2期#32.5話
●裏閑話#0 湖畔の日常
「兄者ー!」
「おぉ!釣れたか?弟者」
王と王弟──一郎と二郎は第六階層の生活に大満足していた。
至高の四十一人の生み出した地で、妻となったミノタウロスと日々まぐわい、釣りをしたり、
いや、正直に言えば神々の産んだこの場所こそ自分達の暮らすべき場所だったのかも知れないと二人は優越感すら感じる。妻たちが"最も素晴らしいのはアインズ様"とたまに言うのはいくら忠誠心があってもたまに苦しいが、それも仕方ないだろう。あれほどの御方なのだ。
「へへ。見てくれ」
「いいじゃないか!稽古でシャースーリューとザリュースにやろう。いい手土産になる」
二人は程々に釣った魚をカゴに入れて新居に帰った。迎えた二人の妻に魚をレイゾウコに入れておくように渡すと湖の見えるデッキに椅子を出して二人で座り──いつも美しいその景色に兄弟はしばらく目を奪われた。
すると、遠くからこの世界を生み出した神がこちらに歩いてくるのが見えて慌てて立ち上がった。
「何か御用があったか?」
「いや……わからん……」
二人は支配者と話すのが少し恐ろしかった。すでに多大なる無礼を働いている為、自分達のせいでここを立ち去られたら、もしくは自分たちをいらないと言われたらと思うと、ただただ恐ろしかった。
一人で訪れた支配者は少し疲れたように手を挙げた。
「いらっしゃいませ神王陛下」
「あぁ。一郎。二郎。調子はどうだ」
「は!毎日精一杯励んでおります!」
兄弟はこの支配者のために一刻も早く子を作りたいと思うが、妻たちの体力が中々それを許さない。支配者には愛せたら共に暮らすんだと言われたが、婉曲に愛してやれと言われていると気付き四人は精一杯愛し合っている。
「そうか。ところでお前達フラミーさんを見なかったか……?」
二人は目を見合わせ、お前は見たかと視線で会話した。
「いえ。見ておりません。フラミー様がどうかされたのでしょうか」
二郎は自分のせいでフラミーが家出でもしたらどう償えばいいのだろうと過去の自分を叱責し、大いに悔やんだ。
「あぁ……アルベドがちょっとな……。おかしな事を言ったもんで避けられてるんだよ。ここのところ」
「はぁ……アルベド様が……」
「大抵仔山羊とこの辺をウロついてるから探しに来たんだが……。はぁ。どこいっちゃったのかなぁ」
支配者は最後いつもよりもずっと若い声でそう漏らすと肩を落とした。
「さようでございますか……。フラミー様が仔山羊といないということは……ハムスケ様の所にいるかもしれません。この後シャースーリューの下でハムスケ様も稽古ですし、ご一緒に行かれますか?」
「そうだな。行ってみるか」
一緒にお出かけできることに兄弟は短い尻尾をピルピル振りながら喜ぶと、急いで出かける支度をした。
「見つかると避けられる。私はここからは花子の姿で行くがいいか……?」
「もちろんでございます。どうぞお使いください」
アインズは始原の魔法を僅かに混ぜて幻術を展開した。少しでも始原の力を注ぐとユグドラシルの法則を外れるので、通常であれば看破されるものも看破されにくい。
「よし。では行こう」
一行が
「花子殿!今日は一郎殿と交わらなかったでござるか!」
想像と違う匂いを嗅ぎ分けられている事に苦笑すると、うんうんとアインズは首を振った。こいつは本当に賢者なのだろうか。するとフラミーがハムスケの上からひらりと降りてアインズに近付いてきた。
「花子さん、毎日一郎さんと、その、してるんですか?」
少し恥ずかしそうに問われた質問に、アインズは再びうんうんと首を振った。
「わぁ、すごい。……花子さん、恥ずかしくないんですか?」
アインズは恥ずかしいだろうなぁと思ってうんと頷いた。
「ん?恥ずかしくない?」
日本語の奇妙な性質にアインズは若干頭を悩ませてから左右に首を振った。
ミノタウロス兄弟は僅かにこちらを気にしながら、
「そうですよね。私なんて……アルベドさんにアインズさんの子供欲しがってるって言われるだけで恥ずかしくて死んじゃうかと思った。なんであんな事言われたんだろう……」
全くその通りだとアインズは思う。
「はぁ……アインズさん、私のことどう思ったかな……。変な女だって思ったかな……」
まるで恋するような発言にアインズはどきりとした。
「アインズさんっていつもアルベドさん達に迫られてて……とっても大変そうなのに、私にまでそんな目で見られてると思ったら可哀想ですよね」
なんだそんなことかと少しため息をつくと、花子より太い息にハムスケが首を傾げた。
「あら?風邪ですか?」
アインズはうんうん頷くと、落ちてる棒を拾って地面に文字を書いた。
「
久しぶりに見た笑顔にアインズが癒されていると、ゼンベルがものすごい勢いで文字に向かってスライディングした。
「おめぇ!!一郎の妻だかなんだか知らねーが、"アインズ"はまずいんじゃねぇか!?」
確かにそうだったかとアインズは思って苦笑した。
「ったくあぶねーな。フラミー様すまねぇな。こいつはまだわかってねーんだ」
ゼンベルは立ち上がり体をパンパン叩くと残っている日本語を足で全部消した。
「それにしてもお前は陛下みたいな字ぃ書くんだな。そんじゃーな」
立ち去るゼンベルを前にアインズはまずいと汗を流し始めた。フラミーが気付く前に退散しようと背を向けると、ガシッと肩を掴まれた。
「アインズ……さん……?」
「い、いえ……花子ですが……」
低い裏声が響いた。
「アインズさん!!なんてカッコでうろついてんですか!!そ、それに、わ、私、本人になんて相談を……!」
手を離すとフラミーは顔に手を当てて後ずさり始めた。アインズは幻術をパッととくと慌てて振り返った。
「あ、いや、いやいや。俺ほんとに気にしてないですから!ね!俺、なんか避けられてるなーと思って、はは。いや、ほんと!」
「もー!!二度と幻術しないでください!!誰にも何も言えなくなっちゃうじゃないですか!」
フラミーはぷりぷり怒り出して立ち去ろうとしたが、アインズはその腕をとって引き止めた。
「し、しません!しませんから……あの、もう少し一緒に遊びませんか?」
顔を赤くしたフラミーは振り返ると、黙ってうんと頷いた。
twtrに画像としてあげた時に文字の大きさが耐えられるかのチェック閑話でした。