両儀式はアイリの親友である。
両者は性格も趣味も嗜好も重ならない。しかし不思議と気が合い友好を結んだ。アイリが人生で得た親友と呼べる相手は二人。一人はコルキスの王女、そしてもう一人がかつて殺人鬼と呼ばれた式だ。
アイリにとって式は無感情とまでは往かずとも、それに近い情緒であるように映っていた。彼女の喜怒哀楽は総量が低い――もしくは人より閾値が高いのか。生まれつきというだけではあるまい。まるでかつて限度を大幅に超えて情動を消費してしまったかのように、式の感情の振れ幅はおとなしい。それは例えば料理に対しても、運動に対しても、景色に対しても、そして他人に対してもだ。
だからアイリは、彼女が娘のいる既婚者であると知って驚いたものだ。アイリの中で式は恋愛という行為と結び付かなかった。それが自由恋愛の結果であると知ってまた驚いた。
同時に、式が不貞を犯すようなことは決してあるまいとも思った。それはそうだろう。いわゆる極道の頭、手を出してはまずい存在だということもあるが、きっと彼女は人生で出費できる分の恋愛感情を使い果たしてしまっている。娘まで産んだ後というなら尚更。再度、それも新たな男性と恋仲になるほどの熱量を持ち合わせていないだろう、と。
きっとそれは間違いではなかった。式は稀に見る美人である。ともに出掛けていてナンパされたこともある。町内にも彼女に焦がれている男性はいるらしいと聞いた。組の中にも、憧れの視線で彼女を見る者は多いという。
しかしその全てを式は歯牙にもかけず切り捨てていた。靡かないのは当然としても、そこには男が女として自分を求めているということに一切の興味がないように思えた。その様子を見て、やはり彼女は根本的に男性への興味が薄いのだとアイリは思ったものだ。
アイリの考えは決して誤りではない。しかし正鵠を射てもいない。
確かに式は感情を表に出すのが苦手だけれど、苦手なだけだ。中身は意外なほど多感な女性で、様々な想いが胸中を巡っている。
ただ式は――――出会わなかっただけ。
彼女の想いを呼び覚ます男に、それまでは出会わなかったというだけ。家庭を、世間体を放り捨ててでも共にありたいという相手に。
そしてそれはアイリも同じ。
自分に二度目の恋愛はないと信じ込んでいた雪国の冬姫。女としての自分を冷たい雪で凍らせていたホムンクルス。
堅物を気取っているだけの恋愛初心者だった人妻二人は一回りも年下の少年に出会い、コロッとちょろまかされてしまったのだった。
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「あッ♡ あんっ♡ まっ、待って歩っ、アイリが来ちまったからっ♡」
「………………え、は…………?」
ドアノブを握ったまま、アイリは呆然と立ち尽くしていた。
じっとりした手汗の感触も、ツンと鼻を刺す淫臭も遠ざかり眼前の光景に魅入る。
数日前、少年と添い寝したベッド。彼のモノを扱き、舌を絡め睦言を囁きあった場所。
そこで今、自分の親友と少年が、肌を合わせていた。
「あ、アイリさん……っ」
「は……っ♡ 早かったじゃないか、アイリ。どうした? ほら、そこの椅子にでも座るといい」
焦った顔で見てくる歩とは対照的に式は余裕の表情だ。むしろ視られて良かったと言わんばかりである。
アイリは全く状況を飲み込めない。
────と、いうわけではなかった。そう、目の前で親密そうに絡み合う男女を素直に受け入れてしまえば、色々な事が繋がる。
降って湧いた同居生活。
執拗なまでに少年を勧めてくる親友。
妙に女慣れした彼。
それが、二人が繋がっていたと考えれば、式が裏で手を引いたのだろうと推測できる。
だがそれは推測できるだけ。
アイリ自身は、全裸で絡み合う少年と親友に圧倒されてしまっていた。
「なっ…………なな、なんで……っ。何やってるの、式っ!?」
「何って、そりゃ。見れば判るだろ。抱いて貰ってるんだ、旦那様に」
「だっ、旦那様…………??」
仰向けの式に歩がのしかかっている。腰回りには掛け布団が掛かっているが、その下がどうなっているかは想像に難くない。
そんな体勢で、目を白黒させているアイリに式は可笑しそうに笑う。
「そうだよ。こいつが──歩がオレの本当の旦那様。オレの好いてる男さ。今からちょっと前、こういう仲になってね。まあオレの方から誘ったようなもんなんだが」
「え、ええっ……ま、前からそういうコトを……?」
「そうだよ。くくっ、やっぱり全然気付いてなかったのか」
ぐい、とベッドの上で身を起こして式が言う。
「歩はこう見えて好色でね。アイリも言ってただろ、歩が色んな女と仲良くしてるらしいって。じつはあいつら全部、歩のハーレムの女。オレで四人目かな。ちなみに最近また増やしやがったんだよな、ほらアイリも見掛けたコトぐらいあるだろ、金髪で金目の小柄な娘ね」
「し、式さんっ。アイリさんが驚いちゃってますから」
歩の言った通り、アイリはオーバーヒート寸前である。自分だけが少年と仲がいという特別感。なんだかんだで自分の方が経験豊富な大人だと思っていた自負。性に潔癖だと思っていた親友。それら信じられない現実が彼女の心を打ちのめす。
しかし。同時に、ああそうだったのか、と妙に納得できる所もあった。
「……そっか。そのベッドの匂い……」
「ん? ああ、コレか」
ぱん、と式が布団を叩く。
「いちおう抱かれた奴が翌朝洗うコトになってるんだけどな。まあ染みついちゃってるだろうなあ、オンナの匂い。歩って性豪だからさ、相手はイキまくらされて布団べったべたにしちまうの。手加減してーって言っても逆効果。こっちが伸びるまで潰されちまうんだよ」
「えっと……僕そんな酷いことしてますか」
「してるしてる。アルクェイドが言ってたよ、仮にも真祖なのに腰抜かされるのはどうなってんだって」
まあ相手がおまえだから感じ過ぎるんだろうけどさ────と式は笑う。
そこには歩への親密な愛情しかない。少年に抱かれている他の女性とも親しいらしいというのに、だ。
「し、式……あの、他の女の人とも仲良いの? その人だって歩くんと……そういう仲、なのよね……?」
「そりゃあね。言っただろ、これは歩のハーレムなんだし。歩と一緒にいられる、ってコトが最優先なのさ」
ぴと、と。式は自分に乗る少年の頬へ手のひらを当てる。
「それにハーレムを広げるコトもね。今回のオレの計画を話した時も全員了承してくれたよ。まあ10日以上も歩に抱いて貰えないってのは渋ってたけどね、それが歩の為ならって」
「……え、と。ハーレムを広げる、って」
「ん。判るだろ、言ってるコト」
くす、と意味深な目で視られる。
思わず少年に目を移すと。式とのセックス中だったからだろう、突然真実を話され戸惑うアイリに申し訳なさそうにしつつも思いっきりオスの目でこちらを見ている彼と目が合って。
「────っく、ふ……♥️」
ずくん、と。胎の奥が、揺れた気がした。
ふらつく身体を支えながら、
「っっ……♥️ し、式。ご家族には、このコトは……」
「ああ、勿論秘密だよ。面倒だし歩が望んでないからね。
ああでも、娘は────未那にはそのうち、とは思ってるけど」
式の言葉に。ぞくり──と悪寒が走る。
判る。判ってしまう。その言葉の真意を。ここまでメスとして堕とされた女が、自分の娘を引き合わせるということの意味。
そして、ああ、私にも娘はいるなと。流れるように思った自分の思考に愕然とした。
「……くす。さすが歩。聞いてはいたけど予想以上に墜ちちまってるみたいだな、アイリ。凄い顔してるよ」
脂汗を垂らす親友を見て式が嗤う。
そして、彼女に向かって手招きした。
「ほーら、アイリ。そろそろこっちにおいで。……もう判ってるだろ? 自分が何をしたいか。どうしたいのか。……どうされたいのか、さ」
「あ……、う……♥️」
「おまえの葛藤は判るよ。怖いよな。本当にいいのかって、常識と倫理観が言ってるよな。でもほら、深呼吸して。……歩とのコトをじっくり思い返してみて」
ふっ♥️ ふうっ♥️ 自分の荒い息が鼓膜を震わす。
誘導されるかのように、少年との日々を思い返す。
────最初は戸惑い、式を交えて話した。
────共同生活を始めてみれば、彼との出来事は胸をときめかせることばかり。
────募る想いの末、抑え切れずえっちな行為へ及んでしまう。
────それからの、快楽にまみれた生活。
それらの日々を思い出すと、釣られるように、少年への恋心が改めて浮き彫りになっていく。
「思い出せたかー? ……それじゃ、トドメってコトで」
不意に。式が掛け布団を掴み。
ばさり、と取り払った。
「────ッッッが、ぁああああぁぁあああああ…………♥️♥️♥️」
アイリの目が見開く。
式の下半身。そこにはみっちりと歩のチンポが嵌まっていた。
ずぬるる……と膣から引き抜かれ、露になる。アイリとの『遊び』の時の弱めの勃起とは違う。カリが開き、血管が浮き。べったりと式の愛液が張り付いてぬらぬらと光って。鈴口がぱくぱくとして獲物を探している、それは女を犯す為の本気チンポだった。
「ん……♡ ほらアイリ、見えるか? これが歩のちんぽ。ハーレムの女を喰う時のフル勃起ちんぽだぞ♡ 夫と比べてみな。どっちが大きい? どっちが挿れたくなる? アイリの為にオレのまんこで扱くだけで射精はしてないから、10日生ハメしてなくてイラついてる凶悪ちんぽになってるよ♡ もう素直になっちまえば、大好きな歩のえぐいコレで、天国に連れていって貰えるんだけどな……♡」
「うっ♥️ ふううううううう……♥️」
ふらふらとアイリがベッドへ歩いていく。
吸い寄せられるかのような歩み。
不確かな足取りはまるで夢遊病者のよう。
スカートの足元には、粘ついた体液がぽたぽた垂れ落ちている。
「うんうん。ほら、もうちょっと。もう少しでベッドの上。……歩にたっくさん愛して貰えるベッドだ……♡」
よたよた。
ぺたぺた。
ぴちゃぴちゃ。
遂に人妻は、ベッドの端まで来てしまった。顔面はもう汗だく。膝は内股でかくかくと震えっぱなし。瞳は瞳孔が開き危ない雰囲気を漂わせている。スカートは前面がマン汁でべちゃべちゃになってしまっていた。
「…………はい、到着っと。偉いぞアイリ。ほら歩、撫でてやってくれ」
「あ、はい……」
「くうんっ♥️ あー……♥️」
よしよし、と大好きな少年に頭を撫でられると、それだけでイッた。股間からごぽりと愛液が吹き出す。だらしない顔でうっとりと彼の手のひらの感触を味わう。
と。それを一旦止めるかのように式が言った。
「はい、そこまで。……アイリ、わるいけどこのままなし崩しでえっち、ってワケにはいかないぜ」
「えっ、ええっ……も、もう許してよお……♥️」
「駄目駄目。ちゃんと心を決めて貰わないとな」
にや、と嗜虐的な笑みを浮かべる式。
実際のところ、もうアイリの命運は決まっている。心も身体も歩専用になってしまっている。
だからこれは心を決めると言うよりは、最終確認とでも言うべきモノだった。
「アイリ。両方は取れないよ。取るべきモノか、取りたいモノか。そのどちらかを選ぶんだ」
もう膝が立たずぺたりと腰を下ろしてしまった彼女へ、式が囁く。
「天秤だな。まずは取るべきモノからだ。魔術師であるって自分。家系で背負ってる、一族の悲願を追い求めるコト」
かちゃり、と。アイリの想像の中の天秤に錘りが載せられる。
「これから先の人間関係。きっと歩以外の男とは一緒にいられなくなる。いたいと思えなくなる。余暇も、自分より歩の為に潰したくなっちゃう」
人生における自由。普通なら、男の子一人の為になげうつ事じゃないモノ。
かちゃり。
「次に、家族。今は冷めてても、愛を誓った夫」
かちゃり。
「────そして。自分のお腹で産んで、育てた、血を引く娘。きっと今までは一番大切な存在だった自分の子ども」
……かちゃり、と。
天秤に錘りが載った。数は少ないかも知れない。けれど自分にも大切なモノがちゃんとあるということに、アイリは驚いた。
これを、本当に捨てられるのか。
ついこの前出会った、年下の少年への恋愛感情などの為に。
「それじゃあ、その反対側に」
式の言葉と共に、今までの人生で得た大切なモノの反対側へ。
「歩を載せてみよう」
数日前に惚れたばかりの少年を、置く────
(あ、駄目だ)
載せる前から判った。
いや、結果なんて決まり切っていた。
たった一つの少年が載っかった方の秤が勢いよく傾いた。まるでもう片方なんて何も載っていないみたいに地面へ堕ちる。上がった方に載っていた錘りはどこかへ飛んでいってしまった。今ではそれが重かったのかどうかもよく判らない。もう何を載せても比べてもこの傾きは揺らがないということだけが本能で理解できる。
アイリは決定的に、不可逆的に。
自分の想いを自覚した。
(────欲しい)
そうなれば、もう、後は雪崩のようにくずれていくだけ。
(欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい────っっ♥️♥️♥️)
少年の愛が欲しい。
少年の時間が欲しい。
少年との居場所が欲しい。
少年と交わす情事が欲しい。
少年が────歩が欲しい。
「はい。勿論です、アイリさん」
欲しい♥️ 欲しいっ♥️ と、うわ言を呟きながら中学生並みの性欲を爆発させるアイリ。
そんな人妻を見て、
「僕も……アイリさんが、欲しいなって思ってましたから」
歩は嬉しそうに言って。
彼女の手を引き、ベッドへと誘った。
次で終わる……はず!
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