※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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転換点ーTurning Pointー

 

「……君が、六条さんか……」

 

 俺は目の前に立つ少女、六条有栖を見据えぽつりと呟いた。

 

 話は、双葉から聞いている。

 

 この少女、六条有栖こそ、あの【未踏領域】で暴走状態にあった俺を止めてくれた恩(・)人(・)なのだ。

 

 有栖はそんな俺を見ながら、微笑を浮かべている。

 

「ふふ、その様子だとあそこでの経緯は聞いてるみたいね。説明の手間が省けたようでなによりよ」

「……ああ、話は双葉から聞いてる。ありがとう、助けてくれて」

「いいのよ、私も思惑があって助けたワケだし。まあ、恩に感じているのなら願ったり叶ったりね」

 

 そう告げるなり有栖は俺の姿をしげしげと見回すと、くすり、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「……ふぅん、中々良い男じゃない。擦れてもいなさそうだし、能力的にも問題なさそうね」

「……? なんのことだ……?」

 

 有栖の意図が分からず、俺が首を傾げると、彼女は口元を吊り上げて笑みを浮かべた。

 

「実はね、貴方達への貸(・)し(・)の返(・)し(・)方(・)をどう要求するかずっと考えていたのだけれど……貴方さえ良ければ、私と【探索部隊(クラスタ)】を組んでくれないかしら?」

「……っ!? 俺が、君と【探索部隊】を……?」

 

 突然の申し出に、俺は思わず面食らう。

 

 まさか、あの序列19位、【首狩り兎】からそんな申し出が来るとは想像もしていなかったからだ。

 

 探索部隊(クラスタ)とは、要するに探索者同士で組むチームの事だ。

 

 二人以上の探索者が探索者ギルドに赴いて手続きをする事で【探索部隊】として登録する事が出来、ギルドからも手厚いサポートを受ける事が出来るようになる。

 

 探索者単独で探索を行うのと、【探索部隊を】結成して探索を行うのでは、いざという時の対応力に差が出て来る。

 

 また、【探索部隊】として名が売れれば企業からの依頼も受け易くなり、有り体に言えば単独の探索者とは信用の得易さが違って来るのだ。

 

 それに、今回の件で痛感したが……俺が今後も【未踏領域】を攻略して行くのであれば、頼れる仲間の存在は必須と言える。

 

 俺の【固有兵装】はライフゲージを消費する関係上、長期間戦闘に向いていない。

 

 このまま単独で未踏領域に潜り続ければ、苦戦は必至だろう。

 

 だが、有栖と組む事が出来れば話は変わる。

 

 有栖の【固有兵装】の効力は分からないが、単独で【未踏領域】を闊歩していた以上、キャンサーを苦も無く殲滅出来る実力を持って理宇のは明らかだ。

 

 幾ら俺が序列二桁になったとはいえ、序列上位者(ハイランカー)の有栖相手ではその実力に天と地ほど開きがあるのは明白である。

 

 事実、暴走状態にあった俺の機体を有栖は苦も無く停止させている。

 

 それだけ実力に開きがある為、有栖が俺を【探索部隊】に誘うメリットは特に思いつかないのだ。

 

 そんな俺の心情を察したのだろう。有栖は薄く微笑みながら、説明して来る。

 

「困惑しているみたいね。何も私は、損得勘定でこの申し出をしているワケではないのよ?」

「……? どういう、事だ……?」

 

 つまりね、と有栖は告げる。

 

「────要は、興味本位よ。私は、貴方に興味が沸いたの。あの謎の暴走形態に、ウイルスを流し込まれていながら復帰出来た特殊性……正直、興味が尽きないわ」

 

 だから、と有栖は続けた。

 

「貴方の事を知りたいなら、一緒に行動するのが最適解でしょう? 貴方は私という大戦力が手に入る、私は自分の知的好奇心を満たせる。WIN-WINの良い関係だと思わない?」

 

 有栖はその端正な顔に美しい笑みを浮かべ、俺に誘いをかけて来る。

 

 ……正直、心揺れないと言えば嘘になる。

 

 序列19位の有栖という大戦力が加われば、先日あそこまでの醜態を晒した【未踏領域】の探索も、現実味を帯びて来る。

 

 俺と彼女が組めば、【未踏領域】の踏破も不可能ではないだろう。

 

 俺の【固有兵装】はどちらかといえばサポートに向いているし、彼女には【統率個体】と充分張り合える性能(スペック)がある筈だ。

 

 なにせ、あの【ラビットシリーズ】の使い手なのだ。

 

 双葉に軽く戦闘データを見せて貰ったが、圧巻の一言だった。

 

 まず、機動が目で追いきれない。

 

 文字通り目にも止まらぬ速さで動く為、戦闘中の彼女の機動を掴む事は不可能に近い。

 

 暴走状態の俺の機体は反応は出来ていたようだが、あの時は妙に反射神経が鋭敏になっていた気がする。

 

 普段であれば反応出来ないような攻撃も、まるで全身に目があるかのような精度で反応する事が出来ていたのは事実だ。

 

 そうでもなければ、あんな高速機動に俺が反応出来ていた筈がない。

 

 つまりあの暴走の副作用とも言うべきブーストがなければ、俺は彼女に反応する事すら出来ないということだ。

 

 あれだけの機動力があれば、大抵の相手は何が起こったか分からないままに斬り刻まれるだろう。

 

 ……更に、あの機動力に加えて有栖にはまだ詳細不明の【固有兵装】がある。

 

 どんな効果のものかは分からないが、【ラビットシリーズ】の【固有兵装】はそのどれもが強力無比な性能と聞く。

 

 間違いなく、強力極まりない【固有兵装】を備えている筈だ。

 

 此処で俺が頷けば、そんな大戦力が手に入る。

 

 そして、【探索部隊】を結成すればギルドから受けられるバックアップも数多い。

 

 探索者二名以上の連盟でなければ【探索部隊】結成の申請は出来ない為、双葉と二人だけでやって来た俺は【探索部隊】を結成する事が出来ず、実質単独(ソロ)で此処までやって来た。

 

 双葉の身(・)内(・)以(・)外(・)全(・)て(・)敵(・)という極端な価値観からチームメイトを集める事も出来ずにいた為、俺は【探索部隊】の結成は夢のまた夢であると諦観していた部分がある。

 

 けれど、この有栖であれば双葉に何を言われようが物怖じする事はないだろう。

 

 むしろ、きちんと友達付き合いすれば相性は割といいのではないか、とさえ思う程だ。

 

 そういった事情を考慮すると、この話は受けた場合のメリットが大き過ぎる。

 

 むしろ、損得勘定のみで考えればこの話を受けない理由は一切存在しない。

 

「────ごめん、それは出来ない」

「……へえ」

 

 ────隣で俺の服の裾を掴んで不安そうに瞳を揺らす、双葉の姿を見ていなければ、だが。

 

 双葉は有栖が姿を見せてからずっと、無言で俺の服の裾を掴んでいた。

 

 それはまるで、親に置(・)い(・)て(・)行(・)か(・)な(・)い(・)で(・)と訴える子供のようで、その視線には無言の懇願があった。

 

 理由は察するしかないが、双葉は恐らく有栖を俺の傍に置きたくないのだ。

 

 有栖の提案を受けるメリットがとてつもなく大きい事は、双葉とて理解しているだろう。

 

 有栖と俺が組めば自分の負担も減り、探索もやりやすくなる。

 

 何より、俺が危険に遭う確率が今よりずっと低下する。

 

 そのメリットに、双葉が気付いていない筈がない。

 

 ……けれど、今の双葉はそれよりも何よりも、自(・)分(・)以(・)外(・)の(・)女(・)が(・)俺(・)の(・)近(・)く(・)に(・)い(・)る(・)という事が我慢ならないに違いない。

 

 一応、この提案の決定権は俺にある。

 

 俺が此処で頷けば、双葉は形(・)だ(・)け(・)は(・)有栖の参入を認めるだろう。

 

 そして、次第に予定調和の如く自身の感情を爆発させ、取り返しのつかない事をやらかしてしまうに違いない。

 

 俺が双葉を抱く前であれば、彼女もなんだかんだ言いつつも有栖の存在を許容出来たかもしれない。

 

 有栖と組む事によるメリットが大きいのは、双葉とて理解している。

 

 それくらいの損得計算は、双葉にも出来る。

 

 …………けれど、俺は双葉を抱いてしまった。

 

 一度抱かれた事を切っ掛けに、双葉は今まで心の奥に秘めていた俺に対する独占欲が溢れ出し、制御出来なくなっている。

 

 そんな状態で俺の傍に他の女、それもこれ程美しい少女を滞在させる等、今の双葉が許せる筈がない。

 

 放置すれば間違いなく、刃傷沙汰にまで発展する筈だ。

 

 だから、俺はこの申し出を断らざる負えない。

 

 どれ程魅力的な提案であっても、今の俺に双葉より優先していい事など有る筈もないのだから。

 

「……………………そう。なら、仕方ないわね」

 

 一方、食い下がるかと思われた有栖はそう言って素直に引き下がった。

 

 その刹那、双葉の首筋に残るキスマークを見咎めたように見えたのは、偶然ではあるまい。

 

 …………恐らく有栖は、双葉の様子や俺の挙動から現状を察し、どうあっても俺が首を縦に振る事はないだろうと当たりをつけたのだ。

 

 此処で押し問答をしても無駄であると、瞬時に察したのだろう。

 

 その聡明さには、舌を巻くばかりだ。

 

 この少女とはまだ会って間もないが、充分に好感を抱ける相手と言えた。

 

 まだ彼女の事は何も知らないが、噂(・)ほ(・)ど(・)恐(・)ろ(・)し(・)い(・)人(・)物(・)で(・)は(・)な(・)い(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)という所感さえ、俺は抱いている。

 

 恩を盾に押し切る事も出来る筈なのに、双葉の心情を慮って引き下がってくれた事には感謝する他ない。

 

 なにせ、本当であればこのメリットしかない申し出を貸(・)し(・)の(・)返(・)却(・)にしてくれると言っていたのに、それを断ったのである。

 

 その場で罵倒されても仕方のない立場である事は、俺自身理解出来ている。

 

 けれど、有栖はそんな俺達を許容してくれた。

 

 本当に、彼女には頭の下がる思いである。

 

「なら、この貸(・)し(・)はまだ取っておく事にするわ。邪魔したわね、二人共」

「……ああ、すまん」

 

 有栖はそう告げると踵を返し、その場から立ち去ろうとする。

 

 用が済んだ以上、此処に長居する必要はない。

 

 故に、彼女が立ち去るのは当然だ。

 

 けれど、有栖は俺の謝罪を聴いてくすり、と笑みを浮かべた。

 

「…………いいのよ。彼女、大切にしてあげなさい」

「……ああ、勿論だ」

 

 有栖は俺の返事を聞くと満足そうな、だけど何処か寂しそうな笑みを浮かべる。

 

「────じゃあね。また、会いましょう」

 

 ──その言葉を最後に、有栖はその場から立ち去った。

 

 これが、転換点。

 

 ある意味で今後の運命を決める、ターニング・ポイント。

 

 此(・)処(・)がそうであると知るのは、大分後になってからの事だった。

 

 ────その時にはもう、後悔する事さえ出来なかったのだから。





 というわけで有栖とは合流しませんでした。

 双葉を抱いたか否か、それが有栖が合流出来るか否かに関わって来たワケです。

 彼女がいないという事がどれだけ今後に影響するかは、さて。
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