BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『協力感謝する。よく頑張ってくれたな』
【ミョルニル】の本拠地、【大槌の館】の隊長室で表情画面越しの通信で八木澤隊長が俺をそう言って労ってくれている。
あの後、【無名都市】から撤収した俺達はそのまま【大槌の館】に訪れ、こうして隊長と面会しているワケだ。
画面越しで面会している事からも分かる通り、八木澤隊長は今この場にはいない。
当初の予定では八木澤隊長も【ヒャズニング】討伐に付いて来て貰える筈だったのだが、どうしても外せない用事が入ってしまい、仕方なく八木澤隊長抜きで決行したのだ。
八木澤隊長の用事というものはそれなりの期間がかかるものらしく、それを待っていては先手を打たれてしまう。
そこで、八木澤隊長から部隊だけを借り受ける形で、【ヒャズニング】討伐を決行したのだ。
無論、双葉の技術力あっての作戦であった為、事前に八木澤隊長達には双葉の技術を見て貰っている。
一級の【探索部隊】の上位陣から見ても双葉の技術力は相当なものらしく、俺も含めて【ミョルニル】への勧誘も仄めかす程だった。
悪い話ではないのだが、【ミョルニル】に属せば必然的に双葉が他の隊員のサポートも行う事になる。
少数の部隊であればともかく、【ミョルニル】のような大部隊であれば当然、双葉の性質を受け入れられない隊員も出て来る。
そうなればお互いに気まずい思いをするのは目に見えていた為、丁重にお断りしたのだ。
ともあれ、結果的に作戦は成功し、ジャビットを仕留めるという当初の目的は達成された。
まだフェネジールは生き残っているが、ジャビットがいない以上組織の地力の低下は避けられず、徐々に衰退していくものと思われる。
今まで、【ヒャズニング】はジャビットという規格外の戦力がいたからこそ、腫物を扱うような立ち位置で安全を得ていた。
それが無くなった今、【ヒャズニング】を護るものは何もない。
こちらから手を下さずとも、裏側の抗争でひっそりと沈んで行く事だろう。
『しかし、作戦前にも言ったが今回の作戦はあくまで
「
俺は八木澤隊長の話に、こくりと頷いた。
作戦前、俺は八木澤隊長に依頼料を支払うつもりで相談を持ち掛けたのだが、隊長はそれに待ったをかけた。
曰く、今回の作戦は【無名都市】に乗り込んで行う為、公的な記録に残すと色々面倒があるらしい。
【無名都市】には様々な裏社会のコミュニティが存在し、それらが協定を結ぶ事で都市側にその存在を黙認させている。
つまり、
【無名都市】に居を構えるコミュニティの数は膨大で、検挙しても永遠のいたちごっこが続くだけで、根本的な根絶はほぼ不可能である。
その為、お互いの不干渉を暗黙の了解とする事で、致命的な軋轢が発生するのを避けているのだ。
故に、今回【無名都市】に【ミョルニル】の部隊と共に入り込んでジャビットを討伐した事は、相当グレーな行為と言える。
ジャビットを討伐した事、そのものが問題なのではない。
【ミョルニル】という治安維持を司る部隊が、【無名都市】に武力行使目的で入った事が問題になるのだ。
その為に今回の作戦を公的なものにしてしまうと、【無名都市】のマフィアン・コミュニティとの間に致命的な亀裂が発生する
故にこそ、今回の作戦はあくまで記録には残さない非公式なものとし、コミュニティからの追及があっても
だからこそジャビットの遺体を持ち帰って検分、などといった事もしていないし、作戦終了後は速やかに撤収したワケである。
【無名都市】は命の価値がとてつもなく軽い為、裏社会の人間が一人死んだ
毎日のように窃盗、強姦、殺人、誘拐等が横行する【無名都市】では、人一人が消えるのは
そもそも【無名都市】の住民には戸籍といったものがなく、名前も偽名を用いている事が多い。
親に捨てられて一人で生きている子供も珍しくはなく、何処かの実験施設から逃げ出して来た【
だからこそ、【無名都市】の住民は
あそこで身を護るのは、
策略でも、武力でも、果ては強者に取り入る狡猾さでも、己の持ち得るものを駆使して泥水を啜ってでも生き延びる覚悟がなければ、あの都市で生き抜く事など出来はしない。
故に、殺された者は
身体が残っていれば
それが、【無名都市】で死んだ者の末路。
ジャビット程の大物が死んだ事が広まれば相応の騒ぎにはなるだろうが、あそこの住民達は奴が死んだ事よりも、奴が死んだ後
つまり、ジャビットという大戦力を失った【ヒャズニング】は都市中から狙われる
奴を失った時点で、フェネジール達は詰んでいると言っても良い。
たとえシティに逃げ込もうが、【ヒャズニング】にはジャビットの悪行の所為で部隊単位で相当な懸賞金がかけられている。
こちら側に入り込めば、賞金目当ての探索者達に追い回されるだけである。
懸賞金に
そも、ジャビットによって嬲られ手にかけられた探索者の数はかなり多い。
奴等に憎悪を燻らせている者は少なくない筈で、そうした者達がジャビットを失い弱体化したフェネジール達を見つければどうするか等、分かり切っている。
【無名都市】に留まっても、スズシロ・シティに逃げ込んでも、ジャビット達に
ならば、こちらから徒に干渉する必要もない筈、だ。
(…………けど、何だこの違和感は……? ジャビットは、確かに死んだ筈……もう、心配する事なんてない筈なのに……)
…………だが、どうにも俺はこれで本当に良かったのか、確信を持てずにいた。
何か根拠がある、というワケではない。
言うなれば、喉に魚の小骨が引っかかっているような、そんな後味の悪さと言うべきものを感じているだけだ。
気の所為、と言えばそれまでなのだろうが……。
『そう言って貰えると助かる。じゃあ、また何かあったら言ってくれ。一度関わった以上、二度三度関わろうが同じ事だ。遠慮せず、いつでも頼ってくれや』
「はい。ありがとうございます」
『おう、じゃあな』
八木澤はそう言い残し、通信を切る。
俺は傍で控えていたホークスに一礼し、隊長室を後にした。
────同日深夜、『無名都市』郊外『廃棄場』
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ……っ!」
男は、瓦礫の中を必死で駆けていた。
シュミクラムに換装した鋼鉄の身体が、世闇の中をただ走る。
それが無駄であると分かっていても、男は走らずにはいられなかった。
────背後に迫る、死神の刃から逃げる為に。
男は、【無名都市】に居を構えるとある盗掘部隊のリーダーだった。
【遺跡】での盗掘の他に人身売買にも手を出しており、【遺跡】で負傷した探索者を拉致して
そんな男の下に、今朝方とある情報が届いたのだ。
曰く、【ヒャズニング】のジャビット=アンサーペが死亡した、と。
あの悪名高いジャビットが死んだなどという情報はすぐには信じられなかったが、複数の目撃者がこの【廃棄場】で爆散するジャビットの機体を目撃しており、情報の信憑性を裏付けるには充分な証言が取れていた。
ジャビットの死を知った男が取った行動、それは【ヒャズニング】への略奪である。
【ヒャズニング】は自分達と違い、ジャビットという規格外の戦力がいた事で相当な荒稼ぎを実現させており、懐がかなり潤っているらしい。
故に、ジャビットという大戦力が抜けた【ヒャズニング】を叩けば、その儲けを丸ごと自分達のものに出来る。
そう考えた男は、部隊を率いて【ヒャズニング】強襲を決行したのだ。
フェネジール達に部隊間の同盟話を持ち掛け、この【廃棄場】に呼び出す。
そこで適度に痛め付けた後で資金の在り処を吐かせ、その後で処分する。
それだけの、簡単な作戦だった。
フェネジールは迂闊な性格で有名であり、上手い話があれば乗って来るに違いない。
今まで【ヒャズニング】が狡猾に立ち回る事が出来たのは、交渉をするまでもなく欲しいものはジャビットが力づくで奪い取って来た為だ。
ジャビットがいない【ヒャズニング】など、恐るるに足りない。
そう考えてこの場を訪れた男達だったが、そこにフェネジールの姿はなかった。
訝し気に思い、暫くその場で待とうかと考えていた時に。
…………近くに潜ませていた部下達の、断末魔の声を聴いたのだ。
男は仰天し、その部下達がいた場所に目を向ける。
────そこには、一機の
その光景の
けれど、地を這う事にしか出来ない脱兎が、本物の
『がぁ……っ!?』
背後から飛来した斬撃により、機体の脚部が斬り落とされる。
足を失った男の機体はその場に転倒し、地面に打ち付けられた直後、機体を両断され爆散。
男が最期に見たのは、紅いカメラアイでこちらを見下ろしながら脚部のブレードを振り下ろす
そのまま瓦礫の山を蹴り飛ばし、その奥から
よく見れば周囲には
【兎】は無造作に白い布を広げると、その中から何かが落下し地に落ちる。
…………それは、
【兎】が白い布を広げると、少女の遺体に巻かれた白い布が風に揺られたように浮き上がり、【兎】の持つ布と一つになった。
同時に周囲に散らばっていた機体のパーツの中から浮き出るようにして白い布が現れ、【兎】の持つ布に吸い込まれるように消えていく。
【兎】は用済みとばかりに少女の死体を踏み潰し、夜の闇へと跳び去った。
やりたかった展開に徐々に近付いている感覚、たまらんね。
こう、上手く話が繋がった時の快感はなんとも言い難い。
ワートリ二次のプロットを作りながらそんな事を考えるデスイーターでした。
那須さん可愛い。