BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
有栖と別れた俺達は、ギルド本部へと足を踏み入れていた。
正面の自動ドアを潜り抜ければ、広大なエントランスホールが俺達を出迎えた。
ロビーには探索者と思われる人々が雑然と立ち並んでおり、施設内のカフェやバーで同業者と情報交換に勤しんでいる。
奥には電子体アイテムを販売している【
此処の店は探索者証を所持していると割引して貰える事もあって、日夜商品を求める探索者達でごった返している。
【|遺跡】では日頃の準備が生死を分ける事もある為、より良い商品を安価で求めようと探索者達は我先にと此処の店に集まるのである。
今回用事があるのは、あくまで報奨金を受け取る為の手続きを行う受付カウンターである。
俺達は周囲の探索者や店には目もくれず、受付カウンターへ向かう。
だが、俺が目を向けずとも、俺の姿を目にした同業者達がちらほらとざわつき始めた。
「おい、あいつ
「なんだ、まだガキじゃねえかよ」
「女連れかよ。スカしてんな、オイ」
周囲の視線は、お世辞にも友好的なものとは程遠い。
俺は双葉の事情を優先した事でチームを組む事が出来ず、
未だに序列四桁クラスで伸び悩む者達にとっては、俺は年若く単独であるのに結果を出している成り上がりに映るらしい。
双葉が振り撒いた悪感情の影響もあり、俺の探索者間での評判はかなり悪い。
少なくとも、序列三桁、四桁の連中はかなりの数俺を目の敵にしている。
「よおぼっち野郎、初めての【未踏領域】探索はどうだったよ? え?」
つまり、こんな風に懲りずにやって来るスキンヘッド野郎のような奴も少なからずいるということだ。
「…………」
俺はこいつを相手にする必要性が感じられず、そのまま一瞥もせず通り抜けようとする。
「おいテメェ、無視してんじゃねぇぞコラ!」
当然、沸点の低いスキンヘッド野郎はあからさまな無視を敢行した俺に腹を立て、俺に掴みかかろうとする。
「うぉ……っ!?」
無論、それを素直に受ける理由はないので、ひょいと身を躱しスキンヘッド野郎の腕は空を切る。
スキンヘッド野郎はバランスを崩し、頭から床に倒れ込んだ。
無様なその姿に、周囲から失笑が漏れる。
あからさまに恥をかいたスキンヘッド野郎は瞬く間に顔を真っ赤にし、額に青筋を浮かべて立ち上がった。
「この、野郎……っ!」
スキンヘッド野郎は怒りに任せ、俺に殴りかかろうとする。
俺は溜め息を吐き、男を迎撃しようと振り返る。
「……止めておけ」
「な……っ!?」
────だが、その男の拳は横から出て来た大柄な男によって止められた。
男……ホークスはスキンヘッド野郎の手首を掴み上げると、ドスの利いた声で淡々と告げる。
「こんな所で暴力沙汰を起こせば、下手をすれば【探索者証】剥奪も有り得る。誰にとっても特はないぞ」
「……チッ……!」
ホークスは男が腕から力を抜いた事を確認するとスキンヘッド野郎を解放し、スキンヘッド野郎はそのまま早足でその場から立ち去った。
それを見届けると、ホークスは俺の方に向き直った。
「……悪い、手間をかけたな」
自分でどうとでも出来た事ではあるが、曲がりなりにも助けに入って貰った事は事実だ。
そう考え、礼を言うとホークスは俺に厳しい目を向けて来た。
「……ああいう輩は、無視をすると逆効果だ。以前のように、適当に相手をすればそれで済んだ筈だ。何故、そうしなかった?」
「……それは……」
……確かにあんな絡み等幾度も経験して来た筈だが、今回俺は無意識のうちに
いや、むしろ俺は……。
「────やり返す口実でも探していたか?」
「……っ!?」
────ホークスの指摘に、俺はびくりと身体を震わせた。
否定の言葉を口にしたいのに、出来ない。
何故なら、俺は────
あの【未踏領域】での一件以来、どうにも
変化のない日常より、刺激に満ちた騒乱を求める俺が、時間と共に強くなっている気がする。
……俺は、それを今まで自覚していなかった。
精々、
なんというか、
何処かそれは、慣れない酒を飲んだ時の感覚に似ていた。
自分が自分でないような夢現のような感覚。
いつの間にか起きていた異常を、俺は見過ごしていた。
そんな事、今まで経験した事すらなかったのに。
「……お前の事情は、知らん。だが、トラブルが起きて得をする事など無い。気を付けろ」
「……ああ」
俺の返事を聞いて満足したのか、ホークスは踵を返して立ち去ろうとする。
しかし数歩進んだ所で歩みを止め、一瞬こちらへ視線を向けた。
「……よく、帰って来たな」
それだけを告げると、ホークスはそのままその場を立ち去った。
口数少なだが、もしかしなくとも彼は俺の事を心配して来てくれたのかもしれない。
寡黙な男だが、人格者なのは嫌でもわかる。
俺は立ち去るホークスに一礼し、カウンターへ歩を進めた。
「少々お待ち下さい」
俺がカウンターに用件を告げると、『瀬川』というネームプレートを付けた受付嬢は息を呑み、一度奥へ引っ込んだ後俺達を別室へ案内した。
【相談室】と書かれたその部屋は来客用の部屋のようで、高級そうなソファーとテーブルが置かれている。
俺と双葉は案内されるままソファーに座り、暫くすると上役らしい痩身の中年男を受付嬢が連れて来た。
「初めまして。私はこのギルドの支部長を任せられております、米蔵と申します。以後おみ知りおきを」
「……ど、どうも」
そう告げると男、米蔵は『
「まず、【統率個体】の討伐おめでとうございます。探索者証を確認し、不正の類もないと判断致しました。今回の偉業、まことに喜ばしく思います。探るような真似をして申し訳ありません」
「……いえ、我ながらどうして倒せたのか不思議なくらいですし、疑うのも無理はありません」
俺としては、そう答える他なかった。
俺自身、自分が【統率個体】を倒したという実感は未だにないのだ。
いや、それも当然かもしれない。
あの時の俺は、
【探索者証】に記録される情報は、あくまでその探索者が
そこに至る
だからこそ、気になるのだろう。
そこに至るまでの、
ギルドの支部長なんてものが出て来たのは、そういった理由がある筈だ。
「つきましては、貴方様が討伐された【統率個体】の情報の
案の定、【統率個体】についての情報を求めて来た米蔵はそうですね、と続けた。
「情報量については、前金で100万
「……ああ、問題ない。わかる事は、答える」
この申し出を受けない理由は、特に見当たらない。
俺は知る限りの【統率個体】の情報を米蔵に話し、思った以上の額の情報料を受け取った。
「特に滞りなく終えられて良かったわね」
「……ああ」
ギルドからの帰り道、俺は双葉と二人で歩きながらそんな会話をしていた。
正直、【統率個体】の
俺自身どうして倒せたかなど理解していないのだから、そこを突っ込まれなかった事に関しては助かった。
……もっとも、双葉はそのあたりの事はギルドの立場上突っ込まれる事はないと考えていたらしく、さほど心配はしていなかったらしい。
むしろ、あそこで情報提供をしない方が角が立つと思い、俺が申し出を受けるのを黙って見過ごしたのだという。
双葉は俺とノインさん以外と
その為、そういった面でも双葉に頼り切りなのが現状である。
双葉は人を一切信用しないからこそ、他人の動きを注視し自分達に害が及ばないよう手を回す。
性格的な問題を抜きにすれば、双葉は充分世渡りが出来る能力はきちんと備えているのだ。
……まあ、双葉の性質が一番のネックであるのでもしもの仮定をしても意味はないのだが。
ともあれ、これで当面金の心配はしなくて済みそうである。
【統率個体】討伐の褒章額はかなりのものだったし、それに加えて情報料でも随分高額な金を受け取っている。
ノインさん自身研究の特許等で稼いでいる事もあってお金に困っているワケではないのだが、金は持って置いて困る事はない。
お金があればそれだけ選択の幅が広がるし、探索者として考えても装備の充実は自分の生存に繋がるのだから、金を惜しんでも仕方がない。
今後の探索に備えて装備を購入しに行くのも、今後の予定としては大いに有りだと言える。
(……けど……)
……気にかかる事が、一つある。
ギルドで初めて気付いた、俺自身の
あの時俺は、いつの間にかトラブルを歓迎するかのような心理状態に陥っていた。
あんな月並みな挑発で揺れる程、自分は短気ではなかった────筈だ。
その事を考えると、どうしても、あの時の事を思い出してしまう。
────忘れんなよ。一度取り込んだ以上、俺様はもうテメェの中にいるって事をよ────
────俺が自我を取り戻す直前に耳にした、あの声。
今俺に起きている異常と無関係だと言い切るには、状況が揃い過ぎていた。
俺の異常は、明らかにあの【未踏領域】での一件が発端である。
自分の問題は、結局の所何一つ解決出来てはいない。
俺はその事を、強く感じている。
このままでは終わらないだろうという、漠然とした不安感。
俺は双葉と他愛ないお喋りに興じながらも、いつまでもそれを感じていた。
────そしてその不安が杞憂ではなかった事を、俺は知る事になる。
というわけで更新。
中々話が進まないけど、あくまで最初の√なので色々説明多かったり。
後の√だともうちょい端折るけどね。