BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「………ふぅ……」
俺は電子体をシュミクラムに移行させ、目の前の扉を見据えた。
仮想に没入し、中継界に降り立った俺は今、第二の【遺跡】────【海底都市】に繋がる転送門の前にいる。
目的は勿論、第二【遺跡】の攻略である。
────廃墟エリアでのあの少女との邂逅の後、俺は
前回の事がよほど
上手くは言えないのだが、あのまま折れたら今度こそ俺が俺でなくなるような、そんな強迫観念じみたものが俺の中に燻っていたのだ。
その感覚は上手く言葉に出来ず、説明しろと言われて出来るものではない。
だが、その衝動に逆らってはいけないと、俺の勘のようなものが告げていた。
無論、双葉の説得には骨が折れた。
俺を失いかけた双葉にとって、自ら再び死地へ向かおうとする俺の行動は、許容し難いものだったからだ。
双葉は色仕掛けを含めたあの手この手で俺を引き留めようとして来たが、俺は折れなかった。
【遺跡】に挑まなければ俺の収入がない事、そしてあの
嘘は言っていないが、俺が探索を続けようとする一番の理由は自分の勘である為、内心を全て明かしたワケではない。
ともあれ、最終的に双葉の許可を得られた事は事実だ。
勿論あんな出来事があったばかりである為、単独での【未踏領域】探索は双葉が断固として拒否した。
その為、自分のコンディションを再確認し、今後の探索計画を立てる為の
【花園】では通常階層の難易度が低過ぎて肩慣らしにもならず、【火山洞】や【魔女庭園】は少々厄介なギミックが存在する為、適当な場所として此処を選んだワケだ。
「さて、行くか」
俺は転送門の前に立ち、転送プロセスを起動。電子体が光に包まれ、瞬時に移動を開始する。
──
俺の機体はその場から消失し、門の先へと飛ばされた。
「……着いたか」
転送が完了し、周囲を見渡せば、見覚えのある景色が目に映り込んだ。
周囲は一見古代ギリシャを思わせる石造りの建物の中のように思えるが、天井は半透明な膜で出来ており、膜の向こう側には透き通るような青い海原が見渡せる。
即ち、この建物は
此処が第二遺跡、通称【
【海底都市】は【花園】と比較すると、文字通り
【花園】は第三層までは適当に進むだけでも苦も無く到達出来、厄介なエネミーも凝ったギミックも存在しなかった為、【未踏領域】にさえ入らなければまず
だが、この【海底都市】からはそんな甘い考えは通用しない。
海底に存在するこの構造体は時間経過等で建物の各所が水で封鎖されて思うように進めず、場所によっては落とし穴によって水棲エネミーが満載の水の中へ落とされる、といった悪辣なギミックも存在する。
通路の傍には水路が流れており、その中から鰐型のエネミー『クロコダイラー』や鯱型のエネミー『キラーホエール』等が飛び出し、通路の探索者に襲い掛かって来るのだ。
他にもシュミクラムを麻痺させるウイルスを持つ海月型エネミー『ジェリーフィッシュ』や一定時間内に全滅させなければ仲間を呼ぶ魚人型エネミー『フィッシャーマン』等、厄介なエネミーが多く、【花園】と同じ感覚でいると間違いなく詰む事になるだろう。
消耗を考えなければ水路を凍結させてしまえばどうとでもなるが、無暗矢鱈に【固有兵装】を使用すれば消費リソースであるライフゲージが瞬く間に減ってしまう。
今回は【未踏領域】に行くつもりはない為、ライフチャージャーはそこまで多くはセットしていない。
俺の【固有兵装】は燃費が良いとは言えない為、通常階層に限るのであれば通常武装を充実させた方が効率が良いのだ。
「双葉、
『
俺は双葉の返事を聞き届けると、探索を開始するべく接続地点の部屋を抜け、『遺跡』へと足を踏み入れた。
決して早過ぎない速度で両脇に水路が流れる大理石の通路を駆け、【遺跡】を進む。
周囲の景色は目まぐるしく変わっており、通路の上に備え付けられた燭台のオブジェクトが視界を流れていく。
『怜二、水路に『クロコダイラー』3、『キラーホエール』2、襲い掛かろうとしてるよ』
「
双葉の言葉通り、水路には大きな影が複数視認出来、こちらに襲い掛かるタイミングを伺っているように思える。
『クロコダイラー』と『キラーホエール』は探索者を一定期間水路の中から追尾し、隙を突いて水路から飛び出し探索者を水路に引き込み殺そうとする、いやらしい特性を持っている。
探索者が複数であればすぐに襲い掛かって来る事もあるようだが、今此処にいる探索者は俺一人である為詮無い事だ。
ともあれ、このまま追尾され続けるのは得策ではない。
俺は右手に小型のパラボラアンテナのような形の銃を出現させると、迷う事なく引き金を引き
弾丸、いや、
電撃を浴びて水面に浮上したエネミーを左手のショットガンで銃撃し、残らず着弾。
結果、俺に襲い掛かろうとしていたエネミーは一瞬の内に全滅した。
「……やっぱ、この【海底都市】じゃこの装備が安定するな」
俺はそう呟くと、右手に握る小型のパラボラアンテナのような銃に目を向けた。
この装備の名称は、【ボルトガン】。文字通り、【雷】を撃ち出す銃である。
この装備はフォトンブラスターを双葉の手で改造したものであり、一定の攻撃力と麻痺の追加効果を両立させた代物である。
フォトンブラスターは着弾した相手を拘束する武装であるが、このボルトガンは弾丸に雷の性質を帯びさせる事で、その効果を改変したものだ。
この【ボルトガン】で撃ち出された雷球は着弾と同時に電撃が一定範囲に広がり、電撃を浴びた相手に継続ダメージを与えつつ麻痺の追加効果を与える。
拘束時間はフォトンブラスターとそう変わらないが、こちらのメリットとしてはきちんとダメージが入る事と、
フォトンブラスターはその性質上連射には向かないが、このボルトガンは銃本体のサイズがハンドガンとそう変わらない為、取り回しがし易く反動も少ないので連射も容易だ。
そして、この【海底都市】では
【海底都市】は通路の脇にはほぼ必ずと言っていい程水路が流れており、その中には無数のエネミーがひしめいている。
故に、適当にボルトガンを水路に撃つだけでも電撃の伝播で相当数のエネミーを一網打尽に出来る。
電気は、水を伝播する。
その単純な構図が、この上なく俺達の優位を確信させた。
俺はエネミー撃破を確認すると、そのまま通路を進む。
中途に散発的にエネミーが現れるが、同じようにボルトガンを発射。
電撃を浴びたエネミーをショットガンで撃ち抜き、淡々と処理していった。
この【遺跡】は前述の通り厄介なギミックが存在するが、双葉の手にかかればギミックに引っかかる事はない。
双葉が計測したルートに従う限り、エネミーの巣に迷い込んだり厄介なギミックのある場所を通る事はまずない。
安全なルート構築に置いて、双葉が手を抜く筈もない。
【遺跡】は定期的に内部構造が更新されるが、その
つまり、内部構造が変わると言ってもそこには明確な
【海底都市】に挑むのは、これが初めてではない。
当然、マップの法則は全て双葉の手元にある。
一度マッピングに成功した以上、双葉がマッピングに手古摺る筈もない。
故に、双葉のナビゲートに従えば特に問題なく【遺跡】を進める筈だ。
「……っ!?」
────不意に、悪感を感じてその場から飛び退く。
すると、俺のいた場所に鉄の鏃のようなものが突き立っていた。
【遺跡】のギミック、ではない。
無差別に放ったものではなく、明確に俺を標的にしたもの。
それは明確に俺を狙った、
俺はその鏃が飛んで来た方向に目を向けると、何もない空間がブレて一機のシュミクラムがその姿を現わした。
そのシュミクラムは黒と紫を基調とした暗いカラーリングの細身の機体で、突き出した右腕にはボウガンのような武装が装着されていた。
機体の装甲は妙な光沢があり、そのフォルムも相俟って爬虫類のような印象を受けるシュミクラムである。
『……チッ、避けたか。悪運の強い奴め』
表情画面が展開され、端正な顔の赤髪の男が映し出される。
その眼には敵意を露わにしており、間違ってもそれは
「…………【
探索者に躊躇いなく攻撃を仕掛け、悪行の限りを尽くすもの。
【盗掘者】。目の前の男は、間違いなくそれである。
男は俺の呟きを聞き届けると舌打ちし、シュミクラムごと猫背のような独特の姿勢を取った。
『貴様等にどう呼ばれようが構わんが、敢えて俺様は名乗りをあげよう』
そして、男は高らかに己の名を謳いあげる。
『俺様の名は、フェネジール=ジルベルト! 探索部隊『ヒャズニング』を率いる、高貴なる存在だっ! 覚えておくんだな、下等生物めが……っ!』
男は決めポーズらしい姿勢のまま、力の限りそう叫ぶ。
これが、
というわけで【遺跡】探索再開、と見せかけて【ヒャズニング】との因縁が始まります。
他の√とは違い、サポートがあるとはいえ怜二一人でなんとかして貰います。
当然、難易度は上昇。今までの選択肢がどういう影響を齎すか、徐々に分かって来ます。
明日は更新出来ませんが、明後日は更新可能です。