「それでね、今日から高校生の問題集始めてみたんですよぉ!」
『まじ?もうお前の方が俺よりよっぽど賢いんじゃないの。帰ってくる頃には俺偉そうにできねぇな。』
今日もウルベルトとの電話にフラミーは笑った。
隣でコネクターのコードをごちゃごちゃといじっているたっちも穏やかな日々に微笑んだ。
四月から暮らし始めたこの家ももう一ヶ月過ごしている。
世界は五月。梅雨到来で、アーコロジーの外と中の天気が合う日にしか電話はさせて貰えないが、二日に一度は電話していた。
「ふふ、昼には先生に少し電話させて貰いました!」
今日は休みなので昼間からたっちは秘密基地にいた。
『え?朱雀さん?俺以外にも電話掛けていいとか太っ腹な奴じゃん。お礼言っといて。』
「ですって!」
たっちはうんうんと微笑んで頷いた。
ウルベルトとの関係はこれまでで一番良い。
家庭環境もすっかり再び落ち着いた。
もちろん、仕事が終わった後にあれこれと調べに行き、ここに立ち寄り、その後帰るたっちの帰宅時間は決して早いとは言えない。
それでも、流石に仕事で帰宅が遅いたっちを責めるほど妻も不寛容ではない。
前は家出少年などを連れて帰ったり、職場の上司を接待する為に家で飲んだりしていたのが減り、妻は仕事が忙しいのも悪くないなんて笑ったりする。
給料はたっちのスマホに振り込まれるし、ここの家賃をどうこう言われたりはしない。いつもと同じように家に金も入れ、きちんと働いている。
近くで張り込みをしているために他所のマンションを出入りしなきゃならないともハッキリ告げてある為、怪しい二重生活を疑われる心配もなかった。ここからフラミーが出ることもないのでたっち一人が何か半端な時間に出入りしているとしか思われない。
たっちは床に座るフラミーの後ろに座ると、そっと髪の毛を避けた。
「っん…。試すの…?」
『…ん?』
たっちはうなずくと、首に巻きつく枷を外し、コネクターから抜いた。
「っあぅ…。はぁ…と、とれた…。」
『……なにが?』
「くびわぁ。」
『…そんなもん着けられてんのか?』
たっちはミュートボタンを押した。
「いけませんよ。これは警察しか使ってないんですから、細かく言わないで下さい。少しコネクター、試しますね。」
「はぁい。」
ミュートを解除するとたっちはいじっていたコードを手にフラミーの首を覗き込んだ。
『縛られたりしてないって言ってたけど、繋がれてるのか?』
「うーん、そんなところです。でも家の中は自由に――っあ、き、きつい…。」
『きつい?』
新しくまた作ってみた端子はもう少しで入りそうだった。フラミーの首を支え、少し力を入れて押し込んでみた。
「っあぅ!きついです!はいんない!それ入んないよ!やめてぇ!」
『は、は!?おま、おい!!そこのお前!!何して――!!』
今回作成した端子もダメだった。そして、これは少し誤解を呼んだかとたっちはぽりぽりと頬を掻いた。
ダメだったコネクターを入れている箱にはすでに四本の駄作が入れられている。
「あぅ…大丈夫…。っ――あん!」
首輪を付け、締め直すとたっちは頭を下げてフラミーの向かいのソファに座った。
今回の失敗作の端子と、写真を取っておいてあるフラミーのコネクター内部とを眺め、何が悪かったのかなぁと分析タイムに入った。
『おい、大丈夫なのか?文香?文香?』
「平気です、首輪付け直したら少しキツかったみたい…。」
『…なぁ、おまえ…夜とか付き合わされてんのか…?』
それを聞くとたっちはむせ掛け、口を押さえるとミュートを押した。
しばらくゴホゴホとむせていると、フラミーが背をさすりに来てくれた。
「す、すみません…。こちらが分からない以上そう思われても仕方がないですが、改めて尋ねられて少し驚きました。ウルベルトさんにご心配なくと伝えてください。」
「はは、任せてくださぁい!」
『文香?文香?』
心配そうにしているウルベルトに悪いなぁと思いながらたっちは息を整えた。
ミュートが解除されると、フラミーは明るく告げた。
「ウルベルトさん、ご心配なくですよ!」
『………そう…?』
「はい!私、何不自由なく過ごしてます!」
『…はは、お前、もうこっち帰って来るより良かったりして。』
「いえ!私はいつかきっと帰って
箱と言うとミュートにされる為、すっかり葛籠だった。
たっちは息が整うと新品のコネクターコードを取り出し、パチンっとコネクター部分を切り落とした。
(そもそもこのコネクターコードじゃダメなんだろうか…。)
当たり前だが箱を壊されたくないフラミーは非協力的だ。
手伝ってほしいと言うとウルベルトさんちに行けば鍵があると言い、帰ろう帰ろうと大騒ぎだ。
フラミーはたっちを毎日のように箱を開けようと説得した。そうすると、逆にたっちも箱を壊そうと説得する。
一生懸命やっていると、ブブッと個人スマホが揺れた。
何かなと確認すると、みっちゃんが「パパがんばってね」と書いた絵を持っている写真が届いた。
(…頑張るよ。みっちゃんの未来の為にも。よーし、パパ頑張っちゃうぞぉ!)
たっちは夢中でコネクターコードを剥いて分解して行った。
「あぁ…フラミーにおかしな真似されてる気がする…。くそ…くそっ…くそぉ…。」
電話が切れると宇留部はソファでじたばたした。
「胸見られただけで泣いちゃう文香さんがあのトーンで何もされてないって言ってるんだから大丈夫ですよ。」
今日も今日とて日下部は隣で会話を聞き速記係だ。
「うーん、それにしてもどこにいるのか本当に分かりませんね。今日も雨か…。」
「向こうも雨の音してたな…。」
二人は窓の外に視線を投げため息を吐いた。
「近所なんでしょうか…?」
「…もしくは天気が同じ日に掛けてるかだな。これで相手と天気が違えばすぐに地域が絞られる。」
「相手も中々ですよね。箱に関わる人らってやっぱ警戒心尋常じゃないっすよ…。はー。行き詰まってんなぁ…。」
「…気分が落ちるし、サン・マロでも行くか。」
宇留部がぐずぐず起き上がると日下部はうなずいた。
「そっすね。昼からやりますか。せっかく休みですし。」
二人はもそもそと適当な服に着替え、傘とマスクとスマホを持つと出かけた。
サン・マロに着くとまだランチ営業中で雰囲気がいつもと違った。
「いらっしゃいませー、――あ、宇留部さんと日下部くん。昼間に来るなんて珍しいですね。文香さんは相変わらず里帰りですか?」
宇留部は頷くと定位置に他のお客が座っている為仕方なくいつもと違うところに座った。
「そーなんだよ。あぁ〜文香ぁ〜。禁断症状だよ〜。」
「大丈夫っすか?まだ飲んでないのに泥酔してる…。」
「はは、宇留部さんのこんな一面初めて見ました。」
「見るなよぉ…。」
来ておいて見るなとは。マスターは笑った。
「飲みますか?食べますか?」
日下部はランチのメニューをマスターから受け取った。
一ページしかない為すぐに決まった。
「…俺、クラブハウスサンドイッチで。あと、いつもの赤いやつお願いします。」
「コーヒー付いてますけど、いかがですか?」
「あ、じゃあそれも食後にお願いします。ほら、宇留部さん何にしますか。俺が出しますよ。」
日下部にメニューを渡されると宇留部は唸りながらそれを眺めた
「あぁ〜おれは〜…――ちーずけーき…あと…七度の柚子の甘酸っぱいやつ。」
「え?そんな選択肢すか?」
日下部はあまりにも意外なチョイスに大丈夫かと宇留部を見た。
フラミーと過ごした結婚記念日を思い出すと宇留部は途端に弱気になり、次の結婚記念日は一緒に過ごせるだろうかと泣けた。
机に肘をついて、両手で顔を覆うと「あぁ〜」と漏らした。
「…宇留部さん、大丈夫ですよ。文香さんはすぐ帰ってきます。」
その様子に、マスターは里帰りは里帰りでも、家出かぁと遠い目をした。理由が気になるが聞かないでおいた方が良さそうだ。
「宇留部さん、それだけじゃ足りないでしょう。この液食、僕からの奢りです。」
可哀想な友人にマスターは液状食料をまず差し出した。
「うぅ…ありがと…ますたー…。」
たっちが分解したコネクターを一生懸命いじくる横で、買って来てもらった海のカレンダーを眺めていると、フラミーは少しむくれた。
またスマホを没収された。
もう慣れたが、本当に勉強と読書、カレンダー日記を振り返るくらいしかする事がない。カレンダー日記にも似たようなことばかり書かれている。
風呂にも持ち込める防水のポータブルテレビも置いてくれているが、テレビはまるで見なかったし、風呂に湯を張ることもなかった。
たっちはこの線がいらないのかなぁ…と呟いている。
「えーい!」
「――っあ!」
フラミーはたっちからコードを奪い取ると立ち上がった。
「こら、返しなさい!フラミーさん。」
テーブルに手をついて立ち上がったお巡りさんに、ベッと舌を出した。
「やです!箱は開けます!」
「まぁだそんなこと言ってぇ。返しなさい!」
たっちはぷんっと腰に手を当て、片手を差し出した。
フラミーがそれを無視していると、テーブルを回り込んでこようとし、反対側へ行った。
「やですもん!」
「返して!みっちゃんじゃないんだから!」
フラミーはベッと舌を出すと、返せ返せと手を出すたっちから逃れた。
テーブルの周りをぐるぐる回り、クッションをたっちに投げつけ――たっちは投げられたクッションを抱え、二人はぷっと吹き出した。
「はは、もー!あなたって人は本当に!」
「あー!たっちさん、モモンガさんみたいな言い方です!」
「ふふ。フラミーさん、あなたって人は本当に困った人ですねぇ!俺の方が少しお兄さんですよ!」
「ははは!モモンガさんだ!モモンガさんモモンガさん!」
きゃいきゃいと笑い合っていると――「隙あり!」
たっちはフラミーにクッションを投げ、顔にバフっと当てると手首を掴んでケーブルを取り返した。
「っふぁ!ひ、卑怯ですよぉ!」
「ふふ、甘いですよぉ?本官から窃盗しようなんて――」
そう言いながらみっちゃんにするようにフラミーの背に手を回して抱き寄せ、ほっぺを左右から挟むようにとつまむと、薄暗くなりはじめた部屋で二人は硬直した。
「は、ひ…。」「あ…ぇ…。」
たっちはフラミーを見下ろしたまま数度瞬いた。
フラミーは驚いた顔をし、丸々とした目でたっちを捉え――みっちゃんのように柔らかくきめ細かい肌をしていた。
「――っは、す、すみません。なんだか、みっちゃんと遊んでる気分になってました。」
たっちは慌ててフラミーを離し、両手を上げて後ずさった。
「あ、あの…すみません。私も…おふざけが過ぎました…。」
二人の間を気まずい沈黙が流れるとたっちはそのまま刺激しないように後退り、鞄とジャケットを持った。
「じ、じゃあ。私は今日はこれで。また明日、夜に来ます。すみませんでした。」
「い、いえ…。」
たっちは逃げるように部屋を後にした。
駆け足でマンションを出て行き、半地下の駐車場に着くと車に乗り込みバタンっと扉を閉めた。
「……あぁ…なんかやってしまったな…。」
はぁ〜とため息を吐き髪を後ろに送ると車を出した。
家に帰ると、みっちゃんが飛びついて来て、たっちは抱き上げた。
「ぱぱー!おかえりなさぁい!」
「おかえりなさい、お休みなのに大変ね。」
「いや、二人の世界を守る為なら頑張れるよ。」
「ふふ、次はどんなお話にハマってるんだか。」
「ねー!ぱぱ、明日はおでかけするんでしょー!」
「ん、そうだね。夜はまたお仕事に行くけど、夕方まではみっちゃんと遊べるよ。」
妻は楽しげに笑うとたっちの鞄を受け取り、たっちはセミのようにひっついているみっちゃんを抱いたままリビングに入った。
みっちゃんのほっぺをむにりと左右からはさむと、フラミーのほっぺの様に柔らかかった。
「雨、雨、雨。ざあざあざあ。」
フラミーは床に座り、窓辺に頬杖を付くとつまらなげに窓の外を眺めた。
六月に入り、雨は週に二度程度まで減った。
それはアーコロジーの外も同様で、中と外の天気がかぶらない事がままある。今日もそんな日で、電話を許されない。
たっちはトライアンドエラーを繰り返し、フラミーのコネクターにぴたりとハマる端子の制作に成功した。
ただ、どのコードがどこと繋がれば良いのか、何のコードなら繋がるのか分からず、部屋には大量のコードが置かれている。
テーブルの上には朱雀直伝のフラミーが煎れた二人分のお茶がふんわりと湯気を立ち昇らせていた。
「…ふむ、これで試して見るか。」
フラミーはカラカラ…と窓を開けると、ほんの少しさやさやと顔にかかるしぶきに目を閉じた。甘くすら感じる。
「…綺麗な雨。」
ここに来てもう二ヶ月。お互い壊すの開くのと説得を続けたが、相変わらず平行線を辿っている。
フラミーは王子様――ウルベルトが自分を迎えに来る日を夢想して過ごすことが増えた。そうして箱を開いて、世界は綺麗になり、ウルベルトは幸せに一生暮らすのだ。
「フラミーさん、試してもいいですか?」
「――でもこれは本当の雨じゃない。」
フラミーがたっちを無視して顔にかかる雨を感じていると、頭にタオルを乗せられた。
「もーびしょびしょじゃないですか。」
軽く拭かれるとフラミーはぷいっと顔を背けた。
「やめてください、子供じゃないです。今はお顔が濡れてる方が気持ちいいんです。」
「みっちゃんみたいな事言わないで。働いてください。」
「私のお仕事じゃないですもん。」
「鼻がなくなりますよ。顔引っ込めて。」
真後ろに膝を着いたたっちが窓枠に手をついて窓を閉めると、フラミーは顔を引っ込め――背がたっちにわずかに触れた。
娘認定されてしまってからは少し距離が近い気がする。
長くなり過ぎた髪を避けられるとカチリと首の後ろが開かれ、覗かれた。
「どれどれ…。」
端子はぴたりとハマるが――パソコンと繋いでもうんともすんとも言わない。
「――またダメかぁ。」
一本づつ足したり減らしたりを繰り返し、正解のコードの組み合わせにたどり着くには一体何年かかるのか想像もつかない。
プツッとフラミーからコードを抜くと、たっちはフラミーの後ろに座ると首の後ろを覗きライトを当てた。
「…お電話したい。」
「雨が止むまで待ってくださいね。今日は十九時に止みます。」
フラミーは頬を膨らまし、再び窓を開けた。
「もっと早く止むかも。」
「見ていたって止みませんよ。十九時は十九時です。」
アーコロジーの天気は人の手によって調整されている。
「ほら、あと数分で南西から風が吹き始めるんですから、吹き込んだら面倒でしょう。もうだいぶ角度がこっち向いて来てる。」
「何があるか全部分かる世界なんてつまんない。私、ウルベルトさんとお外で暮らしてて、毎日毎日お気に入りの本のページをめくるみたいにワクワクしてました。」
フラミーがそう言うのを聞き流しながらたっちは再び窓を閉めた。
「アーコロジーだって、良いところですよ。」
「…ここは全部が偽物。」
「でも、ウルベルトさんはアーコロジーに暮らそうとしたでしょう。」
それを聞くとフラミーは小さく尋ねた。
「ウルベルトさんに聞きました…?」
「いえ、特高の資料の中にウルベルトさんから押収した移動履歴と物件の検索履歴とかがあっ――」
フラミーはライトで首を照らしていたたっちに掴みかかると馬乗りになり押し倒した。
「何で!!ここにいれば透さんに特高送らないって言ったくせに!!嘘つき!!許さない!!友達だと思ってたのに!!」
目からぽろぽろ涙が落ちていくとたっちはハハ、と困ったように笑った。
「私たちは友達ですよ。今言ったのは、去年の九月に押収された情報です。私がフラミーさんと約束をしたのは今年の四月でしょう。この情報でかなりウルベルトさんは救われています。」
「っはぇ…。」
たっちはフラミーが襟を掴む手を外させた。
「フラミーさんはやっぱり、思ったよりアクティブですよね。はは。」
「わたし…あの…ごめんなさい…。」
「良いですよ。少し言葉が足りませんでした。こちらも誤解させてすみませんでした。」
たっちはもぞもぞと上体を起こすと自らにまたがるフラミーの涙を拭いた。
甘いものを落としてしまった子供のような、恋人を亡くした女性のような、不思議な切ない目を向けられる。
「フラミーさん、ずっと家にいて気持ちが参ってますね。また新しい服を買って来ましょう。」
「お外にも出ないのに…もう十分です…。」
フラミーは頭を下げるとたっちから降りた。
着たこともない高価な服に高価な化粧品。色々与えられたが、胸を躍らせるのはウルベルトとの電話だけだった。
「…じゃあ、今からドライブでも行きますか?」
「…お外出ていいの…?」
「車からは下ろしてあげませんけど…。」
「行きたい。」
「じゃあ、行きましょう。」
フラミーは頷くと立ち上がった。
「暑いと思いますけど、首の枷が丸見えにならないように――」たっちはハンカチを取り出し、三角に折るとフラミーに掛けて結んだ。「こうしておきましょう。」
結び目はギリギリだった。
「悪者です…。」
「私は世界を破壊させない正義の味方ですよ。」
苦笑するとフラミーの手を取った。
地下駐車場に出ると、フラミーを後部座席に乗せ、たっちは運転席に乗った。
「窓少し開けますね。」
「はい!」
フラミーは窓に張り付くようにした。
「シートベルトしてくださいよ?」
「はぁーい!」
「はは、もっと早く連れ出してあげれば良かったですね。すみません。」
「いえ!嬉しいです!これでたっちさんに暴力振るわないで済みそう!」
「怖い怖い。」
たっちは車を出すと、二時間程度走らせ、アーコロジーのあちらこちらを見せた。
雨が上がったが、たっちは窓を一度閉めた。
「――ウルベルトさん見に行きましょうか。」
フラミーはハッとたっちを見た。
「い、いく…。」
窓とドアのロックが確かなことを確認するとたっちはアーコロジーの外へ向かった。
もはや道も覚えている。
宇留部探偵事務所に着くと――今日は休日だというのに電気が付いていた。
フラミーはぴたりと窓に張り付いて建物を見上げた。
「……あなた…。あなた……。」
縋るように繰り返す言葉にたっちは微笑み、ウルベルトの事務所を見上げた。
(ウルベルトさん、愛されていますね。)
ふと事務所の扉が開いた。
依頼者らしき人が頭を下げ、階段を降りていき――ウルベルトは深く頭を下げため息を吐いた。
扉はすぐに閉まり、窓からウルベルトと日下部が見えると二人帰り支度を始めたのか事務所内をウロウロした。
窓からちらりとウルベルトが赤い鯛焼きを抱くのが見えた。
「…電話しますか?」
たっちにスマホを渡されるとフラミーは飛びつくように受け取った。
すぐに電話をかけ――『文香!良かったー電車に乗っちまう前で。はは、今日は何して過ごしたんだ?』
そう言うウルベルトの表情は嬉しそうで日下部が慌てて手帳を取り出したのが見えた。
――手掛かりを探してくれている。
「あなた…あなた…。」
『ど、どうした?何か嫌な事あったのか?』
二階の窓に見えるウルベルトは心配そうにした。
「…ねぇ…すき…?」
『好きだよ、愛してる。』
「帰れない私を…いつまで好きでいてくれる…?」
『いつまでだって愛してるよ。覚えてるか?二年半前の元旦。お前と屋上で話した事。』
「屋上…。」
二人で生きると決めた時だ。
『はは、なんだよ。忘れたのか?俺、きっと死ぬまでお前を好きだと思うって、言ったろ。今も変わらないよ。死ぬまでお前を好きでいるから。文香。怖くないよ。』
日下部は少し照れ臭そうな顔をしながら、一生懸命手帳に書き留めた。
「うん…私も…死んでもあなたのこと好き…愛してる……。」
『…ありがとう。』
ウルベルトがフラミーのデスクに座り見えなくなると、フラミーはいやいやと首を振った。
「座らないで…。」
たっちはいつでも死角に入れるようにしていた車を出した。
『座らな――なに!?フラミー!?フラミー!!』
ウルベルトがガタガタと音を立てる中、たっちは車を走らせ、正面を見たまま後部座席に片手を伸ばした。
フラミーはたっちの手に携帯を返し、たっちは電話を切った。
「…偉かったですね。」
「ごめんなさい…私、つい…。明日は、もう電話しちゃダメ…?」
「そんな事ないですよ。また明日電話してください。今日は秘密基地に帰りましょう。」
ウルベルトは窓から慌てて外を見たが、何もなかった。しかし、居ても立ってもいられず、事務所を飛び出し慌てて階段を降りた。
左右を見て、やはり何もないことを見ると手をぎゅっと握りしめた。
「――やられた…!」
やられたorz
次回#42お前か
ふぅ…やっとお迎えか…