※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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無情ーRuthlessnessー

『よし、こっちだな……っ!』

 

 男は、必死に逃げていた。

 

 今の身体が鋼鉄の体躯でなければ、盛大な冷や汗が流れていただろう。

 

 見知った拠点の中ではあるが、普段のような低俗な馬鹿騒ぎの声は聞こえてこない。

 

 聞こえるのは、怒号と銃声。そして、断末魔の叫び声。

 

 今、彼等【ヒャズニング】の拠点にはあの【盗掘者狩り】で有名な殺し屋じみた探索者、【首狩り兎】が殴り込みをかけていた。

 

 隊長であるフェネジールの指示で管理AIのナビゲートを頼りに拠点内を逃げ回っているが、それでも尚敵に補足され脳死を迎える同僚達は後を絶たない。

 

 単純に、敵である【首狩り兎】の追撃スピードが速過ぎるのだ。

 

 なにせ、彼女が使用しているシュミクラムはあのジャビットと同じ【ラビットシリーズ】。

 

 その反則的な速度と攻撃性能は、語るまでもない。

 

 現在、彼らが未だ全滅していないのは拠点内の空間がそれ程広くない為、【ラビットシリーズ】特有の三次元移動が本領を発揮していないからだ。

 

 また、彼等は管理AIに敢えて狭い通路での逃走ルートを指定して逃走を行っている。

 

 そうでもなければ、彼等は今頃残らず死神の刃に首を断たれている筈だ。

 

(けど、いける……っ! このまま時間を稼げば、副隊長が来るまで持ち堪えられるかもしれないぞ……っ!)

 

 男は微かに見えた生き残る可能性に、頬を緩ませた。

 

 既に【首狩り兎】とは充分な距離を取っている筈であり、幾ら常識外のスピードを持つ【ラビットシリーズ】であれこの入り組んだ拠点を正確に追撃する事は困難な筈だ。

 

 此処に来るまでも幾つもの分帰路をナ(・)ビ(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)に(・)従(・)っ(・)て(・)駆け抜けて来たし、マッピングも済ませていないで(・)あ(・)ろ(・)う(・)この拠点内で自分達の動きをつぶさに補足する事は難しい筈だ。

 

『……え……?』

 

 ────そんな、ある筈もない希望を抱いていた。

 

 目の前に広がったのは、広大な空間。

 

 この構造体の中層部のちょうど真ん中に位置する、エントランスホールだ。

 

 しかし、これはおかしい。

 

 自分は、このエントランスホールから逃走を開始した筈だ。

 

 なのに何故、ナ(・)ビ(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)通(・)り(・)に(・)動(・)い(・)た(・)筈(・)なのに此処に戻って来てしまっているのか……!?

 

『おいおい』

『……な、なんで此処に戻って来てるんだ……?』

 

 そして、此処に舞い戻ってしまったのは自分だけではなかった。

 

 別々の通路から次々に同僚達のシュミクラムが飛び出してきており、のべ10機もの機体がこの広間に集結していた。

 

 皆、自身の置かれた状況が理解出来ずに困惑している。

 

 ────その隙を、死神が逃す筈も無いというのに。

 

『が……っ!?』

『ぐぁ……っ!?』

 

 通路の奥から飛来した存在により、広間の右奥にいた機体の首が斬り飛ばされる。

 

 頭部を失った二機のシュミクラムは倒れ伏し、爆散。

 

 同時に、カツン、という硬質な音と共に広間中央にたった今二機の首を断頭したばかりの死神が舞い降りた。

 

 【兎】を象ったフォルムに、鋭利な膝付き刃(ニーブレード)。

 

 紛れもなくそれは、この拠点を襲っている死神。

 

 ────【首狩り兎】の異名を持つ女が使うシュミクラム、【ヴォーパル・ラビット】の威容だった。

 

『う、うわあああああああああ……っ!』

『た、助けてくれええええええ……っ!』

 

 一度は撒いた筈の死神の再来に、瞬く間にその場が混乱に包まれた。

 

 極度の混乱状態に陥った隊員達は、我先にと通路へ逃げようとする。

 

『う、嘘だろ……っ!?』

『なんで、なんで隔壁が降りてるんだよぉ……っ!?』

 

 ────だが、その試みは失敗に終わる。

 

 何故ならば、逃げ道を塞ぐように通路の隔壁が封鎖され、退路という退路を断っていたからだ。

 

 この構造体の隔壁はとても頑丈に作られており、シュミクラムの火器でもびくともしない。

 

 普段であれば敵を遮断する壁(・)となってくれていた隔壁が、今は自分達を閉じ込める檻(・)となって退路を塞いでいた。

 

『うわあああああああああああ……っ!』

『し、死にたくねえよぉ……っ!』

 

 それを理解した瞬間、隊員達の正気は文字通り焼き切れた。

 

 脱出不可能な閉鎖空間に、自分隊に明確な殺意を抱く圧倒的に格上の存在と共に閉じ込められた。

 

 その絶望的な事実が、彼等の精神的なキャパシティを凌駕したのだ。

 

 そして、錯乱して逃げ惑う獲物は【狩人】にとって格好の標的でしかない。

 

 一機、また一機とヴォーパル・ラビットによって首を落とされ息絶えていく。

 

(……う、あ……)

 

 ────男が最期に見た光景は、脚部を振り抜き自分の首を斬り落とす、死神の如き【兎】の姿だった。

 

 

♦

 

 

『取り敢えず、この階層にいた奴等は始末出来たわね。ボス猿のいる所まで、あと何フロア残っているのかしら?』

 

 敵(・)の(・)ナ(・)ビ(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)を(・)乗(・)っ(・)取(・)っ(・)た(・)双葉の協力により、有栖は中層部の敵を一網打尽にする事に成功していた。

 

 ナ(・)ビ(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)が(・)書(・)き(・)換(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)などと夢にも思わない彼等は、改竄されたナビゲートに従った結果、こうして彼女の狩(・)場(・)に誘導されてしまったワケだ。

 

 あとは双葉の手によって制御を乗っ取った構造体のシステムに干渉し、隔壁を封鎖。

 

 逃げ道を塞いだ上で、有栖によって彼等は皆殺しにされたワケだ。

 

 無論、有栖は敵に除装されるような余地さえ与えていない。

 

 ライフゲージを削り切って除装される前に脳死(フラットライン)に追い込めるように、執拗に首ばかりを狙って斬り伏せていた。

 

 彼女にとって、これは戦(・)闘(・)ではなく駆(・)除(・)。

 

 趣味でもあるが、それ以前に単なる作(・)業(・)でしかないのだ。

 

 虫の駆除業者の如く、手(・)抜(・)か(・)り(・)は一切ない。

 

 淡々と、何の感慨もなく屑(・)を清(・)掃(・)する。

 

 それが、彼女にとっての狩(・)り(・)だった。

 

 彼女にしてみれば今の殺戮も、私的な仕事の範疇でしかない。

 

 敵がどれ程命乞いしようが、耳を貸さなかったように。

 

 彼女の中では、屑(・)は人(・)間(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のだから。

 

『あと2フロアね。けど、今の連中で大体の手勢は撃破出来たみたいね。残る電子体反応は全部、最上階にあるわ。数は6体よ』

『……そう、なら例の【固有兵装】で奇襲を狙って来るかしらね。ま、私には無意味だけど』

 

 有栖は淡々と、残るタスクを思案しつつ笑みを浮かべた。

 

 この構造体に突入した時は50以上いた電子体反応が、既に自分達を除けば僅かに6体。

 

 既に40人以上の盗掘者を物言わぬ屍に変えた有栖は、更なる標的を求めて天井を睨みつけた。

 

『……最上階から電子体反応が消えたわ。どうやら、全員奴の【固有兵装】を使ったみたいね。自分だけでなく、他の連中にも適用出来たか』

 

 で、どうする? と双葉は有栖に尋ねる。

 

『以前戦った時にデータは解析してあるから、索敵範囲内に入れば奇襲を受ける前に察知出来るし…………アンタも、素で似たような事は出来るんでしょう? 此処で待ち構える?』

『────そうね。でも、こ(・)の(・)ま(・)ま(・)じゃあ狭いし────少し、場所を広(・)げ(・)ましょうか』

『……は……?』

 

 双葉は突然の有栖の発言に目を白黒させるが、彼女は既に行動に移っていた。

 

 機体を沈み込ませ、跳躍。

 

 そのまま中空を振り子のように滑空しながら、どんどんそのスピードを上げていく。

 

 そして、その常軌を逸した速度による滑空がソニックブームを生み出し、広間の中に巨大な風の刃が指向性を以て生成される。

 

 有栖は広間中央に駆け降り、そのまま風と共に真上に向かって一気に上昇。

 

 ソニックブームを引き連れた有栖は巨大弓(バリスタ)の如く地上から撃ち出され、天井を突き破る。

 

 巨大な破城槍の如き一撃が、天井を破砕し最上階まで到達する。

 

『ひぃ……っ!?』

『な、なんだこれは……っ!?』

 

 いきなり階下から天井を突き破られるとは、夢にも思っていなかったのだろう。

 

 突き破られた天井────つまり最上階の床の崩落に巻き込まれた盗掘者達はその衝撃で隠蔽が解除され、有栖の前に炙り出された。

 

 空中に放り出された彼等は、ソニックブームの嵐によって身動きが取れない。

 

 その隙を有栖が逃す筈もなく、中空から急降下。

 

 宙に放り出された機体の首を、一機ずつ確実に刈り取って行く。

 

 一瞬にして四機のシュミクラムの首が落とされ、機体は爆散。

 

 有栖は全機撃墜を確認し、大穴が空いた最上階の床へ着地する。

 

 自身が空けた大穴の淵で、有栖は戦果を確認して微笑んだ。

 

『ふふ、今ので殆(・)ど(・)の敵は撃破出来たわ。大将は、下にでも逃げたのかしらね?』

『…………最早、言葉もないわね。アンタ、斬(・)撃(・)でこんだけの大破壊を引き起こせるとかどんだけ出鱈目なのよ。つくづく、呆れ果てる実力の高さね』

 

 正直に言って、双葉は今の有栖の暴挙に唖然としていた。

 

 まさか、純(・)粋(・)な(・)技(・)術(・)だ(・)け(・)で(・)此処までの破壊を起こせるとは、流石の双葉も予想していなかった。

 

 有栖は今の大破壊に、特殊な兵装は何一つ使用していない。

 

 ただ、純粋な速(・)度(・)によって発生させたソニックブームに指向性を持たせてそれを纏い、自身の突撃の威力を大幅に嵩増ししただけだ。

 

 言葉にすれば簡単だが、それがどれだけの絶技かは言うまでもない。

 

 つくづく、【序列19位】の数字と【ラビットシリーズ】がどれだけ埒外の領域かを思い知らせてくれる。

 

『……あら? 下の階層から上がって来る反応があるわね。どうやら今まで隠蔽モードでいたみたいだけど、私達相手に通信を試みているわ。もしかすると、こいつが【ミョルニル】の諜報員なのかも』

『そう、なら此処まで来るように伝えて。もしも残党の命乞いだったら、切り捨てるだけだけどね』

『了解(ヤー)、そう伝えるわ』

 

 

♦

 

 

『……通信に応じてくれて助かった。俺は【ミョルニル】から潜入工作員として此処に送り込まれた、カールという。フルネームは、カール=クラツェルだ。よろしく、お嬢ちゃん達』

 

 下層階から現れたシュミクラムの乗り手は表情画面を開くと、【ミョルニル】の隊章を証拠として見せながらそう名乗った。

 

 男、カールは金髪をオールバックにした壮年の男性であり、確かに盗掘者というよりはベテランの軍人、といった風情の方が強い。

 

 隊章の偽造はギルドでも厳格に処分される重罪であり、それも【ミョルニル】程の大手となればバレればタダでは済まない。

 

 以前八木澤隊長に見せて貰った隊章とも製造IDは合致しているし、本物と思って差し支えないだろう。

 

『……まず、謝罪させてくれ。此処から動けなかったとはいえ、俺は君を……君達を見捨てる選択をしてしまった。一度は護衛依頼を受けた相手を危険な目に遭わせたのは、こちらのミスとしか言いようがない』

『構いません。依頼終了を了承したのは、他ならぬ私達ですから。それに、あんな方法を予測しろという方が無茶でしょう』

『……それは、そうだが……』

 

 確かに、ジャビットがやってのけた死(・)体(・)を(・)操(・)っ(・)て(・)身(・)代(・)わ(・)り(・)に(・)す(・)る(・)などという方法を、推測しろと言う方が無茶だ。

 

 あんなもの、幾ら相手が【ラビットシリーズ】だからといって予想出来るワケがない。

 

 そう考えれば、【ラビットシリーズ】というものは本当に規格外の塊と言える。

 

 双葉と共に行動する、有栖のヴォーパル・ラビットも含めて、であるが。

 

『それで? 此処の頭は何処にいるの?』

『フェネジール=ジルベルトか。あいつなら、少し前に【固有兵装】を起動して逃走した筈だが……』

『この階層の出口はあらかた封鎖してあるし、此処から下へ行くには今貴方を通した道しかないわ。多分、この階層の何処かにいるでしょうね』

 

 双葉はフェネジールがこの階層にいると当たりを付けると、早速前回の戦闘で編み上げた専用の索敵プログラムを奔らせる。

 

 瞬く間に階層全域をスキャンした双葉は、該当の反応を検索し……。

 

『……っ!? カールさん、後ろよ……っ!?』

『え……? ぐ……っ!?』

 

 …………その瞬間、カールの機体が何かに押さえつけられるようにぐん、と腕を取られて仰け反った。

 

 そして、カールの機体に密着するような形で紫色の爬虫類じみたシュミクラムが現れる。

 

『フハハハハハハハハハハハ……ッ! 聞かせて貰ったぞカール=クラツェル……ッ! 貴様、あの警察屋共のスパイだったとはなぁ……っ! 今まで気付かなかったのは不覚ではあるが、今この場においてはとっておきの朗報だ……っ!』

 

 紫色のシュミクラム、【アンブル=レザール】の搭乗者であるフェネジールは表情画面を開くなり高笑いをあげた。

 

 その右腕に携えたブレードはカールの機体の首元に据えられており、完全に人質に取られた格好になる。

 

『チッ、厄介な……っ!』

 

 双葉は自身が油断していた事に気付き、舌打ちする。

 

 彼女が編み上げたプログラムは、あくまで自(・)分(・)達(・)を(・)攻(・)撃(・)し(・)て(・)来(・)た(・)敵(・)を(・)察(・)知(・)す(・)る(・)代物である。

 

 自分達とはサポートを共有していないカールの機体は、当然その迎撃索敵の対象外となる。

 

 それをまさか、こんな形で突かれる事になるとは……。

 

『こいつの命が惜しければ、俺様を見逃せ……っ! さあ、早くこの構造体の封鎖を解除して貰おうか……っ!』

 

 此処で除(・)装(・)し(・)ろ(・)と言わないのは、フェネジールなりの譲歩……というより交渉術のつもりだろう。

 

 敵然で除(・)装(・)し(・)ろ(・)と言うのはつまり降(・)伏(・)し(・)ろ(・)と告げるに等しく、普通であれば除装した時点で終わり…………即ち、敗死と同義である。

 

 つまりそれだけ、敵が要求を受け入れる可能性は低い。

 

 ならば、要求を自(・)分(・)を(・)見(・)逃(・)さ(・)せ(・)る(・)事に限定した方が、相手が乗って来る可能性が高いと踏んだのだろう。

 

 事実、この要求に双葉は揺れた。

 

 …………そう、双葉だ(・)け(・)は。

 

『────断るわ。悩む余地すら、ないもの』

 

 ────有栖は、躊躇う事なく脚部を振り抜いた。

 

 蹴撃によって発生した空気の刃がカールの機体ごとフェネジールの機体の胴体部を両断し、二機の機体は共に爆砕。

 

 カールはそのまま機体と共に脳死し、フェネジールだけが運良く除装され構造体の床に転がり落ちた。

 

「き、貴様、な、何を……が……っ!?」

 

 有栖は床に転がったフェネジールの電子体を掴み上げ、酷薄な笑みを浮かべる。

 

『……【屑】は、逃がせばそれだけ被害を撒き散らす害(・)虫(・)よ。此処で貴方を見逃して今後発生する被害と、彼一人の犠牲…………どちらがより重(・)い(・)かは、言うまでもないでしょう?』

 

 有栖はごく当たり前の事を説くかのように、己の持論を口にする。

 

 罪なき人々を己の独善と損得勘定のみで殺害した少女は、薄笑いすら浮かべていた。

 

 その光景に、双葉もフェネジールも絶句している。

 

 フェネジールは、予想を超えた少女の非情さに。

 

 双葉は、自身の勘が訴えていた彼女の危険性をまざまざと見せつけられた事で。

 

 とうの有栖本人だけは、自身がどんな目で見られているのか……。

 

 ────その一切を、考慮すらしていなかった。




 昨日は寝落ちして更新出来なかったんですが今日はちゃんと更新しました。今後もほぼ毎日ペースで更新していくんでご安心を。
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