休日の朝、前髪を全てヘアバンドで上げているウルベルトは洗面所で髭を剃っていた。
やりにくい。
実にやりにくい。
「……そんなに面白い?」
「面白いです!」
フラミーが鏡の中のウルベルトを覗き込み、瞳をキラキラさせていた。
「…そ、そうか…。」
妙な恥ずかしさの中髭を剃っていく。
顎がつるつるになるとウルベルトはシェーバーを開け、こんこんっと剃れた髭を捨てた。
「んし、こんなもんかな。」
顎を触っているとフラミーもウルベルトの顎を触った。
「つるつる!」
「そうな。」
しばらくフラミーの手に任せて顎を触られていたウルベルトはヘアバンドをポイと外し、顔を寄せた。
むにりと唇を手で押し返される。
「――ダメなの?」
「だ、だめです…。」
フラミーは恥ずかしそうに視線を逸らした。
こうして邪魔してくるので初めてさせてくれた日以来キスしていなかった。
「じゃこのままでいいや。」
ウルベルトは押し返してくるフラミーの手のひらをはむようにキスした。
「っひぅ…。」
ふるふると震える手の平を舐め、洗面所の壁にフラミーを押し付けていると、ジョニーはおっきした。
「…手退けて。」
「へ、へただし…恥ずかしいから…。」
「それが良いんだろ?」
フラミーはふるふると首を振った。
「…じゃあ、舌入れないから。」
「…むぅ、それなら…。」
ウルベルトは少年のように笑うとフラミーの両手を握り腕をゆっくり退けた。
顔を寄せ、唇を重ね、触れるだけのキスをした。
フラミーと違って鼻がぶつかるような事はない。
柔らかさを確かめる静かなキスはウルベルトがフラミーをついばむようにして行われ、唇が離れるとフラミーはッぷはぁと息を吐いた。
「っぷ、お前息止めてたの?」
「っはぁ…だ、だって…息できない…。」
真っ赤な顔をするフラミーは酸素を取り込もうと荒い呼吸をした。
「はは、お前、面白いな。キスひとつしたことない何て本当にまるっきりガキンチョだよなぁ。」
それを聞くとフラミーはムッとした。
「わ、私だってキスくらいしたことありますもん!」
面白そうに笑っていたウルベルトはピタリと笑いを止めた。
「何?」
「前に付き合ってた子と、チューくらいしましたもん!」
「…そりゃ…一大事だな。」
ウルベルトはフラミーの顔を包むと唇を押し付けるようにキスした。顔の傷も口の中の傷ももう治ったので痛みもない。
唇で唇をこじ開け、舌を入れるとフラミーはウルベルトの胸をトン、と押した。
「っん…ふぁ…なん…。」
口蓋を舐め、舌で舌を撫で、貪るようにキスをした。
もっと深く深く、全てを知ろうと続け、フラミーから熱せられたような吐息がこぼれ落ちる。
「………っは……ふ…んん…。」
どれほどそうしていたか分からないが、長いキスが終わる頃には、ウルベルトの息は上がっていた。
二人の鼓動は服の上から分かるほどに鳴り響いた。
「…ごめん。」
フラミーは耳まで赤かった。
すぐに下を向いてしまったために顔は見えないが、間違いなく赤くしているだろう。
「嫌だったか…?」
その言葉にフラミーが「ううん…」と小さく返す。
「じゃあ…もっかいするわ。…上書きしなきゃなんねぇから、ごめん。」
「ふぇ――ッンゥ。」
唇が繋がり、再び舌が入ってくるとフラミーはウルベルトの熱い呼吸で火傷しそうだと思った。
顔を押さえ、引き寄せる手も熱い。
目の前がぐらぐらと揺らぎ、立っていることも難しくなると、ウルベルトに支えられながらゆっくりと洗面所の床に座り込んだ。
最初は押し返そうとしていたフラミーの震える手は、すがるようにウルベルトの服を握りしめていた。
顔を撫でられ、首筋を撫でられ、舌を這わされると、フラミーもその舌を追うようにゆっくり動いた。
「っんっん…んはぁっ。」
どこか強引だったキスはフラミーの反応から甘くなり、二人は求め合うように過ごした。
息を継ぐために一度唇が離れると、吐息がこぼれた。
「はぁ…上書きにはたりねぇわ。」
ウルベルトはひとつ息をつくと再び座り込んでいるフラミーの後頭部を支え、膝をついた状態で口付ける。
真上を見るフラミーに余裕はなく、再び首筋を撫でられるとフラミーはびくんと肩を揺らした。
「まっ…や…。っあ…っん…。」
首にはいつの間にか垂れていたヨダレが伝っていて、ウルベルトの指がそれに触れた瞬間、ウルベルトは唇を離した。
垂れているものを舐めあげるとフラミーは再び震えた。
「っはぅ…っあ…。」
長い長いキスが終わったフラミーの頭の中は真っ白だった。
「っんぁ、うゆべぅと…たん…っあぁっ。」
「…くすぐったいやつの声じゃないな。」
フラミーはそれを聞くと口を押さえた。
ウルベルトが背を撫でるとゾクゾクして、体の奥が疼くように熱くなった。
生まれて初めての感覚に唇を噛む。
「んっ……ふぁ…。」
ウルベルトは切なげな顔でフラミーの頭を撫でた。
「フラミー…嫌なこと聞くようで悪いんだけどさ…。」
「は、はひ…。」
「お前、その元彼とどこまで行った。」
フラミーはキスまでだと言ったらまた子供だとバカにされてしまうだろうかととろけた脳で悩んだ。
「…正直に話せ。どうせいつか分かることだ。」
俯くと、フラミーは恥いるようにこぼした。
「…きすです…。」
「なのになんでそんなに下手なんだよ。」
ウルベルトの人差し指が湿った唇を何度も撫でた。
「だ、だって――っあぅ。」話し始めるとウルベルトの指が口内に侵入した。
舌を指の腹で撫でられながら、どうすれば良いのか分からず、噛むわけにも行かずにフラミーは泣きそうな顔でただウルベルトを見上げ続けた。
「……だって何?」
この状況でどうやって話せと言うのかと思っていると、ウルベルトの指はフラミーの下の歯を撫で始めた。
「あ、あの…触れるだけの…きすを…いっかい…。」
それを聞くとウルベルトはフッと笑い、再び舌を撫で付けた。
「そんなもんはキスって言わねぇよ。フラミー、吸って。」
フラミーは困ったような顔で目を閉じ、ウルベルトの指を吸った。
ちゅうっと口の中の肉が指にまとわりつくとウルベルトは指を軽く出し入れし、舌を可愛がった。
「…かわいいな。」
「っふぇぇ…もう、やらぁ。」
「良いから続けて。」
「っはぅ…ふっ…んん…。」
何をしているのか、されているのか分からないまま、フラミーは指を吸った。
「もっと指包んで舐めて、手洗ったばっかだから汚くないし。」
「…んっ…んぅ…んん…んっ…。」
出し入れを続けながら、ウルベルトはもう限界だなと思った。
指を引き抜くと、っちゅぽんと音が鳴り、されるがままだったフラミーはとろけ切った顔でウルベルトを見た。
ウルベルトはまた唇を重ねた。
脱力しているフラミーの唇は簡単に開き、ウルベルトの舌を迎えた。
「っん…。」
ウルベルトの舌を迎えたフラミーの舌は多少ぎこちないなりにちゃんとウルベルトを追った。
「……は、ぁっ。」
甘すぎる声が漏れるとウルベルトは唇を離し、座り込むフラミーの頭をぐしりと撫でた。
「……上手だったよ。」
「………もっと……。」
ウルベルトはフラミーの唇を撫でた。
「…バカ野郎。」
重ね直された唇からは二つの吐息が何度も漏れ出た。
柔らかく絡みつき合った舌は自然と昂り、何かを目指すように動き続けた。
「んっ……はっ……んんっんぁっ。」
ウルベルトはフラミーの背に手を回し、フラミーを強く引き寄せながら、ブラジャーのホックを服の上から外そうと摘むようにし――キスをやめた。
「フラ……ミ、はぁ…、ご、ごめ…ここまで。」
ウルベルトはふぅーと長い息を吐くと突然立ち上がり、洗面所を去って行った。
残されたフラミーは自分を抱きしめるようにして床で震えた。
男ウルベルトは朝日の差し込む気持ちのいい部屋で頭をわしわしと掻いた。
下手したらあのまま洗面所なんかで抱くところだった。
フラミーの大切な最初は大事にしたいし、一番気がかりなのは――。
ウルベルトはベッドの下のかつて宝箱だったものを開けた。
(……ねぇわ。)
ジョニーにはかせるゴム状の靴下は在庫切れだった。流石にセカンド童貞になり長い。
宝箱は再び閉じられ、ベッドの下へ滑るように戻された。
(…買わねぇと…。)
ウルベルトの中での順序はフラミーに結婚すると言ってもらって、
フラミーのペースに全てを任せると決めているんだからあまり先走らないように――。
ベッドの横にしゃがむウルベルトが己を落ち着けようとしていると、かちゃりと扉が開いた。
「うるべるとさん…?」
「ん、フラミー。あんなとこに置いてってごめん。」
ジョニーはまだ絶好調なのでウルベルトは背を向けたまま返事をした。
しかし――「ごめんね…?」
フラミーに謝られるとウルベルトはバッと立ち上がった。
「なにが!?どした!?」
「お出かけするのに…もっととか言って…。」
ウルベルトは凄い勢いで顔を振った。
「い、いや!俺ももっとしたかったんだけどな…!?でも、ほら、なぁ?わかるだろ?」
それはまた言って欲しいが、とにかくジョニーに頭を乗っ取られかねないのでゴムの調達が済むまで――そこまで考えて、「違う違う、結婚すると言ってもらえるまで」と考え直した。
フラミーの可愛いお嫁さんなる夢を一点の曇りなく捧げようと決めている男の意思は割と強い。お腹が大きくて着たいドレスが着られないなどとなってはえらいこっちゃだ。
フラミーはウルベルトの「わかるだろ?」と言う言葉に大きくうなずいた。
「はひ、わかります!お出かけの準備しないとですよね!」
(わかってねぇ。)
心の中で突っ込んだが、ウルベルトはうなずいた。
「………そうだよ。お前準備長いだろ。」
フラミーは照れ照れした後カーテンの向こうに消えて行った。
ウルベルトは着替えと化粧とで、わりと時間がかかるはずとフラミーに一声かけた。
「――俺、車借りてくるからなー?」
「はーひ!お願いしまぁす。」
楽しげな返事に頬を緩め、ウルベルトはジャケットに袖を通し――諸事情によりトイレによってから――車を借りに出かけた。
マンションの前に車を止めると、ウルベルトは駆け足で部屋に向かった。
ささっと靴を脱ぎ、手早く揃えると部屋の扉を開けた。
「フラミー、できたかー?」
振り返ったフラミーはいつもより少しふんわり結ばれたお団子頭で振り返った。
小さなデスクに鏡を畳んで収納できるドレッサーの前に座るフラミーは幸せそうだった。
「はい!」
目を細めるとウルベルトの下へ走り、その胸に飛び込んだ。
「はは、ご機嫌だな。」
そう言うウルベルトももちろんご機嫌だ。よしよしと頭を撫でるとそのまま後頭部を支えるようにし、つい口付けた。
さっきの出来事が二人の頭を駆け巡る。
二人は顔を赤くし、すぐに唇を離した。
はぁ――と息を吐いたフラミーは恥ずかしそうに視線を落とした。
「……フラミー、好きだ。」
赤い顔を胸に押しつけたフラミーはうなずいた。
「私も…だいすき…。」
ウルベルトは少し膝を曲げると、フラミーを抱っこするように持ち上げ、玄関に向かった。
フラミーは今日白いレーススタンドカラーブラウスに、ワンピースを重ねていて、人形のようだった。
いつもよりよほど軽く感じる。
「はは、お前ほんとたまんねーな!」
「も、もー。なんの話ですかぁ。」
「お前が可愛くって面白くってほっとけなくて好きだって話!」
そっと玄関に下ろすと靴を履き、フラミーに手を伸ばした。
「フラミー、綺麗なもん見せてやるよ。」
助手席のドアを開け、フラミーを乗せると、ウルベルトは茶色のジャケットをその膝にかけた。今日は茶色のセットアップに白いTシャツだ。三月に入り、ウルベルトなりの春意識スタイルだった。そこら辺に行くデートならジーパンにパーカーで楽な格好をしているが、今日はジャケパンだ。
ウルベルトも車に乗ると、いつもの様にスマホで音楽をかけ、それを口ずさみ運転した。
フラミーは音楽にお金を掛けられなかったので流行りの歌もあまり知らなかったが、近頃はウルベルトが歌っているので覚えた。
フラミーは持ってきた甘い液体食料を開けるとウルベルトに差し出した。
「はい、どうぞ!」
「ん、サンキュー。」
ウルベルトは半分飲むとフラミーに返した。
「ほら、お前も飲みな。後全部お前のだから。」
「わぁ、ありがとうございます!」
フラミーは液体食料を飲みながら割と天気の良い――と言っても空も空気も汚れてはいるが――外を眺めた。
車は走る。
景色が流れていく。
しばらく眺めると、フラミーがスマホを取り出し――カシャっとシャッター音が鳴った。
「ん?何か良いもんあった?寄り道するか?」
嬉しそうにスマホを眺めていたフラミーは首を振った。
「いえ!なんでもないです!」
「そうか?遠慮すんなよ。」
「はい!」
フラミーはウルベルトが運転する横顔を待ち受けにすると一人相貌を崩した。
「えへへえへえへ。」
「また変な声だして。何撮ったんだか。」
「ついたら見せてあげます!」
「そりゃ楽しみ。」
フラミーは待ち受けと隣のウルベルトを交互に見ては「えへぇ」と緩んだ声を出した。
「…なんかわかった気がする。」
「えっ!なんでですか!」
「わかるよ、お前のことなんて。」
ウルベルトはフラミーをうりゃうりゃと撫でると少し赤くした顔で笑った。
フラミーもそれを見るとほやりと顔を赤くした。
その後アーコロジーを避けて二時間ほど走ると、ウルベルトはちらりとスマホのナビを確認した。
「フラミー、そろそろだぞ。」
「はぁい!」
フラミーは靴を脱いでいたが履き直した。
やがて、墨汁のように黒い地が見えて来ると、フラミーは目を凝らした。
「んん?」
真昼間なのに、夜が地に落ちたような場所がどんどん近づいて来る。広がる闇が何なのか理解すると、フラミーは声を上げた。
「あぁ!海ぃ!!」
「せいかーい。」
「ウルベルトさん!素敵、来たかったんです、私!」
「はは、やっぱりなんでも素敵なんだな。」
フラミーは窓の向こうに見える世界の汚れを凝縮した死の水に瞳を輝かせた。
近くに車を止めると二人は降りた。
フラミーが海へ走っていくとウルベルトはジャケットを着て、念の為にフラミーの分のガスマスクと自分のガスマスクを持って後を追った。
満潮時に砂に黒い水がかぶるために砂浜も黒く染まっていて、海岸線は無限の闇が広がる。
真っ黒な海の前に立つフラミーは綺麗だった。
ウルベルトはポケットからスマホを取り出し、写真を撮ると、ウルベルトもずっと刺繍だった待ち受けを変えた。
「……フラミー?」
見渡せば風が吹くたびに波打ち黒く輝く海、どこまでも続く地平線。
どれだけ汚れていたとしても、その雄大な景色にフラミーは訳もなく涙が出ていた。
「どうした?」
ウルベルトは伝う涙を拭ってやった。
「世界って、今も綺麗だったんですね…。私、生まれて初めて海を見たの。」
そう目元を困ったように下げ、溢れ続ける涙を拭う事もせず薄く微笑むフラミーに、ウルベルトはうなずいた。
あの小さな町から殆どでずに生きてきたのだろう。
まるでようやく巣立ちを迎えた雛のような事を言う姿に、きっとこの空も海も、いつか綺麗にしてやりたいと思った。
「俺もこんなに近くで見たのは初めてだよ。きったねぇと思ってたけど、お前がいたら馬鹿みたいに綺麗に見えるわ。」
悪魔達が綺麗だと囁き合う海はどこまでも黒く濁っていた。
フラミーの涙が止まった頃、風に流されていくフラミーの前髪を軽く整えてやると、ウルベルトは黒い砂浜に膝をついた。
「あ、汚れちゃいますよ?」
「払えば落ちるよ。それより、ちゃんと綺麗なもん見せてやるから。」
フラミーは首をかしげた。
ジャケットのポケットに手を突っ込むと、ウルベルトは箱を取り出した。
黒い箱には白いリボンがかかっていて、ウルベルトは自分でリボンを解いた。
箱を開けると、箱の中には箱。
「――何だと思う?」
フラミーは理解したのか口に手を当て、瞳を潤ませた。
「はは、お前でも流石にわかったか?」
外箱と解いたリボンをポケットに入れ直すと、ウルベルトは箱を開いた。
中には今時珍しいくらいに立派な婚約指輪が入っていて、触れることすら躊躇われるほどに輝いていた。
「俺、ずっとお前を気に入ってて、追いかけ続けて…お前にちょっと無理させたりもしたかもしれないけど…お前といればいるほどお前が好きだって思う。俺じゃ少し頼りないかもしれないけど……。お前の夢、全部叶えたい。お前のいう可愛いお嫁さんって奴と、布団二つ敷ける広い家って奴と、たまの外食って奴と、子供一人って奴。全部。」
ウルベルトは既に懐かしくすら感じるフラミーの夢達を口にした。
そして、大きく息を吸い、吐いた。
「――文香、結婚して欲しい。」
フラミーは両手を顔に当てると頷いた。
一番最初にウルベルトが言ってくれた言葉がフラミーの中に響く。
――良いか、お前のその夢は全部俺が叶えてやる。お前の望む全てをお前の下に運ぶって誓う。だから、フラミー…俺に任せるって言ってくれ。
「わたしのゆめも…わたしのことも…ぜんぶ…あなたに…お任せします…。結婚してください…。」
フラミーの目から綺麗な涙が落ちるとウルベルトは箱を持ったまま立ち上がり、フラミーを抱きしめた。
「そこはお願いします、だろ!結婚して下さいは俺のセリフだったのに!はは!」
ぎゅうぎゅうと顔を擦り付けるウルベルトに、フラミーは泣きながら笑った。
「とおるさぁん、わたし、ちゃんといいお嫁さんになります。」
「もういいお嫁さんだよ。ありがとう、本当に。」
二人しばらくそうすると、ウルベルトはフラミーを離してようやく指輪を取り出し、薬指に入れた。
寝ているフラミーの指に紙を巻いて確かめた為、サイズはぴったりだった。
「…きれい…きれいすぎます。」
「お前の顔も綺麗だよ。」
フラミーはまたうりゅうりゅと涙をこぼした。
「こんな顔ですけどぉ。」
「はは、俺はこれが好きだ。」
二人はキスするとまたしばらく海を眺めた。
「それでなぁ〜!フラミー、やっぱり俺の嫁になってくれちゃうわぁ!」
外で食事をして帰ったウルベルトは一日の緊張感から解放され、脳みそが溶けていた。
円卓の間にはヒューゥ!とギルメン達の拍手と喝采が響いた。
「…そうですかそうですか。そりゃ何よりです。本当におめでとうございます。」
モモンガの台詞は祝っているのか祝っていないのか分からなかった。
「はぁ〜サード童貞になれる呪いかけますねぇ〜。」
ペロロンチーノがウルベルトの周りで謎の舞を踊ると、ウルベルトは
0ptの表示が出るとペロロンチーノの舞は一層華麗になった。
「で、式どうするんですか?」
「ナザリックでやる?」
「ナザリックではやんねーけど…皆来てくれる?ご祝儀いらねぇから。」
それを聞くと、皆立ち上がった。
「そうは問屋が下ろしません。フラミーさんの今後の生活と、フラミーさんの望む夢のために俺は三万円とユグドラシル金貨三億枚包みます。」
どこかからか「よ!モモンガさん太っ腹!」と声が上がる。
「俺っち、姉ちゃんと二人で五万で良い?ユグドラシル金貨で後包むから。」
「いらねぇのに…。」
「ウルベルト君。このご時世、若いのに結婚式なんて偉いねぇ。今後のために、モモンガ君の言う通りちゃんと受けとりな。僕も包むから。」
死獣天朱雀のセリフに皆うなずき、出すぞー!と声を揃えた。
「ウルベルト、俺は特注の嫉妬マスクかぶってくから覚悟しとけよ。」
建御雷の言葉にウルベルトは笑った。
「嫉妬マスクはやめろよ!…そしたら、三万とかはまじで馬鹿らしいんで…食事代だけ、会費制でやりますから、来てください。」
ウルベルトがきちんと頭を下げると、円卓の間はヒートアップした。
が、ただ一人冷静な男がウルベルトの肩を叩いた。
「ウルベルトさん、少しお話いいですか?」
「――たっち、なんだよ。」
たっち・みーはウルベルトと共に廊下に出た。見送った円卓の間の面々は戦々恐々とした。
「…フラミーさんをあなたの無謀な計画や危ない仕事に巻き込まないように、もうあんな仕事からは足を洗ったらどうですか。それにフラミーさんをあんな所で働かせて。」
「…あんな仕事にあんな所、ね。まぁそんなこったろうと思ったよ。言わせて貰うけど、お前ももう腐った世界の維持者から足洗ったらどうだ。このままじゃいつ可愛い娘や妻が攫われるかも解んないぜ。」
「…そんな事は起こりません。警察をなんだと思っているんですか。それより、フラミーさんの為にも何か普通の企業に勤めて――」
「それで俺がアーコロジーを支える柱になったらお前は満足か。だがな、俺はいつかぶっ壊すもんを支える柱になる気はない。」
「……まだそんな事を。家庭を持つ意味がわからないんですか。」
「お前も、守りたいものがあるならよく考えな。知らないうちに恨みを買うと怖いぜ。」
「…分からず屋が。」
「そりゃどうも。」
ウルベルトは軽い調子で返事を残すと円卓の間に戻ろうとし――背にたっち・みーの声が掛かった。
「…式には行きますよ、フラミーさんのためにも。」
「まじ?ありがとな。それは本当に嬉しいよ。」
静かな様子でウルベルトが円卓の間に戻ると、全員から安堵の声が漏れた。
「めでたい日に喧嘩しなくて良かった〜!」
「それで、フラミーさんは――」
「風呂っすよ、風呂。」
「ははーん、じゃあフララとウルベルトさん、今夜ついに結ばれるわけだ。」
茶釜のそのセリフを聞くと、ウルベルトはガタリとリアルの体で立ち上がった。
「……ゴム買うの忘れてた。」
「…俺たち何聞かされてんの?」
ペロロンチーノがそう呟くと、ウルベルトはバッとヘッドギアを外した。
「あ、ウルベルトさん。お風呂お先でした。」
目の前には少し髪の濡れたフラミー。
ウルベルトは買いに行きそびれたと確信した。
「……フラミー、俺ちょっとコンビニ。」
「はぇ?こんな時間にですか?」
「あぁ…すまん、えっと、あー酒切れ。」
「あ!私こないだ買っておきましたから、ありますよ!」
フラミーの真っ直ぐな声に、円卓の間ではフラミーを応援する声が響く。
「……えーと、えーと…じゃ、あーつまみ。集成食料買ってくる。」
「あ〜じゃあ、私も行きます!」
「ダメだ!」
ウルベルトの若干大きな声にフラミーはンッと肩を竦めた。
「はぅ…お風呂入ったからダメです…?」
「…あぁ、そう言う事。んじゃ、悪いけど俺コンビニ行くからな。」
歩みを進めると、ブツっとコネクターが首から抜け痛かった。
「――っつぅ…。」
フラミーはあららと言うと、ウルベルトのゲーミングチェアに座った。
「ウルベルトさんで遊んでても良いです?」
「あぁ、好きにしてな!アイテム何使っても良いぞ!」
ウルベルトはそういうと、コンビニに走った。
えへえへえへえへ
次回はR18かな?