※この作品はR-18です。

型月ハーレムマンション   作:七味胡椒

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冬姫逢引(アイリ)

「私、アニメ映画って観るの初めてだなあ。なんだかワクワクするわねっ」

「人気で評判もいいみたいですよ。特に背景が綺麗だって話題なんです」

 

 目を輝かせるアイリに歩は笑いかけた。

 

 大型ショッピングモールに併設された映画館。休日で賑わうシネコンのチケット売り場の列に二人は並んでいた。夏休み商戦でファミリー向けの作品が上映されており、家族連れが多く見られる。

 独特のポップコーンの匂いが店内に漂っている。歩は映画が好きでたまに観に来るのだが、アイリは滅多に経験がないらしい。

 

 二人はこの夏話題のアニメ映画を観に来ていた。歩は大ヒットした前作でこの作品の監督のファンになり、新作を楽しみにしていた。当初は一人で観るか同じく映画好きのアルクェイドを誘おうかと思っていたのだが、せっかく縁が出来たのだからとアイリを誘ってみたのだ。アニメ映画は観たことがなく、興味を持ったアイリは二つ返事で了承してくれた。

 

「良かったわねー、隣同士の席が残ってて。こんなに人気なのね」

「二年前……もう三年前かな。まだ小学生だったんですけど、前作がヒットしてて僕も観てみたんです。それが凄く面白くて。あれでファンが増えたんでしょうね」

 

 売店でポップコーンとジュースを買って、チケットを店員に渡し中へ。話題の映画が割り当てられている大きな箱は大体がシネコンの奥の方にある。ドアをくぐって館内に入ると、もう座席はほとんど満席の状態だった。

 二人の席はかなり前の方の一番隅っこ。もう空きが少なく、並んで取れる席がここしかなかった。人気作品らしく老若男女さまざまな観客が座る座席の隣を通って、自分たちの席へ。荷物を置いて、歩はふうと息をついた。

 

 上映前の宣伝が流れる。大抵これから数ヶ月以内に上映開始予定の映画の予告編が流れるこの時間が、歩は嫌いではなかった。今度はどの映画を観ようかという情報収集になるし、何より大画面で観る予告はスマホやPCで観るのとは丸で違った迫力があるものだ。

 

「CGって綺麗ね、あのライオンとか本物みたい。……わっ。このピエロちょっと怖くない? 映画館でホラー映画観れる人って凄いね、私ぜったい無理だな。でもちょっと面白そうかも……」

「ふふっ。アイリさんが興味があったら、僕が付き合ってもいいですよ」

「えっ、本当? ……うーん、でも怖いわね……」

 

 アイリは興奮したように予告編の内容を歩に話し掛ける。一応注意した方が良いかとも思ったが、これだけ沢山の観客がいる館内だ。アイリが喋ろうが喋るまいが関係ないくらいにはざわざわしているから、まあ上映が始まるまではいいかと歩は思った。

 

 やがて予告が終わり、室内灯も消され上映が始まった。一気にシンとするのに合わせてアイリも口を閉じる。

 この映画は恋愛作品だ。美しい作画と音楽が、少年と少女の物語を彩る。主役に声優を配役しておらず、演技の飾り気のなさが作風に合い逆にいい味を出していた。きらびやかでもありまた影もある都会で繰り広げられる主人公とヒロインの出会い、そして逃避行を、歩は集中して観ていた。

 

 ──と。ふと、右手になにかが触れた。

 

(……あ。アイリさん……)

 

 それは、アイリの左手だった。肘掛けに置かれた歩の手に被せるようにぎゅっと握られている。

 無意識の行動だったらしい。アイリの目は歩の方を観ていない。夢中で観ていた歩よりもさらに釘付けになって、ボーイミーツガールの物語に魅入っている。

 やがて。少年が少女を失う場面で、ツッとその赤い瞳から涙が零れた。それをぬぐうこともせず、アイリはスクリーンだけを観ている。

 

 光に照らされるその横顔を、歩は綺麗だと思った。

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「ぐすっ。うぅぅ……ちゃんと再会できて良かったわねぇ……」

「あ、あはは……。ほらアイリさん、ハンカチ使ってください」

 

 ありがどぉ……と咽びつつ、ハンカチで目元を押さえるアイリ。

 

 映画が終わり、二人はモール内の小さな喫茶店で休憩していた。歩は自分のアイスコーヒーをズズ、と飲む。

 終わった時からアイリはこんな感じだった。元々の感受性も高いのだろう、映画はアイリの心をいたく感動させたらしい。ぐしゅぐしゅと座席で泣き始めてしまった彼女をなんとかここまで連れて来たのだ。

 

「でも、確かに面白かったですね。特にクライマックスの辺り。最後に出会うところもホッとしました」

「そこよね、そこっ」

 

 歩の言葉に、食い付くようにアイリは言った。

 

「最後がハッピーエンドかどうかって重要だと思うのよっ。特にこういうロマンスのお話は。もしヒロインの子が助からなかったり、最後に出会えなかったりしたら監督さんに抗議しにいく所だったわ。ううん、そんな元気も出ないくらい泣き疲れちゃうかも。やっぱり他の事情とか損得を抜きにしても、いま好きな相手のほうを取るってステキよね」

 

 結ばれてくれて安心したわ、と自分のミルクティーをこくこくと飲むアイリ。監督の過去作を観せてみようかな、気絶するくらい泣くかも──と歩は思った。

 

「でも、やっぱり誰かと観る映画もいいですね。僕、いつもは大体一人で観に来るんですけど。今日はアイリさんを誘って本当に良かったです」

「えっ……そ、そうかな。うん、私も……歩くんと観れて楽しかったわ」

「……?」

 

 何故か恥ずかしそうにはにかむアイリ。泣いたせいでまだ目元が赤いからその為だろうか、と歩は思った。

 

「それじゃ、この後はどうしましょう。ついでにお買い物して行きましょうか。それとももう帰ります?」

「うーん。晩御飯の食材は買ってあるし、もう必要ないかも。……あ、でも確か洗剤がなくなってたわ」

「じゃあ、それだけ買って帰りましょうか」

 

 ここはセルフサービスだ。飲み物もあらかた無くなり、トレイに乗せて持っていく。

 昼時で混み合った店内を進む。しかし、返却口の前まで来た時、歩の後ろにいたアイリが他の客にぶつかり、よろめいてしまった。

 

「わっ!」

「きゃ……あ、歩くんっ!?」

 

 がしゃ、とトレイの上のコップが倒れる。

 ぽたぽた、と水滴が床に垂れる。アイリの飲み残しのミルクティーが、歩の服にかかってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「ああもう、本当にごめんなさい。私っておっちょこちょいね……」

「いえ、もう帰るところでしたし。洗剤もまだありますから、また買っておきますよ」

 

 濡れた歩の服を気遣うアイリに、歩は軽い口調で言った。

 

 流石に紅茶のぶっかかった服では買い物は出来ないので、今日は切り上げて帰って来ていた。帰り道の間中アイリは申し訳なさそうにしていたが、実際のところ歩は特に気にしていなかった。

 

(また今度お詫びするから、ってアイリさんは言ってくれるけど。正直、アイリさんと映画デート出来ただけで十分なくらいだよね)

 

 まあ向こうはデートだとは思ってないだろうけど、などと考えながら歩いていると、二人の住むマンションに着いた。

 エレベータに乗って階を上がり、歩の部屋の鍵を開ける。夏のこもった空気で部屋が暑くなっていたので、冷房を強めに点けた。

 

「じゃあすいません。ちょっとシャワーを浴びて来ます」

「うんっ。服はカゴに入れておいて。洗濯しておくわ」

 

 ありがとうございます、と言って歩は脱衣所に入った。

 

 濡れた服の感触が気持ち悪かったので、すぐさま脱ぎ去る。ズボンもおろして下着姿になると、ようやく涼しくなった。

 

「……あ、そうだ。新しいボディタオル、買ったんだっけ」

 

 せっかく入るのだから身体もしっかり洗ってしまおう、と先日買っておいたタオルを探す歩。

 しかし、中々見つからない。風呂の入り口の側に置いておいたはずだがそこにはなかった。おかしいなと思いつつ洗面台下の戸棚を開けると、ようやく見付けた。おそらくアイリがしまっておいてくれたのだろう。

 

「よし。やっと入れる」

 

 気を取り直し、パンツも下ろす。

 浴室のドアを開け、そのまま入ろうとすると。

 

「歩くん、もう入ったわよねー? さて、お洗濯しないと」

「あ」

 

 ばったりと。脱衣所のドアを開けたアイリと、目が合った。

 

「………………え? あら?」

 

 キョトンとしたアイリ。目の前の光景を理解出来ないのか、固まってしまっている。

 その視線が、ゆっくりと下へおりていく。

 

「えっ…………あ? んっ???」

「あ、アイリさん……」

 

 気まずい沈黙が二人の間に降りる。

 やがて、しっかりと歩の下半身を直視してから、

 

「そのう…………ごめんなさい…………」

 

 真っ赤に茹だった顔で、静かにアイリはドアを閉めていった。

 

 ドアを開けられた時と同じ格好で固まっていた歩。

 その身体から力が抜ける。

 

「なんかこれ……アルクェイドさんとの時も同じようなことがあったな……」

 

 あの時とはちょっと違うけど、と。

 がっくりと膝をついて、少年は羞恥に悶えるのだった。

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 カチャカチャ、と食器が擦れる音だけが響く。

 テーブルに向き合った二人の間に、会話というものは一切ない。

 

 もう時刻は6時過ぎ。二人は歩の作った和食の夕飯を食べていた。

 いつもは会話の弾んでいる食卓には、今日は沈黙が満ちていた。二人とも気まずい空気を払えず、お互いを窺っては目を逸らしている。

 

 あのお風呂場事件の後から、歩とアイリの空気はずっとこんな雰囲気だった。特に恥ずかしそうだったのは見られた歩より見たアイリの方で、歩が話し掛けても目を見ることも出来ず、か細い声で返事をするだけ。それは裸を見たとはいえ、中学生男子を相手にした二十代の経産婦の態度ではなかった。

 

(た、確かに気恥ずかしいとは思うけど。そこまでショックを受けるようなことかなあ)

 

 無自覚に思う歩。

 それも仕方ないことだろう。彼の中ではアイリは大人で、もう出来上がった立派な女性で、自分のような少年には好意は持ってくれていてもそれ以上のものを感じてくれているとは想像もしていないのだから。

 

 しかし、実際の所は違う。

 頬を赤らめて俯き、焼き魚を箸でつつくアイリの胸中は、

 

(~~~~見ちゃった見ちゃったあっ! 歩くんの裸、素っ裸……っ!)

 

 ────それこそ中学生のように、気になる男子の裸で一杯になってしまっていた。

 

 アイリの脳裏から、昼間の光景が焼き付いて離れない。

 小柄ながら、ちゃんと引き締まった身体。筋肉は薄いが一目で男性のだと分かる肩回り、胴体。夏の日差しに焼けた腕と足。

 そして、

 

(……い、一瞬だけど。けっこう立派だったな、歩くんの……おちん……)

 

 心の中でもはっきり言えず、濁してしまう。

 歩の股間のモノはアイリの目から見ても大人顔負けに見えた。とはいえアイリの性経験は夫だけだし、どれくらいが普通かなんて分からない。しかも歩のモノは臨戦態勢でなかったのだから、印象と推測でしか言えないのだが。

 

(……でも、そうか。優しいししっかりしてるから考えてなかったけど……歩くんも中学生なんだから。もう男の子としての身体は出来上がってるはずよね)

 

 小柄だが、しっかりと男性としての特徴を備えた身体。そして股間にぶらさがったモノ。

 それをまた思い出して、ぽーっと。

 

(…………だったら。歩くんも、オナニーとかするのかしら…………)

 

 そう、不埒なことを考えた途端。

 ────きゅん、とアイリの下腹が切なくなった。

 

(…………え、ちょっと。嘘でしょ……っ!?)

 

 信じられず目を見開くアイリ。しかし、彼女の身体は正直だ。

 

 アイリにとって、歩はある意味初恋の人に等しい。友人の紹介で出会い、関係を育み、想いを募らせた。今では一日の生活の大半をともに過ごし外出も一緒。アイリは気付いていないが、それは一般的なカップルが仲を深める過程と酷似していた。

 更にただでさえアイリが歩に惚れかけていた所に、相手のオスの裸体を見せ付けられたのだ。歩を恋愛対象候補として見ていたアイリの心身は、もう完全に少年を交配の相手として認識してしまっていた。

 

(やだやだあっ、なんで……! こんなのいつぶりよっ……!?)

 

 あまりにも久方ぶりの感覚に、アイリが戸惑う。

 

 その事実を知ったら、親友の式でさえ驚くだろう。なんと、アイリの最後の性交渉は優に10年ほど前、娘を妊娠した時まで遡る。アイリの身体を尊重するうえに仕事の都合上、愛人を持っている夫は彼女が妊娠して以来抱こうとはしなかった。これまではそれで良かったのだ。厳密には人間ではないアイリは生来性欲が薄くセックスを望まず、この10年間自慰をすることもなかった。一度だけ使った子宮は放ったらかしにされ、錆び付いて休眠していた。

 

 しかし、そこへ現れてしまったのだ。それを強引に再起動させる男の子が。

 

(うーむ。今日のサンマは塩が利きすぎたか……?)

 

 アイリが自分の身体の異変におののく一方、歩は気楽なものである。まあアイリもそのうち元に戻るだろう、と気楽に考えてごはんを頬張る。

 

 

 発情しまくりの人妻と、そんなことは夢にも思わない少年。

 二人の食卓は、そのまま沈黙続きで終わったのだった。

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「あの、アイリさん。流石にそろそろ帰られた方が」

「………………ええ」

 

 歩の呼び掛けに、アイリがポツリと答える。

 夕食の片付けもとうに終わり、ゴールデンタイムのテレビ番組も終わった。風呂も済ませてある。時刻はもう深夜に差し掛かっている。いつもならとっくに解散している頃だ。

 

 だというのに、アイリは中々帰ろうとしなかった。むしろ何かを期待するように歩をちらちらと見ている。

 

「あの、アイリさん?」

「………………」

 

 再度呼び掛けられ、観念したように歩へ向き直る。

 そして、少年をじっと見た。

 

「……あ、あの?」

 

 ちょっと拗ねたような、いじらしいような眼差し。

 ややあってから、

 

「…………ねえ、歩くん。提案があります」

「はい?」

「歩くんってさ。あんまりお母さんに寝かし付けて貰ったりしたコト、ないでしょ」

「はあ。えーと、まあそうですね」

 

 別に全くないわけではないが、そういう記憶は少ない。物心ついてからはほとんど覚えがないし、当然だが中学生に上がったくらいからは一度もなかった。

 

「や、やっぱりそうよね。それってさ、ちょっと寂しいでしょ。お母さんに寝かし付けて貰いたいと思わない? 子守唄をうたって貰って、頭を撫でられて。思うでしょ? 思うわよね?」

 

 なぜか勢い込んでまくし立てるアイリ。

 そんな彼女へ、歩は深く考えることもなく、

 

「そうですね。たまには添い寝したりして欲しかったなあ、とは思いますけど」

 

 そういえば、そんな経験はなかったなあ──ーと思いつつ答えた。

 

「なっ、あ゙っ、えぅっ…………!?」

「……あの、アイリさん?」

 

 それに過剰反応したのはアイリだ。

 何らかの不意打ちを食らったかのように目を白黒させている。顔は初めてみるほど真っ赤。北欧由来の雪を思わせる白い肌が紅に染まっている。乗り出していた身体は何かに怯えるように引かれ、腕を胸の前で交差していた。

 

「あっ、あ、あううう…………! なっ、なんて大胆なコトを……っ。でもでも、歩くんがしたいなら私は……」

「あの、大丈夫ですか? ……何か僕の知らない所で話が進んでません?」

 

 歩の言葉も耳に入らない様子で、目をグルグルさせているアイリ。興奮しているのか汗を流して思考のドツボに嵌まっている。

 

 そしてしばらくして。拳を握り、決心したかのように言った。

 

「…………わかり、ました。歩くんがそう言うなら、吝かではありません」

「はい? あの、一体なんの」

「ほら、早く着替えて。……今日は、私が添い寝してあげます」

「………………はい?」

 

 そういうことになった。

 

 




次からエロ。
アイリは書きたかったキャラなので濃厚にしていきたいです。

どのキャラクターの話が読みたいですか?

  • 月姫より「姫アルクェイド」
  • 月姫より「有間都古」
  • Fateより「美綴綾子」
  • Fateより「セラ&リズ」
  • 空の境界より「浅上藤乃」
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