を停めた! 魔力衰退現象も大樹が自己生成する魔力で緩和しておる! それに空に大規模な治癒魔法陣が描かれておるから大抵の怪我も治る!動ける者は直ちに取り残された民の捜索と救助に向かうのじゃ!」
もう防げないだろうと誰もが思っていた崩落が停まったことで全艦隊、いやすべての住民から歓声があがる。
絶望の淵から見えた救いに誰しもが士気を高め、我先にと取り残された者達の捜索や救助に向った。
アリカさまは艦の操舵手のほうを向き、指示を出す。
「この艦は大樹の中央……、回復魔法陣の中心地へと進路を進めよ」
――っ。それは……!
『オイッ! アリカ!』
さっきまで黙っていたナギもアリカさまがやろうとしていることに声をあげるけど……。
「もはやそなたたちの役目はない。
と冷たく突き放すように告げた。
『……ッ!』
ナギはアリカさまの言葉に何も言えなくなり絶句するが、アルビレオさんは素早く行動し始めた。
『わかりました。いまは姿をくらましておきます』
アリカさまは無言でうなずき、モニターからナギたちが消えた。
◆
魔界時代から倉庫にしまい込んでいた魔界産世界樹の種を利用した『ウェスペルタティア王国の崩落の危機回避大作戦』が無事に成功したようだ。
アリカの願いを聞いた俺が崩落し続けるウェスペルタティア王国の島々で1番大きな王都オスティアの真下、地表に近く転移して魔界産の世界樹の種を放り、アルヴィンボールの魔力を注ぎ込み、急成長させた。
元大魔王で高純度、膨大な魔力を受け取った魔界産世界樹の種はそのまま何千年分もの成長を行い、地面に太く、根深く、広範囲に根を伸ばして上空へと伸び続け、ウェスペルタティア王国の崩落しかけていた島々を持上げ、割れていた地面をその根やツタで繋げて固定した。
まあ、本来なら魔界産世界樹がこちらに都合のいい成長の仕方なんてしないんだが、先に膨大な魔力と引き換えに魔界産世界樹の種と契約を結んでいたので、ほとんどこちらの予定通りに魔界産世界樹が崩落を停めてくれたのだ。
さらに俺は魔界産世界樹を急成長させてもまだ余ってるアルヴィンボールを使用して国を覆うように空に常時怪我を癒し続ける治癒魔法陣を展開し、怪我人が取り残されていたり、救助されたが大怪我を負っていた者にも対処、数名ほど死亡者がいたがそちらも蘇生魔術を使用し、生き返らせた。蘇生魔術に関しても死亡してから時間がさほど経っていなかったことと、膨大な魔力を余らせていたアルヴィンボールのおかげで楽にできた。
そして、もう1つ。
数十年後に起こるだろう魔力枯渇による魔法世界の崩落に対しての対処するための実験も、概ねこちらの予想通りに進んだ。
こちらが予想していたこととは、魔法世界は人工世界であるから魔力が消失すれば火星に戻ってしまうのだから、消失する魔力を超える魔力生成機関があれば魔法世界を崩壊から延命、もしくは救えるのでは? というものだ。
消失する魔力を超える魔力生成機関を今回、魔界産の世界樹で行った結果、無事に魔法世界の地面に根付き、消失を超える魔力の生成を確認した。
魔法世界での一番の課題であったのは根付いてから、自分が吸う以上の魔力を生成するまでの時間だったが、それも別機関から魔力を注ぎ込んで急成長させればいいとわかったし、魔界産世界樹の種はその名の通り、魔法世界……、人工世界産のものではないので、魔法世界を無に返す魔法も通じない。
結果、ウェスペルタティア王国の救済と魔法世界の崩壊の危機から救う道がかなり開けたのだ。
まっ、まだまだ実験は必要だし、いくら大きいからって1本じゃ魔法世界を形作る魔力は補えないからあと少なくても数本は同じ規模の世界樹を生やすか、自己で吸うよりもより多く魔力生成できるような世界樹を数十本生やさなきゃいけないけどな。
それに魔界産の世界樹の種も今回ので使ったし、やはり旧世界の世界樹に頼んで新たな種を作ってもらわないといけない。
そう、作ってもらわないといけないのだが……、世界樹の力を見ると約20年後の大発光の際に多くて5個、少ないとまったく出来ないということになりそうなのだ。
はぁ……、まったくアリカの今後といい問題だらけだな。
予定通り空に広がっている治癒魔法陣の丁度中央付近に、アリカが乗っている艦が到着したのを確認する。
国のすぐ下に地面のように広がっている雲の下から長い胴を少し見せつつ、すべての者に黒龍の存在を意識させてからアリカの元へと移動する。
俺が艦に近づいたところで、艦の前方にモニターが現れた。
そこにはアリカがドアップで映っていて、巨大な俺にも聞えるように拡声器を使用して俺に礼を言ってくる。
「ウェスペルタティア王国のすべての者を代表して礼を言う」
モニター越しに深く頭を下げるアリカに、俺は大きな……、声では巨体ゆえにマズいので念話で会話する。
この国すべての者達にもワザと聞えるように、俺は念話で直接頭に言葉を送り込む。
『我が分体である黒龍アルヴィンを手なずけ、アルヴィンボールを七つすべて集め、貴様は「ウェスペルタティア王国の国と民を救う」と我に願い、代わりにその死後を差し出すと契約したのだ。礼など言わなくてよい』
一度言葉を切って言う。
『空に展開している魔法陣は数時間で消える。我の役目はこれで終わりだ。もう一度、我に願いを言いたければ魔法世界ともう1つの世界に散らばる七つのアルヴィンボールと、世界のどこかに転生する我が分体を手なずけよ。では――、さらばだ』
親切に呼び出す方法を教えてから一方的に別れを告げ、俺は全身を黒く発光させる。
ん? ……何か遠くで体に雷的なものが当たって「待ちやがれクソ龍!」とか叫ぶ赤毛の鳥頭が脳裏に浮んだけど、……これは無視だな。
全身を発光させたあと巨体を光に変えて消していき、飛んでいくのが見やすいように玉だけをより強く光らせて、その場で弱回転させながら……、途中で回転をピタッと停めて七方向に打ち出した。
七方向に飛ぶアルヴィンボールは黒い流れ星のようになって世界のどこかへ飛んでいった。
そして本体である俺はというと……。
「んっ!」
「だっ、大丈夫ですか、アリカ様!」
「はぁはぁ……、だ、大丈夫じゃ」
『ただいま~』
『くっ、こ、コレ、アルヴィン! も、もぞもぞさせるな! ――ぅぅっ、姿を現すのはマズイからと紋様として肌に張り付くと聞いて嫌な予感を感じておったが、それが当たってしまったのじゃ……』
『まあまあ、アリカとか俺たちの関係者にしか基本見えない紋様だし、どこか他の場所に隠れるよりも、これから大変になるだろうアリカのすぐ傍に居てあげたかったからな』
『わ、妾の傍に……。そ、それはうれしいのじゃが、距離が……、いくらなんでも肌に張り付くのは近すぎるじゃろうっ。それに体の上をアルヴィンの無数にある丸い鱗に擦られて……、その……』
『気持ちよくなっちゃうか?』
『――っ。ぬ、主がワザと気持ちよくなるように刺激するのじゃろう! それに気持ちよくなるように妾を開発したのは主であろうが!』
『ハハハハ、そうだった』
そう、俺はアリカの肌に張り付いていた。
本当は霊体になって近くにいることも可能だったんだけど、それよりもいまはアリカがすぐ傍に誰かがいることを感じさせたかった。そして俺自身もアリカの傍に居てやりたかったから肌に張り付くという体勢をとったんだ。
「アリカさま、お体は本当に大丈夫なのですか!? やはり黒龍と契約を交わした影響が……」
……まあ、アリカが突然体を跳ねさせたり、声をもらすからクルトや艦の皆に心配かけちゃってるみたいだけどね。
これは仕方ないだろう。
それよりも救助と災害後の対応が先決だ。
とりあえず今回はここまで。
現在大戦編のエピローグとなる第17話の途中まで書いてます。