アーネンエルベの建物には、喫茶店の裏に休憩室がある。
休憩室、とは言っても豪華なものだ。喫茶店のキッチン裏のドアをくぐれば、洋風のホテルのような廊下に出る。はめ殺しの窓や廊下の隅のテーブルに置かれたスノードロップの花瓶、敷かれたふかふかの絨毯などはアイリがリラックスしてお店を続けられるようにとセラとリズが母国から持ち込んだものだ。その廊下の奥にある部屋がアイリ専用の休憩室。書斎程度の大きさではあるがアイリが休めるようベッドもあり、シャワールームやプライベートキッチンまである。ここに住もうと思えば住めるほどの設備で、しかも内装はしっかりアイリの好む落ち着いたドイツ風に整えられている。
アインツベルンは錬金術を専門とする魔術師の一族で研究に没頭し世俗との関わりは薄いのだが、貴金属の扱いに長けている。数多の宝石類を所有しており、また貴族の家系でもある彼らは豊富な財産を抱えていた。
その直系であるアイリが店を開くとなれば、当然金に糸目をつけるはずもない。実際の所、この店が赤字だろうが黒字だろうがアインツベルンの財政には何も響かない。これは完全にアイリの道楽であり、採算は二の次なのだった。
それでも日本に一人で住む主から『店を開きたいから協力して欲しい』と連絡が来た時、セラとリズは喜んだ。主であるアイリではなくその家族のメイドとして海外にとどまる事は彼女本人の言い付けだったとはいえ心配には思っていたし、最近はストレスを溜め込んでいるらしい事も察していた。だから電話口の主がやりたい事を見つけたと明るい声で言うのを聞いて嬉しくなったし、その手伝いが出来るならと一も二もなく駆けつけたのだ。
────だが、しかし。
「なッ……な、な、なあ……!??」
「……うわあ。やばいもの、見ちゃった」
座椅子と床に垂れた雫の跡に気付いてから数分。
セラとリズ、メイド服姿の少女二人は、僅かに開いたドアの隙間から、休憩室を覗き見ていた。
喫茶店内の雫の跡は、その奥の廊下の絨毯にも続いていた。数歩ごとに落ちた黒いシミ。リズが指先で触れてみればねばついていて、その感触がまたリズの息を荒くさせた。
跡を辿っていくと、突き当たりの休憩室にまで続いていた。恐らくアイリが休んでいるだろう私室。セラがノックしようとした寸前、中からする物音にリズが気付いた。いわく、肉と肉がぶつかるような音がする、と。
耳をすませてみれば、セラにも確かに聞こえる。ぶつかると言っても殴るようなものではなく、身体と身体を打ち合わせるような音。それだけでなく、何か粘ついた汁の粘着音。そして、くぐもった女の喘ぎ声──。
中で何やらとんでもない事が起きている。セラとリズの脳内で、ドアの向こうへの興味と見るべきではないという警告がせめぎ合った。当然だろう、音を聞けば性経験のない二人にも何が起きているか想像はつくし、そしてこの部屋にいるとしたら一人しかいないのだから。
二人は顔を見合わせて迷ったが、ホムンクルスである二人もれっきとした女。結局は興味が勝ち、気付かれないよう盗み見てみよう、という事になった。特に盗み見を推したのはリズの方で、セラはやめておいた方がと尻込みしたのだが、セラが見ないなら私だけで見ると言われてしまい渋々同意したのだった。
セラが音を立てないようにドアノブを掴む。ゆっくり回し、数センチだけドアを開けると。そこから見えたのは、二人の想像を上回る光景だった。
「おっ、奥様っ……!? 一体何を……!!」
「あれ……男の子? アイリさま、裸……ていうか、あれ、エッチしてる……よね」
ヒソヒソと囁き合う。
休憩室のベッドの上では、肌を晒したアイリと初めて見る小柄な少年が激しく交わっていた。アイリが仰向けに横たわり、ベッドに銀糸のような髪がきらびやかに広がっている。上半身は完全に裸で下半身も足首に引っ掛かったショーツ以外は何も付けていなかった。少年はアイリにのし掛かり、彼女の足首を掴んで股を開かせ腰を振りたくっている。
明らかに、二人はセックスをしていた。ベッドの周りに放り捨てられたアイリの服が二人の夢中さを物語っている。少年が一発腰を打ち付けるたびに『ぱぁんっ♥️』と外まで響いていた音が鳴り、アイリが悲鳴を上げる。悲鳴、とは言ってもそれは苦しさからではなく、快感と歓喜から。悩ましげに眉を曲げ涎を垂らしながらも、その潤んだ瞳はハートマークを浮かべそうな勢いで自分を組伏せる男の子を見つめている。
『アイリさん、もっとおまんこ締めてっ。アイリさんが気持ち良くなってちゃおしおきになりませんっ』
『そっ、そんな ♥️コト言われてもっ♥️ だーりんのおちんちんが凄すぎるんだもんっ♥️ このおちんちんでおまんこ擦られてお腹突かれたらっ、気持ち良くなっちゃうに決まってるよおぉっ♥️♥️』
『しょうがないな……っ、じゃあ苦しくなるくらいに感じさせちゃいます。ほら奥まで……っ!』
『~~っぐぅうううう……!?♥️ しっ、子宮っ♥️ もう降りてるのにっ♥️ そんなごりごりエグられたらっ、気持ち良すぎて壊れちゃうぅぅぅ~ッッ♥️♥️』
『 』
『アイリさま、すごい顔になってる。ずばり、うわきだね、これ。あの男の子はだれだろ…………セラ? だいじょうぶ?』
『 』
『おーい。……だめだ、これ』
背丈も年齢もずっと下であろう少年にマンコをガン突きされよがっている主人を目の当たりにしてセラがショートしてしまった。
口をぱくぱくと開けて固まっている姉妹をよそにリズが視線を戻す。ベッドの情事は、佳境に入ったらしい。アイリががくがくと痙攣し、少年の腰に足を絡めて射精を促す。
『おおッ♥️ ぉおおおおお♥️♥️ だーりん、お仕置きしてぇ♥️ 他の男の指輪着けてきた貴方の女にお仕置き♥️ だーりん専用になった子宮にざーめんたっぷり注いで欲しいのぉぉっ♥️♥️』
「…………ごくっ」
乱れ狂う主人の姿を目にして、リズが唾を呑み込んだ。
分かりやすくショートしてしまったセラと違い、リズの反応は分かりにくい。しかしそれはただ表にはあまり顕れないというだけで、リズもセラのように衝撃を受けていた。……もしかしたら、それこそセラ以上かも知れない、という程に。
(あれが……エッチ。性交。セックス……。はじめて、見た)
きゅん……、と下腹が痺れる。
どう見てもアイリ本人の同意の上とはいえ、主人である彼女が、夫以外の男性に貪られている。アイリを守護するのが第一命題であるリズならばすぐさま押し入っていき、不埒ものをとっちめるのが道理というものだ。
だというのに、リズにはその発想も浮かばなかった。それは幸せに浸っているアイリの邪魔をすべきでないという殊勝な心懸けなどではない。
というか。今のリズには、主人であるアイリの姿もろくに目に入っていなかった。
(おちんちん……。男性の股間に、ぶら下がってるモノ。見るのは、はじめてじゃない……けど、
アイリの股間をほじくり返す、大きなチンポ。そしてそれを備えた少年。リズの視線と思考は、彼の事ばかりを捉えていた。彼はどんな男の子なのか。性格はどうだろう。一方的にアイリを責め立てているけど、経験豊富なのだろうか。マンコに刺さったままで先っぽまで見えない彼のチンポをよく見たい。シミ一つからでも濃厚に感じた彼の匂いを嗅ぎたい。何より──彼は、私に興味を持つだろうか、と。
それはリズの気質によるものだった。
理性的なセラと違い、リズは単純で明快だ。ある意味ケモノに近い気質を持つ彼女は、本能的に上下関係を理解し、重視している。
リズにとってアイリは素晴らしい主人だ。しかしそれはそもそもリズがアイリやその娘をサポートする為に調整されたホムンクルスだから、という事も大きい。勿論、何もなければリズは疑問を持つ事もなくアイリにずっと仕えただろうし、事実これまではそうだったのだ。
しかし今、その主人がベッドの上で組伏せられ、犯されている。まるで犬がマウントを取られ交尾するような姿を見た事で、プログラミング通りにアイリへ奉仕する意思に亀裂が走ってしまった。ライオンのオスが争いに負けたら群れを乗っ取られるようなもの。いや、この場合はアイリは女であり性的にも蹂躙されているのだからもっと酷い。原始的な面を持つリズの心に響くには十分過ぎるほどの光景だ。
盲目的に奉仕していたアイリへの忠誠が崩れかけている。アイリに幻滅した、嫌いになった、という訳ではない。ただ単に、『アイリさまは自分の仕えるべきご主人様ではないかも知れない』と思ってしまった。
なにしろ、仮にも主人であるはずのアイリは、どう見たってあの男の子より格下の扱いをされ、それを受け入れているのだから。
(あ……二人の、うごきが)
止まった。アイリの身体が仰け反り、男の子が腰を押し付ける。
数秒の後。
『イク♥️ っっ♥️ 出てるっ……♥️ びゅるびゅるお腹に出されてる♥️♥️ だーりんの濃ゆ~いざーめんっ♥️ 私に一滴残らず出しちゃってぇ♥️ 子宮のなか、タプタプにして~っ♥️♥️』
経験のないリズでも分かる。それは中出しでアクメを極めた女の姿だった。
子宮の中へ、たっぷりと中出し。リズの見る限り避妊具を着けていた様子はないし、そもそも妊娠を嫌がっているようにも見えない。アイリ自身が証明したようにホムンクルスといえど種を蒔かれれば妊娠する可能性はあるというのに、夫ではない男の子からの孕ませ射精を拒む様子はまったくなかった。
ゆっくりとアイリが呼吸を整える。それも、上半身を倒れ込ませた男の子と濃厚なキスをしながら、だ。舌を絡め唾液を混ぜる音がドアの外まで聞こえてくるほど。それを見て、ファーストキスもまだのリズの胸が、また鼓動を早めてしまう。
(キスは……気持ち良い、のかな。エッチが良いっていうのは、なんとなく分かるけど。どう、なんだろう)
二人が唇を重ねるのに魅入ってしまう。無意識に自分の唇を指で撫でるとむずむずと疼く。
アイリと男の子がキスを終えた。見つめ合う二人は何事かを囁きながらくすくすと笑っている。それこそ恋人同士にしか見えない親密なやりとりだ。
ひとしきりイチャイチャしたあと、アイリがベッドから下りた。全裸のアイリが絨毯に立つ。ベッドに座った男の子の方へ向き直る。ドアからはアイリの美しい背筋しか見えない。
(……? アイリさま、何を……)
するつもりだろう、と疑問に思うリズの視線の先で。
アイリはすっと膝を落とした。ふかふかの絨毯の上で脚を畳み、正座になる。
そして──深く深く、その身体を倒した。後ろから見るリズからはアイリの頭が前方に消え、背中に散らばる銀髪と、大きめのお尻だけが見える。
『本当にっ、本当にごめんなさい、だーりん……♥️ 私、アイリスフィール・フォン・アインツベルンはだーりんのメス奴隷だっていう立場を忘れて、ヤキモチを妬いて貰うために元夫の指輪を着けて会いに来てしまいました♥️ 失礼なコトをしてごめんなさい♥️ だーりんの愛を疑ってごめんなさい♥️ こんなどうしようもない女におまんこから溢れるまで中出ししてくださってありがとうございます♥️ 愛してます♥️ お慕いしてます、だーりんっ……♥️♥️』
(────は)
アインツベルンの冬姫。完璧なホムンクルス。貞淑な妻であり娘を愛する母であり、セラとリズの主人であるアイリ。
そんな彼女の、額を床に擦り付ける見事な土下座である。見間違えようもない、せいぜい十代半ばだろう男の子への屈服のポーズ。
それを見て。遂に、揺らいでいたリズの心の柱が砕けた。
目を見開いて自分の主がひれ伏す姿を凝視する。目が離せない。リズが信じていたものが壊れて、取り返しがつかなくなっていく。
そして、思わず立ち上がった瞬間──
「お止めになってくださいっ、奥様……!!」
ようやく正気に戻ったセラが、部屋に飛び込んでいた。
次エロ
最近土下座を書いてなかったので、セラリズ編ではたくさん書きたい。
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