「ネイアー。あんた今日からしばらく実家帰っていいよー」
隊長のクレマンティーヌは何だかんだで優しい。
「え、でもクレマンティーヌ先輩……市民がこんななのに──」
「そうね。悪魔狩りも落ち着いたし、全部片付いちゃったら魔導国にあなたも帰るんだから今のうちよ」
聖王国南部の悪魔狩りは神王によってもたらされたルーン武器の聖なる力によって劇的に進んでいた。高価ではあるが、その値段に見合った、いや。値段以上の力を持つ武器達は聖王国に広まりつつある。
「必要になったらこっちの神殿にいる
魔導国内では、一部の軍人や聖典、高位の神官達は
「じゃ、じゃあ……毎日三回は生死の神殿に伝報の確認に行きます!ありがとうございます!」
「はいはーい。じゃーさっさと行った行った」
ネイアは少し後ろ髪を引かれながら与えられたゴーレムの馬を出し、クレマンティーヌとレイナースの下を立ち去った。
「……ほんじゃまぁ暗殺でも開始しますかねーあんたはどーする?私は別に一人でもいーんだけど」
「行くわ。あの子にはまだ酷だけれど、私はそんな純情じゃないもの」
「ひゅーかぁっこいー」
「うるさい」
悪魔は減ったが、神王を崇める者とそうでない者との間では日々小競り合いが起きていた。どうやら神王反対派の中には争いを扇動する者がいるらしい。今から紫黒聖典の二人は悪魔狩りではなく人間狩りに行かなければいけない。特別どうこうしろと本国より連絡も来ていないが、それは逆にこちらの判断で臨機応変に対応しろと言うことの裏返しでもある。早いうちに決着を付け、南部を併呑しなければ。二人は馬を出し出発した。
半日かけて戻った北部ではネイアは英雄だ。街を往くだけで人々はネイアを讃えるため少し気恥ずかしい。
「お父さん!ただいま!」
「ネイア!久しぶりに私の天使が帰ってきた!」
「もう、やめてよお父さん」
ネイアはマントを外して玄関にかけると、照れ臭そうに笑った。
「ああ!いつ帰ってくるか分からないから今日はオルランドと食事に行く約束をしてしまった!!」
「いいよ。私お母さんを、神王陛下にお願いするお祈りをしたら一回生死の神殿に先輩から
「ネイアァァアお父さんと食べたいって言ってくれよぉぉ」
この父が娘を溺愛している事は周知の事実だ。悪魔に殺された母の事も深く愛していた。
「もーしょうがないなぁ。でもオルランドさんと食べに行くんでしょ?」
「いや、オルランドは断る!」
「ダメだよそんなの!わかった、私も行く」
ネイアは北部が落ち着いたらこうしてちょくちょく父に会いに来る事も出来ないだろう。父の寂しさを紛らわせてくれる、同じく九色で友人のオルランドにあまり迷惑はかけられない。どうか仲良くしてあげてほしいと、ネイアはまるで母のような事を思う。
「そ、そうか!ちょうど神殿の側で待ち合わせだから私も共に行こう!ネイアは着替えるかな?」
「うん!ちょっとこの格好は目立つから」
ネイアはそういうと自分の部屋へ上がった。自分の育った部屋で着替えを済ませ、いつも着けておくようにと言われているバイザーとアルティメイトシューティングスタースーパーを装備し直してから父と共に出かけた。
鎧を脱いでもアルティメイトシューティングスタースーパーは目立ち、街の人々は
(私は何もしてないのに……。皆もっと陛下方御自身に祈りを捧げてほしいんだけどなぁ)
相変わらずネイアは布教を趣味としていた。神殿の前でオルランドを待っていると人集りができたためネイアは熱心に人々へ神々の話を説いた。
「ネイアちゃん、これじゃ飯行けねぇんじゃねーか?旦那」
いつの間にか来ていたオルランドはパベルと苦笑しあった。とは言え、二人も神々の話を聞きたい気持ちがあり、近所のパン屋で夕飯を買い、バーでテイクアウェイした酒を持ってその語りに耳を傾けた。結局人集りは減るどころか増え、ネイアはその日晩御飯を食べ損ねたらしい。
「もう少し殺しておくー?」
「いいんじゃない?こんなところで」
血に塗れた二人はそれぞれルーン武器を振って血をビッと撒いてから丁寧に拭いた。
「まーあんまり殺しても、バレた時に魔導国反対派が力を増すか。一応今日のことはデミウルゴス様に連絡して、この死体の回収をお願いしよっかなー」
「デミウルゴス様はお優しいからまた嘆かれるんじゃない?」
「だろーねー。でも、これ以上陛下推進派を傷付けられちゃかなわないからね。さーて。楽しかったし飯にでもしよー」
「まったくとんだサディストね」
「ふふっ。私は闇の神の信奉者だーかーらーねー」
「……私は光の神の信奉者よ。あまりやり過ぎないでちょうだい」
「陛下方が私の下にあんたをつけた意味がよくわかるよ。ネイアは中間。私たちって案外うまくできてんじゃーん!」
「当たり前でしょ。神々を舐めないの」
二人は愉快そうに血溜まりから立ち去った。
「っへくし!」
第九階層のフラミーの自室にアインズのくしゃみが響いた。勉強会の為に集まった二人はデミウルゴス先生を待っている。
「わっ!アインズさん、風邪ですか?
「あ、いや。そんなはずは……。はは。俺、人の身の時なら
「痛くないと思いますよぉ。ふふ。じゃあ掛けますよぉ!」
「はーい」
何も考えていない支配者たちは和んでいた。