職業が悩ましいところですよね
弁護士、テロリスト、色々提案してもらったけど悩んだ結果は――
なお、ウルベルトさんの名前はユズリハ様に考えてもらいました!
安直ネーム大好き!
「そう言えば
「まぁな。今日は俺の人生をだいぶ左右する日だから。」
宇留部は一番良いスーツに身を包んでいた。
「人生を左右、ですか?また大袈裟だなぁ。ははは。」
笑われても気にしない。今日は本当に人生を左右するのだから。
ありかなしかのジャッジは第一印象で決まるだろう。
「女口説くってのに半端なカッコも覚悟もダサいだろ。」
「え"?宇留部さん、デートですか?あの女嫌いが。」
「……保護者付きでな。」
「…また警察に厄介になるような真似はやめて下さいよ。」
「ならんわ!!」
噛み付くようにそう言うと宇留部は窓の前の大きめのデスクを立った。
「じゃあな、
「へーい。お疲れ様でした、せーんせい。」
宇留部は先生と言う言葉に得意げに口角を上げると部下に手を振り、グレーのマフラーを首にかけ、気に入りの黒いチェスターコートを翻すように袖を通して事務所を後にした。
小さな事務所の扉がパタリと閉まる。
扉の外はすぐに外階段だ。雑居ビルの二階。ほぅ…っと息を吐くと、白く染まって流れて消えた。
空からは灰色の穢らわしい雪が降り、宇留部は鞄の底に入れっぱなしの折り畳み傘と、黒い皮の手袋を出した。
思ったよりも冷えると思っていたが、これは良くない天気だ。
酸性に強く傾いた雪も雨も、世界を汚す。
川や海、土中に暮らす生き物を容赦なく殺し、死の土は作物を育てさせる事を許さない。
鉄はことごとく錆び、コンクリートを急速に老化させる為に建築物の寿命は短い。
ぼんやりと遠くに光るアーコロジーは月の繭のようにその存在を主張していた。莫大な金をかけて整備、管理されている――政府のほとんどのインフラ予算を投入している――為に、それは綺麗で、どこまでも不愉快だった。
「早くぶっ壊さねぇとな。」
従業員をたった一人だけ雇っている小さな探偵事務所の主人は呟いた。
自分の親の遺体の行方を探したり、親の死に様を調べることで始めたその活動はいつしか「うちの親のことも調べてくれ」という積み重ねを経て職業となっていた。
日々多くの人々が身内の遺体の行き先を調べてくれだとか、何の罪もないのに警察に連れて行かれた身内を探してくれだとかと宇留部の事務所の扉を叩き――嫌な仕事は尽きることがない。ただ、所謂殺人事件の捜査であるとか警察と協力して何とかと言うことはない。もっぱら人探しがほとんどだ。
警察達は無政府主義者や国家の存在を否定する者、過激な主義主張を唱える者達を査察、内偵し取り締まる局をもつ。
宇留部と日下部は仕事柄そんな者達と嫌でも顔を合わせてきた。
そして、心底むかつく男とも。
――宇留部
――
――時にはそう言うこともあります…。世界の秩序を守る為に我々も正義を行っているんですから。
――俺はお前は悪だと思う。何が困ってる人を助けるのは当たり前だ。取り残された息子はどうなる。
――ウルベルトさん、良い加減にしてください。私だって法に則って内部から世界を変えようとしてるんです。私はここで頂点を目指しますよ。
――このくそったれな世界を支える法に正義がないとしても、お前はそれを守って世界を変えられるって思うのかよ。てっぺんが見えた頃にはお前も体制に取り込まれる哀れな老人だ。
――今は正義じゃなくとも、必ず私が正義へと変えて見せます。老人になっていたとしても。
――いいさ。たっち、お前は精々あったかい
――…壊した中から作り上げる苦労がわからないんですか。誰も暮らせない世界が訪れるに決まってる。
――アーコロジーの外に棄民された人間には関係ないことさ。暮らせないのはアーコロジーの中で生きてきたやつだけだ。お前みたいな、な。
――誰かの生活を踏みにじるとしてもあなたはその方法を取ると言うんですか。
――そうさ。お前達が人の生活を踏み躙り続けているんだからな。あの人だって、それが嫌でユグドラシル引退したんだ。
――詭弁を。
宇留部はハッと息を短く吐くと、手袋を着け、傘を開いた。バンっと音が鳴ると通りを行く人がチラリとだけその姿を見て、また無関心に横切って行った。
(別に俺は王になりたいだとか、偉くなりたいとか、そんな事はカケラも思っちゃいない。)
冷えから体を守るように肩を竦めて歩き出すと、師走の街は意外にも賑わっていた。
今の日本は人口も多くはない。政府は人口が減った小さな集落や市町村を平気で見捨て、道の整備や水道管の取り替え事業を行わなくなった。木々は枯れ果てている為に地滑りを止める植物はなく、山間部の集落は殆どが山崩れや地滑りにより飲み込まれて消えた。
人々は残る、片手で数えられるような数の都市に集中して暮らしている為、ギルドメンバーも大抵「その都市は俺も暮らしているよ」と暮らしているところが被る。
宇留部は駅に着き、電車に乗るとぼんやりと窓の外を眺めた。
電車もかつては遠くまで伸びていたが、今では廃線も非常に多い。昔はよほど世界は広かっただろうなと漠然と思わされる。
アリの巣の方がよほど広いなと――近頃絶滅したと言う小さな生き物に考えを巡らせ、宇留部は今日会うフラミーと言う謎の生命体のことを考えた。
(…海のカレンダー貼ったって言ってたっけ…。)
ちらりと時計を確認するとまだ約束の八時までは少し時間がありそうだった。
約束の駅に着くと、宇留部は生活雑貨を中心に取り扱っている店に向かった。
ビルの入り口で傘を畳むとフロアガイドを眺める。
(…二階バッグ&トラベル…三階ヘルス&ビューティー…ヘルスってなんだよ…。四階キッチン&トイレタリー…五階インテリア………あれ、文房具とかってないんだっけ…?六階DIYツール&マテリアル…マテリアルって語感良いな…。今度詠唱に加えよ。えーと、七階バラエティー…バラエティー?…八階…ステーショナリー!これだ!!)
一番上じゃんと宇留部は下から確認したのを若干後悔し、八階へ向かった。
アーコロジーに程近いこの駅は治安も客層も良い。
エスカレーターで軽くそれぞれの階に置かれている物を眺めながら八階まで上がった。
来年のカレンダーが所狭しと並ぶ。
(どれにするかなぁ。こう言う猫とかじゃなくて…やっぱり海とか空が良いのか?)
宇留部はフラミーの好きそうなカレンダーに当たりをつけた。黒い手袋に覆われた手で筒状にされているカレンダーを一本取りレジへ向かった。
会計に電子マネーのタッチを済ませ――もし趣味じゃなかったらどうしようと今更ながらに思った。
フラミーのことだ。一年間好きでもないカレンダーを律儀に掛け続けそうだ。
(…あんまり良くなかったかな…。)
宇留部は今買ったばかりのカレンダーに視線を落として苦笑した。
とはいえ、友達もいると言うのに花束などと言う超高級品を買うのもおかしいだろう。このくらいがちょうどいい気がした。
「…ま、事務所で使っても良いか。」
エレベーターで一階まで降りると、雪が止んでいる事にふむ、と声を漏らしてカレンダーでトントンと肩を叩きながら約束の店に向かった。
(結局居酒屋だけどフラミーが呑まなきゃ良いんだもんな。)
時刻は八時十分前。
そわそわと何度も時計を確認した。
今時腕時計をしている人も少ないが、これは宇留部のポリシーだ。
しばらくすると疲れ顔の友人が一人。
「お、ヘロヘロさん。」
「ウルベルトさ〜ん。あぁ〜…なんとか終わりましたよ…でも三時起きで仕事行ったから眠いです。もう俺帰りたい…。」
「まぁまぁ、フラミー見れるってんだから我慢して下さいよ。」
「あ、そこだけは興味あります。フラミーさんて伝説のポッケモンスターみたいな感じですし。」
「ポッケモンスターフラミー…。」
何十個もタイトルの出ている超人気ゲームだ。千を超える豊富なモンスターをポッケに仕舞える。子供の頃は誰もが指サック状のゴム人形を持っていた。
「寒いし先に入ります?」
「い、いや。待ってから入る。」
ヘロヘロの疑問形の言葉は入りたいと言う訴えだと解っていたが、ウルベルトは緊張が高まり、座ったら貧乏揺すりしそうで嫌だった。
「寒いのに…。」
「先に入ってても良いっすよ。」
「……一人じゃ寝そうだからやめておきます。」
ヘロヘロと二人店の軒先で過ごしていると、ちらほらと再び雪が降り出した。
「――あいつ、転んだりしてないよな…。」
ウルベルトは空を見上げた。
「ウルベルトさーん、ヘロヘロさーん。」
毎日聞いているギルドマスターの声に視線をやれば、いつもの優しそうなへらりとした顔のモモンガと――鼻の頭を真っ赤にしたお団子頭の小さな生き物がいた。
鼻までマフラーに埋もれ、耳には温かそうなイヤーマフ、手を覆う薄紫色の手袋。
宇留部はじっと眺め、「…なんだあの生き物…。」と考えた。放っておけば容易に絶滅しそうだった。何ならウサギのように孤独を感じるだけで死にそうだった。
スカートからはタイツに覆われた細い足が出ていて、膝小僧が見えそうで見えない。
「お疲れ様で〜す。わーフラミーさん、こりゃウルベルトさんに誘拐されちゃうわ〜。」
ヘロヘロは興味深そうに小さな生き物を覗き込んだ。
「ふ、フラミーです!よろしくお願いします!」
ぷるぷるしていそうな人はぺこりと頭を下げた。
まるきりギルドに入った日と同じような様子に思わず宇留部はぷっと笑った。
「緊張すんなよ、俺はウルベルトさんだ。よろしく。」
「ヘロヘロさんです〜。」
フラミーが二人にぺこぺこと頭を下げると、モモンガは店を指さした。
「とにかく、店入りましょう。寒いですしね。」
「やー本当寒かったですよ。まさかモモンガさんと来るとはな。」
「あ、あの、たまたまそこで会いました!」
「そーかそーか。フラミー、モモンガさんに変なことされてないな?」
「え?変なこと?」
「んな!してませんよ!!」
「そりゃ良かった。兎に角あったかいもの食べたいすね。」
「座ってあったかいもの食べたら寝る。」
四人は店に入ると一番奥の座敷に通された。
本編かな…?
日下部さんは部下って一目でわかる名前をつけた。ドヤ顔
そして「ウルベルトさんの事務所でお茶汲みするふらら」と言うのを叶えたくてたんていになった(ひらがな
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