BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「……怜二、双葉を抱いたでしょ」
朝、起きてダイニングに向かっていた俺はその最中にノインさんに呼び止められ、ノインさんの部屋に連れて行かれるなり開口一番そう告げられた。
「……はい」
誤魔化す事は出来そうにないので、正直にそう答える。
寝るにはまだ早い時間から双葉を犯し続けていたのは事実であるし、あの最中に部屋の近くをノインさんが通りがかっていた事も充分有り得る。
更に、いつもであれば朝早くに起きて朝食の準備をしている双葉がまだ起きて来ないという事実は、隠しようがない。
それ以前に、ノインさんは双葉の性分を充分に理解している。
故に、今回の経過を鑑みればこういう結果になるのではないかと、予想していたのかもしれなかった。
「……そっ、か」
ノインさんは俺を責めるでもなく、ただそう呟き溜め息を吐いた。
その姿には、何かしらの
「……実を言うとね、こうなるのは時間の問題じゃないか、って心の何処かで思ってたの」
だって、とノインさんは続ける。
「双葉が怜二に向ける依存は、単純に
けど、とノインさんは告げる。
「今回、怜二が死にかけた事で、双葉は怜二を失う恐怖を直に感じてしまった。なら、その恐怖を紛らわす為に
「それは……」
無理だった、と言える空気ではなかった。
確かに、俺が最初から彼女の隷属願望に紛らわせる為に
……けれど、俺はそれを躊躇してしまった。
双葉が俺に依存しているのをいい事に彼女の人生を俺に縛り付けるのは、嫌だと思ってしまったからだ。
結局の所、俺に依存させている時点で双葉の人生を縛っている事に変わりはないというのに、だ。
故に、俺のエゴで双葉に負担をかけてしまった事実は消えない。
俺に何かを言う資格は、もうないのだ。
「……過ぎた事を言っても仕方ないわ。分かっていると思うけど、双葉にちゃんと
「……ああ、分かってる」
「なら、早く双葉を起こしに行ってあげなさい。
ノインさんはそう話を締めくくり、俺を部屋から退室させた。
俺はノインさんの言う通り、双葉を起こすべく自室へ向かう。
「……怜二」
……自室の扉を開けると、そこには顔を俯かせた双葉が立っていた。
今、起きたばかりなのだろう。双葉は未だ一糸纏わぬ姿で、身体にこびり付いた体液もそのままだ。
双葉は据わった眼で俺を見据え、ぎゅっ、と拳を握り締めている。
「ふた……」
「────何処行ってたの、怜二? ねえ、怜二は私を抱いてくれたんでしょ? 私は怜二のものになったんでしょ? ねえ、だったらなんでどっか行っちゃうの? なんで私を置いて行っちゃうの? 昨日の言葉は嘘だったの? ねえ? 答えてよ怜二、ねえ、怜二────私を、捨てるの?」
────俺が双葉に声をかけようとした途端、双葉はいきなり感情を露わにそう捲し立てて来た。
瞳は激情で揺れており、見るからに情緒不安定になっている事が分かる。
精神が不安定になっている事は理解していたが、
「双葉、俺はお前を捨てたりはしないよ」
「うそ、だったらなんで私を置いて行ったの? 私はもう、要らないんでしょ? ねえ、やっぱり面倒になっちゃったんでしょ? 捨てないでよ、捨てるくらいなら殺してよ。ねえ怜二、貴方に捨てられたら私、生きてる意味なんて────」
ない、と言いかけた双葉の唇を、俺は強引に塞ぐ。
双葉は驚いた様子で目を見開くが、すぐに俺に身を委ねて来る。
俺は存分に双葉とのキスを堪能した後、唾液の橋をかけながら双葉と唇を離した。
「俺が、お前を捨てるワケないだろ。一度抱いた以上、きっちり責任は取る。お前はもう、俺のものだ」
「────うんっ! 私は、怜二の
双葉は心地良さそうに俺に寄りかかり、満面の笑みを浮かべた。
……俺は双葉が
だって、もう俺に
それがどれだけ間違っている関係だろうと、既に俺が取れる手段はそれしかないのだ。
昨晩、俺が双葉を抱いた事で、俺と双葉の取れる道筋は決定してしまったと言っても過言ではない。
垣間見える双葉の瞳が暗い喜びで満ちていたとしても、その感情を黙認する事しか今の俺には出来ないのだ。
「……ねえ怜二、一緒にシャワー浴びに行こ。いいでしょ?」
「……ああ」
俺は双葉の眼が情欲に濡れている事に気付いていたが、敢えて気付かない振りをして双葉をシャワー室に誘った。
シャワー室で双葉が俺を誘い、行為に至ったのは言うまでもない結果と言える。
結局、シャワー室から出るまでには一時間以上の時間を要した事は事実なのだから。
大幅に遅れて朝食を摂った俺達は、ギルドへ向かう事にした。
今回は碌に【技術遺産】を回収出来なかったが、それでも【統率個体】を撃破したというのは事実である。
【探索者証】には
つまり、過程に大いに問題があった今回の戦闘であっても、ギルドに分かるのは
ギルドはキャンサーを撃破した探索者には特別報酬を与える制度を採用しており、【統率個体】を撃破した場合はかなりの額の報酬が支払われるらしい。
────【
七機の【統率個体】が膨大な数のキャンサーを率いて、仮想の各地で暴威を振るったのである。
この感染爆発により、人類の総人口は2/3まで減少。
仮想の各所にはキャンサーによって汚染され、立ち入り禁止となった
この【大浸蝕】によって、仮想の大地には拭いきれない爪痕が残された。
人類の文明の進歩は、この【大浸蝕】によって数世代は遅れたと言われている。
仮想に依存して文明を発展させて来た以上、仮想の衰退は文明の衰退をも意味している。
今はどうにか復興してきてはいるものの、未だに災禍の爪痕は尾を引いている。
それでも、【大浸蝕】が止まらなければ人類の滅亡すら有り得たのだ。
己の身を引き替えに【大浸蝕】を主導した七機のシュミクラム乗り、通称【
いずれにせよ、俺が生まれるよりもっと前の話だ。
既に終わった事なのだから、あまり気にしても意味はない……筈だ。
ともあれ、俺と双葉は支度を整えて家を出た。
目の前には、俺達の住む街────【スズシロ・シティ】の街並みが広がっている。
俺達が暮らす街、【スズシロ・シティ】は探索者ギルドの
頭上に透き通るような青空が見える街並みは、自然と文明が調和した美しい景観である。
道は煉瓦で舗装され、至る所に木々や花壇が置かれていて自然の匂いが立ち込めている。
居並ぶ民家は自然素材の白壁で作られていて、瀟洒なイメージの洋風建築の家が所狭しと並んでいた。
街中は様々な人々が往来し、公園では親子や恋人達が仲睦まじく過ごしている。
道にはゴミ一つ落ちておらず、街全体に清潔さが保たれていた。
そして、街にはライブラリの資料で見た事のある【車】のような、
そんなものなどなくとも、各所に設置された【
【
仮想への没入の時、実体は全て電子体に変換され一時的に現実から消失する。
【転送装置】はその技術を応用し、仮想空間を経由する事で現実での転送を実現させた装置なのだ。
この装置の使用料は住民の税金から賄っているらしく、都市の住民であれば誰でも無料で利用する事が出来る。
その為、シティに
近場であれば徒歩で、遠方であれば転送装置で移動出来るのだから、維持費のかかる乗り物など誰も使おうとしないのだ。
これはこの都市だけではなく、他の都市でも同様である。
この街を事実上牛耳っている【アーク・インダストリー】が安価な【転送装置】を開発し世に広めた為、乗り物を開発する必要性がなくなったからだ。
──【アーク・インダストリー】はこの【スズシロ・シティ】に居を構える、
【アーク・インダストリー】は遺跡から発掘された【技術遺産】の情報を元に仮想関連の様々な製品を開発しており、その中にはアーク社独自に開発した技術も存在し、世界でもトップクラスの業績を上げている大企業である。
この【スズシロ・シティ】は元々【アーク・インダストリー】の手で発展した街であり、アーク社はスズシロ議会にも強い影響力を持っている。
アーク社は自社で特級AI【アダム】を所持しており、その【アダム】を通じて管理塔【ミッドスパイア】地下に存在する機関論的AI【バルドル・デブリ】を管理・掌握している。
……【バルドル・デブリ】は前時代的と言われる機関論的AIの窮極系である【バルドル・マシン』の一機ではあるが、AIネットワークに取り込まれた事で疑似的な
そのバルドル・デブリの直上に存在するのが、都市中央に天高く聳える巨大建造物────管理塔ミッドスパイアである。
【
そしてその上層部は、スズシロ議会とアーク・インダストリーが使用している区画となっている。
文字通りの、この街の
|探索者ギルドは遺跡から探索者が発掘した【技術遺産】を受け取り、それを議会に提出する事でその内容を精査し、技術転用が可能であれば【アーク・インダストリー』に一任する、という手法を取っている。
遺跡から発掘される技術遺産レの中には危険な技術も存在し、そういった技術は議会によって【
…………しかし、盗掘者によって盗掘された技術遺はこの手順を踏まずに世に流出してしまう事がある。
その場合もまた議会によって【禁忌技術】指定が成されて、その技術に関わった者は厳罰が課される。
【
しかしそれでも秘密裏に被造子製造を行う者は後を絶たず、当局も対応に苦慮しているとの話だった。
そういった経緯もあり、盗掘者はギルドや議会から忌み嫌われており、盗掘者には一切の人権が認められず、盗掘現場を押さえた場合はその場で殺しても罪には問われない事となっている。
少々極端にも思える対応だが、危険な技術が流出する可能性を考えれば仕方のない対応とも言えるだろう。
…………【遺跡】は転送門でしか行けない構造体なのだが、盗掘者達にはどうやら独自の侵入経路があるらしく、いつの間にか遺跡に侵入して盗掘を行っているのだそうだ。
当然、盗掘者達は探索者を邪魔者としか見ておらず、遺跡内部で遭遇しようものなら積極的に排除しようとして来る。
そんな盗掘者達が組むチームは【
そういった事情を鑑みれば、
俺達は何気ない会話をしながら、街を歩いてギルドに向かう。
そうこうしている内に【転送装置】の場所に辿り着き、俺は操作パネルへ向かった。
【転送装置】は人一人が入るサイズの円筒形の装置の前に操作用の端末が存在し、その端末を操作する事で目的地を設定、後は筒の内部に乗り込む事で転送される仕組みだ。
俺は端末を操作し、目的地をギルド本部前に指定。
双葉と二人で装置に乗り込み、俺達二人の姿は光に包まれその場から消失した。
──
「……着いたな」
転送を終え、【転送装置】から出ると目の前には巨大な白亜の塔が聳え立っていた。
これが管理塔【ミッドスパイア】。この街の中枢であり、探索者ギルド本部のある場所でもある。
【ミッドスパイア】は近くで見上げるとただひたすらに白い
何度も見た光景だが、目にする度にその威容には圧倒されるばかりだ。
「────ふふ、御機嫌よう。貴方が、八雲怜二でいいのよね?」
「……君、は……?」
──そんな俺に、涼やかな声がかかった。
振り向いた先には、美しい少女が悠然と佇んでいた。
体つきはスレンダーで、無駄な贅肉一つないスラリとした体躯と、整い過ぎた顔立ちが陶芸品のような印象を抱かせた。
上半身は黒を基調とした制服のような上着の上にミリタリージャケットを羽織り、首元には十字型のペンダントが下げられている。
下半身は白のロングスカートだが、前部分に非常に深いスリットが入っており、スパッツに包まれた美しい曲線美が見え隠れしていた。
足にはブーツを履いているようで、スカートのの下に滑らかな黒色のブーツが確認出来る。
髪型は片方だけが三つ編みのロングヘアで、流れるような青い髪が風に揺られて靡いている。
透き通るような紺碧の双眸が、俺の姿を正面から見つめていた。
「────初めまして。私は、六条有栖。【首狩り兎】と名乗った方が、分かり易いかしらね?」
少女は何処か冷たさを感じる笑みを浮かべ、告げる。
それが、俺と有栖のファーストコンタクトだった。