BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『あのクソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!! 殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……ッ!!』
ジャビットはあらん限りの怒りの咆哮をあげ、戸惑う怜二には目もくれずに踵を返して跳躍した。
今まではあれだけ俺を嬲り殺す事に拘っていたというのに、俺の存在など忘却の彼方にあるような有り様だった。
呆気に取られるままその光景を見送ってしまった俺の下に、双葉から通信が届く。
『怜二、無事……っ!?』
「双葉……っ!? 一体、どういう状況なんだこれは……っ!?」
俺としても、状況の変化にまるで付いて行けずにそう尋ねるしか無い状況だった。
…………双葉が無事で、それを助けてくれたのが有栖だったというのは、まだいい。
だが、何故そこから有栖の宣戦布告やジャビットの豹変に繋がるのか、話に付いて行けていないというのが正直な感想だ。
見たままを語るのであれば、有栖がジャビットに「拠点を襲撃する」と宣戦布告し、ジャビットがそれを聞いて怒り狂い彼女の下へ向かった。
そういう事に、なる。
『……実際、その通りよ。色々と、本当に、心の底から癪だけど…………今回限り、この女と共闘する事にしたわ』
「有栖と、共闘……?」
ええ、と双葉は何処か歯切れの悪い感じで答えた。
『こいつはどうやら、本気で【ヒャズニング】を潰す気みたいでね。さっき殺す前に拷……尋問した奴から、拠点の場所を聞き出して今からそこへ襲撃をかけに行くって言ってる。で、その襲撃を協力して欲しいってのがこの女の言い分よ』
『協力と言っても、別に囮になれとかそういう事を頼みたいのではないわ。むしろ、逆ね────貴方達には、連中が一人残らず逃げられないように、
双葉の説明に補足するように、有栖が表情画面を開いて通信を繋げて来る。
相変わらずの怜悧な美貌を前に一瞬息を呑むが、そんな俺を見て有栖はくすり、と笑いかけた。
『要は、敵の逃げ道を塞いで欲しいワケ。幸い、貴方の【固有兵装】と彼女の技術力があれば不可能じゃないわ』
それにね、と有栖は続けた。
『【ヒャズニング】は、ほぼジャビット=アンサーペのワンマン部隊と言って良い。私にとってはあの小物隊長含め、その他は全員雑魚の類よ。逃げ道さえ塞いで貰えれば、
自信満々にそう告げる有栖に対し、通信の向こうで双葉が溜め息をついた。
数の力というのは侮れない筈であるし、隊長のフェネジールも厄介な能力を持っている。
だが、有栖にとってはそんなものは
序列二桁になったばかりの俺とは、そもそもの強さの次元が違う。
それが、【序列上位者】のいる領域。
俺など及びもつかない、超級の凄腕の立つ場所なのだ。
『…………すんごい癪だけど、とてつもなく癪だけど、こいつの
『ふふ、誉め言葉として受け取っておくわ』
双葉は大いに含みを持たせて有栖を揶揄しており、どう見ても盛大に皮肉っているようにしか聞こえない。
しかし、そんな嫌味にも気分を悪くした様子もなく、有栖は微笑んだまま何処か生暖かい視線で俺達を見詰めている。
妙に息の合った二人の様子になんとも言えない感慨を抱いたが、双葉が表情を引き締めてこちらにデータを送って来た。
『今、私
「って、ちょっと待て。まさか、双葉も殴り込みに同行するつもりなのか? 幾らなんでもそれは……」
……危険だ、と言おうとして、気付く。
今送られて来た双葉の座標が、有栖の座標と
近くにいる、どころではない。
まるで、
『それなら心配ないわ。彼女には、私の所持していた【
「……そういう事か……」
────【携行式操作席】とは、文字通り
この【携行式操作席】は対象者を一時的にシュミクラムの一部と同化させ、そこからサポートを行う為の代物だ。
双葉が普段行っている
【携行式操作席】はあまりメジャーなアイテムでは無いが、俺は昔興味を持って調べた事がある為名前と大まかな機能は知っていたのだ。
通常、双葉のようなサポーターは戦闘能力を持たない事が多い。
特に、超級の技術力を持つ特級プログラマの場合はその殆どが常人を逸脱したプログラミング能力とトレードオフであるかのように、フィジカル面は脆弱な事が多い。
事実、特級プログラマの中に戦闘を生業とするような者は一人もいない。
精々双葉のように探索者のオペレートをするか、技術関連のサポートをする程度だ。
一説によれば、プログラミングに集中して数々の閃きを生み出す能力と、戦闘者が持つその場の状況から最適解を選ぶ資質は、相性が悪い為とされている。
戦闘を生業とする者は常に
彼女達は取れる選択肢の数そのものが、常人とはまるで違う。
その為、その中から
選択肢が広過ぎる故に、そこから一つを自力で選ぶとなると、特級プログラマには荷が重い。
与えられた
何せ、
選択肢を
それが、彼女達の性質なのである。
…………戦闘で
故に、特級プログラマの正しい使い方は
こちらから選択肢を提示してやれば、特級プログラマはその選択肢を瞬く間に実行可能な代物にしてくれる。
だからこそ、特級プログラマは戦闘者としてではなく、サポーターとして大いに適性があるのだ。
だからこそ、双葉の支援を最大限に受ける為には【携行式操作席】という選択肢は最善のものと言えた。
…………ちなみに、この【携行式操作席】があまりメジャーでないのは、その費用が馬鹿にならないからだ。
この【携行式操作席】は
アーク・インダストリーの開発した技術の中でも最新鋭のものであり、当然相応の費用がかかっている。
その為、レンタルの場合でも凄まじい金額が吹っ飛び、購入するとなればそれこそ莫大な金額が必要となる。
更に言えば、この【携行式操作席】は基本的に
この技術はあくまで試作品である為、一度
要は、
それでも最新鋭の技術が注ぎ込まれている為レンタルの場合でも使用期間に応じた金額が発生し、尚且つシステムが機能するのは半日のみ。
購入した場合でも、一度離脱すれば機能停止してしまう以上、早々使おうとは思えない代物だ。
こういった代物を使う必要があるのは、俺達探索者である。
故に、
探索者は稼ぎを求めて【遺跡】に潜るのであって、稼ぎ以上の支出をしては意味がない。
その為、【携行式操作席】を使う奴など余程の物好きくらいだと思っていたのだが…………どうやら、彼女はあの口ぶりでは真っ当ではない手段でこれを手に入れたらしい。
彼女の言う
…………まあ、映像越しに見たあの惨状を考えれば大体の想像がついてしまうのが困りものだが。
取り敢えず、双葉の安全については納得出来た。
後は、作戦の詳細を詰めるだけである。
「それについては分かった。それで、今お前達は何処に向かっているんだ。座標からすると、どうやら廃棄区画のようだが……」
『…………ええ、そうね。確かに此処は、廃棄された
何処か沈んだ声で、双葉が話す。
それまでとは何かが違う彼女の反応に訝し気に思うが、次の瞬間その疑問は氷解した。
『────【ヒャズニング】がアジトとしているのは、先史時代に存在していた企業の構造体よ。座標は、【廃棄区画C】の第七ブロックエリア。かつての社名は、【Virtual Sphere Security社】』
「……待て、その名前は……」
ええ、と双葉が暗い表情で俺の推測を肯定した。
その名前には、聞き覚えがある。
否、ある意味で最も忌避すべき名でさえあった。
何故なら、それは……。
『────通称、【V.S.S】。私に施されていた洗脳教育の根幹となる技術、その出所よ』
────双葉の忌まわしい過去、その大本となるものを生み出した場所の名前だったのだから。
余談ですが、フォースはBALDR SKYよりも更に前の【大戦】というイベントよりも昔の話だとされています。
どういう関係性かは明言されてはいませんが、同一の世界線の過去と未来のパターンの一つじゃないかなってのが、俺の解釈です。
ま、【この世界】はかなりの変わり種である事は否定しないけれど。