BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
俺は視界の先にいる男、ジャビットを油断なく睨みつけた。
取り巻きと思われる数名の男達はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべているが、先程撃破した二機と同様大した圧は感じない。
戦闘になれば、一息で葬れるだろう。
数的優位は、すぐに覆せる。
……だが、あのジャビットという男は明らかに
相手は通常の電子体であるにも関わらず、油断すれば食い破られかねないような、そんな予感が拭えない。
ジャビットはその全身から濃密な殺気を垂れ流しており、相対しているだけで精神をガリガリ削られているような気さえする。
「きひひ、味の薄い雑魚を喰ってる最中にデザートが自分からやって来るとはねえ。女じゃないのは残念だが、それはそれで楽しめるしなぁ」
ジャビットは女の血に塗れた逸物を隠す事なく晒しており、それどころかまるで敵の血に濡れた剣を見せびらかすように反り返らせている。
幾ら容姿が中性的でも、その下卑た笑みを浮かべる顔と合わせて嫌悪感しか沸いて来ない。
【遺跡】で女を犯すような外道に、嫌悪感を持つなと言う方がおかしいのだが。
「…………その女性を離せ」
このまま戦闘を開始すれば、あの女性も巻き込んでしまう。
だが、こんな外道がこちらの言う事を素直に聞くとは思えない。
あくまで駄目元、もしくは会話で隙を作るつもりだったが、ジャビットの返答は予想を遥かに外れていた。
「あぁ? なんだ、テメェもマンコに突っ込みたくなったのかよ? 別にいいぜぇ、もう虫の息だろうし死ぬ前に楽しみたいって気持ちも分かるからよぉ」
「……ぅ……っ!」
「な……っ!?」
ジャビットは己が犯し尽くした女性を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた女性はサッカーボールのように宙を舞い、俺は慌ててシュミクラムの腕でその女性をキャッチする。
「────バァカ」
「……っ、ぐぁ……っ!」
────だが、次の瞬間ジャビットはシュミクラム用の槍を手元に出現させ、それを蹴り飛ばして俺がキャッチした女性の身体ごと俺の左掌を刺し貫いた。
大槍で胴体を貫かれた女性は声をあげる事すら出来ずに絶命し、鮮血で俺の機体の腕が赤く染まる。
思いもよらない奇襲を受けた俺は掌を貫かれた痛みを気合いで押し殺し、突然の蛮行に及んだジャビットを睨みつけた。
「……貴様」
「ヒャハハハハハハハ! 素直に返すと思ったか、馬鹿がっ! 普通の電子体じゃシュミクラムは傷付けられないと思ってたんだろうが、あめーんだよ。僕は、
まんまと奇襲を受けてしまった俺を嘲笑うジャビットに、俺は相対した時に感じていた脅威度を数段引き上げた。
隙を突いてシュミクラムに移行する、ならともかく、
シュミクラムの携行する武装は、当然そのサイズをシュミクラム基準で製作されている。
故に、
…………だが、ジャビットはシュミクラム用の槍を蹴り飛ばし、正確に俺の掌に当てて見せた。
膂力も反射神経も、尋常なそれではない。
恐らく、シュミクラム戦だけではなく生身での戦闘センスも俺などとは比較にならないだろう。
間違いなく、超級の
しかも、性根が捻じ曲がった外道と来た。
これは、撤退も視野に入れて置くべき相手である事に間違いはない。
「……すまない」
俺は機体の掌に縫い付けられるようにして絶命している女性を見て、顔を顰めた。
もし、俺がフェネジールとの戦闘に時間をかけずに此処に来ていれば、助かったかもしれない。
意味のない仮定ではあるが、目の前で無残に失われた命を悼まずにはいられなかった。
「……双葉」
『
俺の探索者証にプリインストールされたプログラムを起動し、絶命した女性の電子体をデータ化して回収した。
この【遺体回収プログラム】は探索者証にプリインストールされているプログラムであり、主に【遺跡】内部で探索者の死体を発見した時に使用する。
【遺跡】に潜るのは常に命がけであり、その過程で命を落とす者はどうしても出て来る。
無論、命の危険を承知で【遺跡】に挑む以上、結果としてどうなろうが全ては探索者の自己責任だ。
しかし、それでは探索者が死亡してしまった時、遺体も回収出来ずに放置されるのはあまりにも忍びない。
そこで、ギルドは探索者証にこの【遺体回収プログラム】をプリインストールし、【遺跡】内部で死体を発見した場合にはこれを使用するよう探索者に依頼しているのだ。
このプログラムを使用すれば死亡した探索者の電子体はギルドの構造体の一角に転送され、そこで死亡原因等を検査した後、安置室に運ばれる。
探索者証にはその探索者の個人情報が記録されており、万が一自分が死亡した時に誰に連絡を入れるかを記入する欄がある。
通常そこには探索者の親族や親しい仲間の名前が入力されており、俺の場合は双葉とノインさん、そして親友の政志の名前が登録されている。
あんな無残な最期を迎えた彼女だったが、これ以上死体を辱めていいワケがない。
俺は一連の処理を終えると、改めてジャビットに向き直った。
「おぅおぅ、いい
ジャビットはにやにや笑いを浮かべながら凄絶な闘志を滲ませ、その殺気を凝縮させた。
「ヒャハハハハハハハ!
そのコマンドを口にした瞬間、ジャビットの電子体がブレた。
スケールが拡大し、生身の身体を模していた電子体は戦闘用のそれに移行する。
そして、
「な……」
────それは、
全身を覆うように白い布を被っている為その詳細は見通せないが、全体的に細身である事は見て取れる。
折り畳まれた強靭な脚部にはフットブレードが装着されており、そのブレードは血のような赤に染まっていた。
そして、その頭部には
その容姿を、その特徴を、俺は知っている。
『……っ! 【ラビットシリーズ】……っ!』
────そう、それは有栖の搭乗していたものと同じ、超級の性能を誇る特別なシュミクラム。
ドクター・ゼクスの作品、【ラビットシリーズ】に間違いなかった。
「……まさか、また【ラビットシリーズ】を見る事になるなんてな……」
正確には俺はあの戦闘の事は朧げにしか記憶していないが、これだけは分かる。
【ラビットシリーズ】は、到底俺が勝てるような代物ではないと。
あの後、改めて双葉が映像で見せてくれた【ヴォーパル・ラビット】の動きは、異次元にも程があった。
目にも止まらぬ、どころではない。
それを実現してしまえるのが、【ラビットシリーズ】なのだ。
そして、このジャビットは明らかに超級の
幾ら【固有兵装】があるからと言って、あのスピードに対応出来なければ終わりだ。
≪……双葉、
『……ごめん、そのあたりに
≪……そうか≫
俺は
即座の離脱が望めない以上、なんとか時間を稼いで双葉に強制離脱して貰うしかない。
もっとも、それすら難しいであろう事は分かっている。
相手との実力が、開き過ぎている。
既に、相手に勝利して切り抜ける、という選択肢は捨てた。
そもそも、戦いになるかどうかすら不明な相手なのだ。
余計な欲をかけば、その時点でやられるだろう。
≪手段は問わない。なんとか離脱の目途を付けてくれ。出来るか?≫
『
≪勿論さ≫
双葉は一旦通信を中断し、
どれ程時間がかかるかは分からないが、双葉であれば抜け道を見つけて────いや、
あとはそれまでに、自分がやられないかどうか。
重要なのは、それだけである。
『クク、驚いて声も出ねぇか。これが俺様のシュミクラム、【ラビットシリーズ】NO3、【シュラウド・ラビット】……ッ! お前を狩り殺す、人喰い兎だぁ!』
己の機体を見て息を呑んでいた俺を見て、ジャビットは勝ち誇るように声を張り上げた。
その自信満々な様子は先程相手をしたフェネジールを彷彿とさせるが、こちらはあいつとはものが違う。
ジャビットのこの余裕は、確かな実力に裏打ちされたものだ。
ピーキー過ぎて使い手が見つからない事で有名な【ラビットシリーズ】を自機としている時点で、その桁外れの力量は察する事が出来る。
先程垣間見せた残忍性と、通常の電子体でシュミクラムに攻撃してダメージを与える程の身体能力。
それらを鑑みれば、どう足掻いても勝てない類の敵である事は間違いない。
もしもあの時有栖を仲間としていれば同じ【ラビットシリーズ】をぶつける事で対応出来たが、今更言っても仕方のない事だ。
今必要なのは、時間を稼ぐ事。
勝てる、などという自惚れは既に捨てている。
【統率個体】と戦った時のような【暴走】に頼る気も、微塵もない。
そんな不確定要素に頼るくらいなら、時間を稼いで双葉の献策を待った方が確実だ。
『……クク、今テメェ女と話してたろ。匂いで分かるぜぇ、テメェに尻を振る女の匂いがプンプンするからなあ。くひひ、テメェを甚振ればその女も出て来るかねぇ』
「……テメェ」
どういう理屈かは知らないが、奴は俺が双葉と会話していた事に気付いたようだ。
見え見えの挑発である事は分かっているが、明確に双葉を狙われて俺も心穏やかではいられない。
俺にとって大切な幼馴染に下卑た欲望を向けられて、怒りを覚えない筈がない。
だが、此処で感情に任せて特攻すればそれこそあいつの思う壺だ。
俺は沸き上がる怒りをぐっと堪え、ジャビットに向かい合う。
ジャビットは俺が挑発に乗って来ないと判断し、舌打ちしながら戦闘態勢を取る。
『さあ、殺戮ショーの始まりだぁ! 精々踊って貰うぜぇ、探索者ァ!』
「────行くぞ」
──
そして、極悪非道の【賞金首】、ジャビット=アンサーペとの戦闘が開始された。
ちなみにこのモブ子、√によっては助かったりする。
分かれ道は、『フェネジールを瞬殺出来るか否か』。
どういう選択肢を取れば助かるかは、多分推察出来る筈。
尚、このジャビット、コードギアスで言えばランスロットのようなものです。
つまり、戦術を無視出来るレベルのチート機体ですな。