「本当に入るんですか…?」
「ここまで来て何言ってるんすか!」
モモンガはペロロンチーノと紺色の扉の前でもじもじしていた。
「ちなみに茶釜さんになんて言って店の名前聞いたんですか?」
まさか処女膜から声が出ているか確かめたいと言ってはいないかモモンガは不安だった。
「そりゃ、フラミーさんにサプライズでおめでとう伝えるためって言いましたよ!!」
「…珍しくまともな理由を思いついてる…。」
「へへへ、それほどでも。」
ペロロンチーノは照れ臭そうにした。
「褒めてないです…。おめでとう伝えるためなら、なんかお祝いの物買いに行ってからにしません…?」
「それならユグドラシルでなんか買いましょうよ!」
「…たしかに。」
モモンガが唸っていると、ペロロンチーノは扉を開けて入って行ってしまった
「っあ、待ってください。」
慌ててモモンガも後を追うと、中は随分落ち着いた店で、「いらっしゃいませ」と落ち着いた声が響いた。
店内の一番奥のカウンターには男性が二人肩を並べていて、スマホを覗いているようだ。
手前のテーブル席にフラミーと茶釜が扉に背を向けて座っていて、茶釜はちらりとモモンガを見ると小さくウインクした。
やまいこと餡ころもっちもちも二人に気付くとアイコンタクトを送った。
ペロロンチーノは店員にお構いなくとでも言うように手を軽く上げ、察した店員は微笑み、奥の男性たちと話に行った。
そろりそろりとフラミーに近付いていくと、赤くした顔で幸せそうに笑っている横顔に、モモンガは安堵や喜びを感じてしまった。
「フラ――」
モモンガが普通に話しかけようとすると、ペロロンチーノが「ッワ!!!」とフラミーに後ろから声をかけ、フラミーは飛び上がった。
「ッキャヮン!!」
「フラミー!?」「村瀬さん!?」
店の一番奥のカウンター席から転ぶような勢いで立ち上がったのは、ウルベルトと、以前営業先でバッタリと会った中川だった。
「――え"、ウルベルトさんいんじゃん!姉ちゃん!」
「あ、言わなかったっけ?ウルベルトさんいるっぽいからここにしたんだよね〜。」
「信じらんねぇ!!あのイチャ付きをリアルで見たら死ぬ!!」
モモンガは確かにと思った。
目を白黒させるフラミーは耳がキンキンしているようだった。
「は、はわ…。」
「ペロロンチーノ、ガキみたいな事すんな!」ウルベルトはそう言うとパッと店員に振り返った。「――マスターごめん。」
「いえいえ、たくさんお客様に来ていただけるとありがたいです。」
マスターが笑うと、ウルベルトは申し訳なさそうにしてから耳をぎぅぎぅ押すフラミーの下へ行き顔を覗き込んだ。
婚約もしたような二人なのだからこのくらいの距離感は当たり前だが、最後にこの二人が揃ったタイミングに立ち会ったのは元旦だったので、モモンガは少しだけ驚いた。
「フラミー?平気か?」
「だいじょぶ…だいじょぶ…。」
ウルベルトがフラミーの背をトントン叩くとペロロンチーノは悶絶した。
「嫉妬マスクないすか?」
「ないですよ…。」
モモンガはため息を付いた。
「で、モモンガさんとペロロンチーノはなんだ?女子会だろ、女になったのか?」
茶釜とペロロンチーノはよく似た仕草で胸を張った。
「フラミーさんにサプライズでおめでとうを伝える為に来ました!」
「あーそう言う感じね。」
ウルベルトがなんとも言えない視線を送っていると中川がフラミーに水を差し出した。
「はい、飲んでね。村瀬さん。」
「は、す、すみません。先輩。」
「良いよ。大丈夫?」
「大丈夫ですぅ。」
モモンガはフラミーと仲良さそうにしている中川の肩をとんとん、と叩いた。
「牛丼以来ですね。」
「あ、これはどうも!あの時は食事代だして貰っちゃってすみませんでした。」
「いえいえ、あの後中川さんの分もウルベルトさんに貰いましたから。」
中川とウルベルトはモモンガを見ると固まった。
「――モモちゃん、その人コンシェルジュ日下部だよ?」
「え?でも前に会った時中川さんって聞きましたよ。」
フラミーも首を傾げた。
「モモンガさん、この人は日下部先輩です。」
マスターが椅子と机を寄せてくれている横でウルベルトはンンッと咳払いした。
「…モモンガさん、日下部、ちょっと。」
「は、はぁ。」
ウルベルトは二人を連れて定位置に戻ると、さて何と話したものかと悩んだ。
「――こいつは本当は日下部って言うんですけど、あそこの取引先の人が何度も中川って間違えるからふざけて中川って呼んでただけなんです。」
日下部はうんうん、とうなずいた。
「そうです。先生は割と俺をいじりがちなので。」
「…先輩の次は先生…?」
「あぁ〜…あそこにいる間だけは先輩って呼ぶルールだったんです。ねぇ、先生。」
苦しい言い訳のオンパレードだと思ったがウルベルトはうなずいた。堂々としていない奴が一番怪しい。
「そうそう。日下部、もうあれ紛らわしいからやめような。」
「そうですね。」
怪しい二人はハハハと棒状の笑いを漏らした。
「えーと、日下部。悪いけどあっちの飲みにお前も入ってくれ。俺が奢るから。」
「良いですよ。俺賑やかなのも好きですし。」
二人がそう話しているうちに、マスターは二人の食べていたものや酒を向こうに運んで行った。
「結局女子会じゃなくてオフ会だな。」
――茶釜、フラミー、ウルベルト、日下部。
――餡ころ、やまいこ、モモンガ、ペロロンチーノ。
八人座るとなかなかの大所帯だ。
日下部はとりあえず全員に頭を下げた。
「すみません、お邪魔します。日下部です。宇留部先生の下で助手をしています。」
それぞれ日下部に名乗ると、餡ころもっちもちは手をあげた。
「"宇留部先生"って、ウルベルトさん何のお仕事してるんですかー?」
フラミーが言おうとすると、ウルベルトは机の下でフラミーの足に手を置きそれを止めた。
「便利屋っすよ。便利屋。」
「便利屋なのに先生なんですかー?弁護士?」
「弁ちゃんなんかなれるかよ。俺は小卒だぞ。」
すると「――宇留部さんは慈善家ですよ。」
マスターがそう言ってモモンガとペロロンチーノに酒を出すと、ウルベルトは苦笑した。
「だから俺は良い事なんて一個もしてないって。」
「どうですかねぇ。ははは。」
マスターは楽しげに笑うとカウンターの向こうに去っていった。
皆の視線を振り切るようにウルベルトはグラスを持った。
「――とりあえず、モモンガさん達の酒もきたから乾杯しようぜ。」
乾杯するとモモンガは妹――だと思うしかない人に優しく微笑んだ。
「フラミーさん、本当におめでとうございます。ウルベルトさんにたくさん幸せにしてもらって下さいね。」
「ありがとうございます、モモンガさんのおかげです。」
「は、はは。俺は何もしてませんよ。」
モモンガを見るフラミーの目は、まるで別の世界で運命が強く結びついたことでもあるような――不思議な熱を持っている気がする。
どうしても妬けてしまい、ウルベルトは少し目を逸らした。
「ほら、モモちゃん!フララの指輪すごいよ〜!」
茶釜がフラミーの手を斜め向かいに座るモモンガに差し出すと、モモンガはフラミーの手を取り、指輪を見た。
薬指に煌く透き通った結晶は美しく――高価そうだった。ウルベルトの着るスーツも光沢があり、安物ではなさそうだし、モモンガはやはり便利屋というのは嘘くさいなぁと思った。
「ウルベルトさんやりますねぇ。フラミーさん、ウルベルトさんって何やってる人なんですか?結婚して生活は平気そうですか?」
「ウルベルトさんは――」
「だから便利屋だって。」
ウルベルトはモモンガに触れられているフラミーの手を取ると薬指に口付けた。
フラミーの顔がさくらんぼのようにカッと赤くなる。ウルベルトへ送られたとろけそうな瞳は男を欲情させるには十分だとモモンガは思った。
「っあぅ…ウルベルトさん…こんなところで…。」
「フラミー、その顔はダメだって言ってるだろ?」
「どんな顔ですかぁ。」
「無自覚もダメだって。まったく困った嫁さんだな。」
はゎはゎ言うフラミーの手に指を絡ませるとモモンガとペロロンチーノはダメージを食らい、女子は盛り上がった。
「ねね!二人は普段もウルベルトさんとフラミーって呼び合ってんの?もう三ヶ月でしょ?」
茶釜が尋ねると、ウルベルトが答えた。
「客がいる時は村瀬って呼んでるよ。それ以外は会社でもプライベートでもフラミー。」
「え〜、文香って呼べば良いのに。」
「結婚してくれって言った時は文香って呼んだぜ?」
「普段も文香って呼んだら?」
「…普段もか。でもこいつ、フラミーって感じするだろ?」
フラミーは恥ずかしそうにもじもじとし、ウルベルトを見上げた。
「あの、ふみかって…呼んでくれるなら…私も、とおるさんって…呼ぼうかな…。」
全員がウッと胸を押さえた。普通にしているのは毎日こんな感じの二人と過ごす日下部だけだ。
「姉ちゃん余計なこと言うなよ!く、苦しい…充実した空気に溺れる…!」
「ふ、ふみ…か…。」
呟いたウルベルトは顔がカッと熱くなるのを感じ、すぐ様片手を上げて顔を隠した。
「――や、やめよう。襲っちまいそうだ…。」
肉食山羊ウルベルトの見たことのない雰囲気はますますペロロンチーノを苦しませた。
「……最高。」茶釜は呟いてから、大切なことに気がついた。「って言うか襲っちゃいそうって、二人はまだえっちしてないの?」
ストレートな質問に、日下部が軽く身を乗り出して答えた。
「まだです。先生は毎晩村瀬さんが寝言でうるべるとさん、と呟くたびに目を覚ましてカーテンの向こうの村瀬さんの顔を見ているそうですから。別々に寝ている証拠です。」
「お前余計なこと言うなって言ってんだろ!こんなところで推理力上げんな!」
「村瀬さんの名誉のためですよ。」
フラミーは泣きそうな顔をしてウルベルトを見上げた。
「寝てる顔なんか見ないでくださいよぉ。」
「ご、ごめん…でも見れないものほど見たくなるっつーか…。」
ウルベルトが呟くとペロロンチーノはガッツポーズした。
「っしゃあ!!フラミーさん、偉いっすね!」
「わ、わたし、あのおといれ…。」
フラミーがトイレに去ると、ウルベルトはため息をついた。
「偉いのはフラミーじゃなくて我慢してる俺だろ。」
「ウルベルトさんも偉いですよ。」
「流石モモンガさん!」
ウルベルトはモモンガと握手を交わした。
「ウルベルトさん、じゃあどこまでいったの?」
やまいこが尋ねると、ウルベルトは少し悩んで告げた。
「キスとお触り。」
「お触りってあやしいな〜。ひひひ。」
茶釜は愉快そうだった。
「ずっとキスしないで我慢してたんだけど、あいつ元彼とキスした事あるとか言うからもうキスに関しては遠慮するのやめたわ。」
餡ころもっちもちはそれを聞くと、ポンっと手を打った。
「あ!その人ってフラちゃんが前に働いてたガスマスク製造会社のデザイナーでしょぉ?」
「あー!名前なんて言ったっけ?」
「かぜっち、
やまいこは教師なだけあり、人の名前を覚えるのが得意だ。
「流石やまちゃん!よく覚えてんね。餡ちゃんはその五十嵐と結婚しろーっておすすめしてたよねぇ。」
「だってさぁ、ぶくちゃんが調べたところによると美大の工業デザイン出てたらしいじゃん!家柄も良さそう〜。」
「将来有望だよね〜!ボクも最初は割とおすすめだったなぁ!」
「でも五十嵐はガッツが無かったよね〜。」
「本当にねー。」「あれはないよねぇ。」
「ねー。そう言えばフララが使ってるガスマスク、五十嵐が初めて一人で一からデザインしたとか言うやつだよね。」
茶釜はフラミーの席に置かれている鞄を開け、ガスマスクを取り出した。
「あ、やっぱそうだ!未練かな?」
「どーだかねぇ。フラミーさんが家の事情話したら振られちゃったって言ってたしね。でも家の事情で振るような男は――」
やまいこが語っていると、ウルベルトは茶釜の手からマスクを取り上げた。
「…お前らもっと早くそう言う重要事項は話せよ。」
「「「え、えぇ…?」」」
楽しく女子会を再開していた三人は目を見合わせた。
「ろくでもない男と付き合いやがって。その五十嵐はフラミーから告白したのか?」
「違うよー、ウルベルトさんみたいに押しの強い男子だったんだよね。一ヶ月くらい熱心にフララ口説いてたみたいだよ。」
「毎日働いてるところに来たってねぇ!私感心しちゃったなぁ!」
「そうか。」
それでさー、と女子が盛り上がるのを背に残し、ウルベルトはトイレに向かった。
「フラミー。」
「っひゃい!」
トイレに続く細い通路でフラミーはスマホをいじっていた。
ウルベルトはつかつかと近寄り、フラミーの赤い両頬を挟んだ。
「はゎ、なんですかぁ。」
何も言わず唇を落とすと、フラミーは「やめ…あ…じゃなくて…」と何と言えば辞めてもらえるのか悩み始めた。
「…もっとって言ったらやめる。」
「…っはぇ…も、もっと…。――ンン…。」
外だというのにウルベルトの熱い舌がフラミーの唇を割って入った。
ウルベルトはほろ苦く、フラミーは甘かった。
「っ…んぁ……やめるって…言ったのに…。」
身動きが取れないように抱き締め、背伸び一つしてくれないフラミーを壁に押し付けてキスした。
自分の味を塗り込むように、嬲るように口内を犯した。
「やぁ…うる…べぅ…さん……っんん。」
ウルベルトは快感と羞恥の間にいるフラミーを見つめたまま、ぬちゅんぬちゅんと外で鳴ってはいけないような音を鳴らし続けた。
「っはぁ…今やめた…。」
ウルベルトはフラミーの口から舌を抜いたが、フラミーはまともに動くこともできないような様子だった。
「フラミー、明日新しいガスマスク買いに行くからな。」
「はぅ…あぅ…ま、まだ…あたらしいよ…。」
「五十嵐の痕跡がお前に触れてると思うと狂う。」
「なんで…いがらしくんの名――」
ウルベルトは再び口付けた。感じさせるように背を撫でると、フラミーは繋がりの中でキャンと鳴いた。
「はぁ…お前はその名前呼ぶな。」
フラミーがぼんやりとした目で頷くとウルベルトはようやくフラミーを解放した。
(…勝手に過去のこと聞いて勝手に嫉妬して…。)
ウルベルトは自分のみっともなさに嫌気が差した。
「行くぞ。」
フラミーを引っ張って戻ると席に座らせた。
「ありゃ?フラちゃん、何があったのぉ?」
フラミーは顔を覆ったまま「ちゅーされた…」と餡ころもっちもちに返した。
「あらら。キスだけでフララも初心だねぇ。」
「だろ?キスしただけでフラミーはちょっと大袈裟なんだよ。」
ウルベルトはベッと舌を出した。
「だ、だって…ウルベルトさんのちゅー、おかしいんだもん…。」
「おかしいって何が?」
フラミーは覆っていた手を下ろすと、赤すぎる顔で呟いた。
「ずんずんしてめちゃくちゃにされちゃう…。」
「うわぁ…なんか…めっちゃえろい…ぬける…。」
ペロロンチーノがしみじみそう言う声に突っ込むものは不在だ。
「フララ、それどんなちゅーよ…。」
「…まぜまぜして……出たり入ったりするの…。」
茶釜は録音すれば良かったと思い、スマホを取り出すともう一度同じことを聞いた。
「それどんなちゅーよ!!」
「見せて欲しいわけ?」
ウルベルトが涼しくそう言うと、全員首を横に振った。
いや、茶釜姉弟は縦に首を振った。
「「見せて欲しい!!」」
「変態だな…。」
ウルベルトがフラミーの顔を掴み自分の方を向かせると、フラミーはやだやだと顔を振った。
「やだって言ったらするって、もう十回は言っただろ。」
「うるべるとさん!へんたい!やだぁ!」
「ははは、知ってる。」
楽しそうなウルベルトが顔を寄せると、フラミーはンッと息を止めた。
唇が触れそうなところでしばらく止まっていると、ぷはぁ…とフラミーが息を吐いた。
「はは、しないよ。そこまで変態じゃないって。」
「もー!ばかばか!」
ぽこぽこ叩かれながらウルベルトは楽しげに笑った。
「うひゃ〜こりゃ大変だね。」「絶対すると思ったぁ!」「見たかったのにー。」「やっべぇセカンド童貞!」「…無駄にハラハラしました。」
それぞれ感想を言い合っていると、フラミーは目を回したように机に伏した。
「先生って死ぬほどSですね。」
様子を見ていた日下部は上司に呆れたように言った。
「そんなつもりは無いんだけどな。でも好きな子はちょっといじめたくなるだろ。ほら、俺小学生だから。」
「こんなでかい小学生やめてくださいよ。事務所でもたまにキスしようとするでしょ。」
「キスくらい良いだろ?」
「ダメですよ、ご相談者さんがいきなり入って来たらどうするんですか。」
「ちゃんと応接セットでしてるから俺も場所は選んでるぜ?」
ウルベルトは楽しげに笑った。応接セットは待合ソファと扉から見えないようにパーテーションで軽く区切られている。
――話していると、ウルベルトの胸ポケットの中で事務所用携帯が鳴った。
「あ、ごめん俺ちょっと。」
立ち上がり、声が聞こえないように定位置に一人向かった。
「――はい、宇留部探偵事務所。宇留部です。」
電話の向こうはガガガ――とおかしな音が鳴った。
「もしもーし?」
発信者番号は「公衆電話」と表示されていて、そんなものがこの世にまだ存在したのかとウルベルトはわずかに驚いた。
「…悪戯電話か?」
すると、ガガ…ピー…ガ…ガガ…ピー――と規則性を持つ音が聞こえ、ウルベルトは慌てて手帳を取り出した。信号のようだった。
「とんとんツーとん、とんとんツー、ツーとんツー…。」
手帳に聞こえた音をメモしていると、音はリピートされ、ブツリと切れた。
もとより電話の向こうに誰かがいるような気配はなかった。
「なんだ…?」
ウルベルトは取り敢えずスマホでモールス信号を調べた。
「……FU…K…A…MA…S…UM…IRE…?フカマスミレ?女の名前?」
なんのこっちゃいと首を傾げていると、飲み会は盛り上がっていた。
「ウルベルトさーん!これうまいよー!」
ペロロンチーノに手招かれると、ウルベルトはメモをポケットに突っ込み席に戻った。
「何でした?」
日下部に聞かれると肩を竦めた。
「いや、よくわかんねぇわ。でも、フラミー。電話番してる時、もし深間って人から電話あったらすぐに教えて。」
酔っている様子のフラミーはシャキッとした。
「はーひ!フカマさまですね!」
フラミーは手帳を取り出すとそれを書きつけた。
フラミーの手帳は三色ボールペンで書かれているので割とカラフルだった。
「うわー手帳だ!おじいちゃんが使ってるの見て以来!」
茶釜がのぞき込もうとするとフラミーはさっと隠した。
「だめです、社外秘です!」
ウルベルトは偉い偉いとフラミーのお団子をもちもちした。
「フラミーさんって、働く時もいつもお団子なんですか?」
モモンガがどこか愛しげにフラミーを見るとウルベルトは番犬のような顔をした。
「はひ!背がおっきくみえますから!」
「「「あぁ〜〜。」」」
全員納得の声を上げた。
「――それにしても、皆何飲んでんの?」
ウルベルト以外の前に白いカクテルが並んでいた。
「あ、それ先生の分ですよ。」
フラミーの分だと思っていたのはウルベルトの分だったらしい。
「フラミーは飲まないのか?」
「私はやめときまぁす。寝ちゃうから。でも、とっても美味しいですよ!」
「俺がいるから一口くらい飲んだら?」
「…良いんです?」
「良いよ。」
ウルベルトが差し出すと、フラミーはちびりと一口のみ、幸せです、と書かれているような顔をした。
「えへへ、これ大好きです!」
「フララおすすめカクテル、美味しいねー!」
「ほー、珍しいな。お前がカクテル知ってるなんて。」
「はひ!マスターに前おすすめだよって出してもらったんです!」
ウルベルトは日下部と飲んだ時かと理解し、それを一口飲んだ。
甘いが、これは――「マスター、これってまさかあれ?」
指示語ばかりだった。
「はい、パリジャン・ブロンドですよ。あの時、宇留部さんがあれで来られた時にもお出しした。」
やはり濁されて表現された。昔付き合うところまで行けなかった女と来たときに、これをマスターが出してくれた事がある。
女性は皆好きですよーと、この宝石を溶かしたような少量のカクテルを。その時の女は割と甘くない方が好きだと可愛げのないことを言っていた。
「…ごめん、フラ――村瀬にはもうこれ出さないで。出すときはアルコールごく少量で。」
「お味が変わっちゃいますが…?」
「それで良いから。」
「わかりました。」
マスターはスマホにちょちょいとメモをした。
甘くアルコールを感じにくいが、パリジャン・ブロンドは二十度近い本気のカクテルだ。フラミーなら一口飲んだだけで――――まさに今うとうとしていた。
頬杖をつくフラミーがうとうとするのは女子会では当たり前の光景なのか女子は「フラちゃんおねむタイムだね〜」と平和的だ。
「フラミー?」
「は、はひ…ししょう…。」
「ウルベルトさんだろ?それより、もう帰るか?」
「いえ!みんなとかえりますから!」
「じゃあ少し寝な。」
フラミーはウルベルトの肩に頭を預けるとすぅーと眠った。
ウルベルトは盛り上がる皆の声を聞きながら、日下部と飲んだ日、事情も聞かずにフラミーを叱ったことを反省した。
むしろよく帰って来たと褒めるべきだった。
フラミーは言い訳もせず――いや、事情も言わずにただ謝ったが、フラミーが謝るところではなかっただろう。
「日下部。」
「はい、先生。」
「こいつほんとに酒弱いんだよ。二十度超える酒とか三口でも無理。こいつの限界は三度程度のカクテルなら二杯、ビールなら一杯まで。覚えといて。」
「…実は俺もその事に店出てから気付いて…本当こないだ悪いことしました。すみませんでした。俺がマスターにおすすめだしてって言ったんです。」
「そうか。知らなかったんだから仕方ないな。これからはこいつと部下の会開くときは自分で選ぶ酒だけにしてやって。後、悪いんだけど少し気を付けてやってくれ。」
「わかりました。申し訳ありませんでした。」
「そんなにちゃんと謝らなくて良いって。俺は済んだことはごちゃごちゃ言わないタイプなの。お前もフラミー連れて帰るの大変だったろ。悪かったな。」
日下部は困ったように笑った兄に困ったような笑いを返した。
0時落としてまさかの15時
くやしい!でもまだセーフだよね!
次は明日の16:00だ!!
次回#22はじめてR18
あぁ〜〜〜