BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『隊長、
部下からの報告が飛び、フェネジールは椅子から立ち上がって舌打ちする。
【首狩り兎】の襲撃の報の直後、【ヒャズニング】は大混乱に陥った。
なにせ、あの悪名高い【盗掘者狩り】の女が自分達を殺そうと襲い掛かって来たのだ。
彼等にしてみれば、突然災害に襲われたようなものだ。
フェネジールの一喝である程度平静を取り戻しはしたが、それでもまだ混乱から立ち直ったとは言い難かった。
「チィッ、奴は今何処にいる……っ!?」
その状況を正しく理解しているフェネジールは焦った様子で部下に指示を下し、通信越しに部下の男が応答する。
『一階のフロアを制圧後、上層を目指して進行中です……っ! 遭遇した隊員は全て殺されており、全く歯が立ちません……っ!』
「当たり前だ馬鹿が……っ! いいか、相手は序列19位の『首狩り兎』だ……っ! 【ラビットシリーズ】がどれだけ規格外の代物かは、ジャビットを見れば明らかだろう……っ!」
部下の男に苛立った様子でそう告げると、フェネジールは更に言葉を重ねた。
「勝とうと思うな、逃げまくって時間を稼げ……っ! あの女が標的を殺し尽くす事を執着する以上、
『や、
いっそ理不尽とも思える命令を、部下達は受け入れた。
彼等とて、分かっているのだ。
彼の命令に従わなければ、どの道待っているのは彼等全員が【首狩り兎】によって殺される未来だけなのだと。
全滅するくらいならば、いっそ
フェネジールの指示は冷酷だが、妥当でもある。
彼は一人の戦闘者としては二流三流もいい所だが、部隊全体の損耗を抑える
利益を得る事を考えず、ただひたすらに
彼がジャビットという極大戦力が部隊にいるにも関わらず隊長の座にいられるのは、この
法の外にいる犯罪者である彼等にとって、
表の世界では自分達を護ってくれる【法】が、彼等犯罪者にとっては喉元に突き付けられる【刃】として機能する。
その為、法の下で彼等を討たんとする者達から逃げ切る能力は半ば必須だ。
【ヒャズニング】が此処まで好き放題出来ていたのは勿論ジャビットという規格外の戦力の存在もあるが、その
『気張れよ貴様等……っ! 運が良ければ、ジャビットが
なにせ、逃げ切ってしまえさえすれば後はジャビットが
時間さえ稼いでしまえば、勝ち。
そういう意識が、【ヒャズニング】の隊員達には共通して存在していた。
事実、これまで彼等が窮地に陥った時もある程度損耗を覚悟して時間稼ぎに徹すれば、その場に駆け付けたジャビットが敵を皆殺しにする事でどうにかしてくれていたのだ。
そこに縋るのは、彼等としては当然だった。
(ジャビットさえ、ジャビットさえ来れば全てがひっくり返る……っ! なんとかそれまで保たせてやる、絶対にな……っ!)
『敵は多分、時間稼ぎをして来るでしょうね』
【ヒャズニング】の拠点、旧【V.S.S】社屋を進みながら有栖は双葉に語り掛ける。
その中途で目に付いたシュミクラムの首を斬り飛ばして
その笑みを画面越しに半眼で見据えながら、双葉は溜め息をついた。
『なんで? あのフェネジールとかいう奴の能力を使って、奇襲でも仕掛けて来るんじゃないの?』
『追い詰められたらそういう手も取るかもしれないけれど、当面は部下を逃げ回らせて時間稼ぎに徹する筈よ。私はこれまでも屑共を殺す時は
『……成る程ね……』
どうやら、話を聞く限り有栖は日常的にこういった殺戮を繰り返しているらしい。
少なくとも、ならず共の間にその手法が知れ渡るくらいには頻繁に、である。
別段犯罪者が幾ら死のうが知った事ではないので彼女が普段盗掘者狩りに興じていても構わないのだが、
これまでの挙動や会話から分かっていたが、この女は矢張り何処か
常識は知っているし物腰も丁寧などころか気品すら満ち溢れているが、それはあくまで
彼女は常識を知っているが、それはあくまで
常識を、
要は、
彼女の識る
故に、彼女はいざとなれば平然と常識を踏み越えるし、倫理よりも己の価値観を優先する。
たとえば、
緊急避難*1という言い訳が通用する状況であれば、彼女が他人の命を摘み取らない理由はない。
彼女には、そういった
双葉の見たところ、彼女の自分達への認識はあくまで
彼女の「仲間になりたい」といった申し出を断ったのだから、当然ではあるのだが。
故に、
有栖は自分達に何故か興味を抱いているらしく、
あの時、男達に犯されそうになっていた双葉を助けてくれたように。
しかし、毎回あのように助けてくれるとは限らない。
下手をすれば、敵に回ってしまう事すら有り得る。
故に双葉は有栖の実力は信頼しているが、その人柄については欠片も信用していない。
今回は利害の一致で共闘したが、今後はなるべく距離を置こう。
双葉は内心、そんな事を考えていた。
(…………戦術的な相性が悪くないのが、また困りものだけどね……)
しかし、双葉にとって厄介なのはこの共闘を通じて彼女との相性が
有栖は戦場に放り込めば望んだ通りの戦果を速やかに挙げてくれるし、こちらの指示にもきちんと従ってくれる。
双葉の罵倒じみた言葉も笑って受け入れ、それどころか常にこちらを立てるように会話を進めて来る。
そういった気遣いに関しては、有栖の行動は満点に近いものだった。
双葉が彼女を忌避しているのはその異様な価値観や
幾つかの事に目を瞑れば、有栖は
だからこそ、双葉は
…………無論の事、双葉自身はそれを認めようとはしていないのであるが。
『それで? それが分かってるならどう動くの? 雑魚は見過ごして本丸を叩きに行く?』
『いいえ、言った筈よ。
『…………そういう事か。勿論可能よ。5秒待って』
双葉は有栖の言わんとする事を汲み取ったのか、【携行式操作席】の中から構造体のシステムにハッキングをかける。
すると有栖の手元に構造体のマップが転送され、マップの各所には敵シュミクラムと思われる赤い光点と有栖の位置を示唆する青い光点が浮かび上がる。
そしてマップの上の道が幾つか消滅し、それと同時に赤いラインで敵の逃走ルートの予測経路が示された。
『敵部隊のナビゲートを乗っ取ったわ。この地点で敵が合流する筈だから、そこで叩きましょう』
『お見事。相変わらず凄いわね、双葉』
双葉の手並みに有栖は素直な称賛を送り、照れ臭くなった双葉は溜め息を吐きながら続けた。
『…………このくらい簡単よ。どうやら連中はこの構造体の管理AI端末にサポートをやらせてたらしくて、逃げ道なんかも指示させてたみたい。私はそこに割り込んで、経路の指示を書き換えただけよ。AIの抵抗もなかったし、正直楽だったわ』
無論、簡単な事ではない。
特級プログラマたる双葉だからこそ出来る荒業であり、普通であれば敵部隊のナビゲートを乗っ取るなど出来る筈がない。
少なくとも普通であれば敵部隊のナビゲートを乗っ取るには敵部隊が使っている端末を入手する必要があるし、それを入手出来たとしても指示そのものを書き換える事は難しい。
それを端末すらなしで【携行式操作席】越しのハッキングで成し遂げてそれを
有栖も双葉も、自分の基準で物事を見るので
そのあたりの共通点も、二人の相性が良い理由かもしれない。
『さあ、狩り立てるわ。当初の予定通り、一人足りとも逃がしはしない。皆殺しにした上で、裸の対象を引きずり出してあげましょう』
『サポートは任せなさい。私の技術で、狩りの制度を上げてあげる。連中には、私達を狙った報いを受けさせてあげるわ。必ずね』
狩人と魔女は、手を取って進む。
【ヒャズニング】の命の灯火は、刻一刻とその灯が消えつつあった。
こういう関係って、好きなのよね。