ウルベルトとたっちは空を呆然と見上げた。
それはまるでフラミーから光が吹き上がった――ように見えた。
晴れることのない雲に輝きが迸り、衛星から空を埋め尽くす程に大量の情報が映し出された。
「これが…これが箱の力…!!」
「世界を変える…呪われた箱…。」
――ふと、パソコンを抱きしめるフラミーの体がグラリと崩れるように動き、よろよろと苦しげに動いた。たっちを抑え付けていたウルベルトは走った。
「文香!!」
何の躊躇いもなく海に駆け込む。
靴や服がジュッと一瞬音を立て、肌に刺すような刺激が駆けた。
「ッグ――!」
倒れてしまいそうなフラミーを何とか抱きとめると海からザブザブと上がり――浜に倒れ込んだ。
「いっ――てぇ…!!」
このわずかな時間浸かっただけで肌が火傷するようだった。
「ふ…ふみ…文香!文香!」
「とぉ……さ……。」
フラミーは朦朧としていた。
ニューロン・ナノ・インターフェイス内でナノマシーンを大量に利用し過ぎたようだった。
ナノマシーンは維持のため無痛注射で体内に取り入れる必要がある。ユグドラシル中などに脳内ナノマシーンの脳外排出量が八割を超えると警告メッセージが表示され、場合によっては強制排除される。
――しかし、箱は止まらなかった。
もはやパソコンと繋がれているコネクターを抜いてしまうかと思うが、いつ箱の開示が終わるのか分からず、抜くことができない。
フラミーの真っ青な顔を両手で包むウルベルトの胸は嫌な動機で揺れ続けた。
「ッ文香!!び、病院!!」
ウルベルトが顔を上げるとたっちが駆け寄った。
「車の救急セットにナノマシーン注射があります!!」
「てめぇの手なんか誰が――」借りるかと言いたかったが、ウルベルトは言葉を飲み込んだ。
「――た、頼む…!」
たっちが車へ駆け戻っていく中、ウルベルトはフラミーを抱きしめて震えた。
あまりにも久しぶりのフラミーの感触はウルベルトの胸から愛しさを爆発させるには十分だった。
「文香、文香…!」
「とぉるさん…。」
細い声がウルベルトの
「これでせかいは…きれいになるの…。」
「なるよ、お前の望んだ世界が来るんだよ!」
慌てて起き上がり、座るとフラミーに空を見せるように体の向きを変えてやった。
「見えるか…見えるか文香…!」
そこにはあまりにも自分勝手な全てが映され、流れていた。なんと傲慢で汚い世界――――。
「……きれい…。」
フラミーは空を見上げると笑った。ウルベルトはフラミーの瞳に映る空を覗き込んだ。
「――あぁ、綺麗だ。すごく綺麗だ…!」
「とぉるさん…うれしい…?」
「嬉しいよ…!ありがとう、ありがとう…!!」
「はは…よかったぁ…。ああ…かみさま…とおるさん…ありがとう…。わたしの…あいする人の…願いをかなえてくれて…。とおるさんの願いを…かなえてくれて…。」
「っく……うぅ…文香…愛してるよ……。」
ウルベルトが抱き締めていると、フラミーは少し動いた。
「わたしもぉ。はぁ…きすして…。あなたの教えてくれた…ほんとの…。」
何の躊躇いもなくウルベルトはキスした。
柔らかな唇と触れ合い、一つに戻るようだった。
世界の記憶を映し出す空に照らされキスする中、駆け戻る足音がした。
「菫さん!!」
ウルベルトが舌を抜くと「…たっちさん…。」と名が口から漏れる。ウルベルトは腕の力を強めた。
たっちは二人のすぐ側に膝をつくと真四角の判子のような形をした注射器のキャップをはずし、フラミーの腕を取った。
それをそっと腕に当て、暫しの時間を過ごした。
少しづつ顔色が良くなっていくと――フラミーの顔は苦痛に歪んだ。
「っんっ…っぅぁ…ぅ……!」
「ふ、文香…!痛むのか!」
フラミーの晒された足はボロボロだった。
「ウルベルトさん、これを抑えて!」
無痛注射を抑えさせられていると、たっちは鞄から非常用水を取り出し、その足にかけた。
「っあぁ!!」
「文香!!おい、たっち!!もう少し丁寧にやりやがれ!!」
「分かってます!!」
ウルベルトが睨みつけたたっちの目には涙が浮かんで、言うことを聞かないと言うような手は震えていた。
「…た、たっち…。」
砂と汚染水を落とし、消毒と痛み止めのスプレーをカラカラと振った。
フラミーの足首にそれを掛けていると、ウゥーとパトカーのサイレンが聞こえ出した。
海辺に続く道の向こうから大量の赤い点滅が近付いて来るのが見えた。
「――っくそ!!来たか!!」
「流石にこれだけ派手な発信源を見つけられない程警察も無能じゃありませんね…。だから、こんな物開けるのはやめようと言ったのに…!」
責めるような声音につい不快感を覚えてしまう。
黙々とフラミーの足の処置を続けると、たっちは立ち上がった。
ウルベルトはどこへどう逃げればと必死に考えを巡らせた。
「――何をしているんですか。行きましょう。」
「い、行くって…おまえ…。」
「箱の効果は私達の想像の数倍に及びます。あれを見てください。すぐに瓦解は始まる。しかし、瓦解が済むまでは身を隠さなくてはいけません。逃げましょう。」
「お前、助けてくれるのか…?」
「困っている人を助けるのは当たり前です。それが――友人なら尚更。箱はもう開かれてしまった。私達がぐずぐず言い合いを続ける理由もありません。」
ウルベルトの胸の中でぐったりするフラミーをたっちが抱き上げようと手を伸ばすと、ウルベルトは大人しくフラミーを任せた。
「走りましょう。」
「わかった。」
自分より余程体力も力もあるたっちに任せた方が良い。
二人はたっちの車に急いだ。
後部座席に痛みに喘ぐフラミーを乗せ、ウルベルトも乗り込むと車は出た。
「はぁ…どこへ向かえば良いんでしょう…。追って来るよな…。」
たっちは迫る仲間の表示をちらりと見るとアクセルを踏んだ。
荒い息を吐き続けるフラミーは揺れで痛むのか少し声を上げた。ウルベルトは絆創膏の貼られている額を優しく撫でた。
「文香、少しの我慢だよ…。」
「っはぁ…はぁ…おねがい…おろして…。」
その主張に二人は同時に「「なぜ」」と尋ねた。
「わたし…覚悟してきたから…へいき…。わたしを置いて…ふたりは逃げて…。」
「ば、馬鹿!!箱は二人で開くって言っただろ!!」
「とぉるさん…私、あなたの未来のために…開いたの…。あなたの幸せが…私の幸せ…。幸せなあなただけが欲しい…。」
「俺はもう幸せだから!お前といられる事が幸せだから!!」
フラミーはほぅ…と息を吐き、笑った。
「おろして…。捨て置いて…。」
「文香、聞いてくれ…。俺はお前のいないこの四ヶ月…毎日苦しくて…まるで空気のない世界に放り込まれたみたいだった…。お前と電話する時間だけが空気のある世界だった…。俺は…お前を見捨てたりしたら、二度と幸せになれない。何してたって笑えない。だから…俺は俺のためにもう二度とお前から離れない…。」
「とぉるさ…。」
「文香、愛してる…。」
ウルベルトは座ったまま、隣で転がるフラミーに覆い被さるように上体を寄せた。
再び柔らかな唇に唇を重ね、そっと口を開くと、さっきより調子の良いフラミーは教えた通りにウルベルトを迎え入れた。
知らない癖も、動きも取らなかった。
たしかに自分としかキスしたことのない、四月から何一つ変わらない動きだった。
「っん…んぅ…。」
数秒そうしていると――「…ん?これは…?」
龍巳の訝しむような声に唇を離し、運転席を見た。
「――私達のマークが浜辺に残ってる…?」
「…なに?」
「警察車両も…浜辺に集まって行く…。」
ウルベルトはふっと笑った。
「娘の――いや、関係者の逃げ出す時間稼ぎはバッチリってわけか。恐らく一定の距離にあったものの偽造位置情報を送ってくれてる。最初は箱なんかにしないで深間班員全員であばこうとしていたんだから、このくらいのサービスは当たり前だな。」
「…随分詳しいんですね。」
たっちはバックミラー越しにウルベルトを見た。
「俺はこの世でただ一人、文香じゃないのに箱を開けられる男だぜ。」
「良いでしょう。それで、どこに行きますか。電波の記録から私達の名前と情報はすぐに取られるでしょう。となると、私の家も、秘密基地も戻れない。当然、あなたの家や事務所もね。」
それを聞くと、ウルベルトは決意の瞳を見せた。
「――行き先は一つしかねぇ。国の真ん中だ。」
「…国の真ん中…?」
「俺は革命を起こした責任を取る。やりたくねぇけどな。おかしな奴を頭にしない為に俺達は行かなきゃなんねぇ。」
「――なるほど。では、日本国の中心へ――!!」
「
ウルベルトは二ヶ月前のことを少し思い出しながら、訳の分からない事を呟いた。
座るフラミーの膝から下、足の裏まで包んでいる包帯を外していく。
フラミーは龍巳の読み上げる言葉をふんふんと一生懸命に聞いていた。
「と言うわけで、繰り返さないためにもまた菫さんの中から旧世紀の情報を開かせてください。」
「はぁい。」
「文香だっつーの。」
あの日世界に開かれた黒歴史の情報は今もフラミーの中にある。
ウルベルトが新しい包帯をフラミーの足に巻き付けていると、部屋をノックする音が響いた。
「どうぞぉ。」
入ってきた男は義手の輝く手に花束を持っていた。
「こんにちは、フラミー様。」
「は、はは…様なんて…。二階堂さ――じゃなくて、佐久間さん。フラミーか、宇留部って呼んでください。」
フラミーは宇留部と呼ぶと紛らわしいし、深間と呼んでも反応しないし、村瀬と呼ぶと結婚しましたと言うし、かと言って下の名前で呼ぶのも――と言うわけで不思議とフラミーと言う呼び名が広まっていた。
「そうは行きません。――どうも、宇留部先生。それから龍巳先生。今日の小委員会、よろしくお願いします。」
宇留部の持っていたちゃんとしたコネクターをフラミーの首に繋いだ龍巳は袖無しをちらりとだけ見た。
「佐久間――さん。私は先生なんて呼ばれる柄じゃありません。」
「政治家、それも官僚になろうとする革命家達は先生とお呼びするのが良いでしょう。フラミー様、足のお加減はどうですか。」
結局フラミー様と呼ばれてしまった。
「むぅ…だいぶ良くなって来てるんですけど、まだ立てなくて…。動かさない方が良いそうです。」
汚染された水に浸かり、表皮を焼かれ、神経を傷つけられたフラミーの足は膝から下――足首を動かさないようにと医師から言われていた。足の裏まで重症のために足をつく事もできない。膿が酷いので、ウルベルトがせっせと世話を焼いていた。龍巳が近寄れない場所と思い自ら裸足で海に入ったので本人は自業自得だが、付き合わされるウルベルトはたまったものでは――いや、この男は十分楽しんでいる。
こうしてコネクターを指すことが多いフラミーは、病院に貸し出されている昔ながらのコネクター接続を必要としない車椅子で生活している。
あまりにも大量の情報はコピーして保存するより、フラミーに繋いでフラミーに音声検索させるのが一番早く楽だった。
「そうですか…。早く良くなる事を願っております。」
残念そうな顔をする袖無しから花束を受け取ると、フラミーは嬉しそうに笑った。
「でも、こうして佐久間さんみたいに顔を見に来てくれる人もたくさんいますから、悪いことばかりじゃないですよ!」
「――はは、フラミー様らしいです。それでは、私は先に金鶏へ行きます。」
「はぁい。また後ほど〜。」
袖無しは部屋を出ると、オッと少し声を上げ、軽く頭を下げてから扉を大きく開けて去っていった。
入れ替わるように三人の友人が入って来た。
「フラミーさん、足の具合はいかがです?」
タブラは手を振りながら近付いてくると包帯を変えていたウルベルトの隣にしゃがんだ。横にはガーゼから膿が滲んでしまった包帯が置かれていた。
「――タブラさん。そこ座んないでくださいよ。」
「おや?なぜですか?」
「嫁のパンツ見えるでしょーが。」
「っえ!」
フラミーは膝掛けを広げると足にかけた。
「こんにちは〜。いや〜新たな憲法制定なんて胸が躍りますね〜!」
ぷにっとが差し入れを入れた手提げを掲げると、朱雀は寝不足なようでフラフラしていた。
「僕はやっぱり政治家にはなれないよ。ただの教授と政治家じゃ違いすぎるし…僕は忙しいのは向かないみたいだ…。――それに、若い君達が世界を作り直すのが良いよ。僕みたいなおじさんの出る幕はない…。」
ふっと遠い目をした男に全員が胡散臭い目をむけた。
「朱雀さん、あんまり自分のことおじさんおじさんって言ってると、本当におっさんになっちまいますよ。」
ウルベルトがやれやれと腰に手を当てると朱雀はクマの酷い目を閉じて笑った。
「ふ、僕はおっさんだよ…。」
それを聞くと、フラミーはふるふると首を振った。
「先生はおっさんじゃありません!」
「…フラミー君にそう言われるとおっさんじゃない気がしてくるから不思議だね…。」
六人であーだこーだと話していると、外から軽いノックが響き、許可を聞く前にすぐに日下部が入って来た。
「あ、良かった。皆さんここにいらしてたんすね。」
「日下部君どうも。」「やっほ〜。」「やぁ、忙しそうだね。」
あの日、龍巳の家をなんとか見つけた三人は、軒先でウルベルトにGPSの示す先を伝える日下部と初めて会った。
「もう皆さん金鶏に集まってますよ。そろそろ先生達もお願いします。」
「あー行きたくねぇ…インテリに囲まれて俺に何ができるってんだよ…。」
ウルベルトが嫌そうに顔を歪めるとたっちは呆れたように腰に手を当てた。
「始めた者の責任は取るって言ったのは宇留部さんでしょう。ぐずぐず言わないでください。」
「お前はインテリ組だから良いかもしれないけどな…俺ひとり入るだけであそこの部屋の学歴はぶっちぎりで下がんだよ。」
今日は巨大複合企業が歪みつくした憲法から、そうされる前の憲法に戻す為、憲法制定の小委員会が開かれる。多くの識者、智者、活動家だった者、新政府の者達が一つの間に集まっていた。
二度と歪められないよう、あらたな条項も入れ足される。
人々はこれまでのルールに基づいて生活を営もうとしているが、世界の中心だった企業がなくなり、世の中は失業者であふれている。
ただ、見え隠れする真実の太陽を前に、失業者はおろか、今は止まってしまったアーコロジーの人々さえも、誰もが漠然とした希望を持っていた。
新たなルールと生活を誰もが待ちわびている。
「私が一番ひどいです…。」
小学校中退のフラミーは気まずそうに指先をツンツンと合わせた。
「文香は特別だから問題ないよ。お前は世界と等価なんだから。」
ウルベルトが車椅子に座るフラミーの手を取り口付けると、皆また始まったと目を逸らし、照れ臭そうに笑った。
慣れている日下部は別にどうと言うことはないと涼しい顔をしている。
「…それに菫さんはウルベルトさんと違って合宿中、高校一年程度まで勉強しましたしね。問題があるのはウルベルトさんだけです。」
「たっち、てめぇ殴られてぇのか?合宿じゃなくて拉致監禁ってはっきり言ったらどうだよ。」
自分だけ問題があるという事には何のクレームもつけないウルベルトはボキボキと手を鳴らしたっちの前に立った。
「少しは品性を身につけて下さい。あなただって国を率いる者の一人なんですから。」
「あの…喧嘩しないでください…。」
フラミーが困ったようにしていると、日下部が咳払いした。
「先生方。十分前です。」
「…行くか。」
「やれやれ。」
フラミーの為の控えの部屋を皆がぞろぞろと出て行く中、ウルベルトはフラミーの座る椅子を押した。
「透さん、透さん。」
「ん?どうした?」
ウルベルトが足を止めて覗き込むと、フラミーは幸せそうに微笑み目を閉じた。ウルベルトはふっと笑うとフラミーに顔を寄せ、唇を繋いだ。
二人が来ないことに疑問を持った面々が足を止めると、部屋の中を見た日下部と龍巳はそっとドアを閉めた。
「だから俺は嫌だって言ったんだよ…。」
インテリ達の話す言葉の意味がほとんど解らなかった男は小委員会が解散した後げっそりとした顔をして出てきた。
フラミーはニコニコして座り、たまに聞かれる事をパソコンに向けて聞き直し、検索して答えた。
日本以外の国も新しい政治家達が続々と立っていて、どこもフラミーからコピーした情報を必死に見返しながら新たな秩序の制定を行っている。
「ウルベルトさんの存在は官僚主義にならない為にも、パルチザンを出さない為にも必要ですよ〜。出てからでは遅いです。ゲームじゃないですから。」
軽い調子で言うぷにっとにフラミーは首を傾げた。
「槍です?」
「戦争で勝った土地を占領すると、その都市の民の気持ち的なパラメーターが一気に下がるんですよ。皆今は見た事のない空に心躍らせていますけどね、失業者に溢れてますし、いつ空の効果が切れるか分かりませんから。そうなった時、ウルベルトさんみたいな人がここにいる事はパルチザン――つまり、我々占領者へ暴力的な抵抗活動を行う者達が生まれる抑止になります。代弁者だと皆ウルベルトさんを迎えているんです。」
「大衆だけでなく、今回政府組織に入れなかった知恵のないやる気だけはあった者を救済する存在にもなります。彼はフラミーさん程ではありませんが、同じく希望の象徴になるんです。」
当然だが、半端な者や過激なだけの者は新政府組織には入れなかった。
タブラが人差し指を上げて付け足すと、ウルベルトはうんざりしたような顔をした。
「俺が希望なんてとち狂ってるわ…。」
フラミーは自分の椅子を押すウルベルトに振り向き、真っ直ぐな瞳を向けた。
「透さんは私の希望ですよ!」
「まじ?嬉しいよ。ありがとう。」
フラミーの言葉だけは大喜びで受け取り大いに手の平を返した。
「――さぁ、そろそろ事務所に帰ろう。受けちまった依頼はこなさなきゃならねぇし。」
新秩序の制定者の一員は忙しい。
「それじゃ、私も一度帰りますかねぇ。」
「私は議員会館に行きま〜す。」
「僕も約束があるから行くね。」
皆手を振り合い、バラバラと帰っていく中、たっちは宇留部探偵事務所三名と共にいた。
「では行きましょうか。」
「はぁ…龍巳は来なくていいってのに…。」
そうは言ってもどの依頼も大抵たっちの知識を活用すると解決が早い。
早く探偵事務所を閉める為にも協力が必要だった。
何年も営んでいたそれを閉めるのは心が痛んだ。変わってしまう時には何かを失わずにはいられないのだから仕方がないが。
悪魔の契約だと称してやってきた仕事は多くの依頼人を救った。
振り返れば辛いこともあったが、愛おしい日々として三人の胸には刻まれている。
四人が事務所を目指すために今日集った記念館を出ると多くの人だかりに会った。
皆世界を変えたフラミーを見ようとフラミーを囲んだ。
フラミーはまた頭をお団子にするようになった。
たくさんの人に見られるのに、ちっちゃいと格好が付かないと毎朝ウルベルトに結んで貰っている。
すっかり車の移動ばかりになってしまった。
なんとか事務所のある街に戻ると、車を降りた日下部は車椅子を抱えた。
「お、宇留部社長、日下部君お帰り!」
「文香ちゃんもおかえりなさい!」
ウルベルトはフラミーを抱いて降りた。どこもかしこも階段ばかりの生活だ。
「ただいま、皆さん。」
「わぁ、ただいまです!」
皆宇留部探偵事務所とその面々を誇りに思い、これでもかと三人と写真を撮った。
もちろん撮ってくれとカメラやスマホを渡されるのはすっかり運転士のようになっている龍巳だ。
「は〜なんだか、別の世界の人になっちゃったねぇ。」
皆そう言った。
以前ははめ殺しの窓に貼られていた「宇留部探偵事務所」と言う文字はもう剥がされている。
「二分されてた世界を一つに戻したんだから、もう別の世界なんてないっすよ。」
ウルベルトは決まってそう返す。
「宇留部先生と文香ちゃんの路上チューは我々の青春なのに…マスコミがうろつくからしてくれなくなっちゃったし…。」
「見たいんすか?」
「「「「みたぁい…。」」」」
「仕方ねぇなぁ。」
「っえ!?や、やですよ!やだやだ!皆変態です!!」
ウルベルトが横抱きにしているフラミーに顔を寄せると――ぽこんっと後ろから叩かれた。
「いて、あんだよ。」
振り返ると――「ウルベルトさん、フラミーさん困ってるでしょ。」
「あ、モモンガさんか。はは。」
ウルベルトは馴染みのギルドマスターに笑った。
「もー…。ほら、今日もやりますよ。資料の整理。」
「俺ちゃんも手伝いに来ましたよ!失業したからね!」
その後ろから顔を出したのはペロロンチーノだった。
そして――眠そうではあるが、前よりも格段に顔色の良いヘロヘロ。
「ウルベルトさん、片付けの横で定款書類の書き方教えてくれません?株式会社A・O・Gの。」
失業したギルメン達は何やら皆で会社を興すらしい。知恵ある三名と龍巳は共に政府機関に入ったが。
ギルメン達はたっちの借りた秘密基地の賃貸借契約を引き継ぎ、そこでぎゅうぎゅうと肩を寄せ合い、どんな会社にするだとかを話し合っているらしい。秘密基地は円卓と呼ばれるようになった。丸い小さなちゃぶ台を皆で囲んでいる。会社の登記は取り敢えずそこで行うようだ。
秘密基地の家賃は暴落した。固定資産税も暴落したので大家達にとっては±ゼロだ。アーコロジーが止まった今、アーコロジー内部は空気を循環させ、雨を降らせるシステムも止まってしまっている。
政府として最初の大仕事はアーコロジーの撤去だろう。失業者達もこれで食べられる。
――そして、世界と手を取り合い、空気と海や川の除染。
何年も何十年もかかるだろうが、今度こそ間違ってはいけないと、皆必死だ。
「資本金決まったの?俺に聞くより公証役場で聞いた方が確かだろ。法務局も何とか動き出したし。」
ウルベルトが言うと、ヘロヘロはムゥ…と少し唸った。
「公証役場の人達の言ってることが難しくてよく分かんないから経験者のウルベルトさんに聞きにきたんです…。」
「…俺は会社じゃなくて雇用者持ちの個人事業主だから開業届一発で終わってんだよ…。」
「え?え?何ですか?」
「…続きは上で話します。」
ウルベルトは手が疲れてきたので、街の人達に頭を下げフラミーの足が壁にぶつかったりしないように気をつけながら二階へ上がった。
後をついてきた日下部が車椅子を開くと、ウルベルトはフラミーを下ろした。
「はー歳だな。腕がパンパンになりそうだ。」
「わぁ、すみません。」
フラミーが申し訳なさそうにウルベルトを見上げるとウルベルトは笑った。
「気にすんなよ。面倒みるバイト代は貰うし。はい、支払いちょうだい。」
そう言うとフラミーは恥ずかしそうにしてから、ウルベルトの顔を手で包み、額、鼻、頬にキスした。
「ッウ…。」「し、しぬ…。」「せいしゅん…。」
童貞二名と元社畜はのたうち回った。
「うんうん、良いな。やっぱりお前のいる生活は最高だわ。」
ほくほくのウルベルトはやるぞーと肩を回し、資料の仮置き場からやり掛けの案件の書類を取り出した。
「菫さん、嫌なら断った方が良いですよ。」
たっちがそう言うと、「宇留部文香だっつってんだろ!」とウルベルトが声を上げた。だが、深間菫の名前も親とフラミーを繋ぐ大切な名の一つではある。
「あの…えっと…本当は…うるべるとさんとちゅーできるの…大好きですから…。」
顔を赤くしたフラミーがそう言うとモモンガはウッと胸を押さえ、背をペロとヘロにさすられた。
「ふ…良いですね…。幸せで…。俺も嬉しいですよ…。俺なんて最終日、タブラさんのアルベドに"モモンガを愛してる"って書き換えてやりましたよ…。あの人勝手に
「…あるべど?」
ヘロヘロが首を傾げるとペロロンチーノがズイッと身を乗り出した。
「タブラさんの作った実はビッチの最強淫魔NPCですよ。」
「ああ、アルベドかぁ。最終日だったとはいえモモンガさんご病気ですね…。」
ウルベルトは軽く笑った。
「ヘロヘロさん、俺のモモンガさんをいじめないでやって下さいよ。」
「一番いじめてるのはウルベルトさんでは…?」
そうかな〜?と白々しく言うとウルベルトはブルーライトカットメガネを掛けた。
「――じゃあ、私、シュレッダー初めます!」
フラミーが一生懸命車椅子を漕ぎ始めると、モモンガはよろよろと立ち上がり、それを押した。
「あ、ありがとうございます、鈴木さん!」
「いえ…えーと、こっちですね。」
「日下部、お前この死に様調査やってもらって良い?」
「はい!任せて下さい。」
「日下部君、これは……
「龍巳さん、悪いけど依頼人様の代わりにぶん殴っていいですか。」
「私も止めて来たものだよ…。本当に残念だ…。」
「ペロロンチーノさん、これ意味わかります?」
「わかる訳ないじゃないっすか!ヘロヘロさん、そう言うことはモモンガさんやウルベルトさん、たっちさんに聞いてください。」
「鈴木さん、あそこの上の取ってくださぁい。」
「はいはい、これですね。ファイル解きますか?」
ごちゃごちゃと大人数で賑やかにやっていると、ノックが響いた。
「あ、皆。しゃんとしてくれ。誰かきた。」
ウルベルトの声に、元からしゃんとしている龍巳以外の皆が少し背筋を伸ばすと、体の大きな男が入って来た。
「おーす。ウルベルト、やってんな。」
「あ、建やんじゃん。何?それ。」
武人建御雷は何やら大きめの荷物を持って現れた。
「なんだ建御雷さんなら一瞬でもちゃんとしてもったいなかったわ〜。」
ペロロンチーノが応接ソファでだらける横で、建御雷は荷物を開いた。
「ここ、探偵事務所から議員事務所にするんだろ。窓の字、俺がやってやるよ。まだ頼んでないって聞いたから。」
「え!まじで!!モモンガさんと建やんだけは役に立つわ。」
ウルベルトがそう言うと、日下部とあれこれやっていた龍巳が顔を上げた。
「…私もそこそこ役に立っているつもりですけどね。」
「お前は嫌い。」
直球の感想だった。
「ね〜たっちさ〜ん。警察やめたんだし戦おうよ〜。柔道でいいからぁ〜。」
建御雷がたっちにすり寄っていく中、資料室からフラミーが顔を出した。
「あ!建御雷さん!」
「ん?あ、フラミー働いてんの?足痛いんだろ?ニュースで見たよ。」
「建御雷さん、おはようございまーす。」
夕暮れ時だがモモンガはいつも通りの挨拶だ。
「モモンガさんもこんちゃー。ウルベルト、お前嫁働かせんなよ。世間様からブーイングくるぞ。」
報告書の作成に精を出していたウルベルトはブルーライトカットメガネごしに建御雷を見上げた。
「俺が何もするなって言って、あれが大人しく養われる女だと思うわけ?」
「えぇ〜?一応大黒柱だろ。やめろって喝入れて言えよ。見てろ。――ッオラ!!フラミー!!お前はデータ読み出し以外働くな!!」
「わっ、びっくりしたぁ。私、たくさん働きます!」
「ほらみろ。っつーか文香の事びっくりさせんな。でかい声で萎縮させんな。」
ウルベルトは不服そうだった。
「やれやれ。お前ら特殊だよな。なんか、あれ思い出したわ。」
「何?」
「"ウルベルト、お前骨抜きじゃん"ってやつ。」
ベルリバーの言葉を言うと、皆ふっと静かになった。
「…来年のベルさんの命日には、墓の前で皆で酒盛りしよう。」
「尻に敷かれてるところ見せてやったらきっと喜ぶぜ。よく知らねぇけど、お前ら、ベルさんの夢も叶えてやったんだろ。胸張れよ。」
建御雷が爽快に笑うと、皆も笑った。
事務所に鍵をかけ、龍巳の車で家まで送らせると、ウルベルトはフラミーを抱え、龍巳は車椅子を部屋に持って行った。
「じゃあ、明日もいつもの時間に来ます。」
「あいよ。お疲れ。」
「龍巳さん、ありがとうございました!また明日もよろしくお願いします。余計なお手間を掛けちゃってすみません。」
ベッドに下ろされたフラミーが頭を下げると龍巳はその前に膝をついた。みっちゃんにしてやるように上から見ないようにしてやる。
「いえ、私の責任ですから。良いんですよ。」
「…でも、龍巳さん、今の世界はあなたの望むものじゃ…ないですよね…。」
龍巳は少し考えてから口を開いた。
「私の望む世界だと思います。妻もみっちゃんもちゃんと幸せに暮らせていますし…出世の鬼ではなくなった私を、前よりも愛してくれているように感じます。ありがとう、菫さん。」
フラミーの膝の上におかれた手を取り、少し撫でると立ち上がった。
「では、私はこれで。また明日。」
噛み付くような顔をするウルベルトにサッと背を向け龍巳は玄関に向かった。
ウルベルトは一応玄関まで見送りに来た。
「――あぁ、宇留部さん。」
「あんだよ。」
「あなたにも感謝しています。痛みの中の変化も、あなたや皆と一緒なら、やり切れそうです。」
龍巳は笑うと、じゃ。と一声かけて出て行った。
その背を見送るウルベルトは「だから言ったろ」と笑い、部屋に戻った。
ウルベルトの部屋には相変わらずフラミーが日記にしているカレンダーが掛けられている。トイレにはたっちがフラミーに頼まれて買ったカレンダーを掛けた。もちろん、たっちの下でフラミーが書いたカレンダー日記には全て目を通してちゃんとイライラした。
「さあー、文香はお風呂ですね〜。」
ウルベルトはフラミーのお団子を崩すと、うきうきとフラミーの服に手をかけた。その腕にはタオルがかけられていた。
「っあ、わ、私一人で脱げます!」
「ん?じゃあたまには見てようかな。ふふ。」
「み、見なくていいですよぉ。足も汚いですし…。」
フラミーは膝から下の包帯に視線を落とすと申し訳ないような顔をした。
「…誰の足よりも綺麗だよ。世界を綺麗にする為に負った傷だろ。」
早く癒えるようにと願いを込めてフラミーに触れた。
唇を触れさせ、舌を押し込み、蕩けさせるように優しくすり合わせた。
「っふぁ……ん…。」
フラミーの浮かされる声がすると唇を離した。
「…じゃあ、風呂行こう。」
せっかくちょっとえっちな雰囲気になったと言うのに、ジョニーがどうして?とウルベルトの理性に尋ねる。
(…抱いたら足に無意識に力入って安静にしてられねぇだろうが。早く治してやりてぇのに…。)
四月以来ウルベルトはフラミーを抱けていない。
再びの自主的お預けの日々だが、フラミーの傷には変えられない。
「うんたん…。…やっぱり脱がせて…。」
ウルベルトは無言でフラミーの服に手をかけた。
ブラウスのボタンをひとつづつ外していき、下着に包まれる胸にキスをした。
「っん…。」
胸元は大量のキスマークがあった。毎日ここまでしかできないせいで熱が篭る。
そうしながら、ブラジャーを外し、静かに横たえてやると持ってきたタオルを掛け、スカートと下着を足から抜いた。
フラミーの下着に軽いしめりを見咎めるが、見ないフリをした。
「できたよ。風呂行こう。」
「うん…。」
裸にタオルを抑えたフラミーを抱き上げてやり、足が壁に触れないように気をつけながら洗面所に向かった。
スチームバスに新しく置くようになった、少し高めの風呂椅子に座らせ、足から包帯を取った。
中には膿で汚れたガーゼがたくさん貼られている。包帯と脱がせた服をランドリーバッグにいれるとウルベルトも服を脱ぎ、スチームバスに入った。
「うんたん…してあげる…。」
フラミーに見上げられるとウルベルトは苦笑した。
「いや、いいよ、お前にしてやれないのに。」
「でも、いつも元気になってる…。」
つん、とつつかれるとジョニーは少し我慢した涙を出した。
フラミーは舌を出してそれを舐めとると、愛しげに食いついた。
「ッ……良いって。もっとしたくなるから。」
「たくさん、したげる。」
脈打つ血管に舌を這わせ、吸い上げられる。いつ覚えたのか陰嚢を甘く柔らかく揉みしだかれた。
こうなると、もう抱きたくて堪らなくなった。
「はぁ…文香…じゃあ…一回だけ頼むよ…。」
「っん…んっ…まかへてくらはいっ。」
フラミーは口に入れたまま微笑むと、中心をしごきながら先端に舌を押し当てた。
「っ…は、………ん。」
久々の自慰ではない、フラミーとの繋がりに腰が震える。
裏筋を擦られる刺激に声が出そうになった。
前よりも巧みに感じるそれにウルベルトは唇を噛んだ。
――そして、ひとつの想像が凶暴な気持ちを呼び起こそうとした。
「なぁ、文香…。たっちには…させられてないよな…?」
そう聞くと、フラミーはちゅぽんと口を離してウルベルトを見上げた。幹をしごく手は唾液と先走りでぬめっていた。
「どうしてそんなこと聞くの…?」
「答えろよ…なぁ…。」
フラミーは首を左右に振った。
「してないですよ…?どうして…?」
「お前がしたことないことするから…。」
ウルベルトの中に生まれた猜疑心に、フラミーは顔を赤くして笑った。
「なんでもしてあげたいんです。たくさん頑張ってくれるあなたに、私の全部をあげたいの。」
そう言うと再び食いつき、急速に高められていく。
「ン…おまえ…おしえられてきたんじゃ…ないんだな…?」
フラミーは笑って頷くと続けた。
ウルベルトはフラミーの髪を何度も撫でながら、フラミーからの愛に応えるように軽く腰を動かした。
深くいきすぎなければ、動いてやった方が楽だろう。
真っ赤な顔でジョニーにしゃぶりつく様子は愛らしかった。
「っん…っ文香……!」
「ッン!ッン!ッンン!ッン!」
ウルベルトは気付けばフラミーの口を犯していた。
もっと優しくしてやりたいのに、ずっとこうしたかったとか、抱きたいだとか、自分のものに取り戻したいだとか、たっちにどこを触られただろうとか、多くの考えが優しさを減らしていく。
――絞り取るように、愛しげにフラミーの手が這うとウルベルトはフラミーから引き抜き射精した。
「っんはぁ!!っはぁ、はぁ…うんたぁん…。」
顔と体にかけられたフラミーは数度瞬くとウルベルトを見上げた。
ウルベルトはスチームを出すとこれまで自分をしゃぶっていた口にキスした。
「――ふぅ…ごめんな…口疲れたよな…?苦しくなかったか…?」
「もっと…。」
「……んへ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「たくさんうごいて、たくさんだしてぇ。」
フラミーは顔を真っ赤にし、汚れて萎れたジョニーを再びあむっとしゃぶり直した。
ほかほかとスチームに包まれる中、美味しそうに頬張られ、急速に硬度が取り戻されていく。ゾクゾクと敏感すぎる場所への刺激に背を震わせた。
「あっ…!っく…やっぱり一回じゃやめらんねぇわ、俺のバカ…。」
葛藤するようなウルベルトとは正反対に、フラミーは手と口の中で棒がどんどん熱く大きく反り返ろうとする様子が嬉しかった。
自分を愛して奔走してくれるウルベルトを癒そうと、両手で握り夢中でしゃぶり、吸い上げた。
「っ文香ぁ…ごめんな…二回もさせて…。」
フラミーは口に含んだままもごもごと答えた。
「ううん。うんたんの、すきなの、おしえてぇ。」
「…これすきだよ…きもちいいよ…情けねぇくらい…。」
じゅぶじゅぶとフラミーに突き立てる。
「上手だよ…ほんとに……。」
フラミーはウルベルトの根で口内を擦り立てられ感じていた。
褒められ、潤んだ瞳で見上げると、ウルベルトは余裕のなさそうな赤い顔で困ったように笑った。
「お前の…その目も…好きだ…。」
感じるような吐息まじりの声だ。舌を絡めるフラミーに見つめられたまま、軽く腰を振り、ウルベルトは程なくして二度目の少なめの精を口の中に吐き出した。
「ッ………。」
ぎゅっと目を閉じ、フラミーはごくんごくんと飲み込んだ。
「ありがと…。」
えへへぇと嬉しそうにフラミーが笑うとウルベルトはフラミーの前に膝立ちになり、再び胸元に口付けた。
「…愛してるよ…。あぁ…お前にもしてやりたいよ…。」
何度も愛を囁きながら丹念に口付けた。
フラミーの体に巻かれたタオルをゆっくりとはずし、石鹸で全身をくまなく洗ってやる。
「っはぅ…っあ…自分で、できます…。」
「俺にさせてって…。」
ぬめる手で胸をもみこみ、突起を嬲るとフラミーの体にキュッと力が入った。
「あ、ごめんな…今、足痛かったか…?」
力の入ってしまったガーゼが貼られた足を優しく撫でた。
「平気…。」
「良かった…。はぁ、もう少しの我慢だな…。」
「ぅん……。」
二人はその後風呂を出た。
寝かせたフラミーに下着を履かせ――二度も出したくせにいとも簡単に欲情する自分を叱った。
膿のにじむ濡れたガーゼを剥がすと、フラミーは唇を噛んだ。
「自分で――」
「俺にさせてくれ…。本当にこれくらいしかできないから…。」
まだ膿む様子の場所に薬剤のスプレーをかけ、新しいガーゼに軟膏を塗る。
丁寧に貼って行くと、足首が動かないように包帯で固定し直した。
「うんたん、ありがとうございます。」
「いいや。やらせてくれてありがとな。」
ウルベルトはフラミーを寝転がらせ、二人で映画を見ながら寝落ちした。
まどろっこしい日々を過ごし、さらに一ヶ月。
「か、完治!!」
病院でそれを聞いた宇留部は立ち上がった。
「えぇ。宇留部さん、フラミー様。おめでとうございます。無理をしなかったのが良かったんでしょうね。後遺症も痕もなく、きちんと治りましたよ。もう立って歩いていただいて大丈夫です。」
フラミーと宇留部は大喜びで抱き合った。
「わー!良かったです!」
「良かったな、良かったな文香!!」
医師は微笑み、ただ――と続けた。
「走ったり跳ねたりはまだ我慢してくださいね。かかとの皮膚がまだ柔らかいですから。」
来ていた日下部と龍巳もほっと息を吐いた。
「おめでとうございます、先生!文香さん!」
「本当に良かった…。やっと人心地付けそうです…。」
「透さんや先輩、龍巳さん、皆さんのおかげです!」
そして――「日下部!龍巳!!俺達は今日はもう帰る!!」
「っは?」と日下部は漏らしたが、すぐに理解した。「――あ、あぁ!そうすね!龍巳さん!!お願いします!!」
日下部も免許は持っているが、龍巳が責任を感じて運転士をしている。
「ん?でも今日は午後ありますよ?」
龍巳がそう言うと、宇留部は両肩を掴み、ぎりぎりと握った。
「いいから…俺達は今日はもう帰る…!!」
「龍巳さん、今日は先生を帰らせてあげてください。」
二人がそう言っていると、フラミーは首を傾げた。
「どうしてお家帰るんです?」
宇留部は癖のようにフラミーを抱き上げると笑った。
「お前を抱くために決まってんだろ!」
「はへ?」
龍巳は頭が痛いとでも言うように眉間を抑えた。
ウルベルトは急いで帰るとフラミーをベッドに寝かせた。
「文香、もう抱くからな!」
相変わらず直球すぎる言葉にフラミーはあわあわ言った。
返事も待たずに裸にむいていくと――くちゅっと音が鳴った。
フラミーの体は半端に触り続けられたせいで割と狂っていた。ウルベルトはニヒリと笑った。
「お前も抱いて欲しそうで良かった。」
「ふぇ…違うの…違うの…。」
首を振るが、疼いている胸の突起をチュウッと吸われるとフラミーは求めていた快感に悩ましげな声をあげた。
濡れた突起を舌と指で優しく触られると足は力が入り、震えた。床を蹴るように悶える様子にウルベルトはいい笑顔だった。
「っあぁ……あぅぅ…!」
「気持ちいいか?もう遠慮しないからな。お前の気が済むまで付き合うし――俺の気が済むまでも付き合ってもらう。」
ふにょッと摘ままれるとフラミーの体は跳ね上がった。
「っうぅ…やさしくしてぇ…。」
「うーん、優しくはしてるけど…お前が敏感になってるから限度はあるな…。」
手を下に伸ばすと、指先でぷくりと膨れた豆を撫で上げた。
「っきゃう!!」
絡みついた手はいやらしくフラミーの足の間で動いた。
入り口を撫でられたかと思うと突起をくりくりと押された。胸を含む口も動き、少しの休憩も猶予もないまま、フラミーは簡単に押し上げられた。
「あっ…!あぁ……んゃあ!っあぁぁ!イッ!いぅ、いぅ!」
「はぁーえらいえらい。イキな。」
「――っンン!」
震えている間に入り口を嬲っていた指が一本入り込み始め、くちんくちんと音を立てた。
「あぁ…またかなり狭くなっちゃってんなぁ…。一人でいる時しなかったのか…?」
「っひぅ…しなかっ……たぁ…ひっあ…!」
「これ二本入るかな…。」
ゆっくりと二本目を受け入れさせられると、フラミーは堪えるように後ずさった。
「痛むか?」
「いたく…なっい…けど…あっ!い!ぁあっ!」
「良かった。もう少し慣れたら挿れような。」
二本の指がバラバラに動き、久々の激しい快感を送られ始めるとフラミーの腰は浮いてぶるぶると震えた。
「ふぇ!っはぁ!」
「文香、覚えてるか?ここ好きだったろ?」
片手で脚を広げ、中の弱い部分を指の腹で優しく押し込まれるとフラミーは燃えそうになった。
「っやんやぁ!っあ!っあ!らめ!らめぇッ――――!!」
「はー可愛いよ、可愛い。俺のフラミーだ。」
口の端からよだれが垂れるとウルベルトはそれを舐めあげた。久しぶりにフラミーと呼ぶと、途端に昔に戻ったような気分になった。
イっているフラミーの内部をしつこく撫で上げると両膝ががくがくと震えた。
「っあぁ!お、おやすみさせれぇ!!」
「はは、ごめんな。そうだそうだ。忘れてたよ。」
指を抜くと、蜜まみれの自分の指を舐め、フラミーにも舐めさせた。
ぷちゅぷちゅと口の中を指で可愛がりながら、ウルベルトはフラミーの顔を堪能した。
「じゃあ…ちゃんと種付けしようか…。」
「ったね…はぇ…はえぇ…?」
「そう、種付けな。赤ちゃん作るんだよ。」
ウルベルトは反り上がり腹に触れそうなジョニーを取り出した。
「何回したら孕むのかな。お前の最後の夢叶えないと。ちゃんと排卵日とか付けた方がいいのか?」
楽しげな声を出すと、ウルベルトはフラミーをずぶずぶとこじ開けていった。
「――っあ……っんぁ……!入ってる……はいってるぅ…!」
フラミーが狂いそうな声を出すとウルベルトは苦しげに微笑んだ。
「っはぁ……きついよ……。ずっとこうしたかった…。誰にも犯されなかったお前の大事なところ…。めっちゃ俺のこと好き好きしてるわ…。」
絡まり付き味わうように内部は蠢いていた。
「す、すき……すきっ…!」
「ふふ、ありがとな…。俺も愛してるよ…。」
ゆっくり動き出すと、フラミーは背を震わせた。子宮がきゅんきゅんとときめく。
ウルベルトはフラミーに体を寄せ、とろけた顔をはさみそのまま夢中でキスした。
早く動くとすぐに出てしまいそうで、火照った頬を優しく撫でながらじっくりとフラミーを確かめた。
内部はまるで再び処女になったような締め付けだった。
「ッンッン……っんぁんぁ…っはぁ…んん…。」
きつい体内はウルベルトを責めるだけでなく、フラミー自身にもウルベルトの形をはっきりと自覚させ震わせた。
「たっちは四ヶ月もお前といてよく犯さないでいられたな…。俺は三ヶ月で無理だった。」
「っひぅ…っんぁぅ…ぁぅ…。」
緩やかな動きだというのにフラミーはまたイきそうだった。
「良かったよ…あいつが正義の味方気取りで…。でもあいつ、絶対お前のこと抱きたくなった瞬間――あったろうなぁ!?」
貪るような動きで打ち据えられるとフラミーは高い声できゃんきゃん鳴いた。
「この姿のお前見られてたら、何が何でもぶち殺してたわ…!」
「アッう!!ひぅ!ひぅ…!とぉるさんだけ!だいすきっ、文香は全部とぉるさんのものなの!」
腕を伸ばすフラミーをぎゅうと抱きしめ、ウルベルトは下らない嫉妬を捨てた。過ぎたことはごちゃごちゃ言わない主義だ。
「フラミー、文香!好きだよ。大好きだ。」
強い刺激にフラミーの目の前は明滅していた。身を寄せ自分を狂わせる物から逃れようとついウルベルトの体を押した。
「――ッぅ、激しすぎたか?ごめんな。」
大好きな体が離れて行くと、それはそれで寂しかった。
ウルベルトは震える足首を両手で掴むとよがるフラミーを見下ろした。
フラミーの足首は新しい皮膚がまだ白く、赤ん坊のようになめらかな触り心地だった。
奥をひっきりなしにぐりぐりと突き、掴んでいたやわらかい足首を舐めあげるとフラミーは思わぬ快感に呼ばれるように達した。
「…っあぁ!ッイッ!!っあぁ…あぁぁああ……。」
フラミーの全身が脱力し、足首を離してやると激しい余韻に喘ぐ唇を撫でた。
「愛してるよ。」
「っあぅ…わたひも…。」
唇を繋ぎ、舌を吸わせ、抱きしめ、全身をくっ付けると再びダパンダパンと一気に責め立て始めた。
「ンンッ!?ンッ!ンッ!ンン!!」
ウルベルトは絡みつき、全ての神経を刺激されるような快楽の中フラミーを何度も突き立て――一番奥をこじ開けるように注いだ。
「ッンン――――っんぁぁあ!!」
舌を抜くとフラミーから悲鳴が上がった。
「っんん…はぁ…!愛してるよ…文香…!」
何度もイカされ、意識を失いそうなフラミーの顔中にキスした。
「しゅき…しゅき…。」
ウルベルトがゆっくりと引き抜くとどぷりと白い精が溢れ出た。
体をひっくり返し、獣の体勢にさせると少し柔らかくなった愛を再び入れ込んだ。
「うっ……!」
「う?文香、どんな感じ?」
「あちゅ……あちゅ…!」
「熱いのに逃げなくてえらいね。…文――フラミー、俺の前で腰振って。」
大切な名前をそんな頼みで呼んでは良くない気がした。
フラミーは動かず酩酊していた。
「フラミー?頑張れ頑張れ。」
後ろから数度ドンドンと突かれると、フラミーはなんとか腰を振り始めた。
「ひっ…いっ…あぁっ…!うっ…!うっ…!」
ずっちゅずっちゅとゆっくりと音を立て、ウルベルトを先端から根本まできちんと刺激した。
「っあぁ…いいよ…フラミー…。」
ぱん、ぱん、と規則正しい音を鳴らし、腰を打ち当てる。
フラミーに跨らせたことはない。羞恥心の限界を思うと、ここまでだろう。
しばらく奉仕させるとフラミーは震えだし、再びの絶頂が見えると動きを止めた。
「あぅぅぅ……。」
「自分でイクのって難しいよな。」
ウルベルトは腰を持つと、フラミーの浅い場所の弱みを重点的に擦り上げた。
「っあ、っあ!っあ!」
少し逃げようとするが腰をしっかりと掴んだ。
わざと音を立てるように犯し、逃がさずにウルベルトが送る快感を受け入れさせ、フラミーは鳴き続けた。
フラミーの快楽と羞恥を溜め、自分の昂りを刺激する。
「っはぁ!うんたん!しゅき!しゅきしゅきぃッ――――イ…ぁ!」
それを聞くとウルベルトは一際強く腰を動かした。
「俺も好きだよ!イきな!!」
凶器のような先端がフラミーを貫き続け、フラミーは喉が枯れるほど叫んだ。同時に内部が痙攣し、ウルベルトは絞り出されるように射精した。不覚にもビクビクと震えた。
荒い呼吸が部屋に溢れた。
「はぁ…おまえの…まだ締めてるぞ…。」
「っひぅ……っひぅ………。」
「もう一回するか…?」
フラミーが首を振ると、ウルベルトはフラミーの腰を揺さぶった。
水が弾ける音がする。フラミーはきゃゎんきゃゎんと鳴いた。
ウルベルトは少し悩み、動きを止めた。
「ジョニー痛くなっちまうかな…。」
「へぅ…へぅ…いょにー?」
さっと出そうと決めるとウルベルトはフラミーにのしかかり、最初から飛ばした。
以前クリスマスに三度目チャレンジをした時もそうだったが、三度目はなかなか出ない。
フラミーが好き好きと言い続けるのを見ながら、まぁおちんちん痛くなってもいっかとIQを失った。
無理矢理捻り出すように三発目を注ぐと、挿れたまま二人で泥のように眠った。
――真夜中に目が覚めて四度目に動き出すとフラミーが逃げ出そうとし、ネクタイで手を縛ってみたら大変興奮した。
縛ると好き好きではなくやんやん言うので、好きと言われるときとはまた別の角度から燃えた。
翌日ジョニーはじんじんした。
世界は緩やかに移ろい変わって行く。
アーコロジーに使われた多くの技術は狭いアーコロジーだけでなく、広い世界へ向けて使われだした。
外はまだマスクを持たずに出かけることは出来ないが、以前よりは随分と空気も綺麗になったようだった。
宇留部はある部屋の前でそわそわとうろついていた。
その様子を龍巳と日下部は動画に残し、面白そうに笑っていた。
「ウルベルトさーん!それにたっちさんと日下部さんも!」「やっほー!父ちゃん大丈夫ー?」「フラミーさんはどうですかぁ!」
「――モモンガさん!茶釜さん!ヘロヘロさん!!」
仕事をほっぽり出していた悪魔は仲間の到着に一度足を止めた。
「それがまだなんすよ…。あぁ…あいつはか弱いから耐えられる気がしない…あぁ〜〜。」
ウルベルトが崩れ落ちるとたっちは背をさすった。
「まぁまぁ、菫さんはああ見えて強いですから。大丈夫ですよ。」
「だから文香だっつってんだろうが…。虫より脳みそちっこいんじゃねぇのか。」
散々一緒に働いてきたと言うのに、二人が友好的とは言えない視線を送り合うとモモンガはンンッと咳払いをした。
「それより、マスコミに言う言葉決まってるんですか?外、少し集まり始めてましたよ。」
ウルベルトはもそもそとジャケットのポケットに手を入れると、小さなメモを取り出した。
「あー…只今丸時丸々分に無事、妻文香は第一子を――」
そこまで言うとウオオ!と唸り放り出した。
「俺達はこんな事を世の中に言うために世界を変えたんじゃなーい!!」
「うわ!!狂った!!ここまで真面目に働いてきた男が狂った!!」
「父ちゃんになるんでしょーが!今更そんな事言うんじゃない!」
モモンガと茶釜の声が響くとウルベルトは頭をわしわしとかいた。
「だぁー!俺はただ綺麗な空と社会を文香に見せたかっただけだっつーのに!!俺はいつまでこんな下らん道化みたいな真似をしなきゃなんねぇんだよ!!」
ウルベルトが切れるとたっちはウルベルトの口を抑えた。
「宇留部さん、分かりました、分かりました。良いからあまり騒がないでください。あなたはあなたで必要な人材なんですから。」
「やばい。いつもの発作だ。先生、また話はサン・マロで聞きますし、文香さんももう少しで出てきますから!」
サン・マロは指定の曜日だけ会員制の営業になったが今もあそこにある。
「い、いつものって…しょっちゅうこうなってるんですか?」
モモンガが戦々恐々と日下部を見ると、助手・事務・コンシェルジュとして働く日下部はうなずいた。
「文香さんといればまともになるんで、皆さん気にしないでください。もう少しの辛抱です。」
「は、はは。」
慣れない仕事に苦しむ姿に苦笑せざるを得ない。
株式会社A・O・Gの社長さんになってしまったモモンガも多少苦労はあるが、これほどの重圧ではない。こんな状況は考えるだけでゾッとした。
五人でうだうだ言っていると、待っていた扉は開き、呼び込まれたウルベルトは転ぶ勢いで入っていった。
「ふ、文香!!」
「はわ〜透さぁん。」
汗まみれのフラミーは小さな不思議な生き物を抱いていた。一瞬「なんだあの生き物!」と思った。周りで看護師達がおめでとうございますと笑いかけてくる。
「な…!文香くらい可愛い…!!」
放っておけば容易に絶滅しそうだった。何ならウサギのように孤独を感じるだけで死にそうだった。
フラミーは照れたような困ったような複雑な顔をした。
「私より可愛いじゃないですかぁ。」
「いや!お前より可愛い生き物はいない。でもお前くらい可愛い生き物は初めて見た…。な、触って良い…?」
「触ってあげて。瑠璃。お父さんだよ。」
フラミーに差し出された娘はぷぁっと音を立てた。
「や、や、や、やばい。やっと出て来てくれたんだな…。」
受け取ったウルベルトはパパ講習で習った通りにきちんと抱いた。講習皆勤賞のパパはフラミーが妊娠検査薬の陽性反応を見せたときから自分は父親になったと自覚して頑張った。フラミーの夢の為にウルベルトは変わらずに真っ直ぐだった。人は彼を父親一日目と言うだろうが、本人としては既に十月十日目だ。
「…お前が文香の…フラミーの…血の繋がった家族か…。ありがとう、俺と一緒に俺の愛する人の夢を叶えてくれて…。ああ…瑠璃…。俺はお前の事も命を掛けて守るよ…。俺達はお前を一人にしない。きっと瑠璃色に戻る地球で、綺麗なもんを数え切れないくらいたくさん見ような…。俺の宝物だ…。」
三角形の口を軽く開けて眠る瑠璃は幸せの寝息を立てた。
誰もが少しづつ歳を重ね、世界の空が前よりも良く見え始める。
ガスマスクが過去の遺物として忘れ去られて行く。
まるで魔法にかけられたように、あの日この星を包み込んだ光は確かに世界を綺麗にした。
村瀬文香と呼ばれた体の小さな女の子の夢はそうして、全てが叶ったのでした。
めでたしめでたし。
終っちゃやだ…2万字になった…。
モモンガさんは…これ…転移しなかったのか?
それとも転移したのは分裂した魂だけなのか…?
宇留部さん、ふららと会う年末に言ってたけど…本当に「人生を左右する日」になったね…(´;ω;`)