※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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兎舞踏ーRabbit Butohー

 怜二の機体が動き出し、普段の怜二では考えられないようなスピードで地を滑るように有栖に迫る。

 

『遅いわ……っ!』

 

だが、怜二の刃が有栖に届く前に、有栖は行動を開始した。

 

 有栖は脚部に力を込め、中空へと跳躍する。

 

 天高く跳び上がった有栖は虚(・)空(・)を(・)足(・)場(・)と(・)し(・)て(・)蹴(・)り(・)飛(・)ば(・)し(・)、目にも止まらぬスピードで縦横無尽に中空を駆ける。

 

 音すら置き去りにして空を駆ける有栖の反応は双葉ではシュミレートを重ねてようやく通(・)過(・)し(・)た(・)経(・)路(・)が分かる程度で、今何処にいるのかさえ定かではない。

 

 これが、ラビットシリーズ最大の特徴。

 

 即ち、驚異的な移(・)動(・)速(・)度(・)である。

 

 ラビットシリーズは防御性能を度外視した極端な特化仕様により、特殊な脚部パーツを用いる事で虚(・)空(・)を(・)蹴(・)る(・)こ(・)と(・)す(・)ら(・)可(・)能(・)な(・)脚(・)力(・)を手に入れている。

 

 こと、高(・)速(・)戦(・)闘(・)に限れば、【ラビットシリーズ】に肉薄出来る戦闘用電子体(シュミクラム)は存在しない。

 

 事実、怜二の機体は空中を駆け回る有栖の機体を追う事が出来ず、姿勢を低くした状態で地上に留まっている。

 

『ハァ……ッ!』

 

 有栖は怜二の機体の真上で脚部を振るい、驚異的なスピードで振るわれたニーブレードから空気の刃が跳(・)ぶ(・)斬(・)撃(・)として射出される。

 

 真上という死角から放たれた空気の刃が、怜二の機体に降り注ぐ。

 

『SyaHaatto!』

 

 ────だが、その刃は怜二には当たらなかった。

 

 空気の刃が直撃する直前、怜二の機体は驚異的な反応速度で真横に跳び、斬撃はそのまま地面を斬り裂いた。

 

『……っ! 今のを、避けるの……?』

 

 その光景を見ていた双葉は、思わず絶句した。

 

 今の攻撃は、普通なら回避は不可能だ。

 

 死角である真上から放たれた事に加え、有栖は移(・)動(・)途(・)中(・)に(・)その斬撃を飛ばしている。

 

 【ラビットシリーズ】の超級の機動力を用いて一瞬で真上を通過した以上、有栖が何処から攻撃を放ったか目視で察知する事は不可能だった筈だ。

 

 にも関わらず、怜二の機体はあの攻撃を回避して見せた。

 

 どう考えても、異常だ。

 

(……まさか、あの変貌によって怜二の反射神経が極限まで研ぎ澄まされて……いえ、それにしたって異常だわ。あんな反応速度、脳を直接弄りでもしない限り不可能……っ!?)

 

 そこで、気付く。

 

 怜二は、確かに自分の幼馴染だ。

 

 だが、怜二のパーソナルデータを思い返すと、ある事に気付く。

 

 そう、怜二には────1(・)0(・)歳(・)以(・)前(・)の(・)記(・)憶(・)が(・)、(・)一(・)切(・)存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)のである。

 

 双葉が初めて怜二と出会ったのは、怜二が10歳の時だ。

 

 幼馴染と呼ぶには充分な時間、怜二と共にいたという自負はある。

 

 しかし、逆に言えば……自(・)分(・)と(・)出(・)会(・)う(・)前(・)の(・)怜(・)二(・)の(・)事(・)は、何も知らないのである。

 

 そもそもからして、記(・)憶(・)が(・)無(・)く(・)す(・)というのは尋常な事態ではない。

 

 つまり、怜二は双葉と出会う前に記(・)憶(・)を(・)な(・)く(・)す(・)程(・)の(・)壮(・)絶(・)な(・)体(・)験(・)としたという事だ。

 

 いや、もしかすると……脳(・)を(・)弄(・)ら(・)れ(・)た(・)可能性すらある。

 

 むしろ、今怜二に起きている異常は、そういった可能性を充分過ぎる程に感じさせた。

 

(……怜二……貴方一体、何(・)を(・)さ(・)れ(・)た(・)の……?)

 

 ……恐らく、ノインさんはそれを知っている。

 

 けれど、自分達に言わないという事は……隠しておきたい理由があるか、言(・)っ(・)て(・)も(・)ど(・)う(・)し(・)よ(・)う(・)も(・)な(・)い(・)かのどちらかだ。

 

 言い知れない焦燥を覚えるが、戦闘はその間にも進行していく。

 

『斬り刻んであげるっ!』

 

 一度斬撃を回避された事で、有栖は中空をハイスピードで駆け回りながら次から次へと空気の刃を撃ち出していく。

 

 四方八方から空気の刃が襲い掛かり、怜二の機体を中心に刃の檻を形成する。

 

 ────しかし、怜二の機体は凄まじい反射速度でその斬撃を悉く回避し、瞬く間に刃の檻を抜けていく。

 

『SyaRaaaaaaaaaaaa!!』

 

 そして、攻撃を回避した怜二の機体は異動を続けながら無数のラディカルスピナーを射出し、中空に無数の回転刃が撃ち出される。

 

 元より、当てる事は考えていない。

 

 回転刃を配置する事で、有栖の移動経路を限定するのが狙いの筈だ。

 

『邪魔よ……っ!』

 

 ……だが、有栖はそんな妨害はものともしない。

 

 再び無数の空気の刃を撃ち出し、的確に中空のラディカルスピナーを破断していく。

 

『KIHihihihihihihi!』

 

 ────途端、中空で光が明滅する。

 

 ラディカルスピナーに付随していた機雷が誘爆し、轟音と共に周囲を無数の爆風が埋め尽くした。

 

『……っ!?』

 

 相当数の機雷を使用したのだろう。

 

 周囲一帯の空域は爆発で埋め尽くされ、有栖の機体も姿が見えない。

 

 幾ら超スピードを持つ有栖でも、あんな爆風に巻き込まれればどうしようもない筈だ。

 

 加えて、有栖が使用しているのは防御性能に難のある『ラビットシリーズ』。

 

 有栖の命運も、此処までかと思われた。

 

『────甘いわ』

 

 ────しかし、双葉は目を疑う光景を目にする事になる。

 

 爆発に消えた筈の有栖が怜二の機体の背後を取り、その背部のアームを斬り落としたのだから。

 

『な……ッ!?』

『Nanixitto!?』

 

 思わず、双葉は怜二の機体と同じタイミングで驚愕の声を発する。

 

 双葉としては、今爆発が起きた時点で有栖の生存は絶望的だと考えていた。

 

 しかし、結果はご覧の通り。

 

 有栖は傷一つなく、しかも怜二の機体の追加武装を斬り落とす事すらやってのけた。

 

 ……理屈は、わかる。

 

 双葉のシュミレートによれば、有栖は単純に加(・)速(・)し(・)て(・)爆(・)発(・)圏(・)外(・)へ(・)移(・)動(・)し(・)た(・)だけだ。

 

 単に、その速度が常軌を逸している点を除けば。

 

 有栖の反応速度や移動スピードは、ハッキリ言って異常だ。

 

 双葉の想定したものよりも、有栖の移動速度は圧倒的に上だ。

 

 計測結果を知り、こうして直に見てもそのスピードは埒外としか言いようがない。

 

 有栖の攻撃は、続く。

 

 今度は空気の刃ではなく、直接その脚を振るい脚部のニーブレードで怜二の機体を斬り裂かんとする。

 

 その追撃を当然の如く回避しようとするが、一歩遅い。

 

 右足による一撃目をフェイントにした左足の斬撃が、怜二の機体に叩き込まれた。

 

『Guaxaxaxaxaxa!』

 

 有栖の攻撃は怜二の機体の右腕部を片口から斬り裂き、両断。

 

 続けざまに右足で追加の斬撃を叩き込み、左腕部も破断する。

 

 腕部を失った怜二の機体は、悶え苦しむかのように絶叫する。

 

『────これで、終わりよっ!』

 

 今こそが、待ち望んでいた好機。

 

 有栖は双葉から受け取った特殊プログラム入りの楔を怜二の機体の中央、胸部へと叩き込んだ。

 

『GiItto!? Giaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa! oresamaga,oresamagakieru!? kierudato!? GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 怜二の機体はおぞましい絶叫をあげ、ガクガクと震える。

 

 その震えは瞬く間に全身に広まり、ガクリ、と脱力するような動作の後カメラアイから赤い光が消えていく。

 

 そして最後にビクリ、と震えたと同時に怜二の機体は床に倒れ込む。

 

 異形と化していた怜二の機体はカラーリングも暗緑色から元の青と白に戻って行き、形状も双葉がよく知るヴァナルガンドのものを取り戻していく。

 

 数舜後には全てが元のシュミクラムの形に戻り、事態は沈静化を迎えた。

 

『……なんとか、なったか……』

 

 その様子を見て、双葉は安堵の息を漏らした。

 

 思えば、あの【統率個体】出現からずっと気を張り詰めっぱなしだったのだ。

 

 やっと状況がほぼ終了したのだから、肩の力を抜くのも無理からぬ事だった。

 

 ……今怜二に打ち込んだのは、脳チップが実行しているプログラムを強制終了させる双葉特性のウイルスコードである。

 

 双葉は怜二の異常を脳チップの異常と断じて、ピンポイントで対策プログラムを用意してのけたのだ。

 

 確かに倒(・)す(・)だけであれば有栖だけでも可能であるが、それでは意味がない。

 

 あくまで止(・)め(・)る(・)事を第一とするならば、こういった手段が必要であった。

 

 それを即席で用意出来てしまうあたり、双葉の技術力も大概ではあるが。

 

『────依頼完了。どう? 満足して貰えたかしら?』

 

 余裕癪癪の表情の有栖が、表情画面越しに双葉に笑いかける。

 

 どうやら、今の戦闘すら有栖にとってはそこまで大きな負担にはならなかったようだ。

 

 つくづく、底が知れない。

 

 あんな戦いの後にこんな笑みを浮かべられるあたり、相当に精神が突き抜けているとしか思えない。

 

『……ええ、ありがとう。感謝するわ』

『ふふ、報(・)酬(・)は後で貰いに行くから構わないわ。それから、彼を上へ運ぶくらいはサービスで手伝ってあげてもいいわよ』

『そうしてくれると助かるわ。お願い』

 

 了解(ヤー)、と有栖は軽く返事をして、両腕を失った怜二の機体を担ぎ上げる。

 

 そして離脱(ログアウト)が可能な領域、つまり通常階層へ向かう為、有栖は大きく跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────誰もいなくなったその場所に、少女が一人佇んでいた。

 

 シルクハットを被った露出過多な衣装を纏った少女は、未だに残る戦闘痕を見ながら笑みを浮かべている。

 

「────第一の扉は、これで開いた。けれど、まだ足りない……まだ、真の叡智を取り戻すには──足りないものが、多過ぎる」

 

 何処か暗い歓喜を湛え、少女は謳うように呟く。

 

 その眼には爛々とした光が宿っており、何処か危険な空気をを醸し出していた。

 

「さあ、物語は始まったばかりだ。もっと、力を欲するんだ。遠慮なく、その叡智に手を伸ばすといい────それこそが、君に求められる運命なのだから」

 

 少女は謳う、己が想いを。

 

 少女は願う、己が願いを。

 

 あらゆる全てを踏み躙り、己が願望が成就するその瞬間を夢想して。

 

 少女の狂気(おもい)は、止まらない。

 

 その歩みが、続く限りは。

 

 

 

 Chapter1/花園ーOpening Worldー ──終──

 




 というワケでこれで第一章は終わりです。

 以前投稿したグランドルートの時とは、大分違う展開になっています。

 当然、この後の展開は全くの別物となります。

 基本的に、後のルートにならないとちゃんと『遺跡』を攻略するような真似は出来ませんからね。

 では、今後もよろしくお願いします。
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