「何逃げてんの?」
フラミーはウルベルトと帰ってくるとそそくさと風呂に入り、カーテンの向こうに立ち去っていった。
「あの…だって…。」
「ちゃんとした方がお前が楽だって言ってるだろ?」
カーテンを平気で乗り越えてきたウルベルトはリモコンで電気を消すと、フラミーにキスし、たたまれている布団の上にフラミーを座らせた。
口に差し込んだ舌でくちゅくちゅと音を鳴らしながら、両膝を割り、その間に身をおさめた。
「今日も二本だから、頑張れよ。」
「に、にほん…?くるしかったもん、昨日くるしかったぁ。」
顔を赤くして首を振るフラミーにウルベルトは笑った。
「じゃ、今日は二本で苦しくなくなるまでだな。」
正面からキスし、太腿を撫で上げるウルベルトは手慣れていた。
風呂上がりで着たばかりのフラミーのパジャマをはだけさせ、首筋から胸まで優しく口付けた。
「ッン……っは……。」
「少しは慣れた?」
日曜から続く行為は木曜日の今日で実に五日目だ。
「ふぇ…なれなぃよぉ…。」
ウルベルトは笑うとパンツの上から芽をかりかりと撫でた。フラミーは足を閉じようと必死にウルベルトを挟み、無防備な腰はひくつき引けていってしまった。
「…あーそういうのもかわいい。」
「っんぁ……み、みちゃやだ…。」
「見えないから安心しな。」
「ほんと?」
「ほんと。お前も見えないだろ?」
「…うん。」
部屋はカーテンも引いてあるし、汚い空は星や月の光を通すことはないので闇だった。しかし、触っていればわかる。
ウルベルトのキスする音とフラミーの熱い吐息、喘ぎだけが部屋に溢れた。
「…舐めてもいい?」
ここ、とぷにょりと押したパンツはすでに少し湿っていた。
「……だみ…。」
「ちぇ…。」
ウルベルトは布団の上に座るフラミーの夜ブラを下に引っ張りずらし、ぷるりと出た胸の突起を含んだ。
「っんぁ…っは…っんん…。」
意外と見た目よりも柔らかく、たっぷりとした触り心地だ。
なめらかな肌は手に吸い付くようで、てろてろととろけるようだった。
握り締めたりするような事はできないが、ウルベルトは今ならフラットフットと語り合えるだろう。
控えめお乳は良いものだ。
「っ……ねぇ…うゆべるとさん…。」
「あに?」
「何人としたの?」
ウルベルトは数秒悩んだ。嘘はつかない。
「……何人でも良いだろ?今はお前しかいないんだから。」
「で、でも――」
「ほら、集中しろ。」
パンツがずらされ、ぬめりを拾った指が体内に押し込まれていく。
「っあっん……!んん…!」
ぬめった指は肉襞を甘く撫であげた。
指は進んでは戻り、何度も内部の液体を絡め上げて出てくる。
痛みを感じる事はなく、フラミーは経験人数を聞いていたことも忘れて潤いをくちゅくちゅと生んだ。
「…はぁ…たまんねぇわ……。」
「と、とけちゃぅ…。っんぁ…あっぅ…んっ、んっ…。」
ウルベルトは二本目を入れるとフラミーを揺するように指をピストンさせた。
フラミーは甘ったるい声を出し、ウルベルトの首にすがった。
「っぅぁ…。」
そして、ウルベルトはフラミーの好きな場所に到達し、敏感な芽と同時に内部を執拗に責めた。
「…きゃ!や、やら!…これ、っあぁん!むりだよ!!」
外と中の同時刺激は中イキへの一歩。ウルベルトは楽しく、週末に想いを馳せながらフラミーをいじった。
立て続けに迫る刺激に、フラミーはウルベルトの首にしがみついた。
フラミーの内部は疼き、ウルベルトの指を絡め上げる。
「お前はここが好きなんだよな、ほら、イきな?昨日教えてやったろ。」
「できないっ、あっ!やぁ!もうくるしぃ!」
「できるよ。ほら、慣れて。フラミー。」
拒絶しても同じように責め立てられ続け、フラミーはウルベルトにしがみついたまま達した。
闇に慣れた目は微かにフラミーを認識した。
ガクガクと震える体と、強く収縮する内部――布団に染みるほどに垂らした蜜がフラミーの状態をよく物語った。
快楽が収まるのを待ち、フラミーから指を抜いた。
「……もうこれ入るよな。」
フラミーは熱い息を吐き続け、何も聞こえないようだった。
ウルベルトはもう一度二本の指をフラミーに入れて紛らわせた。
イッたばかりのフラミーの体はまだまだ敏感で、入れられるだけで淫らに収縮した。お陰でウルベルトの高まる挿入したい気持ちはちっとも紛らわなかった。
フラミーに口付けて舌を吸わせ、二つの場所に自分の体を抜き差しした。
これで我慢するしかない。
「っや…ぁ…まって…!っひぅ!ひっあ!んっ…んぁ!」
ぬちゅぬちゅと音が鳴り、お預けジョニーがガンガン反応した。
「可愛い…フラミーまじで可愛い…。」
一頻り唇を貪ると、嫌だと言われた茂みに顔を近づけ、突起を甘噛みした。
「っきゃゎ!!」
フラミーはガクンっとのけ反り、軽くイきかけたようだった。
甘くとも噛むのは少し刺激が強すぎたなと次は優しく舐める。
「もぉやらぁ。」
頭をぽこぽこと叩かれながら指の抽送を続けるとフラミーは震えた。
ちゅっと音を立てて芽を可愛がるたびに子犬のようにキャンキャン鳴く様子が可愛くてウルベルトはハマった。
「もっかいだけイキな、これでイケたら今日はおしまいだから。」
いやんいやんと首を振るフラミーは潤い、とろけていた。
ウルベルトは最初は何も感じない様子だった奥を目指し、挿入している中指と薬指をグイッと入れ、突起をちゅぅっと吸い上げた。
フラミーは強すぎる快感に悲鳴のような声を上げた。
刺激を送るのをやめたがしばらくフラミーは痙攣した。
ひくつくフラミーからぬぽぉと指を抜くと、大量の蜜が糸を引いた。
きちんと優しく愛撫して可愛がればこうなるのかと思うと、今までの彼女とやった行為は独りよがりだったなと少し反省した。
ぼんやりと口を開け、壁に寄りかかって脱力しているフラミーの口にぬめった指を運んでみる。
ぷにょりと唇に触れると、フラミーは素直に口を開けた。
粘液でべとべとの指で舌を撫で付けるとフラミーははっと顔を背けた。
「っあ、や、やだ!」
「はは、ごめん。たまにはお片付けに協力して綺麗にしてくれるかなーなんて。」
ウルベルトが笑っていると、フラミーはぷるぷると震えながらウルベルトの手を取った。
「はは――は?」
フラミーは丁寧にウルベルトの指をしゃぶった。
「ッ――フラミー、冗だ…っぁ……っん……。」
指の間から指の先までねぶると、フラミーはぷはぁっと口を離した。
「……お前誘ってんの…?」
「ふぇ…お片付けに協力したの…。」
「……お前な…そう言うところだぞ。」
ウルベルトはフラミーが折れるほど抱きしめると離れた。
「フラミー偉かったな。俺は風呂まだだから。先に寝てな。」
明日は金曜日、明後日は土曜日、明々後日は約束の日曜日。
服をランドリーバッグにぽいぽい放り込むウルベルトはパンツを脱ぐと怒っているジョニーと目があった。
ジョニーは木曜日も日曜日も変わらないじゃんと言っているようだ。
ウルベルトは風呂に入ると相棒を慰め、子供たちは排水溝に去って行った。
「そう言えば村瀬さん女子会なんすよね。今日可愛いのに残念だなぁ」
応接セットに座った日下部は昼食の液状食料を飲みながら、ナポレオンを抱くフラミーの姿をつま先から頭までじっくり見た。
今日のフラミーは赤いニットに、白地に大きめのチューリップの柄が散りばめられた膝下丈のスカートだ。
大抵フラミーはブラウスにスカートか、ニットにスカートで来ているが、お馴染みのお団子頭がいつもより緩めに作られていて、何ともお出かけな雰囲気だった。
大きめのイヤリングも珍しい。
「すみません、先に先輩と約束してたのに」
「いや、いいっすよ。毎日会ってるし、気にしないで。またいつでも飲みいきましょう」
二人のやりとりを聞くとウルベルトは飲み終わった液状食料をゴミ箱に放った。
「日下部、俺の嫁を口説くな。後フラミーは今日可愛いんじゃなくて常に可愛い」
「…口説いてません。常に可愛いのも分かってます」
「口説くなっつってんだろうが」
「じゃあ今日の村瀬さんは可愛いですね」
「は?常に可愛いだろ?」
「……常に可愛いです」
「口説くな!!」
ウルベルトと日下部の不毛なやり取りに、フラミーは困った顔をした。
「しかし、お前と二人でサン・マロ行くの久しぶりだなぁ」
「そうですね、マスターも寂しがってましたよ」
「俺マスターに嫁できたって言わなきゃな」
まだ結婚していないのにすっかり嫁扱いだった。
ウルベルトが顔を緩めていると、ノックとともに扉が開いた。
皆シャキリとする。来訪者は以前ストーカーの相談に来た佐々木凜子だった。随分明るくなったような雰囲気だ。以前は日本人形のように長い髪が下され、顔を隠していたが、今はポニーテールにしていて爽やかだ。
「こんにちはー、今良いですか?」
「これは佐々木様。もちろんです。どうぞどうぞ」
ウルベルトはすぐに立ち上がり、応接セットにいた日下部をしっしと追い払うと佐々木にソファを勧めた。
「すみません、お食事時に」
「いえ、お気になさらず」
「宇留部先生、お体の具合はどうですか?」
ウルベルトの顔の治療費は犯人から出たし、拘束時間も短かかった為に佐々木からは成功報酬も含めて見積もりの七割程度しか貰っていない。
「すっかり良いですよ。佐々木様も生活は落ち着かれましたか?」
あの後、佐々木は気持ちが悪いと引越しを行った。
「はい。私もすっかり。あの、今日はこれを。スタッフの皆さんと是非」
佐々木は紙袋から菓子折を出した。
「あ、これはご丁寧にすみません。頂戴いたします」
受け取ったウルベルトはお茶を出したフラミーに渡した。
「開けて一つお出ししてくれ」
フラミーは中身は何だろうかとワクワクしながら給湯室に向かい、セロハンテープをひとつづつ丁寧に取りながら梱包を解いた。
「わぁ!」
ムースの詰め合わせギフトだった。
液状食料に凝固剤を添加する事で作れるムースは贈答品ではよく見る。
桃、メロン、マンゴー、バナナの四種類が二個づつ入っていて、どれを出すのが良いだろうかと悩む。
フラミーは選べず、四種類をひとつづつお盆に乗せた。
事務所には一応カトラリーが置かれているので小さなスプーンも二本用意し、応接セットに戻った。
「宇留部先生には本当にお世話になっちゃって」
テーブルにお盆ごと出すと、ウルベルトが佐々木に手で進め、佐々木はマンゴーを取った。
ウルベルトも桃を取り、蓋をぺりぺりと開けた。
「いえ、とんでもないです。お役に立てたようで何よりでした。――いただきます」
佐々木も嬉しそうに笑ってからムースを食べた。
世間話を繰り広げる二人のほとんどの会話は耳に入らなかったが、次の言葉だけはよく聞こえた。
「あの時、宇留部先生、私と結婚するって言ってくれたじゃないですか」
給湯室で自分が食べる分を選ぼうと戻りかけていたフラミーは一瞬だけ足を止めた。
「――そうですね、私があそこで暮らすと思わせた方が解決が早そうでしたから」
「ふふ、私びっくりしました。すぐにあの人が犯人って分かってたなんてすごいです。本当に宇留部先生にお願いできてよかったです」
「そう言っていただけると何よりです」
ウルベルトは他所行きの笑顔を作るとフラミーの煎れたお茶を飲み、午後の予定を頭の中に浮かべた。
毎朝フラミーが一日の予定を二人分教えてくれる。
悟らせないようにチラリと腕時計を確認した。
(後一時間で出なきゃならんか。)
佐々木は凄かったとか、素敵だったとか、ウルベルトを褒めた。
「あの、宇留部先生は休日は何されてるんですか?」
それを聞くと、ウルベルトは心の中でやれやれと息を吐く。
「彼女とフラフラしてますよ」
佐々木は「まぁ素敵!」と言ったが、言葉とは裏腹に残念そうに笑った。
「可愛いやつでしてね。最近婚約したんですけど、まっすぐ家に帰りたがる既婚者の気持ちがようやくわかりましたよ。」
「そう、ですか。」佐々木は湯飲みを置くとふっと息を吐いた。「――さぁ、それじゃあ私はそろそろお暇します」
「佐々木様、ありがとうございました。お気を付けてお帰りください」
「はい、こちらこそありがとうございました。」
佐々木はやはり残念そうに笑い、扉を開けたウルベルトにもう一度振り返った。
「宇留部先生、また来てもいいですか?」
良くないが、客に良くないと言える者がいるだろうか。
「――はは、ここに来るようなお困り事など、もう起こらないことをお祈りします」
それはこういうタイミングでウルベルトが大抵使うセリフだ。佐々木は数秒その言葉を咀嚼すると頭を下げた。
「そうですね。それじゃあ、お世話になりました」
「またいらして下さい。何でも解決しましょう」
佐々木が数度振り向いて角に消えていくのを階段から見送るとウルベルトは事務所に戻った。
「はぁー女ってのはめんどくせぇなぁ」
「はは、先生も罪な男ですねぇ」
「うるせーな。こっちは仕事だっつーの」
日下部はフラミーと早速応接セットでムースを選んでいるところだった。
ウルベルトは怠い怠いと呟きながら、フラミーの隣に座った。
「先輩はどれが良いです?」
「あ、俺バナナがいいっす。村瀬さんはどれがいい?」
「私、マンゴーいいですか?あと一個なの」
「いいよ。食べて下さい」
二人はぺりぺりと蓋を剥がし、差し入れを食べた。
「あーこれうまいっすねぇ」
「はひ!うまいっすねぇ」
ウルベルトはもにゅもにゅと口を動かすフラミーを数秒眺めた。
「フラミー」
口にスプーンを入れたフラミーはピョッと肩を揺らした。
「な、なんれす?食べます?」
フラミーに一口差し出されるとウルベルトははむりと食べた。
「――桃のがうまいな。次は桃食べな。」
「バナナもうまいっすよ。」
日下部がバナナ味を差し出すと一口貰い、フラミーもマンゴーを出した。
「どっちも美味しいです!」
「ですね。と言うことは桃が最高にうまいのかも。」
フラミーがムースを食べ終わり、片付けようとすると、ウルベルトはフラミーの頬をもちもちと触った。
「っんぁ、なんですかぁ、やめてください」
顔が赤くなっていくフラミーはやだやだとウルベルトの手を押した。
「お前少し妬いたろ?はは」
むにょむにょと頬に触れていると、フラミーは申し訳なさそうな顔をした。
(――え?)
ウルベルトの想像では頬を膨らませて「妬いてないですもん!!」と言われる予定だった。
「少しじゃないですよぉ…物凄く妬いきましたぁ…。お仕事だって分かってるのに…胸がギュってして、苦しくって、誰かに恋するってこんなに辛いんだって思いましたぁ」
フラミーの珍しい本心の吐露だった。
困ったように笑うフラミーが泣き出してしまうんじゃないかとウルベルトは焦った。
「え!?す、すまん!悪かった、フラミー?俺が悪かったよ、ごめんな?」
「むぅ。済んだ事ですし、そっとしておいてください」
フラミーはぽこりとウルベルトの胸を叩いた。
「あぁーごめんな、本当ごめん。だけど、勢いだったっていうか、仕事だしって言うか、いやー違う違う違う。こんな言い訳みたいな事言いたいんじゃなくて…」
「いいんですよ。言わなきゃいけないお仕事だってあるって分かってますもん。なのに、私こそ妬いたとか言ってごめんなさい」
ウルベルトが慌てふためく様子を、日下部は良いもん見れたとムースを食べながら観察した。
そして、フラミーを抱きしめて背をさすりはじめると日下部は静かに給湯室に片付けに行った。
「お前はなんも悪くないから本当に。泣かないでくれ」
「泣いてなんてないですよ。でも、ごめんね…」
「謝んないでくれよ、俺はお前がそう言ってくれるのが嬉しいんだから。ごめんな。嫌な思いさせて」
フラミーが頷くとウルベルトは少し、たっち・みーの「そんな仕事はやめろ」と言う言葉がよぎった。
「えへへ、ありがと」
ウルベルトはフラミーの顔に涙の跡がついてしまったかと確認したが、フラミーは涙を一滴も溢してなかった。
「…泣いてると思った。」
「泣いてないって言ってるじゃないですかぁ。私滅多に泣かないですよ。強いですもん。」
「はは、お前のそう言うところ好きだ。」
ウルベルトはフラミーの包んだ顔を引っ張り寄せたがフラミーに口を押された。
「わ、やめて下さい!こんなところでやです!」
「やめろって言われると燃えるって言ったろ。やだやだ言うともっとその気になるぞ。」
「ふぇ…じゃあ"良いよ"、"もっと"…?」
「あ、それもっと燃えるわ。」
日下部はどっかでやってくんないかなぁと給湯室から出るタイミングを失った。
フラミーは待合ソファに寝かせたナポレオンにハンカチを掛けると、外で待っている二人の下へ走った。
「お待たせしました!」
「ん、行くか。」
「鍵かけますよー。」
日下部が鍵をかけると三人は駅に向かった。
「先生、俺そろそろ引っ越そうかと思うんすけど、どう思います?」
「ほー、良いんじゃねぇの?引越し手伝うか?」
「あ、良いんですか!俺、先生の住んでる駅にまた住もうかなと思うんすよねぇ。」
「げぇ…なんでだよ。」
「……ゲェはなくないですか?」
「なんで毎日嫌でも会うってのに上司の住む街に住みたいわけ?ばったり会いたくないだろうが。」
「事務所に近いですし、駅前に安いスーパーもあるし、コンビニも多いし、サン・マロも行きやすいじゃないですか。」
ウルベルトは日下部の横顔をちらりと確認した。
本音は今住む
「……あーまぁなぁ。お前の住んでるところの駅前のスーパー足下見てるから高いよな。ファミリー向けの街の弊害だな。」
「なんか良い不動産屋知りません?」
「調べてやろうか。着手金五万で良いよ。」
「金取るんすか!!」
二人はふんふんと話を聞くフラミーの歩幅に合わせて歩く。無意識だ。
わちゃわちゃするうちに駅につき、三人で混み合う電車に乗った。
「それで…今住んでる親の不動産はどうすんだよ。そう言う事ちゃんと考えてから引越せよ。気持ちが焦るのはわかるけどな。」
「はは。先生、ありがとうございます。とりあえず俺なりに考えてるのは、やっぱり…固定資産税高くても手放したくないから…人に貸そうかなぁ…。」
「それは良い選択肢だと思うよ。そしたらお前の給料下げれるし。」
「勘弁してください。家賃と税金でトントンの予定なんですから。」
「ははは、そっか。あ、そう言えば――」
ウルベルトは何かを言いかけたが、話を聞いて二人を見上げるフラミーの腰に後ろから手が伸びるのを見ると全てを忘れた。
「ッてめぇ!!人の嫁に何しやがる!!」
今にも触れようとしていた手を捻りあげると――
「きゃう!ウルベルトさん!いたた!いたいって!」
驚きの瞳は見知った者だった。
「――は?茶釜さん?」
「も〜せっかくフララの事驚かせようと思ったのに〜。」
「び、びっくりしました…。」
ウルベルトの大きな声でフラミーは十分驚いた。
「やっほー。あぁあ。フララのいい腰触り損ねちゃった〜。」
「茶釜さぁん。」
「フララ今日も可愛いねぇ!」
茶釜はフラミーにひっつき、ウルベルトは安堵に息を吐いた。
「ふざけないで下さいよ、まじで痴漢かと思ったわ。」
「はは、ごめんごめーん!そっちコンシェルジュ日下部?」
「コンシェルジュじゃないっつーの。」
日下部はウルベルトと茶釜の様子を伺ってからとりあえず頭を下げた。
「日下部です。はじめまして。」
「どーもー、風海です。」
「その芸名名乗るなよ…。」
喧しい一行は電車を降りた。
「じゃ、茶釜さん。俺たちは行くから。フラミーのこと頼む。」
「はいはーい、私らフララと飲み慣れてるから安心してよ。」
茶釜に肩を組まれるフラミーが手を振ると、ウルベルトは名残惜しく思いながら日下部と駅を後にした。
「なんかクセの強そうなお友達ですね。女子会、村瀬さんみたいな人がたくさん居るのかと思ったら。」
「ははは、フラミーみたいな奴が来る女子会ならお前に一人くらい紹介してやったけどな。」
二人はぽちぽち歩いてサン・マロに着いた。
いつもと変わらない行きつけのバーは紺色の扉に、金色の字でSaint-Maloと描かれている。
四人がけのテーブルがたった二つと、後はカウンター席だ。ランチ営業もやっているらしいが、ウルベルト達は夜しか来たことがない。
「いらっしゃいま――あ、宇留部さん、日下部くん。」
静かな店内で、今日のマスターは少し忙しそうにしていた。
「マスター久しぶり、二ヶ月ぶりになっちゃったわ。」
「こんばんは、マスター。」
「待ってましたよ〜。村瀬さんはご一緒じゃないんですか?」
「あぁ。フラ――村瀬は今日は女子会。」
二人はいつも座る端から二番目の席に行くとジャケットを脱いで一番端の席に置いた。
二人ともジレ姿になった。日下部はウルベルトリスペクトで、宇留部探偵事務所の初任給でスリーピースを買った。
カウンターの端には動きもしない黒電話と、店の情報が書かれた小さなフライヤーが置かれていて、壁にはライトで照らされたエメラルドグリーンの海の絵が掛けられている。
他にもフランスのサン=マロと言う港街の古い地図が飾られていたりする。島だったので地球温暖化の影響でもう沈んでしまったが。
サン=マロは数百年前、海賊達の根城だと悪名高かったらしい。そして自分達の事を「我々はフランス人でも、ブルターニュ人でもなく、サン=マロ人である」と言って独立共和国の宣言を出したと言う話がマスターはお気に入りだ。
ここはアーコロジーの中でも外でもなく、サン・マロだとよく言う。
まだ日下部とも出会う前、たまたま初めて訪れた時にその話を聞かされたウルベルトはここを自分の根城にしようと決めた。
たった一人で生きていたウルベルトの胸を打ったらしい。
そして、落ち込んで明日には死んでいそうな日下部を引っ張って初めて連れてきた時の酒のまずさは今でも覚えている。
日下部は今でもあの日の酒のうまさを覚えている。
弟分が宇留部を先生と呼ぶようになってからはここは二人の基地だ。
そんなこんなで、日下部が先生と宇留部を呼んでも、昔馴染みのマスターはウルベルトを今も宇留部さんと呼ぶ。
「好きなもん頼んで良いぞ。」
ウルベルトはいつものようにそう言うと、日下部はニヤリと笑った。
「宇留部さんこそ好きなもん頼んで良いですよ。今日は俺もちなんですから。」
「ははは、そのキャンペーンまだやってたのか。ただ飯にただ酒だな。」
二人は久々の男だけの秘密基地で小学生のように笑った。
二人の下に酒と集成食料、二つ程度のちゃんとした食事が届く頃、カランカランと音が鳴った。
「いらっしゃいませ。」
「予約の風海です。」
ウルベルトと日下部は振り返った。
「お待ちしてました、そちらのお席どうぞ。――あれ?村瀬さん。」
「こ、こんばんはぁ。」
茶釜とやまいこ、餡ころもっちもちはウルベルトにピースした。フラミーは恥ずかしそうに笑った。
「…どう言う偶然だよ。」
静かな男の時間は終わった。
「ウルベルトさんちの近くでお店探してたらここ見付けたんだー!ウルベルトさんがサン・マロのマスターと何とかって言ってたの思い出して、ここにしてみた!」
「あぁ〜、宇留部さんのご紹介でしたか。」
マスターは嬉しそうにウルベルトを見たが、ウルベルトはやらかしたなぁと頭を抱えた。
あらかわいい
サン・マロええやん