※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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訪問ーvisitー

「おし、着いたぞ」

 

 政志の声に反応し、俺は目の前に聳え立つ建物を見上げた。

 

 全体的にグレーの配色の目立つ、ドーム状の建物。

 

 正面には大きなハンマーのようなものに雷のマークを組み合わせた隊章のレリーフが刻まれており、見る者に威圧感を齎した。

 

 それが、探索部隊【ミョルニル】が本拠地とするホーム、通称【大槌の館(ビルスキルニル)】である。

 

 この名称は当然ながら隊長の八木澤が呼称したものではなく、歴戦の兵揃いの【ミョルニル】の本拠地に付けられた俗称だったのだが、とある隊員がそのネーミングを気に入ってしまったのだ。

 

 それ以来、【ミョルニル】の隊員も本拠地を【大槌の館】と呼称するようになったのである。

 

 八木澤もホームの名前に特に拘りはなかったので、「呼びやすければなんでもいいや」と黙認の構えであった為、そのまま【大槌の館】という名称が定着したワケである。

 

 ともあれ、俺は政志に連れられてこの【大槌の館】にやって来た。

 

 目的は八木澤に先日の礼を言う事と、ジャビットの事を相談する為である。

 

「……よし、行くか」

 

 既に政志がアポイントメントは取ってくれてある為、俺は政志と共に【大槌の館】に足を踏み入れた。

 

 

♦

 

 

「…………広いな」

 

 ホームに足を踏み入れた俺達を出迎えたのは、ギルドのそれを思わせる広大なエントランスホールだった。

 

 部屋の中央には円形の台座のようなものがあり、ホールの各所にも同様のものが据え付けられている。

 

 壁側にはバーのようなものがあり、隊服を着た数人の男達が酒を煽っている。

 

 ホールにはまばらに隊服を着た者達が歩いており、時折こちらに目を向けている。

 

 しかし、ギルドのエントランスで感じたような不快な視線を向ける者は殆どいない。

 

 治安維持を司る部隊だけあって、隊員の民度もそう悪いものではないらしい。

 

「……来たか」

「……っ! アンタは……」

 

 俺は聞き覚えのある声を聴き、顔を向ける。

 

 そこには、見覚えのある巨漢の男が立っていた。

 

「ホークスだ。ホークス=ネイシャーマン、【ミョルニル】で部隊の指揮を預かる分隊長の一人だ」

 

 男、ホークスは相変わらずの不愛想な面構えのまま、そう告げた。

 

 大(・)き(・)な(・)部(・)隊(・)に(・)い(・)る(・)という情報はうろ覚えながら知っていたが、まさかその部隊がこの【ミョルニル】だとは思いもしなかった。

 

「お、なんだなんだ知り合いか? ホークスさん、こいつの事知ってたんだ?」

「……二言三言、話した程度だ。それで知り合いと呼べるかどうかは、分からんが」

 

 俺は予想外の人物を前に固まっていると、それを見かねた政志が横から助け舟を出して来る。

 

 ホークスは言葉を選ぶように話しながら、俺に視線を向けて来る。

 

「……隊長に会いたいという話だったな。付いて来い」

「あ、ああ」

 

 俺はホークスに言われるまま、彼の後を付いてホームの奥へと歩き始めた。

 

 政志はそんな俺とホークスを興味深げに、双葉は訝し気に見ていたが、その道中で不意にホークスが口を開いた。

 

「…………隊長から少し、話を聞いた。【牝喰い鬼】と、やり合ったそうだな」

「……ああ、悔しいけど、手も足も出なかった」

「だろうな」

 

 俺の言葉をホークスはすぐさま肯定し、分かっていた事とはいえその事に気落ちせざる負えなかった。

 

 ホークスのような者からしてみれば、俺は自分の分も弁えずに死地に飛び込む愚か者にしか見えないのだろう。

 

 俺の愚行を糾弾する声が来るかと身構えていたが、彼が口にしたのは予想外の言葉だった。

 

「…………奴は、人型の災害のようなものだ。性根は救いようがない上に、強い。運が、なかったな」

「……え……?」

 

 俺はてっきり「身の程を弁えないからそうなるんだ」とでも言われると考えていたのだが、ホークスは俺を労わる言葉を口にした。

 

 正直、【未踏領域】へ行く時の忠告を無視してしまっていたので嫌われていると思っていたのだが……。

 

「…………勘違い、するな。【未踏領域】に挑んだ時とは違い、奴とは偶然出会ってしまっただけだろう? 前者は未熟故のミステイクだが、後者は単に間(・)が(・)悪(・)か(・)っ(・)た(・)だ(・)け(・)だ。俺は、人(・)の(・)不(・)幸(・)を笑うつもりはない」

 

 ホークスはそう告げると、一度俺の方に向き直った。

 

「…………お前は、まだ若い。逸る気持ちも分かるが、命あっての物種だ。金も功績も、自身が死んでは何の意味もない。まずは、自分の身を護る事を考えろ」

 

 だから、とホークスは続けた。

 

「その為なら、幾らでも頭を下げるといい。そのつもりで、此処に来たのだろう?」

「……ああ、そうだな」

 

 俺はホークスの言葉に、深く頷いた。

 

 なんの事はない。ホークスは単に、真剣に俺の身を案じてくれていただけだ。

 

 言葉少なで表情も硬い為、真意は分かり難いが……それでも、彼が俺の事を心配してくれている事は伝わって来た。

 

 全く以て、彼の言う通りである。

 

 自分一人で全てが出来る、と思うのは傲慢に他ならない。

 

 一人では何も出来ないのが、普(・)通(・)である。

 

 幾ら特級プログラマの双葉がいるからと言って、俺一人に出来る事などたかが知れている。

 

 けれど、それは俺が諦める理由にはならない。

 

 一人で出来なければ、誰かを頼ればいい。

 

 無償で力を貸してくれるようなお人好しはまずいないが、少なくともこの男と八木澤は信頼出来る。

 

 それなら、頭を下げて協力を頼むのが通りだろう。

 

 俺は大手の探索部隊を指揮する八木澤が俺の言葉を取り合ってくれるか心配ではあったが、この様子なら問題はないだろう。

 

 後は礼を尽くして、頼み込むだけである。

 

「隊長、失礼します」

「ああ、勝手に入ってくれや」

 

 俺達は【隊長室】というプレートのあるドアの前に辿り着き、ホークスがドアをノックすると奥から八木澤の声が聞こえて来る。

 

 ホークスはそのまま扉を開け、俺達は彼の先導で部屋の中に進んだ。

 

「おう、昨日ぶりだな。元気そうでなによりだ」

 

 奥のデスクに座った八木澤は俺の姿を見て、表情を変えずにそう言った。

 

 言葉も淡々としているが、その声には俺の事を案じる気配が伝わって来る。

 

 どうやらホークス同様、彼が信頼出来ると感じたのは間違いではないようだった。

 

「はい、その件は本当にありがとうございました。八木澤さんが来てくれなければ、俺はあそこで終わっていたでしょうから」

「俺は単に、お嬢ちゃんの救援要請を拾って行っただけだ。こっちは仕事をしただけだし、礼を言われるような事でもないさ。勿論、報酬をふんだくろうって気もないからな」

 

 俺の謝意に八木澤は何処かばつの悪そうな顔をしながら、そう返して来る。

 

 こちらとしては相応の謝礼を用意するつもりだったのだが、こう言われては引き下がるしかない。

 

 むしろ、此処は話の切り出しどころだと考えて、例の件を振る事にした。

 

「…………すみません。不躾で申し訳ないのですが、ご相談がありまして」

「……ふむ。大方、【牝喰い鬼】の事だろ?」

「……っ!? はい……」

 

 俺が話を切り出すと、八木澤はその内容を予想していたかのように当てて見せた。

 

 いや、現に予想していたのだろう。

 

 八木澤はあの場で、俺に対して言い放ったジャビットの捨(・)て(・)台(・)詞(・)を聞いている。

 

 だからこそ、俺(・)が(・)ジ(・)ャ(・)ビ(・)ッ(・)ト(・)に(・)狙(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)であろう事は予想の範疇である筈だ。

 

「あの野郎、最後にお前さんを親の仇とばかりに睨みつけていたからな。あれを見りゃあ、誰だって気付くさ。あいつは執念深い事で有名だし、あの感じからするとお前さん、【ヒャズニング】の隊長ともやり合ったんだろう?」

「……ええ、そうです」

「……だろうなあ」

 

 八木澤は頭をかきながら、盛大に溜め息を吐いた。

 

「あそこの隊長さん、フェネジールって言ったか。あいつ自身はそこまで強くないが、どういうワケか【牝喰い鬼】の野郎はあいつが傷付けられるとガチギレする。それこそ、鬼子母神の如くな」

「……今まで、フェネジールに手傷を負わせてしまった為にジャビットに狙われ、無残に殺された探索者は数多い。【ヒャズニング】には手を出すなと言うのは、多くの探索者に広まる共通認識だ」

 

 …………俺は再度その話を聞き、思わず頭を抱えたくなった。

 

 まさか、そこまで苦戦した意識のないフェネジールを撃退してしまったが故に特大の厄ネタを引き寄せる事になろうとは、流石に予想していなかった。

 

 フ(・)ェ(・)ネ(・)ジ(・)ー(・)ル(・)自(・)身(・)が(・)そ(・)こ(・)そ(・)こ(・)の(・)戦(・)闘(・)力(・)が(・)あ(・)り(・)厄(・)介(・)な(・)能(・)力(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)というのが、その厄ネタぶりを加速させている。

 

 ただの雑魚なら普通にあしらえばいいだけだが、フェネジールは隠密に長けた能力を持ち、きちんと対策をしなければ痛手を負わされる可能性がある相手だ。

 

 そしてあの挑発に乗り易い隙の多い性格を鑑みると、一度遭遇してしまったらしつこく追い回される可能性が高い。

 

 姿を隠されたままの奇襲が脅威である事は間違いない為、迎撃して撃退する他はない。

 

 しかしそうなると特級の戦闘力を誇るジャビットに追い回される事になるのだから、割に合わないにも程がある。

 

「……厄介なのは、奴の報復は傷付けた本人の周囲にも及ぶ事だ。以前フェネジールに手傷を負わせた男は目の前で妻を奴の手勢に犯されるのを見せつけられながら手足を輪切りにされ、その映像をバラ撒かれた。その男の妻の行方は、未だ知れない」

 

 恐らく殺されたのだろう、という言葉をホークスは飲み込んだ。

 

 俺はふと、双葉に目を向ける。

 

 双葉は今の話を聞いて、目に見えて不安になっていた。

 

 奴は、俺にサポートが、双葉が傍にいる事を知っている。

 

 ならば、奴は俺だけではなく、双葉もターゲットにしている可能性が高い。

 

 双葉があんな奴に捕まった場合の事など、考えたくもない。

 

 およそ考え得る限り、最悪の結末が待ち受けている筈だ。

 

 そんな最悪の未来だけは、断固として阻止しなければならない。

 

 俺は今日、その為に此処に来たのだから。

 

「────お願いします。【牝喰い鬼】から、俺達(・)を護って下さい」

 

 俺は大きく頭を下げ、自身の願いを口にした。

 

 暫くその場は沈黙に包まれ、これでは足りないかと思い土下座に移ろうとしたところ、ホークスが肩に手を置き顔を上げるよう促した。

 

「────いいだろう。俺達【ミョルニル】は、全力を以て【牝喰い鬼】、いや、盗掘部隊【ヒャズニング】の討伐に当たる。お前さんにも幾つか協力して貰うが、構わんな?」

「はい……っ! ありがとう、ございました……っ!」

 

 俺は一も二もなく頷き、弾んだ声でそう答えた。

 

 この日、【ミョルニル】は一つの指令を全隊員に下す事になる。

 

 ────盗掘部隊【ヒャズニング】を、一人残らず撃滅せよ

 

 それが、八木澤が【ミョルニル】に下した指令(オーダー)だった。




 というワケでこれからVS【ヒャズニング】の展開となります。

 ぶっちゃけ、この√でのメインの敵が【ヒャズニング】です。

 【ダーインスレイヴ】がメインの敵だったレインルートのリスペクトですね、はい。
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