食事を取り終わると四人は天空城から奪ってきた数々の戦利品を並べた。
「俺が一瞬で殺しちゃったけど、この本、殺した奴にしか使えなかったみたいですわ」
ワールドディザスターは名も知らぬ少女から奪った本をポイッと放り捨てた。
「勿体無かったですね。NPCだから復活魔法で生き返らせる事も出来ないしなぁ……」
アインズも残念そうに目の前の本を取る。
開くことすら叶わないそれを鑑定し──目を輝かせた。
「こ、これは……全ての魔法だと……?」
「モモンガさん、その驚き方かっくいい」
ペロロンチーノは緊張感がなさすぎる。
「どうしたんですか?全ての魔法?」
アインズはごくりと喉を鳴らすと首をかしげるフラミーを見た。
「これは……この世界の全ての魔法が載っています……。
「え?載ってるのって始原の魔法も?」
「わかりません……でも、そうだとしたら……力を集めに竜王行脚をしなきゃならないって話してた奴、あれはもう必要なくなります」
「……わぁ……すごい……」
二人で勝手に話を進めると、ウルベルトは少しつまらなそうにした。
「竜王とか始原の魔法とかってなんなんですか?俺とギルマスがいれば魔法なんて殆ど全部わかるようなもんじゃないですか」
アインズとフラミーは恐るべき世界の理を支える魔法について語った。
美しくあり続けるべき世界を守る覚悟、ツアーとの生死をかけたはじめての戦い、竜の谷で眠りから目覚めようとする常闇と呼ばれる竜王の存在、他の竜王達から隠されるべき奪った力──。
「……なんだよそれ……」
ウルベルトの感想に二人は気まずそうにした。
「あの、隠そうと思ってたんじゃないんですよ?まだ来たばっかりで、こんな……命がなんとかなんて……あんまりかなって……」
「それを隠すっていうんだろ、フラミー」
「ウルベルトさん、あなたにここの話をしたのは俺です……。フラミーさんは悪くないですから……」
アインズとフラミーを見る目は冷ややかだった。
「おい、ペロロンチーノ。お前も言ってやれ」
「んー。そうだね。そんな状況だって知ってたら、今頃──」
再び立ち去ると言うのか。
アインズは目を背けた。
「今頃、戦力増強に動き始めてなきゃいけないよね」
「そうだ。俺達はナザリックの脅威をそっとしておく程優しくないし臆病じゃない。ったくさっさと言えよ」
「──え?」
「で?常闇ちゃんぶっ倒す為にモモンガさんの始原の魔法の使い方を知らなきゃいけないなら、サクッとツアーちゃん呼び出しちゃおうよ。ギルド武器貰って、本の主だけ生き返らせないと」
「ペロロンチーノの言う通りだな」
二人はぷりぷり怒ると立ち上がった。
「ウルベルトさん……ペロさん……」
「どうしたんすかギルマス。ツアーとかいう竜呼び出しますよ。第六階層で良いですか?俺は自室に寄ってアイテム取ってから行くんで、十分後に上がります」
「俺はツアーちゃんに会う前にシャルティア愛でなきゃいけないんで、十時間後に上がりま──っあん!」
ウルベルトに頭を引っ叩かれたペロロンチーノは引きずられるようにアインズの部屋を立ち去った。
残された二人はポカンとし、アインズは仲間の大きさに震えた。
何度あの夢に出てくる強大な竜を思い出しても、フラミーと二人で戦って勝てるイメージは湧かなかった。
最悪フラミーだけを残して玉砕覚悟で挑まなければならないかと──。
「あいんずさん……。皆、心強いですね……」
フラミーの声は揺れていて、浮かんでいる涙を指の背でとってやると、困ったように笑った。
「私も、もっと強かったら良かったのに。強い人がいたら、こんなに簡単に不安がなくなっちゃうなんて」
「良いんです……。貴女は貴女のままで」
涙を拭った手でそっと頬に触れる。
「もっと役に立ちたいですよぉ」
「立ってますよ。あなたは俺の全てなんだから」
「皆が来たのに……そんなの……」
優しく何度も頬を撫でながら、アインズはこれを守りきれる気がした。
「俺の……全てです」
「あいんずさん……」
目を閉じてそっと顔を寄せていく。
もう何の心配もないなら、二人で何か、大きな幸せを──。
ガチャリと扉が開く音がし、アインズはガタリと立ち上がった。
「やっぱり俺っち──って、どうかしたんですか?モモンガさん」
「あ、ああ!何って何のことですか!」
「ん──?いえ、俺はウルベルトさんと違って何も回収する物無いんで一緒に第六階層上がろうと思ったんですけどー。もしかして僕ちゃん何かタイミング悪かったですか?」
「……い、いえ、そんなことは……」──大有りだ。
今は最重要課題のタイミングだったと言っても過言ではないだろう。
「ふ──ん?まぁ、ツアーだかルアーだか呼びに行きましょう」
「そうですね。ンンッ。フラミーさん行きましょう」
アインズが手を伸ばしてもフラミーは顔を赤くしたままプルプル震えて動かなかった。
「フラミーさん?」
「返事がない、ただの屍のようだ……」
「……ペロさん、先に上がってください」
「えぇっ。お友達と一緒に行きたいのにぃ」
アインズは少しきゅんとした。
「え?じゃ、じゃあ、一緒に行きましょう。フラミーさんもいきますよ。よいせ」
震えるフラミーを抱きかかえた。
「わぁお!!いいねいいね!!よっしゃー!レッツゴー!」
ペロロンチーノが転移すると、アインズはフラミーの顔をもう一度覗き込んだ。
「フラミーさん、大丈夫ですか……?」
「だ、だいじょぶ……だいじょぶ……」
アインズはフラミーのおでこに少し頬ずりした。
「フラミーさん。俺、あなたの事守り切れそうだ」
フラミーが自分を見上げた気がしたが、第六階層へ転移した。
ペロロンチーノは真夜中の湖畔で空を見上げていた。
「ブルプラさん……まじでこれ見たかったでしょうねー」
「本当ですよね。っていうかその略し方嫌だって言われてませんでした?」
「え?そうでしたっけ?ブルセラみたいなんて言ってたっけなぁ……」
アインズは肘でペロロンチーノを小突いた。
「フラミーさんに余計な言葉聞かせないでください」
「ぶるせらってなんですか?」
「なんでもないですよ」
まるで子供扱いだ。フラミーは少しむくれた。
「お待たせさーん」
ウルベルトも到着すると、やはり妙に接触の多い二人をじっと見た。
「お前たち本当なんなんだ?」
「お父さんと娘です」
フラミーは不愉快そうだ。
「なるほど。ギルマスは昔からフラミーの保護者だからな」
「私子供じゃないです!」
「分かった分かった。この中では一番子供だよ」
ウルベルトがフラミーに手を伸ばすと、アインズは無意識に一歩後ずさった。
「ん?なんだ?」
「ほら、フラミーさん。ツアー呼んでください」
そっと降ろされたフラミーはやってやるぜと少し得意げだ。
「ふふ。任せてください!
ようやく活躍のタイミングが訪れたフラミーはいつもの様に頭だけ突っ込んだ。
「……これなんなんですか?」
ウルベルトはフラミーの尻を見ながら首を傾げていた。
「こう言うAVありますよね」
どこかからか謎の感想が響くが二人は無視した。
「それがツアーの家にはフラミーさんしか行ったことないんですよ。でもツアーは始原の魔法を失ったとはいえ強大な竜なので……目に届くところまでしか潜るなって──」
「え!?誰も!?向こうに引き込まれたらあぶねーじゃん!!」
ウルベルトは慌ててフラミーを掴むと
ポプリと胸に収まったフラミーは目を白黒させていた。
「っなんですか!?どしたの!?」
「フラミー!危ないだろ!!俺が行くからお前はもう
ウルベルトがフラミーを叱っていると、闇からは白金の鎧が踏み出してきた。
「アインズ。フラミーに呼ばれたんだけど──」
ツアーはウルベルトとペロロンチーノを探るように眺めた。
「……随分邪悪そうなの増えているね……」
「お?これがツアーか?俺はウルベルト・アレイン・オードル。ギルマスの──いや、あいんずさんの友達だよ」
「俺はペロロンチーノ!モモンガさんの友達だよ!」
「……ももんが。スルシャーナが呼んでいたアインズのもう一つの名前だね。友達だということはエヌピーシーではないのかな。僕はツァインドルクス・ヴァイシオン。
「分からず屋だって聞いてたけどツアー君結構話早いじゃん!」
ペロロンチーノはツアーに可もなく不可もない感想を抱いた。
「そうかい。君達は世界に協力するものかな」
「え?世界に協力?」
「アインズは初めて出会った時、すぐにそうだと応えた。君は違うのかい」
「ちょ、ちょっと待ってツアーちゃん!ウルベルトさん、バトンタッチ!!」
ペロロンチーノの中でツアーは謎の言葉を話して迫ってくるやばい奴に降格した。
「世界に協力?どう言う意味だ?」
アインズがちらりとウルベルトの腕の中のフラミーを見ると、ツアーは竜の目を細めた。
「あー、ツアー、この人達は世界に協力する者だ。安心しろ。それより、八欲王のギルド武器を貸してくれないか?常闇を倒すいい手が見つかりそうなんだ」
ツアーも知らないような強大な始原の魔法をあの
「……分かったと言いたいところだけど、今は断る。フラミー。オードルの側にいちゃいけない。こっちに来るんだ。それは君に悪影響だ」
お団子をもちもちと握っていたウルベルトはびっくりしたような目でアインズとツアーを交互に見た。
「えっ、ウルベルトさん……害獣扱い……」
フラミーは自分のお団子を弄ぶ悪魔を見上げた。
「……なんで?俺がフラミーに悪影響?」
「オードル。フラミーを離すんだ」
「ツアー落ち着け。この人は大丈夫だ。それにギルド武器は壊すんじゃなくて天空城のNPCを一人生き返らせたいだけなんだ。一緒に来てくれるならずっとお前が持っていてくれてもいい」
アインズは何故こうもツアーがウルベルトを嫌うのか解らない。
皆カルマは極悪で変わらないし、世界に協力する者かと言う質問の意図は新参二人揃って掴めていない。
「アインズは静かにしていてくれ。フラミー、こっちに来るんだ」
フラミーはツアーと困ったようにしているウルベルトを交互に見るとツアーの鎧の前にチテテテ……と寄った。
「ツアーさん、ウルベルトさん見た目は邪悪だけど、怖くないですよ?」
「いいや。フラミー、君はアインズの孤独を癒すために必要だ。オードルはそれの邪魔をしかねない」
「違いますよ。ウルベルトさんの方が私よりよっぽどアインズさんの孤独を癒してくれる人なんです」
「……フラミー。君はまだ何もわかっていない。さぁ、僕を向こうに帰してくれ」
「むぅ。分からず屋だなぁ」
フラミーが
「わっ、本当にどしたの?」
「アインズ。君のためだ。フラミーはしばらくうちで預かるよ」
「は?お前何言ってんだ?」
鎧がそのまま
「ま、待て!!何でだ!!少しも私のためにならん!!フラミーさんを連れて行かないでくれ!!」
「ツアーさん、私向こうには行かないですよ?」
「困ったな……。フラミー。危険なんだ。わかってくれるね」
「わかんないですよ……」
「君を大切に思うアインズの気持ちをバラバラにされたら世界もバラバラになる。僕は世界のために君をアインズ以外の全てから守らないといけないんだよ」
「でもウルベルトさんは危なくないですって」
ツアーはフラミーに行ってきますと言わせなければ評議国が吹き飛ぶと分かっているので
しかし山羊の腕の中のフラミーを見るアインズの瞳の奥には一言では表現できない様々な感情が渦巻いていた。
フラミーの存在は世界の全てを握っている。
「……アインズ、僕は決してフラミーに危害を加えたりはしない。君がこのナザリックの全てを御し切れるようになるまでだけだ。フラミーを僕に預からせてくれ」
「無理だ!!ツアー頼む、降ろしてくれ。私は竜のお前とフラミーさんを二人にはできない!!頼むから!お前は俺の仲間なんだろ……!」
「仲間だからこそだよアインズ……。フラミー、行ってきますと言うんだ」
「えぇ……?ツアーさん、心配ならナザリックにお泊まりしていいから、落ち着いてください」
フラミーは
「……わかった。僕がここに残ることで対応しよう」
その場には安堵のため息にあふれた。
「……モモンガさん、あの子やばい子ね?」
「……そうなんですよ……。はぁ……本当に何考えてるのか分かったもんじゃない」
「…………俺、そんなにフラミーに悪影響なの……」
何も悪いことをしていないウルベルトはただただ落ち込んでいた。
おもちかえりぃ!