ちょっと長くなるかも?
歩は残暑の続く午後の道を歩いていた。
まだ太陽は高く、日没の気配を見せない。歩は既に帰宅途中だったが、今頃学園では部活動に勤しむ学生たちが汗を流しているだろう。
歩の通う斎蘭学園は中高一貫のマンモス校であり、広大な敷地の中に部活用のグラウンドやコート、体育館など様々な設備が整っている。部活動は強制されていないので歩は入っていなかったが、サッカーやら陸上やらに励む同級生たちを横目に下校する時、たまに羨ましい気分になった。
歩には親友と呼べる相手はいなかった。部活に入っていればそういう相手も出来たのかもと思うと惜しくなる。だからといって、今更入部する気にもなれない。出来上がった人間関係の中に飛び込むというのは新しく人脈を作るよりハードルが高いものだ。おとなしくあまり社交的とは言い難い歩であれば尚更だった。
とはいえ歩にも、授業の合間に話したり共に昼食を摂るくらいの相手はいる。趣味も合わなければ性別も違うし、なんだか妙に突っ掛かってきたりするのだが、歩にとっては一緒に行動してくれるだけ有り難いものだった。今も並んで下校している隣の少女へと歩は話し掛けた。
「委員長さ、部活は良かったの? サボっちゃって」
「うっさいわね。あたしの勝手でしょ」
つーん、と視線も合わせず答える。カバンを持った手を肩に引っ掛け、薄い……と言ったら怒る控えめな胸を張って歩く少女。
赤いリボンが特徴的な彼女は、有間都古という。歩の同級生で学級委員長をしている、大きなツリ目が印象的な少女だ。可愛らしい少女でクラスメートからの信頼も厚いのだが、いかんせん性格がきつい所があった。それも他の生徒に対してはそこまでではないのだが、歩に対する言動がかなり刺々しい。なのに何故かよく絡んでくるし、行動を共にしているのだった。
朝登校すれば彼女から話し掛けてくるし、お昼も歩の席まで彼女が自分の椅子を持ってきて一緒に食べるのが習慣になっている。今日も、帰りがけに一人で下駄箱から靴を取り出す歩に彼女の方から『途中まで一緒に帰るわよ』と言ってきたのだ。
(当たりは強いけど、嫌われてる……わけじゃないよね、たぶん)
これで責任感が強く学級委員長なんかもしているくらいだから、友人がおらず一人でフラフラしている僕を心配してくれてるのかもなあ、と思う歩。
そんな内心を知らず、都古が「まったくもう」と呆れたように言う。
「背中丸まってるわよ、ピシッとしなさいピシッと。ただでさえチビで女の子みたいな顔でほっそい身体なんだから、姿勢くらいちゃんとしなさいよね」
「うぐ」
ジト目でみられ、そんな猫背のつもりはないんだけどなぁと思いつつ背筋を伸ばす。
都古はこういうところがあった。何かと歩に口を出したがる。性格もあるし、委員長ゆえに面倒見を良くしようと思っているのかもしれない。だからこそクラスメートにも嫌われず信頼を得ているのだろう。
「別に、好きでチ……小柄なわけじゃないし。顔だって……そのうち男らしくなる、はず」
「どうかしらね。なよっちいままな気がするけど」
「うるさいなあ。委員長だって女らしくないじゃん、色々と」
「────あ?」
「いや何でもないです」
彼女の胸を見ながら呟く……と殺気だった目で見られ即座に降参する。美少女で知られ腕っぷしもある都古だが、スタイルには思う所があるらしかった。
都古と駄弁りながら幹線道路沿いの道を歩いていく。地方都市だが、歩もよく行く巨大ショッピングモールが十年ほど前に出来て以来この辺りが市内の中心地であるため人通りは多い。人が多くなれば施設も増えるもので、ファストフード店やファミレスはもとより病院やら結婚式場やらも移転してくるようになっていた。
片側三車線の道の脇をしばらく歩いてから、住宅地の方へ入っていく。道は細くなり、民家やアパートが建ち並ぶ生活臭のある風景になった。ここまでくれば歩のマンションもそう遠くない。
「あ……そういえばさ。公園の坂の上のカフェ、来月明けにオープンするんだって。外人のメイドさんが二人、開店準備してたよ」
「ああ、ちょっと路地に入った所の? もうちょっと目立つ場所に開けばいいのにね。なんだっけ、変わったの名前の……あーねんなんとかって言う」
「そうそう。……そ、それでね。あたしちょっと興味があって、アンタが暇だったりしたらなんだけど、一緒に……」
(…………ん? あれって)
そっぽを向きつつお出かけの約束を取り付けようとする都古──だったが、歩はろくに聞いていなかった。
視線の先にあるのは、新しく出来た教会だ。鉄柵で門がされた石畳の広場の奥に、落ち着いた色合いの石造りで建てられた本格的なもの。表通りの喧騒から離れ、ひっそりと静かに佇んでいる。住宅街の一角にあって不自然とは思わせない、不思議な雰囲気を持っていた。
その教会の扉の前に誰かが立っていた。門の前にいる歩とは反対側、教会の方を向いているので顔は見えないが、シスター服を着ているので女性なのだろう。
歩は目を奪われてしまう。シスターなんてものを初めて見たということもあるし、
(綺麗な銀髪……アイリさんとはまた違った感じだ)
日本の地方都市では中々見る機会のない、銀色の髪ということも目を引いた。透き通りそうなアイリの髪とは少し違うくすんだ銀鼠色。癖があるのか、波打つ髪は腰あたりまで届いている。身長は歩より少し高い程度だろうか。頭に乗った丸い帽子が可愛らしかった。
教会の玄関を掃除しているらしい彼女が、ふとこちらを振り返った。整った美しい顔立ち。しかし感情というものが一欠片も浮かんでいないからか、まるで人形のようだと歩は感じた。
「良かったら今度……って。ちょっとどこ見てんの?」
「あ、いや。なんでもないよ」
都古に呼び掛けられ、慌てて答える。なんだかあのシスターさんを盗み見ていたようでばつが悪い。
もう一度教会の方を見る。けれどシスターさんはこちらになんの興味もないという風に、教会へ入っていく所だった。
「ああ、そこの教会? 最近出来たみたいだけど。ずいぶん立派よね……なに、あんた宗教に興味あるの?」
「そういうわけじゃないけどさ。綺麗なシスターさんがいたから」
「は? きもっ。うわ、そんな顔してムッツリスケベだったんだ。ちょっとこっち寄らないでよ」
「いやいや、そんなんじゃなくって!?」
ジト目で見てくる都古に慌てて首を振る。
二人は言い合いながら、帰り道を歩いていった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
その日の夜、歩は近所のコンビニにいた。
住んでいるマンションから歩いてすぐの場所にあり、品揃えも悪くないのでショッピングモールに行くほどでもない買い物のときはこのコンビニをよく利用していた。出来るだけコンビニ弁当はやめておいた方がいいと判ってはいるものの、ついつい料理が面倒な時は頼ってしまうのが男子の性である。
そろそろ日付が変わろうかという深夜。お菓子やジュースが欲しくなって買いに来ていた。今日は誰かが部屋に来る予定もなく、明日は土曜日で学校は休み。どうせ土日に予定もないので、夜更かししてゲームでもしようかという腹積もりだ。
コンビニを出て帰路につく。夜も熱帯夜が続いているが、昼よりはましだ。とはいえ生暖かい風の中を歩いているとじっとりと汗をかいてしまう。歩が住むマンションの周辺は坂が多く、このコンビニまでも長く勾配のある道を通らなければいけない。早足で歩いていると息が上がってくるくらいだ。
「靴で来てよかったなぁ。サンダルだったら疲れそう」
月を見上げながら独りごちる。運動不足な所がある歩である、歩きづらいサンダルで来たら足を傷めてしまいそうだった。
片側一車線の道沿いを進む。それなりに太い道だったが、この時間になると車の往来もほとんどない。辺りは静かなもので、虫の声と遠くで救急車らしいサイレンの音が聞こえるだけだ。
横断歩道を通って、住宅地へ。寝静まった家の間を抜けていく。
と、
「…………あれ。人だ」
視界に、人間らしい影が映った。
歩は高台から公園を見下ろしていた。街中にある公園としてはかなり広い方だろう風景が一望できる。
公園は森の遊歩道になっている場所とサッカーや野球が出来るグラウンドとの部分に分かれているのだが、歩が注目しているのはグラウンドの方だった。土に覆われた人気のないグラウンドで、人影が一人ぽつんと突っ立っている。
「散歩……じゃないよね。運動してるって感じでもないし……?」
興味が湧いて近づいてみる。と言ってもちょっと怪しい人かも知れないので、公園を取り囲む道に沿って歩いていった。
距離が狭まるにつれ、人物がよく見えてくる。肌に張り付く黒い服装に丸い帽子。そして月光を弾く銀の髪。見間違えようもない、下校途中に目にしたものと同じ外見。
それは、半日前に見たあのシスターさんだった。
(えっと……何やってるんだろう)
夜の公園で銀髪美少女のシスターさんが突っ立っている。
はっきり言って、自分の目を疑う光景だ。視界に入ったら誰でも思わず二度見してしまうだろう。
しかも、当のシスターさんの服装がまた風変わりだった。上半身はシスターらしい暗色の服だが、問題は下。どう見てもスカートを履き忘れているだろうとツッコミたくなる、タイツのみと言っても過言ではない下半身である。薄く肌が透けそうな生地が足とお尻にぴっちり張り付いている。シスターさんは歩に背中を向けているため、特にお尻が丸見えだ。全体的には少し細すぎるくらいの体型だったが、太ももから尻にかけてはむちむちとした肉付きでタイツを張り詰めさせていた。
(な、なんだあれ……痴女? 変質者? シスターなのに? ううむ、関わり合いになるべきじゃなさそう…………だけどお尻が色っぽいぞ)
数メートル離れた場所でまじまじとお尻を観察してしまう歩。
────それがいけなかったようだ。不躾な視線を感じたのか、ふと彼女が歩へ振り向いた。
「あら。貴方は……?」
「あ」
ばっちりと目が合う。
驚く歩だったが、シスターさんは歩以上に目を丸くして驚いていた。まるでここにいるべきでない相手を見つけたような顔。歩の身体を上から下まで確かめるように見る。
「……おかしいですね。魔力の流れが感じられません。魔術師ではないようですが、どうやって私を察知したのですか」
「は、はい?」
よく分からないことを言われ、ぽかんとしてしまう。
え、もしかして本当に危ない人? と頭にハテナマークを浮かべる歩。そんな少年のもとへシスターさんが歩み寄った。
「う、わっ?」
「静かに。……ふむ、改めて確かめてみれば何らかの残滓があります。どうやら貴方自身ではなく、他のモノによる影響のようですね」
ぴと、と細い指を歩の額に這わせて目を閉じるシスターさん。歩の何かを感じ取っているようだが、歩にはちんぷんかんぷんだ。
シスターさんが指を離す。面と向かい、金色の瞳で歩を見た。
「質問しますが。貴方、身の回りに魔術に秀でたモノや魔力を帯びたモノがいませんか? 現在、この公園には一般人の意識からこの場所を抜け落ちさせる簡易的な結界が組まれています。侵入者を力ずくで拒むモノではありませんが、貴方のような魔術の心得のない人間は立ち寄れないはず。その貴方が抵抗なくここに入って来れたのは、貴方がこの結界を軽く上回るような存在と身近に接している為ではないかと思うのですが」
「あ……もしかして」
そういうことなら思い当たる節がありすぎるくらいである。
アルクェイドやライダー、桜やアイリ。具体的に名前や詳細を出すのは控えたが、彼女らと日常的に接していることを伝えるとシスターさんは納得したように頷いた。
「やはりそうでしたか。聞くに、貴方はかなりの上位存在に囲まれているようですね。でしたら私程度の間接的結界など突破してもおかしくはありませんか」
「そ、そうなんですね。……よく分からないんですけど、もしかして僕って何かスゴい力を身に付けてたり……?」
歩も中二ど真ん中の少年である。普通じゃ近寄ることも出来ない場所に意図せず進入したと言われ、アルクェイドたちと懇ろになるうちに特別な能力が備わっていたりしないかとわくわくして聞いてみるが、
「いいえ、そんなコトはこれっぽっちも。凄いのは貴方の周りの方々であって貴方自身ではありません」
「ですよねぇ」
微妙に冷たい目をしたシスターさんにバッサリと切られてしまう。
思春期の妄想を容赦なく切り捨てられ、遠い目になる歩だった。
最近NTRばっか書いてたので糖分多めで行きたい(できるとは言ってない)
どのキャラクターの話が読みたいですか?
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月姫より「姫アルクェイド」
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月姫より「有間都古」
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Fateより「美綴綾子」
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Fateより「セラ&リズ」
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空の境界より「浅上藤乃」