魔法球に入って12時間、魔法球内では12日目の昼。契約の対価である5000枚を撮り終えたことを機に、見返りとして提示していた『完全なる世界』、しいていえば魔法世界の情報をアリカに与えた。
その情報には、魔法世界が火星という星に創造した人工世界であること。
魔法世界の人口が増えすぎて魔力が枯渇し、将来的に魔力がなくなり魔法世界が火星に戻って崩壊してしまう危機にあること。
魔法世界の崩壊から、魔法世界の住民たち(魔法世界で生まれた人間や亜人、動植物など)を救うために、魔法世界を創りだした造物主は『完全なる世界』という組織と、もう1つの世界、『完全なる世界』を新たに作り出し、戦争を後ろから煽り魔法世界の人口を減らして魔力の消費する量を軽減させ、同時に魔法世界の創造で生まれた、いわば人工人間たちを元の魔力に還元して『完全なる世界』に入れていること。
など、俺が造物主に聞いた話だった。
アリカは魔法世界は人工世界で、魔力枯渇によって崩壊の危機にあることを聞かされて呆然としている。
「…………そんな、まさか……」
心の整理と頭の整理が追いついていない様子で情緒が不安定だ。
俺はニィをつれて、しばらく情報と心を整理する時間として半日ほど1人にさせて待つことにした。
本当だったら魔法世界の情報と『完全なる世界』の情報を与えた時点で契約は完了しているので、情報を聞いた相手を気遣う必要などはないのだが、このまま放っておけなかったのだ。
◆
ダイオラマ魔法球内に作った人工のビーチ。そこに俺とニィはいた。
青と白のビーチパラソルの下、2つ並べたビーチベッドの片方に俺は寝転がり人工の月を眺めていた。
月を眺める俺に、ある言葉が投げかけられる。
「アルヴィンは悪魔らしくないな」
「ん?」
言葉の主はニィだった。
スポーツブラタイプの黒ビキニを着込み、片手に砂遊び用の小さなシャベルを持っていた。
「何でそう思うんだ?」
「私が持ってる知識には悪魔というのは、残虐で非道、契約を結べは何でもする使い魔のような存在だとあったから」
「ああ、そういえばニィに与えた知識は人間から見た一般常識だったな」
ニィを手招きして自分のビーチベットの近く、砂浜に座らせ寝転がったまま頭を撫でる。
「ニィ。一般的には知られていないが、悪魔には様々な者がいるんだよ」
「様々な者?」
「そう。人間が悪魔を見るときは、大体が魔法使いとかに戦うために召喚されて使役されるから非道や残虐な面が目立つけど、本来悪魔=魔族にもそれぞれ意思もあり、個性もあるんだよ」
「アルヴィンみたいな悪魔がいてもおかしくないってこと?」
「ああ、そうだよ」
ニィの疑問に答えるようにうなずいた。…………ニィには魔界でも変わり者扱いだった事は話さなくてもいいだろう。
「……アルヴィン」
ニィの頭を撫でていると後ろから声をかけられた。声の主は振り返らなくてもわかる。
「アリカ、か……」
「…………」
アリカは無言で足音だけ鳴らしながら近づいてきた。
「妾は……、どうすればいいのじゃろう……?」
泣きそうな、細い声だった。
「…………」
「魔法世界が造物主に想像された世界で、妾や人間、亜人を含むほとんどの住民は作られた人工の生命で、将来的に魔法世界は崩壊する……。魔法世界の救済のために造物主が『完全なる世界』を組織し、大戦を起こした理由も理解できてしまうのじゃ……」
沈んだ声のままアリカは続ける。
「いったいどうすればいいのじゃ……? 妾は大戦を止めたいと思っておった。……じゃが……」
「魔法世界の崩壊とか話がいきなり大きくなりすぎて、自分が何をしていいかわからない。――ってところか」
「…………」
無言は肯定と受け取る。
「アリカ」
「…………」
アリカが沈みっぱなしなのは嫌だね。特に何もできないけど……。
「こっちにおいで」
「?」
疑問符を浮べるアリカを呼び寄せる。そしてビーチベッドの開いている場所を指差した。
「……なんじゃ?」
「いいから、そのまま寝転がりなよ」
「…………」
渋々といった様子でアリカはソファベッドに寝転がる。
俺は枕代わりに片腕をアリカに差し出すと、アリカはそれに頭を乗せて息を吐いた。
そのまま無言でパラソルから覗ける人工の星を見上げる。
アリカは不安げな面持ちのまま胸にしがみつくように抱きついて、ゆっくりと嗚咽を漏らしながら涙を流し始めた。
ずっと知りたいと思っていた、大戦を裏から手引きしている黒幕認定していた『完全なる世界』の目的と、魔法世界の誕生と崩壊の危機に瀕していた事などを知った事でアリカの心は崩壊寸前だったのだ。
片腕で包むようにアリカの体を抱きながら、落ち着くまで夜空を見つめ続けた。
「……そろそろ私にも手を出して欲しい。地下倉庫の本みたいに」
…………ニィのエロ知識は魔界から持ってきた俺のエロ本達が元凶だったのか……。
ていうかニィ、たま~にパパとか小声でつぶやいてるところ見るけど、ナチュラルに近親狙ってる?
◆
アリカを片手に抱いて数時間が経った頃。アリカは漏らすようにつぶやき始めた。
「……父王は……、……人の生もこの世も、全ては儚い泡沫な夢に過ぎぬと言った……」
「…………」
「父王は……、父上は知っておったのだな。この世界の在り方を……」
「…………」
「アルヴィン……、妾はそれを知ってどうすればよいのじゃろう……? 大戦を停めようと『紅き翼』に協力を仰ぎ、同じく大戦を止めよと考えるヘラス帝国の姫と会談の場を設けたが、妾はどうすればいいのじゃろう……」
まるで暗黒面に堕ちたように、アリカは続ける。
ぶつぶつと1人で、大戦を止めようとしてもそれは結局無駄になってしまうのではないか? 魔法世界の崩壊を防ぐ手立てはないのか? 大戦を止める。『完全なる世界』の邪魔をするのは正しい事なのか?
などと、いろいろと悩み続けた。
泣きはらした顔で俺を見上げるアリカ。
「妾も……、妾も創られた幻想なのじゃろうか?」
不安そうに己の手を見つめるアリカ。
「今感じている感情も、温もりも、記憶さえも全てが創りものなのじゃろうか?」
そんな不安を口に出すアリカの手を、開いたもう片方の手で掴んで、抱くように腕枕していた手を引き寄せ抱きしめる。
「――っ」
抱きしめた俺をアリカは今にも泣きそうな顔で見上げてくる。
俺はアリカの顔を正面から見つめ、唇を重ねた。
「――っん」
ピッタリと唇を重ねて、離す。そしてアリカの瞳を見ながら訊ねる。
「アリカ、今何を感じている?」
「それは……、わからないのじゃ……」
アリカは顔を赤らめ俯いた。
そんなアリカをやさしく抱くと、胸に顔を埋めたまま小声でつぶやいた。
「だ、だが……、い、嫌ではなかったのじゃ……」
「そうか……」
「そ、それに……、体が熱くて、恥ずかしくて……、胸が苦しくて……、妾は……」
「その感情も創り物だと思う?」
「……それは……」
「俺はアリカも、この魔法世界に住んでいる住民もただの創り物だとは思わないよ」
「じゃが……」
俺はアリカを抱きしめたまま言う。
「それに、大きく考えてみれば元々全ての世界ってのは創り物なんじゃないか?」
「全ての世界が創り物?」
「そう。魔法世界に限らずな。――元々旧世界も大まかな創りは違うだろうけど、神なんかが創りだした物だろうし、そこに住んでいる住民は元々全てが神の創造物=創り物ってことになるだろう?」
「…………」
よくわからないようなので、もっと掻い摘んで説明する。
「つまり俺が言いたいことは、魔法世界の住民も旧世界の住民も何かに創りだされたって点では変わらないんだから、自分が造物主に創りだされた人工生命だからって悲観するなってことだよ」
まだ悲しい顔を浮べているアリカを見つめ、言う。
「そもそも自分で自分をただの人形だって決めつけるなよ。おまえは俺にとって魔法世界の造物主に創造された人形の1つなんかじゃないんだからさ」
「――っ。主にとって……?」
「ああ。俺にとっておまえがただの人形なんかじゃない。――魔法球のなかで一緒に過ごしたこの10日間だけで、俺のなかでアリカは変えのきかない大きな存在になってるんだからな」
「そ、そうなのか……?」
「ああ」
「ぅぅ……」
断言するとアリカは顔を真っ赤にして俯いた。恥ずかしそうなのは変わらないけど、ちょっと違う意味でも赤面したみたいだ。
しばらくそのままでいると、アリカはゆっくりとうなずいた。
「そうじゃな……。妾や魔法世界に住む住民が人工生命だったとしても、すでに造物主の手を離れた1つの個。ただの人形で済まされるわけがない」
「ああ」
俺がそううなずくと、アリカは顔をあげた。
「じゃが妾はどうすればいいのじゃろう?」
ただの人形ではない事は理解したけど、まだ無視できない問題は残ってる。
「戦争を裏から煽る『完全なる世界』という悪の組織を倒し、魔法世界における大戦を停め、世を平和にしたい。――そう、妾は思っていたが、『完全なる世界』が完全な悪では……、いや、大きく見れば正義だと知った」
「ただの悪だと思っていた相手にも、こちらが理解できる正義をもって行動していることを知って迷ったか?」
「…………その通りじゃ。このまま『完全なる世界』を打倒し、大戦を停めたとしても魔法世界はいずれ崩壊してしまう」
「まあ、奴らの目的でいえば魔法世界の住民を大戦で減らしてあとは『完全なる世界』に収容してリセット、だからなぁ。結果的にいうと人為的に魔法世界を崩壊させるのか、自然に崩壊させるのかの違いしかないんだよな」
「…………崩壊を回避することはできぬのか?」
「まあ、今のところは。――そもそも魔法世界を魔法世界にするための魔力が予定より住民が増え過ぎたせいで魔力が枯渇し、元々の生き物が住めない土地に戻るから魔法世界は崩壊ってわけなんだ。崩壊を回避するためには、魔法世界自ら魔力を大量生成するようにしたり、生命が住めない魔法世界の土地を、魔力がなくても生命が住める土地に変えるぐらいしないといけないんだ」
「……妾には考えの及ばぬ事柄か」
アリカは自称気味につぶやくが、すぐに何かに気づいたようで裂け眉を曲げて訊ねてきた。
「ん? アルヴィン。いまのところというのはどういう意味じゃ? 将来的には崩壊を回避することができる……、という意味なのか?」
「ああ……、それはねぇ」
……どうしよう言う? 言わないでおく?
俺が言うか言うまいか悩んでいると、アリカがある核心を持って迫ってきた。
「魔法世界の崩壊を回避する手立てに心当たりがあるのじゃな?」
「いや、心当たりは……、まあ、あるには……、あるかなぁ」
「――っ!」
希望を見出したようなアリカだけど、俺は首を横に振る。
「けど、まだ心当たりレベルだ。用意も何もしていないし、できるかどうかもわからない。少なくても今回の戦争を停めるのには役立たない」
実際に俺が考えている方法は数十年単位、数百年単位の計画だ。
「『完全なる世界』が大戦を煽って、早期に魔法世界を崩壊させようとしているいま。俺が考えてる方法を実用できる段階まで持ってきて実戦に移すことは時間が足りない」
「……じゃが、救う手立てがないわけではないのであろう」
「まあ、そうだけど……」
あれ? アリカさん? 少し元気になってきてませんか?
アリカはソファベッドから起き上がり、戸惑う俺に覆いかぶさるように上半身を乗せて正面から見つめてきた。
「アルヴィン。――妾は、主に賭けたい」
「え?」
……なんですか?
「妾は『完全なる世界』がやっている崩壊からの救済ではなく、主の考える崩壊からの回避を支持すると言っておるのじゃ」
「…………。いやいやいや、待てよ! いきなり何言ってるんだ、おまえ!?」
俺は魔法世界を救う方法を開示すらしてないんだぞ!?
そう声を上げる俺にアリカは微笑んで言う。
「ふふっ、おかしいことを言っておるのは自分でも自覚しておる。――じゃが、妾は『完全なる世界』が行なう救済よりも、アルヴィンが考え、将来見つけるであろう魔法世界を救う方法のほうが、魔法世界に住む住民にとってよいと妾は思うのだ」
「ぅ……」
確信をもってつぶやかれるアリカの言葉に俺は顔を引きつらせて唸った。
アリカはそんな俺の様子に微笑み、話し始めた。
「妾はな、アルヴィン。『完全なる世界』の考える救済と別の方法があるのなら、妾は別の違う方法を考えたいと思っておるのじゃ」
「……だけど、俺が考えてる方法が成功しなかったらどうするんだ? 俺が考えつく方法が『完全なる世界』よりも悪い方法だったら、おまえはどうするんだ?」
「それは……、不甲斐ない話であるが『わからない』の一言じゃ」
「おいおい……」
「――じゃが、アルヴィンの思いつく方法であれば、亜人だけでも助かるのであろう?」
「は?」
確信をもってつぶやかれたアリカの言葉に大きな疑問符を浮べる俺に、アリカは口元に手を当て恥ずかしそうに小声でつぶやいた。
「その……、アルヴィンは角っ娘や獣っ娘といった亜人の女が好きなのじゃろう?」
「……………え?」
いや、え? なんでそのことを? ……え? まさかアリカ、俺がその娘たちが消えるのが嫌で魔法世界を救おうと思ったことに気づいて――。いや、そんなはずは……。
全身から戸惑いの汗を流す俺にアリカは……、隣に置いたもう1つのビーチベッドで寝ているニィをちらっと見ながら答えた。
「ニィが教えてくれたんじゃ。アルヴィンはオスティアを拠点に、頻繁にヘラス帝国に転移して黒龍から人間の姿になって様々な娼館を回ってると。大昔からヘラス帝国の娼館に通ってる常連で、金払いのいい上客でいろいろな逸話をもってる伝説のヤリチン男じゃとな。――妾は、そんな男が亜人達を見捨てるとは思えんし、アルヴィンならばついででも、魔法世界全体を救ってくれると信じておるのじゃ」
「…………」
断言したアリカに何も言えなくなる。
……ニィ、おまえって奴はなんて話をアリカにしてるんだ……。
あと、アリカさん。ヤリチンって意味わかってるけど、わかってないだろう……。そんな堂々と言っていい言葉じゃないからな、それ。
「妾は『完全なる世界』の真の目的を知っても、魔法世界の救済になるとしてもやり方に納得ができぬ。魔法世界の全ての住民を、住民が都合のいい世界に収容しても救済されたとは思えないのじゃ」
「……だったら、どうするつもりだ?」
「大戦と停める」
いや、決め顔で断言されても……。
「今までの計画と大きく変わらず、協力者達と共に『完全なる世界』を倒し、大戦を停めるのじゃ。――そうすれば幾分かは魔法世界の崩壊を遅らせることができるじゃろう?」
「ま、まあ……、すぐに崩壊させようとする奴がいなくなれば、元々の寿命になるからな」
「その間にアルヴィンには魔法世界を救う手立てを考えてもらいたいのじゃ」
「…………いや、それはちょっと待てよ」
「む?」
「そもそもなんで俺が魔法世界を救う事に確定してるんだ? 俺、元大魔王で、魔族で、悪魔なんだぞ。それに、元々俺は気まぐれで魔法世界を救おうとか思ってた奴だ。それがなんで魔法世界を救う方法を見つけ出して、絶対に魔法世界を救ってやるみたいな話になってるんだよ?」
「む、むぅ……」
痛いところつかれたのじゃ……、みたいな顔をするなよ。
「じゃっ、じゃったら対価を……」
「いや、どう考えても内容的に払えるものじゃないだろう……。魔法世界と『完全なる世界』の情報を与えたのも、対価で見れば絶対に吊り合わないぐらいこっちが譲歩してるんだから。俺に魔法世界を救わせるとなると、どんな対価を支払ったとしても吊り合わないって……」
半ば呆れながら言うと、アリカはウルウルと潤んだ瞳で下から見上げるような視線で見つめて、涙声でつぶやいた。
「アルヴィンは、妾を救ってはくれぬのか……?」
「…………どこで覚えたその技術……」
「…………」
ジト目でつぶやくと今度は黙るアリカ。教えたのはニィだよな。ていうか、姫様も実行するなよ……。
しばらくアリカと出方をうかがうように睨み合っていると、アリカのほうから折れた。
大きく息を吐いて俺の胸に顔を埋める。
「…………」
「…………」
いじける子供のようにアリカは抱きついてくる。その様子に俺は大きく重いため息を吐く。
そしてニィが言った通り、俺は悪魔らしくない悪魔だと自分で自覚し、夜明けを迎え始めた空を見上げながら、独り言のようにつぶやく。
「……まあ、絶対救うとは言えないが、元々俺は自発的に魔法世界を救うつもりだった」
「……」
アリカがこちらを見上げてきたが、空を見上げたまま続ける。
「この大戦を俺が停める事は造物主との契約でできないが……、大戦が終われば契約は終わり、俺は自分自身の欲のために、自分が見つけるであろう方法で魔法世界の崩壊を回避するつもりだ」
「…………つまり、大戦を停め、『完全なる世界』を打倒して時間を延ばせば……、アルヴィンが魔法世界を……」
「……さあな。俺は魔法世界に住む者達の事情なんか知らない。救うっていっても、俺自身の欲を満たすためにやった結果がそうなるだけじゃないか? ……そもそも、崩壊までの時間もわからないから将来どうなるかわからないよ」
「…………ふふっ、ああ、そういうことか」
アリカはクスリと微笑み、小声でつぶやいた。
いや、そういうことって、どういうことだよ……。
「本当に、主は悪魔らしくない奴じゃな」
「ふんっ」
アリカに満面の笑みで言われて、少々気恥ずかしくなり、そっぽを向く。
アリカはそんな俺をクスクスと笑い続けた。
◆
早朝。そろそろ外での13時間、ダオライマ魔法球内での13日目の朝を迎えた頃。俺とニィとアリカの3人は出口へと集まっていた。
「ところで主らはこれからどうするつもりなのじゃ?」
元の姫様ルックに着替えたアリカが俺とニィに訊ねた。
俺は頭をかきながら素直に、
「特に何も考えてない」
と答えると、アリカはうなずき、
「じゃったら、妾と一緒に居てはくれぬか?」
と言ってきた。
俺は少しだけ驚き、アリカを見つめた。
アリカは俺に笑みを向けると、後ろを向いて顔だけ振り返った。
「どこに行くか決まっておらんのじゃろう? じゃったら妾のところに居ついても何も問題なかろう? それに食事や寝床ぐらいはただで振る舞うぞ」
「…………俺たちは大戦には協力しないぞ?」
「わかっておる。戦の戦力として主らを頼りはせぬ。――ただ傍に居て欲しいだけじゃ」
「アイスキャンディーがあるなら行く」
「そうか、ニィ。好きなだけ用意しよう」
「契約成立」
そう言ってニィがアリカの隣に並んだ。――って!?
「ニィ!? おまえ何を言ってるんだ!?」
「アルヴィンは行かないのか?」
「いや、そういう話じゃなくてな……」
う~……、どうする? アリカについていくか? でもそれじゃあ自由に娼館……、いや転移を使えばいけるな。その間ニィをつけとけばいいんだし……。う~……ん、どうしよう?
「アリカについて行けば、たまに性欲発散させてもらえるよ」
「――行こう」
「――っ!? に、ニィ!? 主は何を言っておるのじゃ!?」
「でもアリカ。これが1番アルヴィンに効果的だよ?」
「そ、それはそうみたいじゃが、一国の姫が婚約者でもない者に何度も体を許すのは……」
「今さらじゃないの?」
「ぅ……。……そうじゃったな……。妾はすでに……、汚れじゃったか……。ふふっ、今さらか。今さらじゃったな。――アルヴィン、その条件でよいから、大戦が終わるまででよいから、妾についてきてくれ」
「ああ、わかったよ。どっちにしろ数年は魔法世界を旅行するつもりだったし、根無し草よりどこかに留まったほうが、ニィの教育にいいからな」
「……礼を言ったほうがよいのじゃろうか?」
「いいさ。これも契約扱いにするから、取引みたいなものだ」
「そうか。ではアルヴィン」
「ああ」
うなずいてボフンッと白い煙を立てながらデフォルメ黒龍に変身する。そして空中を浮遊しアリカの首に胴を巻きつかせるように乗っかった。
「……妾は騎士の誓いのようなものをやりたかったんじゃが……」
「ふっ、元大魔王の俺が騎士なわけないだろう? 大戦では役に立たないんだから使い魔扱いでいいさ」
「そうか」
アリカはうなずくと手で俺の胴を撫でてきた。
「ふむ、それにしてもなかなかの触り心地じゃな。鱗も丸くなっておるし、熱くも冷たくもないし、重さも軽いのぅ」
「首に巻きついたり、抱きつかれたときに痛いのは嫌だろう? そもそもこのフォームは戦闘用じゃないし、最低限の戦闘能力を持っていればそれで十分だし。――アリカもこの姿でいたほうがいろいろと都合がいいだろう?」
「そうじゃな。普通男を寝室などに入れられぬが、主なら使い魔だからと誰にも気に留められんし、外見を見てもすごい戦闘能力があるとは思えんから護衛にもぴったりじゃしな」
「ん? 俺っておまえの護衛しなきゃいけないのか?」
「もちろんじゃ。使い魔としておるのじゃから主人を守るのは当たり前であろう。大戦が終わる前に死んだらどうするんじゃ」
「…………くっ、わかったよ。大戦の終わりが見れるよう護衛してやるよ」
「ふふっ、よろしく頼むのじゃ、アルヴィン」
「ああ、わかったよ」
アリカの肩の上で長い首をだらけさせる。アリカはクスクス笑いながら片手で俺の頭を撫でた。
手玉にとられた気がしないでもないけど、まあ、いいか。
「ふふふ、アイスキャンディーと寝床確保」
あ~、ニィはあとでお説教ね。個性的になり始めたのはうれしいけど、いろいろとはっちゃけすぎてるから。