今日アインズはいつものトロールの実験を済ませると、ナインズの一歳の誕生日の祝賀パーティーで腰に携えるのに丁度いい王笏代わりになる
「──お前、何やってんだ?」
パンドラズアクターはアインズが以前一番可愛いと選んだフラミー像の手に葉っぱを持たせようと試行錯誤していた。
「これは父上!ただ今フラミー様が拾われた落ち葉のレプリカをフラミー様像にお持ちいただこうとしているところでございます!」
パンドラズアクターが振り向いた瞬間、フラミー像の手の中からハラリと葉っぱのレプリカなる謎のものは落ちた。
「っあぁ!!」
息子はそっとフラミー像の手に葉を戻した。
「やれやれ、お前は本当にフラミーさんが好きだな」
「は!大好きであります!!」
アインズの呟きにパンドラズアクターは何の躊躇いもなく即答した。
自分を抱きしめるようにして幸せそうに揺れる様子にアインズは頭が痛くなる。
「……俺ってやつはもう……。落ち着きなさい」
「は!して、父上。何かご用で?」
「あぁ。適当な
「
パンドラズアクターはカツンっと踵を合わせ、姿勢良く敬礼をした。
これは期待できる。良い逸品を持ってきてくれそうだ。
しかし、アインズは沈静された。
パンドラズアクターが応接間を後にすると、アインズはソファに座り、トロールの巻き戻し実験でひどく疲れた体──いや、始原の力の枯渇を休めた。
今日は三人も行ったために相当疲労した。いつもは二人にしておくと言うのに、もうナインズが一歳になるかと思うと妙に気が逸った。
「ふぅ……この体のままなら寝ないだろうが……やはり骨に疲労感は気持ち悪いな……」
自分の顔を覆うように数度撫で、最後の一滴を使うように人の体を呼び出した。
「父上、父上」
「──ん?あぁ、悪かったな。寝てしまったか」
アインズは自分を覗き込むパンドラズアクターに笑い、体を起こした。
少しでも寝れた為か疲労は無くなり、軽さすら感じる。
「ね、寝た──のでございますか……?」
訝しむような息子にアインズは首を傾げた。
「あ、あぁ。寝た──だろう?」
そう言い頬をかくと、カリッと音が鳴った。
ふとその手を見れば骨だった。
確かに人になったと思ったのに不思議なこともあるものだと漠然と思う。
「まぁいい。それで、
「
「何?さっきも言っただろう。神都で行われるパーティーで使うのに相応しいものだ」
それを聞くとパンドラズアクターは帽子に手をかけ、アインズに背を向けると肩越しに目を光らせた。
「神都、スレイン法国を遂に攻める時が──来たと?」
「は?お前大丈夫か?」
立ち上がり埴輪の帽子を取ると、その額に手を当てた。
「熱でもあるのか?働かせすぎたかな」
近頃守護者達が出かけている事が多い為、パンドラズアクターには防衛を任せたりもしている。その傍ら、税のシュレッド──ユグドラシル金貨への変換──も欠かさずに行っている。
「だ、だだだだ大丈夫でございます!!それより、
うきうきと駆け出した息子の背を見送り、まぁたまには失敗する事もあるかとフッと笑いを漏らした。
寂しがり屋だから気が休まるようによくお茶会をしてくれているとフラミーが言っていたが──そこまで考え、アインズは応接間の変貌にゾクリと震えた。
あったはずのフラミー像も、巨大に引き延ばされたアインズと二人で撮った写真も、結婚式の日に玉座の間で撮った僕が揃いきっている写真も、何もない。
「な、なんだ?片付けたのか?」
確かに二人で撮った写真をそんなデカデカと飾るんじゃないとは言ったが、唐突に何故その気になったのだろうか。
またおかしな気を起こしていなければ良いがと思っていると、扉はノックされ、許可を出すとビロードの布張りのトレーに
「お待たせいたしました!丁度良さそうなものをお持ちいたしました」
いつもと変わらない様子に安堵し、持ってこられたトレーを覗き込んだ。
どれも王笏代わりと言うより──「随分火力重視だな」
使わないのだから第一位階の魔法しか使えないようなものや、初心者向け
(──ま、良いか。使わないしな)
アインズは豪華そうに見える一本を受け取るとローブの腰に──刺そうとしたが、何故か
「なんだ?着替えたか?」
「父上?どうかされましたか……?」
「いや、お前、私が寝てる間に着替えさせたか?」
埴輪は首を傾げた。何の表情も出ないが、心配するような空気が流れている。
何かおかしな事を言ってしまったようで、アインズはンンッと咳払いをした。
「なんでもない。ともかく、これを借りて行く。ではな」
「は。お送り致します」
パンドラズアクターが応接間の扉を開けると、やはりフラミー像がなかった。
「お前、フラミーさんの像はどうした?」
「──父上?」
「始末するなら私の部屋に置きたかったな、まだ処分してないだろう?」
「父上、アヴァターラをお作りになったのでしょうか」
「いや、ここに置いていたフラミーさんの像の話だ」
「こ、こちらには……フラミー様の像は置かれたことはないように存じますが……」
「……は?」
困ったような宝物殿の領域守護者と若干苛立つ支配者の温度差は開く一方だった。
「おかしな冗談はよせ。私はフラミーさんに関わる冗談は好かん」
「し、失礼いたしました。しかしながら……フラミー様の像はこちらには……」
「はぁ、もういい。わかったわかった。さては独り占めしたくなったな?お前らしいと言えばお前らしい。兎に角私はちょっと神都に行ってくる」
アインズは転移の指輪を使って第九階層に飛んだ。
メイドやセバスが頭を下げる中、アインズはフラミーの部屋へ向かった。
「こんこーん、フラミーさーん。神都にいきますよー」
扉を開けると中はシンと静まり返っていた。
「……ナインズの試着か?」
アインズは扉を締め直すと、後ろにいつの間にか一般メイドが控え、その扉は開けたかったとでも言うような空気を出していた。
「ま、いっか。三十分もいる予定はないしな」
「──アインズ様、おでかけでございますか?」
セバスの問いにアインズはうなずいた。
「あぁ、ちょっと神都に行ってくる」
「か、かしこまりました。すぐにアルベド様をお呼びいたします」
セバスが頭を下げ、足早にアインズの部屋に向かった。
アルベドも神都に用事があったかと思いながら、大神殿の神官達がいつもいるところ目掛け
「お待ち下さい!」「お待ち下さい!」「お待ち下さい!」
「なんだ?どうかしたか?」
「統括殿の到着をお待ちください!」
「先に行っているのではダメか?」
「どうかお待ち下さい!」
仕方なく待っていると、フル装備のアルベドがアインズの部屋から出てきた。
「お待たせいたしました。アインズ様」
どんな格好で行くんだと苦笑するとアインズは
いつもの神官達が呆然と目を見開きアインズを見ている。
「来たぞ。少し遅くなって悪かったな」
「平伏しなさい。頭が高いわよ」
確かにいつもより頭は高いが皆煌王国の吸収と最古の森の吸収で忙しいのだ。まるで気にならない。
「──ま、まさかアインズ・ウール・ゴウン魔導王!!」
一人の叫びにアインズは骨の顔をしかめた。
「何?パルトゥーシュ、お前は──」
あたりは騒然としていた。
アインズは神官達の部屋を見渡し、強烈な違和感に襲われた。
「──お、お前達……私がわからないのか……?」
闇の神官長マクシミリアン・オレイオ・ラギエに助けを求めるような視線を送ると、ラギエは弾かれたように叫んだ。
「や、やはりスルシャーナ様!?」
アインズは理解不能な事態に額を撫でた。
「おい……ラギエ……またスルシャーナと私を呼ぶか。もうその名はやめろ、からかうのは寄せ」
「スルシャーナ様!!」
「あなた達、アインズ様の名前を覚えられないの」
アルベドの怒気を孕む声音に全くその通りだと思った──が、妙な違和感があった。
いつものアルベドなら「アインズ様の尊きお名前」と言うであろう彼女は妙だ。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導王はスルシャーナ様……?」
「しかしそれではあのお方が何も言わないはずが!」
廊下も室内もどんどん騒がしくなって行った。神官達が皆揃いも揃ってアインズを魔導王、スルシャーナと呼ぶ。
「あ……ああ……ま、また後で来る。お前達は少し休め」
アインズは気味の悪い事態にアルベドの腕を取ると、背後に開いたままの
すぐさま第九階層に戻り
「アルベド、一体何が起きているんだあれは……」
「ア、アインズ様……大胆」
つるりと骨の胸を触るアルベドはやはりいつも通りだった。
「フラミーさんに大神殿に行くなと言わな──な?」
アルベドからは凄まじい怒りと──信じられないような憎悪が湧き上がった。
「あ、アルベド……?」
「いえ。フラミー様はお戻りですか?」
「い、いや……わからない……。第六階層で遊んでいるかも……」
「なるほど。ナザリックに戻ったと。もし以前あのワーカー共が言ったように偽物ではいけません。以前お借りしたルベドを連れて──」
「何!?ルベドだと!?お前あんなものを──待て、以前お借りしただと?それにワーカーって一体何の……」
アインズはフルフェイスの中のアルベドの表情を確認できなかった。
しかし、何か恐ろしいことがおきている。
アインズはフラミーを呼び出そうとこめかみに触れた。
繋がる先を探す。
──探すが、コール音すら響かずに
「……昼寝してるのか?フラミーさんはどこにいるんだ?ナインズは……」
アインズはこめかみから手を離すともう一度フラミーの部屋の扉を開けた。
中に
「アルベド、私は第六階層に行く」
「かしこまりました」
水上ヴィラで寝ているかもしれない。アインズは湖畔へ飛んだ。
湖畔は──やはり違和感。
アインズは混乱から頭痛を感じ地に膝をついた。
「アインズ様ー!」「あ、アインズ様!」
双子の声に振り返ると、いつもと変わらない様子の二人──いや、アウラの肩口程度まで伸ばしていた髪が昔のようにバッサリと短い。
「あ、アウラ……アウラ!何があったんだ!」
「っえ!?アインズ様!?」
「こんな、髪の毛も、ここも!!何があったんだ!!」
「アインズ様!?どうかされたんですか!?」
「一郎達の家も、子山羊もいないじゃないか!フラミーさんはどこだ!?ヴィラはどうした!!」
双子は混乱するようにアインズの瞳の左右の灯火を見ていた。
「一郎って誰ですか!?フラミー様がナザリックにお戻りになったんですか!?」
「フラミーさんがお戻りかって、お前はフラミーさんがどこに出かけたのか知らんのか!?」
「も、申し訳ありません!!フラミー様がどちらへお隠れになったか……あたしたちは……」
アウラが怯え始めるがアインズはお隠れなどと言う言葉を使われてカチンと来た。
「ええい!デミウルゴス!!デミウルゴスを呼べ!!」
「は、はい!」
双子が慌てて行動を開始する間、アインズはもう一度フラミーを探してこめかみに触れた。
「──フラミーさんどうしたってんだよ!」
募る不安が鎮静されていると、デミウルゴスが走ってくるのが見えた。
「アインズ様!!お待たせいたしました!!」
「お前フラミーさんのスケジュールはどうなっている!!」
「は、ふ、フラミー様でごさいますか!?」
「フラミーさんはどこへ行った!ナインズは!何時に帰ると言った!」
デミウルゴスもこれまでの守護者と同じ顔をしてアインズを見ていた。
「い、いえ存じ上げません。フラミー様は……ど、どちらに……」
「デミウルゴス、お前は一体何をして──」
「アインズ様!!」
そう呼ぶはパンドラズアクターだ。何故父上と呼ばないんだと思ったが構っていられない。フル装備のアルベドも続く。
「アインズ様、どうか一度落ち着かれてください!フラミー様はナザリックにお戻りなのですか!?」
息子の期待と恐怖のような瞳にアインズは「だから今デミウルゴスに帰宅時間を聞いている!」と叫んだ。
皆デミウルゴスを見る。
「わ、わかりません……。そもそも──フラミー様はこちらの世界へ来られたのですか?」
アインズは全員を見渡し、何かがおかしいと後ずさった。
「ふ、ふらみーさん……ないんず……何が……一体何が……。ここはどこなんだ……」
人だったらバクバクと心臓が鳴っていただろうが、アインズは今は骨だ。心臓はない。
しかし、心臓があまりにも煩くてアインズは胸をつかんだ。その腕に制御の腕輪はなかった。
「……し、始原の力……。始原の魔法は!?」
「……アインズ様……?」
自分の中にあるはずの力を必死で探す。
しかし、あるはずの力はなかった。
それどころかユグドラシルの魔力も少ない。
「こ、ここは……俺の世界じゃないとでも言うのか……?そ、それなら帰らないと……」
アインズのその呟きは守護者達の顔を青く、いや、それを通り越して黒くした。
「モモンガ様!?どうされたのですか!」
「アインズ様!!一体何が!!」
悲鳴じみた名を呼ぶ声にアインズはハッとした。ここは自分の世界ではないとしても、子供達は愛する子供達だった。
「あ、い、いや。皆、取り乱してすまなかった。落ち着いて聞いてくれ」
「嫌です!嫌です!!モモンガ様!!」
アルベドがヘルメットを脱ぎ去り、胸にすがると抱きしめ一度その頭を撫でた。
「アルベド、大丈夫だ。すまない。落ち着いて話を聞いてくれ」
「モモンガ様……」
何故ここのアルベドは自分をモモンガと呼ぶのだろう。パンドラズアクターは宝物殿を出たら自分を父上と呼ばないのだろう。
「私はリアルへ帰る気など毛頭ない。愛するお前達を残してどこかには行かない。誤解させてすまなかった」
アインズがそういうと守護者達は安堵の息をついた。
「パンドラズアクター、私と共に一度宝物殿に戻るぞ」
「……か、かしこまりました」
「お前達は仕事に戻れ。行くぞ」
アインズは指輪を使い宝物殿に向かった。
景色が切り替わる一瞬、デミウルゴスのどの指にも指輪がないのが見え、その胸は痛んだ。
(ここには本当にフラミーさんがいない……)
無言で付いてくるパンドラズアクターを従え、アインズは応接間に戻った。
「私はどのあたりに座っていたかな」
「こ、こちらに」
「よし」
アインズは座るとふぅ、と息を吐いた。
そして、自分しか開けられない箱を開くと中のノートを取り出し、最後のページにフラミーの顔を描いた。下手だが、鈴木悟になら見えるだろう。そのフラミーの幸せな顔が。
「パンドラズアクター、お前はフラミーさんを恨んでいるか」
「──いえ」
「そうか。アルベドのあの様子はもしフラミーさんが来ることがあればフラミーさんを害するだろう」
それはドラウディロンや色々な女達を見てきたアインズの勘だ。
「……お気付きで……」
「その時お前は俺を殴ってでもアルベドを止めさせろ。フラミーさんは俺たちの全てだ」
「心得ております」
アインズは頷きながら、ノートにあらゆるフラミーから貰った愛の言葉を書いた。鈴木悟へ向けたものの他に、パンドラズアクターを思いやる言葉も。
しばし部屋にペンを走らせる音だけが響く。そして書き連ねた五ページ程度を破るとパンドラズアクターに差し出した。
受け取り、さっと目を通したパンドラズアクターは揺らめき、泣いたようだった。
「嫌な役回りをさせるな。パンドラズアクター、ここで頼りになるのはお前しかいない。どうしてここにフラミーさんがいないのかは分からないが──お前はフラミーさんを探し出して守れ。どこかに、いや、もしいなければ百年後や二百年後の遠い未来に来るのかもしれない。わかったか」
「
パンドラズアクターはカツンっと踵を合わせ、姿勢良く敬礼をした。
これは期待できる。しかし、アインズは鎮静された。
そのままアインズは静かに瞳の灯火を消した。
「お前に、私とフラミーさん……すべてを任せる。お前にならできる。お前も私もフラミーさんに愛されているんだから」
「は」
「もし今いなくてもあの人は必ず来る。世界は百年ごとでしか渡れない。いつか必ず、そう。必ず来るのだ。そしてお前は私と抱き合って泣いて喜ぶ」
「は」
「その時まで、ナザリックとこの美しい──あの人が泣いて喜ぶこの大地を守れ」
「は。──しかし、父上」
「どうした」
「父上がそうされれば……よろしいのでは……」
「私もそうするとも。ただの念押しだ。さぁ、じゃあ私は行く」
「行くとは……どちらに……父上は父上ではないのですか?」
アインズは笑った。
「私はお前の父だ。私はいつまでもお前を愛している。忘れるな、フラミーさんも
「父上……」
「すまないな、じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
扉がノックされる音がする。アインズは気怠い体で許可を出すとビロードの布張りのトレーに
「お待たせいたしました!丁度良さそうなものをお持ちいたしました!」
扉を開けた風がフラミー像の手の中から葉っぱを飛ばすと、パンドラズアクターは「あぁ……」と悲しげな声を上げた。
アインズは葉っぱには興味がないので持ってこられたトレーを覗き込んだ。
どれも良い王笏代わりになりそうだが──「随分派手だな」
使わないのだから第一位階の魔法しか使えないようなものや、初心者向け
(──ま、良いか。使わないしな)
アインズは豪華そうに見える一本を受け取るとローブの腰にさした。
「これはどうだ?」
「持ってきておいて何ですが、こちらの方がよろしいのでは?」
アインズは差し出された一本を受け取ると、それはまた非常に派手な
「やれやれ。ではこの二本を持っていこう。衣装と並べて考えてみるか。さぁ、じゃあ私は行く」
そう言って人間の重たい体で立ち上がると、アインズは宝物殿を後にした。
き、奇妙〜〜〜〜〜(何やりたかったのかは分からない
(これを本編に投稿しようとしていたジッキンゲン男爵(男爵疲れてますよ!!