※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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命の価値ーlife valueー

『…………状況は把握した。すぐにそちらに向かう』

 

 通信越しに怜二はそう告げ、通信を切った双葉は【携行式操作席】の中で溜息を吐いた。

 

 改めて、今回の【共闘者】……有栖の顔色を表情画面越しに伺う。

 

 有栖はたった今、人質にされた【ミョルニル】の諜報員であるカールごと斬り伏せる形でフェネジールを攻撃した。

 

 結果としてカール=クラツェルは脳死(フラットライン)、フェネジールは除装され現在はヴォーパル・ラビットの腕に掴まれて拘束中だ。

 

 今はこの構造体を封鎖する為の基(・)地(・)局(・)になってくれていた怜二に現在の状況を簡潔に告げ、合流を促した所である。

 

「ぐ、ぐぐ……」

 

 ヴォーパル・ラビットに掴まれたまま、フェネジールは苦しそうな声をあげる。

 

 握り潰さない程度の握力で拘束し、継続的に痛みを与えて余計な事を考えさせないようにしているのだろう。

 

 まだ彼が生きているのは、ジャビットに対する人質にする為だ。

 

 これまでのジャビットの言動や行動を考えれば、フェネジールを人質に取れば行動を制限出来る可能性は充分にある。

 

 無論怒りに任せてそのまま襲い掛かって来る事もあるだろうが、その場合はフェネジールを目の前で握り潰して動揺を誘うだけだと有栖は言った。

 

 無論の事その会話はフェネジールにも聞こえており、彼は屈辱と怒りで顔を歪ませていたが、有栖が握り締める力を強くすると痛みに悶えて押し黙った。

 

 現在の状況は、戦(・)果(・)だけを見れば良好だ。

 

 【ヒャズニング】は最早フェネジールとジャビットの二人を残して全滅し、首魁のフェネジールは手の内にある。

 

 …………その道程に、【ミョルニル】の構成員の見殺し(さつがい)という結果を残して。

 

『…………アンタ、【ミョルニル】のメンバーを殺してどうするのよ? 流石に自分の所の構成員を殺されてちゃ【ミョルニル】も黙っちゃいないだろうし、何より探索者証に撃破痕跡(ログ)が残ってるじゃない』

『その辺りは平気よ。【ミョルニル】としても、【盗掘部隊】に密偵を潜入させていた、なんて事が知られたら外聞が悪いもの』

 

 それにね、と有栖は続ける。

 

『第一、此処は不法に占拠された先史時代の構造体……そこに無許可で入り込んだ事自体、彼等としては隠したい筈よ。事が終わった後は、きちんと口裏を合わせてくれると思うわ。探索者証に関しても、カール(かれ)は潜入中だった事も相俟って盗(・)掘(・)部(・)隊(・)の(・)構(・)成(・)員(・)の(・)一(・)人(・)として処理される筈だから問題ないわ』

 

 確かに、有栖の言う通りではある。

 

 正規の探索部隊であり都市の警察機構とも連動している【ミョルニル】からしてみれば、【盗掘部隊】に密偵を送り込んだ、というのは些か外聞が悪い。

 

 幾ら悪名高い【盗掘部隊】を討伐する為とはいえ、そこに隊員を潜入させていたとなると法には触れずとも外部からの批判は避けられない。

 

 実際問題、【探索部隊】の隊長というものはその部隊全員の命を預かる身だ。

 

 部下に問題があれば叱責と懲罰の義務があるし、作戦行動中に死亡すればその補償についても考えなければならない。

 

 そして、敵地に隊員を単独で送り込む行為は、その隊員を見殺しにしたと言われても反論し難い行為である事に間違いはない。

 

 それでも通常の探索部隊であれば探索中の生死についてはあくまで自己責任である為、早々問題になる事はない。

 

 …………問題なのは、【ミョルニル】が【都市自警軍】と提携して治安維持に協力しているという点だ。

 

 【ミョルニル】は【都市自警軍】と手を結ぶ事で、独断での犯罪者拘束や捜査権が認められている。

 

 その活動資金に関しても、シティからの援助が出ているのだ。

 

 つまり、市民からの税金が使用されている以上…………市民には、【ミョルニル】が問題を起こした時に糾弾する権利が発生してしまうのだ。

 

 無論、一人二人が騒ぐ程度であれば問題にはならない。

 

 しかし、その糾弾が大(・)多(・)数(・)の(・)意(・)見(・)となってしまえば【ミョルニル】は治(・)安(・)維(・)持(・)を(・)任(・)せ(・)る(・)に(・)は(・)不(・)相(・)応(・)であると見做され、都市からの協力を受けられなくなってしまう。

 

 そうなる事を避ける為にも、此処でカールが死んだ事はあくまで作戦行動外の事(・)故(・)、或いは【(・)盗(・)掘(・)部(・)隊(・)】(・)の(・)一(・)員(・)と(・)し(・)て(・)死(・)ん(・)だ(・)事にしなければならない。

 

 その為、【ミョルニル】側としては有栖の口裏合わせに協力せざる負えないのだ。

 

 …………理屈としては、そうなる。

 

 彼が死んだ原因が自分達が持って来た依頼が発端である事に責任を感じなくもないが、双葉個(・)人(・)としてはそこは八木澤隊長に頭を下げれば済む話だ。

 

 ────問題は、平然とそんな真似をしでかしたこの女についてだ。

 

 以前から、この女が…………有栖が危険だという事は、承知していた。

 

 通常の倫理観を持たず、常識を知識としてしか理解していない。

 

 振る舞いこそ丁寧で気品があるが、その内面は致命的に捻(・)じ(・)れ(・)て(・)いる。

 

 そもそも、普通の感性を持った人間が殺(・)し(・)を趣味にする筈がない。

 

 だが、有栖は盗掘者狩りを自ら進んで行い、その最中には拷問じみた真似も平然と行っていた。

 

 返り血で真っ赤に染まりながら嬉々として男達を殺戮した有栖のあの姿を、双葉は忘れていない。

 

 恐らく、あの姿こそが有栖の本(・)性(・)なのだ。

 

 自分達に見せている気品に溢れて面倒見の良い性格など、表面上のものでしか無い。

 

 彼女の精神は、血に塗れている。

 

 その証拠に、彼女が屑(・)と認定していない第三者(カール)を殺した後も、良心の呵責すら感じていない。

 

 彼女にとって、屑(・)が(・)死(・)ぬ(・)事(・)が常識であるのと同じように、目(・)の(・)前(・)で(・)人(・)が(・)死(・)ぬ(・)事は至極当(・)た(・)り(・)前(・)の事なのだ。

 

 彼女は、人の命の価値を真の意味では認めていない。

 

 有栖にとって、人が死ぬ事は特別でもなんでもない。

 

 精々が、普通の人がな(・)る(・)べ(・)く(・)死なないように先んじて屑を片付けておこう、と考えている程度だ。

 

 …………そして、戦場に置いて必要とあれば有栖の命(・)の(・)優(・)先(・)順(・)位(・)は簡単にひっくり返る。

 

 先程のように、目的の前に罪なき人間の命を盾にされた場合…………有栖は、その命を見殺しにする事に何の躊躇もないのだ。

 

 有栖は命の価値を感情ではなく、損得勘定と己の裁量によって判断する。

 

 故に、彼女が一旦必(・)要(・)な(・)犠(・)牲(・)と考えた場合、一切の躊躇なくその命を刈り取ってしまうのだ。

 

 極論を言ってしまえば、彼女は窮極的には自分以外の命をど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)と見做している。

 

 生きる上で障害であるかどうか、もしくは目障りであるかどうか…………精々がそんな基準で、命の取捨選択を行っている。

 

 その価値観は、酷く歪だ。

 

 改めて双葉は、有栖という少女の本当の意味での危険性を思い知ったのである。

 

(…………迷うまでもないわね。この作戦が終わり次第、この女とは縁を切りましょう。幸い、これで一応【借り】は返せた事になる筈…………こんな危ない奴、傍に置いておくなんてとんでもないわ)

 

 双葉は自問自答の結果有栖との絶縁を心に決め、その内心を隠しながら有栖に声をかけた。

 

『それで? これからどうするの? ジャビットの奴に早く来て欲しいんだったら、此処の封鎖を解除するけど』

『いえ、万が一にもこいつが逃走する可能性を残すワケにはいかないし…………何より、他の勢力に入って来られても迷惑だわ』

 

 それに、と有栖は続けた。

 

『…………【牝喰い鬼】であれば、その封鎖すら突き破って来るでしょうからね』

『……っ!?』

 

 そこで、双葉は思い出した。

 

 ジャビットと最初にエンカウントしたあの【遺跡】で、彼は自分が用意した【致死性防壁】を己の【固有兵装】で突破して見せた。

 

 この構造体を封鎖しているのは、その【致死性防壁】だ。

 

 出入り口にピンポイントで【致死性防壁】を展開する事で、この構造体は封鎖されている。

 

 幾らフェネジールに姿を隠す能力があっても、出口がそもそも通れないのであれば逃走出来ないと考えての判断だった。

 

 …………しかし、ジャビットに【致死性防壁】は通用しない。

 

 念の為この構造体に辿り着くまでの通路を組み替えて時間稼ぎはしているが、それがいつまでも継続するとは限らない。

 

『────来たわね』

 

 ────そして遂に、その時は訪れた。

 

 構造体の正面入り口に、白い影が現れる。

 

 純白の白装束を纏ったそれは、白布を全身に纏ったままその場から跳躍。

 

 【致死性防壁】を何事もなかったかのように通過し、有栖達の前に躍り出た。

 

『……っ!? フェネジール(ぼうや)……ッ! 貴様ァ、坊やを離せえええええええええええええええええええええええ……ッ!!!』

 

 白い布が広がり、赤黒い兎のフォルムが露わになる。

 

 シュラウド・ラビット、【牝喰い鬼】ジャビット=アンサーペが遂に戦場にその姿を現わしたのだ。

 

『ふふ、遅かったわね。見ての通り、貴方の大事な大事な隊長さんは私の手の中よ。ありきたりな台詞で悪いけど、こいつの命が惜しければ除装して貰おうかしら』

『き、さまぁ……っ!!』

 

 だが、フェネジールが文字通り手中にある以上ジャビットは動けない。

 

 表情画面のジャビットは血が滲む程の強さで唇を噛み締め、憎悪に溢れた視線で有栖を射抜いている。

 

 しかし、それ以上は動こうとしない。

 

 本当に、ジャビットはフェネジールの命を惜しんで己の行動を抑制しているのだ。

 

 その凶暴性や逸脱した精神性を目にしている双葉としては、俄かには信じ難い状況だ。

 

 まさか、あのジャビットが情(・)で動きを止める事があろうとは…………双葉としては、想像もしていなかったのである。

 

「…………ジャビット…………」

 

 その様子を見ていたのは、何も双葉達だけではない。

 

 有栖の機体に掴まれ拘束されたままのフェネジールは、沈痛な面持ちで動かないジャビットの機体を見据えていた。

 

「…………なあジャビットよ、一度しか言わんからよく聞け」

『…………なんだよ坊や、そんなに改まって。待ってろ、今そこから助けて……』

 

 やるからな、とまるで子を案じる母親のように告げたジャビットの声を、フェネジールが遮った。

 

「────いや、いい」

「……は……?」

 

 予想外の返答にジャビットは固まり、フェネジールは乾いた笑いを浮かべてみせた。

 

「…………思えば、いつも俺様はお前に助けられてばかりだった。俺を馬鹿にする奴は、みんなお前がやっつけてくれた。俺は、そんなお前が…………誰に対しても負けないお前が、誇らしかった」

「……待て、何を言っている……? いや、何(・)を(・)し(・)よ(・)う(・)と(・)している坊や……っ!?」

 

 フェネジールの常ならぬ穏やかな語り口に、何かを感じたのだろう。

 

 ジャビットは焦った様子で機体の腕を伸ばそうとして、その様子を見た有栖が警戒して手に握り込んだフェネジールを盾にするように翳す。

 

『…………っ!? 有栖、そいつを離しなさい……っ!』

『……っ!?』

『────遅いわ……っ!』

 

 瞬間、フェネジールの電子体の内側…………心臓にあたる部分が激しく発光し、不気味に脈打った。

 

 それはまるで破裂寸前の風船のようで、事実フェネジールの電子体はその構成データが乱れ罅割れていく。

 

『────だから、お前が負ける理由になるのは死んでもゴメンだ。だったら、こうするしかないだろう?』

「……っ!? ま────ッ!」

 

 ────それが、最期の言葉だった。

 

 フェネジールの電子体はその中心核が暴走し、生ける爆弾と化した。

 

 有栖は反射的にフェネジールの身体を投げ捨てるが、爆発には間に合わず。

 

 ヴォーパル・ラビットの右腕は、フェネジールを中心とした爆発に呑まれ消え去った。

 

『…………っ!? まさか、自爆するなんて…………あいつの根性を、甘く見ていたわね……』

 

 有栖は消失した右手首を見据え、舌打ちする。

 

 爆発の規模はそう広いものではなかったが、至近距離にいたのが災いした。

 

 幸い機動力の中心である脚部は無事であるものの、右腕を失った事による戦力低下は避けられない。

 

 なにより、ジャビットに対する人質であったフェネジールはもういない。

 

 目の前で自爆するという、壮絶な最期を遂げてしまったのだから。

 

『…………ぼう、や…………?』

 

 一方、ジャビットは自分の目前で起きた事が信じられない様子で、フェネジールがいた場所を凝視している。

 

 機体はカタカタと震え、その眼からは生気が失せている。

 

『…………なんで、その爆弾…………まだ、残して…………嘘、だろ…………』

 

 認めたくない現実を目の当たりにし、ジャビットは両腕で頭を抱える。

 

 それはまるで駄々をこねる子供のようで、我が子を失った母親のようでもあった。

 

『……なんで、お前が死ななきゃならない……? 僕には、お前しかいないのに…………なんで、死んだ……?』

 

 そして、ジャビットの視線はやがてフェネジールが死んだ原(・)因(・)────即ち、有栖の機体を、捉えた。

 

『…………貴様が、貴様さえいなければ……ッ! 殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ッ! 殺してやらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……ッ!!!!!!!!!!』

 

 ジャビットの怒りと慟哭が、構造体に響き渡る。

 

 それは子を殺された鬼子母神の如き怒りを湛え、目の前の敵に牙を剥く。

 

 鬼が、目覚めた。




 さあて、面白くなって参りました。これは前からやりたかった展開。

 この√では有栖の異常性とジャビットの脅威と性質について描写しています。

 まだまだこれから盛り上がりますのでお楽しみに。
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