ウォーミングアップでもするかあ!!
「始原の魔法で竜が人になれてたってことは、父様も竜になれるんですか?」
それはナインズからの突然の質問だった。
アインズは首を振った。
「いや、私は多分竜にはなれん。体のイメージができないからな」
「体のイメージかぁ。じゃあ、女の人になるのは?」
「……それもちょっと難しいかもしれんな。私の中ではっきり想像できる女性の体と言えばフラミーさんだし」
「ふむふむ……なるほど」
ナインズがそんな事を言い出したのには訳があった。
神都を男子のこの姿で歩いているとレオネが何かと気を使うのだ。
(女同士だったら流石に誰も僕とはわからないし)
父の部屋を後にし、次はフラミーの部屋へ。
幻術で女の見た目にすると言うのも手だが、男より女は手が小さいし、背も小さいだろうと思うとただこの体に幻術をかけるだけでは何かと齟齬が発生する。物に触れようとした時に手の位置がズレているとか、目線がうまく合わないとか、声が男のままだとかは言うまでもない。
扉を叩き、中から入室の許可が出るとナインズは男でも女でもないが、女にしか見えない母に頭を下げた。
「――母様、ちょっとご相談なんですけど」
「はいはーい?どしたの?」
「始原の魔法で女の子になってみようと思うんですけど、女の子の体のイメージがわかなくて」
「お、女の子の体のイメージ?なんか変わったことしてるねぇ」
「ははは、まぁ、変装の一環というか」
「あ〜そういうことかぁ」
フラミーはソファから腰を上げるとくるりと回って見せた。
母と風呂に入らなくなって久しい。
なまじレオネの体で女体はしっかり見ているので、造形としてはなんとかなるはずだ。
だが、問題は中身。──つまり、臓器の類だ。
開いてみれない場所のことは母に聞いたほうがいい。保健体育の授業でも受けるような時間を過ごし、ナインズは母の部屋も後にした。
全生命の母は女体にも大変詳しかった。
(えーと、次は生贄の選定だ)
父はしょっちゅう人になったり骨になったりしているので、おそらくそう多くの代価は必要ではないはずだ。
ナインズと同じく偽りの使い手だった旧竜王国のドラウディロンも幼い姿に体を作り変えたりしていたようなので、草木や蟲獣程度で済むのではないかと思っている。
地表部に出ると、ナインズはそのまま墳墓を出た。
何もないなだらかな大地を歩いていく。
「さて、この辺でやってみるかな」
ナザリック地表部を出てすぐのその場所で座り、腕輪をそっと置く。
(母様の話をよく思い出して……)
それから、レオネの裸を思い描く。
(……僕ってやっぱりバカだな)
苦笑だ。
全く何をやっているんだと我ながら思う。
さわりと風が周りの芝を撫でていく。
父もドラウディロンも、おそらくこの魔法に名前は付けていない。
だが、イメージと魔法の効果を直結させるとするならば、魔法はやはり名前がついていた方が間違いが起こりにくい。
ナインズは自分が女の体になったところが見えるとつぶやいた。
「……魔法を使います。皆さん、生贄化を避けるために離れてください」
万が一誰かがいた時のための声かけを忘れない。授業で言われ続けて来た事だ。生贄化を避けるためではないが。
「――<流転の
静かな呟きと同時に、ナインズの周りの芝がゴワッと変色していく。
超位魔法やルーン魔術を使う時に魔法陣を用いるせいか、生贄となった芝は美しい陣を描いていた。
ナインズは胡座をかいたままの自らの体を見下ろした。
(……どうかな……)
ナザリックで過ごしている今日着ているのは魔法のローブのため、自動で体にフィットしてしまう。
だが、いつもより手のひらは小さく、立ち上がれば見える景色もずっと低い。
「できた……?」
そっと胸に両手を添える。
適当に揉むと、そこには出産と授乳を経験したたわわなフラミーの胸と、まだ成長途中のレオネの胸を足して二で割ったような中々立派なものがついていた。
「できた!あとは顔の確認だ。この体で男丸出しな顔だったら気持ち悪いよなぁ」
ナインズはおかしそうに笑うと尻についた死に絶えた草をはたき落とした。
そして、空中にルーンの魔法陣を書いていく。杖先でちょちょいと小型の魔法陣を一つ。
それは完成するとそうっと地面に落ちていき、ジュッと焼き付いて発光した。
「――皆、命を分けてくれてありがとう。また元気に育つんだよ」
死のミステリーサークルのようになった場所で、ルーンは大地を癒やした。
第六階層、湖畔。
その日、一郎太はセバスと共にいた。
「溜めて、溜めて――もっと溜めてください」
「も、もっとですかぁ!?」
「もっとです」
花のような形にした両手を腰にあて、構えていた一郎太は汗をぽたり、ぽたりと落としながら目を閉じた。
「もっとです!」
「はい!!」
手の中に
「……ッ」
「打てます!やってください!!」
「――<気功弾>!!」
両手を押し出すようにすると、一郎太からエネルギーの塊が放たれ、どうッと湖が割れた。
その先にある藁人形に命中すると、藁人形は粉々に砕け散り、水と藁人形の破片が辺りに散乱した。
「――っはぁ!はぁ!!」
「見事です。初めてだと言うのによく頑張りました」
武技のようだが、武技ではない。
一郎太は手にした新たな力に思わずニヤリと口角を上げた。
「へ、へへ。こ、これでナイ様に魔法を込めた剣を借りなくても……なんとか……っあ――」
凄まじい疲労感にその場でどさりと転がり、セバスは笑ってそれを見下ろした。
「休憩ですね」
「すみません、セバス様」
「いえ。私もそろそろ一度エ・ランテルへ行かなくてはなりませんし、今日は後は体を休めて下さい。無理は禁物です」
「ありがとうございます」
起きあがろうとするも、それは優しく押し留められ、セバスは去って行った。
そして「――おや?」
セバスが不思議がる声がした。
何だろうとセバスの行った方を見ると、アルメリアに似たような、ナインズに似たような、不思議な人がいた。
その人はセバスに手を振り、大の字に転がる一郎太を見下ろした。
「…………?」
こんな人はいただろうか。
「や、どうかな」
涼やかな声だった。
長い銀髪を抑えるその手付き。
深い友情を感じさせる視線。
ナインズがよく着ている豪奢なローブ。
「――ナイ様?」
「ふふ、完璧な変装だと思わない?」
「変装っていうか、それって幻術?」
一郎太が起き上がると、ナインズはその隣に座って大量に草のついた一郎太の背をはたいた。
「ううん、女の子の体になってみた!ちんちんもないよ」
こんな綺麗な顔をした女子からちんちんなんて言葉が出てくるとは思わず、一郎太は思わず笑った。
「ははは!何言ってるんですか」
「はは、完璧に女の子でしょ?」
「本当ですね。一瞬誰かわかんなかった」
「やった。でも、一瞬か。これでうろうろ神都に行っても世間から僕だって思われるかな?」
愛らしく耳障りの良い声だ。
一郎太は一度立ち上がり、後ろへ下がった。
湖畔で片膝を立てる可憐な女子は優しげに微笑んでいた。なまじローブを着ているせいでひどく女らしく見えた。
「いや、分かんないと思いますよ。多分、皆思いもしないから」
「やった。じゃ、これで今度レオネとデートしようかな」
ナインズは嬉しそうに笑い立ち上がった。
普段から一郎太の方が大きいが、このナインズは一層小さく、一郎太の胸の辺りまでしか身長がなかった。
腰に片手を当て、軽く足を開く立ち姿は明らかに男の所作で、何だか見た目とのチグハグさがすごい。
だが不思議とそれが妙に愛らしかった。
「それにしても、一太、またなんかすごいことやってたね」
「――あ、はい。遠くにいる敵に当てる
「へぇ。難しそうだ。見せてくれる?」
見上げてくる様子にポリポリと頬をかく。何故か体が女になられただけで少し話しにくかった。体格差や力の差のようなものを感じてしまい、本能が
「いや……今日はもう出せないんだよね、じゃなくて、えーと、出せないんです」
「うーん、そっか。残念」
ナインズがすごかったな〜と一郎太のさっきのポーズを真似て大股を開き、腰を落とす。
両手を花のような形にして身に引き寄せ、それを前に突き出す。
(……弱そう)
失礼な考えだ。
「――どうかした?」
「あ、いえ。出ないだろうけど、こうですよ」
背中からナインズの両手を取り、その身に引き寄せる。
「なるほど?剣の構えより体に近いな」
感想と同時にシュッと空気を切って押し出された手のスピードは常人のものではない。
(ふ、ナイ様はやっぱりナイ様だな)
一郎太は弱者を見る目を変えた。
「ナイ様、こうやって上体も少し捻って――」
さらに抱き込むような格好になると、ふにりと腕に何かがあった?
(――ん?)
見下ろせば何も気にしていない真剣な顔をしたナインズ。それから、一郎太の腕はナインズの胸に食い込んでいた。
「――っうわ!!」
「うわ?」
パッと両手を上げて後退り、一郎太はすぐに尻もちをついた。
「す、すみません!」
「何が?一太、大丈夫?」
女子とは違い、足を開いて前屈みになったナインズの胸はたゆんと揺れた。
いつものナインズの服だ。着崩したりしない彼が、いやらしい格好になるわけもないが、一郎太はぶんぶん顔を振った。
「な、ナイ様女みたいで紛らわしい!!」
「え?ははは、大成功ってことかな?さて、一太、この後用事は?」
「な、ないですけど……」
「じゃあ、一緒に神都に行かない?」
「……分かりました」
「ありがと。神都でおかしくないかっこになってくるから休んで待っててね」
すぐ戻るからーと手を振ってナインズは駆けていった。
「……えぇ……」
あの美貌だというのに無防備な笑顔で神都をうろついたらどうなってしまうんだ。
「な、ナンパされる……」
アルメリアがそうされないのはひとえに信じられないほどの近付き憎いオーラを放ち続けているからだ。
あの人懐こいような、優しげなナインズが街を歩いたりすれば、下手をすれば悪い男に攫われる。
一郎太は慌てて家に駆け戻り、少しでも強く見えるような、男らしい服装に着替えた。
「せっかくだから皆をびっくりさせてやろう」
そう笑ったナインズ嬢は大神殿を出ると、<
『はい、エルミナス・シャルパンティエです』
「ンッンン。や、エル。ナインズだけど、今から少しお茶でもどうかな?」
極力低い声を出すが、それでもいつもの声のようにはいかなかった。
『……殿下?』
明らかに不審がられている。<
「うん、そうだよ。続きはマスコンパスで」
『……無礼を承知で。ご本人なら何かそれを証明できるような事を――』
「ふふ、そう急くなよ。くればわかるって」
今ネタバラシになってはつまらない。
エルミナスは真面目なので、誰かがナインズのふりをして<
「キュー様悪い顔してんなぁ」
「ははは、楽しいねぇ。エルは絶対もう一人くらい連れて来てくれるよ」
二人でおかしそうに笑い、カフェ・マスコンパスへ向かった。
「あ、そうだ。キュー様、帰りに──」
と一郎太が隣を見ると、そこにナインズはいなかった。
「え!?キ、キュー様!?」
慌てて振り返れば、知らない男二人に話しかけられ、大真面目な顔でふんふん頷くナインズがいた。
一郎太は慌ててそちらへ駆けた。
「キュー様!」
「――あ、一太。どうも道に迷ったそうでね。
「この道まっすぐ行きゃすぐ標識がある!行け!しっし!」
一郎太が男性二人に手を振ると、男たちは「……彼氏連れかよ」と吐き捨てるように言って去っていった。
「一太、そんな言い方しちゃダメだろうに。一太だって慣れない街で道に迷ったら心細いでしょ」
ぷん、と手を腰に当てて見上げてくるナインズはいつもより背が低いうえに、やはり無防備に感じた。
お団子頭にフラミーの羽をさし、レオネにもらった手編みのマフラーを巻いている。
魔法のローブを隠すように大きすぎるぶかぶかの魔導学院のローブを着ているので、ますます弱そうだった。
手がぎりぎり袖から出るか出ないというような具合だ。
「……あいつらは絶対道なんか迷ってないんですよ」
「迷ってるって言っていたよ。やれやれ、可哀想なことをしたな」
マフラーからギリギリ出た口元からほわりと白い息が漏れていく。
「……キュー様、頼むから離れないで」
子供の頃のように手を繋ぐと一郎太はいつも通り歩き出した。
「見た目が女なだけで僕は変わらず魔法も剣も使えるよ?」
「わかってるけどさぁ……」
「でも、筋力はどうなってるのか少し心配だな」
「ほらぁ……」
ナインズは剣を腰ではなく背にかけていた。いつも神都に出る時に腰に下げているベルトは魔法の装備ではないのでこの体のナインズには大きすぎたようだ。
そういう事も含めて、やたらめったら小さく見えた。
(……気ぃ使う……)
無性に疲れるおでかけだった。
一郎太が普段の歩調で歩いていると、ナインズは数歩トコトコと進んでは一郎太の手に引かれるように小走りになって追いつき、また数歩歩いては数歩小走りに。
小動物が親を追うような姿だった。
「――あ、ご、ごめん。俺が早かったんですね。キュー様が離れたんじゃなくて」
「いや、背が低いっていうのは思ったより不便らしい。悪いね」
「いえ、ゆっくり歩きますから。すみません」
失態だ。
一郎太はナインズのそばでスピードを落とした。
「ありがとうね、一太」
全くいつもと変わらぬ微笑まれると、一郎太は困り笑いを返した。
妙に時間がかかりながらもマスコンパスにつくと、ナインズはにししと悪い顔で笑った。
「いるいる。やっぱりエルは一人じゃこなかったな」
いつもの席では何か文句を言っていそうなエルミナス、それを聞くカインとチェーザレ、ワルワラもいた。
ここから魔導学院の寮はそれなりに近いし、家族と住んでいるわけではないあの三人は呼ばれればすぐに出て来られる──と踏んだ人選だろう。
「それにしても、皆妙に集まりが早いね?」
「そりゃ殿下騙る不届き者から<
「ははは、皆の愛情が僕は嬉しいよ。一太、驚かせてくるからちょっと待ってて」
「気をつけてくださいよ?本当に」
ピースを振り、ナインズは四人の席へ向かった。
「や、皆」
ハッと見上げてきた男子達は目をぱちくりさせ、エルミナスは不愉快そうな顔でナインズを見た。
エルミナスからこういう目で見られたのは初めてだ。
──つまり、誰だかバレていない。
(ふふ、素晴らしいな)
「……君かな?私におかしな<
「うん、悪かったね。少し話がしたくて」
「……学院のローブ。三人はこの子に心当たりは?」
ワルワラとカイン、チェーザレは目を見合わせると首を振った。
「しらねぇな?だが、いい女だ」
「これだけ綺麗な子がいたら知ってそうだけど、君名前は?」
「カイン様、ちゃっかりナンパしないでください」
ナインズは適当なテーブルを一つ引き寄せてエルミナスの隣に座ると、ニコニコして顔を覗き込んだ。
「名前ね。名乗る前に──エル、本当に私が誰だか分からない?」
「分からないよ。会ったことも見たこともない」
「ふふ、そうか。私は君をよく知っているよ」
「……殿下を名乗るような不届な知人は私にはいないはずだけど」
カインはでれでれと「綺麗だな〜」と言いながらナインズを眺めたが、エルミナスの表情は崩れなかった。
通り掛かる店員にチャイ、シナモンたっぷりを注文する。
「エル様〜、エル様が忘れてるんじゃないの〜?」
「そんなはずはないよ。だいたい私は神都の友人は少ないし」
「魔導省の誰かの娘とか?」
「……そういう可能性?」
エルミナスは運ばれてきたチャイを受け取ったナインズをしげしげと眺めた。
「ふふ、どうかな。思い出せそう?」
「……職員の誰にも全く似てない……」
「寂しいな。君に忘れられてしまうなんて」
ナインズはくるりとチャイをスプーンで回した後に口を付けた。
「──待て、俺は分かったぞ。いや、分かりました」
その声はワルワラだった。
「ははは。こっそり正解を聞かせてもらおうかな」
ワルワラは席から身を乗り出し、ナインズの耳元に口を当てた。
「──姫殿下で?」
「違うよ?」
「あれ?絶対正解だと思ったんだけどな」
アルメリアに会ったことのないワルワラが座り直し、唸り始める。
カインはうっとりとナインズを眺め、「エル様は思い出せないみたいだし、僕とデートでも行かないかい?」とお馬鹿なことを言った。
「なるほど?それも面白そうだね。普通のデートがどんなものか気になるな」
「でしょう?僕はこう見えて結構神都に詳しいんだ。君の知らないようなところに連れて行ってあげるよ」
「ありがとう。後で二人で抜け出そう」
「わ、わぁ。ふふふ!そうしよう!」
カインが舞い上がると、エルミナスはじっとりとした目でそれを見た。
「いや、何を言っているんだ、カイン。その子は殿下を騙ったんだよ」
「え〜。それはそれ、これはこれだよ」
「エルはそんなに殿下が大切かい?」
「……本当は今すぐ君を大神殿に連れて行って神官にキツくお灸を据えてもらいたいくらいだよ」
「ありがとう。エルなりの愛だと思うと嬉しいよ」
「勘違いしないでくれるかな。君を矯正したくて言っているんじゃなくて、私は殿下のために言っているんだよ。私は殿下のためならなんだってできる。女子だろうと関係ない」
ナインズは微笑んだ。
「私もさ。私も君のためならほとんどのこと、どうってことないよ。エルミナス」
「──え?」
「ふふふ。私は嬉しかったんだ。ずっと知らん顔して助けてくれてたことも、ただの友達でいてくれたことも。君のおかげで私はたくさん友達を持てたよ」
エルミナスが決して忘れない言葉だ。
『僕嬉しかったんだ。ずっと知らん顔して助けてくれてたことも、ただの友達でいてくれたことも。君のおかげで僕はたくさん友達を持てた。だから、僕に任せて。僕は君のためならこんなこと、どうってことないんだよ。エルミナス』
子供の頃、父を前に言ってくれた全て。
ああ、思えばこの声は、幼き日のあの人によく似ている──。
「ま、まさか……で、殿下……?」
「ふふ、ははは。びっくりした?」
「そ、そんな。びっくりしました」
二人だけで分かりあうと、ワルワラは首を傾げた。
「姫殿下じゃないって言ったぞ?」
「姫殿下?姫殿下の肌は紫色だし、下々の存在はあんまり好きじゃないよ。なぁ、チェーザレ」
「そうですよね?なのに殿下って──」
「「「あ」」」
ナインズが手を振る先から一郎太が安堵の息を吐いて走ってくる。
「一太〜、皆本当に気が付かなかったよ」
「だから言ってんでしょ。幻術と違って丸ごと体が違うんだから。大きさまで違ってカップまで持ててたらまさか分かるはずないんですよ」
「ふふふ、面白いねえ」
「ってことは本当にスズキなのか?」
「キュー様だぜ。ワルワラのせいで近頃じゃすっかりイタズラ小僧になっちゃって参ったよ」
一郎太も席に着くとナインズはおかしそうに笑った。
「カイン、じゃあデートでも行こうか」
「キ、キュータ様……意地悪だ……」
「ははは。僕だと分かったらダメか。皆はデートでどんなところに行くのか知りたかったから残念だな」
カインは「えぇ〜〜〜」と悩ましそうな声を上げた。
「キュータ様だけど……これだけ可愛ければ……うーん……。でも下手なところに連れていけないな……」
そして、エルミナスはうっとりとナインズを眺めた。
「キュータ、カインは行かないみたいだし私とデートしよう」
「それなら俺が放埒なデートを教えてやろうか?」
「え、え?キュータ様、僕も別に行かないなんて言ってないですよ!?」
「じゃ、皆で行く?」
そんなのデートじゃないじゃんと男子は思った。
同時に、いや、これキュータだしデートしたって仕方ないよな、とも思った。
「皆どしたの?」
頬杖をついたナインズが男子達を見上げる。
表情の作り方や仕草は男の時のままだ。
誰だかわかってしまえば、もうそうとしか見えない。
「うーん、女子がお前に色めき立つのもわかる気がしてきた」
「うんうん。こう言う感じで見えてるわけだね」
「私はキュータが男の時から見る目は変えてないけど」
「……エルミナス、それはそれでどうなんだよ……」
「ははは、見た目が女の子なだけで僕は女の子として生きるつもりはないし、エルの見方が正解なんじゃないの?」
「……キュータ様、少し危機感持った方がいいんじゃ」
金を置いてぞろぞろと席を立つと、いつものようにナインズの隣には一郎太が並び、「ん」と手を出した。
「あぁ、うん」
ナインズも当たり前のように一郎太の手を繋ぎ、カインは「ず、ずるい……。なぜかズルく感じる……」と一郎太につぶやいた。
「おい、一郎太。何で手なんか繋ぐんだよ」
「いや、キュー様来る前に一回はぐれたから手繋ぐことにしたんだよ。ナンパされてんのに丁寧に道なんか教えてさぁ……」
「いや、道に迷ったって言ってたんだよ」
困ってたのに可哀想に……とナインズは心配げに来た道へ振り返っていた。
「……行こう。キュータはキュータだよ」
エルミナスの言葉に皆納得して出かけたらしい。
「そ、それで……そんな可愛らしい姿で?」
レオネはいつものカフェ・マスコンパスのテラス席に座るナインズを見下ろしていた。
「うん、これなら大手を振って君と神都を歩ける」
「魔法の無駄遣いですわね」
「無駄遣いどころか一番大事な事だから。──じゃ、行こう」
レオネが立ち上がったナインズの隣に並ぶ。
ナインズが手を差し出すのを、レオネはじっと見た後に腕に張り付いた。
「っん、珍しい」
「ふふ!誰もあなただって分かりませんもの!」
「ははは、新しい魔法作ったのは大正解だ」
二人は笑ってカフェを後にした。
これでいつでも楽しい女体化R18を楽しめる(???