【完結】楽園の素敵な男の娘と人妻(未亡人)系TS九尾 作:榊 樹
エロ無いです、はい。
いや、本当にすみません。
次回こそ、次回こそは必ずやるので勘弁して下さい。
「藍ー?らーんー!」
紫が自身の従者の名前を呼ぶが、返事は返って来ない。幽々子の屋敷から自身の屋敷まで隙間で帰宅した紫は、お腹が減ってリビングに行ってみたはいいものの、何も用意されていない。
式の反応的に藍も博麗神社からこの屋敷に戻ってる頃だろうと確信し、先程から屋敷中を散策しているが中々見つからない。
その後、数十分程探し回り、こちらを背にしてアザラシの如く縁側で横になっている藍を見付けた。
「藍!ちょっと藍ってば!お腹空いたー!ご飯作ってー!」
何度言ってもピクリとも反応しない。寝ているのか、と思い駄々を捏ねるのは止めにして肩を揺すってみると、漸く気付いたかのように首を回して肩口にこちらを見た。
「・・・・・・・・・あぁ、居たんですか」
その美貌は何処へやら。目は虚ろになり、顔色は唯でさえ白い肌が更に白くなって真っ白に。それでも美しいと言えば美しいのだが、醸し出す雰囲気も相俟ってまるで幽鬼のような恐ろしさがあった。
極め付けは髪の毛どころか、あれだけ毎日面倒そうな手入れを欠かさなかった尻尾の毛並まで衰え、使い古した毛布のようになっていた。
何処からどう見ても正常では無く、見る人から見れば関わるな、とでも言っているような藍に、そういった空気がまるで読めない状態の紫は反応した藍に尚も駄々を捏ね始める。
「藍!ぐでって無いで早く晩御飯作って〜!お〜な〜か〜空〜い〜たぁ〜!!」
そこには妖怪の賢者、大妖怪としての威厳は欠片も無く、ただ見っとも無く喚き散らす大人の姿をした子供だった。
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
そんな主の哀れな姿さえ見慣れてしまった藍。その事に特に何かを言う訳でも無く、そもそも咎めた所でどうにかなる訳でも無いし、そんな気力も無い。
藍は長い間を置いて、溜め息を一つ吐くとのっっそりとしたゆっくりな動作で怠そうに立ち上がり、台所へ歩いて行く。
その後ろを着いて行き、途中に置いてあるテーブルの前に座る紫。それでもお腹が空いた、と我儘を吐き出しつつ待つこと数分。戻って来た藍は手にしていた袋をテーブルの上に放り投げるように置いた。
普段なら有り得ない藍の行動に驚くも、取り敢えず置かれた物を見てみる。
(・・・・・・・・・え、煮干し?)
それは袋一杯に入った煮干しだった。藍の失礼な対応に対する怒りが吹き飛ぶ程に紛れも無く煮干しだった。
「ら、藍?何これ・・・?」
「何って・・・・・・夕飯ですけど」
「ゆ、夕飯?・・・・・・・・・煮干しが?」
「橙の好物なんですから、味わって食べて下さいね」
そう言い残して、スタスタと部屋を出て行こうとする藍。相当機嫌が悪い。ここまで来ると誰でも分かるような藍の対応にさえ、紫はまるでその事に気付いていないかの如く抗議の声を上げる。
「ちょ、ちょっと!煮干しが夕飯なんて冗談じゃないわ!私は藍の手作り料理が食べたいの!」
「・・・その煮干し、手作りですよ」
「そういう事じゃなくて!もっとちゃんとした物よ!それが食べたくて幽々子の誘いも断って来たんだから!」
「・・・・・・では、幽々子様の家で食べて来たらどうなんですか」
「ちょ、藍!藍ってば!」
今度は紫に何も返す事無く、部屋を出て行った。そんな藍に抗議するかのように「むぅ〜!」と膨れる紫は、拗ねたように隙間を開いてそこへ身を投じた。
◇
「ねぇ!酷いと思わない!?煮干しよ!煮干し!私は猫かっての!」
料理を口に頬張りつつ、そんな事を喚き散らす友人を前に苦笑いする幽々子。しかし、幽々子のその手は止まる事無く料理を口に運び、きちんと噛んでいるのか疑いを抱く程、まるでゼリーでも飲み込むかのようにブラックホールの如く喉の奥へと吸い込まれて行く。
テーブルの上の料理を完食という名の一段落して、箸を置いた幽々子。どうしたものか、と紫の言葉を聞き流しつつ、思考を巡らせる。
こっちから誘ったのに一度断ったと思えば、すぐに戻って来て泣き付かれた。何があったのか、と聞けば涙声で聞き取り難かったが、どうやら藍に苛められたらしい。
その内容というのが、楽しみにしていた夕飯が煮干しだけ、という普段の紫の従者イビりに比べれば、大変可愛らしいモノ。
まぁ、自分がそれを妖夢にヤられたら、妖夢が『自分が悪いのか?』と罪悪感を抱き、鬱になってしまう程に拗ねる自信があるけど、それはそれこれはこれ。
しかし、驚くべき所はあの藍が紫に対して、そのような反応を明確に示した、という事。従順と聞かれれば、なんとも言えないが、主人である紫を大切にしていた事だけは確かだ。
そんな藍が食事という、紫が楽しみにしていると知っている事に手を抜くというのは、何かあったとしか考えられない。
「そもそも!従者が主人を苛めるってどうなの!?おかしいでしょ!」
「いや、貴女がそれを言ってはいけないわ、紫」
やっぱり、ただ嫌気が差して来ただけなのかもしれない、と割と真面目に思い始めた幽々子。それでも単純に好奇心的に大変気になる事柄なのでこんな提案をしてみる。
「ねぇ、取り敢えず当の本人がどうなってるのか、見せてくれない?」
「ぷんぷん・・・ん?・・・ふふっ、いいわよ」
一瞬だけ間を置いたかと思えば、次の瞬間には妖怪の賢者らしい顔をする紫。恐らく、今の一瞬で思考を巡らせて、藍の痴態を晒して仕返しをしよう、とでも考えたのだろう。
その才能をこんなしょうも無い事に使うなと言いたい所だが、それが素直になれない紫の愛情の裏返しと分かる幽々子にとっては微笑ましいものである。
そんな相変わらずな友人に呆れつつ、紫が開いた隙間を覗いてみる。すると、開いた隙間から少し離れた所の縁側にこちらを背にしてアザラシの如く横になっている藍を見付けた。
「わぉ・・・」
これはかなりの重症だった。普段の藍を知っていれば、彼女が睡眠以外で無駄に横になる事自体が異常事態。楽しそうだから傍観する、なんて甘い事を考えている場合では無くなった。
「妖〜夢〜」
「・・・・・・はぁい!今行きまぁす!!」
隙間を閉じてもらい、自身の従者を呼ぶとすぐに返事が返って来た。暫くして足音を立て無いまま、開いた襖の先にある廊下に妖夢が両片手に多種多様の料理を乗せたお盆を持ちながら、スィーと滑りつつ綺麗に停止した。
「お持ちしました」
「あらぁ〜ありがとぉ〜♪」
サササッと料理を机の上に並べて行く妖夢に嬉しそうにお礼を言う幽々子。並べ終え、一礼して再び調理に向かおうとした妖夢に幽々子が声を掛けた。
「妖夢〜、ちょっとお願いしてもい〜い〜?」
「はい?・・・えぇ、構いませんが長いと次の料理が遅くなりますよ?」
「・・・・・・・・・大丈夫よ〜」
「はぁ・・・そうですか。それで、お願いというのは?」
「ちょっと藍ちゃんの様子を見て来て欲しいのよ〜」
「藍さんのですか?」
「そうよ〜」
藍に関われると知って、抑え切れない嬉しそうなオーラをポワポワ出す妖夢。しかし、同時に疑問に思った。藍さん程の方がどうしたのか?と。
「何かあったみたいで、元気が無いそうなのよ〜」
「・・・あぁ、それで紫様が」
「察しがよくて助かるわ〜」
紫が事情を話したのは幽々子にだけであり、妖夢は訳も分からず追加で紫の分も作らされていただけ。と言っても元からそのつもりではあったので、大した苦でも無いし、材料もある。それでも、気になるものは気になり、ここで漸く妖夢は事態の把握をしたのだ。
「それじゃ、早速お願いね〜。行きも帰りも紫が隙間を通してくれるから〜」
「えー」
「紫?」
「さぁ、妖夢!道は開いたわ!あのダラしない従者を何とかして来て!」
「それでは・・・」(ツッコンだら・・・負けなんだろうなぁ)
紫に何か言いたげな表情で隙間を潜る妖夢。少し平衡感覚がおかしくなりそうだが、きちんと意識を保って真っ直ぐ進んで隙間を抜け、八雲家の床を踏み締める。
心に余裕が出来て藍の現状を漸く理解出来た。驚きを隠せないし、醸し出す雰囲気が主人の能力、つまり濃密な死の雰囲気に似ており、足はガクガクに震え、冷や汗は尋常ではないくらいに溢れ出し、今すぐにでも帰って主人に泣き着きたい気持ちで一杯になった。
しかし、これは当の敬愛する主人の頼み。せめて、一声でも掛けようと震える足を恐る恐る踏み出し、あと数歩の所まで近付く。
「あ・・・あの、藍・・・さん」
覗き見&聞き耳していた紫と幽々子ですら、聞き取れるかどうかの音量で話し掛ける妖夢。本人は半人前であるにも関わらず、それでも分かり易い程に頭の中で先程から警鐘が鳴り響いており、怒らせたらマズイと心が恐怖で支配されていた。それでも聞かずにはいられず、これが精一杯の努力をした結果だ。
「・・・・・・」
が、しかし藍は無反応。一応、妖夢自身も先程の自分の声が小さ過ぎたのでは?という自覚がある。故にただ聞こえていなかっただけかもしれない。本当にそうなら、非があるのは無視した藍ではなく、妖夢の方だ。
これでは主人に顔向け出来ない。抜けそうになる腰、崩れ落ちそうになる膝を根性で保ち、再度背を向けている藍に叫ぶように声を掛ける。
「ぁ・・・あの!藍さん!」
「・・・ん・・・・・・妖夢?」
獣耳がピクッと跳ねて、顔を少しだけ振り向かせる。しかし、顔は髪に隠れよく見えず、どのような対応が正しいのか分からない妖夢。故に不安を抱えつつも、どうしたのかと尋ねる。
「ゆ、幽々子様が・・・その、藍さんが元気が無いので・・・様子を見て来て欲しい・・・と」
「・・・・・・妖夢、恥を承知で頼みたい事がある」
「!?・・・は、はい!」
藍から話を振るという、この生き地獄から漸く抜け出す光が差した事にホッと胸を降ろす妖夢。しかし、藍からの提案にそれどころで無くなった。
「すまないが・・・暫くの間、紫様の面倒を見てくれないか?」
「・・・え?」
『自身の主を他者に任せる』
その他者が同じ主に仕える者ならまだしも、今回は違う。藍の主人の友人の従者である事から信用はされているだろうが、従者として信頼はされていない。そもそも、妖夢はまだ自他共に認める半人前。
そんな半人前に一人前の藍が大切な主を任せるというのは誇張無しで異変クラスの大事だ。その事を藍に憧れ、多くの事を学んで来たからこそ、誰よりも理解している妖夢。
恐怖は疑問に置き換わり、足の震えも冷や汗も止まっていた。
「藍さん・・・何があったんですか?」
「・・・・・・」
少しだけ振り向かせていた顔さえも元に戻し、反応を示さない藍。それでも妖夢はめげない諦めないドラゲナイ。
「藍さんの頼みなら、紫様を暫くの間、預かりはします。でも、それがどれだけ異常な事か、藍さん自身が分かってる筈です」
「・・・・・・」
「ですから、せめて何があったのかくらいは教えていただきたいです。紫様も心配しておりました」
「・・・・・・霊夢にな」
「・・・え?」
「・・・霊夢に・・・『二度と私の前に現れるな』と言われた」
「・・・え、霊夢さんが・・・ですか?」
「・・・そうだ」
いつもの藍とは思えない程に弱々しいその声もそうだが、あの霊夢がそこまで感情的になった事に妖夢は驚きが隠せないし、そもそも想像が出来ない。
主人である幽々子の思い付きで起こした『春雪異変』。それが妖夢と霊夢の初邂逅であり、妖夢が初めて己の未熟さを実感した出来事。その時の印象が強く、妖夢が抱く霊夢のイメージは冷徹、冷静と兎に角、感情的とは真逆であった。
言ってしまえば、第一印象は最悪。敵同士であり、負けた相手なのだから当たり前かもしれないが、仲良くなれるイメージなど欠片も無かった。
しかし、今では仲良しとまではいかなくとも、人里で出逢えば少しの立ち話をしたり、宴会で藍の手伝いのようなものではあるものの料理を食べてもらうまでの仲となった。
そんな中で唯々冷たい人間では無い事は分かって来た。それでも、大きな感情を表に出す事は愚か、他者を明確に拒絶した所は見た事が無いし、聞いた事も無い。
人間だろうと妖怪だろうとそれ以外だろうと『来る者拒まず去るもの追わず』を地で行く、正にこの言葉の体現者のような存在だった。
しかし、そんな霊夢にも例外は存在したのか、藍には何やら特別な思いを抱いている事に妖夢は薄々気付いていた。それがどういったモノなのかまでは分からないが、少なくとも良い感情であった事は確かだと断言出来る。
「何か心当たりは?」
「無い・・・と言えば嘘になる・・・だが、何故怒ったのかが皆目検討が付かんのだ・・・」
珍しい。それなりの時間が経ったにも関わらず、藍が未だに答えを出せていない。そうなると、自分が解決するのは無理だと早急に判断した妖夢。かと言ってこのまま放置する気も無く、何か解決への糸口程度なら掴めるよう協力する事にした。
「その心当たりというのは?」
「それは・・・すまない、言えない。霊夢の不名誉に関わるからな」
「・・・そうですか」
どうやら、この件に関して藍自身が他者に干渉される事を嫌っている。そうなると、妖夢にはもう励ますぐらいしか思い付かず、己の未熟さを痛感してしまう。
「藍さん、霊夢さんは━━━」
それでも足りない頭で思考を巡らせ、言葉を組み立てて漸く口に出そうとした所で、どうにも藍の様子がおかしい事に気が付いた。
背中越しで顔は見えないが、呼吸が大きく、それでいて頻度が速くなっている。聞こえる吐息は熱を含み、正常で無い事は明らかだ。
「藍さん・・・?」
恐る恐る近寄り、背中から覗き込むように顔色を伺う妖夢。そこには紫の時とは反対の真っ赤に染まり、大量の汗を掻く藍の姿が。
「藍さん!」
何らかの病気であると即座に判断した妖夢。仰向けにし、意識の確認やどれだけ熱があるのかを確かめる。
「ッ!?
意識はあるが返事が出来る程の余裕が無い。そこで額に手を
更にここら一帯の気温が急激に上昇し出し、妖夢自身にも汗が滲み出す。よく見てみれば、熱の発生源は藍であり、全身から湯気が立ち上っていた。
「藍ッ!!」
慌てたような声が背後からした。妖夢が振り向けば血相を変えた紫が隙間から飛び出していた。藍へと危なかっしい足取りで駆け寄る紫を妖夢が阻む。
「藍ッ!!妖夢退いて!藍が!」
「分かっています!ですが紫様は白玉楼へお戻りください!万が一ですが、藍さんの風邪が伝染るかもしれません!」
「そんな事どうでもいい!藍が苦しんでるのよ!邪魔をするなら貴女だろうと━━━」
「己の失態で主に危害が加わったら、それこそ藍さんは苦しみます!!」
「ッ!?」
「お気持ちは痛い程分かります!紫様にとって藍さんがどれだけ大切な存在なのかも分かっているつもりです!でも、本当に藍さんの事を思うのなら、ここは私に任せて下さい!」
「・・・本当に大丈夫よね?貴女に任せても」
「全霊を持ってお世話させていただきます」
「・・・・・・分かったわ」
藍に心配そうな顔を向け、踵を返して隙間を
◇
「おーい!霊夢ー!」
朝から元気な声が博麗神社に響く。普通の魔法使いである『霧雨魔理沙』は、今日も今日とて霊夢の所に息抜きも兼ねて遊びに来ていた。
しかし、この時間帯ならいつも境内の掃除をしているだろう、めんどくさがり屋だが規則正しい生活を送っている筈の巫女の姿が無かった。
おまけに割と高頻度で顔を合わせる、あの世話焼き狐も居ない。藍が居ないとお茶請けが滅多に出ないが、まぁ、それは少し残念だけど別にいい。
「おーい、霊夢ー?」
境内には居なさそうなので、社殿を散策していると未だに敷かれてある布団を発見した。頭まで被っているから見えないが、盛り上がっている事から誰かが中に居る事は確か。
靴を脱いで畳に上がり、布団に近付いてみると小さくはあるが確かに上下していた。
「おいおい、博麗の巫女様がお寝坊かー?もう日が登り切ってるぞー」
そう言って、霊夢の反応を待つ魔理沙。少しするとモゾモゾ動き出し、鬱陶しそうに布団から霊夢が顔を出した。
「・・・帰って」
「やだねー。折角来てやったんだ。お茶の一つでも出してもらわないと割に合わないぜ」
「・・・・・・・・・はぁ、着替えるから待ってて」
「おう!」
これ以上問答をした所で魔理沙は引きはしない。それを誰よりも知っている霊夢は面倒くさそうに布団から起き上がり、布団を片付けて適当に身支度をしていく。
その間、暇を持て余した魔理沙はどうせ出ないだろうお茶請けを物色する為に台所へと向かう。しかし、探すまでもなく、充分な量の煎餅が入ったお椀が机の上に置いてあった。
「バリッ・・・バリボリ・・・ま、これでもいいか」
お眼鏡に適ったのか、それを持って縁側へ向かう魔理沙。足をブラブラさせつつ煎餅を貪っていると、丁度お茶が欲しくなった所でいつもの巫女服に身を包んだ霊夢がお盆にお茶を乗せてやって来た。
「・・・何勝手に食べてんのよ」
「いいじゃないか、魔理沙様に食べて貰えてこの煎餅達も本望の筈だぜ」
「それ、昨日の残りなんだけど」
「知ってるぜ。だから本望だって言ってるんだぜ」
「・・・あぁ、そう」
よく分からない理論で大人しく二人分のお茶を注ぎ、魔理沙の横に座る霊夢。煎餅に手を伸ばす事無く、ただ静かにお茶を啜り、魔理沙も同じくお茶を手に取る。
「・・・なぁ、霊夢」
「何よ・・・」
二枚目を食べ終えた頃に景色を眺めながら、湯呑みを片手に魔理沙は話を切り出す。
「昨日、何があった?」
「・・・・・・」
「どれだけ一緒に居ると思ってんだ。今朝の寝坊がただの寝坊なんかじゃない事は何となく分かるし、目の下に隈まで出来てるぜ。寝てないんだろ?普通じゃない事ぐらい、誰だって気付くさ」
「・・・・・・はぁ」
諦めたかのように溜め息を吐く霊夢。言葉の整理の為に一口飲むと観念したかのように話し出した。
「昨日、藍と喧嘩したのよ」
「藍と?お前が?」
「そうよ・・・と言っても、藍は何も悪くないし、私が一方的に責め立てただけ。『もう二度と私の前に現れるな』って言っちゃった。その後は・・・よく覚えてないけど、気付いたら藍は居なくなって、日も暮れてた」
「・・・そっか」
大方の事情を把握した魔理沙。霊夢の顔色を伺うまでもなく、本人がその事に酷く後悔している事はよく分かった。
「魔理沙の言う通り、昨日は一睡も出来なかったわ。目を閉じる度にあの時の藍の悲痛そうな、心から傷付いたような顔が脳裏に過ぎるのよ。あぁ、あんな事しなけりゃ良かったって、胸が締め付けられるような気分を何度も味わった」
それは魔理沙に聞かせるというよりも、独白に近いものだった。己がした罪を誰かに知ってもらいてくて、叱って欲しくて、そして解決して欲しくて。それを魔理沙は黙って耳を傾ける。
「あの時、ああすれば良かった、こうすればこんな気持ちにならずに済んだ、なんて考えても後の祭り。意味なんて無いと分かっていても、それでも止められない」
「・・・・・・」
「はぁ・・・本当、いつからこんなに女々しくなったのかしらね。昔はこんな気持ちなんて、簡単に
突然の問い掛け。こちらを見てそう問う霊夢の顔は何かに怯えるような、知る事を恐怖しているような、そんな臆病なものだった。そこに居るのは博麗の巫女ではなく、答えを求めるたった一人の少女だった。
巫山戯る気持ちなんて端から無い。しかし、真面目に答えてもそれが間違いだって事もある。初めて出来た親友から、初めて頼られた。それはやっと対等になれたと喜ぶべきか、ここまで霊夢が追い込まれている現状に憤慨するべきか。
「なぁ、霊夢。お前は藍の事をどう思ってるんだ?」
応えられると思っていなかったのか、魔理沙のその言葉にキョトンとする霊夢。すぐに出るかと思ったその答えは中々出て来ず、少しの間考え込む。
そして、出た答えが━━━━
「・・・分からない」
間柄としては、保護者的なモノなのだろう。しかし、霊夢自身の気持ちと言われると、それは何処か違うような気がした。
「そっか・・・霊夢、お前と藍はそんな曖昧な関係だ」
「・・・何が言いたいのよ」
「まぁまぁ、そう怖い顔をするな。話はまだ終わってないぜ」
魔理沙の言葉が気に入らなかったのか、少しだけ睨み付ける霊夢。そんな霊夢を窘めながら魔理沙は続ける。
「お前、今まで藍と喧嘩した事あるか?今回みたいに大きな内容じゃなくても、ほんの些細な事でもいい。例えば、出された料理の味付けが不満だったとか、勝手に部屋を弄られたとか」
「そんな事で怒る訳ないでしょ・・・でも、そうね。喧嘩のような事は今までした事がなかったわ。今回が初めて」
「だろ?あれだけ一緒に居て、そっちの方がおかしいのさ」
「・・・そうかしら?」
「あぁ、そうだとも。なんせ、血の繋がった本当の親と大喧嘩して、未だに仲直り出来ていないどうしようもない親不孝者だっているんだからな。そんな明確な繋がりがある奴らだって喧嘩するんだ。恋人同士だって、夫婦になってからだって喧嘩もするし、気に入らない所の一つや二つあるもんだ。増してや、お前と藍は人間と妖怪。寧ろ、もっと衝突する方が自然だ」
「それは・・・そうかもだけど、衝突と言うより私が一方的に」
「そんな深く考えんなって。そうだなぁ・・・霊夢は藍と仲直りがしたいか?」
「当たり前でしょ。そうでなきゃ、こんな
「それもそうだな。なら、それだけで充分だ。『仲直りしたい』それを相手に伝えるんだ。口下手でもいい。
「・・・いいえ」
言い終わり、照れ臭そうに帽子の
「ありがとう、魔理沙。お陰で大切な事に気付けた気がする。本当に・・・ありがとう」
「ッ!?・・・ぅぅ、ち、力になれたみたいで・・・良かったぜ・・・」
思わず見惚れてしまう程の、そんな霊夢の綺麗な微笑み。初めて見る心からの喜びの表情に魔理沙は今度は両手で帽子を押さえ、恥ずかしさで真っ赤になる顔を必死に隠すが、そちらの方が逆効果のような気がする。
「?・・・あらら、魔理沙。貴女、照れてるの?あれだけキメ顔で言ってたのに?」
「ぅ、ぅう五月蝿い!いいから、さっさと行けよ!」
「ふふっ、えぇ、そうする。今度はもっといいお茶請けを用意しておくから、楽しみにしてなさい」
「うぅ・・・」
まさかの辱めを受けた魔理沙。飛んで行く霊夢に涙目で恨めがましい視線を向けつつ、撃ち落としてやろうかと画策する。しかし、今回ばかりは自重した。今、横槍を入れるとかなり容赦無くヤラレそうな気がしたから。
「はぁ・・・本当、手の掛かる巫女様だぜ・・・」
ヤレヤレ、と言う風に首を
◇
「さて、飛び出して来たはいいものの、どうやって行こうかしらね」
フワフワと飛びながら、藍が居るかもしれない紫の住処に行こうとしたが、生憎と場所が分からない。いつの日にか藍から、外界との狭間の何処か、という事を聞いた事があるような気がしなくもない。
こんな曖昧な内容なのは、本当に『外界との狭間の何処か』としか、教えてくれなかったから。恐らく、藍自身も行き方は分かっても何処かは明確によく分かってないのだろう。
「境界を弄って紫を呼ぶのが手っ取り早いんだろうけど・・・今から神社に戻るのもねぇ」
霊夢が懸念しているのは魔理沙とまた会うかもしれないということ。別にそれでも何か問題がある訳でも無いが、大見得を切ってすぐさま戻るというのも何処か気恥しいものがある。
魔理沙の事だから、誰も居ない神社に長居はせずにさっさと帰っているだろうが、万が一がある。その万が一が霊夢を躊躇させる。それは何も博麗神社に戻る事だけではない。藍の事もだ。
謝るつもりだ。魔理沙の言った通り、どれだけ不格好でもきちんと謝って仲直りしたい、と伝える。元の形に戻る事は出来なくとも、責めて少しでも仲を改善したい。
だけど、もし藍が許してくれなかったら?
もう修繕不可能な所まで行っていたら?
そう思うとどうしても、進む速度が遅くなってしまう。
「!・・・ダメダメ。ちゃんと謝る。許してくれなかったら、根気強く謝って謝り倒せばいい」
頭を振って嫌な思考を外へと飛ばす。能力を使えばこんな気持ちも簡単に追い出せるのだが、それをするのはダメだ、と勘が言っている。そうでなくとも元より浮かすつもりもない。そうすれば、謝りたいという気持ちすらも浮かしてしまうから。
何よりもこの気持ちは大切にしたいと思えた。初めての後悔、初めての葛藤、初めての我儘。霊夢という人間を成長させる上で欠かせない、欠かしてはいけない、そんな気がするから。
「うーん、その辺の結界を弄っ・・・たら、後が面倒よねぇ」
結界に干渉する上で一番都合がいいのが博麗神社だ。それ以外だと、元に戻すのが少し面倒になる。イメージとしては部屋の扉と壁のようなもの。博麗神社が扉で、その他が壁。
無論、他にも扉の役目を果たす部分はあるにはあるが、博麗神社からしかまともに干渉した事が無い霊夢にとって、それらの場所は探さなければ分からず、仮にその辺の結界を適当に弄ると激怒した紫に強制的に直させられる。
藍と会えるのならそれでも構わないが、それは最後の手段。出来る事なら後腐れ無く会いたい。
そうしてどうしたものか、と右往左往していると目の前の空間が突然歪み始めた。斜めに裂け、中は無数の気味の悪い目玉、両端に赤いリボンのようなものがあるそれは見知った知人の仕業。
急に出てくるのも慣れたもので、特にリアクションする事無く目的の人物が顔を出すのを待つ。そして、完全に開いたその裂け目から出て来たのは、目的地の主である八雲紫。
しかし、いつもと何やら違和感がある。何かと思い観察してみると、いつもの貼り付けた笑みも胡散臭さも無い。何かに焦っているような、そんな感じがした。
「紫、どうし━━━」
「霊夢、早く来て」
紫が続けた言葉、それは全く予想だにせず、最も恐れていた一言。いつもなら、自身の勘が働く程の事態に今回は何の反応も示さない。けれど紫の反応を見れば、それが嘘でも何でもない、唯の事実だと分からされる。
「藍が・・・藍が
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
あ、バットエンドでは無いし、死ネタでも無いです(ネタバレ)
藍に何があったかは、一応ヒントっぽいのは今話に散りばめてはいます。と言っても、かなり無理のあるもので妖怪特有の性質を作者なりに解釈した結果こうなりました、という感じの病気です。
ちょっと紹介
霧雨魔理沙
性別:女
基本的に原作通り。本来なら登場予定は無く、霊夢が藍を襲って藍が慰める、というものだったが、唐突に思い付いたので急遽登場することとなった。
霊夢に対する恋愛感情は無く、強い対抗心や友情はあり、逆に霊夢が抱く藍への想いは恐らく誰よりも早くに気付いていた。物を盗んだり、摘み食いなどは遠慮無くするが、度は弁えているし、それをしてはいけない相手やタイミングも心得ている。パチュリーの所から本は相変わらず死ぬまで借りる、と言って許可無く持って帰るが、実は読み終わった物はきちんと返してるし、本当に持って帰ったらいけないものは持って帰らない。本人はバレて無いと思ってるらしいし、現に小悪魔を含めてとある人物を除いた者達にはバレていない。しかし、全てを暗記してるパチュリーにはバレバレ。面白そうなのでその事は本人も黙ってるし、何かと好感が持てて偶に魔法の手解きをしている。どのタイミングでバラそうかと密かに思考を巡らせている。
結論、魔理沙はいい子
紹介終了
最近、r18しか書いてない気がする今日この頃。と言うのも、間を開けたら書かない気がしたのでこっちに集中してるだけ。一応健全な方も書いてはいます。ただ、執筆速度が遅いだけです、はい。
次回も気長にお待ちください!