※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

36 / 82
進軍ーAdvanceー

「ったく、ジャビットの奴にも困ったものだな。あいつを騙す作戦なら、事前にそうと教えてくれてもいいものを」

 

 【ヒャズニング】の拠点の中、廃棄された社屋の構造体の最上階に当たる部屋で、ジャビットは椅子にふんぞり返りながら部下にくだを巻いていた。

 

 話題は当然ながら、先日ジャビットが一芝居打ち、彼が死んだと見せかけた一件の事である。

 

 あの件は、完全なジャビットの独断で行ったものだ。

 

 無論の事フェネジールにはジャビットの企みは何一つ伝えられておらず、あの場でのフェネジールの慌てぶりは完全なる素(・)である。

 

 ジャビットが姿を見せたのは彼が死んだという噂に踊らされた哀れな盗掘部隊がフェネジールの所に話を持って来た直後である。

 

 死んだ筈のジャビットが姿を見せた事で泡を喰った隊員達を尻目に、彼は尻尾を出した間抜けを処分する事を告げ、フェネジールが呼び出された【廃棄場】へと向かったのだ。

 

 そして現在、ジャビットは手勢を引き連れて目的の人物を襲いに行っている最中である。

 

「まあまあ、隊長の事を思って行動してくれているんですから。今までだって、そうだったんでしょう?」

「当然だ。奴の言う事が間違っていた事など、一度もない。ジャビットこそが、最強のシュミクラム乗りなのだ。あいつが俺を裏切るなど、有り得んしな」

 

 フェネジールは全幅の信頼を乗せた台詞で、ジャビットを湛えた。

 

 部下の事は代わりの利く手駒として見ている彼であるが、ジャビットだけは例外的に深い信頼で繋がっているように見える。

 

 情(・)報(・)通(・)り(・)、彼とジャビットの間の繋がりは確かなもののようだ。

 

(……しかし、参ったな……この男は幾らでも隙があるが、ちょっとでも造反に繋がるような行動を取ればジャビット=アンサーペがそれを察知して粛正する。実際、同(・)じ(・)よ(・)う(・)に(・)潜(・)り(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)もう一人はやられたしな)

 

 …………実は、今フェネジールが得意げに話をしている部下の男は、【ミョルニル】によって送り込まれた諜報員である。

 

 本来であれば自分の手引きによって【ミョルニル】本隊が拠点を潰す手筈だったが、依頼対象であった怜二の協力要請により計画は変更された。

 

 何よりその時点ではまだ自分はこの拠点の場所は教えて貰えなかった為、その作戦はあの時点では使えなかったのだが。

 

 前述の通り、フェネジールは迂闊だがそれを補うようにジャビットの嗅(・)覚(・)は鋭い。

 

 共に入り込んだ同僚はウイルスによってこの拠点の場所を外部に送ろうとしたのだが、それを察知したジャビットによって始末された。

 

 後日、全身を刃物でズタズタにされたその同僚の遺骸を見せられた時は、あまりの惨状に硬直してしまった。

 

 その時は他の者達も一様に息を呑んでいたので、その反応が原因で諜報員だとバレる事がなかったのは幸いではある。

 

 しかし、その事件以降ジャビットの指示によってこの拠点は外部への通信を遮断する妨害装置が備え付けられてしまった。

 

 更に拠点内では常に二人以上で行動させるよう徹底する警戒ぶりであり、男も一切の身動きが取れなかったのである。

 

 今回の怜二達への襲撃計画も襲撃そのものはジャビットが単独で行う事になっており、そのお(・)こ(・)ぼ(・)れ(・)を与れるのも奴の取り巻きだけだ。

 

 その為、諜報員の男は外と連絡を取る事も襲撃を妨害する事も出来ず、拠点の中で途方に暮れていたのである。

 

(く……可哀そうだが、彼等の事は見捨てるしかない……か……?)

 

 今はジャビットは襲撃に出かけている為いないが、襲撃に行く前にジャビットは見張りと警備以外の全ての構成員を一つの部屋に集めるよう厳命していった。

 

 故にこの場から理由なく抜ける事は出来ず、八方塞がりの状況だった。

 

 とてもではないが、何かが出来る状況ではない。

 

『隊長、大変です……っ! アジトの正面に、【兎】が……っ!』

「ああ?」

 

 そんな時、焦った声色で見張りを担当していた部下からフェネジールへ報告が飛んだ。

 

 奇妙な報告にフェネジールは首を傾げ、部下に問い返す。

 

「【兎】だと……? ジャビットの奴が帰って来たのか。随分早かったではないか」

 

 フェネジールは【兎】という単語からジャビットの駆るシュミクラム、【シュラウド・ラビット】を連想し、彼が帰って来たのかと思いそう口にする。

 

 だが、見張りの男はそんなフェネジールの言葉を否定した。

 

『違います……っ! 現れたのは、副隊長の機体じゃありません……っ!』

「……なんだと……?」

 

 そこでようやく嫌な予感を感じたフェネジールが眉を顰めると、矢継ぎ早に見張りの男が言葉を続けた。

 

 そして、致命的な情報が齎される。

 

『例の【狩人】です……っ! 【首刈り兎(ボーパルバニー)】が、此処を襲っています……っ!』

 

 ────それは明らかな、死神の足音に他ならなかった。

 

 

♦

 

 

『さあ、刻み尽くすわ……っ!』

 

 その廃棄された構造体の正面入り口に、有栖の機体が優雅に着地する。

 

 入口を守っている二機のシュミクラムは突然の襲撃に動揺しているのか動く事が出来ず、有栖はその隙を容赦なく突いた。

 

『────消えなさい』

『が……っ!?』

『ぎ……っ!?』

 

 有栖は天高く跳躍するとその脚部を振るい、空気の刃を射出する。

 

 射出された空気刃と共に有栖が敵シュミクラム目掛けて急降下し、二機は同時に頭部をそれぞれ空気の刃と脚部の刃によって斬り飛ばされる。

 

 頭部のなくなった二機のシュミクラムは倒れ伏し、そのまま爆散した。

 

『ハッ……!』

 

 瞬く間に見張りを排除した有栖は入口に蹴撃を見舞い、構造体の入口が斜めに両断され崩れ落ちる。

 

 内部のフロアには無数の人影が点在しており、突如押し入って来た襲撃者を見て慌ててシュミクラムに移行する。

 

『────遅過ぎるわね』

 

 だが、そんな的(・)を放置する程有栖は優しくはない。

 

 地面を蹴り、移行したばかりのシュミクラムに肉薄。

 

 そのままニーブレードによる膝打ちを見舞い、機体の首が刃に貫かれる。

 

 有栖はそのまま頭部を斬り飛ばし、天井に向け跳躍。

 

 空中を縦横無尽に駆けながら、脚部を振るい空気の刃を射出。

 

 一機、また一機と空気の刃に斬り裂かれ、首を落とされ爆散していく。

 

 断末魔の悲鳴をあげる間すらなく、無情にシュミクラムの首が落とされていく。

 

 その場にいた敵兵達は逃げる事すら出来ずに首を落とされ、除装される余地すら与えられずに死に絶える。

 

 戦闘を始めて、僅か数秒。

 

 それだけの時間で、有栖はその場にいた敵機体を悉く殲滅してしまった。

 

 周囲には無数の機体が爆散したが故の煙とシュミクラムの残骸、そしてかつて人であった肉片が転がっていた。

 

 血と油の匂いが充満し、広間の中に死臭が満ちる。

 

 有栖の機体は部屋の中央に着地し、カツン、とヒールを鳴らすような音と共に残骸塗れの床に降り立った。

 

『手応えがないわね。ま、特機戦力頼りの屑共の練度なんてたかが知れてるか』

『…………相変わらず、ふざけた力量ね』

 

 一瞬で幾人もの敵を斬り殺した直後だというのに泰然と微笑む有栖を見て、【携行式操作席】によって同行している双葉は溜め息を吐いた。

 

 怜二が弱いとは言わないが、彼女の強さは最早異(・)常(・)だ。

 

 【ラビットシリーズ】の脅威はジャビットの時に散々思い知った筈だが、それでも尚有栖の実力が図抜けている事が分かる。

 

 ジャビットが獰猛な獣だとすれば、この女は冷徹に獣を追い詰める狩人だ。

 

 欲望や怒気によって敵を食い殺す獣(ジャビット)と違い、この女は冷徹な論理を以て敵を追い詰め狩り殺す。

 

 自身が敷いた価値観の中で屑(・)と判断した者を、悉く狩り尽くすその躊躇いのない殺戮論理。

 

 それは、とてもではないが探索者の持つ精神性ではなく、どちらかといえばジャビット達裏(・)の人間に近い。

 

 ジャビットも有栖も、自身の敷いたルールによって敵を殺す、という事に関しては共通している。

 

 怜二とてこの程度の相手なら数が集まろうが負ける事はないが、彼女程鮮やかな手並みでは出来ないだろう。

 

 その素早い殺戮を可能としているのは無論、【ラビットシリーズ】特有の超高速機動だ。

 

 一度動き出せば止める事はほぼ不可能なその軌道で敵を追い詰め、反撃を許さず狩り殺す。

 

 それが、有栖の基本的な戦闘スタイルだ。

 

 敵を嬲り殺す、ジャビットのような遊(・)び(・)はない。

 

 ただ淡々と、敵を狩り尽くす為の動きだ。

 

 故にこそ、一度狙った獲物を逃がす事など有り得ない。

 

 彼女の視界に捉えられた時点で、最早逃亡という選択肢は失われる。

 

 どんな相手であれ、【兎】の跳躍から逃れられる術はないのだから。

 

『仕事はやってくれているのよね?』

『ええ、ここら一体に離脱妨害(アンカー)と妨害装置(ジャマー)を展開したわ。効果範囲を抜けない限りあいつ等は離脱(ログアウト)も転送(ムーブ)も出来ないし、此処へ繋がるルートも弄ってあるから、奴も簡単には辿り着けない筈よ』

 

 更に、今回に限って言えば有栖には特級プログラマである双葉のサポートがある。

 

 双葉は意趣返しとばかりに己の能力をフルに活用し、この構造体を封鎖状態に追い込んでしまった。

 

 流石に此処までの素早い仕事は【携行式操作席】による同行がなければ無理だったが、当然ながらこの封鎖網のスピード構築は双葉の技術力あってのものだ。

 

 特級プログラマの、面目躍如といった所である。

 

『一応聞いておくけど、皆殺しでいいのよね?』

『ええ、ただし【ミョルニル】の隊長さんが言うには潜入させている部下がいるらしいから、見つけたらそいつには手出しはしないでね。正規の探索部隊の人員を殺すと、面倒だからね』

『そうね。屑(・)の巻き添えで死んじゃ、可哀そうだもの。人間は、人間として扱わないとね』

 

 くすり、と笑いながら有栖は告げる。

 

 有栖にとって彼女が『屑』認定した相手は人間扱いされないが、逆に言えば人間扱いした相手であれば相応の対処をする程度の理性はある。

 

 もっとも、その対処とて有栖の判断次第ではどうとでも揺れ動くのが困りものではあるが。

 

『怜二の私(もの)に、手を出そうとしたんだもの。当然、死以外の結末は有り得ないわ。私の身体は、怜二だけのものなんだから。それに手を出すという事がどういう事か、身を以て分からせてやる』

『安心して、容赦なんてするつもりはないわ。屑は一片残らず、この地から片付けてあげるわ。文字通り、塵すら残さないつもりよ』

 

 双葉の殺意に満ち溢れた宣告に、同じく殺意を漲らせて有栖が返答する。

 

 この時この瞬間だけは、二人の意志は共通していた。

 

 即ち、このならず者達を一人残らず皆殺しにしてやろうという絶滅の意志を。

 

『任せたわ。怜二も転送で呼んであるし、奴等の退路は断ったわ。後は、貴方の仕事よ。任せたわ、有栖』

『了解(ヤー)、必ず仕事は遂行するわ』

 

 そして、【魔女】と【兎】は進軍を開始した。

 

 これより、蹂躙が始まる。




 明日は更新出来ませんが、明後日は更新します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。