※この作品はR-18です。

眠夢裏   作:ジッキンゲン男爵

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ウルベルト分岐物語#32取り戻す日常R18

「これで…これで良い…。」

 ウルベルトはあらゆる場所からあらゆる偽造情報を流した。

 一切の手を抜かず、出来ることは全てやった。

 これで静かに暮らせる。

 フードを目深に被った男は家へ駆けた。

 

 ようやく訪れる春に胸が躍る。

 

 マンションの階段を駆け上がり、はやる気持ちを抑えて鍵を開けた。

 真っ暗な部屋に入り、ウルベルトの枕を抱いて眠るフラミーを見ると飛び込んだ。

「フラミー!ただいま!!ただいま!!」

 ぐりぐりと顔を擦り付けた。

「…は、はゎぁ。びっくりしたぁ。おかえりなさぁい、うるべるとさん。」

 まだ寝ぼけたような様子だったが、ウルベルトを抱きしめ返す手はウルベルトの服をギュッと掴んだ。

「フラミー、全部終わったよ!俺たちこれでやっと普通に暮らせる!!」

 フラミーはそれを聞くと数度瞬いた。

「おわったの…?」

「あぁ、終わったんだよ!全部!」

「毎晩ここにいてくれるの…?」

「もう出かけない!ここは俺達の家なんだから!」

「一緒にまた寝れるの…?」

「寝るさ!寝苦しくてももう離れないからな!!」

 ウルベルトはフラミーを抱きしめると何度もキスをした。

「は…はは、はは!ウルベルトさん!!」

 フラミーもウルベルトを押し返す勢いでキスをし、二人はそのままもつれた。

 否応なく朝は訪れ、慌ててシャワーを浴びると出勤した。

 

 

「………もう慣れましたよ。慣れましたとも。」

 指をいじいじし、キスマークと若干の噛まれたような痕のあるフラミーと、首に大量のキスマークを付け、爽やかな顔をするウルベルト。

 日下部は苦労人だった。

「日下部!俺は今日から自由だ!!」

「…先生はずっと自由な男でしょうが。」

「そうじゃねぇよ!全部終わったんだ!俺は今日から夜は寝て休憩は飯を食う!」

「――え?お、終わったんですか?」

「終わった!!」

 ウルベルトの爽やかすぎる様子に、日下部は瞳を輝かせた。

「じ、じゃあ!箱が見つかったんですね!!これで世界は変わるんだ!!」

 ウルベルトは日下部のその言葉を聞くとぴたりと止まった。

「ついにこの日が来たんだ!!あぁ…待ってたんです…!俺、ずっと先生の事信じて待ってたんです!」

「――……日下部。」

「母さん、父さん。俺やっぱり宇留部先生に付いてきて良かったよ!奴らひっくり返るぞ!文香さん、先生はきっと綺麗な世界を見せてくれますよ!!」

 わぁー!と喜ぶ日下部はフラミーの手を取りぶんぶんと振った。よくわからないがウルベルトの何かが終わったことと関係のある事なんだと、フラミーも喜んだ。

「…日下部、聞いてくれ。」

「はい!何をどうしたら良いんですか!」

 日下部はフラミーの手を離し、ウルベルトに駆け寄った。

「…箱は開かれない。俺はこの期間(、、、、)何も見つけられなかった。」

「――え?で、でも先生がこの半年一生懸命やってたことは終わったんですよね…?」

「あぁ…。手ぇ抜かずにやったんだけどな…なんつーか…ちょっと的外れだったんだ。」

「…あ…。」

 日下部はがっかりした顔をすると、へへ、と困ったように笑った。

「すんません、俺少し先走りました。なんか、先生があんまり晴れやかだったから、勘違いしました。でも、これでひと段落して新婚生活やり直せるんすもんね。そりゃ晴れやかか。」

「…ごめんな。」

「いえ、すみません。はは。」

 ウルベルトは日下部の頭をぐしりと撫でると資料室に消えた。

 フラミーは首を傾げた。何かがうまく行かなかった時のウルベルトの様子ではなかったから。――むしろ、本当に何もかもがうまく行った時の彼だったはずだ。

「…文香さんもすみません。俺、本当バカだなぁ〜。」

 日下部は頭をぐしぐしと掻くと席についた。

「せんせー、文香さんに今日の予定確認してもらいますよー。」

 資料室からは「おー」と生返事が返った。フラミーはその声を聞くとハッと資料室へ目をやった。

「…私ウルベルトさん呼んできます。少し待っててください。」

「はーい。」

 フラミーは静かに資料室のドアを開け、中に入った。

「――フラミー、すぐ行くよ。少し待ってな。」

 背を向けたままそう言うウルベルトはやんごとなき資料棚の前で資料に目を落としていた。

 静かにドアを閉め、ウルベルトを抱きしめると小さな声で聞いた。

「…箱は見つかったんですね?」

 ウルベルトは静かにうなずいた。

「…箱ってなんなんですか…?」

 ウルベルトは首を振った。

 フラミーに抱き締められるウルベルトは資料をそっと戻すと、フラミーを抱きしめ返した。

 フラミーはウルベルトの背を黙って撫でた。

 

 その日から毎晩のように遊んでいたフラミーのログイン率は劇的に落ちた。

 二人はこの半年の時間を取り戻すように現実を生きた。

 

+

 

「おかしいじゃないの。」

 だだっ広い会議室のモニターに、人種問わず多くの人々が映されていた。

 その前には何人もの屈強な男達がいた。男達はその体躯と持っているスキルに似合わず、小さくなっていた。

「どうして高等偵察評価局特別情報保全二課の一二〇臨時深間事件対策班が寄ってたかって小娘一人見つけらんないの。」

 厳しく責めるような口調の老人はモニターの向こうで苛々と杖を指で叩いていた。

「はい。」

「はいじゃないでしょうよ。」

「はい…。」

 その様子を見ていた、別のモニターの老人は優しげに口を開いた。

「最近あれこれ情報が上がってるけど、もう何が嘘で何が本当かわかんないねぇ。」

 深間事件対策班はギリリと手を握りしめた。

「深間班が解散(、、)して早幾星霜。今更また深間班の歌を聞くことになるとはねぇ。」

「もはや手段は選んでおれん。無戸籍者と深間が関わったことのある者達をもう一度徹底的に洗い直しなさい。」

「はい。」

「普通警察から推薦されたやる気のある子をまた一人入れるから、普通警察とぶつかりそうな時はうまく使って。」

 高等偵察評価局特別情報保全二課は普通警察からも情報の隠蔽を行う事がある。交番勤務のような警察は特高チームに対する理解度は通常の民間人からの認識――都市伝説程度だ。

 事件を処理していて、刑事局や検察官が出てきてしまう時に、特高と普通警察を仲裁する普通警察側の人間が必要だった。そんな者を、特高は仲裁官と呼んでいる。

 現役の仲裁官はこれで三人目だ。仲裁官を卒業した警察官は出世する。いや、仲裁官を任せられるほどなのだから、元から出世コースにいる人物達ではあるのだが。

 

 新しく仲裁官になる、正義感に満ち溢れた顔をする者が部屋に入った。

 端正な顔つき、高級そうな仕立てのスーツ、経験や肉体に裏打ちされた滲み出る自信。

 

「秩序を乱す深間の箱の破壊の為にあらゆる手を尽くす事を誓います。皆様よろしくお願い致します。――どうぞ、お気軽に龍巳とお呼びください。」

 

+

 

「フラミ〜今日も料理してんの?働いた後だってのにお前ってば本当に働き者だな〜。」

 液状食料を咥え、外を駆け回っていたウルベルトは家で食事を取れる事に毎晩感動し、心を満たした。キッチンに立つフラミーを後ろから抱き締めると、髪に何度もキスした。

 激甘男は前にも増してフラミーに甘い。

「えへへぇ〜えらいでしょ〜。」

「めっちゃえらいわ〜。俺の嫁さん可愛いわ〜。」

 フラミーが作る料理は液状食料と集成食料、普通食材を組み合わせて作る、表通りに住んでいるおばあさんに教えられたものだ。

 液状食料の倍ではすまない程に食費が嵩むが満足感は非常に高い。今はしばらく人間らしく過ごしたかった。

 フラミーはようやく自分の給料の使い道を貯金以外に見付けた。

「はぁーい、味見ですよぉ。あーん。」

 ウルベルトはフラミーの差し出すものに食い付くとへらりと顔を緩めた。

「ぅんまぁ。お前って本当すごいわぁ。」

「ふふ、おばあちゃんに感謝しないと。」

「今度お前が高田のばあちゃん家行く時、俺も行くかな。世話になってばっかで悪いしな。」

 皿に煮物を盛り付けようとしているフラミーから鍋とお玉を受け取り、作業を代わった。

 盛り付けを済ませると、二人は並んで座り、鍋で炊かれた白いご飯と煮物の前でウワァ!と目を輝かせた。炊飯器は持っていない。

「「いただきまーす!」」

 ウルベルトは親が生きているうち、白い米は特別な日にしか食べたことがなかった。

 今ウルベルトは人よりも裕福だった。

 ――以前よりも人を探す仕事が増えた。

 十二月生まれの女達が消える理由を知りながら、ウルベルトは黙認し、それで金を稼ぎ、飯を食った。

 当たり前だがこの街じゃない所からも依頼は来る。

 断られがちな仕事なので、ここなら誰でも探して貰えると客足が途絶えることはなかった。今は後ろがつかえている程だ。

 この食事は人の命で出来ている。――生きて見つけられる者もいるし、相変わらず思想犯として連れて行かれた者を以前と同じように多額の賄賂を支払い解放してもらうこともあるのだが。

 ともかくウルベルトは何事もなく、以前と同じように仕事を続けた。これまでのスタンスを崩せば怪しまれるような気がしたから。

 今では箱と思想犯を分ける危険のボーダーがはっきり見えているため、まるで攻略本を見ながらゲームをするような感覚だ。探し人の生き死にも大体想像がつく。

「ウルベルトさん、あーん。」

「ん、あーん。」

 フラミーはウルベルトの口に最後の一口を詰め込むと顔を赤くしてへらりと笑った。

 この笑顔の為に――。

 ウルベルトは静かにフラミーに口付けた。

「フラミー、引っ越そうか。」

「んぇ?子供できるまでここで暮らすって言ってたのに?」

「――あぁ。アーコロジーで、綺麗な空気の中に暮らさないか?」

 それはウルベルトには本当は屈辱だった。

「アーコロジーで?」

「……どうかな?」

 フラミーは戸惑うようだった。

「アーコロジー…でも、家賃も物凄く高いらしいですし…アーコロジーで暮らしたら環境税とかたくさん払うものも増えますよ…?本当足手まといで申し訳ないんですけど…私の借金もまだまだありますし…。」

「そんなもん俺が払うよ。」

「いえ、やっぱり、どうしてもそれは違うって思うんです。あなたが払ってくれてるお給金ではあるんですけど…。」

「じゃあ、お前は自分の借金ちゃんと返すことだけ考えて、俺はお前が暮らす金用意するから。アーコロジーで暮らそう。お前の体を大事にしたいんだよ。」

 フラミーはウルベルトをじっと見た。

「――ウルベルトさんは、アーコロジーで暮らしたい?」

「…お、俺は…。」暮らしたくない。

 ウルベルトが言い淀んでいると、フラミーは笑った。

「はは、じゃあ、私も暮らしたくないです。それに、事務所はあそこにあるじゃないですか。」

 事務所の場所は変えられない。アーコロジーの中にあの広さの事務所を借りれば、それこそ家賃で破産してしまう。

 それでも――「少しでも綺麗な空気の中に暮らして、家の中に一切有害物が入らなかったら…全然違うと思うぜ。」

 アーコロジーの外に暮らしている人は家の中に多少有害物質が入る為、半分諦めてマスクを着け続けていない。もちろんマスクが酷く息苦しいのもあるが。

「フラミー、アーコロジーなら、木だって生えてるし、雨は透明だし、流れる人工河川には魚も泳いでるんだよ。」

「お魚!」

 フラミーはそれを聞くと、一瞬瞳を輝かせたがすぐに俯いた。頬を撫でるとウルベルトは優しく続けた。

「あぁ、お魚いるよ。いつか生まれる子供にはそう言う綺麗な中で育って欲しいだろ?」

 これは殺し文句だろう。しかしフラミーは悩んでいるようだった。アーコロジーは端的に言えば近所にある別世界だ。

「それはそうですけど…でも…。」

「――わかった。じゃあ、週末アーコロジー見に行ってみようぜ?な?どんな街だか見るだけ。観光。おのぼりさんしようぜ?」

「わぁ!観光!見に行くだけなら行きたいです!行きます!」

「よっしゃあ!決まりな!」

 ウルベルトはフラミーに抱きつき――人の命を吸い上げた金で、人の命を吸い上げる場所に暮らすなんて、どうかしているなと自分を嘲笑った。

 

+

 

「あぁ〜…昨日少し飲み過ぎたかな。」

 毎週金曜は三人で欠かさずサン・マロに行っている。週に一度の外食はそれでクリアーだとフラミーが言うのでその言葉に甘えていた。

 支払いは第二、第四金曜は日下部持ちだ。第一、第三は皆自分で払っている。

 ウルベルトは髭を剃りながらフゥー…と息を吐いた。

 毎朝髭を剃っている間にフラミーは着替えをする。

 早く髭を剃り終えると、たまに着替えを見る事ができる為ウルベルトはいつも大急ぎで髭を剃るが、今日はだらだらと髭を剃った。

 ――本当はアーコロジーに行くのは少しだけ気が重いのだが、ウルベルトはそう言う感情に蓋をした。

「できましたー!」

 フラミーの着替えは終わってしまったようで、裾に色々な草や花が刺繍された白いワンピースを一枚サラリと着ていた。カーテンワンピースだ。首元には夜明けの石。

 外は真夏だった。

 もうじき結婚記念日が来る。今年の元旦には付き合った記念とフラミーの誕生日祝いとして、ケーキを一緒に食べ――ウルベルトは出掛けてしまった。

 結婚記念日には何か大きな事をしてやりたいなぁとウルベルトは漠然と思った。

 

「可愛い。お前、天使だな。」

 そう言うウルベルトは黒いTシャツに、足首が見える黒いパンツだ。対照的な二人だった。

「じゃ、行くか。」

 黒のエナメルのダービーシューズに足を突っ込み、フラミーに手を伸ばす。

 フラミーも数センチのハイヒールに足を入れると、ウルベルトの手を無視して腕に引っ付いた。

「っはい!」

 嬉しそうな瞳にフッと笑い、ウルベルトは顎を持ち上げさせると口付けた。

「……ん。」

 柔らかな唇は遠慮なく触れ合え、いつでも繋がり一つになれる素晴らしい場所だ。

 舌を割り入れると、フラミーは震える唇を開き、ウルベルトを招き入れた。

「っん…、ん、ん……っはぅ…ぁ…。」

 ねっとりと舌が絡みつき、強く、弱く、口の中にある性感帯を刺激した。

「っあっあっ…んぁ…。」

 フラミーはぞくぞくと体に教え込まれたスイッチが入って行くのを感じた。

 子宮が熱くなる。ウルベルトは夜中に出掛けなくなってからは毎晩のようにフラミーを抱き、その腹や背、顔、色々なところに精をぶっ掛けた。

 中出しはクリスマス以来きちんと我慢している。

 夢中で求められたあの日の事は思い出すだけで体が火照るようだった。

「…エロくなったな、お前。」

 ウルベルトは舌を抜くと肩で息をしてとろけ切った顔をするフラミーの唇を撫でた。

「…えっちじゃ…ないもん…。」

「今相当エロい顔してるよ。…挑発しやがって。出かける気失せるだろ?」

 手は太ももを撫で上げ、ワンピースの中に滑り込んでいった。

「あっ…あうぅ…うるべるとさんこそぉ…えっちな顔してますよぉ…。お出かけしないのぉ…。」

「まぁ俺はめっちゃえっちな人だから。」

 低い声でそういうと廊下の壁にフラミーを押しつけた。

「っふぇ…。えっちなほん捨てたからえっちじゃないって前言ったのに…。」

 ウルベルトはフラミーの首筋をペロリと舐めると笑った。

「エロ本は捨てたけど、今はお前がエロいからしかたない。」

 ぞくぞくしているとウルベルトは正面からいきり立った物をフラミーの腰に押し付けた。

「やん…行きましょうよ…。シャワー浴びたりしたら遅くなるからぁ…。」

 腰が擦り付けられる。パンツの中に入ろうとする手を取り、止めようとした。

「フラミー、抵抗したらキスマーク付けるぞ。」

 夏にはとんでもない脅しだった。

「っえ!い、意地悪…!」

「好きな子に意地悪するの大好き。俺ってば小学生だから。」

 にししと笑うウルベルトは生き生きとしていて、どうしようもなかった。

 フラミーはもー!と怒ったが、パンツの中に滑り込んだ手が優しく芽を擦り始めると、否応なしに甘い声が漏れそうになった。

 耳に舌が這い、フラミーはぴくりと身を奮わせた。

「顔が赤いぜ?暑いなら脱がせてやろうか?」

 いたわるように言われると、フラミーはキッとウルベルトを睨んだ。

「っん……っ脱がない…もん!」

「ふふ、いつまでその顔でいるのか楽しみだわ。脱いでくれないなら外出しはできねぇな。掃除大変だし。ここに出すか。」

 脚の間にあった指はじっくりと侵入を始めた。

「あっ!……ふぇ…おくち…お口でしてあげるから…。」

「お口なぁ?」

 顎を持たれると唇で口を塞がれ、舌が強引に入り込んだ。プレゼンテーションするように、フラミーはウルベルトの舌をしゃぶり、先端を優しく舐め、舌の裏を刺激した。

「ッンッン…っんぁっ……んっ…はむっ…んっ…。」

「っ……ん…うま……ぃ…よ…。」

 ウルベルトは舌をねぶられ、途切れ途切れにそう言った。フラミーは一層熱烈にしゃぶり、ウルベルトは欲望をぶつけるように舌を出し入れし、足の間に収めている指でフラミーを刺激した。

「っんっん…んっう……!っはぁ!はぅ!あぁ!」

 フラミーは耐えられなくなったように震え、ウルベルトの舌を解放した。

 足の間からくちゅくちゅと音が鳴り、腰が震える。

「ねぇっ…っあ…ぁ…おくち…おくちぃ…。」

「そんなにお口が良いの?」

「ぅん…ぅん…おくちっ…おくちがいいのぉ…。」

「仕方ないな、良いよ。」

 ウルベルトは楽しげに答え、指を抜いた。

 ホッとしていると、ウルベルトはフラミーの前にしゃがみ、スカートの中に入り込むとパンツを下ろした。

「っふぇ…なんれ…?」

 にちりと愛液が糸を引き、ウルベルトは一番敏感な物を包み込む皮を剥き、舌を這わせた。

「っひゃん!!っあぁ!わたしがっ、わたしがするから!わたしがするからぁ!」

 ウルベルトは無視して前からしゃぶりつき、ちゅるちゅると音を立てた。

 フラミーは足から力が抜けないように必死に耐えた。

 すると、扉のすぐ外でガチャガチャという音が鳴った。

 隣の家のドアが開く音だ。

 今日は天気が良い。お隣さんは天気の良い日には共用廊下で電子タバコを吸っている。部屋で吸うと部屋についている空気清浄機が働き電気代がもったいない。

 フラミーはスカートの中にいるウルベルトの頭をぽんぽん、ぽんぽんと叩いた。

 ――すると、柔らかなものがほんの少し中に入り、フラミーはぞくりと震えた。

 もどかしい場所を舌が先端だけ出入りし、ぷちゅぷちゅと可愛らしい音を立てた。

 やだやだと首を振っていると、刺激は終わり、ウルベルトはスカートから顔を出した。

 実に嬉しそうだった。

 黙ったままフラミーを壁に手をつけさせると、カチャカチャとベルトを外し始め、フラミーは信じられない物を見るようにウルベルトに振り返った。

「はは、優しくしてやるから。」

「や…やだ…おくちで…するから…。」

「お口じゃお前が気持ちよくないだろ?」

「気持ちくなくていいからぁ…。」

「俺は嫌だね。お前がよがるのが見たいんだから。」

 ウルベルトは肉棒の先を数度擦り付けた。

 突起とこすれ、身をよじった。

「っあぁ……あぅ……。」

「静かにしろよ?日下部の時は――指だけなのに喘ぎすぎだったからな。」

 ウルベルトに腰を突き出させられ、フラミーは顔を真っ赤にするとギュッと目を閉じた。

「入れるよ…。」

 先端がむちりと押し当てられ、肉をかき分けてくる。

「っ――っぁ……。」

「っはぁ…あっつ……。お前の中、最高だよ…。とろけてる…。」

 ウルベルトがささやくと、フラミーの最奥はキュンキュンと高鳴った。

 ゆっくりと抽送が始まると、ぬちゅ…ぬちゅ…と粘膜がこすれる音が立った。

「静かにしろって言ってんのに…。」

「っひぅ…ひぅ…わたしじゃなぃ…わたしじゃなぃ…。」

「じゃあ誰がこんなエロい音鳴らしてんだろうな…?」

 腰を掴まれるとフラミーの弱い場所が小刻みに擦り上げられはじめた。

「っあっあっぁっ…っんぅ、んっんっ…!」

 扉一枚向こうに人がいるかもしれないのに。

 気持ちがいいのと耐えなければいけない辛さがごちゃ混ぜになって、フラミーの目尻には涙が浮かんだ。

「はぁ…かっわい…。フラミー、ここ好きだよな。もっとしてあげようか。」

 フラミーは嫌々と必死に首を振った。

 そそり立ち肉壁を穿つものはフラミーの意見も聞かずに意地悪く蠢いた。

「っんぅ!っんっん!っあ、あぁ!あ…!」

「可愛い声…でもそんなに喘いだらお隣さんに聞こえちまうだろ?」

「じゃ、じゃあ、やめっ…やめてぇ…はなれてぇ…。」

 フラミーの手が弱々しくウルベルトを押すと、ウルベルトはフラミーをギュッと抱きしめた。

「俺は頼まれても離れないよ。もう二度と。愛してる。」

 その言葉は一瞬でフラミーを恍惚とさせた。

「っんくぅ…っんぁ…すき…すきぃ…。」

 ウルベルトはそれを聞くと幸せそうに微笑み、途端に激しくピストンした。犯しつくすように、全てを愛するように。

「んっ!?んっ!っあ…あぁ…っあん!!………ん…っやぁ!」

 耐えられない嬌声が上がり、パンパンと肉同士がぶつかる音が廊下いっぱいに溢れた。

「フラミー、お前腰揺れてんじゃん…!もっともっと感じさせてやりたい…!」

 足がガクガクと震え、ウルベルトを奥へ招き入れるようにフラミーの腰は動いた。

 粘液がねっとりと太腿を伝う。

 胸を後ろから両手で包み、服の上から突起を押し込んだ。

「っきゃぅ!!らめぇ!もうらめぇ!がまんれきないよぉ!」

 フラミーはのけぞるように尻を突き出し、腰を振った。

「っはぁ…フラミー…!くっそえろい…!」

 胸をまさぐる手に力が篭りそうになる。乳を絞るようにむにりと寄せ、爪を立て服の上からカリカリと乳首に刺激を送った。

 フラミーの中はキツく締まり、快感を逃す事を諦めたように痙攣しはじめた。

「っひぁ…!いっ…!っあぁ!っあん!っやぁもう!どうしたらいいのぉ!」

 悩ましい声を聞きながら、ウルベルトはなおも狂わせようとピストンした。

「イけるか?立ったままイけるか?」

「できないよぉ!くるしい!くるしいよぉ!」

 イきやすい体勢でイかせすぎてきたせいでフラミーは苦しんだ。

「教えてやるから、少し我慢しろよ!」

 ウルベルトはフラミーの口を手で塞ぐと、二人のみだらな連結部分に手を伸ばした。

「――――ッ!!!」

 背中にぴたりとウルベルトの体がつくと、激しく芽を嬲られた。

「――ンンンン!!!」

 フラミーはガクガクと足を震わせ壁に押し付けられた。

「イきな!力抜いて、支えてやるから!」

 ウルベルトは必死に吐精を我慢し、ぐじゅぐじゅと音を立ててフラミーをきちんと絶頂まで追い込んで行く。

 フラミーはあまりの快感に、全てを忘れた。

 ズンズンと突き入れられ、ウルベルトの肉棒が出入りし、口を塞いでいた手はいつの間にかフラミーの口に入っていた。

「っあぁ!っあぁん!んぁ!んぁああ!」

 口の中に生まれてしまった性感帯まで容赦なく刺激され、今自分がどこで何人とまぐわっているのか分からなくなった頃――フラミーは達した。

 舌を出し、声も出せずに真っ白になった。

 次の瞬間体の中で熱が爆ぜた。ビュルビュルと子宮目がけて精子が注ぎ込まれた。

「――ッ――ッ――ぅっく…。」

 玄関先のめちゃくちゃな情事は終わった。

 少し萎えたウルベルトのものがぬぽんっと引き抜かれるとフラミーは小さく喘いだ。

 太腿には白い液がつたり、ぽたぽたといやらしく液を垂らした。

「はぁ…上手にイけてえらかったな……。これ…風呂入んなきゃダメか…。」

 フラミーは壁に縋るようにずるずるとしゃがみ込み――床に崩れ落ちないようにしゃがむのを手伝ってくれたウルベルトに振り返った。

「フラミー?平気か?綺麗にするぞ?」

「きぇぃに…。」

 フラミーの目の前にはべったりといやらしい液体に輝くモノがあり、朦朧とした頭で顔を寄せると、先端の切れ込みにつぅ…と舌を這わせた。

「っう…!くぁっ…!」

 イッたばかりで敏感になっているジョニーが飲み込まれて行く。

「ふらみ…!」

 足がびくりと震えてしまう。必死に吸い立てられ、皮の中まで丁寧に舌が回る。

 ジョニーが悲鳴を上げそうになると、フラミーはウルベルトの腰にすがり、顔を前後させた。

「ぁ…ぁ…ふら……ぁ…。」

 一回しかするつもりのなかったウルベルトは強制的に勃たされた。

 フラミーは何も考えずに根元の二つの膨らみまで丁寧にしゃぶり、舌を伸ばして舐った。

「っんふ…ふぁ…はむっ…。」

「はっ…ふらみ……ふらみ……。」

 ウルベルトの腰がつい前後し始めると、フラミーは正面からしゃぶった。

 口の中の快感を掘り起こされたフラミーは口の中を男根が出入りすると、感じてしまいそうだった。

「ッン…ッン……っんぶっ…はぶ…。」

 ウルベルトは吸い付くフラミーの頭を撫で、口の中を這いずり回った。

 動きが思わず早まっていき、フラミーの口は性器のようにひどい音を立てた。

 口からはだらだらと液体が溢れ、顎から滴り落ちていく。

 二度目を出すには少し足りない刺激の中、優しく頭を支えていた手はいつの間にか掴むようになり――フラミーが腰を掴む力も強まり、ウルベルトは誘導されるままにフラミーの口に打ち当てた。

「ッン!ッン!ッンン!ッン!」

 食いつき吸い上げるフラミーに罪悪感を感じながら呼吸が荒くなる。

「ふらみー?へいきか?なぁ、ふらみー?」

 顔を赤くし、見上げるフラミーは涙目で――感じているようだった。本人も戸惑っているのが手にとるように伝わってくる。

 支配欲を凄まじく刺激されると、引っ張るフラミーに任せた。

 ビクッとたまに体が震えてしまう。

 ピストンしていると、じゅぼじゅぼと音が立ち、慣れたフラミーの舌が裏筋に伸びた。

「っあ、ふっ!フラミー、出る、出るよ…!」

 フラミーは無我夢中でウルベルトの腰を引っ張った。

 それで苦しくないのか心配する気持ちがよぎるが、ウルベルトはフラミーに動きを任せたまま思い切り数度突き立て、喉の奥で恐ろしい快楽の中絶頂した。

「――っく!っあぁ!」

 ずっと欲しかった女が従順に自分を愛する姿が堪らなかった。

 びくびくとジョニーが震え、喉から引き抜くと、フラミーは咳き込んだ。

「フラミー、文香、文香、大丈夫か…?ごめんな、苦しかったな?」

「ううん…きれいにしてあげれてよかったぁ。」

 何をしていたのかどこまで分かっているのか分かっていないのか、フラミーは笑い、持っていたハンカチで一生懸命ジョニーを拭いた。

「ほんとお前のそう言うところな〜〜。」

「ふぇ…だめだった…?」

「いや、最高だった。最の高だった。」

 生まれて初めてのお掃除フェラにウルベルトは虜になったが、自分から頼むのはやめようと決めた。

「…ほら、貸しな。」

 フラミーの手から汚れたハンカチを奪い取り、フラミーの汚れた太ももや柔らかな愛くるしい場所を撫でた。

「っんぅ…ありがと…。」

 ウルベルトはハンカチを洗面所にぶん投げ、フラミーを連れて出掛けた。

 

 同い年くらいのお隣さんは二人を見ると恥ずかしそうに笑った。

 

+

 

「うーん、お前は拗ねてても可愛いな。」

 電車の中でぷくぷくと頬を膨らませるフラミーにウルベルトはニコニコしていた。

「もう廊下は禁止!!二度とダメです!!」

「えぇ〜でも我慢したらしただけ気持ちかったろ?それにお前が自分でお掃除フェラしたんじゃん。」

 フラミーは初めて聞く言葉を前にぶんぶん首を振った。

「いや!やだ!!」

「別に見せ付けてやりゃ良いのに。」

 ウルベルトがははは、と笑った頃、電車は地下に潜った。

 真っ暗になった窓ガラスに、頬を膨らませておきながらウルベルトにべったりとくっ付くフラミーが映った。

 フラミーはウルベルトの腕を抱え、手の甲を大切に撫でていた。

「…フラミー?」

「なんです?」

 不機嫌そうな声だ。

「愛してるよ。」

 フラミーは数秒で膨らましていた頬を縮め、へらりと笑った。

「わたしもぉ!」

 ウルベルトはちょろいなぁと思いながら、フラミーの頭に鼻と唇をぐりぐりと擦り付けた。

 地下に潜るとすぐに終点に着いた。

 フラミーの手を引いて電車を降り、地上に上がるとそこはアーコロジーだった。

 アーコロジーは汚い空気を大量に持ち込まないようになっている為、地上を走る電車の出入りはないし、内部を走る電車も場所を取らないように全て地下鉄だ。

 

 信じられない程に綺麗な空気に溢れ、子供がマスクをしないで走り回り、街路樹が植えられている。

 フラミーは瞳を輝かせ、ウルベルトは心の中で舌打ちした。

「じゃ、行こうぜ。」

「はい!」

 二人手を繋いで辺りをさくさくと散策した。

 フラミーは道端に咲く花を眺めたり、落ちている葉っぱを集めたりしながらアーコロジーを楽しんだ。

(…ま、誰だってここに住みたいはずだよな。)

 ウルベルトは元カノにここで暮らしたいと言われたのを思い出した。

(あいつ、俺がここで暮らすって言ったらキレんだろうな。)

 ざまぁみろと若干意地の悪い事を考えていると、公園に行き着いた。

 ウルベルトはベンチに座りスマホでこの辺りの不動産を調べた。公開されている物件情報を眺めて相場感を掴む。

 一方ただ遊びにきただけのフラミーはうわぁーと木がたくさん生え、花が咲く様子を見て回った。

 ウルベルトがあんまり遠くに行かないで欲しいなーと見ていると、少し離れたところで子供達に虫を見せられ、興味津々に手を覗き込んだ。

 ウルベルトは子供と遊ぶフラミーを見つめ、アーコロジーにはこんな生活があると思うと、悔しくなるのと同時にフラミーをここで暮らさせたいと言う思いを強めた。

 ここなら事務所までそう遠くないし、家賃も――いや、恐ろしい値段だが無理ではない。

 ウルベルトは不動産屋が近くにないか調べた。

 

「お姉ちゃんバッタ見た事ないのぉ?」「ライダーの再放送見たことねぇのー?」「たくさんいるよぉ!」

 子供はバッタを乗せた手をはい、とフラミーの前に差し出した。フラミーはテレビを持っていないし、ウルベルトもそうだ。

「…ばった…初めて見た…。皆虫詳しいんですね…。」

 バッタはしばらくフラミーと見つめ合い、ぴょんっとフラミーに向かって飛んだ。

「っキャ!」

 フラミーはとてんと尻餅をついた。

「あ!お姉ちゃん大丈夫?」「やっつけられてるー!」「あはは!だっせぇー!」

 子供はわいわいとフラミーを囲み、頭に乗ったバッタを取ってくれた。

「こら!女の子にバッタはダメだって言ったろ!」

「兄ちゃーん!だってさぁ、バッタ見たことないって言うから!」

 子供達の兄らしい男性は駆け寄ると、フラミーに手を伸ばした。

「すみません、大丈夫ですか?」

「はひぃ…び、びっくりしましたぁ。」

 男性はフラミーの手を取るとぴたりと止まった。

 そして「――え?文香ちゃん…?」

 名前を呼ばれたフラミーは聞き覚えのある声に顔を上げた。

「はぇ…?――あ、五十嵐くん…。」

 お互いが何者なのかを理解すると、五十嵐は照れ臭そうに笑った。

「文香ちゃん、お団子じゃなかったから分からなかったよ。また綺麗になったね。」

「あの、五十嵐くんも、何と言いますか…お元気そうで。」

「…まぁまぁね。文香ちゃんは元気?」

 五十嵐はフラミーを立たせたが、手を握ったまま離さなかった。

「はひ、とっても元気です。」

「兄ちゃん、友達?」

「あ、村瀬文香さんだよ。兄ちゃんが好きな人。」

「兄ちゃん好きな人いたのぉ!ひゅー!」

 子供特有のノリでヒューヒューと煽られるとフラミーは困ったように子供達を見た。

「あ、あの…この子達は…。それに…。」

「はは、夏休みでしょ。弟と、歳の離れたいとこの子供達なんだ。ほら、皆は遊んどいで。」五十嵐は弟達を追い払った。「――それで、文香ちゃんはどうしたの?このアーコロジーに来るなら連絡くれれば良かったのに。」

 フラミーは困ったように笑った。

「あ、はは…えっと、今日はちょっとお散歩に。」

「散歩かぁ。転職先はどう?うまくいってる?」

「はひ、おかげさまで。」

 五十嵐はかつて先輩がデザインしたマスクがレーンに乗ったのを工場に見に行った時にフラミーと出会った。

 社食に辿り着けず、一人で困っていた所でフラミーに声をかけられた。

 案内してもらう道中、気まずさを拭うためにデザインをいくつか見せ――「すごく素敵です。これが私達の命を守るんですね」と微笑まれてしまい、それはそれは簡単に惚れた。

 以来、本社から工場に行く用事には必ずついて行き、その度にフラミーに自分の書いたデザインを見せた。

 上には良くないと怒られる事が多い日々だったが、フラミーはどれも素敵だと言ってくれた。使いたいと。

 フラミーに素敵と言ってもらうために必死にデザインを描き――いつしか毎日工場に通うようになった。

 そしてフラミーに付き合って欲しいと毎日言い、「そんなの困っちゃいます」「おちょくらないでください」「私なんて」と断られ続けながら――レーンに詳しくなり、量産しやすいものとそうでないものを良く理解できるようになった。

 一ヶ月続けるとフラミーは熱意に折れて付き合ってくれた。

 フラミーと付き合いだし、五十嵐は初めて自分が一からデザインした物が企画を通った。

 

「文香ちゃんが辞めちゃった時、僕のせいかなってちょっと気にしたんだ。元気そうで本当によかったよ。」

「そんな、工場より家が近くて条件の良いところをたまたま見付けたから転職しただけですよ。気にしないで。」

 フラミーは握られ続ける手を引いた。が、やはり離されなかった。

「あの、五十嵐くん…困ります…。」

「はは、それ、昔みたいだね。」

「困るんですもん…。離して下さい…。」

「文香ちゃん…僕、あの時はまだ子供だったから…尻込みしちゃったけど…やり直せないかな…。」

「ごめんなさい。私、もう――」

「文香ちゃん。あれからずっと文香ちゃんの事忘れらんないんだ。でも、振ったくせに何なんだって思われるのが怖くて連絡できなかった。文香ちゃん、僕、今も君が――」

「文香、こちらは?」

「え?」

 フラミーは背中から馴染みの温かさにふわりと包まれるとぱっと顔を明るくした。

「あなた!こちらは五十嵐くんって言う、昔お世話になった人です。」

「あぁ、五十嵐君。五十嵐君ね。お前のマスクの。五十嵐さん、悪いですけど、うちの妻の事は諦めてください。」

 ウルベルトは淡々とフラミーの手から五十嵐の手を外した。

「つ、え?文香ちゃん…結婚したの…?」

「はひ、去年の九月に。だから、ごめんなさい。」

 フラミーは左手の薬指に光る二つ重ねて着けられた指輪を見せ、ぺこりと頭を下げた。

「…し…知らなかった…。」

「文香、連絡しなかったのか?不義理だろう。」

「えっと、工場の皆さんにはご報告したんですけど、五十嵐くんとは…もう三年は連絡取ってなかったから…。ごめんなさい、五十嵐くん。」

 結婚した二一三六年の九月時点では、二一三四年から連絡を取っていないので、まだ音信不通期間は二年だったが――振られた元カレにわざわざ結婚報告する方が変わっているかも知れない。

 

「すみませんね、五十嵐さん。ちゃんと連絡させなくて。」

「……い、いえ…。そっか…。文香ちゃん…結婚か…。」五十嵐は後悔するような顔でフラミーを見た。「なんか…しっかりしてそうな人だね…。大人っていうか。」

「はは、主人にはいつも何でも頼りっきりで…。私、相変わらずへなちょこだから。」

 フラミーが指をツンツン合わせていると、ウルベルトはフラミーの頭にポンと手を置き、その頭に口付けた。

「文香、お前は賢い子だよ。お利口さんだっていつも言ってるだろ?」

「えへへ、そんな風に言ってくれるの、あなたくらいです。」

「そんな事ないさ。お前はいつでも――いや、大抵は賢明だ。」

「あぅ…大抵…。」

 五十嵐はフラミーの拗ねたり笑ったり幸せに目を細めたりする様子に、そんな顔もするんだなぁと不器用な笑顔を作った。

「――じゃ、文香。そろそろ行こう。」

「あ、はい!じゃあ、五十嵐くん。またどこかで。」

「…そうだね。文香ちゃん、旦那さんが良いって言ってくれたら今度またお茶でもしよう。」

 フラミーはチラリとウルベルトを見上げた。

「お前が行きたかったら行って良いんだよ。さ、行くぞ。」

 くんっと手を引っ張られると、フラミーはウルベルトの腕にくっ付いた。

 五十嵐は負けたと思った。器量のある大人の男の余裕のような物を見せつけられた。

 小さくなっていく背に、最後のささやかな抵抗を浴びせる。

「文香ちゃん!メッセージ送るよ!結婚、おめでとう!」

 フラミーは幸せそうに手を振った。

「……もっと早くメッセージすればよかった…。」

 五十嵐はぽつりと呟くとスマホを取り出し、消せずに残し続けて来たフラミーの連絡先を眺め――二人で撮った、フラミーが恥ずかしそうにする写真をついに消した。

 

 

 フラミーはポケットに手を突っ込んでいるウルベルトの腕にひっ付いて歩いた。

「何だかちょっとスッキリしました!結婚報告って、二度と会わないと思ってる人にもした方が良いんですね〜!」

 あはは〜とフラミーが笑うと、ウルベルトは前を見たまま立ち止まり、呟いた。

「俺は…今…猛烈に嫉妬してる。」

「ありゃ?全然そんな風に見えないのに。」

「…お前が下らない男と結婚したと思われるのが嫌で我慢した。年下くさい男の前でみっともなく嫉妬してるの見せらんねぇし…。」

 ウルベルトの顔はどんどん赤くなっていき、腕を取るフラミーに向けられた視線は悔しそうな切なそうな、やりきれない、余裕のよの字もないようなものだった。

「フラミー、俺はお前の夫として何点だった?」

「百点満点の一億点でした!!」

 フラミーはすぐに返した。

「…まじ?」

「まじです!すごく大人でした!」

「…俺五十嵐に勝った?」

「大勝利です!!」

 ウルベルトはそれを聞くとやっと破顔した。

「良かった。最初にお前の手が握られてるところ見た時、あいつの腕捻り上げてやろうかと思った。」

「我慢してえらいです!」

「ありがと。…でも、フラミー。どうして俺をすぐに呼んでくれなかったんだよ…。」

 ウルベルトは往来のど真ん中でフラミーの唇に触れた。

「お前のここの感触知ってる男が…お前にまた触ったなんて…。」

「あぅ…ごめんなたい…。迷惑かけちゃうと思って…自分で解決できると思って…。」

「お前に関わる事は全部俺の事と同じなんだから…次からは俺を呼べ…。ウルベルトさんでも、透さんでも、師匠でも、宇留部先生でも、なんでも許すから…俺を呼んでくれ…。」

「わかりました。えへへ、嬉しいです。」

 ウルベルトはフラミーの唇をむにむにと押すのをやめると、顔を寄せた。

 チュッと唇が触れ、離れる。

「――はわ…。」

 フラミーは顔を赤くして手で口元を隠した。

「帰ったら、上書きのために一晩中キスするから…。」

「で、でも五十嵐君としたキスは、そんなもんキスじゃないって…。」

「そうだよ、そんなもんキスじゃない。だからあいつとキスしたとか言うな。俺はダサい男だから認めない。」

 ウルベルトは苦い嫉妬を噛み潰し、胸を痛くした。自分は三人の元カノの他に、付き合いもせずに酔った勢いで抱いた女も含めて五人と寝たことがあるくせに。

「ウルベルトさんはいつだって大人でカッコいいです!ダサかったことなんて一回もないです!」

 フラミーは歩き出したウルベルトの腕に掴まった。

「……大人のフリしてるだけだっつーの。」

 

 二人はその後いくつか街を見て回り、ウルベルトは不動産屋の前で張り出されてる募集の紙を眺め、帰った。

 

 その夜は何時間もキスだけをした。

 フラミーはしばらくキスを嫌がった。




ウルベルトさん、えらぁい!
やっと新婚生活だね、満喫してていいですわぞ

明日の分かけてないわねぇ!
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