※この作品はR-18です。

眠夢裏   作:ジッキンゲン男爵

92 / 125
ウルベルト分岐物語#14キス

「遅い。」

 ウルベルトはフラミーゾーンでスマホと睨めっこしていた。

 すると、ブブっとスマホが揺れ、すぐに開くと読み上げた。

「次で着きます…。」

 コートもマスクも準備万端のウルベルトは鍵と手帳だけ引っ掴むと小走りで部屋を出た。

 一駅前に着くところで連絡を貰い、駅に迎えに行くとちょうどいい。

 改札にフラミーが降りて来るのとほとんど同時に駅に着けるはずだ。

 ウルベルトは鍵を掛けると階段を降りて行った。

(次引っ越すとしたらエレベーターのあるところで…1LDK…いや、部屋が二ついるなら2DKとかかな。)

 自分がリビングに寝るのか、ちゃんと寝室を持つかで家賃は大きく変わりそうだ。

 首にかけてあるガスマスクが足取りに合わせて跳ねた。

 改札に着いて人の波を見ていると、お団子頭を見つけ、ウルベルトは手を上げた。

 嬉しそうに手が振り返され、フラミーは軽く走った。

「…あーあー走ると危ねぇじゃん…。」

 思わず口から不安が漏れ出ると小さな同居人は足元も見ずにウルベルトに駆け寄り――その前でつまづいた。

「っあ!」「ッバカ!」

 慌ててフラミーを抱き留めると、ウルベルトはやっぱり美味しかったから許す、と心の中で呟いた。

「危ないだろ?飲んでヒールの時は走るなって。」

「えへぇ、すみません。」

 へにゃりと笑ったフラミーをちゃんと立たせると、いつものように手を差し出した。

「ったくすっかり酔いやがって。そんな顔して過ごしてきたのか?」

「むぅ、ちゃんとしてましたよ。」

「どうだかね。――それで、楽しかったか?送別会。」

「はい!あんまり長く勤めてなかったですけど、皆惜しんでくれてとってもありがたかったです!」

「そっか。良かったな。」

 二人は手を繋いで家へ向かった。

「今日、結構空気澄んでんな。マスクいらなかったわ。」

「ダメですよぉ。いつどんな風が吹くかわからないんですから、ちゃんと持ち歩いてください。」

「はは、分かってる分かってる。ありがとさん。」

 気遣われる気持ちよさにウルベルトは目を細めた。フラミーの大切なものになれている気がするから。

 

 家に着くとポケットから鍵を取り出し、二人は家に入った。

「ふー、帰りましたぁ。」

「おかえり。風呂入る?もう寝る?」

「お風呂入ってねまぁす。」

「あいよ。俺はユグドラシルするわ。」

 ウルベルトはフラミーの鞄と手袋を受け取り、コートを脱がせると部屋に入って行った。

 フラミーが先に帰っているときにはウルベルトがコートを脱がされ、鞄と手袋を片付けてもらう。

 

 ユグドラシルにログインすると金曜日だと言うこともあり多くの――嫉妬マスクをかぶった――友人達がいて、軽くおちょくられながらフラミー自慢に精を出した。

「帰って来たと思ったら転びそうになるし、フラミーの膝小僧は俺が守るしかねぇな。」

「はは、膝小僧守るって初めて聞きました。そう言えば、こないだあの後本当にガールズバー行ったんですか?」

 嫉妬マスク・モモンガの問いに辺りの空気が若干悪くなるが後ろ暗いことはない。

「行きました。フラミーに遅くなるから先に寝ててーって言って。まぁ一時間で帰りましたよ。そしたらフラミー起きて待ってたんですよね〜。玄関まで迎えに出てきてくれて〜あぁ〜かわいぃ〜。」

「はいはい。それで収穫はありました?」

「――む、ああ言うところは苦労人が多いし、フラミーの気持ちとか心の何かがわかる事もあるかと思ったけど、まぁ収穫はゼロっすよ。」

「何々ー?フララの心の事なら私に任せてよ。」

 嫉妬マスク・肉棒が胸を叩き、0ptとダメージ表示が出るのを見ると、ウルベルトはモモンガに視線を戻した。

「でも連れてった部下は割と楽しんで――」

「無視するんじゃなーい!!」

「はぁ、茶釜さんにあの繊細な生き物の事が分かるかよ。」

「分かるわ!!」

「ボクは分かるよ。」「わたしもぉ!」

 嫉妬やまいこと嫉妬餡ころもっちもちが手を挙げる。

「じゃあ今フラミーは俺に抱かれることについてどう考えてんの。」

 その問いは大して期待していないと言うような雰囲気だ。

「ボクが思うに今フラミーさんは世間体気にしてるね。付き合い始めて四日で同棲。自分の親とウルベルトさんの親に申し訳ない的な。」

 やまいこの推理に、どちらも親がいない事を知るモモンガは感触のないウルベルトの肩を叩いた。

「――それはないわ。……いや、ありえるか…。」

 ウルベルトの死んだ親に自分が相手では申し訳が立たないとか思っていそうだ。

 

「わたしはフラちゃんはただ恥ずかしいんだと思うなぁ!胸小さいの気にしてたしね〜!」

 餡ころもっちもちの推理にウルベルトはバッとそこにいる男子を見渡した。十分にありえる意見だが――

「お、お前ら想像すんな!フラミーの胸の想像なんて許さん!!」

 

「じゃ、最後は私の番ね。フララは一回えっちしたらすぐに種付けされると思って怖がってんだよ。」

 茶釜がスキルを使うと頭の上に水が球になってフヨフヨと浮いた。

 この見た目でなければなんて事のないスキルだが、やはり危険すぎた。

「ふ、ふらみーにたねずけ…。」

 その言葉も危険すぎる。

 たらりと鼻を熱が伝うのを感じると慌ててヘッドギアを外した。

「っうわ、セカンド童貞の弊害だ!!」

 人並みに性体験もあると言うのに。

 近くにあったティッシュで血が出る鼻を押さえていると廊下に繋がる扉が開いた。

「はぁさっぱり。――あ、ウルベルトさん!鼻血?大丈夫ですか?」

 フラミーはふらふらと若干怪しい足取りでウルベルトに近寄った。

「だ、大丈夫。大丈夫大丈夫…。」

「お昼空気悪かったときちゃんとマスクしなかったんですか?体調は?」

 ゲーミングチェアに座るウルベルトの前に膝をつき、下から覗き込まれるとウルベルトはヘッドギアを股間に乗せた。

「本当に大丈夫だから。」――そんな風に見つめないでくれ。

「明日はお休みですし、お外には出ないで過ごしたほうが良いですよ。」

「…そうな。明日はだらだらしよう。」

「そうして下さい…。」

 ウルベルトの膝に手を置き心配そうにするフラミーのゆるい胸元につい視線が行ってしまう。

(本当ちっちゃいもんな…Aか…?)

 ランドリー行きの鞄を覗けばすぐに分かる事だが、男ウルベルトはマナーを守れる。

 フラミーはウルベルトが安静に過ごしてくれそうなのを確認すると、その膝に頭を乗せて目を閉じた。

「ふぅ…あったかい。」

「…もっとあっためてやろうか?」

「わぁい。あったかいのすき。」

 フラミーはそう言うと人の膝に寄りかかって寝た。

「…そりゃよかった。」

 小さく開けられた口から寝息が上がるとウルベルトはヘッドギアのミュートボタンを押してカウンターに置き、コネクターを抜いた。

 落とさないように気をつけてベッドに下ろすとその横に腰掛けた。

 パジャマのボタンをぷつぷつと外していくと――ワイヤーのない寝る時用のブラジャーが平野なりにも小さな谷間を作っていた。

 簡単に両手に収まりそうだと手を伸ばす。

「んぅ…おとうさん…。」

 ウルベルトはそれを聞くと硬直した。

「ふら……。」

 フラミーはむにゃむにゃと幸せそうにし、ウルベルトは心の中で舌打ちした。

「…誰がお父さんだよ…馬鹿野郎…。」

 ボタンを着け直すとフラミーに布団をかけゲーミングチェアに座った。

「……俺のやり方は間違ってんのか…。」

 ウルベルトはフラミーを眺めながらため息を吐いた。

 コネクターを首の後ろに戻し、ヘッドギアを着けると手と足を組んだ。

 

「あ!ウルベルトさん戻って来た!!」「今のめっちゃ危なかったんじゃない!?」「あっため損ねたねー!!」「なんかハラハラしました…。」

 嫉妬戦隊がきゃいきゃい喜ぶ中、ウルベルトのテンションは最低だ。

「ただいま。」

「拒否されて苛々?」「鼻血平気ー?」

 ペロロンチーノと茶釜があはあは〜と能天気に笑うとウルベルトは睨み付けた。

「お父さんって言われたから萎えたんだよ。」

 円卓の空気は極寒になった。全員静かに嫉妬マスクを外す。嫉妬の対象ではなくなったために。

「…ウルベルトさん、ちゃんと毎日続けてんですよね?口説くの。」

 モモンガの問いにウルベルトは不機嫌オーラマックスで頷いた。

「続けてますよ。…いや、新年以来、指輪ができるまでと思って結婚しようとは言ってないけど。」

 所謂月給の三倍の婚約指輪を指輪屋で頼んだ。指輪の完成は三ヶ月後だと言うので今はそれを待っている。

 フラミーの好きなデザインは一緒にユグドラシルをする中で熟知しているので台座のチョイスには自信があった。

「こりゃ問題だね〜。フララの中でウルベルトさん、近すぎるんじゃないの。今のままじゃただの同居人になっちゃうよ。」

 茶釜の言葉にウルベルトは机に突っ伏した。

「…勘弁してくれよ。慈善事業じゃないっての…。はぁ…今日はもう寝るよ。皆おやすみ。」

 ログアウトすると、ウルベルトは自分のベッドでむにゃむにゃ言うフラミーをチラリと見て、フラミー布団を敷いてもぐりこんだ。

 そこはむかつくほどにいい匂いがして、愛しくてたまらなかった。

「………っくそぉ…。」

 その日ウルベルトはフラミーに結婚はできないと第二の査定を終えられた夢を見た。

 

 フラミーは顔に白いもやのかかる両親に幸せだと告げ、ウルベルトを紹介する夢を見た。

 

+

 

 翌日コーヒーの匂いにウルベルトは目を覚ました。

「ん…すげぇいい匂い。それどうしたの?」

「あ、おはようございます!昨日餞別にインスタントコーヒー貰ったんです。そろそろ起きると思って淹れました!」

「…そっか。」

 ウルベルトは休日のポニーテールフラミーを確認すると布団に潜り込み直した。

 近くにフラミーが座ったのを感じるが布団から出なかった。

「やっぱり体調優れませんか?なのにすみません、私あっちで寝て…。」

「…それは構わない。」

 布団の中からもそもそ声がするとフラミーはその背を撫でた。

「よしよし。」

「やめろよな。俺の方がよっぽど大人だぞ。」

 そう言うと、本当にフラミーの手は止まり離れた。

(…やめんなよぉ…。)

 心の中で悪態をついているとフラミーの立ち上がった気配を感じ、ウルベルトはガバリと布団から出た。

「ま、待て!行くなフラミー!!」

 もっとしてあげたい事も、して欲しい事もある。たとえ父親だと思われていても側で生きて欲しかった。

「ん?大丈夫ですよ。何か栄養の付くものしますから、ちょっと待っててくださいね。」

 フラミーはそういうとウルベルトの頭をさらりと撫でてキッチンに向かった。

「あ…。」

 振り回されっぱなしだとボスっと布団に転がり直した。

「えーと、栄養栄養。」

 フラミーはスマホで何かを調べると、冷蔵庫を覗き、出かける準備をした。

「私少し買い物行って来ますね!」

「…あぁ。ちゃんと帰って来いよ。ちょっとの時間でもマスク忘れんなよ。後手袋も。指先冷えんだから。」

 そう言ってから、俺は父親か、と内心突っ込む。

「はい!急いで戻りますから、ウルベルトさんはコーヒー飲んで安静にしててください。」

 フラミーはもう一度ウルベルトの前にしゃがみ、ウルベルトの頭を撫でると前髪を分けた。

 何かを言えば、構われたさから小学生のように余計なことを言ってしまいそうで、ウルベルトはされるがまま黙っていた。

「元気になって下さいね。」

 仰向けのウルベルトの額に柔らかい感触が触れた。

「っ…おま…。」

 フラミーの唇は額に短く落ちるとすぐに離れていった。

「へへ、行って来まぁす。」

 小走りでフラミーは出かけて行った。

 ウルベルトは起き上がり、廊下に続く扉を眺め、額に触れた。

「…きすされた…。」

 コーヒーの臭いが鼻腔を震わせると、ウルベルトは一口飲んだ。

「…うまい…。」

 フラミーは一口も付けずに出て行ってしまい、冷めてしまいそうだった。

 

 コーヒーを飲み切るとウルベルトはまるで本当に病人のように静かに過ごした。

 フラミーの刺繍が進むカーテンを摘んだり、服がたくさん入っている段ボールをのぞいたり――「Aか。」

 マナーを破った男は段ボールに寄りかかると額へのキスの意味を考えた。

(父親の影を追って俺と居て、でも多少は男として見てる?いや、男として見てたらフラミーにあんな真似できなくね?)

 ウルベルトはドツボにハマっていた。

 しばらく経つとガチャガチャと音が鳴り、「ひーさむかったぁ」とフラミーの声が聞こえた。

 フラミーはそのままスチームバスに向かったようで、ブォーと温風が聞こえた。

「あちあち。」

 毒素を持ち込まないようにする気遣いだろう。毒素を落とす温風には人がそのまま入れるモードもある。

 そしてフラミーはようやく部屋に入って来た。

「帰りました!ちゃんと安静にしてて偉いですねぇ。」

「そりゃどーも。――手伝うか?」

 フラミーはエコバッグをキッチンに持って行った。

「いえ!大丈夫ですよ!ウルベルトさんは今日はそこにいて下さいね!」

 えーと、とフラミーはスマホを見ながらキッチンでごそごそと作業を続けた。

「液食が沸いたらいれる…一分…。」

 一分で何ができるんだとウルベルトは少しハラハラした。

「割れるかな?割るってこれでいいのかな?」

 こんこん、と鳴ると「いい気がする――…ほい!…あちちち。」とフラミーが呟き、ウルベルトは立ち上がった。

「何やってんの?お前。」

「だめです!見ないの!座ってるか寝ててください!」

「…鶴の恩返しかよ。もしかして見たらお前鶴になるの?」

「鶴じゃないです!」

 やれやれと座り直していると、次第に部屋にはいい匂いが漂い――ウルベルトの腹はぐぅと鳴った。

「すぐですからね。えーと、これをこうして…。」

 待っていると見たことのないどんぶりを二つ持ったフラミーが戻って来た。

 丼の中身は卵とじうどんだった。

「…すげぇ。お前料理できたんだな。」

 ウルベルトの斜め隣に座ったフラミーはふるふると頭を振った。

「はじめてやりました。はは。肉じゃが味の液状食料にうどん入れて、卵で閉じたんです。簡単だけど、栄養もついて食べやすくって、体に良いらしいですから、食べられるだけで良いから食べて下さいね。」

 ――とおる、おうどんしてあげようか。

 ウルベルトはまた頭を撫でられ、「母さん…」とこぼした。

「…私、お母さんの味とか分からないから…お母さんのとは違うかも…。」

「あ、いや。すまん。お前を母親だと思ってるとかじゃなくて――」そこまで言うと、うどんに視線を落とした。「お前は…俺を父親だと思うか…?」

 フラミーはウルベルトの背を撫でた。

「思いませんよ?お父さんってこう言う感じなんですか?」

 ウルベルトは首を振った。

「違うと思う…でも…もう忘れたよ。なぁ、俺はお前の父親代わりになるのか。」

「いいえ?どうしたんです?」

「…俺がお父さんって呼んで良いって言ったらお前は喜ぶのか…?」

「えぇ…、いやですよぅ…まだ子供もいないのに…。」

 ウルベルトはフラミーを眺めた。

「子供か…俺はお前のなんなんだ…。」

 フラミーはぽっと顔を赤くして笑うとまたウルベルトの頭を撫でた。

「恋人ですよね?旦那さんになってくれる人。」

「――っ。」

 ウルベルトは目を抑えた。

「どしたの?ウルベルトさん。体調悪いの?辛いの?」

「っふらみぃ、おれ、おれつらいよぉ。」

「うん、辛いよね。すぐに良くなりますよ。」

 ウルベルトの肩が震えると、フラミーは引っ越しの日にしたようにウルベルトの頭を抱いた。

「ふらみぃ、おれ、お前の全部になりてぇけど、父親は勘弁してくれよぉ。どうしたらお前は、おれをちゃんと好きになるんだよぉ。」

「ウルベルトさん…ちゃんと好きですよ。大好きです。聞いて?」

 ウルベルトは小さく肩を震わせながら、フラミーの言葉が続くのを待った。

 しかし、フラミーは何も言わなかった。

 言葉を選んでいるのかと思うと辛くなり、フラミーの背に手を回して服をギゥと掴むとまた頭を撫でられた。

 そして――「聞こえた?」

「なに…?」

「私の音。ドクンドクンドクンって。」

 ウルベルトは目を閉じた。

 顔を揺らす程に鳴る鼓動は早く、強かった。

「胸の中でずっと好きだって言ってるの。あなたのこと大好きでね、たまに自分の心臓の音で体がぐらぐら揺れちゃうかと思う。」

 ギュッと体を抱き締めると薄っぺらいフラミーからは少し苦しげな声がした。

 腕の力を緩めるとフラミーはウルベルトから離れ、隣にぺたりと座った。

「ごめん…。」

「ううん、体調悪い時は不安になりますよ。」

「うん…俺めっちゃ体調悪いわ…。だから忘れて。」

「はは、わかりました。」

 ウルベルトはフラミーの後頭部に手を回すとフラミーを引き寄せた。

「う、ウルベルトさん?」

 先にフラミーが額にキスしてきたのだから、唇以外はもうキスしても良いはずだ。

 そのまま体を引き寄せると耳たぶに口付け、フラミーはンッと耐えるような声を上げ震えた。

 ウルベルトは目を閉じ首筋にも唇を落とすと、フラミーはぷるりと震えた。

「や、やめてぇ。」

 フラミーが体を押そうと力を入れるとウルベルトは小さく呟いた。

「やめてって言われると男はその気になるもんだぜ。」

 フラミーの戸惑うような息遣いを聞きながら首筋を舐めた。滑らかで、燃えるように熱かった。

「で、でもっやめてっははっ、くすぐったぁい。やめてくれないと…笑っちゃうっははは!」

(――は?)

 思った反応とあまりにも違いウルベルトは首筋から顔を上げた。

「お前子供か!!」

 男と肌を重ねたことのない性感帯皆無のフラミーは笑いすぎて目の端に涙が浮かんでいた。

「はは、はぁ…ふふ。大人ですよ?」

「あーもー!ガキンチョ!!」

 ウルベルトは頭をわしわしとかいた。これを育てるのは骨が折れそうだ。

「ガキンチョじゃないです!」

「いーや、おまえはガキンチョだ。ったく。うどん食うぞ。」

 ウルベルトは不服も不服。大不服で箸をとった。――が、昔ペロロンチーノがフラミーは処女膜から声が出ていると言ったのを思い出し、若干にやけた。

 二人はフラミーの布団の上に並んで座り、少し伸びたうどんを食べた。

 

+

 

「お前本当にそれ草原にすんの?」

「しますよ!ちょっとづつ増やして行きます。」

 フラミーの膝枕で病人のふりを続けるウルベルトはカーテンに刺繍が増える様子を観察した。

「なー、もうカーテンやめようぜ。」

「やめませんよ。ウルベルトさんってえっちですもん。」

「…えっちじゃねぇっての。俺、もうエロ本一冊も持ってないし。それともお前俺のことそう言う目で見てんのかよ。えっちなやつ。」

 フラミーは顔を赤くするとぽこりと額を叩いた。

「もう。ほら、ちゃんと寝て下さい。」

「へいへい。」

 ウルベルトは目を閉じ、頭の下の優しい感覚に身を任せた。

 フラミーが鼻歌を歌うのを聞きながら、この歌はどこで聞いたのだろうといつもの思考をする。

「ふふ、また草が一つ増えた。」

 フラミーは今日の分はお仕舞いと糸と針を片付けると寝入った様子のウルベルトの頭を撫でた。

 しばらくウルベルトを眺めると、フラミーも壁に寄りかかり座ったまま昼寝した。

 

「…寝たか。」

 狸寝入りをしていたウルベルトはもぞもぞとフラミーの膝から起き上がった。

 その隣に座り、手帳を取り出して婚約指輪が出来上がる約束の日までの日数を数える。まだあと約二ヶ月あった。

「…もう少し早まんねぇかなぁ。」

 ふーむ、と唸り、手帳をこつこつと叩いた。

(やっぱ、フラミーは婚前交渉はNGなのかなぁ。わかんねぇけど。)

 こてりとフラミーの頭がウルベルトの肩に乗るとウルベルトはその頭に頬をすり付けた。

(今時そんな奴いるか…?でもなぁ…こいつだしなぁ…。)

 ウルベルトが顔を覗き込んでいるとフラミーのスマホがソファの上で鳴り、フラミーは目を覚ました。

「むぁ、ね、ねてた…。」

「そうな。気持ちよさそうだった。」

「わっ!恥ずかしい。」

 フラミーはさっと口元を拭いた。よだれを気にしたらしい。

「垂れてなかったぜ?」

「良かったぁ…。はは。ウルベルトさん、体調は?」

「もうすっかり良いよ。ありがとな。お前のおかげ。」

 ウルベルトを見上げるフラミーはパァっと花の咲くような笑顔を作った。

「良かった!長生きして下さいね!」

 フラミーが肩に顔をこすり付ける様子に目を細めた。愛しかった。

「お前がそう言うなら長生きするよ。――それより高かったろ。あれだけ買い物して。払うよ。」

「いいえ、そんなの良いんです。それより、私こそウルベルトさんにお金払わないと。」

「何の?」

「そろそろ一ヶ月だからお家賃ですよ!」

「いらねっての。」

「ダメです!半分も領土もらってますし。」

 ウルベルトはフラミーの頬を撫でた。

「…じゃあ、貰う。」

「はい!いくらが妥当ですか?光熱費払ってないですし私的に六割は――ぁ…。」

 フラミーは顔を包まれると額にキスを落とされた。

「目閉じてくれ。さっきみたいに変なことしないから。」

 震えるようにギュッと目を閉じると目蓋と頬、耳にキスされ、フラミーは小さな声を上げると自分より大きな体を押した。

「耳もくすぐったいか?」

「くしゅぐったい…。」

 ウルベルトが耳たぶを軽く吸うと、チュッと耳元で音が鳴り、フラミーは目の端に涙を浮かべて顔を真っ赤にした。

「……家賃はこれでいいよ。毎月してればくすぐったいのもいつかなくなる。」

 耳元でそう言われるとフラミーは心の中でひーんと言った。

 そしてウルベルトはジョニーがおっきしたので即座に立ち上がり廊下に出て行った。

 

 玄関に座るとワールド・ディザスターは革靴を一心不乱に磨いた。




ジョニー、泣くなよ!

次回#15出勤
やっとフラミーさんが宇留部事務所で働いてくれる!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。