「い、今のは──」
評議国へ向かっていたアインズは遠くの空が赤く光ったのを目撃していた。
「っくそ!!なんなんだ私は!!700も魔法を修得してこの役立たずぶりは!!」
星が落ちたのを見届けたアインズは強烈な憤怒に燃え、何度抑え込まれても抑え込みきれない怒りが次から次へと押し寄せていた。
「っくそ!っくそが!!」
地を何度も蹴り上げると、尋常ではない肉体能力によって大量の砂や土が舞った。
周囲には土煙が起こったが、アインズの怒りは収まらなかった。
「あ、アインズ様!お怒りをお鎮めください!」
アルベドの声と、同行しているセバスと
「俺は…………なんて……無力なんだ……っ!」
震える声。肉体があったら涙をこぼしていただろう。
何が起きているのか感じ取っている面々は何の役にも立たない己を呪い泣いていた。
「……すまなかった。もう一度フラミーさんに
言い掛けた時、どこかとの接続を感じる。
「フラミーさん!!」
『っあ、あいんずさん、ごめんなさい……わたし、わたし……』
「無事か!?」
『無事です、ツアーさんがやっつけてくれました……』
「ツ、ツアーさんが……。良かった……」
知らない奴だが、本当に一緒にいてくれて良かったとアインズはツアーという男に深く感謝した。
『もうやだよ……っうぅ……すずきさん……』
「……ッ……とにかく、俺も評議国に留まらないでそっちに向かうから、もう少しだから……」
『うん……うん……』
二人は震える声で別れを告げ合い、アインズはだらりと腕を下ろした。
「……私は強くならなければ……」
+
ツアーはフラミーの手を引いて歩いた。
ぐすぐすと泣いて目を腫らし、何とか杖だけを抱く姿は実に無害そうだった。
焼けてしまったボロボロのローブからは美しい翼が見えていた。
「……フラミー、僕は君を家に連れ帰るまで寝ないと決めたから、安心してくれ……」
「っうぅっ……もう一人にしないでください……」
「あぁ……すまなかったね……」
「でも、助けてくれてありがとうございました……」
「…………あぁ」
フラミーはあれを自分でやったと思っていないのか、それともあれの熱から少しでも守ろうとしたことを言っているのか、ツアーにはわからなかった。
無言で進んでいくと、ようやく焦げた地は終わり、美しい野が再び広がっていた。
兎に角早く連れ帰る──自分の竜の身の下へ連れ帰ろうと決めた。
これの持つ力は尋常じゃない。
本人にその気がなくても、何かのタイミングで再びあんなことが起これば世界はもたないだろう。
鎧でも恐らく殺せるだろうが、今はまだ観察期間だ。
ツアーの足はさらに早まった。
二人は手を取り合い三日三晩歩き続けた。
フラミーは何度もアインズへ連絡を取り、これまでのように笑うようになった。
ツアーも眠気の中、竜の身で何度もあくびをしながら一心不乱に家を目指す。
フラミーの歌う歌を覚え共に歌い、フラミーに野生の果物を捥いで渡し、野に生える花を贈り、髪を梳かした。
雨が降れば二人肩を寄せ合い木の陰で休み、笑った。
「私、ツアーさんが追いかけてくれて良かったです」
「そうかい。僕も君を追って良かったよ」
まさかあんな力を持つなんて思わなかった。
フラミーを回収できずに国が次々と失われるような事にならなくて良かった。
「フラミー、これからは無闇に力を使ってはいけないよ」
「本当にあれを私がやったなんてまだ信じられません……」
「それでもあれは君がやったことなんだ。気を付けてくれるね」
「はぁい」
ポタリと最後の雫が落ちると二人は再び歩き始めた。
その後五日目にはフラミーはすっかり出会った頃のようになり、何かに怯える事をやめた。
「ほら、フラミー。これは酸っぱいけど美味しい──と、かつての仲間が言っていたんだ」
今日もツアーはフラミーに餌をやった。
可愛らしいペットのようなぷれいやーは人懐こい顔でそれを受け取る。
「ありがとうございます。物食べないなんてツアーさんはその中どんな人なんですか?」
「ん……僕は人ではないよ」
ツアーはかつて仲間に散々騙されたと伽藍堂の鎧だった事を責められたことを思い出す。
「だから寝なくても平気なんですね」
「……まぁね。今にも寝そうだけど」
フラミーの顔が不安に染まると、ツアーは本当に困ったなと思いながら首を振った。
「嘘だよ。まだまだ起きていられるとも。──それより、そろそろあれから五日だ。ゴウンは評議国についた頃だろう。僕たちも後七日もすれば評議国だ」
「来週には会えるんだ……鈴木さん……」
目に見えて安堵している様子だ。
ツアーは巨体でむにゃむにゃとアクビをした。
眠い。それに腹も減った。
やれやれと息をつくと、ツアーの家にはドタドタと騒がしい音が聞こえ出し、永久評議員である
「ツァインドルクス=ヴァイシオン!!アインズ・ウール・ゴウンを名乗る謎のアンデッドが、貴様を探していると議会に姿を現したぞ!!」
「何?そうかい、ここに通してくれ」
オムナードセンスは「小間使いのように使いおって」と舌打ちをすると再びその場を立ち去った。
そして──あまりにも禍々しい気配が立ち込めていく。
ここに通すようの言ったのは失敗だったかとギルド武器をその身の下に隠した。
眠い体に鞭を打ち、フラミーとともに鎧を歩かせる。
カツン、カツン、と硬質なものが床を叩く音が響くと、それは姿を現した。
(──スルシャーナ。いや──)
「アインズ・ウール・ゴウンだね」
「あぁ。お前が──いや、貴方がうちの人が世話になっているツアーさんですか……?」
「そうだよ、ゴウン。フラミーは今ここから西へ海を渡った先にいる」
「……そうか……。フラミーさんは無事に、進んでいるんですよね?」
「何とかね。僕も一刻も早くここへ連れ戻したいけれど、いかんせん物理的な問題がある」
骸骨はその場にヘタリ込むと、腰に黒い翼を生やした邪悪そうな者がその身を案じるように触れた。
「アインズ様、あれを」
「あ、あぁ……そうだな……」
そう言うと、アインズは闇に手を突っ込み、鏡を取り出した。
何をするかと見ていると、それをツアーへ向けた。
「ツアーさん、すみませんがこれでフラミーさんのいる場所を映せないでしょうか……」
「……使い方も意味もわからないよ」
「あなた、アインズ様が頭を下げられているのに!!」
爆発するような殺意にツアーは戦いかと一瞬鎧から意識を切った。
「やめろアルベド!!!」
ビリリと空気が震えると、アルベドは即座に頭を下げ殺意は霧散していた。
「……従属神か」
急ぎ鎧に意識を繋ぎ直すと、そちらではフラミーが心配そうにツアーの鎧を見上げている様が見え、その頭に手を乗せた。
アインズの咳払いが響く。
「すみません、ツアーさん」
「いや、いいよ。これが重要な事だというのはわかった。それで、僕はどうすれば良いんだい」
「これで見た景色の場所に私は魔法で飛べます。操作は──」
ツアーは納得すると、言われたようにしていく。
鏡の中の景色は海を渡り、自分達のいる方へグングン向かい出した。
しかし、鎧の操作と鏡の操作をいっぺんに出来るほどツアーは器用じゃなかった。
一度鏡の操作を止めると、鎧へ集中した。
「フラミー、すまないけど、少しだけ僕は立ち止まる」
「……つかれました?」
「あぁ。でも、寝たりしないから、ただ座るだけだから待ってくれるね」
「はい。すみません……」
「いいんだよ」
鎧でフラミーを抱き上げ、手近な木の根に座る。
「じゃあ、僕は少し黙るけど、決して寝ていないから」
「ふふ。起きてくれるなら寝てもいいんですよ」
ツアーは何かにフラミーが害されないようにその身を抱き、包むと鎧から意識を離した。
「──よし、これでいい。ゴウン、待たせたね」
「いえ。それより、ゴウンじゃなくてアインズと呼んでください」
「そうかい、アインズ。じゃあ続きといこう」
鏡の景色が猛スピードで動く中、ツアーはアインズもその肉体程邪悪ではなさそうだと悟った。
(スルシャーナ、君の神は悪くなさそうだ)
アインズはいつもフラミーがするようにこめかみに触れると、ひとりブツブツなにかを話し出した。
鎧へ意識を繋ぐと、フラミーが興奮していた。
「ツアーさん!アインズさんと連絡取ってるんですか!」
「……あぁ、連絡を取っていると言うか今うちに来ているよ。鏡でここを映せって言われてる」
「うちに……?私達、もう動かなくていいんですか?」
「そう言う事だね。もう少しの辛抱だよ」
「よかったぁ」
鎧の腕の中で微笑むフラミーの目の端には涙が光っていた。
ツアーは涙を拭ってやるとフラミーを抱えたまま再び鎧から意識を切り離した。
「アインズ、もう少しだよ」
「本当に助かります。良かった……」
間も無く鏡の中にはフラミーと、それを抱きすくめる鎧が映った。
「ッ……これは、誰も入っていない鎧なんだろうな──いや、なんですね?」
「あぁ。ただの鎧だよ」
「
アインズは人に質問しておきながら叫ぶと突如開いた黒い穴を潜った。
「村瀬さん!!」
「鈴木さん!!」
フラミーが鎧の腕の中からアインズへ向かって手を伸ばすと鎧は動き出し、フラミーを解放した。
二人は抱き締め合うと、わんわん泣いた。
いや、実際に泣いているのはフラミーだけだったが、何故か骸骨も泣いているように見えた。
「はぁ、良かった。これで僕は眠れるわけだ」
ツアーの鎧が呟くとアインズはフラミーを抱き締めたまま何度も頭を下げた。
「ありがとうございます、本当に助かりました。あぁ……良かった……。この人が手に戻らなかったら──
──世界を蹂躙するところだった」
ツアーは目を細めた。
完!!!
この後ツアーとめちゃくちゃ喧嘩した(ぁ
評議国から始まる世界征服☆
裏も50話!表ももうじき200話!
あぁ〜〜すごい〜〜
付き合ってくださる方が居てこそです本当に