BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
俺はフェネジールと名乗った男のシュミクラムと対峙し、相手の出方を伺う。
『情報該当したよ。『ヒャズニング』、ギルドのブラックリストに載ってる
双葉から、そんな報告が入る。
双葉は既にこの相手についてデータを検出したらしく、そう説明してくる。
『積極的に探索者を襲って技術遺産を強奪したり、女性の探索者を捕らえて
「…………成る程、屑の類である事はわかった」
俺は双葉の情報を考慮しつつ、改めてフェネジールの機体を見据える。
フェネジールは自らの名乗りに酔っているのか、すぐには動こうとしない。
ナルシズムに満ちた性格ではありそうだが、交渉の余地は微塵もないのは明白だ。
ただ【遺跡】を進んでいた俺を、不意打ちで攻撃したのだ。
その時点で俺に対する害意は明白であり、敵と判断して差し支えない相手だ。
…………だが、現時点では相手の能力が判然としない。
こいつは、曲りなりにも特級プログラマである双葉の索敵を掻い潜って攻撃を仕掛けて来ているのだ。
たとえ
つまり、こいつは何らかの奇襲に適した【固有兵装】を保持している可能性が高い。
その能力が分からないうちは、迂闊に仕掛けるのは得策ではない。
『フハハハハハハハハ! 俺様を恐れ、声も出ないか。まあ、無理もない……っ! 俺様の高貴なるオーラは、下等種族相手には眩しすぎるからなぁ……っ! 俺様を讃える言葉の一つでも吐けば、手心を加えてやらんでもないぞ?』
「…………へえ、じゃあ、見逃して貰えるのか?」
相手の性格をある程度把握した俺は、挑発のつもりでそう問いかける。
するとフェネジールはあからさまに口元を吊り上げ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
『……クク、フハハハハハハハハハハ! 馬鹿め、見逃すワケなかろう! まさか、この期に及んでそんなおめでたい思考が出来る雑魚とはなぁ……っ! あいつの
フェネジールは高笑いをあげながらそう叫び、ひとしきり笑い終えると機体を沈み込ませた。
『さあ、狩りの始まりだ……っ! 俺様に出会ってしまった不運を呪いながら、死ぬがいい……っ!』
────そして、フェネジールの機体が空気に溶けるようにその姿を消した。
転送した、とワケではない。
今の消え方は、隠蔽モードを使った時のそれに近い。
……問題は、レーダーや
通常の索敵プログラムよりも、双葉の組んだそれは遥かに高性能である。
普通に索敵プログラムでは相手が隠蔽モードになっていれば補足する事は難しいが、双葉は相手の電子体反応から位置を類推し、データに反映させる事が出来る。
並大抵の隠蔽では、双葉の
にも関わらず、こいつは双葉の
となると答えは一つ、【固有兵装】である。
『フハハハハハハハ! これぞ我が『固有兵装』、【
答えは、ご丁寧にも展開したままの表情画面の向こうから告げられた。
頼んでもいないのに自身の【固有兵装】の能力を根絶丁寧に解説したフェネジールは、自慢気なその顔を崩そうとしない。
どうやら、この相手の自己顕示欲は俺の想定より遥かに高いものだったらしい。
そうでもなければ、敵に自分の能力をわざわざ戦闘中に教える、などという愚行をする筈がないからだ。
ともあれ、
俺は神経を尖らせ、相手の攻撃に備える。
「……っ!」
不意に悪感を感じた俺は、その場から飛び退く。
そして次の瞬間ガキン、という音と共に俺がいた場所に黒い鏃のような武器が突き立った。
今の武器は、最初の奇襲で使われたものと同じものだ。
十中八九、【固有兵装】で姿を隠したフェネジールの攻撃だろう。
『チィ、初弾を避けるとは生意気な……っ! ならば、これでどうだ……っ!』
フェネジールは舌打ちしつつそう告げると、俺に向けられた
だが、すぐにその
『…………チィィ……ッ!』
俺のいた場所に無数の鏃が突き刺さり、床に穴を穿つ。
今の
…………前回の【未踏領域】での一件以降、俺は妙に感覚が鋭敏になっていたのだ。
最初は気の所為かとも思っていたが、エネミーが襲って来た時の感覚や、先程のフェネジールの奇襲。
あの姿も音もない奇襲を防げたのは、それを直感で感知したからだ。
何故、此処まで感覚が鋭敏になっているかは分からない。
精々が、あの時の事が何らかの引き金になっている事くらいしか予測のしようがない。
だが、理屈を考えるのは後回しだ。
今は、ひたすらに攻撃を回避し、敵の動きを掴む他ないのだから。
そして俺は、フェネジール相手の防衛戦を開始した。
────戦いは、千日手の様相を呈していた。
『チィ…………ッ!』
苛立った様子で、姿の見えないフェネジールが鏃を投擲する。
「…………っ!」
無論、それを受けてやる通りはない。
俺がその場から飛び退くと同時に、無数の鏃が地面に突き立つ。
それも、一個や二個ではない。
10にも届こうかという数のそれが、即ち奴の俺に対する敵意の強さだ。
俺はあれから、フェネジールの手の内を探るべくひたすらに
鋭敏化した感覚を頼りに警戒を巡らせ、俺は奴の攻撃を回避し続けた。
大概、相手も焦れているのだろう。
先程から攻撃の感覚が短く、そして荒くなっている。
最初こそ自分の位置を割り出されないように一度攻撃する度に大幅に居場所を変えていたが、今はどうやらそれもない。
『ええいっ、いつまでもうろちょろしおってからに……っ! いい加減、当たりやがれぇ……っ!』
苛立った様子でフェネジールがそう告げると同時に、新たな鏃が音もなく飛んでくる。
だが、来ると分かっている攻撃を避ける事は容易い。
俺は床を蹴ってその場から退避し、鏃の投擲を回避した。
『…………ッ! この野郎……ッ!!』
いつまでも俺が被弾しない事に、業を煮やしたのだろう。
フェネジールは遠距離での戦いを捨て、直接俺を攻撃しようと迫り来る。
たしかに、鏃の投擲が成功しない以上接近戦に切り替えるのは悪い手ではない。
しかし、それは────些か、遅過ぎると言わざる負えない。
「────かかった」
────俺は、この時を待っていたのだから。
『な……っ!?』
俺は、タイミングを見計らって『固有兵装』────『
結果、武器を振り下ろそうとした状態で腕が凍り付いた、フェネジールの機体が露わになった。
『……っ!? ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ……っ!』
凍結された腕は、そのまま破砕。
フェネジールは突如腕を失った痛みで悶え苦しみ、機体ごと床をゴロゴロと転がった。
…………種を明かせば、簡単な話である。
俺はなにも、直感だけに頼ってフェネジールの攻撃を回避していたワケではない。
カラクリの肝は、俺の『固有兵装』にある。
俺の『固有兵装』の能力は、
常であれば敵の撃破や局所的な防御に用いるこの能力だが、別の使い道もある。
即ち、
俺の『固有兵装』は、放出した冷気の状態をコントロールし、特定箇所の冷気密度を瞬間的に上層させる事で対象の凍結に繋げている。
つまり、
フェネジールの【固有兵装】、【完全迷彩】は姿や音、電子体反応を消す事が出来る。
しかし、
つまり、
故に、その
今回は、まんまと冷気の層に飛び込んで来たフェネジールを、冷気凝固を用いて凍結させたに過ぎない。
無論、鏃の投擲が無意味と知れば焦れて直接攻撃に出て来るであろう事も計算の内だ。
今まで凍結で攻撃を防がなかったのは、俺の『固有兵装』の能力を隠し、この迎撃を成功させる為である。
こちらが範囲攻撃を持っていると知れば、幾らこのお調子者の盗掘者でも警戒する。
だからこそ、防戦一方であると見せかけて直接攻撃を誘ったのだ。
相応に時間はかかったものの、目論見は成功。
奇しくも、情報秘匿の重要性を理解せずに自分の能力をペラペラ喋ったフェネジールと、自分の能力を隠しきってこの一撃に繋げた俺という構図になった。
戦場で、自分の能力を敵に解説する意味はない。
精々、誤情報を与えて攪乱する目的でやるのが関の山だ。
しかし、フェネジールは馬鹿正直に能力を解説し、結果こうしてやり返されている。
自業自得、とは正にこの事であろう。
勿論、プライドが高く載せられ易いフェネジールの性格を全力で利用したのはこちらだ。
こういった相手は、少し挑発するだけで思い通りに踊ってくれる。
今回はただ逃げ回るだけで相手の冷静さを奪えるのだから、時間こそかかったが楽な仕事だったと言える。
あの【統率個体】や、有栖とは比べるべくもない。
特殊性に頼った能力は、ネタが割れれば途端に脆くなる。
自身の能力を過信し警戒を怠ったフェネジールが敗北するのは、必然だった。
というわけでVSフェネジールでした。
まあ、こいつは苗字の時点で気付いたでしょうがBALDR SKY原作のジルベルトと似たような立ち位置なので、タイマンした時点でその強みは失われていると言っても過言ではありません。
ちなみに、ジルベルトとこいつの関係性についてはノーコメント。
後々わかる事もあるかと思います。