※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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狂襲-Evil Assaultー

 

『さあ、行くぜオラァ!』

 

 ジャビットは機体を沈み込ませ、跳躍の態勢を取る。

 

 この動きには、覚えがある。

 

 双葉が見せてくれた映像で、有栖が初(・)動(・)として取った動きだ。

 

 『ラビットシリーズ』は脚部に仕込まれた強靭なバネを伸縮させ、その莫大な反発力を用いて縦横無尽の高速機動を実現する。

 

 その脚力は虚空すら足(・)場(・)とし、獲物を仕留めるまで目にも映らぬスピードで滑空する事になる。

 

 一度跳ばれれば、『ラビットシリーズ』を追う事は最早不可能となる。

 

 つまり、ど(・)う(・)に(・)か(・)す(・)る(・)な(・)ら(・)此(・)処(・)し(・)か(・)な(・)い(・)のだ。

 

「喰らえ……っ!」

 

 俺は機体を沈み込ませたジャビット目掛け、無数のラディカルスピナーとミサイルランチャーを射出する。

 

 四方八方から奴の機体を回転刃とミサイルが囲み込み、ジャビットを殲滅せんと牙を剥く。

 

『遅ぇ……っ!』

 

 だが、ジャビットの初(・)動(・)は俺の予想以上に速かった。

 

 ミサイルと回転刃が着弾する寸前にジャビットは地を蹴り跳び上がり、空中に躍り出た。

 

 音を置き去りにしたジャビットの機体の速度は矢張り埒外のもので、あんなものが襲い掛かってきたらと思うとゾッとする。

 

「────かかった」

 

 ────だ(・)か(・)ら(・)、予め対策しておいた。

 

『な……っ!?』

 

 空中に躍り出たジャビットの周囲に、光の檻が出現していた。

 

 これは、双葉に指示して仕掛けて置いた、使(・)い(・)捨(・)て(・)の(・)【(・)攻(・)性(・)防(・)壁(・)】(・)である。

 

 通常、【攻性防壁】は構造体の要所に仕掛け、敵がその場所を通った瞬間に発動する致死性プログラムである。

 

 触れた瞬間対象に致死性の電磁パルスを流し込み、その電子体を直接殺害する、極悪なセキュリティである。

 

 今回はそれを双葉が改造し、効果時間を限定した使い捨ての罠として使用して貰った。

 

 通常の【攻性防壁】と違い、ごく僅かな時間しか展開出来ないが、任意のタイミングで起動出来る為罠としての有用性はかなり高い。

 

 その代わり、この【攻性防壁】は俺のシュミクラムを通して双葉が展開している為、展開中俺は他の武装を使用出来なくなる。

 

 だが、これでチェックメイトだ。

 

 【ラビットシリーズ】は確かに空中を縦横無尽に移動出来るが、逆に言えば常(・)に(・)移(・)動(・)し(・)続(・)け(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)空(・)中(・)に(・)は(・)い(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)のだ。

 

 通常であれば大抵のシュミクラムにはホバー移動の為のパーツが標準装備されているが、【ラビットシリーズ】はそのホバーが装備されていない。

 

 即ち、【ラビットシリーズ】とは高速機動し(・)か(・)出来ない機体なのだ。

 

 そして、今奴を囲っている【攻性防壁】の檻は機体が移動出来る程の広さはない。

 

 つまり、このままであればジャビットは【攻性防壁】の檻に落下するしかないワケである。

 

『「殺(と)った……っ!」』

 

 俺と双葉は声を揃え、勝利を確信する。

 

 普通に考えれば、この状況から抜け出す手段はない。

 

 ……そう、普(・)通(・)であればだ。

 

『────ざぁんねぇん、でしたァ!』

 

 ────こいつが、普(・)通(・)であるワケがないというのに。

 

「な……」

 

 ジャビットは機体が見に纏っていた白布を広げると、それを盾のように構え【攻性防壁】へ突貫。

 

 【攻性防壁】は白布に触れた瞬間光を失って沈黙し、ジャビットはそのまま檻の外に飛び出した。

 

『嘘……っ!? 【攻性防壁】を、無傷で突破するなんて有り得ない……っ!』

 

 その光景に、俺だけでなく通信越しで見ていた双葉も驚愕の声をあげた。

 

 【攻性防壁】は、言うなれば避(・)け(・)て(・)通(・)る(・)事(・)が(・)前(・)提(・)である致死の罠だ。

 

 罠の存在に気付いた時点で仕掛けてある場所を避ける、もしくは双葉のような特級プログラマによって時間をかけてでも解除して貰うかしか、対処方法はない筈だ。

 

 …………だというのに、こいつはそんな常識を軽々と超えて来た。

 

 【攻性防壁】を突破する装備など、見た事も聞いた事もない。

 

 となれば、答えは一つ。

 

「……【固有兵装】か……っ!」

 

 唯一無二(ワンオフ)の能力を備える、特殊武装。

 

 ────【固有兵装】。それが、この状況の答えだった。

 

『ヒャハハハハハハ! あったりぃ♪ ご褒美だぜぇ!』

「が……っ!?」

 

 そして、檻から解き放たれた人食い兎が牙を剥く。

 

 目にも映らぬ速さで飛来したジャビットは。そのニーブレードを振るい、俺の右腕を切断した。

 

「くそ……っ!」

『ヒャハァ!』

 

 せめて一矢報いようとラディカルスピナーを射出するが、射出が終わる頃には既にジャビットは上空に向けて跳躍。

 

 そのまま高速機動を続行し、その埒外の速(・)さ(・)で俺の視界から消え失せた。

 

『【固有兵装】を使ったのは正解だぁ! けどなぁ、フェネジールの坊やみたいに自分の能力を馬鹿正直に解説する程馬鹿じゃないんでねぇ! 答え合わせは、自分でやりなぁ!』

 

 高速機動を続けながらジャビットは挑発の言葉を投げかけ、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

『答え合わせが出来るまで、テメェが生き残っていたらの話だがなぁ!』

「ぐぁ……っ!?」

『怜二……っ!?』

 

 ジャビットは今度は俺の背後に降り立ち、右腕の肩口を切断した。

 

 痛みで悲鳴を漏らしてしまい、双葉の声に明確な焦燥が浮かび上がった。

 

「く……っ!」

『鬼さんこちら、手の鳴る方へ、ってかぁ……っ!?』

 

 ジャビットは俺が動くより遥かに先に奴は再び跳び上がり、高速機動を再開する。

 

 高速機動に乗(・)っ(・)た(・)『ラビットシリーズ』を止められる筈もなく、再びジャビットは己のテリトリーへ舞い戻る。

 

『ヒャーハハハハハハハハハハハハハッ!』

「ぐぁっ、あぁ、ぐぁぁぁぁ……っ!」

 

 ジャビットは飛来と跳躍を繰り返し、俺の四肢を端から順に斬り落としていく。

 

 四肢を立て続けにもがれていく激痛に精神が悲鳴をあげ、意識を落とさないよう歯を食い縛るイメージを保って耐える。

 

 明らかに、加減されている。

 

 いや、嬲られている。

 

 その気になれば一息で首を斬り落とせる筈なのに、奴は敢えてそうせずに俺の機体を時間をかけて削り落としている。

 

 まるで凌遅刑に処された罪人の如く、俺の機体の手足が削られて行く。

 

 最早抵抗する事も出来ず、俺は成す術なく攻撃を受け続けた。

 

「ぎぃ、ぐ、あぁ……っ!」

『怜二……っ! 止めて、もう止めてよ……っ! 怜二が、怜二が死んじゃう……っ!』

 

 嬲るように痛め付けられている俺の姿を見て、双葉が悲痛な声を漏らす。

 

 だが当然、そんなものは外道にとっては蹂躙を彩るスパイスでしかない。

 

『ひひひっ、いいねぇいいねぇ……っ! 女の悲鳴を聞くのは、最高に気持ち良いぜぇ……っ! これだから、女連れの男を嬲り殺すのは止められねぇんだよなぁ……っ! ヒャーハハハハハハハハハハハハッ!』

「がっ、ぐぅ……っ!」

 

 狂ったように笑いながらジャビットは俺の機体の四肢を削り落とし、遂に俺の機体は四肢の殆どを斬り落とされていた。

 

 既に全身を苛む激痛は俺の限界を遥かに凌駕しており、未だ意識が保っているのは奇跡としか言いようがない。

 

 もっとも、意識があったからといってどうこうなる問題ではない。

 

 最早俺に抵抗の手段はなく、奴のトドメを待つばかり。

 

 激痛で意識は朦朧としており、いつ意識を失ってもおかしくはない。

 

(く……終わり、なのか……? こんな所で、俺は……っ!)

 

 避けようのない自身の死を悟り、俺は内心で憤激する。

 

 俺は、こんな所で死にたくなどない。

 

 きっと、俺が死ねば双葉は間違いなく後を追う。

 

 それも、ただ死ぬのではない。

 

 およそ考え得る限り最大の被害をこの世界に撒き散らして、それを自身の墓標とするだろう。

 

 俺という双葉にとって唯一の生きる意味であった存在を失わせたこの世界への、報復として。

 

 今の双葉は俺がいるからこそ、この世界で生きる意味を見出している。

 

 その俺がいなくなってしまえば、双葉を繋ぎ止めている楔(・)が外れてしまう。

 

 あいつの技術が、能力が、世界に向けて牙を剥く。

 

 双葉なら、あいつの技術力なら、それが出来る。

 

 特級プログラマがその技術を悪(・)用(・)すれば、どれだけおぞましい災害が撒き散らされるか分からない。

 

 そんな未来は、絶対にあってはならないのだ。

 

 ……けれど、現実は非常で。

 

 こんな状態から生き残る方法など、ある筈がなか……。

 

 ──あ(・)る(・)だろう? 俺(・)を呼べばよ──

 

(……っ!?)

 

 ────声(・)が、聞こえた。

 

 聞き覚えのある、粗野な男の声が。

 

 その声(・)は他ならぬ自分の中から聴こえていて、脳髄に直接訴えかけて来る。

 

 ──俺に変われよ。そうすりゃ、あのガキをぶっ殺してやるからよ。テメェも、こんな所で終わるのは嫌だろう?──

 

 ──黙れ……っ! 俺は、お前なんかに俺を譲り渡したりはしない……っ!──

 

 俺は心の中から聴こえる声(・)に精一杯言い返すが、その声はにやついた笑みを浮かべたかのようなイメージと共に言い募って来た。

 

 ──意地張ってどうするよタァコ。此処で死んだら、全部終わりなんだぜ? 何を迷う事があるってんだよ、ダボが……っ!──

 

 ──お前を頼って生き残った先にいるのは、俺(・)じゃあない……っ! お前なんかに、俺(・)を譲り渡してたまるものか……っ!──

 

 俺は全身を襲う痛みすら忘れて、その声(・)に反論した。

 

 四肢を失った俺に狙いを定めるジャビットの姿もスローモーションに見えて、世界の全てが遅くなったような感覚を覚える。

 

 精神を振り絞って、声(・)に言い返したからだろうか。

 

 ぼやけていた景色が徐々に開けて来て、視界の先に何(・)か(・)を見つけた。

 

 その何かを見た瞬間、心の中の声(・)が舌打ちした気配がした。

 

 ──チッ、間に合いやがったか。命拾いしたな、この野郎が……っ!──

 

 それを最後に、声(・)の気配は俺の奥深くへ沈んで行った。

 

 俺の意識は戦場に帰還し、上空から俺に迫るジャビットの機体をその目に収めた。

 

『ヒャハハハハハハハハハハハ! 死ねぇぇぇぇぇ……っ!』

 

 地上に向かって降り注ぐジャビットの機体は断頭台の刃のようで、明確に俺の首を狙っていた。

 

 けれど、最早俺の心に死の恐怖はない。

 

 何故なら、も(・)う(・)助(・)か(・)る(・)事(・)は(・)確(・)定(・)し(・)て(・)い(・)た(・)のだから。

 

『────おっと、そこまでだ』

『なぁ……っ!?』

 

 ────断頭台の刃を、受け止める者がいた。

 

 いつの間にか俺の目の前に立っていた大柄な機体が、白刃取りの要領でジャビットのフットブレードを受け止めていたからだ。

 

『フンッ!』

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!?』

 

 その機体はジャビットの機体の脚部を掴み、そのまま投げ飛ばす。

 

 凄まじい力で投擲されたジャビットは、そのまま壁に盛大に突っ込んだ。

 

 壁が抉れ、ジャビットの土煙が充満する。

 

 そして俺に向かって、一つの表情画面が展開された。

 

『大丈夫か、坊主』

「……っ、貴方、は……」

 

 画面に映し出されたのは、一見冴えない中年の男だった。

 

 髪はぼさぼさで、お世辞にも整っているとは言えない顔立ち。

 

 しかし、侮る気には決してなれない。

 

 何故なら、この男からは歴戦の古強者が発するような、明確な強(・)者(・)の(・)風(・)格(・)が備わっていたのだから。

 

『俺は、八木澤玄治(やぎさわげんじ)。【ミョルニル】って【探索部隊】で、隊長やってるもんだ。ま、よろしく』

 

 あくまで自然体に、男────八木澤はそう告げた。

 

 その声は穏やかながらとても力強く、俺の心に響いた。

 

 父親がいたらこんな感じなんだろうなと、約体もない考えが浮かぶ。

 

 戦場の空気は、今この瞬間を持って様変わりした。

 

 彼の、八木澤玄治の参戦によって。

 

 事態は、佳境を迎える。





 というワケで、負けイベントでしたね。

 まあ、この時点でジャビットに怜二が勝てる筈がないので、当然の結果なのですが。

 会った時点で敗北確定のヤバイ奴です。

 ちなみに、この八木澤はバルドフォースの八木澤とは別人なのであしからず。

 CCCの言峰みたいなもん、とだけ言っておきます。
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