※この作品はR-18です。

眠夢裏   作:ジッキンゲン男爵

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ああぁ〜〜、また分岐物語だ〜〜。
話題の転移ウルベルートです。
ウルベルト分岐物語の日下部や宇留部さんの職業知識、ベルリバーさんの事情などを引きずってまぁす。
本当はいせかる三組を書こうと思ってたんだけどね〜〜〜。
宇留部ロス引きずってるからね〜〜〜。
一応宇留部さんの情報もちゃんと書いてあるからね〜〜〜。
ウルベルト分岐物語読まなくても本編読んとるだけでわかるようにしたからね〜〜〜。


ウルベルト転移物語
ウルベルト転移物語#1リアルと新世界


「明日は休みにするか。なぁ、日下部(くさかべ)。」

「そうですね。あぁあ…結局五十七レベまでしか育たなかったなぁ…。先生と狩り行くの嫌すぎて…。」

 山羊の姿の大災厄の魔と森妖精(エルフ)は並ぶ旗を見上げた。

「日下部さん、どうしてウルベルトさんと狩りに行くの嫌だったんですか?」

 終了時刻が刻一刻と近付く中、紫色の肌をした堕天使は友人の友人に問うた。

「…先生って狩り場かぶりするプレイヤーすぐキルするじゃないですか…。むしろプレイヤーの方が経験値もドロ品もうまいだろとか言って…。」

「日下部さんは使ってる狩り場に入ってきたプレイヤー殺さないんですか?」

 さも無垢に返された言葉を聞いた骸骨の魔王と山羊はぶふっと吹き出し、森妖精(エルフ)は頭を抱えた。

「アインズ・ウール・ゴウンまじどうなってんですか!!」

「うちのギルドの人達は皆こんな感じですね、ははは。」

「しかもフラミーは俺の一番弟子だからな、ははは。」

 魔王ばかり揃うその場所は楽しげな笑い声に溢れていた。

 自然と笑い声は波のように引いていき、玉座の間には静寂が訪れた。

 

 骸骨の魔王――モモンガは天井からかかる旗を見上げながらフッと息を吐いた。

 

(本当に…楽しかったんだ…。)

 

 寂しくなるが、今日こうしてゲーム終了まで共にいてくれる友人が二人いてくれる。

 モモンガは大きすぎる寂しさの中にも、共にいてくれる友人二人と、友人の友人への感謝に胸をあたたかくした。

「ね、皆さん。私今日落ちたら、皆でまた軽く遊べるようなゲーム探します!だから…良いものが見つかったら、また一緒に遊んでくれませんか?」

 そう言った紫色の肌をした悪魔――フラミーの声は少しだけ不安そうだった。

 モモンガは「勿論!」と上擦りそうになる声で返し、山羊頭の悪魔――ウルベルトは少しだけ間を持ってから返した。

「――あぁ、時間…見つけるよ。」

「…先生、ゲームする時間くらいあるでしょう。」

 森妖精(エルフ)の日下部はどこか慰めるようにウルベルトの背をさすった。

 しかし、ゲームの性質上触れられた感覚も触れた感覚もない。

 ウルベルトのあまり乗り気ではなさそうな反応にフラミーは苦笑した。

「むり、しないで下さいね。」

「無理か…。」

 何かを背負い込むような雰囲気だった。

「…フラミーさん――でしたっけ。俺が今日みたいに先生のこと引きずってでも帰らせて遊ばせますから、安心してゲーム探しして下さい。」

「日下部さん、ありがとうございます。」

 複雑そうな声音を聞くと、モモンガも頷いた。

「短時間で遊べるようなの、俺も探しますよ!見つかったら、日下部さんも遊びましょうね!」

「はは、ありがとうございます。本当は部外者なのに俺まで何かすんません。」

 日下部が笑顔のアイコンを出し、モモンガとフラミーも笑顔のアイコンを出した。

 ウルベルトはモモンガの座る玉座の肘掛に腰を下ろすと静かに目を閉じた。

 

(ベルさん…ごめん…。本当はこんな事してる時間なんか…俺にはないのに…。)

 

 ウルベルトは世界を転覆させる情報の詰まった箱(・)を共に探していた友人を思い出し――、避けられなかったその死を悼んだ。

 ここで遊んできた幾多の思い出が蘇る。

 ウルベルトは辛そうに胸を握った。

 

 いよいよ時間が迫る。

 

 15..14..13...

 

「――モモンガさん、フラミー。本当にありがとう。日下部も。やっぱり、俺、最後にここに来られて良かったよ。」

 

 ウルベルトの声に皆微笑んだような雰囲気を出した。

 

 8..7..6...

 

「俺もありがとうございました。最後の時に一人じゃなくて良かったですよ。」

「私も、皆さんと一緒で良かったです!」

「明日は休みなんですから、先生。落ちたら次のゲーム探しですよ。」

 

 ウルベルトは立ち上がり、逝ってしまった――逝かせてしまった友人にも聞こえるように、拳を突き上げた。

 

 

3..2..1..

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

 

「「「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」」」」」

 

 四人は驚きに肩を揺らし、声の主たちを探すように視線を送った。

 

 そこにはウルベルトの拳を突き上げるポーズを真似ているNPC達がいた。

 NPCはすぐに元の体制に戻った。

 

 こんなコマンドがあったのかとウルベルトは何度も瞬いた。自分が引退している間に随分凝った仕掛けを作ったものだ。

「…るし★ふぁーってやっぱ馬鹿だわ。」

「それより、ログアウトが延期になった…?」

 ウルベルトがやれやれ、と息を吐く横でモモンガは首を傾げていた。日下部は大して気にしていないようだ。

 

 ――そして

 

「ウルベルトさん…日下部さん…口が動いてる…。」

 震える手で指をさしたフラミーは自分の指が震えていることに気づくとハッとそれを押さえ込むように握った。

「――フラミー、お前も口が動いて――なんだこの感覚…。」ウルベルトは手元に視線を落とした。「ちから……?」

 その呟きは何かを期待するような色だった。

「――GMコールも効きません。ウルベルトさん、フラミーさん、日下部さんはどうですか?」

 モモンガからの問いにフラミーはコンソールを立ち上げようと中空をコツコツ叩き、日下部はゆっくりと首を振った。

「――ダメみたいです。」

 

 そんな中――「どうかなさいましたか?」

 

 透き通るような女性の声に、四人はまるで練習したかのようにピタリと合った呼吸で視線を向けた。

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様…?ウルベルト様…フラミー様…?」

 そしてもう一度同じ問いが届く。

 三人は、誰の発した問いなのかを理解すると、唖然とした。

 その声は間違い無く、NPCたるアルベドのものだった。

 

「――もしやそちらの、下賤の生き物が何か?」

 滑るように視線を送られた日下部は喉からハグっと音を立て、数歩後退った。

 後ろにいたウルベルトに背をトン、とぶつけるとアルベドからの視線は殺意を感じさせるようなものへと変わった。

「あ、う、うるべ…さん…。」

 日下部が嫌な汗をかいていると、モモンガとフラミーは首を傾げた。普段の生活で殺意や命を奪われる危機と言うものに触れたことがない故、そして同じく百レベル故に感知することができなかった。

 しかし、それを感知したウルベルトが返した視線はアルベドの物に匹敵するか、それを上回る――アルベド以下セバス、戦闘メイド(プレアデス)の心胆を凍りつかせるものだった。

「おい、お前。俺の部下に何か文句あんのか。」

 ウルベルトがそういうと、元から森妖精(エルフ)の薄い肌の色だったが、真っ青になっていた日下部はようやく息をした。

「ッハァ…!う、宇留部(うるべ)さん…。」

「大丈夫か?」

「大丈夫…です…。」

「そりゃなにより。つーかお前宇留部って呼ぶなよ。」

「は、はい…。」

 日下部の無事を見るとウルベルトは山羊のわかりにくい顔で笑った。

 そうしていると、アルベドは平伏すようにウルベルトの前に身を投げた。

「も、申し訳ございません!!ウルベルト様の配下の者とは知らず…!」

「配下って…。」

 間違っちゃいないけど…とウルベルトは苦笑した。

「この失態は命をもって償い――」

 アルベドが空間から病んだような色のバルディッシュを抜き放つとモモンガは思わずその手元に向けて魔法を放った。

「<連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>!!」

 手からのたうつ龍のごとき白い雷撃が生じアルベドの手元へ打ち出された。己の首を切ろうとしていたバルディッシュを龍が巻きつくように覆い焼いていく。

「ッアァ!」

 明確に痛みを訴える顔をし、アルベドは崩れた。

「――は、だ、大丈夫か!?」

 魔法を放った張本人であるモモンガが駆け寄る横で、その一連のやり取りを見ていたウルベルトは確信するようにギュッと自らの手を握りしめた。

「力、力だ。ふ…ふふ、ふはは…ははは!!」

 ウルベルトの高笑いにフラミーは驚いた様に目を丸くした。

「…ウルベルトさん?」

「ふふ…はぁ。お前、そういう顔するんだな。」

 その声は妙に優しかった。

「そういう顔…?」

 毛でいっぱいの手でフラミーの顔を触るとウルベルトは切なげに笑った。

「どんな顔して笑うのか、怒るのか、何も知らなかったから。――そんな不安そうな顔、するなよ。」

 もそもそしている手は顔を撫でるとムニっと頬を引っ張った。

「――あぅ。」

「…触れるな。」

 ウルベルトは両手で頬を引っ張ったり、フラミーの長い耳をいじってみたりした。

「なんれすかぁ。」

「いや、十八禁の警告が出ないなと思って。」

「は、本当ですね。」

 ウルベルトはフラミーの細い腰に触れ、長い爪がその身を傷付けないように注意しながら抱き上げてみた。

 抱っこしたフラミーは恥ずかしそうに視線を泳がせ、そういう顔もするのかとウルベルトは目を細めた。

「っあの……ししょぉ…。」

「何?」

「私で実験しないでくださいよぉ。」

「はは、悪い。ついな、つい。」

 下ろされたフラミーがひーんと鳴き声を上げている横で、モモンガはアルベドに死のうとするなんてふざけるなと説教していた。

 

「フラミーさん、すみません。アルベドの手、直してやってもらえますか?」

「あ、は、はひ!」

 みょいんみょいんと両頬を引っ張られていたフラミーは離して離してとウルベルトから逃れて行った。

 モモンガの隣にしゃがみ、アルベドに<大治癒(ヒール)>を掛ける。

「申し訳ございません…。至高の絶対支配者たるモモンガ様と…フラミー様のお手を煩わせ…ウルベルト様をご不快にさせ…私は…私は……。」

 辛そうにするアルベドの様子に二人は目を見合わせた。モモンガはこの先、このNPCは今は従順な様子だが、いつかは自分やフラミー、ウルベルト、そして日下部に牙を剥くのではと恐れた。

「あの、気にしないで下さい。私達、誰も怒ってませんよ。ウルベルトさんもちっとも気にしてないです。」

「えーと、アルベド。大丈夫ですか――いや、大丈夫か。それより、私こそ痛い目に合わせてすまなかった。」

 二人にそう言われると、アルベドは少し安心した様な顔をした。

「…モモンガ様、フラミー様…。愚かな私をお許し頂きありがとうございます。」

「気にするな。さぁ、お前は…あー…もう行け。」

 アルベドはゆっくり立ち上がり、頭を深く下げた。

「かしこまりました。しかし――モモンガ様。」

 モモンガはアルベドの望む"至高の絶対支配者"らしくいようと気を付けながら、顎をしゃくることで先を促した。

「――ウルベルト様の配下のクサカベの事は他の守護者にも通達が必要かと思います。ご許可いただけるのでしたら、こちらに全階層守護者をお呼びいたします。」

 その提案はもってこいだった。

「そう、か。では一時間後にここに全階層守護者が揃う様にしろ。セバス、戦闘メイド(プレアデス)もアルベドを手伝いに行け。」

 その場にいたNPC達は静かに頭を下げた。

 

「――行動を開始せよ。」

 

 アルベドを筆頭に全NPCが玉座の間を後にした。

 

「わぁ〜モモンガさん、いい上司っぽいです!」

「…はは、絶対支配者とか言われて、そうするべきなのかと思って。でもあの態度が正解だったのか分からなくて怖いです。アルベドもすごく落ち込んだ様な感じでしたし。」

 モモンガは困った様に笑い、ふぅ…と息を吐いた。

「それより、魔法も使えるし、俺おかしくなったかな。」

「うーん、ユグドラシルⅡでしょうか?落ちれないですし…こんなの電脳法違反です…。でも…まるでゲームじゃないみたい…。」

「本当、ゲームだとはとても思えませんね。コンソールも出ないし、運営とも連絡取れないですし…。」

 二人が唸っていると、ウルベルトがフラミーの肩を叩いた。

「心配するなよ。何とかなるから。それより、現実(リアル)に戻る方法探さねぇと。幸い明日は休みにしたし、三連休だ。」

 ウルベルトは自分のやっているしがない興信所――探偵事務所を思った。従業員――日下部をたった一人だけ雇っている小さな探偵事務所の主人だ。

 自分の親の遺体の行方を探したり、親の死に様を調べることで始めたその活動はいつしか「うちの親のことも調べてくれ」という積み重ねを経て職業となっていた。

 日々多くの人々が身内の遺体の行き先を調べてくれだとか、何の罪もないのに警察に連れて行かれた身内を探してくれだとかと宇留部の事務所の扉を叩き――嫌な仕事は尽きることがない。ただ、所謂殺人事件の捜査であるとか警察と協力して何とかと言うことはない。もっぱら人探しがほとんどだ。

 警察達は無政府主義者や国家の存在を否定する者、過激な主義主張を唱える者達を査察、内偵し取り締まる局をもち――そんな相手にベルリバーは殺された。

 多くの人がウルベルトの報告を待っているし、共に箱(・)を探したベルリバーの仇も取らなければいけない。

 ウルベルトにはリアルでやらなければいけないことがごまんとあった。

「ウルベルトさん…戻りたいんですか…?」

 フラミーの声にウルベルトが複雑な視線を送ると、モモンガは骸に光る灯火を一層赤くし、思わず尋ねた。

「フラミーさんは、ここでその体で生活していくつもりなんですか?」

「あ、その…お恥ずかしながら、リアルに戻れないなら戻れないで、と言うか、落ちれないなら落ちれないで…もういいかなーと言いますか…。ははは…。」

 モモンガがどこか嬉しそうな雰囲気を放つ中、ウルベルトが口を開いた。

「……お前はリアルに戻りたくないのか。」

「確かにフラミーさんは絶対帰りたいと思ってました。最近仕事順調って言ってましたし。」

「うーん。順調は順調でも、今まで泥の中歩いてた感じから泥舟に乗り換えられた程度なんで…。正直、孤児院育ちの私はここで生活していけたらいいなーなんて、思っちゃったりして。」

「フラミー…。お前、昔俺に言っただろ。あのくそったれな世界に感謝してるって。」

 フラミーはふぃ…とウルベルトから目を逸らした。

「あそこで生かされてるうちは…です。」

「……フラミー、今は良いかも知れねぇけど、リアルで俺達の体がどうなるのかとか考えないのかよ。お前痩せてんのにこのままログアウトできなかったら一番に意識失うのはお前なんだぞ。」

「でも、私ここが電脳世界だなんて思えないんですもん。」

「だったら尚の事お前の体はどうなってんだよ!」

 ウルベルトの怒ったような大きな声に、フラミーはンッと声を上げ肩を小さく竦めた。

「わかんないです。ですけど――ですけど……ここにあなたやモモンガさんといられたら、もう…私それでいいんだもん…。」

「……俺は帰らなきゃなんねぇ。この力を持ったまま向こうに。」

 ウルベルトは初期装備に身を包む自身を見下ろした。

「…魔法使えるまま向こうに行ってどうするんです…。」

「…世界を綺麗にすんだよ。お前がもし向こうに帰りたくなった時や、突然ログアウトした時に…お前が幸せに暮らせるように。」

 フラミーの戸惑うように揺れる瞳から目を逸らすと、ウルベルトは黙って様子を見ていた日下部を手招いた。

「――行くぞ、日下部。とりあえず俺は自分の装備を回収する。」

「はい。先生、でも良いんですか…?」

 歩みを進め始めたウルベルトの後をぴたりと日下部が追う。

「……良いも悪いもあるか。俺は鈴川の為にも…依頼者達のためにも…途中で放り出せないんだよ。」

 ウルベルトは毒を無効化する装備と、ギルドの紋章を頂く転移の指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)をその手に放った。

「お前にやる。行き先は宝物殿だ。」

 二人が玉座の間を後にしようとすると、モモンガは声をかけた。

「ウルベルトさん…。向こうにだってパンドラズ・アクターがいますよ。」

「敵対されたら、モモンガさんには悪いですけど倒させて貰います。幸いさっきのタブラさんのNPCと違って、ステータスはここに入ってますよ。」

 ウルベルトは尖った爪で自分の頭をコンコンと示した。

「……わかりました。三十分後にまたここに来てください…。」

「…あぁ、日下部の安全のためですし、必ず戻りますよ。」

 二人は玉座の間を後にし、ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)に出た。

 

「宇留部さん。」

「あんだよ。だからリアルの名前で呼ぶなって。」

 

 ウルベルト自身は日下部のキャラクターネーム、日の下でunder sun――アンダーソンと呼びもしないくせに苗字で呼ばれることを嫌がった。

 日下部は普段事務所で依頼者がいる時にはウルベルトの事を先生と呼んでいるため馴染みの呼び方を選択し直した。

「…先生がずっと電話かけようか悩んでたのって、フラミーさんですよね…?」

「……何でそう思うんだよ。」

 

+ + +

 

 その日もウルベルトはとある番号を眺め、ため息をついていた。

「――宇留部(うるべ)さん、どうかしました?」

 しがない探偵事務所の主人である宇留部はたった一人の部下である日下部(くさかべ)の声に意識を戻した。

「いや。少し友達に電話するか悩んだだけ。」

「…掛けてきていいんすよ?」

「いや……いいよ。掛けたら多分長くなるから。」

「はは、遠慮しないで良いのに。友達は大事にしたほうが良いですよ。」

「俺なりに大事にしてるさ。くそったれの箱(・)を探して、中身を世間にぶち撒けて、そうしたら俺は――」

 そうしたらきっと、綺麗になった世界の中で、フラミーに自身の信じられないほどに透き通った心をもう一度伝え直したかった。

「――"俺は"?」

 日下部が首を傾げると宇留部は首を振った。

「いや、なんでもない。報告書も書き上がったし、元気に箱(・)探しでも行きますかねぇっと。」

 あの日、何かを掴んだベルリバーが殺された。

 それを知った警察機関側であるたっち・みーのユグドラシル引退。そして宇留部もユグドラシルを引退し、友の無念を晴らそうと駆けずり回っている。とは言っても、自分に足が付かない程度に力加減には気を付けているが。

「宇留部さん、今日は俺も一緒に行かせてください。」

「…そうだな。じゃ、置いてくもん出しな。」

「はい!」

 宇留部は背もたれに入れている赤い鯛焼きから背を離した。それは以前日下部と一緒に銀行の盗聴器探査に行った際に貰ったもので、事務所で寝なければいけない時に枕として使うのにちょうど良いとありがたく頂戴した。

 宇留部は電波を出すあらゆる物を金庫にしまうと、メモ用の紙、鉛筆、鉛筆を削るためと称しているスイスアーミーナイフを内ポケットに突っ込み、防毒マスクを首にかけて出かけた。

 

 深夜に二人は調査から帰ってくると、薄くなったダンボールを床に敷き、事務所で眠った。

 汚らしい灰色の朝日が差し込み、少し街に活気が出てくると、宇留部はもそもそと起きだした。隣では日下部が小さくなって寝ていて、寒そうにしていた。

(…何が悲しくてかってぇ床で男と二人で寝なきゃなんないかねぇ。)

 脱ぎ捨てた靴を履くとたっぷり眉間にシワを寄せ、腰を伸ばした。

 少し寒そうにする日下部に尾行用のパーカーを掛けてやると給湯室で液状食料を取り出した。

(…はー風呂入りてぇ。)

 仕事後に一人で箱の調査に出るときは一度家に荷物を置き、改めて出かけることが多いが、日下部と行くなら事務所から行き、事務所で寝てしまうことが多い。普段は仕事の合間に箱探しに行くことが殆どではあるのだが。

 こう言う生活ももはや慣れっこだ。そんな中、一番嫌なのはスチームバスに入れないことだった。

 宇留部は自分のデスクに座ると液状食料を握り潰して飲みながら、スマホを開く。

(……フラミー、元気にしてるかな…。)

 昨日のようにフラミーの電話番号を眺め、ため息を吐いた。

「…お前に…見せてやりたいよ…。本当に綺麗な世界…。」

 彼女はきっと今も世界に感謝して生きているだろう。

 

 宇留部はフラミーを遊びに誘った日のことを思い出した。

 

+

 

「――なぁフラミー。俺、お前ことすごく気に入ってんだけど…。」

「私も師匠と遊ぶの楽しくって大好きですよ!」

「あのさ、じゃあ今度良かったら二人で飲みに行かない?」

「すみません、私お酒ダメなんですよね。――あ、でもあまのまさん達がよくやってるバフ料理とバフ飲料食べる会みたいなのならいつでもいいですよ!」

「そう…だよな。いや、お前はそう言うって分かってたよ。引きこもり娘だからな。はは。」

 ウルベルトはもう少し時間が必要そうだと確信した。しかし、ウルベルトには時間がない。やらなければいけない事がリアルで大量に積み重なっている。

「…フラミー、アドレスだけじゃなくて電話番号も交換しておこう。」

「はーひ!良いですよ!」

 二人は互いの情報を交換した。

「――お前、まだ今もくそったれな世界に感謝してる?」

 フラミーは笑顔のアイコンを出した。

「ここで生かされてるうちは。」

「そっか。」

 この世界をぶっ壊してやると言ったらフラミーは笑うだろうか。

 誰もが平等に生きることを許される世界に変えてみせると言ったら喜ぶだろうか。

 

+

 

(…師匠と遊ぶの楽しくて大好きか…。)

 自分の言葉が足りなかったことは分かっているが、師匠を気に入っているとか、大好きとか、そう言う言葉が欲しかった。が、ネットでの告白は宇留部の性に合わなかった。

 まだベルリバーが生きていた時だったが――ベルリバーがこんな事になってしまった今、恋愛に前のめりな気持ちにはなれなかった。

 飲み終わった液状食料のパウチをゴミ箱に放り投げると、宇留部は寂しさから少し寒そうにした。

 フラミーの声を聞かなくなり早幾星霜。

 声を聞きたいという想いが強すぎて、ウルベルトは電話番号を眺める時間が増えた。

(俺ばっかり幸せになんて…なれないよな…。)

 ウルベルトの想いをフラミーが受け入れる受け入れないは置いて、フラミーと再び連絡を取り話をすれば、それだけでウルベルトは幸せを感じてしまいそうだった。

 前はよくメッセージをくれていたが、ベルリバーの事でいっぱいいっぱいに過ごし、自分に鞭打つようにそれに返事を出さずにいたら、フラミーからのメッセージはいつしか届かなくなった。

 最後のメッセージには「また連絡しますね」といつもの物と変わらない文が綴られていた。

「……フラミーのこと…少し調べようかな…。」

 いつかは電話番号やメールアドレスが変わってしまう事もあるだろう。私情から友人の情報を調べるなど、禁忌中の禁忌だが――少し、遠くからでも良いから見てみたいなどと思ってしまい――

(………発想がストーカーだわ…。)

 日下部の寝息と言う誰も得をしないBGMの中、宇留部は頭を抱えた。

 どれだけフラミーを求めているんだと自分に呆れる。

 会いたかった。声を聞きたかった。

 箱を手中に収めたら、すぐにでも会いに行って、その手を引いて綺麗なものを見せに出かけたかった。

 宇留部が何度目かのため息を吐いているとごそごそと日下部が起き出した。くぁっとあくびをすると日下部は目を擦り、宇留部に頭を下げた。

「宇留部さん…おはよーございます。」

「…おはようさん。」

「はぁー、風呂入りたい…。」

「俺も。仕方ねぇから給湯室で頭だけ洗うか…。」

 二人は順番に頭だけ洗うとその日の業務に取り掛かった。

 どことなくシャンプーの香りがする中、午前中は事務作業で終わり、昼過ぎになると液状食料をすすった。

「あー……だりぃ。」

「同感っすね。箱のありかはまるきり分からないし…なんなんだかなぁ。」

 二人で応接ソファで向かい合うようにだらしなく座っていると、事務所の扉が開く音がした。

「こんにちはー、佐々木でーす。」

 明るい声にウルベルトは辟易したような顔をし、日下部は苦笑した。

「しゃきっとして下さいよ、先生。」

 客が来たため日下部は宇留部さんと呼ぶことをやめた。

「はー…無理。凜子さん、また来たの。」

 気怠そうに液状食料を咥えると、入り口から視線が通らないように置いてあるパーテーションの向こうから佐々木凛子が顔を出した。彼女は二年ほど前にストーカーの相談に来た依頼者だ。土日は何をしているのかと聞かれ、ゲームか昼寝をしていると応えたらこのザマ(・・・・)だった。

「宇留部先生!ふふ、また来ちゃいました!それよりまた徹夜ですか?ほら、私たくさん液状食料買って来たんですよー!また差し入れです!」

「…はーこりゃまた…。ありがとさん。」

どっさりと液状食料が入った袋を差し出されると宇留部はそれを受け取り、一つ佐々木に放った。

「っわ――っと、ありがとうございます。」

「凜子さんはありがとうじゃねーだろ。買ってきてる張本人だってのに。しっかししょっちゅうよくもまー飽きもせずにこんなしけた場所に来られんな。」

 もはや客ではない佐々木への口の利き方はズタズタだ。

 佐々木は少し頬を染め、笑った。

「"またいらして下さい。何でも解決しましょう"って言ったのは宇留部先生ですからねー!」

「うるへー、依頼するわけでもねぇのに来る奴があるかよ。」

「でもまた来てって言ったのは事実じゃないですかー。」

「拡大解釈だっつーの。」

 食べ終わった液状食料のパウチをゴミ箱に放り投げ――コンっとぶつかりゴミ箱からパウチが逸れると、宇留部は「本当になんだかなぁ」と一言こぼした。

 佐々木がそれを拾って捨てると、ゴミ箱から上げた顔は真剣そのものだった。

「…じゃあ、宇留部先生。依頼料お支払いしますから今週の土日、私と出かけてください。」

「…断る。俺は人探し屋でデート商法屋じゃない。凜子さんさぁ、前も言ったけど俺は忙しいの。世界を変えて、そんで――」

 続きを言い淀むと佐々木は宇留部の隣に座った。

「それで、なんですか。世界を変えて。」

「なんでもない。」

 宇留部はスマホを取り出しアドレス帳を開くと、フラミーの番号を眺めようとし――"フラミー"のすぐ下に登録されている"ベルリバー"の文字を見ると目を閉じた。

 あいうえお順で二人の名前が近いのは、くそったれな神様が宇留部を戒めるために仕組んだのではないかとすら思う。何度もフラミーに連絡を取ろうと思っては、ベルリバーの名を見てやめてきた。

「――…本当は…世界を変えても俺にゃ幸せになる資格なんか…。」

 消え入りそうに呟くと日下部は心配そうに宇留部を眺めた。

「先生…。」

 目を閉じた真っ暗な世界で浮かぶのは紫色の悪魔の姿ばかり。彼女の真実の姿はぶくぶく茶釜が見せていた女子会の写真の端に映り込んで寝ている顔しか知らない。どうやって笑い、どうやって泣くのかも知らない。

 宇留部はやはり、遠くから見るだけでも見たいと思った。

 そして――ふと、手に温かい感触が触れると目を開けた。

「宇留部先生…。」

 手を重ね、心配そうにする顔は綺麗だった。

「…凜子さんさ、自分のこと安売りすんなよ。そういうのやめときな。」

 宇留部は手を引くと立ち上がった。

「――もうここには来ない方がいい。俺は……俺には迎えに行きたい女がいるし。」

「…宇留部先生…でも…二年も連絡とってないんでしょ。もう相手の人だって、誰か好きな人くらいいますよ。」

 それを聞くと眼光が線を引くように佐々木を睨んだ。

「なんで知ってんだよ。」

「…昔からずっとスマホ眺めてはしまって…一回も連絡取ってるの見たことないですもん…。」

「余計なこと詮索するなよな。」

 宇留部はため息を吐くと出かけるための準備を進めた。

「でも宇留部先生!!私、私ずっと先生のこと――」

「知ってるよ。どう見たって俺に惚れてんだろ。でも俺にだって惚れた女がいる。…俺たちはどうしようもねぇよ。」

 佐々木が泣きそうな顔をすると宇留部は面倒臭いと思うと同時に、胸が痛んだ。

「泣くなよ。別に凜子さんを嫌いだって言ってんじゃない。いつまでも先生と依頼者さんでいましょうねってだけだから。な、泣くなって。」

 頬をグイと拭いてやると佐々木は少し笑った。

「…何だかんだ、宇留部先生も私のこと好きでしょ。」

「まぁ一回くらい抱いてみたいとは思うよ。」

 宇留部はベッと舌を出してから、ポニーテールにしている綺麗な黒髪をくしゃりと撫でた。

「凜子さん。俺に都合のいいように使われないためにも、本当にここに来るのはやめな。と言うわけで俺は人探しに行くよ。――日下部、後頼むわ。」

「はい、先生。いってらっしゃーい。」

 日下部がひらひらと手を振るのに軽く手をあげて返すと宇留部は出かけていった。

「……日下部さんは知ってます…?」

 佐々木がそう言うと日下部は微笑み、わざとらしく首を傾げた。

「何を?」

「宇留部先生の想い人。」

「…知らないよ。先生は何も教えちゃくれないから。人のこと洗いざらい調べるくせにさ。やんなっちゃうよねー、本当。でも、前に…"十二のあいつよりお前はガキだ"って言われて……そのあいつが相手なのかなとは思うかな。」

 日下部はソファから腰を上げるとうんと伸び――「じゃあ、そろそろ俺も働くから」と、言いかけ、ハッとすると給湯室へ向かった。

「やっぱり…佐々木さん、お茶飲んでく?」

「……うん…飲む……。」

 鼻をすする音に気まずさを感じながら、日下部はいつもより少し濃くお茶を煎れた。

 

+ + +

 

「そりゃ分かりますよ。応接セットのところでスマホ眺めてるの後ろから覗いた事あるから。」

「お前…そりゃルール違反だっつーの。」

 ウルベルトは苦笑すると、日下部の首根っこを捕まえた。

「飛ぶぞ。」

「へ?」

 その指に嵌まる指輪が煌めくと、二人は黄金の山脈の中に移動した。

「……やば。これ、モモンガさんとフラミーが貯めたのか…?」

 想像を大きく超える大量の金貨を前にウルベルトと日下部は口を開けて辺りを見渡した。

「すげぇ…。俺、金貨こんなにみたの初めてっす。」

「…盗むなよ。」

「…盗みませんよ。」

 二人は進んだ。

 ――そして、黒くべったりとした扉(・)の前に辿り着く。

 ウルベルトは少し悩むと、ナザリック中に共通する一つのパスワードを口にした。

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ。」

 その言葉に反応し、湖面に何かが浮かぶように文字が現れた。

 

 Ascendit a terra in coelum, iterumque descendit in terram, et recipit vim superiorum et inferiorum.

 

「あー…意味わかんねぇな、忘れたわ。」

「ん?何をです?」

「ここ開けるパスワード。」

 ウルベルトは仕方なくこめかみに長い爪で触れた。

「――<伝言(メッセージ)>。」

 目的の人物を探る。

『……私だ。』

 その声はよく魔王ごっこをしていたモモンガのものだった。

「モモンガさん、宝物殿のパス忘れたんすけど分かります?」

『あぁ、ウルベルトさんでしたか!伝言(メッセージ)って誰から来るのか分からなくてハラハラしますね。えーと、パスワードは……確かかくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗き者は全て汝より離れ去るだろう――だったかな?』

「……なんて?」

『かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗き者は全て汝より離れ去るだろう、です。』

「かくてなんじ、ぜんせかいの…………っだあ!!」

 ウルベルトは何かメモを取れるものはないかと自分の持つ空間――無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)の中に手を突っ込んだ。

『行きますよ。少し待っててください。』

「…すんません。」

『いえいえ。』

 伝言(メッセージ)が切れるとウルベルトは適当な金貨の山に腰を下ろした。

「はぁー…流石に二年も引退してると忘れちまうもんだな。あのアルベドとかいうNPCの名前もすっかり忘れてたわ。」

「…あいつまじで怖かったんですけど…。あんな目で見られたの、生まれて初めてっすよぉ。」

 日下部は思い出すだけで怖気が走るようで、ぶるりと身を震わせた。

「俺もあんな風に殺気を感じたのは初めてだった。お前弱いし、まじで気を付けたほうが良いな。」

「まじすか…?俺、ここ出て行こうかな…。」

「グレンデラ沼地にいるツヴェークは多分お前じゃ倒せない。諦めな。」

「へぇーい…。でもここにいたら命がいくつあっても足りない気がしますよ。」

「そうならないために玉座の間にNPC集めてくれるってモモンガさんが言ってたんだろ。」

 二人がそう言っていると、足音が二つ近づいてくるのが聞こえ、ウルベルトの小さな山羊の耳はピクピクっと動いた。

「――来たか。」

 金貨から腰を上げると、どことなく気まずそうなフラミーとモモンガが到着した。

「お待たせしました。えーと、かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗き者は全て汝より離れ去るだろう。」

 モモンガが淀みなくそういうと、闇はしゅるりとある一点に吸い込まれ、道は開かれた。

「モモンガさん流石っす。ありがとうございます。」

「気にしないでください。またウルベルトさんも覚えてください。」

「へぇーい。」

 ウルベルトが歩みを進め始めると、三人もその後を追った。

 そしてたどり着いた応接間のような、待ち合い室のような場所には――「タブラさん!」

 フラミーは思わず声を上げ駆け寄った。

 水死体のように真っ青な体に、紫がかった白いタコのような頭部を持つ異形はごぼりと首を傾げた。

「パンドラズ・アクター、元に戻れ。」

 モモンガがそう言うと、異形はくるりと身を翻し――後には軍服に身を包む卵のような頭部を持つ姿へと変わった。

 それはカツンッ!と踵を合わせると、オーバーな動きで敬礼をした。

「ようこそおいで下さいました!!我が創造主たるモモンガ様!!――そして、我がフラミー様!!並びにウルベルト様!!と……そちらは?」

「――あ、そっか。パンドラズ・アクターさん、そうでしたね。こんにちはぁ。」

 少し残念そうなフラミーがへにゃりと笑うと、モモンガは日下部を示した。

「そちらは日下部さんだ。ウルベルトさんのお友達だから、いわばお客様だ。決して睨みつけたりしないように。」

「かしこまりました。んんんんモモンガ様!!」

 モモンガが鎮静されている横で、ウルベルトは自分の手から指輪を抜いて日下部に持たせた。

「じゃ、俺は着替えてくるから日下部はここにいろ。何かあったらフラミーとモモンガさんに守ってもらえ。」

「わ、わかりました。」

 ウルベルトが更なる奥の間へ向かうのを横目に、モモンガは落ち着いた様子で尋ねた。

「良い機会だ、パンドラズ・アクターよ。お前は私の事をどう思う。」

「我が至高の創造主であり、このナザリックと至高の四十一人をまとめあげる最高支配者でいらっしゃいます。」

 再び鎮静された。

(……何それ。強そう。)

 モモンガの中には少しだけ他人事な感想が浮かんだ。

「そうか…。では、お前は私の友人や、友人の友人に手出しをしたりはしないな。」

「――もちろんでございます。」

「よろしい。共に玉座の間へ来なさい。」

 モモンガは己の空間に手を入れると、余っていた一つの指輪をパンドラズ・アクターへ与えた。

 それを受け取るパンドラズ・アクターの手付きはまるで戴冠でもするかのような恭しさだ。

「お待たせさーん。」

 気楽な声に皆が顔を向けると、最強装備を着崩したウルベルトが"霊廟"から出てきた。

「わぁ…師匠、とっても懐かしいです…!」

 フラミーが駆け寄るとウルベルトは優しく微笑んだ。

「俺も懐かしいよ。でも――」

「でも?」

「着方がわかんねぇ…。」

 がっかりしたような雰囲気のウルベルトにモモンガは吹き出した。

「ははは、選択するだけで着られる訳じゃないんですもんね。」

「ウルベルト様!このパンドラズ・アクターにお任せください!!」

「へ?」

 パンドラズ・アクターはシュババッと音を立てるようにウルベルトに近付き、その身にきちんとウルベルトの最強装備を着せ直した。

「――これで宜しいかと。」

 肩に咲く花を丁寧に広げ、パンドラズ・アクターは満足げな顔をした。

「ん、ありがとな。お前、俺の装備のこと知ってんだな。」

「は!この宝物殿にあるものでしたら何でもお任せください!!」

 二人は少し仲良さそうに笑い合った。

「じゃあ、玉座の間に戻りましょうか。」

 

+

 

 パンドラズ・アクターと共に玉座の間に戻ると、モモンガは二人に勧められて玉座に座した。

 ウルベルトはその肘おきに腰掛けるとフラミーを手招いた。

「フラミー、さっきは大きな声を出して悪かったよ。だけど、お前…本当にリアル――いや、向こうに帰るつもりはないのか…?」

 ウルベルトもここがゲームの世界やデータではないと思い始めているようで、世界という言葉で場所を示した。

「…ない…です…。」

「…後悔しないのか。」

 フラミーは小さく頷いた。

「……フラミー、俺はお前に綺麗な世界を見せてやりたかった。頼まれてもねぇこと勝手にやって、何の恩を着せようってわけじゃないけど…俺はお前のためにも向こうに帰りたい。」

 静かに耳を傾けるフラミーの手を取ると、ウルベルトは立ち上がった。

「――リアルへの行き方が分かったら、お前も一緒に来てくれないか。」

 モモンガとパンドラズ・アクターはその様子を黙って眺めた。

「…ウルベルトさん、逆にここで私と楽しく暮らしませんか…。」

「俺、便利屋みたいな仕事してんだけどさ…。仕事が…向こうにたまってるんだよ。他にも…ベルさんとの約束があるんだわ…。」

「ベルリバーさんとの約束…?」

「…世界を必ず綺麗にして見せるって。俺、あの人に誓ったんだ。」

 フラミーがどうしたら良いのか分からずに困惑しているのが手に取るように伝わってくる。

「フラミー、向こうに行ったら、俺が必ずお前の夢…昔言ってた夢…全部叶えるから…。」

「わ、私の夢…本当に何だかわかって言ってるんですか…?」

「わかってるよ。一度も忘れたことなんかない。可愛いお嫁さんって奴と、布団二つ敷ける広い家って奴と、たまの外食って奴と、子供一人って奴…。全部。子供は二人だって良い。外食だって、たまにじゃなくて毎週だって連れて行く。誓うよ。――だから、フラミー。向こうに行けるようになっても、お前を一人にしたり、苦労させたりしない。だから、俺が方法を見つけたら……どうか一緒に来てくれないか…。」

 金色の山羊の瞳はどこか縋るようにフラミーの金色の悪魔の瞳を覗き込んだ。

「…ウルベルトさん…。でも、あなた…二年も何の返事もなくて…。」

「それは――本当に悪かった。メッセージ、全部ちゃんと読んでたよ。本当にごめん。どうか最後にもう一回だけ、俺にチャンスをくれないか…。」

「そんなの……ウルベルトさん、あなたどうして私にこだわるんですか…。」

 フラミーは辛そうだった。二年もウルベルトは全ての連絡を無視し続けてきたのだ。

「……お前のこと、気に入ってるって言ったろ…。好きなんだ…。」

 モモンガの骨の口が軽くパカリと開いた。

「おちょくらないで…本当は何なんですか…?」

「……本当にずっとお前が好きなんだ。好きで…好きで……毎日お前のこと……。だけど、俺は向こうの世界を綺麗にしない限り幸せになっちゃいけない…だから……お前に返事できなかった…。」

「おかしいよ…。私、私ここで生きて行きます。私の持つ魔法が欲しいなら…お手伝いしますから………おかしな嘘はつかないで。そんなこと言われなくても、お手伝いはしますから…。」

 フラミーはウルベルトに握られる手を離すと、モモンガの座る玉座の向こう、パンドラズ・アクターの隣に行き、ウルベルトに背を向けるように反対側の肘掛に座った。

「……フラミー…。」

 正常な輝きをさらさらと落とし続けるフラミーの天使の名残の翼は力なくダラリと下ろされていた。

「…ウルベルトさん、そう焦らなくても良いじゃないですか。リアルに戻るにしても、結局はその体で行くつもりなら、リアルの体がどうなってても関係ない。そうでしょう。」

「モモンガさん、あんた骨になって少し変わったな…。肉体がないせいか?」

 ウルベルトが目を細めると、モモンガはそうかな?と自分の顔に触れた。

「俺は変わりませんよ。仲間のために全てを捧げる男です。」

 ギチィとどこかでおかしな音がなったが、音の発生源を掴む前に巨大な扉が開かれた。




皆ウルベルトさんしゅきしゅきでしょ
もう不穏だね〜
でもハッピーエンドにするからね〜

こんなもん書いてるから本編書けないんだね〜
でも今日も本編も更新するんだ
えらいえらい
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